説明

緑化装置、土壌緑化方法

【課題】 施工作業を軽減しながら、効果的に緑化ができるようにする。
【解決手段】 吸水性素材10を透水性袋部20によって収容し、更に、この透水性袋部20の外表面の少なくとも一部にカバー部30を設置して、透水性袋部20とカバー部30の間に形成される保持空間に緑化栄養材40を保持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂漠等の乾燥土壌を緑化する際に好適な、吸水性素材を用いた緑化装置及び緑化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂漠等における砂は、一般的な土と比較して水分を保持する機能が極めて低いので植物が育ちにくい。そこで、従来、砂漠等を緑化するために、吸水性素材を用いて土壌に水分を保持させることが提案されている。例えば、苗木のポットを吸水性素材で構成し、砂漠地域において、そのポット自体を苗木と一緒に植え込む事で、苗木の周囲に水分を保持できるようにする。このようにすると、砂漠等の環境であっても植物を局所的に成長させることができる。また、上記ポットによる緑化手法の他にも、吸水性のフィルムを砂漠地帯の地表に敷設することによって、土壌全体に保水機能をもたせる手法も提案されている。
【特許文献1】特開2003−235365号公報
【特許文献2】特開平10−313684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このポットを用いた緑化装置では、1本の苗木毎にポットを土壌に埋め込んでいく必要があるので、緑化作業に多大な手間がかかるという問題があった。
【0004】
また、土壌に対して吸水性フィルムを敷設する手法では、吸水性素材が日光によって早期に劣化してしまい、保水機能が短期間で低下するという問題があった。更に、砂漠の緑化を広範囲に行うには、大量の種を発芽させて植物を早期に成長させる必要があるが、その場合は砂漠表面に存在するフィルムが邪魔となり、地表において、緑化用の種子や肥料を安定的に保持させることが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、吸水性素材を用いて、簡単で且つ効果的に砂漠等の土壌緑化が可能となる緑化装置及び緑化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、本研究者らの鋭意研究によりなされた下記手段によって達成される。
【0007】
(1)吸水性素材と、前記吸水性素材を収容する透水性袋部と、前記透水性袋部の外表面の少なくとも一部に設置されるカバー部と、前記透水性袋部の外表面と前記カバー部の間に形成される保持空間に収容される緑化栄養材と、を備える事を特徴とする緑化装置。
【0008】
(2)上記(1)において、前記透水性袋部及び前記カバー部が、生分解性素材で構成されていることを特徴とする緑化装置。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)において、前記保持空間に、植物種子が収容されていることを特徴とする緑化装置。
【0010】
(4)上記(1)、(2)又は(3)において、前記透水性袋部及び前記カバー部が麻素材によって構成されていることを特徴とする緑化装置。
【0011】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかにおいて、前記緑化栄養材がシート状に固化されており、該緑化栄養材が前記透水性袋部又は前記カバー部に固定されていることを特徴とする緑化装置。
【0012】
(6)上記(5)において、シート状の前記緑化栄養材が、固定用糸によって前記透水性袋部又は前記カバー部に縫い付けられていることを特徴とする緑化装置。
【0013】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかにおいて、更に、前記透水性袋部及び前記カバー部を覆って外気から隔離し、内部を低圧に維持する空気遮断袋を備える事を特徴とする緑化装置。
【0014】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれか記載の緑化装置の前記吸水性素材に水分を補給する手順と、複数の前記緑化装置を土壌に一定の間隔を空けて埋める手順と、複数の前記緑化装置の間に植物を植える手順と、を備える事を特徴とする土壌緑化方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工作業に必要な時間を短縮化しながらも、効率的に土壌の緑化を行う事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0017】
図1(A)(B)には、本発明の実施形態となる緑化装置1の外観及び全体断面が示されている。この緑化装置1は、吸水性ポリマー10と、この吸水性ポリマー10を収容する透水性袋部20と、透水性袋部20の外表面20Aの少なくとも一部(ここでは上方側表面)に設置される透水性カバー部30と、植物が成長するために栄養分を補給する緑化栄養材40とを備える。
【0018】
透水性袋部20は、天然麻繊維を織ることで形成された2枚の麻布22、24を重ね合わせ、その外周縁を糸26で縫って袋状としたものであり、水分が通過可能となっている。また、透水性カバー部30も、上記麻布22、24と同様の麻布が用いられ、糸26によって透水性袋部20と一緒に縫いこまれている。この結果、透水性袋部20の外表面20Aと透水性カバー部30の間に保持空間34が確保される。なお、麻繊維を利用することにより、透水性袋部20及び透水性カバー部30が最終的に生分解されて、土壌に戻ることができるので、環境負荷が軽減される。
