説明

緯糸用糸送り部を備えた織機

【課題】織機において、低屈曲性、低伸び性、高脆性等の特性を有した緯糸2を使って織成する場合に、緯糸2の給糸開始部20へ向けた緯糸2の送り込みを確実に行うことができるものであり、また給糸ミスを含んだ給糸異常を確実に判別できるようにする。
【解決手段】緯糸2の給糸開始部20には、緯糸2の先端を把持して杼口13への給糸に待機させる糸端把持部24と、この糸端把持部24から一次側に離れて配置されて緯糸2の給糸時に同じ糸長の緯糸2のみを通糸させる糸導入部25とを有して画成される糸整流区間21が設けられており、この糸整流区間21の一次側には、緯糸2を非張力状態に保持させながら糸整流区間21へ向けて送り込む消極型糸送り部3が設けられたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緯糸用糸送り部を備えた織機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織機は、横並び状態で縦方向へ一斉に給糸される多数本の経糸(タテイト)を複数の綜絖(そうこう)枠中へくぐらせてゆき、各綜絖枠のタイミングを異ならせた上下動作で経糸の並び列に杼口(ひぐち)を開口形成させ、この杼口内を横切るように緯糸(ヨコイト)を給糸し、杼口内の緯糸を筬(おさ:「リード」とも呼ばれている)によって織り生地の織前へ押し込む、という手順で織りを進める(織成する)機械である。
【0003】
従来、この織機において、給糸中の緯糸が杼口内で糸切れしたことを検出するための方法には、大別すると、緯糸に張力が無くなったことを検出する「張力検出式」と、杼口内の通糸位置で緯糸の存在を検出する「有無検出式」とがあった。
「張力検出式」の糸切れ検出方法では、緯糸へセンサの検出子を押し付ける方法(例えば、特許文献1等参照)が知られている。なお、緯糸を対象とするものではないが、経糸の糸切れ検出法として、ドロッパーピンを経糸に吊り下げておき、このドロッパーピンの落下を検出する方法(例えば、特許文献2等参照)も知られている。いずれにせよ、この「張力検出式」の糸切れ検出方法では、検出の対象とする糸に他部材を接触させて検出のための張力をわざわざ付与することになる。
【0004】
これに対し、「有無検出式」の糸切れ検出方法では、給糸中の緯糸へ向けて照射した光の反射や遮断を検出する光学−電気的な方法である(例えば、特許文献3等参照)。すなわち、緯糸に対して非接触でその存在を検出することができる。
なお、織機以外(例えばミシン等)で採用される糸検出方法として、差動型空間センサを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献4等参照)。この方法は、糸の毛羽などがセンサ位置を周期的に横切るのを光学−電気的に検出して、その検出結果から、糸の走行や糸切れの有無を判断したり糸速や糸長などを算出したりする方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53−143767号公報
【特許文献2】実公昭60−21420号公報
【特許文献3】特開昭60−104560号公報
【特許文献4】特公平5−26516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、発電所やロケット事業、内燃機関(エンジン)の開発分野などで、高温環境下でも使用できる耐熱性の織り生地が要求されるようになってきた。このような耐熱性の織り生地を織成するには、例えば、1800℃という極めて高温の耐熱性を実現させたSiC繊維やカーボン繊維等の耐熱性繊維が使用可能となるが、これらの耐熱性繊維は、概して屈曲性や伸び性が低く且つ脆性が高いという特性を有している。
【0007】
そのため、織機の緯糸として前記耐熱性繊維を使う場合には、杼口の一側方に設けられる緯糸の給糸開始部まで緯糸を送り込むに際して、緯糸への張力の付与や緯糸と他物との接触を可及的に避けたいという条件が課せられる。しかし、このような条件下で緯糸を給糸開始部へ送り込む方法は、植物繊維や合成繊維などを緯糸に使う通常の送り込み方法とは全く異なる。それ故、そもそも、織機に対して従来開示のない様々な工夫が必要とされていた。
【0008】
一方、緯糸(耐熱性繊維)の給糸異常を検出する場合には、積極的な張力付与や他部材との接触等が条件となる「張力検出式」の検出方法を採用することはできない。加えて、緯糸の給糸異常を検出するには、杼口内で起こる糸切れの他、給糸開始部で起こる給糸ミス(レピアによる糸掴みミス等)をも検出する必要があるが、当然ながら給糸ミスの場合には給糸開始部に緯糸が残るために、「有無検出式」の検出方法を採用することもできない。
