練土の可塑性測定方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は練土の可塑性測定方法に関し、詳しくは毛細管型粘度計を用いた練土の可塑性測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】陶磁器製品その他のセラミックス製品の原料としての練土の可塑性は、押出成形等の成形加工を行う際の加工性,成形性の指標となるもので、従来その可塑性を測定する方法として各種の方法が実施されている。
【0003】図11に示すペッファーコルン試験もその1つで、この方法の場合ある重みのプレート200を下方に置いた所定形状の試料(練土)202に対して一定距離上方から落下させて試料202を変形させ、その変形度合いに基づいて試料202の可塑性を求めるといったものである。
【0004】しかしながらこの方法の場合大ざっぱな値しか求められず、また可塑性の良否を左右する練土の流動性,保形性については求めることができないといった問題がある。
【0005】練土の可塑性は、流動性が良く又保形性が高いほど良好であるとされるが、上記図11に示す測定方法はそれら流動性,保形性については求めることができず、従って可塑性について正確な判定を行うことが難しいのである。
【0006】練土の可塑性の測定方法はその他に種々の方法が従来実施されているが、何れの方法も練土の可塑性を正確且つ定量的に判定することのできないものであった。
【0007】
【課題を解決するための手段】本願の発明はこのような課題を解決するためになされたものである。而して請求項1の練土の可塑性測定方法は、シリンダ室と、該シリンダ室の軸方向一端側に設けたキャピラリーと、該シリンダ室に収容した材料に圧力を加え、該キャピラリーを通じて外部に押し出すピストンとを有する毛細管型粘度計を用いて練土の押出しを行い、その際の測定押出圧力と押出速度及びキャピラリー寸法とにより剪断応力と剪断速度とを求めるに際し、該ピストンにより該シリンダ室を通じて該キャピラリー内に加えられる押出圧力の圧力損失分をキャピラリー管長補正して剪断応力を求め、更に様々に練土の含水率を変化させた下でそれら剪断速度と剪断応力との関係を求めて、高剪断速度域での該剪断速度に対する該剪断応力の変化勾配を流動性として、また剪断速度がゼロないし近傍値での剪断応力を保形性として求め、それら流動性と保形性とにより練土の可塑性を求めることを特徴とする。
【0008】請求項2の練土の可塑性測定方法は、請求項1において、前記剪断速度が下記式(1)の範囲の特定値における剪断応力を前記保形性として求めることを特徴とする。
【0009】
【数3】
【0010】請求項3の練土の可塑性測定方法は、請求項1,2の何れかにおいて、前記剪断速度が下記式(2)の範囲における剪断応力の変化勾配を前記流動性として求めることを特徴とする。
【0011】
【数4】
【0012】請求項4の練土の可塑性測定方法は、請求項1,2,3の何れかにおいて、前記ピストンを前記シリンダ室に押し込むに際して、その押込速度を高速側から低速側に変化させて前記押出速度を変化させ、その際の剪断速度の変化と剪断応力の変化とに基づいて前記流動性及び保形性を求めることを特徴とする。
【0013】
【作用及び発明の効果】上記のように本発明においては毛細管型粘度計のシリンダ室に練土を収容し、ピストンの押込みにより練土をキャピラリーを通じて外部に押し出し、そのときの測定押出圧力と押出速度及びキャピラリー寸法とにより剪断応力と剪断速度とを求める。
【0014】但しただ単にこのようにして剪断応力と剪断速度とを算出し、それらの関係を求めたとき、その値はキャピラリーの寸法によって異なったものとなる。
【0015】これは主としてシリンダ室からキャピラリー入口にかけての圧力損失に起因するものであり、そこで本発明ではその圧力損失分をキャンセルするようなキャピラリー管長補正を施して真の剪断応力を求め、そして様々な剪断速度の下でその真の剪断応力を求めてそれら剪断速度と剪断応力との関係を導き出し、それら剪断速度と剪断応力との関係から練土の流動性と保形性とを求め、可塑性の良否を判定する(請求項1)。
【0016】かかる本発明によれば、練土の可塑性を流動性と保形性との各特性に分けて定量的且つ正確に判定することができ、従って例えば練土の押出成形を行うに際してその成形性,加工性を評価するためにいちいち押出成形実験を行わなくても事前に成形性,加工性を評価することが可能となる。
【0017】請求項2の方法は、剪断速度が前述の式(1)の範囲の特定値における剪断応力を保形性として求めるもので、これによれば練土の保形性をより精度高く求めることができる。
