説明

線材用リール

【課題】線材用リールに巻かれた線材に過大な張力が作用するのを防止する。
【解決手段】線材用リール10には、一対のフランジ12のうち少なくとも一方の外側面に開口すると共に一対のフランジ12間の空間に連通した部材嵌入孔18が形成されている。部材嵌入孔18にフランジ12の外側面の開口から脱着可能に所定の嵌入部材19が嵌め入れられた状態で、胴部11に線材が巻かれると、線材が部材嵌入孔18に嵌め入れられて一対のフランジ12間の空間に露出した嵌入部材19にも巻き掛かるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線材用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ心線は、長尺製品であることから、光ファイバ用リールに巻かれて製品とされ、それが複数箱詰めされて出荷される。
【0003】
特許文献1には、密に箱詰めされた複数の光ファイバ用リールの中から所望の光ファイバ用リールを容易に取り出せるようにするために、光ファイバ用リールのフランジの外端付近に指を入れる穴を設けることが開示されている。
【0004】
また、光増幅器等の装置では、長尺の光ファイバ心線を光ファイバ用リールに巻いて装置内に収容することが行われる。
【0005】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂のような硬質樹脂で形成された光ファイバ用リールに光ファイバ心線を巻くと、光ファイバ心線が光ファイバ用リールから強い側圧を受けて内部応力が高まって偏波依存損失が発生することから、光ファイバ用リールにおける少なくとも光ファイバ心線が接触する胴部の外周部をポリオレフィン樹脂などの軟質材料で形成することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、省スペース化を図るために、胴部の外周面の光ファイバを巻き取る第1のリール部を設け、胴部の内側に環形の束にした光ファイバを収容する容器部からなる第2のリール部を設けた光ファイバ用リールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−193186号公報
【特許文献2】特開平8−337361号公報
【特許文献3】特開2009−3148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、線材用リールに巻かれた線材に過大な張力が作用するのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、線材が巻かれる外周面を有する胴部と、
上記胴部の外周面の幅方向の両端のそれぞれに連続して該胴部の外周面から離間する向きに延びるように形成されたフランジと、
を備えた線材用リールであって、
上記一対のフランジのうち少なくとも一方の外側面に開口すると共に該一対のフランジ間の空間に連通した部材嵌入孔が形成されており、該部材嵌入孔に該フランジの外側面の開口から脱着可能に所定の嵌入部材が嵌め入れられた状態で、上記胴部に線材が巻かれると、線材が該部材嵌入孔に嵌め入れられて該一対のフランジ間の空間に露出した嵌入部材にも巻き掛かるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、部材嵌入孔にフランジの外側面の開口から嵌入部材が嵌め入れられた状態で、胴部に線材が巻かれると、線材が一対のフランジ間の空間に露出した嵌入部材にも巻き掛かり、そして、嵌入部材を外した際には、線材は胴部の外周面に緩んだ状態で巻かれることとなり、その結果、線材用リールに巻かれた線材に過大な張力が作用するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る光ファイバ用リールの(a)正面図及び(b)背面図である。
【図2】実施形態に係る光ファイバ用リールの(a)平面図及び(b)底面図である。
【図3】実施形態に係る光ファイバ用リールの(a)左側面図及び(b)右側面図である。
【図4】実施形態に係る光ファイバ用リールにピン状部材を嵌め入れる状態を示す図である。
【図5】実施形態に係る光ファイバ用リールにピン状部材が嵌め入れられた状態での要部の拡大横断面図である。
【図6】光ファイバ巻取り機の概略構成を示す図である。
【図7】実施形態に係る光ファイバ用リールのリール巻き部への取付構造を示す断面図である。
【図8】実施形態に係る光ファイバ用リールにピン状部材が嵌め入れられ且つ光ファイバ心線が巻き掛けられた状態を示す図である。
【図9】実施形態に係る光ファイバ用リールからピン状部材が取り外されたときの光ファイバ心線の巻き掛け状態を示す図である。