【0009】
なお、前記の差動型空間センサを用いて緯糸の給糸異常検出を行うことも考えられるが、給糸開始部まで送り込まれる緯糸は、低張力又は無張力の状態に保持させる必要があるため、給糸開始部から杼口内へ緯糸の給糸が開始されたとき、緯糸には張りの無い不規則な蛇行が生じるようになる。そのため、このように張りの無い不規則な蛇行を生じた緯糸を、前記した差動型空間センサによって検出することもできない(誤検知になる)。
【0010】
結果として、低屈曲性、低伸び性、高脆性等の特性を有した耐熱性繊維を緯糸として使用する場合には、給糸開始部へ向けた緯糸の送り込みが困難であるばかりか、給糸ミスを含んだ緯糸の給糸異常を検出することも困難であるという、大きな問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低屈曲性、低伸び性、高脆性等の特性を有した緯糸を使って織成する場合に、緯糸の給糸開始部へ向けた緯糸の送り込みを確実に行い、且つ給糸ミスを含んだ給糸異常を確実に判別できるようにした緯糸用糸送り部を備えた織機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明は、横並び状態で縦方向へ給糸される経糸の列に上下方向へ開口する杼口を形成させると共に該杼口の一側部に設けられる緯糸の給糸開始部から杼口内を介して杼口の他側部へ緯糸を給糸しつつ杼口を開閉させて織成を行う織機において、前記給糸開始部には、緯糸の先端を把持して杼口への給糸に待機させる糸端把持部とこの糸端把持部から一次側に離れて配置されて緯糸の給糸時に同じ糸長の緯糸のみを通糸させる糸導入部とを有して画成される糸整流区間が設けられており、この糸整流区間の一次側には、緯糸を非張力状態に保持させながら糸整流区間へ向けて送り込む消極型糸送り部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、横並び状態で縦方向へ給糸される経糸の列に上下方向へ開口する杼口を形成させると共に該杼口の一側部に設けられる緯糸の給糸開始部から杼口内を介して杼口の他側部へ緯糸を給糸しつつ杼口を開閉させて織成を行う織機において、前記給糸開始部の一次側には、緯糸を非張力状態に保持させながら給糸開始部へ向けて送り込む消極型糸送り部が設けられており、この消極型糸送り部には、非張力状態にある緯糸の走り動作及び/又は振動を検出する糸検出部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
前記消極型糸送り部は、緯糸をV字状に弛ませる糸滞留部と、この糸滞留部の一次側で当該糸滞留部へ向けて緯糸を繰り出す糸供給部と、前記糸滞留部内の緯糸の最低到達点を検出して該最低到達点が糸滞留部に設定した下限高さと上限高さの間に維持されるように前記糸供給部の駆動を制御する制御部と、を有したものとすることができる。
前記糸整流区間は、糸端把持部が緯糸の切断とこの切断により生じる緯糸先端の把持とを同時に行うカッターにより構成され、このカッターによる緯糸先端の把持位置よりも一次側の緯糸を高位に保持させることで、この把持位置の一次側に対し、杼口内を走行する給糸用レピアが緯糸を引っ掛けるための糸掴み領域が形成されるものとするとよい。
【0014】
前記杼口の他側部には、給糸用レピアが緯糸を杼口内へ引き出すときの走行速度を検出する糸速計測部が設けられており、前記糸検出部は、前記糸速計測部で得られる速度信号と同期する糸検出信号が検出されないときに給糸異常であることを判断する構成とすることができる。
前記緯糸は、炭化ケイ素系繊維又はカーボン繊維とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る緯糸用糸送り部を備えた織機は、低屈曲性、低伸び性、高脆性等の特性を有した緯糸を使って織成する場合に、緯糸の給糸開始部へ向けた緯糸の送り込みを確実に行うことができるものであり、また給糸ミスを含んだ給糸異常を確実に判別できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る織機の一実施形態を示した正面図である。
【図2】織機の主要部を拡大して示した斜視図である。
【図3】消極型糸送り部を示した正面図である。