【0018】請求項3の方法は、剪断速度が前述の式(2)の範囲における剪断応力の変化勾配を流動性として求めるもので、これによれば、練土の流動性をより精度高く求めることができる。
【0019】ところで上記毛細管型粘度計は従来プラスチック材料(溶融ポリマー)の粘度の測定に用いられている。しかしながら溶融ポリマーは均一系と考えられるのに対し、練土は水と粘土等との混合物であり、従って練土に圧力をかけると圧搾による水の搾り出し現象がおき、水と粘土等固形分が分離する現象を起してしまい、測定中に練土自体の状態が変化してしまう。従って練土自体の状態の変化を抑制するようにして測定を行うことが、可塑性を正しく求める上において必要である。
【0020】而して請求項4に従ってピストンをシリンダ室に押し込む際の押込速度を高速側から低速側に変化させて押出速度を変化させ、そして押出速度ごとに押出口(キャピラリー)から出てくる練土の状態とそのときの含水率を測定し、搾り出し現象の有無を判断したところ、圧搾による水の搾り出し現象、即ち測定中の練土自体の状態変化を良好に抑制できることを確認した。従って請求項3の方法に従って練土の可塑性を測定した場合、より信頼性の高い可塑性の測定値を得ることができる。
【0021】
【実施例】次に本発明の実施例を図面に基づいて以下に詳しく説明する。図1において、10はシリンダ12の内部に形成されたシリンダ室で、そのシリンダ室10の軸方向一端部にキャピラリー14が設けてある。
【0022】16はシリンダ室10への押込みによりシリンダ室10内部に収容した試料18をキャピラリー14を通じて外部に押し出すピストンである。尚20は圧力センサであって、ここではシリンダ室10の末端部の圧力を測定するようになっている。
【0023】本方法では、試料としての練土18をシリンダ室10内に空気が入らないように押し込め、その状態でピストン16をシリンダ室10内に押し込んで練土18をキャピラリー14から押し出す。そのときの押出圧力をシリンダ室10の出口にある圧力センサ20で測定する。
【0024】このときの測定押出圧力をP,押出流量をQとすると見掛けの剪断応力τw,見掛けの剪断速度γwは次のようになる(式(3),式(4))。
τw=Pr/2L ・・・(3)
γw=4Q/πr3・・・(4)
但しLはキャピラリー長であり、rはキャピラリー半径である。
【0025】ところでこの毛細管型粘度計の場合、シリンダ室10出口からキャピラリー14入口にかけての部分で圧力損失を生じるために、実際の測定押出圧力Pと実際にキャピラリー14内部に作用する圧力とでは等しくならない。
【0026】これに起因してキャピラリー寸法、例えばキャピラリー長を変えて測定を行うと、各キャピラリー長ごとにτwはそれぞれ異なった値となる。
【0027】そこで本方法では、その圧力損失分だけキャピラリー管長補正し、剪断応力の値を補正する。この補正は次のようにして行う。即ち、図2(A)に示しているようにキャピラリー寸法及び押出流量(剪断速度)を様々に変えてそのときのPを測定し、そして横軸にL/rを、また縦軸にPを取って測定値をプロットし、L/rとPとの関係直線a,b,c,d,eを各剪断速度ごとに求める。尚、剪断速度はa→eにかけて遅→速の関係である。
【0028】このとき、図に示しているように各関係直線a,b,c,d,eと横軸L/rとの交点は一点に収束せず、各々別々の値となる。これら各関係直線a,b,c,d,eと縦軸とのずれは上記圧力損失に起因するものであり、そのずれの大きさは各関係直線a〜eごとに異なったものとなる。即ち剪断速度が変化することによって、そのずれの量Ecは異なった値となる。
【0029】そこで図2(B)に示しているように横軸に剪断速度を、また縦軸にEcを取って剪断速度とEcとの関係を求める。そしてこのようにして求めたEcを補正係数として次式(式(5))により真の剪断応力τを求める。
τ=Pr/2(L+Ec・r)・・・(5)
【0030】この補正は次のような意味を有するものである。即ち上記圧力損失の影響を除くため、見掛け上キャピラリー14がシリンダ室10内部までより深く入り込んだものと考えてキャピラリー長を補正(管長補正)し、これを用いて剪断応力τを求めるのである。
【0031】図3,図4,図5は三種類の練土X,Y,Zについて、各種押出速度及び各種含水率の下で上記毛細管型粘度計を用いて押出試験し、そして剪断速度及び剪断応力τを求めてそれらの関係を表したものである。尚比較のために上記管長補正を施していないものについても併せて示してある。但しここではピストン16をシリンダ室10に押し込むに際して高速側から低速側へと押込速度を変化させつつ押出試験を行った。図中F−Sの記号はこのことを表している。
