説明

緩衝器

【課題】 緩衝器の改良に関し、作動流体を水系流体としても作動流体が不足することを防止する。
【解決手段】 作動流体を収容するシリンダ1と、このシリンダ1内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド2と、上記シリンダ1の開口部に取り付けられて上記ロッド2外周に摺接する環状のシール部材3とを備える緩衝器Dにおいて、上記シール部材3から外気側に突出するロッド2の摺動面を覆いこのロッド2の摺動面との間に密閉空間Aを形成するブーツ4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、例えば、特許文献1に開示されるように、自動車等の車両のサスペンション装置に使用され、内部に収容する作動流体の流路抵抗を利用して走行中の車両に入力される路面振動を抑制する。
【0003】
上記緩衝器は、作動流体を収容するシリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、上記シリンダの開口部に取り付けられて上記ロッド外周に摺接する環状のシール部材とを備える。
【0004】
そして、上記シール部材は、このシール部材の外気側内周に配置されて上記ロッドに付着した異物を掻き落とすダストシールと、上記シール部材のシリンダ側内周に配置されてシリンダ内の作動流体が外気側に流出することを防止するオイルシールとを備える。
【0005】
尚、シリンダ内から退出するロッド外周に付着した作動流体の多くが上記オイルシールで掻き落とされるが、シリンダ外周には作動流体からなる潤滑皮膜が残り、この潤滑皮膜によりロッドとシール部材内との摺動部を潤滑して摺動性を良好に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−120514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来の緩衝器は、作動流体を鉱物性の油とするものが一般的であるが、作動流体にグリコール水溶液等の水系流体を採用する場合、以下の不具合を指摘される虞がある。
【0008】
即ち、水系流体は、鉱物性の油と比較して潤滑性に乏しい。したがって、シール部材とロッドとの摺動性を良好にするため、潤滑皮膜を厚くする必要がある。
【0009】
しかしながら、潤滑皮膜を厚くすると、ロッドが退出したときに外気に曝される作動流体の量が増加し、これに伴い作動流体の蒸発量も増加して作動流体が不足する虞がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記不具合を解決し、作動流体にグリコール水溶液等の水系流体を採用する場合においても作動流体の不足を防止することが可能な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、作動流体を収容するシリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、上記シリンダの開口部に取り付けられて上記ロッド外周に摺接する環状のシール部材とを備える緩衝器において、上記シール部材から外気側に突出するロッドの摺動面を覆いこのロッドの摺動面との間に密閉空間を形成するブーツを備えることである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロッドの摺動面との間に密閉空間を形成するブーツを備えることから、ロッドに付着した作動流体が蒸発したとしても密閉空間内に閉じ込められて、外気側に放出されることがない。
【0013】
そして、蒸発した作動流体は、密閉空間の温度が下がると液体に戻る。また、密閉空間が飽和蒸気圧になればそれ以上作動流体が蒸発しないことから、作動流体にグリコール水溶液等の水系流体を採用する場合においても作動流体の不足を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る緩衝器を部分的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態を示す緩衝器について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係る緩衝器Dは、作動流体を収容するシリンダ1と、このシリンダ1内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド2と、上記シリンダ1の開口部に取り付けられて上記ロッド2外周に摺接する環状のシール部材3とを備える。
【0017】
更に、上記緩衝器Dは、上記シール部材3から外気側(図1中上側)に突出するロッド2の摺動面を覆いこのロッド2の摺動面との間に密閉空間Aを形成するブーツ4を備える。
【0018】
以下に詳細に説明すると、本実施の形態に係る緩衝器Dは、上記シリンダ1の外側に同軸に配置される外筒5と、上記シリンダ1のヘッド側端部(図1中上端部)に固定され上記ロッド2を摺動自在に軸支する環状のロッドガイド6と、上記ロッド2の先端に保持される図示しないピストンと、上記シリンダ1のボトム側端部に固定される図示しないベース部材とを備え、上記外筒5と上記シリンダ1との間にリザーバRを形成する複筒型緩衝器である。
【0019】
さらに、上記ピストンは、上記シリンダ1内を区画して作動流体が充填されるロッド側作用室R1と図示しないピストン側作用室とを形成する。
【0020】
