説明

締結工具

【課題】締結具の締め付け完了間際においても被締結物を傷付けることの無い、或いは傷つけることの少ない締結工具の提供を可能とする。
【解決手段】ボルト43等の頭部に嵌合して回転方向に係合するソケット11を備え、ソケット11の回転によりボルト43等を相手面39に締結する締結工具において、ソケット11に対して相対回転自在な樹脂カバー25を設け、ボルト・ナット43,45の締め付け時に、ソケット11の回転に対して樹脂カバー25が共回りしないように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト又はナット等の締結具を相手面に締結する締結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、締結工具の一つにインパクトレンチがある。このインパクトレンチは、モータ等の駆動部材を有するドライバと、締結具の形状に対応させた挿入部を有し、かつ、ドライバに対し着脱可能に構成されたソケットとを含んで構成されている。かかるインパクトレンチを用いて例えばボルト締め付け作業を行うには、予め締め付けるべきボルトのサイズに適合したソケットを使用する。具体的には、締結相手に被締結物をボルトとナットで締め付け固定する場合、まずボルトを手で回してある程度ナットに対して固定した後、ボルトの頭部にソケットを嵌め込んで締め付け方向に回転させ、ナットに対してボルトを締め付ける。
【0003】
しかしながら、こうした従来のインパクトレンチを用いた締結具の締め付け作業では、締め付け完了間際にソケットが被締結物に押し当てられた状態で回転しながら接触する傾向となり、被締結物の表面の塗装面等にすり傷を付けてしまう欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特開2006−68873号公報
【特許文献2】特開2006−82189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、従来のインパクトレンチ用ソケットを用いた作業では、締結具の締め付け完了間際において、被締結物に傷を付けてしまう点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、締結具の締め付け完了間際においても被締結物を傷付けることの無い、或いは傷つけることの少ない締結工具を提供するため、締結具の頭部に嵌合して回転方向に係合するソケットを備え、該ソケットの回転により前記締結具を相手面に締結する締結工具において、少なくとも前記ソケットが前記相手面に対向する前面に、該ソケットに対して相対回転自在な樹脂カバーを設けたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の締結工具は、締結具の頭部に嵌合して回転方向に係合するソケットを備え、該ソケットの回転により前記締結具を相手面に締結する締結工具において、少なくとも前記ソケットが前記相手面に対向する前面に、該ソケットに対して相対回転自在な樹脂カバーを設けたため、締結具の締め付け時に、ソケットの回転に対して前記樹脂カバーの共回りが抑制され、被締結物を傷付けること無く締結具を締め付けることが可能となる。結果として、締結具の締め付け完了間際においても被締結物を傷付けることの無い締結工具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
締結具の締め付け完了間際においても被締結物を傷付けることの無い、或いは傷つけることの少ない締結工具を提供するという目的を、相対回転可能な樹脂カバーによって実現した。
【実施例】
【0009】
以下に、本発明に係るインパクトレンチ用ソケットの好ましい実施例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0010】
図1(a),(b)は本発明に係るインパクトレンチ用ソケットの実施例を示す二面図、図1(c)はソケットカバーの断面図、図2は本発明に係るソケットを用いたボルト締め付け状態を示す図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、本発明の実施例に係る締結工具としてインパクトレンチ用のソケット11は、例えば鉄や特殊鋼などの金属素材からなり、一方の端部側に、軸心と一致させてボルトの頭部又はナットを挿入し得る挿入部13が形成されており、他方の端部側には伝達部材15の接続部17が形成されている。ソケット11は、外周面が断面円形に形成されると共に、被締結物の表面である相手面に対する後部側に、外周面よりも小径の小径部12を備えている。
【0012】
ソケット11は、図示しない駆動モータを内蔵したインパクトレンチ19に着脱可能に構成されており、これによって、ボルト又はナット等の締結具を締め付けることが可能になっている。ソケット11において、ボルト、ナットのサイズは限定されるものではなく、インパクトレンチ19に装着して駆動される全てのサイズのソケット、インパクトレンチ19以外でソケットを一体に備えた締結工具に適用することが可能である。
【0013】
挿入部13は、ボルトの頭部やナットの形状に対応させて六角形に形成されており、その深さは、使用が想定されるボルトの頭部高さ又はナットの厚さをじゅうぶんに収容し得るだけの寸法をもって形成されている。なお、挿入部13の断面形状は、ボルトの頭部やナットの形状に対応させた六角形状以外にも、例えば十二角や十八角からなる菊型形状等の形状とすることが可能である。
【0014】
伝達部材15は、インパクトレンチ19に対してソケット11を着脱自在に接続すると共に、インパクトレンチ19の駆動トルクをソケット11に伝達する機能を有する。このため、伝達部材15としては前記機能を有するものであれば良く、その形状や寸法は特に限定されない。本実施例では、通常のインパクトレンチに汎用される断面が矩形の伝達部材15を採用している。
【0015】