【図10】実施形態に係る光ファイバ用リール(線材用リール)の一般形状を示す(a)正面図及び(b)背面図である。
【図11】実施形態に係る光ファイバ用リール(線材用リール)の一般形状を示す(a)平面図及び(b)底面図である。
【図12】実施形態に係る光ファイバ用リール(線材用リール)の一般形状を示す(a)左側面図及び(b)右側面図である。
【図13】部材嵌入孔の変形例を示す要部の拡大横断面図である。
【図14】部材嵌入孔の別の変形例を示す要部の拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1〜3は実施形態に係る光ファイバ用リール10(線材用リール)を示す。この実施形態に係る光ファイバ用リール10は、光ファイバ心線Fを巻いて製品として供する用途、或いは、EDF等の光ファイバ心線Fを巻いて光増幅器等の装置内に収容する用途に用いられるものである。
【0014】
実施形態に係る光ファイバ用リール10は、熱可塑性樹脂で形成された射出成形品により構成されている。実施形態に係る光ファイバ用リール10を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0015】
実施形態に係る光ファイバ用リール10は、胴部11と一対のフランジ12とで構成されている。
【0016】
胴部11は、円盤状に形成されており、その外周部13の外周面13aに光ファイバ心線Fが巻かれるように構成されている。胴部11の外周部13は、例えば、外径が30〜150mm、及び幅が2〜20mmである。胴部11は、中心に軸孔14が形成されていると共に、その両側に位置決め孔15が形成されている。軸孔14の内径は例えば3〜15mmであり、位置決め孔15の内径は例えば2〜10mmである。
【0017】
胴部11は、基本的構造として、外周部13の内側部分が薄肉板状に形成されている。胴部11の薄肉板状の内側部分の厚さは例えば1〜5mmである。但し、正面側及び裏面側のそれぞれにおいて、軸孔14及び一対の位置決め孔15のそれぞれを囲うように環状リブ16a,16bが形成され、また、軸孔14を囲う環状リブ16aと同心状に一対の位置決め孔15を包絡する環状リブ16cが形成され、さらに、軸孔14を囲う環状リブ16aから外周部13に放射状に延びる複数の線状リブ17が形成されている。環状リブ16a,16b,16c及び線状リブ17の幅は例えば1〜5mmである。
【0018】
一対のフランジ12は、胴部11の外周面13aの幅方向の両端のそれぞれに連続して胴部11の外周面13aから離間する外方の向きに延びるように形成された環状板で構成されている。フランジ12は、例えば、外径が35〜200mm、及び厚さが1〜5mmである。
【0019】
実施形態に係る光ファイバ用リール10は、一対のフランジ12の基端部間を貫通した円筒孔からなる部材嵌入孔18が形成されている。部材嵌入孔18は、一対のフランジ12のそれぞれの外側面に円形に開口しており、また、その一部分により胴部11の外周面13aに凹部13bを形成すると共に、一対のフランジ12間の空間に連通している。部材嵌入孔18の内径は例えば2〜10mmである。
【0020】
そして、実施形態に係る光ファイバ用リール10では、光ファイバ心線Fが巻かれる際、図4に示すように、予め部材嵌入孔18に一方のフランジ12の外側面の開口から他方のフランジ12の外側面の開口まで達するように、部材嵌入孔18の形状に対応した部材本体部分が円柱状のピン状部材19(嵌入部材)が脱着可能に嵌め入れられる。部材嵌入孔18に嵌め入れられたピン状部材19は、図5に示すように、その一部分が胴部11の外周面13aの凹部13bに収容される一方、残りの部分が胴部11の外周面13aから突出し且つ一対のフランジ12間の空間に露出する断面外郭が円弧の凸部19aを形成する。
【0021】
次に、実施形態に係る光ファイバ用リール10への光ファイバ心線Fの巻き取り方法について説明する。
【0022】
この光ファイバ用リール10への光ファイバ心線Fの巻き取りには、図6に示すような光ファイバ巻取り機20を用いる。具体的には、この光ファイバ巻取り機20は、ファイバ送り部21及びリール巻き部22を備え、それらの間に複数のガイドロール23が配設された構成を有する。
【0023】
光ファイバ用リール10に光ファイバ心線Fを巻き取るに際しては、まず、上記図4に示すように、予め光ファイバ用リール10の部材嵌入孔18にピン状部材19を嵌め入れる。
【0024】
次いで、上記光ファイバ巻取り機20のファイバ送り部21に光ファイバ心線Fが巻かれたボビンを取り付ける。このとき、ファイバ送り部21にボビンを回転自在に設けてもよく、また、回転負荷が付与されるように設けてもよい。なお、ボビンに巻かれた光ファイバ心線Fは、ガラス又は樹脂製の光ファイバを樹脂等の被覆層で被覆した構成を有し、心線径が例えば0.1〜1.0mmである。