【図4】糸検出部の検出原理を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図4は、本発明に係る織機1の一実施形態を示している。
この織機1は、炭化ケイ素系繊維やカーボン繊維等の耐熱性繊維を使用した織成が可能とされたものである。ここにおいて、炭化ケイ素系繊維糸を構成する炭化ケイ素系繊維は、いわゆるSiC繊維と呼ばれるもので、例えば、炭化ケイ素からなる繊維、炭素−ケイ素−酸素から構成される繊維、炭素−チタン及び/又はジルコニウム−ケイ素−酸素から構成される繊維、炭素−ケイ素−酸素−ホウ素から構成される繊維等が挙げられる。
【0018】
すなわち、本発明に係る織機1には、図1及び図2に示すように、緯糸2を給糸する部分に消極型糸送り部3が備えられており、耐熱性繊維である緯糸2が、たとえ低屈曲性、低伸び性、高脆性等の特性を有していたとしても確実な給糸ができるようになっている。また、この消極型糸送り部3には、織機1へ給糸する緯糸2を検出するようにした糸検出部4が備えられており、この緯糸2に関して、給糸ミスを含んだ給糸異常を確実に判別できるようになっている。
【0019】
なお、図2に付記してあるように、本明細書では説明の便宜上、緯糸2が給糸される方向を「横方向」又は「左右方向」と言い、この緯糸2と水平面内で直交する方向(後述する経糸10の給糸方向)を「縦方向」又は「前後方向」と言うものとする。また、これら横方向及び縦方向に対して垂直に直交する方向を「高さ方向」又は「上下方向」と言うものとする。
【0020】
まず、織機1について説明する。
織機1は、前後方向で互いに重なるように設けられた複数の綜絖枠5(図2では3つの綜絖枠5が重なった状態を表している)と、この重なった綜絖枠5の前側に所定間隔をおいて設けられた筬6と、綜絖枠5と筬6との前後間を横切るように給糸用レピア7を往復走行させるレピア駆動部8とを有している。
【0021】
なお、各綜絖枠5には、筬6が設けられる側とは反対側(後側)から経糸10が横並び状態で一斉に給糸されるようになる。すなわち、経糸10は、各綜絖枠5をくぐった後に筬6へ通糸される。そして、筬6を超えた前方へ向けて、織成された織り生地11が送り出されるようになっている。
綜絖枠5は前後方向で貫通する枠状に形成されたもので、個々の綜絖枠5は、互いに異なるタイミングで上下動するように設けられている。各綜絖枠5には、枠内高さ方向の所定位置で横一列に並ぶようにして小さなリング部が多数保持されており、これら個々のリング部が経糸10を通すための綜絖12として作用する。
【0022】
綜絖12は給糸される全ての経糸10に対応させて設けられているのではなく、個々の綜絖枠5において1本おき又は複数本おきの経糸10を通すように配置されている。そして、各綜絖枠5の相互間で、綜絖12の配置(通糸させる経糸10)が重複しないようになっている。
そのため、各綜絖枠5を異なるタイミングで上下動させたとき、綜絖12と一緒に上下動される経糸10も各綜絖枠5間で異なり、その結果、持ち上げられる経糸10とそれ以外の経糸10(下降又は持ち上げ量の小さな経糸10の場合を含む)とが生じて、経糸10の横並びの列に上下方向へ開口する杼口13が形成されるようになる。言うまでもなく、この杼口13は綜絖枠5が上下動をするのに同調して、開閉を繰り返すようになっている。
【0023】
なお、綜絖枠5には綜絖12の配置パターンが異なるものが複数種、準備されており、その組み合わせや使用数は、織成しようとする織り生地11の織り組織に応じて適宜変更することになる。
レピア駆動部8は、前記のように綜絖枠5の上下動で経糸10の列に杼口13が形成される都度、この杼口13内へ給糸用レピア7を突入させて1往復させる構成となっている。給糸用レピア7は、往動時(杼口13への突入時)に先行するようになる先端部が、緯糸2を引っ掛け可能なフック状に形成され、この先端部のフック内側に、引っ掛けた緯糸2をバネ力で押し挟む(糸掴みする)構造が備えられている。この給糸用レピア7には可撓性の駆動帯15が連結されており、この駆動帯15を押し引きすることで、給糸用レピア7に走行用の駆動が付与されるようになっている。
【0024】
給糸用レピア7の非走行時において、レピア駆動部8は、杼口13の一側部(図2の右側)に給糸用レピア7を停止させる待機位置を設定している。これに対し、織機1では、給糸用レピア7が杼口13内へ突入して杼口13の他側部へと通り抜けた位置(図2の左側)に、緯糸2の先端2aを把持する給糸開始部20を設定している。