【0019】
図2に示される吸水性ポリマー10は、粉末又は顆粒状の高吸水保水剤であり、予め水溶性の紙袋に収容されている。このように紙袋に入れておくと、未使用段階において粉末が飛散することを防止できる。この吸水性ポリマー10は、植物に悪影響を与えにくいようにpHが6〜7に設定されており、水分を吸収するとゲル状となって長時間に亘って水分を保持する。例えば、使用できる吸水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール性吸水ポリマー、粒状化ポリウレタン、ノニオン系吸水ポリマー、高重合度アクリル酸ポリマー等がある。なお、環境負荷を軽減するには、吸水性ポリマーを生分解性素材で構成するようにする。
【0020】
図3に示されるように、保持空間34に収容される緑化栄養材40はシート状に固化されている。この緑化栄養材40は、いわゆる肥料として機能するものであり、リンやカリウム等の化学肥料粉末や魚粉等をバインダーに溶かしてペースト化し、このペーストをシート状に成型した状態で乾燥させることで得る。緑化栄養材40の内部には、予め植物種子42が混入されており、他の肥料用粉末と共に固化されている。なお、植物種子42は様々なものを利用できるが、例えば芝などを選択できる。
【0021】
図4に拡大して示されるように、シート状の緑化栄養材40の表面には、帯状の固定布46が複数枚配置されており、この固定布46をあて布として、緑化栄養材40が透水性袋部20に縫い付けられている。従って、緑化栄養材40は、固定布46と透水性袋部20によって挟持されており、移動が規制されることで一部に偏らないようになっている。植物種子42も緑化栄養材40内に分散している事から、植物種子42も保持空間34の全体に広がって配置されていることになる。なお、ここでは植物種子42を緑化栄養材40の内部に混在させるようにしたが、それ以外にも、緑化栄養材20とは別に層を用意してそこに植物種子42を配置しても勿論構わない。
【0022】
次に、この緑化装置1の利用方法について説明する。
【0023】
まず、この緑化装置1を水槽内の水に浸して、吸水性ポリマー10に水を吸収させる。吸水性ポリマー10は水分を吸収して膨張するので、緑化装置1は、図5に示されるように膨れ上がった状態となり、約20cm〜30cmの厚みを有するようになる。シート状の緑化栄養材40は、透水性袋部20に縫い付けられていることから、保持空間34の内部において、膨れ上がった透水性カバー部30の周囲(即ち低い部位)にすべり落ちたり、一部に偏ったりしない。
【0024】
十分に水分を吸収した緑化装置1を複数用意した後、図6に示されるように、砂漠70に穴を掘って一定の間隔をあけて埋めていく。この際、緑化装置1の透水性カバー部30側が地表側(即ち上側)となるようにする。詳細には、透水性カバー部30が地表から約3cm〜5cmの深さに位置するように緑化装置1を地中に埋める。又、これらの複数の緑化装置1の間にも、種や苗等の植物72(個々ではとうもろこしの種)を植えておく。
【0025】
この結果、図7に示されるように、吸水性ポリマー10が多量の水分を保持しているので、緑化栄養材40内に混入させている種子42に水分が適宜補給されることでこの種子42が発芽する。芽44は、透水性カバー30を通過して地表に飛び出し、緑化栄養材40の養分を利用して素早く成長する事ができる。また、吸水性ポリマー10の影響によって、緑化装置1の周囲の砂も水気を帯びるようになるので、砂漠側に植えた植物72にも水分が提供されて成長可能となる。この結果、緑化装置1を埋め込んだ地域全体が短期間で緑化される。天候や気温等にも左右されるが、植物種子42が芝の場合、約7日で発芽し、10日後には地表に新芽が現れるようになる。また周囲のとうもろこしは、砂漠地域であっても通常通り発芽して成長させることが出来る。
【0026】
本実施形態の緑化装置1によれば、栄養材40や種子42がパッケージ化されているので、目的の地域に適した栄養分や植物種子を予め選定して緑化装置1に封入することができ、砂漠等の地域において極めて容易に緑化作業を行う事が可能になる。特に、緑化装置1が袋状に構成されているので、運搬や施工を短時間で完結させることが可能になる。更に日光等で劣化し易い吸水性ポリマー10を透水性袋部20等で覆う事ができ、緑化装置1全体を地中に埋めることが可能になるので、長期に亘って吸水性ポリマー10の保湿能力を維持できる。
【0027】
また、本緑化装置1によれば、保持空間34に収容される緑化栄養材40が吸水性ポリマー10から適宜水分を吸収して、植物種子42に水分と一緒に栄養を補給することが可能となっている。また、植物種子42が、シート状に固化された緑化栄養材40に混入されることで、緑化装置1の表面全体に分散して配置されるので、必要とされる植物種子42の量を低減することが可能としつつ、水分や栄養分を効果的に利用できるようになる。
【0028】
特に本緑化装置1では、吸水性ポリマー10の内部ではなく、透水性袋部20の外表面20A側の緑化栄養材40及び植物種子42を配置しているので、栄養分の不必要な流出が回避される。具体的には、緑化栄養材40の栄養分が吸水性ポリマー10側に吸収されてしまう事態を低減できるので、保持空間34における栄養分濃度を高める事が可能となる。従って、植物種子42が十分な栄養環境下で成長する事ができ、緑化速度を高める事ができる。
【0029】
また同様に、吸水性ポリマー10側を地中側にし、種子42が収容された保持空間32を地表側に接近させる事ができるので、芽が、吸水性ポリマー10内に埋もれてしまうことを防止できる。つまり、緑化装置1がパッケージ化されているにもかかわらず、吸水性ポリマー10を下側(地中側)に配置して、上方に配置される植物に水分を供給できるようになっている。