【0032】図3,図4,図5に示しているように、練土X,Y,Zの何れも補正前においてはキャピラリー長が異なると剪断速度と剪断応力との関係が異なったものとなるのに対して、補正後においてはキャピラリー長の大小に拘らず何れもほぼ同一の曲線に収束して来ることが分かる。尚、図中の35.8mass%,29.2mass%・・・等の数値は練土の含水率を表している。
【0033】さて、練土における可塑性は外力を加えたときの流動性と外力を加えていないときの保形性の2つの特性にて評価することができ、而してその流動性(粘度)は、図6に示しているように高剪断速度域では、剪断速度と剪断応力との関係がほぼ直線的になっており、そのときの直線の勾配として求めることができる。
【0034】また保形性は、剪断速度が実質上ゼロのときの剪断応力の大きさとして求めることができる。但し剪断応力ゼロのときの値は測定上ないし計算上バラツキが大きく、そこで本法では剪断速度が0.76/Sのときの剪断応力をもって保形性とした。
【0035】そして図3,図4,図5の補正後の剪断速度と剪断応力との関係曲線から、各練土X,Y,Zについて上記保形性及び流動性(粘度)を求めたところ、図7R>7及び図8の通りとなった。
【0036】図9は上記のようにして求めた保形性と流動性との関係を各練土X,Y,Zについて表したもので、この図9の結果から各練土X,Y,Zともに保形性と流動性との関係が直線的な関係になっていることが分かる。換言すれば、この方法により各練土について保形性及び流動性を正確に求めることができる。
【0037】そして本測定方法の結果では、練土X及びYについては保形性が大きい割りには粘性が小さく、即ち流動性が高く、可塑性に優れた練土であるということができる。一方練土Zは、保形性が小さい割りに流動性が低く、可塑性に劣った練土であるということができる。
【0038】尚、図10に、ピストン16の押込速度を上記実施例とは逆に低速側から高速側に変化させたときの測定結果を表しているが、この結果では、ピストン16の押込速度を高速側から低速側に変化させたときの対応する本実施例の図5のような良好な結果が得られていない。
【0039】このことから、ピストン16の押込速度を高速側から低速側に変化させつつ押出試験を行うことによって、練土の持つ特異性、即ち圧搾による練土中の水の搾り出し現象を抑制でき、水と粘土等との混合物から成る練土をあたかも均一系の材料として扱うことができ、可塑性を正確に求め得ることが分かる。
【0040】以上本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例方法で用いた毛細管型粘度計の図である。
【図2】同実施例において剪断応力を補正する際の補正係数の求め方の説明図である。
【図3】同実施例において練土Xについて得られた剪断速度と剪断応力との関係を表す図である。
【図4】同実施例において練土Yについて得られた剪断速度と剪断応力との関係を表す図である。
【図5】同じ実施例において練土Zについて得られた剪断速度と剪断応力との関係を表す図である。
【図6】図3ないし図5の結果に基づいて練土の保形性と流動性を求める方法の説明図である。
【図7】図3ないし図5の結果に基づいて求めた保形性と練土の含水率との関係を表す図である。
【図8】図3ないし図5の結果に基づいて求めた練土の流動性と含水率との関係を表す図である。
【図9】図7及び図8の結果に基づいて求めた各練土の保形性と流動性との関係を表す図である。
【図10】ピストンの押込速度を低速側から高速側に変化させたときに得られる図5に相当する図である。
【図11】練土の可塑性の従来の測定方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
10 シリンダ室
12 シリンダ
14 キャピラリー
16 ピストン
18 試料(練土)
20 圧力センサ
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は練土の可塑性測定方法に関し、詳しくは毛細管型粘度計を用いた練土の可塑性測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】陶磁器製品その他のセラミックス製品の原料としての練土の可塑性は、押出成形等の成形加工を行う際の加工性,成形性の指標となるもので、従来その可塑性を測定する方法として各種の方法が実施されている。