【0025】
次いで、リール巻き部22にピン状部材19を嵌め入れた光ファイバ用リール10を取り付ける。具体的には、図7に示すように、リール巻き部22に設けられた回転軸24に光ファイバ用リール10を、回転軸24が光ファイバ用リール10の軸孔14に背面側から挿通するように設け、また、回転軸24に取り付けられた固定プレート材25に光ファイバ用リール10の奥側のフランジ12を当接させると共に、固定プレート材25に設けられた一対の位置決め突起26に光ファイバ用リール10の一対の位置決め孔15を嵌め入れさせて位置決めし、さらに、回転軸24に可動プレート材27を外嵌め状に設けて光ファイバ用リール10の手前側のフランジ12に当接させて固定する。このとき、光ファイバ用リール10は、固定プレート材25と可動プレート材27との間で挟持されると共に回転軸24の回転に伴って回転するように設けられることとなる。
【0026】
次いで、ボビンから光ファイバ心線Fを引き出して複数のガイドロール23に順に配索させた後に光ファイバ用リール10に初期巻き掛けを行う。このとき、光ファイバ用リール10への光ファイバ心線Fの初期巻き掛けが外れるのを防止するための仮止め手段を施すことが好ましい。
【0027】
続いて、リール巻き部22の回転軸24を回転させることにより光ファイバ用リール10を回転させて光ファイバ用リール10に光ファイバ心線Fを巻き取る。このとき、光ファイバ用リール10の胴部11の外周面13aに巻き取られる光ファイバ心線Fは、図8に示すように、部材嵌入孔18に嵌め入れられたピン状部材19における胴部11の外周面13aから突出し且つ一対のフランジ12間の空間に露出する凸部19aを形成する部分にも巻き掛かることとなる。ピン状部材19に巻き掛かる光ファイバ心線Fが損傷を受けるのを抑制する観点からは、ピン状部材19の断面外郭の曲率半径は2〜10mmであることが好ましい。また、光ファイバ巻取り機20には巻き取り速度調整手段及びファイバ張力調節手段が設けられていることから、光ファイバ用リール10には光ファイバ心線Fが所定の巻き取り速度で所定の張力が付与されて巻き取られることとなる。その巻き取り速度は例えば1〜10m/minであり、張力は例えば0.1〜1.0Nである。さらに、光ファイバ巻取り機20には光ファイバ心線Fを幅方向に案内する幅方向案内手段が設けられていることから、光ファイバ用リール10における胴部11の外周面13aには光ファイバ心線Fが幅方向に往復しながら並行に整列して巻かれることとなる。
【0028】
そして、光ファイバ用リール10に光ファイバ心線Fを所定長巻き取った後にリール巻き部22の回転軸24の回転駆動を停止し、巻き取り終端において光ファイバ心線Fを切断してリール巻き部22から光ファイバ用リール10を取り外す。
【0029】
最後に、光ファイバ心線Fが巻かれた光ファイバ用リール10から、部材嵌入孔18に脱着可能に嵌め入れられたピン状部材19を引き抜いて取り外す。このとき、ピン状部材19にも巻き掛かっていた光ファイバ心線Fは、ピン状部材19が取り外されることにより、図9に示すように、張力が解除されて緩んだ状態で光ファイバ用リール10に巻かれることとなる。
【0030】
以上の構成の実施形態に係る光ファイバ用リール10によれば、部材嵌入孔18にフランジ12の外側面の開口からピン状部材19が嵌め入れられた状態で、胴部11に光ファイバ心線Fが巻かれると、光ファイバ心線Fが一対のフランジ12間の空間に露出したピン状部材19にも巻き掛かり、そして、ピン状部材19を外した際には、光ファイバ心線Fは胴部11の外周面13aに緩んだ状態で巻かれることとなり、その結果、光ファイバ用リール10に巻かれた光ファイバ心線Fに過大な張力が作用するのを防止することができる。具体的には、例えば、光ファイバ用リール10が温度変動によって胴部11が膨張して外径が大きくなっても、光ファイバ用リール10に巻かれた光ファイバ心線Fに過大な張力が作用するのを防止することができる。ピン状部材19を取り外した際に光ファイバ心線Fの張力を有効に緩和させ、しかも、ピン状部材19に巻き掛かる光ファイバ心線Fが損傷を受けるのを抑制する観点からは、ピン状部材19による凸部19aの高さは0.1〜1.0mmであることが好ましい。
【0031】
なお、上記実施形態では、図1〜3に示す構成の光ファイバ用リール10(線材用リール)としたが、その意匠は特にこれに限定されるものではなく、図10〜12に示すように、実線で示す部材嵌入孔18により構成される部分以外の破線で示す部分については任意の形状であってよい。
【0032】
上記実施形態では、光ファイバ用リール10が熱可塑性樹脂で形成された射出成形品で構成されたものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、その他の樹脂成形品で構成されたものであってもよく、また、アルミニウム等の金属で形成された金属成形品で構成されたものであってもよい。
【0033】
上記実施形態では、光ファイバ心線Fを線材としたが、特にこれに限定されるものではなく、銅線その他の金属線を線材とするものであってもよい。
【0034】
上記実施形態では、本体部分が断面形状が円形である円柱状のピン状部材19を用いたが、特にこれに限定されるものではなく、その他の形状であってもよいが、ピン状部材19に巻き掛かる光ファイバ心線Fが損傷を受けるのを抑制する観点からは、少なくとも光ファイバ心線Fが接触する部分の断面外郭が凸状の曲面である形状であることが好ましい。
【0035】
上記実施形態では、部材嵌入孔18が一対のフランジ12のそれぞれの外側面に円形に開口し且つその一部分により胴部11の外周面13aに凹部13bを形成すると共に一対のフランジ12間の空間に連通し、そのため部材嵌入孔18にピン状部材19が嵌め入れられた際には、ピン状部材19の一部分が胴部11の外周面13aの凹部13bに収容されると共に残りの部分が胴部11の外周面13aから突出し且つ一対のフランジ12間の空間に露出する凸部19aを形成する構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、図13に示すように、部材嵌入孔18が一対のフランジ12のみに形成され、そのため部材嵌入孔18にピン状部材19が嵌め入れられた際には、ピン状部材19が胴部11の外周面13aに接触する乃至外周面13aとの間に間隔を有するように設けられる構成としてもよい。
【0036】
上記実施形態では、部材嵌入孔18が一対のフランジ12の外側面間を貫通した構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、図14に示すように、一対のフランジ12のうち一方に形成された貫通孔と他方の内側面に形成されたピン状部材19の先端を受けるための有底丸孔とを有する構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は線材用リールについて有用である。
【符号の説明】
【0038】
10 光ファイバ用リール(線材用リール)
11 胴部
12 フランジ
13 外周部
13a 外周面
13b 凹部
14 軸孔
15 位置決め孔
16a〜16c 環状リブ
17 線状リブ
18 部材嵌入孔
19 ピン状部材(嵌入部材)
19a 凸部
20 光ファイバ巻取り機
21 ファイバ送り部
22 リール巻き部
23 ガイドロール
24 回転軸
25 固定プレート材
26 位置決め突起
27 可動プレート材
F 光ファイバ心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材が巻かれる外周面を有する胴部と、
上記胴部の外周面の幅方向の両端のそれぞれに連続して該胴部の外周面から離間する向きに延びるように形成されたフランジと、
を備えた線材用リールであって、
上記一対のフランジのうち少なくとも一方の外側面に開口すると共に該一対のフランジ間の空間に連通した部材嵌入孔が形成されており、該部材嵌入孔に該フランジの外側面の開口から脱着可能に所定の嵌入部材が嵌め入れられた状態で、上記胴部に線材が巻かれると、線材が該部材嵌入孔に嵌め入れられて該一対のフランジ間の空間に露出した嵌入部材にも巻き掛かるように構成された線材用リール。
【請求項2】
請求項1に記載された線材用リールにおいて、
上記部材嵌入孔は、その一部分により上記胴部の外周面に凹部を形成すると共に、上記一対のフランジ間の空間に連通しており、嵌入部材が嵌め入れられると、その一部分が該凹部に収容される一方、残りの部分が該胴部の外周面から突出し且つ該一対のフランジ間の空間に露出する凸部を形成するように構成されている線材用リール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された線材用リールにおいて、
上記部材嵌入孔は、上記一対のフランジを貫通するように形成されている線材用リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−112454(P2013−112454A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259035(P2011−259035)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】