上記作動流体は、水系流体たるグリコール水溶液とされ、このグリコール水溶液とは、水にグリコール類の添加剤を加えた水溶液をいうものである。
【0021】
また、上記ピストンには、上記ロッド側作用室R1と上記ピストン側作用室とを連通する流路が形成されると共に、上記ベース部材には、上記ピストン側作用室と上記リザーバRとを連通する流路が形成される。
【0022】
そして、緩衝器Dは、上記ピストンの流路と上記ベース部材の流路を作動流体が通過するとき、所定の減衰力を発生し緩衝器Dの伸縮運動を抑制する減衰力発生手段を備える。
【0023】
尚、この減衰力発生手段の構成は、例えば、上記各流路の流量絞りとして機能する環板状のリーフ弁やオリフィス等、周知の構成とすることが可能であり、ここでの詳細な説明を省略する。
【0024】
上記シリンダ1のヘッド側端部に設けられるロッドガイド6は、外周部が外筒5に嵌合してリザーバRの図1中上端を閉塞する軸受本体60と、この軸受本体60の図1中下端から垂下されてシリンダ1のヘッド側端部に嵌合する嵌合部61と、この嵌合部61の内周に装着されるベアリング62とを備える。
【0025】
そして、上記ロッドガイド6の外気側(図1中上側)には、シール部材3と、ケース7とがロッドガイド側から順に積層され外筒5の図1中上部内に挿入されてなり、上記外筒5の図1中上端を内側に加締めることにより、ケース7、シール部材3、及びロッドガイド6は、外筒5の加締め部50とシリンダ1との間に挟持され、シリンダ1のヘッド側開口部に固定される。
【0026】
上記シール部材3は、環状に形成されるインサートメタル30と、このインサートメタル30の内周側に一体形成された環状の内周シール31と、上記インサートメタル30の外周側に一体形成された環状の外周シール32とを備える。
【0027】
上記内周シール31は、二又に分かれて外気側(図1中上側)に配置され上記ロッド2に付着した異物を掻き落とすダストシール31aと、シリンダ側(図1中下側)に配置されシリンダ1内の作動流体が外気側に流出することを防止するオイルシール31bとからなる。
【0028】
そして、上記内周シール31と上記ロッド2は、潤滑皮膜を介して摺接し、この潤滑皮膜によりロッド2と内周シール3との摺動部を潤滑して摺動性を良好に保つ。
【0029】
また、上記シール部材3のシリンダ側面(図1中下面)には、チェックシール33が設けられ、このチェックシール33は、ロッドガイド6に形成されてリザーバRに連通する通路63を開閉可能に塞ぎ、内周シール31でロッドガイド6の嵌合部61上に掻き落とされた作動流体のロッド側からリザーバRへの移動のみを許容する。
【0030】
さらに、上記シール部材3の外気側面(図1中上面)には、外周側から内周側にかけてシリンダ側に傾斜する傾斜面34が形成される。この傾斜面34の外周端は、上記シール部材3の外気側面の外周よりに配置され、シール部材3の外気側面の外周端部に形成される断面L字状の段差面35に連続する。一方、上記傾斜面34の内周端は、ロッド2外周に摺接するダストシール31aのリップ部31cとされる。
【0031】
尚、本実施の形態において、傾斜面34は、外周端から内周端にかけて二段階に傾斜し、内周側の傾斜面34aの傾斜角度が外周側の傾斜面34bの傾斜角度よりも大きい。
【0032】
上記段差面35は、シール部材3の外気側面の外周端部に形成される水平面35aと、この水平面35aの内周端から起立する筒状の垂直面35bとからなり、この垂直面35bの図1中上端に上記傾斜面34の外周端が連続する。
【0033】
上記垂直面35bには、筒状に形成されるブーツ4のシリンダ側端部(図1中下端部)内周がリング8aにより固定されてなり、上記ブーツ4のシリンダ側端部内周と上記傾斜面34の外周端が密着するようになっている。
【0034】
一方、上記ブーツ4の外気側端部(図1中上端部)は、その内周とロッド2外周が密着するようにロッド2にリング8bで固定される。
【0035】
上記ブーツ4は、ゴム等の弾性体で形成されてなり、ロッド2の摺動面を覆うように配置され、ロッド2の摺動面との間に密閉空間Aを形成する。
【0036】
また、上記ブーツ4の外側には、上記シール部材3の外気側に積層されるケース7が設けられ、このケース7は、ケース本体70と押さえ部材71とからなる。
【0037】
上記ケース本体70は、上記シール部材3の水平面35a上に設置される環板状のフランジ部70aと、このフランジ部70aの内周端から起立する筒状のケース部70bと、このケース部70bの外気側端(図1中上端)から内周側に延設される環板状の蓋部70cとからなる。
【0038】
そして、上記蓋部70c内周は、ロッド2にブーツ4の図1中上端部を固定するリング8b外周よりも大径に形成され、ロッド2の軸方向の移動を妨げないように設定される。
【0039】
また、上記ケース部70b内周は、上記シール部材3の垂直面35bと対向するとともに所定の間隔をもって配置され、垂直面35bにブーツ4の図1中下端部を固定するリング8aを装着した状態でケース本体70を設置可能に設定される。
【0040】
また、上記フランジ部70aは、上記押さえ部材71を介して外筒5の加締め部50で押さえられる。
【0041】
次に、本実施の形態に係る緩衝器Dの作用効果について説明すると、シリンダ1からロッド2が退出するとき、ロッド2外周に付着した作動流体は、ロッド2とシール部材3との摺動部を潤滑する潤滑皮膜を残してオイルシール31bで掻き落とされる。
【0042】