【0003】図11に示すペッファーコルン試験もその1つで、この方法の場合ある重みのプレート200を下方に置いた所定形状の試料(練土)202に対して一定距離上方から落下させて試料202を変形させ、その変形度合いに基づいて試料202の可塑性を求めるといったものである。
【0004】しかしながらこの方法の場合大ざっぱな値しか求められず、また可塑性の良否を左右する練土の流動性,保形性については求めることができないといった問題がある。
【0005】練土の可塑性は、流動性が良く又保形性が高いほど良好であるとされるが、上記図11に示す測定方法はそれら流動性,保形性については求めることができず、従って可塑性について正確な判定を行うことが難しいのである。
【0006】練土の可塑性の測定方法はその他に種々の方法が従来実施されているが、何れの方法も練土の可塑性を正確且つ定量的に判定することのできないものであった。
【0007】
【課題を解決するための手段】本願の発明はこのような課題を解決するためになされたものである。而して請求項1の練土の可塑性測定方法は、シリンダ室と、該シリンダ室の軸方向一端側に設けたキャピラリーと、該シリンダ室に収容した材料に圧力を加え、該キャピラリーを通じて外部に押し出すピストンとを有する毛細管型粘度計を用いて練土の押出しを行い、その際の測定押出圧力と押出速度及びキャピラリー寸法とにより剪断応力と剪断速度とを求めるに際し、該ピストンにより該シリンダ室を通じて該キャピラリー内に加えられる押出圧力の圧力損失分をキャピラリー管長補正して剪断応力を求め、更に様々に練土の含水率を変化させた下でそれら剪断速度と剪断応力との関係を求めて、高剪断速度域での該剪断速度に対する該剪断応力の変化勾配を流動性として、また剪断速度がゼロないし近傍値での剪断応力を保形性として求め、それら流動性と保形性とにより練土の可塑性を求めることを特徴とする。
【0008】請求項2の練土の可塑性測定方法は、請求項1において、前記剪断速度が下記式(1)の範囲の特定値における剪断応力を前記保形性として求めることを特徴とする。
【0009】
【数3】
【0010】請求項3の練土の可塑性測定方法は、請求項1,2の何れかにおいて、前記剪断速度が下記式(2)の範囲における剪断応力の変化勾配を前記流動性として求めることを特徴とする。
【0011】
【数4】
【0012】請求項4の練土の可塑性測定方法は、請求項1,2,3の何れかにおいて、前記ピストンを前記シリンダ室に押し込むに際して、その押込速度を高速側から低速側に変化させて前記押出速度を変化させ、その際の剪断速度の変化と剪断応力の変化とに基づいて前記流動性及び保形性を求めることを特徴とする。
【0013】
【作用及び発明の効果】上記のように本発明においては毛細管型粘度計のシリンダ室に練土を収容し、ピストンの押込みにより練土をキャピラリーを通じて外部に押し出し、そのときの測定押出圧力と押出速度及びキャピラリー寸法とにより剪断応力と剪断速度とを求める。
【0014】但しただ単にこのようにして剪断応力と剪断速度とを算出し、それらの関係を求めたとき、その値はキャピラリーの寸法によって異なったものとなる。
【0015】これは主としてシリンダ室からキャピラリー入口にかけての圧力損失に起因するものであり、そこで本発明ではその圧力損失分をキャンセルするようなキャピラリー管長補正を施して真の剪断応力を求め、そして様々な剪断速度の下でその真の剪断応力を求めてそれら剪断速度と剪断応力との関係を導き出し、それら剪断速度と剪断応力との関係から練土の流動性と保形性とを求め、可塑性の良否を判定する(請求項1)。
【0016】かかる本発明によれば、練土の可塑性を流動性と保形性との各特性に分けて定量的且つ正確に判定することができ、従って例えば練土の押出成形を行うに際してその成形性,加工性を評価するためにいちいち押出成形実験を行わなくても事前に成形性,加工性を評価することが可能となる。
【0017】請求項2の方法は、剪断速度が前述の式(1)の範囲の特定値における剪断応力を保形性として求めるもので、これによれば練土の保形性をより精度高く求めることができる。
【0018】請求項3の方法は、剪断速度が前述の式(2)の範囲における剪断応力の変化勾配を流動性として求めるもので、これによれば、練土の流動性をより精度高く求めることができる。
【0019】ところで上記毛細管型粘度計は従来プラスチック材料(溶融ポリマー)の粘度の測定に用いられている。しかしながら溶融ポリマーは均一系と考えられるのに対し、練土は水と粘土等との混合物であり、従って練土に圧力をかけると圧搾による水の搾り出し現象がおき、水と粘土等固形分が分離する現象を起してしまい、測定中に練土自体の状態が変化してしまう。従って練土自体の状態の変化を抑制するようにして測定を行うことが、可塑性を正しく求める上において必要である。