従って、このレピア駆動部8は、杼口13の開口形成時に、杼口右側の待機位置から給糸用レピア7を杼口13内へ突入させ、給糸用レピア7が給糸開始部20で緯糸2の先端2aを糸掴みした後、給糸用レピア7を逆走させ、杼口13内へ緯糸2を引き出しながら給糸用レピア7を杼口右側の待機位置へ戻す、といった動作をする。
【0025】
筬6は、綜絖枠5よりも背の低い枠状に形成されたもので、前記のようにレピア駆動部8が杼口13内へ緯糸2を給糸する都度、経糸10の給糸方向に沿って前後方向に往復動作するように設けられている。この筬6には、枠内を上下方向に渡る立線が、経糸10と同じピッチで横並びするように設けられている。すなわち、杼口13内に緯糸2が給糸された後に筬6が前後方向に往復動作すると、そのうちの前進時に全ての立線で緯糸2を前方へ押しながら、織成中の織り生地11の織前に対し、緯糸2を沿接状態に押し込む(押し付ける)、といった動作をする。
【0026】
前記した給糸開始部20には糸整流区間21が設けられており、この糸整流区間21を介して、それよりも更に一次側に設けられた消極型糸送り部3から緯糸2の給糸が行われるようになっている。この糸整流区間21は、緯糸2の先端2aを把持して杼口13への給糸に待機させる糸端把持部24と、この糸端把持部24から緯糸給糸方向の一次側(図2の左側)に離れて配置された糸導入部25とを有して画成されている。
【0027】
糸導入部25では、緯糸2の給糸時に、糸端把持部24から送り出される糸長と同じ糸長の緯糸2のみを、過不足なく通糸させるようになっている。すなわち、糸整流区間21内は、常に一定長さの緯糸2が保持されることになり、結果として、この糸整流区間21内では、緯糸2が蛇行や弛みなどのない略直線状態に保持されるようになる。
本実施形態において、糸導入部25は、一対の円板で緯糸2を上下から軽度に挟むようにして適度なブレーキ作用を生じさせ、それでいて緯糸2に対して過剰の張力や擦過力が加わらないようにできる、いわゆるシンバルテンションを採用した。また、糸端把持部24は、緯糸2の切断と、この切断によって緯糸2に生じる先端2aの把持とを同時に行うカッター27により構成されたものとした。
【0028】
糸整流区間21には、糸端把持部24(カッター27)が緯糸2の先端2aを把持した位置よりも一次側で、緯糸2の給糸路が高位に形成されるように導くガイド部30が設けられている。そのため、このガイド部30と糸端把持部24との間では緯糸2が斜めに傾斜して架け渡されるようになる。この緯糸2の傾斜架け渡し部分は、杼口13内を走行してきた給糸用レピア7(フック状の先端部)が緯糸2を引っ掛けるための糸掴み領域31として作用する。
【0029】
次に、織機1の給糸開始部20へ緯糸2を糸送りするための消極型糸送り部3について説明する。
図3に示すように、消極型糸送り部3は、糸滞留部35と糸供給部36と制御部37とを有しており、この構成により、緯糸2を非張力又は無張力の状態に保持させながら給糸開始部20へ送り込むことができるようになっている。なお、非張力とは、積極的に張力を付与していない状態であって、糸送り時の引き出し力が緯糸2に作用しているような状態は含めるものとする。これに対して無張力は、緯糸2に張力が付与していない状態を言うものとする。
【0030】
糸滞留部35は、緯糸2をV字状に弛ませて張力が作用しないようにするところ(外部負荷の解放部)である。この糸滞留部35は、緯糸2が風や作業者と接触するのを防止するため、上方を開口させ且つ前後及び左右を取り囲んだ薄箱状に形成されている。なお、糸滞留部35の前面部や後面部は透明樹脂板やガラスなどで形成してあり、緯糸2の弛み状態を外から目視によって確認できるようになっている。
【0031】
この糸滞留部35における上下方向及び左右方向の内法(うちのり)寸法は、特に数値的な限定を受けるものではないが、緯糸2に生じる弛みによって、箱内で十分な糸長が確保できることを目安に形成されている。またこの糸滞留部35における前後方向の内法は、緯糸2が前後に大きく揺れて絡まるのを防止できる程度の寸法(おおよそ緯糸2の2〜5本ぶん相当)で形成されている。
【0032】
糸供給部36は、糸滞留部35の一次側で、この糸滞留部35へ向けて緯糸2を繰り出すところであって、基本的に、緯糸2が巻回されたボビン40を回転自在に保持するためのボビン支持部41を有している。このボビン支持部41に支持されるボビン40から緯糸2を巻き出すための具体的な構造として、本実施形態では、ボビン支持部41の上方に緯糸2を挟持するようにしてピンチロール部42を設け、このピンチロール部42をモータ駆動させるものとしている。