このとき、潤滑皮膜が形成されるロッド2の摺動面は、密閉空間A内を移動することから、潤滑皮膜を形成する作動流体が蒸発したとしても、気体となった作動流体は密閉空間A内に閉じ込められて、外気側に放出することが防止される。
【0043】
また、密閉空間Aの温度が下がると、蒸発した作動流体はシール部材3の傾斜面34を伝ってダストシールリップ31aのリップ部31cに流入し、ロッド2とシール部材3との摺動部を潤滑する。
【0044】
また、潤滑皮膜を形成する作動流体が蒸発して密閉空間Aが飽和蒸気圧になった場合には、それ以上作動流体が蒸発しないことから、作動流体にグリコール水溶液等の水系流体を採用した場合においても、作動流体の不足を防止することが可能となる。
【0045】
また、本実施の形態において、シール部材3の外気側面に傾斜面34が形成されることから、冷やされて液体に戻った作動流体をロッド2とシール部材3との摺動部に供給して潤滑することが可能となり、潤滑性を向上させることが可能となる。
【0046】
また、本実施の形態において、傾斜面34の外周端にブーツ4のシリンダ側端部内周が密接することから、密閉空間A内で液体に戻った作動流体を確実にロッド2とシール部材3との摺動部に供給することが可能となる。
【0047】
また、本実施の形態のシール部材3において、内周側の傾斜面34aの傾斜角度が外周側の傾斜面34bの傾斜角度よりも大きいことから、内周側の傾斜面34aとロッド2とがなす角度が小さく、内周側の傾斜面34aとロッド2との間に作動流体を貯留することが可能となり、ロッド2とシール部材3との摺動部に作動流体を供給し易い。
【0048】
また、本実施の形態において、上記ブーツ4がゴム等の弾性体で形成されることから、密閉空間Aを形成しながらロッド2の移動に追従して上記ブーツ4の形状を変形させることが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態において、ブーツ4を覆うケース7を設けることにより、ブーツ4を保護してブーツ4が傷つくことを防止することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0051】
例えば、上記実施の形態における緩衝器Dは、リザーバRを備える複筒型緩衝器であり、リザーバRで体積補償をするものであるが、シリンダ1内に摺接するフリーピストンを備えて体積補償用の気室を備える単筒型緩衝器であっても良い。
【0052】
また、上記実施の形態において、ブーツ4がゴム等の弾性体からなるとしたがこの限りではなく、ロッド2の移動に追従可能であれば良く、例えば、上記ブーツ4を蛇腹状に形成するとしても良い。
【0053】
また、上記ブーツ4の固定方法も上記の限りではなく、密閉空間Aを形成することが可能な限りにおいて適宜固定方法を採用することが可能である。
【0054】
また、上記実施の形態における作動流体は、水系流体たるグリコール水溶液としたが、水系流体として水単体を利用するとしても、水に防錆剤を添加したものを利用するとしても良い。
【0055】
また、上記実施の形態において、シール部材3がダストシール31aを有するが、ロッド2の摺動面が密閉空間A内に配置されるため、必ずしもダストシール31aを設ける必要はない。
【符号の説明】
【0056】
A 密閉空間
D 緩衝器
R リザーバ
R1 ロッド側作用室
1 シリンダ
2 ロッド
3 シール部材
4 ブーツ
5 外筒
6 ロッドガイド
7 ケース
8a,8b リング
30 インサートメタル
31 内周シール
31a ダストシール
31b オイルシール
32 外周シール
33 チェックシール
34 傾斜面
35 段差面
70 ケース本体
71 押さえ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を収容するシリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、上記シリンダの開口部に取り付けられて上記ロッド外周に摺接する環状のシール部材とを備える緩衝器において、
上記シール部材から外気側に突出するロッドの摺動面を覆いこのロッドの摺動面との間に密閉空間を形成するブーツを備えることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記ブーツの外気側端部内周が上記ロッド外周に密接し、上記ブーツのシリンダ側端部が上記シール部材に密接することを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記シール部材の外気側面に外周側から内周側にかけてシリンダ側に傾斜する傾斜面を有し、この傾斜面の外周端に上記ブーツのシリンダ側端部が密接することを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記ブーツ4を覆うケースを備えることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の緩衝器。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60962(P2013−60962A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197847(P2011−197847)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】