【0020】而して請求項4に従ってピストンをシリンダ室に押し込む際の押込速度を高速側から低速側に変化させて押出速度を変化させ、そして押出速度ごとに押出口(キャピラリー)から出てくる練土の状態とそのときの含水率を測定し、搾り出し現象の有無を判断したところ、圧搾による水の搾り出し現象、即ち測定中の練土自体の状態変化を良好に抑制できることを確認した。従って請求項3の方法に従って練土の可塑性を測定した場合、より信頼性の高い可塑性の測定値を得ることができる。
【0021】
【実施例】次に本発明の実施例を図面に基づいて以下に詳しく説明する。図1において、10はシリンダ12の内部に形成されたシリンダ室で、そのシリンダ室10の軸方向一端部にキャピラリー14が設けてある。
【0022】16はシリンダ室10への押込みによりシリンダ室10内部に収容した試料18をキャピラリー14を通じて外部に押し出すピストンである。尚20は圧力センサであって、ここではシリンダ室10の末端部の圧力を測定するようになっている。
【0023】本方法では、試料としての練土18をシリンダ室10内に空気が入らないように押し込め、その状態でピストン16をシリンダ室10内に押し込んで練土18をキャピラリー14から押し出す。そのときの押出圧力をシリンダ室10の出口にある圧力センサ20で測定する。
【0024】このときの測定押出圧力をP,押出流量をQとすると見掛けの剪断応力τw,見掛けの剪断速度γwは次のようになる(式(3),式(4))。
τw=Pr/2L ・・・(3)
γw=4Q/πr3・・・(4)
但しLはキャピラリー長であり、rはキャピラリー半径である。
【0025】ところでこの毛細管型粘度計の場合、シリンダ室10出口からキャピラリー14入口にかけての部分で圧力損失を生じるために、実際の測定押出圧力Pと実際にキャピラリー14内部に作用する圧力とでは等しくならない。
【0026】これに起因してキャピラリー寸法、例えばキャピラリー長を変えて測定を行うと、各キャピラリー長ごとにτwはそれぞれ異なった値となる。
【0027】そこで本方法では、その圧力損失分だけキャピラリー管長補正し、剪断応力の値を補正する。この補正は次のようにして行う。即ち、図2(A)に示しているようにキャピラリー寸法及び押出流量(剪断速度)を様々に変えてそのときのPを測定し、そして横軸にL/rを、また縦軸にPを取って測定値をプロットし、L/rとPとの関係直線a,b,c,d,eを各剪断速度ごとに求める。尚、剪断速度はa→eにかけて遅→速の関係である。
【0028】このとき、図に示しているように各関係直線a,b,c,d,eと横軸L/rとの交点は一点に収束せず、各々別々の値となる。これら各関係直線a,b,c,d,eと縦軸とのずれは上記圧力損失に起因するものであり、そのずれの大きさは各関係直線a〜eごとに異なったものとなる。即ち剪断速度が変化することによって、そのずれの量Ecは異なった値となる。
【0029】そこで図2(B)に示しているように横軸に剪断速度を、また縦軸にEcを取って剪断速度とEcとの関係を求める。そしてこのようにして求めたEcを補正係数として次式(式(5))により真の剪断応力τを求める。
τ=Pr/2(L+Ec・r)・・・(5)
【0030】この補正は次のような意味を有するものである。即ち上記圧力損失の影響を除くため、見掛け上キャピラリー14がシリンダ室10内部までより深く入り込んだものと考えてキャピラリー長を補正(管長補正)し、これを用いて剪断応力τを求めるのである。
【0031】図3,図4,図5は三種類の練土X,Y,Zについて、各種押出速度及び各種含水率の下で上記毛細管型粘度計を用いて押出試験し、そして剪断速度及び剪断応力τを求めてそれらの関係を表したものである。尚比較のために上記管長補正を施していないものについても併せて示してある。但しここではピストン16をシリンダ室10に押し込むに際して高速側から低速側へと押込速度を変化させつつ押出試験を行った。図中F−Sの記号はこのことを表している。
【0032】図3,図4,図5に示しているように、練土X,Y,Zの何れも補正前においてはキャピラリー長が異なると剪断速度と剪断応力との関係が異なったものとなるのに対して、補正後においてはキャピラリー長の大小に拘らず何れもほぼ同一の曲線に収束して来ることが分かる。尚、図中の35.8mass%,29.2mass%・・・等の数値は練土の含水率を表している。