【0033】
なお、このピンチロール部42ではなく、ボビン支持部41に対してボビン40を回転駆動させる構造を採用してもよいし、或いは、ピンチロール部42とボビン40との両方に、互いに同期させながら回転駆動を付与させるようにしてもよい。
制御部37は、糸滞留部35内で弛ませられる緯糸2の糸長量を制御するところである。この制御部37は、糸滞留部35に対してその高さ方向の複数箇所(図例では3箇所)に設けられたセンサ43,44,45を有しており、これらセンサ43〜45による検出信号の出力状況に基づいて、緯糸2に生じる最低到達点2b(V字状に弛んだ下端)が糸滞留部35内のどの高さ位置に存在するかを判断するようになっている。
【0034】
本実施形態において各センサ43〜45は、いずれも透過型の光学センサを用いてあり、糸滞留部35における左右方向の一方側に投光器43a〜45aが配置され、同、他方側に受光器43b〜45bがそれぞれ同じ高さで対向するように配置されたものとしている。
また、本実施形態では、各センサ43〜45による緯糸2の最低到達点2bを検出しやすくするために、緯糸2に対して非透過性素材(樹脂や金属、紙など)によって形成された被検出片47を吊り下げてある。この被検出片47には緯糸2に遊びを持たせて通すことのできる糸目が形成されている。この糸目には、摩擦係数の小さな樹脂製リング(図示略)を嵌めるなどして、緯糸2との摩擦を軽減させるのが好ましい。
【0035】
被検出片47に糸目が形成されていることで、緯糸2が糸送りされるときには、緯糸2に生じる最低到達点2bが1箇所だけになるように(緯糸2が上下に波打つようなことを防止して)、被検出片47が緯糸2に沿って容易に移動するようになる。すなわち、被検出片47は、各センサ43〜45の検出対象としての作用と、緯糸2に確実に最低到達点2bを生じさせる錘としての作用とを兼備する。このことから明らかなように、本実施形態の場合、緯糸2の最低到達点2bはこの被検出片47に相当する。
【0036】
制御部37は、次のように動作する。
すなわち、最も下位に配置されたセンサ43(下位センサ43)、上下中央に配置されたセンサ44(中央センサ44)及び最も上位に配置されたセンサ45(上位センサ45)の全てが、投受光器間で全通時電圧よりも低い電圧を検出しているときには、緯糸2自体が全センサ43〜45によって検出されていることになる。これにより制御部37は、糸滞留部35に設定した下限高さh1を割ってそれより低い位置に緯糸2の最低到達点2bが到達していると判断する。そこで制御部37は、糸供給部36を停止させた状態にして、下位センサ43が投受光器間の全通時電圧を検出する(織機1側で緯糸2が消費される)のを待つ。
【0037】
下位センサ43が投受光器間の全通時電圧を検出し、且つ中央センサ44及び上位センサ45が投受光器間で低電圧を検出しているときには、制御部37は、糸滞留部35に設定した下限高さh1と中央高さh2との間に緯糸2の最低到達点2bが存在していると判断する。そこで制御部37は、糸供給部36を予め設定した標準速度で駆動させる。
また、下位センサ43及び中央センサ44が投受光器間の全通時電圧を検出し、且つ上位センサ45が投受光器間で低電圧を検出しているときには、制御部37は、糸滞留部35に設定した中央高さh2と上限高さh3との間に緯糸2の最低到達点2bが存在していると判断する。すなわち、糸滞留部35で弛ませられた緯糸2の糸長量が残り少ないことを意味する。そこで制御部37は、糸供給部36を標準速度の2倍で駆動させる。このように糸供給部36の駆動を速めても、糸滞留部35内へ繰り出される緯糸2の糸量増加速度が増すだけであり、消極型糸送り部3から給糸開始部20へ向けた糸送り量が2倍になるわけではない。
【0038】
下位センサ43、中央センサ44及び上位センサ45の全てが投受光器間の全通時電圧を検出したときには、糸滞留部35に設定した上限高さh3を超えて、それより高い位置に緯糸2の最低到達点2bが到達していることになる。このような現象は、糸供給部36で保持するボビン40で糸が無くなったか、或いは、糸供給部36などで緯糸2に引っ掛かりが生じたり糸切れが生じたりした、異常状態である。そこで制御部37は、糸供給部36を停止させ、作業者への報知(ブザーの発呼、非常灯の点灯、操作画面表示など)を行うようにする。必要に応じて、織機1を非常停止させるようにしてもよい。
【0039】