接続部17は、インパクトレンチ19と伝達部材15を介して接続され、インパクトレンチ19からの駆動トルクが伝達される部位である。このため、伝達部材15の形状に対応した矩形形状をもって形成されている。伝達部材15を接続部17に取り付けるに当たっては、伝達部材15をソケット11の接続部17に挿入した後、ソケット11に設けられた貫通孔21と伝達部材15に設けられた貫通孔に、両者を貫通させた状態でピン(不図示)を差し込み、かかる貫通孔を横断するソケット11上の周回溝23に、ピン抜け止め用Oリング(不図示)を懸け回すことで行われる。
【0016】
上述の如く構成されたソケット11には、ボルトやナット等の締結具の締め付け完了間際においても被締結物を傷付けることを防止するため、樹脂カバー25が、ソケット11から僅かな隙間を隔てて設けてある。
【0017】
すなわち、ソケット11の外周面27は断面円形に形成され、このソケット11に、外周面27、下端面(前面)29、及び上端部33を一体に覆う略円筒形状の樹脂カバー25を、ソケット11から僅かな隙間を隔てて設けている。
従って、少なくとも前記ソケット11が前記被締結物の表面である相手面に対向する前面(下端面29)に、該ソケット11に対して相対回転自在な樹脂カバー25を設けた構成となっている。樹脂カバー25は、下端面29をカバーし、ソケット11に対して相対回転可能であれば、形状は自由に設定できる。
樹脂カバー25は、前記外周面27に遊嵌する円筒部26と相手面に当接可能な当接内周フランジ部35と前記小径部12に相対回転可能に抜け止め係合する係合内周フランジ部28とを備えている。
【0018】
ソケット11の回転による締結具の締め付け時に、ソケット11の下端面29と当接内周フランジ部35との間の摩擦力及び当接内周フランジ部35と相手面との間の摩擦力のバランス等により、樹脂カバー25が相手面に当接すると樹脂カバーの回転が停止し、ソケット11の回転に対して樹脂カバー25が共回りしないようにされている。
【0019】
ソケット11に対して樹脂カバー25を装着するに当たっては、まず、樹脂カバー25を熱湯や高温のドライヤーなどで加温して軟化膨張させる。
【0020】
軟化膨張した樹脂カバー25を、前記ソケット11に嵌合させ、その後の冷却により前記係合内周フランジ部28が前記小径部12に係合可能となるようにセットする。この状態で、当接内周フランジ部35は、下端面29に対向する。
こうしてソケット11に装着された樹脂カバー25は、冷めるとソケット11から抜けることなく、これによって、ソケット11に樹脂カバー25が、ソケット11から僅かな隙間を隔てて設けられる。なお、樹脂カバー25の素材としては、例えば、ジュラコン、好ましくはMCナイロン、さらに好ましくは高分子量ポリエチレンが好適に用いられる。
【0021】
上述のごとく構成された本発明実施例に係るインパクトレンチ用ソケット11を用いて、締結相手41に被締結物37をボルト43とナット45によりインパクトレンチ19で締め付け固定する。
まず、ボルト43を手で回しある程度ナット45に固定しながらソケット11をボルト43に差し込み、樹脂カバー25における折り返し部分外側39を被締結物37に押し当てて、ソケット11を回転させながらボルト43を締め付ける。
【0022】
本実施例によれば、インパクトレンチ19を用いて締結具43,45を締め付ける際、ソケット11を被締結物37に押し当てた状態で回転させた場合であっても、締結具43,45の締め付け時に、ソケット11の回転に対して樹脂カバー25が共回りしないため、被締結物37の表面である相手面39の塗装面等を傷付けること無く、或いは傷付きを少なくして締結具43,45を締め付けることが可能となる。結果として、ボルト・ナット43,45の締め付け完了間際においても被締結物37を傷付けることの無い、或いは傷付きを少なくするインパクトレンチ用ソケット11を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、インパクトレンチ用ソケットの正面図、(b)は、同側面図、(c)は、樹脂カバーの断面図である。
【図2】ソケットを用いたボルト締め付け状態を示す作用説明図である。
【符号の説明】
【0024】
11 ソケット(締結工具)
19 インパクトレンチ(締結工具)
25 樹脂カバー
27 外周面
28 係合内周フランジ部
29 下端面(前面)
31 外周囲
33 上端部
35 当接内周フランジ部
37 被締結物
39 相手面
43 ボルト(締結具)
45 ナット(締結具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結具の頭部に嵌合して回転方向に係合するソケットを備え、該ソケットの回転により前記締結具を相手面に締結する締結工具において、
少なくとも前記ソケットが前記相手面に対向する前面に、該ソケットに対して相対回転自在な樹脂カバーを設けた、
ことを特徴とする締結工具。
【請求項2】
請求項1記載の締結工具であって、
前記ソケットは、外周面が断面円形に形成されると共に、相手面に対する後部側に外周面よりも小径の小径部を備え、
前記樹脂カバーは、前記外周面に遊嵌する円筒部及び前記小径部に相対回転可能に抜け止め係合する係合内周フランジ部を備えた、
ことを特徴とする締結工具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の締結工具であって、
前記ソケットは、インパクトレンチに対して着脱自在に備えられた、
ことを特徴とする締結工具。
【請求項4】
請求項2又は3記載の締結工具であって、
前記樹脂カバーを、加温して軟化膨張させ、
軟化膨張した樹脂カバーを、前記ソケットに嵌合させ、
その後の冷却により前記係合内周フランジ部が前記小径部に係合可能となるようにセットする、
ことを特徴とする締結工具の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−142794(P2008−142794A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329330(P2006−329330)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(394017480)株式会社武部鉄工所 (4)
【Fターム(参考)】