【0033】さて、練土における可塑性は外力を加えたときの流動性と外力を加えていないときの保形性の2つの特性にて評価することができ、而してその流動性(粘度)は、図6に示しているように高剪断速度域では、剪断速度と剪断応力との関係がほぼ直線的になっており、そのときの直線の勾配として求めることができる。
【0034】また保形性は、剪断速度が実質上ゼロのときの剪断応力の大きさとして求めることができる。但し剪断応力ゼロのときの値は測定上ないし計算上バラツキが大きく、そこで本法では剪断速度が0.76/Sのときの剪断応力をもって保形性とした。
【0035】そして図3,図4,図5の補正後の剪断速度と剪断応力との関係曲線から、各練土X,Y,Zについて上記保形性及び流動性(粘度)を求めたところ、図7R>7及び図8の通りとなった。
【0036】図9は上記のようにして求めた保形性と流動性との関係を各練土X,Y,Zについて表したもので、この図9の結果から各練土X,Y,Zともに保形性と流動性との関係が直線的な関係になっていることが分かる。換言すれば、この方法により各練土について保形性及び流動性を正確に求めることができる。
【0037】そして本測定方法の結果では、練土X及びYについては保形性が大きい割りには粘性が小さく、即ち流動性が高く、可塑性に優れた練土であるということができる。一方練土Zは、保形性が小さい割りに流動性が低く、可塑性に劣った練土であるということができる。
【0038】尚、図10に、ピストン16の押込速度を上記実施例とは逆に低速側から高速側に変化させたときの測定結果を表しているが、この結果では、ピストン16の押込速度を高速側から低速側に変化させたときの対応する本実施例の図5のような良好な結果が得られていない。
【0039】このことから、ピストン16の押込速度を高速側から低速側に変化させつつ押出試験を行うことによって、練土の持つ特異性、即ち圧搾による練土中の水の搾り出し現象を抑制でき、水と粘土等との混合物から成る練土をあたかも均一系の材料として扱うことができ、可塑性を正確に求め得ることが分かる。
【0040】以上本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例方法で用いた毛細管型粘度計の図である。
【図2】同実施例において剪断応力を補正する際の補正係数の求め方の説明図である。
【図3】同実施例において練土Xについて得られた剪断速度と剪断応力との関係を表す図である。
【図4】同実施例において練土Yについて得られた剪断速度と剪断応力との関係を表す図である。
【図5】同じ実施例において練土Zについて得られた剪断速度と剪断応力との関係を表す図である。
【図6】図3ないし図5の結果に基づいて練土の保形性と流動性を求める方法の説明図である。
【図7】図3ないし図5の結果に基づいて求めた保形性と練土の含水率との関係を表す図である。
【図8】図3ないし図5の結果に基づいて求めた練土の流動性と含水率との関係を表す図である。
【図9】図7及び図8の結果に基づいて求めた各練土の保形性と流動性との関係を表す図である。
【図10】ピストンの押込速度を低速側から高速側に変化させたときに得られる図5に相当する図である。
【図11】練土の可塑性の従来の測定方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
10 シリンダ室
12 シリンダ
14 キャピラリー
16 ピストン
18 試料(練土)
20 圧力センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ室と、該シリンダ室の軸方向一端側に設けたキャピラリーと、該シリンダ室に収容した材料に圧力を加え、該キャピラリーを通じて外部に押し出すピストンとを有する毛細管型粘度計を用いて練土の押出しを行い、その際の測定押出圧力と押出速度及びキャピラリー寸法とにより剪断応力と剪断速度とを求めるに際し、該ピストンにより該シリンダ室を通じて該キャピラリー内に加えられる押出圧力の圧力損失分をキャピラリー管長補正して剪断応力を求め、更に様々に練土の含水率を変化させた下でそれら剪断速度と剪断応力との関係を求めて、高剪断速度域での該剪断速度に対する該剪断応力の変化勾配を流動性として、また剪断速度がゼロないし近傍値での剪断応力を保形性として求め、それら流動性と保形性とにより練土の可塑性を求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【請求項2】 請求項1において、前記剪断速度が下記式(1)の範囲の特定値における剪断応力を前記保形性として求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【数1】