このようにして、制御部37の制御により、糸滞留部35内での緯糸2の最低到達点2bが下限高さh1と上限高さh3との間に維持されるようになる。とは言え、制御部37の制御は、下限高さh1を割った低い位置や上限高さh3を超えた高い位置へ緯糸2の最低到達点2bが到達するのを絶対的に阻止するという意味ではなく、下限高さh1と上限高さh3との上下間に緯糸2の最低到達点2bが存在することを制御目標にするという意味とする。
【0040】
次に、消極型糸送り部3に備えられた糸検出部4について説明する。
糸検出部4は、消極型糸送り部3から織機1へ糸送りされる緯糸2が、実際に走り動作をしているか否か、或いは緯糸2が振動をしているか否かを検出して、これらの検出結果に基づいて、緯糸2に関する給糸異常(給糸ミスを含む)の有無を判別するところである。すなわち、この糸検出部4は、単に緯糸2の存在を検出する「有る無しセンサ」とは根本的に異なる「動的センサ」である。
【0041】
図4に示すように、この糸検出部4は、櫛刃状に一定間隔をおいて突出する複数(図例では3つとした)の受光部50aを具備した第1素子50と、この第1素子50の各受光部50aと交互に噛み合うように、同じく一定間隔をおいて対向突出する複数(同数)の受光部51aを具備した第2素子51とを有している。これら第1素子50及び第2素子51は、糸送り途中の緯糸2に近接するように配置されている。また、図示は省略するが、糸検出部4には、これら第1素子50及び第2素子51を背にして緯糸2に光を照射することにより、第1素子50及び第2素子51に緯糸2の陰を投影させる光源が備えられている。
【0042】
第1素子50は、受光部50aがpnフォトダイオードやpinフォトダイオード等により形成されており、各受光部50aにおいて突出の基部側となる部分は互いの短絡(導通)状態を保持して連結されている。各受光部50aの突出方向は緯糸2と直交するようになっている。また、各受光部50aの形成ピッチPは、緯糸2の表面に糸方向に沿って生じている撚り等による凹凸のピッチと同じに設定されている。
【0043】
第2素子51についても、受光部51aの突出方向が逆である点を除いて、第1素子50と全く同じ構造である。本実施形態において、各受光部50a,51aのそれぞれの形成ピッチPを75μmに設定し、各受光部50a,51aの形成幅Wを50μm、受光部50a,51aの間に生じさせる隙間Gを25μmとした。
このような構成の糸検出部4では、次のようにして緯糸2の給糸異常を判別する。
【0044】
まず、第1素子50の各受光部50aは光源からの光を照射したときに電圧を発生させるが、緯糸2により各受光部50aに陰が生じる(部分的に遮光される)ことで電圧は応分に低くなる。このことから、緯糸2の表面凸の部分では受光部50aの発生電圧が相対的に低くなり、反対に、緯糸2の表面凹の部分では受光部50aの発生電圧が相対的に高くなる。結果として、緯糸2が走行していた場合には、これらの電圧変化が周期的に生じることによる波形信号が得られる。
【0045】
前記したように第1素子50と第2素子51とは全く同じ構造であるから、緯糸2が正常に走行している場合であれば、第1素子50で検出される波形信号と第2素子51で検出される波形信号とは同じになり、互いの信号強度差はゼロになる。これに対し、第1、第2素子50,51間で信号強度に差が認められた場合には、緯糸2が走行していないと判断することができる。
【0046】
一方、第1素子50の受光部50aや第2素子51の受光部51aに対し、それらの突出方向の略中心位置を緯糸2が通過することを基本において、緯糸2へ最も強い光が届くように、第1素子50及び第2素子51の中心部(図4における受光部50a,51aの左右方向中心)に対向させるように、光源の配置が決められている。従って、この光源の配置により、受光部50a,51aは、それらの突出方向中央部が最も明るく、突出方向の先端側や基部側ほど暗くなるように照射される。
【0047】
このような光量の差は、例えば第1素子50及び第2素子51に対して光源を近接させたり、第1素子50及び第2素子51と光源との間にフィルターや特殊レンズを配置したりして、意図的に生じさせるのが好ましい。なお、第1素子50及び第2素子51の中心部に対向させる配置で光源を設ける場合に限らず、第1素子50の受光部50a先端寄り又は第2素子51の受光部51a先端寄りに対向させる配置で光源を設けてもよい。
【0048】
このように受光部50a,51aの突出方向で光源から届く光量差を生じさせると、緯糸2が受光部50a,51aの中央部を通過した場合の発生電圧と、緯糸2が受光部50a,51aの先端側や基部側へ振動した場合の発生電圧との間にも差が生じることになる。このような発生電圧の差を監視することで、緯糸2が振動しているか否かを判断することができる。