【0030】
なお、上記図面等においては特に図示しないが、本緑化装置1において、更に、透水性袋部20及び透水性カバー30を覆って外気から隔離する空気遮断袋を用意しておくことが好ましい。このように緑化装置1全体を空気遮断袋に収容し、内部全体を低圧空間(例えば、低酸素、低二酸化炭素状態)に維持することにより、保管時や運搬時における植物種子42の自然発芽が防止される。また、空気遮断袋の外気隔離機能により、吸水性ポリマー10を乾燥剤として機能させることができるので、緑化栄養材40等の湿気が抑制されて長期間の保管も可能となる。また、この空気遮断袋の一部を破いて、ホース等によって空気遮断袋内に水を流し込めば、この空気遮断袋自体が、吸水性ポリマー10に水分を吸収させる為の容器となり、砂漠地帯でも効果的に水分補給作業が可能となる。更に、この空気遮断袋のサイズを、吸水性ポリマー10の膨張によって勝手に破れる程度に設定しておくことで、そのまま地中に埋めて利用することも可能となる。なお、環境への負荷を軽減するには、この空気遮断袋を生分解性の素材で構成することが望ましい。
【0031】
又、本実施形態では、透水性袋部や透水性カバーに麻繊維を用いた場合に限って示したが、本発明はそれに限定されない。例えば、麻以外の綿繊維で織られた布、不織布、孔の開いた生分解性ビニール等の各種素材を利用する事も可能であるが、環境負荷の観点からは、生分解性素材を利用することが望ましい。また、ここでは袋状の透水性袋部の一方面にシート状の透水性カバーを配置する場合を示したが、本発明はそれに限定されず、便宜上、袋全体を二重構造にしておくことで、内袋と外袋の間を緑化栄養材の保持空間とすることも可能である。
【0032】
更に、本実施形態では水分を保持するために吸水性ポリマーを用いた場合に限って示したが、本発明はそれに限定されず、水分を保持して植物に提供可能なものであれば他の素材を用いても良い。また、本発明では保持空間に種子が配置されている場合を示したが、本発明はそれに限定されず、種子は、緑化装置の外部に適宜蒔くようにしても構わない。
【0033】
なお、本発明の緑化装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、施工作業に必要な時間を短縮化できるとともに、効率的に土壌の緑化を行う事が可能となる。この緑化装置は、砂漠地帯以外にも、様々な場所で利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態の例に係る緑化装置の全体構造を示す図
【図2】図1の緑化装置におけるII−II矢視断面図
【図3】図1の緑化装置におけるIII−III矢視断面図
【図4】同緑化装置における部分拡大断面図
【図5】同緑化装置に水分を含ませた状態を示す斜視図
【図6】同緑化装置を砂漠に埋めた状態を示す平面図
【図7】同緑化装置の種子から芽が出た状態を示す模式図
【符号の説明】
【0036】
1 緑化装置
10 吸水性ポリマー
20 透水性袋部
30 透水性カバー部
40 緑化栄養材
42 植物種子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性素材と、
前記吸水性素材を収容する透水性袋部と、
前記透水性袋部の外表面の少なくとも一部に設置されるカバー部と、
前記透水性袋部の外表面と前記カバー部の間に形成される保持空間に収容される緑化栄養材と、
を備える事を特徴とする緑化装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記透水性袋部及び前記カバー部が、生分解性素材で構成されていることを特徴とする緑化装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記保持空間に、植物種子が収容されていることを特徴とする緑化装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3において、
前記透水性袋部及び前記カバー部が麻素材によって構成されていることを特徴とする緑化装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記緑化栄養材がシート状に固化されており、該緑化栄養材が前記透水性袋部又は前記カバー部に固定されていることを特徴とする緑化装置。
【請求項6】
請求項5において、
シート状の前記緑化栄養材が、固定用糸によって前記透水性袋部又は前記カバー部に縫い付けられていることを特徴とする緑化装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、更に、
前記透水性袋部及び前記カバー部を覆って外気から隔離し、内部を低圧に維持する空気遮断袋を備える事を特徴とする緑化装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか記載の緑化装置の前記吸水性素材に水分を補給する手順と、
複数の前記緑化装置を土壌に一定の間隔を空けて埋める手順と、
複数の前記緑化装置の間に植物を植える手順と、
を備える事を特徴とする土壌緑化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−143412(P2007−143412A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338483(P2005−338483)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(392018470)興和精機株式会社 (1)
【出願人】(505435291)明世産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】