【請求項3】 請求項1,2の何れかにおいて、前記剪断速度が下記式(2)の範囲における剪断応力の変化勾配を前記流動性として求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【数2】
【請求項4】 請求項1,2,3の何れかにおいて、前記ピストンを前記シリンダ室に押し込むに際して、その押込速度を高速側から低速側に変化させて前記押出速度を変化させ、その際の剪断速度の変化と剪断応力の変化とに基づいて前記流動性及び保形性を求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【請求項1】 シリンダ室と、該シリンダ室の軸方向一端側に設けたキャピラリーと、該シリンダ室に収容した材料に圧力を加え、該キャピラリーを通じて外部に押し出すピストンとを有する毛細管型粘度計を用いて練土の押出しを行い、その際の測定押出圧力と押出速度及びキャピラリー寸法とにより剪断応力と剪断速度とを求めるに際し、該ピストンにより該シリンダ室を通じて該キャピラリー内に加えられる押出圧力の圧力損失分をキャピラリー管長補正して剪断応力を求め、更に様々に練土の含水率を変化させた下でそれら剪断速度と剪断応力との関係を求めて、高剪断速度域での該剪断速度に対する該剪断応力の変化勾配を流動性として、また剪断速度がゼロないし近傍値での剪断応力を保形性として求め、それら流動性と保形性とにより練土の可塑性を求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【請求項2】 請求項1において、前記剪断速度が下記式(1)の範囲の特定値における剪断応力を前記保形性として求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【数1】
【請求項3】 請求項1,2の何れかにおいて、前記剪断速度が下記式(2)の範囲における剪断応力の変化勾配を前記流動性として求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【数2】
【請求項4】 請求項1,2,3の何れかにおいて、前記ピストンを前記シリンダ室に押し込むに際して、その押込速度を高速側から低速側に変化させて前記押出速度を変化させ、その際の剪断速度の変化と剪断応力の変化とに基づいて前記流動性及び保形性を求めることを特徴とする練土の可塑性測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【特許番号】特許第3089296号(P3089296)
【登録日】平成12年7月21日(2000.7.21)
【発行日】平成12年9月18日(2000.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−268177
【出願日】平成9年9月12日(1997.9.12)
【公開番号】特開平11−94725
【公開日】平成11年4月9日(1999.4.9)
【審査請求日】平成10年2月17日(1998.2.17)
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【識別番号】220000334
【氏名又は名称】 220000334 工業技術院名古屋工業技術研究所長
【参考文献】
【文献】特開 平6−218288(JP,A)
【文献】実開 平2−20147(JP,U)
【文献】芝崎靖雄,“練土(粘土)の可塑性の測定とその解析”,粘土科学,日本粘土学会,1984年,第24巻,第2号,pp.47−55
【登録日】平成12年7月21日(2000.7.21)
【発行日】平成12年9月18日(2000.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成9年9月12日(1997.9.12)
【公開番号】特開平11−94725
【公開日】平成11年4月9日(1999.4.9)
【審査請求日】平成10年2月17日(1998.2.17)
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【識別番号】220000334
【氏名又は名称】 220000334 工業技術院名古屋工業技術研究所長
【参考文献】
【文献】特開 平6−218288(JP,A)
【文献】実開 平2−20147(JP,U)
【文献】芝崎靖雄,“練土(粘土)の可塑性の測定とその解析”,粘土科学,日本粘土学会,1984年,第24巻,第2号,pp.47−55
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