【0049】
結果として、糸検出部4は、緯糸2が走行していることを検出したときや、緯糸2が振動していることを検出したときに、緯糸2が給糸異常を起こさずに、正常に糸送りされていると判別する。当然に、走行の確認も振動の確認もできないときには、糸検出部4は緯糸2の給糸異常と判断する。
なお、糸検出部4は、緯糸2の走行検出だけを確認して正常糸送りを判別してもよいし、緯糸2の振動検出だけを確認して正常糸送りを判別してもよい。ただ、緯糸2が振動しないで走行する場合があることにも対応するために、緯糸2の走行検出を確認することを前提にして、必要に応じて、緯糸2の振動検出をも確認するという対応を行ってもよい。
【0050】
本実施形態では更に、図2に示すように、杼口13の他側部(給糸用レピア7の待機位置となる近傍)に糸速計測部55を設けて、この糸速計測部55で得られる給糸用レピア7の走行速度(給糸速度と見なす)をも、糸検出部4による給糸異常の有無判断に用いるようにしている。
この糸速計測部55は、給糸用レピア7の駆動帯15が移動する経路上方に駆動帯15へ向けて2個のセンサ56,57を設けると共に、駆動帯15の長手方向の一部に、アルミ材などによって形成した計測ポイント58を設けることによって構成してある。
【0051】
この糸速計測部55では、給糸用レピア7が給糸開始部20から杼口13内へ緯糸2を引き出すための走行を行っているときに、杼口13に近い方のセンサ56が計測ポイント58を検出してから、隣のセンサ57が計測ポイント58を検出するまでのパルス数を計数して、この計数値を速度信号として糸検出部4へ出力する。
そして糸検出部4では、糸速計測部55で得られる速度信号と同期する糸検出信号(緯糸2の走行検出信号や振動検出信号)が検出されないときに、給糸異常が起こっているものと判断する。なお、ここにおいて「同期」とは、糸速計測部55で得られる速度信号と糸検出部4の糸検出信号とが全く同一である場合に限定されない。すなわち、糸速計測部55の速度信号にある程度の許容範囲を設定しておき、この許容範囲内に、糸検出部4の糸検出信号が入るか否かを判断するようにすればよい。
【0052】
以上、詳説したところから明らかなように、本発明に係る織機1では、綜絖枠5の上下動と、レピア駆動部8による給糸用レピア7の往復動作、及び、筬6の前後往復動作によって織り生地11が織成されるなかにあって、給糸用レピア7が給糸開始部20から杼口13内へ緯糸2を引き出すときに、消極型糸送り部3から給糸開始部20へ向けて緯糸2の糸送りが行われる。
【0053】
このとき、消極型糸送り部3では、制御部37の制御により、糸滞留部35内での緯糸2の最低到達点2bが下限高さh1と上限高さh3との間に維持されるようになっており、消極型糸送り部3から給糸開始部20へ向けた緯糸2は、非張力又は無張力の状態に保持される。そのため、耐熱性繊維である緯糸2が、たとえ低屈曲性、低伸び性、高脆性等の特性を有していたとしても確実な給糸ができるようになっている。
【0054】
また、この消極型糸送り部3に設けた糸検出部4が、緯糸2の走行検出や緯糸2の振動検出によって給糸異常の有無を判別するようにしているので、給糸ミスを含め、緯糸2の給糸異常を確実に判別できる。そのため、給糸異常の発生時にはただちに織機1を停止させることができるものであり、緯糸2のみならず、経糸10の無駄な給糸を徹底して防止できる(歩留まり低下の防止)利点がある。勿論、織機1の停止時間を最小限に抑えられるので、稼働効率の低下を防止できる利点もある。
【0055】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、本発明に係る織機1は、炭化ケイ素系繊維やカーボン繊維等の耐熱性繊維を緯糸2として使用することが限定されるものではなく、植物繊維や合成繊維を緯糸2として使用することもできる。
【0056】
レピア駆動部8において、杼口13の片側にのみ給糸用レピア7を待機させる「片レピア式」を説明したが、給糸開始部20側にも送り用のレピアを待機させる「両レピア式」としてもよい。
糸検出部4において、第1素子50や第2素子50に備えさせる受光部50a,51aの数は限定されないが、受光部50a,51aが多ければ発生電圧の積算値も大きくなって検出精度も上がるので、ある程度、多くするのが好ましい。また、第1素子50や第2素子51に対して緯糸2が近接状態を保持できるようにし、且つ、塵埃の付着防止や振れ幅の制限を行うなどの利点を得るため、第1、第2素子50,51に沿わせてガラス管や透明樹脂パイプを設けるようにし、その中へ緯糸2を通過させるようにしてもよい。
【0057】
糸検出部4において、緯糸2の走行検出を行うための第1素子50及び第2素子50と、緯糸2の振動検出を行うための第1素子50又は第2素子50とについて、別々に設けることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 織機
2 緯糸
2a 先端
2b 最低到達点
3 消極型糸送り部
4 糸検出部
5 綜絖枠
6 筬
7 給糸用レピア
8 レピア駆動部
10 経糸
11 織り生地
12 綜絖
13 杼口
15 駆動帯
20 給糸開始部
21 糸整流区間
24 糸端把持部
25 糸導入部
27 カッター
30 ガイド部
31 糸掴み領域
35 糸滞留部
36 糸供給部
37 制御部
40 ボビン
41 ボビン支持部
42 ピンチロール部
43 センサ(下位センサ)
44 センサ(中央センサ)
45 センサ(上位センサ)
43a〜45a 投光器
43b〜45b 受光器
47 被検出片
50 第1素子
50a 受光部
51 第2素子
51a 受光部
55 糸速計測部
56 センサ
57 センサ
58 計測ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横並び状態で縦方向へ給糸される経糸の列に上下方向へ開口する杼口を形成させると共に該杼口の一側部に設けられる緯糸の給糸開始部から杼口内を介して杼口の他側部へ緯糸を給糸しつつ杼口を開閉させて織成を行う織機において、
前記給糸開始部には、緯糸の先端を把持して杼口への給糸に待機させる糸端把持部とこの糸端把持部から一次側に離れて配置されて緯糸の給糸時に同じ糸長の緯糸のみを通糸させる糸導入部とを有して画成される糸整流区間が設けられており、
この糸整流区間の一次側には、緯糸を非張力状態に保持させながら糸整流区間へ向けて送り込む消極型糸送り部が設けられていることを特徴とする緯糸用糸送り部を備えた織機。
【請求項2】
横並び状態で縦方向へ給糸される経糸の列に上下方向へ開口する杼口を形成させると共に該杼口の一側部に設けられる緯糸の給糸開始部から杼口内を介して杼口の他側部へ緯糸を給糸しつつ杼口を開閉させて織成を行う織機において、
前記給糸開始部の一次側には、緯糸を非張力状態に保持させながら給糸開始部へ向けて送り込む消極型糸送り部が設けられており、
この消極型糸送り部には、非張力状態にある緯糸の走り動作及び/又は振動を検出する糸検出部が設けられていることを特徴とする緯糸用糸送り部を備えた織機。
【請求項3】
前記消極型糸送り部は、緯糸をV字状に弛ませる糸滞留部と、
この糸滞留部の一次側で当該糸滞留部へ向けて緯糸を繰り出す糸供給部と、
前記糸滞留部内の緯糸の最低到達点を検出して該最低到達点が糸滞留部に設定した下限高さと上限高さの間に維持されるように前記糸供給部の駆動を制御する制御部と、
を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の緯糸用糸送り部を備えた織機。
【請求項4】
前記糸整流区間は、糸端把持部が緯糸の切断とこの切断により生じる緯糸先端の把持とを同時に行うカッターにより構成され、
このカッターによる緯糸先端の把持位置よりも一次側の緯糸を高位に保持させることで、この把持位置の一次側に対し、杼口内を走行する給糸用レピアが緯糸を引っ掛けるための糸掴み領域が形成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の緯糸用糸送り部を備えた織機。
【請求項5】
前記杼口の他側部には、給糸用レピアが緯糸を杼口内へ引き出すときの走行速度を検出する糸速計測部が設けられており、
前記糸検出部は、前記糸速計測部で得られる速度信号と同期する糸検出信号が検出されないときに給糸異常であることを判断する構成とされていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の緯糸用糸送り部を備えた織機。
【請求項6】
前記緯糸は、炭化ケイ素系繊維又はカーボン繊維であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の緯糸用糸送り部を備えた織機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate