説明

繊維処理剤

【課題】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張により熱可塑性繊維布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤であって、膨張済みマイクロカプセルの除去性が良好で、外観品位に優れた布帛を得ることが可能な繊維処理剤を提供する。
【解決手段】
熱膨張性マイクロカプセルと、水溶性バインダーと、水性媒体とを少なくとも含んでなり、熱可塑性繊維布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤であって、粒子径が10μm未満の熱膨張性マイクロカプセルの個数の割合が全個数に対して10%未満であることを特徴とする繊維処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛に立体模様を形成する方法として、所望の模様が彫刻された押型を布帛に押し当てるエンボス加工や、薬剤により繊維を部分的に除去するオパール加工などが知られているが、これらは、加工に特別な装置、あるいは、有害な薬剤を必要とするという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、近年、熱可塑性繊維布帛に、熱膨張性マイクロカプセル(発泡性マイクロカプセルともいう)を含む組成物を付与した後、熱処理によりマイクロカプセルを膨張させ、次いで洗浄処理により組成物を除去する方法が提案されている(特許文献1および2)。この方法によれば、組成物中のマイクロカプセルが膨張することにより、組成物が付与された部分の糸条の間隔を変化させ、布帛の表面に立体模様を浮き出させることができる。しかも、特別な装置や有害な薬剤を必要とせず、処理操作も簡単である。しかしながら、布帛によっては、特に糸条間の空隙が少なく緻密な布帛においては、膨張済みのマイクロカプセルが残留するという問題があった。これは、未膨張の体積の小さなマイクロカプセルが糸条と糸条の間に入り込み、その後、熱処理により膨張して体積を増すことにより、洗浄処理により除去されにくくなってしまうためである。膨張済みマイクロカプセルが布帛に残留すると、マイクロカプセルが粒状に白く見え、外観品位が損なわれるという問題や、マイクロカプセルが熱や光により経時的に変色し、外観品位がさらに悪化するという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2007−56432号公報
【特許文献2】特開2007−100255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであり、熱膨張性マイクロカプセルの膨張により熱可塑性繊維布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤であって、膨張済みマイクロカプセルの除去性が良好で、外観品位に優れた布帛を得ることが可能な繊維処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱膨張性マイクロカプセルと、水溶性バインダーと、水性媒体とを少なくとも含んでなり、熱可塑性繊維布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤であって、粒子径が10μm未満の熱膨張性マイクロカプセルの個数の割合が全個数に対して10%未満であることを特徴とする繊維処理剤である。
前記繊維処理剤において、水溶性バインダーはカルボキシメチルセルロースおよび/またはアルギン酸ソーダであることが好ましい。
また、熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は75〜160℃であることが好ましい。
【0007】
本発明の別の態様によれば、前記繊維処理剤を熱可塑性繊維布帛の少なくとも一面に部分的に付与した後、熱処理により熱膨張性マイクロカプセルを膨張させ、次いで洗浄処理により繊維処理剤を除去することを特徴とする、立体模様を有する布帛の製造方法が提供される。
前記方法において、熱可塑性繊維布帛はポリエステルを主体として構成される布帛であることが好ましい。
また、熱可塑性繊維布帛のカバーファクターは800〜2800であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維処理剤によれば、立体模様を有し、外観品位に優れた布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維処理剤は、熱膨張性マイクロカプセルと、水溶性バインダーと、水性媒体とを少なくとも含んでなり、熱可塑性繊維布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤であって、粒子径が10μm未満の熱膨張性マイクロカプセルの個数の割合が全個数に対して10%未満であることを特徴とする。また、本発明の繊維処理剤を用いて布帛を処理し、立体模様を有する布帛を製造する方法としては、繊維処理剤を熱可塑性繊維布帛の少なくとも一面に部分的に付与した後、熱処理により熱膨張性マイクロカプセルを膨張させ、次いで洗浄処理により繊維処理剤を除去する、というものである。
【0010】
本発明において用いられる熱膨張性マイクロカプセルは、外殻と、これに内包される発泡剤とからなり、加熱などにより膨張する性質のものである。
【0011】
外殻は、加熱により軟化し、かつ、ガス透過性の低い熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル系重合体、アクリル系重合体などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、環境負荷が少ないという理由から、アクリル系重合体が好ましい。アクリル系重合体としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどの単独重合体や共重合体、または酢酸ビニルなど他の化合物との共重合体などを挙げることができる。
【0012】
発泡剤は、外殻を構成する熱可塑性樹脂の軟化点(一般的には90〜150℃)以下の沸点を有する物質である限り、特に限定されない。例えば、炭素数1〜12の炭化水素およびそれらのハロゲン化物、含弗素化合物、テトラアルキルシラン、アゾジカルボンアミドなどの加熱により相変化または熱分解してガスを生成する化合物などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、汎用性の観点から、炭素数1〜12の炭化水素が好ましい。
かかる炭化水素としては、例えば、プロパン、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ネオヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、シクロヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタン、シクロオクタンなどの直鎖状、分岐状または環状アルカンや、石油の低沸点留分の1種である石油エーテル(ノルマルペンタンを主成分とする混合物)などを挙げることができる。
【0013】
本発明において用いられる熱膨張性マイクロカプセルは、上記発泡剤を、常法にて、例えば、特公昭42−26524号公報に記載の方法(重合性単量体を発泡剤および重合開始剤と混合し、この混合物を、必要により乳化分散助剤を含む水性媒体中で懸濁重合させる)にて、マイクロカプセル化したものである。
【0014】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、75〜160℃であることが好ましく、100〜145℃であることがより好ましい。膨張開始温度が75℃未満であると、賦型性が悪く、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞がある。膨張開始温度が160℃を超えると、布帛の風合いが粗硬になる虞がある。
【0015】
このような熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、松本油脂製薬株式会社より「マツモトマイクロスフェア」として、積水化学工業株式会社より「アドバンセル」として、株式会社クレハより「クレハマイクロスフェアー」として、あるいはアクゾノーベル株式会社より「エクスパンセルマイクロスフェア」として入手可能である。
【0016】
ここで、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。粒子径が10μm未満であると、膨張済みマイクロカプセルの除去性が悪く、布帛の外観品位が損なわれる虞がある。粒子径が10μm未満の熱膨張性マイクロカプセルは、10μmのふるいを用いて選別することにより、その多くを除去することができる。
【0017】
そして、粒子径が10μm未満の熱膨張性マイクロカプセルの個数の割合が全個数に対して10%未満であることが求められ、さらには5%未満であることが好ましい。この割合が10%を超えると、膨張済みマイクロカプセルの除去性が悪く、布帛の外観品位が損なわれる。
【0018】
また、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径は、80μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。粒子径が80μmを超えると、分散性が悪く、繊維処理剤の経時安定性が低下したり、繊維処理剤を布帛に付与する際に好ましく用いられるスクリーンメッシュが目詰まりを起こしたりする結果、連続加工性が悪くなる虞がある。粒子径が80μmを超える熱膨張性マイクロカプセルは、80μmのふるいを用いて選別することにより、除去することができる。
【0019】
熱膨張性マイクロカプセルの数平均粒子径は、10〜45μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。数平均粒子径が10μm未満であると、膨張済みマイクロカプセルの除去性が悪く、布帛の外観品位が損なわれる虞がある。数平均粒子径が45μmを超えると、立体模様の細やかな表現が困難となる虞がある。
【0020】
なお、粒子径分布および数平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(LA−920、株式会社堀場製作所製)を用いて測定することができる。
【0021】
熱膨張性マイクロカプセルの含有量は、繊維処理剤全量に対して3〜30重量%であることが好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。含有量が3重量%未満であると、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞がある。含有量が30重量%を超えると、繊維処理剤を布帛に付与する際に好ましく用いられるスクリーンメッシュが目詰まりを起こし、連続加工性が悪くなる虞がある。
【0022】
本発明において水溶性バインダーは、熱膨張性マイクロカプセルを布帛に付着させるために用いられる。水溶性バインダーとしては、例えば、デンプンまたはその誘導体;カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体;アルギン酸ソーダ、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩;グアーガム、アラビアガム、タマリンドガム、ローカストビーンゴム、ブリティッシュガム等の天然ガム類;ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の合成樹脂などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、除去性の観点から、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダが好ましい。
【0023】
水溶性バインダーの含有量は、繊維処理剤全量に対して2〜60重量%であることが好ましく、6〜20重量%であることがより好ましい。含有量が2重量%未満であると、十分量の熱膨張性マイクロカプセルを布帛に付着させることができず、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞がある。含有量が60重量%を超えると、熱膨張性マイクロカプセルの膨張が阻害され、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞がある。
【0024】
本発明の繊維処理剤は、以上に説明した熱膨張性マイクロカプセルおよび水溶性バインダーの他、溶媒あるいは分散媒として水性媒体を含んでなる。水性媒体としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等の水や、グリコールエーテル類、アルキルジオール類、多価アルコール類等の水溶性有機溶剤などを挙げることができる。さらに、長期保存性が求められない場合には、水道水や地下水、工業用水などを用いることもできる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。水性媒体の含有量は、繊維処理剤全量を100重量%にする量である。
【0025】
さらに、本発明の繊維処理剤は、必要に応じて、界面活性剤や着色剤(染料、顔料)などの添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0026】
本発明の繊維処理剤は、常法により、例えば、水溶性バインダー(必要に応じて水性媒体の一部に溶解しておく)に熱膨張性マイクロカプセルを添加し、攪拌混合後、水性媒体を添加し、攪拌混合することにより調製することができる。着色剤などの添加剤を用いる場合には、水性媒体にあらかじめ溶解または分散しておくとよい。
【0027】
繊維処理剤の25℃における粘度は、5000〜20000cpsであることが好ましく、8000〜12000cpsであることがより好ましい。粘度が5000cps未満であると、立体模様の細やかな表現が困難となる虞がある。粘度が20000cpsを超えると、繊維処理剤を布帛に均一に付与することが困難となり、連続加工性が悪くなる虞がある。繊維処理剤の粘度は、水溶性バインダーの含有量により調整することができる。
【0028】
次に、本発明の繊維処理剤によって処理される熱可塑性繊維布帛について説明する。
布帛の形態は、織物、編物、不織布など特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択すればよい。また、布帛の組織や、立毛の有無も特に限定されない。
【0029】
布帛を構成する繊維の素材は、賦型性の観点から、熱可塑性繊維を含むことが求められる。熱可塑性繊維としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル、ビニロン、ポリウレタン等の合成繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、強度や耐久性の観点から、合成繊維がより好ましく、ポリエステルがさらに好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。本発明において、布帛は、熱可塑性繊維を主体として構成されるものが好ましいが、賦型性に影響を及ぼさない範囲内で、熱可塑性繊維以外の繊維、例えば、天然繊維、再生繊維などの繊維を混紡、混繊、交撚、交織、交編などの手法により組み合わせたものであっても構わない。
【0030】
布帛が織物または編物である場合、糸条の形態は、紡績糸(短繊維糸)、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸(以上、長繊維糸)のいずれであってもよく、さらには長繊維と短繊維を組み合わせた長短複合紡績糸であってもよい。マルチフィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体撹乱処理などの加工を施してもよい。
【0031】
糸条の繊度(単糸繊度に対して、総繊度という場合もある)は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択すればよいが、22〜1100dtexであることが好ましく、55〜550dtexであることがより好ましい。繊度が22dtex未満であると、布帛の強度や耐久性が悪くなる虞がある。繊度が1100dtexを超えると、布帛の風合いが粗硬になる虞がある。
【0032】
糸条の単糸繊度は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択すればよいが、0.06〜33dtexであることが好ましく、0.1〜5dtexであることがより好ましい。単糸繊度が0.06dtex未満であると、布帛の強度や耐久性が悪くなる虞がある。単糸繊度が33dtexを超えると、賦型性が悪く、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞や、布帛の風合いが粗硬になる虞がある。
【0033】
布帛が織物である場合、布帛の緻密性は、通常、カバーファクターを指標として表すことができる。カバーファクターが大きいほど、緻密であることを意味する。布帛が織物である場合のカバーファクターは、800〜2800であることが好ましい。カバーファクターが800未満であると、ハリ・コシ感の乏しい風合いとなる虞がある。カバーファクターが2800を超えると、膨張済みマイクロカプセルの除去性が悪く、布帛の外観品位が損なわれる虞や、布帛の風合いが粗硬になる虞がある。さらに、カバーファクターが1500〜2800であると、膨張済みマイクロカプセルの除去性が良好であるという本発明の効果をより有効に発揮させることができ、好ましい。
カバーファクター(CF)は、以下の式によって算出することができる。
CF=X×D10.5+Y×D20.5
X :経糸の密度(本/2.54cm)
D1:経糸の繊度(dtex)
Y :緯糸の密度(本/2.54cm)
D2:緯糸の繊度(dtex)
【0034】
また、本発明においては、布帛が編物である場合のカバーファクター(CF)を、特開2008−202204号公報にならい、次のように定義した。
CF=(X×2+Y)×D0.5
X:ウェル密度(ウェル数/2.54cm)
Y:コース密度(コース数/2.54cm)
D:糸の繊度(dtex)
布帛が織物である場合と同様、布帛が編物である場合のカバーファクターも、800〜2800であることが好ましく、1500〜2800であることがより好ましい。
【0035】
かかる布帛は、必要に応じて、精練や染色などの処理が施されていてもよい。
【0036】
次に、本発明の繊維処理剤を用いて布帛を処理し、立体模様を有する布帛を製造する方法について説明する。
【0037】
まず、本発明の繊維処理剤を、熱可塑性繊維布帛の少なくとも一面に部分的に付与する。部分的とは、所望の模様(柄)をもたらす形状であることを意味する。例えば、ランダムな点、線、丸形、三角形、四角形、点線などを単独または組み合わせた幾何学模様、自由な発想によるキャラクター柄の表現が可能である。
【0038】
付与方法としては、例えば、グラビア法や、スプレー法、さらに捺染の手法を利用したフラットスクリーン法やロータリースクリーン法、インクジェット法などを挙げることができる。なかでも、付与量のコントロールが容易である、任意の模様を形成することができる、連続加工性が良好である、などの理由から、フラットスクリーン法やロータリースクリーン法が好ましい。
【0039】
布帛に対する繊維処理剤の付与量は、形成する模様によっても異なるが、繊維処理剤全量として、10〜500g/mであることが好ましく、50〜300g/mであることがより好ましい。ここで、付与量とは、繊維処理剤が付与された部分の平均付与量を表し、繊維処理剤が付与されていない部分は考慮しないものとする。付与量が10g/m未満であると、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞がある。付与量が500g/mを超えると、工程負荷が大きくなったり、コストが高くなったりする虞がある。
【0040】
次いで、熱処理により熱膨張性マイクロカプセルを膨張させる。熱処理は、乾熱処理または湿熱処理のいずれであってもよく、またこれらを組み合わせたものであっても構わない。なかでも、熱膨張性マイクロカプセルを均一に膨張させることができるという観点から、乾熱処理が好ましい。
【0041】
熱処理温度は、熱可塑性繊維の種類に応じて選択した熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度(好ましくは75〜160℃、より好ましくは100〜145℃)や、所望の立体模様の形状によって適宜設定すればよい。例えば、熱可塑性繊維としてポリエステル繊維を用いた場合には、130〜200℃であることが好ましく、160〜200℃であることがより好ましい。また、熱処理時間は、1〜7分間であることが好ましく、2〜5分間であることがより好ましい。熱処理温度または時間が下限値未満であると、賦型性が悪く、布帛に明瞭な立体模様を形成することが困難となる虞がある。熱処理温度または時間が上限値を超えると、水溶性バインダーや熱膨張性マイクロカプセルの外殻が溶融または軟化して布帛に密着することにより除去性が悪くなり、布帛の外観品位が損なわれたり、風合いが粗硬になったりする虞がある。
【0042】
熱処理には、ループ式スチーマー、ループ式乾燥機、シリンダー乾燥機、ノンタッチドライヤー、ネット式ドライヤー、タンブラー乾燥機、オーブン、テンター、ピンテンターなど従来公知の装置を用いることができる。なかでも、布帛に張力がかかりにくく、立体模様の形成が容易なループ式スチーマー、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、タンブラー乾燥機、テンターなどが好ましい。
【0043】
熱処理により繊維処理剤に含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張する際、熱膨張性マイクロカプセルは、より膨張しやすい方向へと膨張する。例えば、起毛処理などが施されておらず、平坦で緻密な表面を有する布帛の場合、布帛表面に存在する熱膨張性マイクロカプセルは、布帛の方向に膨張するよりも、抵抗のない、布帛とは反対の方向(布帛表面の空間)へと膨張しようとする。このとき、繊維処理剤と接触している布帛も熱膨張性マイクロカプセルが膨張する方向に引っ張られるため、布帛表面には凸状の立体模様が形成される。
一方、起毛処理などにより形成された立毛を有する布帛の場合、熱膨張性マイクロカプセルは、立毛と立毛の空隙部で膨張する。このとき、熱膨張性マイクロカプセルの膨張による圧力によって、立毛と立毛の空隙が広げられたり、立毛が押し込まれたりするため、布帛表面には凹状の立体模様が形成される。
【0044】
なお、上記熱処理に先立ち、乾燥により、繊維処理液中の水性媒体を予め除去しておくことが好ましい。これにより、熱膨張性マイクロカプセルを均一に膨張させることができる。乾燥のための熱処理は、熱膨張性マイクロカプセルが膨張しない条件、例えば、100〜120℃で1〜10分間行えばよい。
【0045】
次いで、洗浄処理により繊維処理剤を除去する。洗浄は、20〜100℃、好ましくは60〜80℃の水中で、5〜20分間、好ましくは10〜20分間処理すればよい。洗浄液(水)には、洗浄効果を高めるため、必要に応じて、苛性ソーダ、ソーダ灰、トリポリリン酸ナトリウムなどのアルカリ剤や、ハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素などの還元剤、洗浄用の界面活性剤を添加してもよい。
【0046】
洗浄処理には、従来公知の洗浄装置や染色機を用いることができる。
【0047】
次いで、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、タンブラー乾燥機、オーブン、テンター、ピンテンターなど従来公知の装置を用いて80〜130℃で乾燥し、さらにピンテンターを用いて120〜150℃で仕上げセットを行うとよい。
【0048】
かくして、立体模様を有し、外観品位に優れた布帛を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の「熱処理」は、特に断りのない限り、乾熱処理である。
【0050】
1.繊維処理剤の調製
表1に示す処方の実施例1および比較例1の繊維処理剤を調製した。
【0051】
【表1】

【0052】
2.布帛の準備
(1)ジャガード織物
ジャガード織機を用い、経糸に200dtex/156fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸と、167dtex/36fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を交互に用い、緯糸に160dtex/36fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を用いて、経糸密度160本/2.54cm、緯糸密度100本/2.54cmのジャガード織物の生機を製織した。
得られた生機を、液流染色機を用い黒色の分散染料にて130℃で染色した後、ピンテンターを用いて150℃で3分間熱処理して乾燥および仕上げセットを行った。こうして得られた経糸密度170本/2.54cm、緯糸密度108本/2.54cm、カバーファクター1278のジャガード織物を、繊維処理剤による処理に供した。
【0053】
(2)起毛トリコット編物
28ゲージで3枚の筬を有するトリコット編機を用い、筬L3(フロント)に167dtex/288fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を、筬L2(ミドル)に56dtex/24fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を、L1(バック)に84dtex/48fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸をそれぞれフルセットで導糸し、筬L3は1−0/4−5、筬L2は1−0/1−2、筬L1は1−0/2−3の組織で、編機上の密度が67コース/2.54cmのトリコット編物の生機を編成した。
得られた生機を、液流染色機を用い黒色の分散染料にて130℃で染色した後、ピンテンターを用いて150℃で3分間熱処理して乾燥した。次いで、パイル針布ローラー24本、カウンターパイル針布ローラー24本を有する針布起毛機を用いて、針布ローラートルク2Mpa、布速15m/分にて編終わり方向からと編始め方向からの起毛を交互に12回行った後、ピンテンターを用いて150℃で1分間熱処理して仕上げセットを行った。こうして得られた62ウェル/2.54cm、37コース/2.54cm、カバーファクター1758の起毛トリコット編物を、繊維処理剤による処理に供した。
【0054】
3.繊維処理剤による布帛の処理
表1に示す繊維処理剤を、前述の布帛の一面の所定の位置に、バイヤス柄のロータリースクリーン(60メッシュ、240μm)を用いて付与した。布帛に対する繊維処理剤の付与量(水性媒体を含む繊維処理剤全量)は200g/mであった。
次いで、テンターを用いて120℃で5分間熱処理して乾燥した後、ループ式スチーマーを用いて180℃で7分間熱処理して熱膨張性マイクロカプセルを膨張させた。
次いで、液流染色機を用いて下記処方の洗浄液にて75℃で15分間処理し、さらに常温で水洗した。
次いで、ループ式乾燥機を用いて130℃で5分間熱処理して乾燥した後、ピンテンターを用いて150℃で3分間熱処理して仕上げセットを行った。
【0055】
<洗浄液処方>
48重量%苛性ソーダ 2g/l
ハイドロサルファイト 1g/l
界面活性剤 1g/l
水 残
【0056】
4.評価試験
繊維処理剤で処理した布帛を用いて、以下の項目を評価した。結果は、表2(ジャガード織物)および表3(起毛トリコット編物)に示される通りであった。
【0057】
(1)連続加工性
加工開始時と30m加工時の布帛を目視にて観察し、立体模様の柄感(ラインの太さ、ドットの大きさなど)について、下記の基準に従って評価した。
○:加工開始時と30m加工時の柄感に差がない
△:加工開始時と30m加工時の柄感にやや差がある
×:加工開始時と30m加工時の柄感に明らかな差がある
【0058】
(2)立体模様の明瞭さ
目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
○:明瞭な立体模様が形成されている
△:立体模様が形成されているが、やや明瞭さに欠ける
×:立体模様がほとんど形成されていない
【0059】
(3)膨張済みマイクロカプセルの除去性
目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
○:膨張済みマイクロカプセルの残留がない
△:膨張済みマイクロカプセルの残留が1〜2箇所ある
×:膨張済みマイクロカプセルの残留が3箇所以上ある
【0060】
(4)耐熱性(熱による変色)
幅70mm、長さ65mmに裁断した試験片を広口試薬瓶(共栓付250ml瓶、硬質ガラス製)の中に入れ、110℃の乾燥機に400時間放置して熱処理した。熱処理後、広口試薬瓶を乾燥機から取り出し室温まで冷却した後、試験片を広口試薬瓶から取り出した。熱処理前後の試験片を目視にて観察し、熱処理後の試験片について、JIS L−0804規格のグレイスケール(gray scale)を用いて等級付けし、下記の基準に従って評価した。
○:4級以上
△:3級以上4級未満
×:3級未満
【0061】
(5)耐光堅牢度
幅65mm、長さ150mmに裁断した試験片を、同じ大きさで10mm厚のスラブウレタンフォームに重ね合わせた状態で、キセノンランプ(水冷式6.5kw)を備えた高温耐光堅牢度試験機:Ci35W型(アトラス社製)を用いて、下記条件にて試験を行った。
明サイクル 暗サイクル
照射総量 750kJ/m
照度強度 0.55W/m
ブラックパネル温度 89±3℃ 38±3℃
相対湿度 50±5% 95±5%
サイクル時間 3.8hr 1.0hr
照射前後の試験片を目視にて観察し、照射後の試験片について、JIS L−0804規格のグレイスケール(gray scale)を用いて等級付けし、下記の基準に従って評価した。
○:3級以上
△:2級以上3級未満
×:2級未満
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性マイクロカプセルと、水溶性バインダーと、水性媒体とを少なくとも含んでなり、熱可塑性繊維布帛に立体模様を形成するための繊維処理剤であって、粒子径が10μm未満の熱膨張性マイクロカプセルの個数の割合が全個数に対して10%未満であることを特徴とする繊維処理剤。
【請求項2】
水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースおよび/またはアルギン酸ソーダであることを特徴とする、請求項1に記載の繊維処理剤。
【請求項3】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が75〜160℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維処理剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維処理剤を熱可塑性繊維布帛の少なくとも一面に部分的に付与した後、熱処理により熱膨張性マイクロカプセルを膨張させ、次いで洗浄処理により繊維処理剤を除去することを特徴とする、立体模様を有する布帛の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性繊維布帛がポリエステルを主体として構成される布帛であることを特徴とする、請求項4に記載の立体模様を有する布帛の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性繊維布帛のカバーファクターが800〜2800であることを特徴とする、請求項4または5に記載の立体模様を有する布帛の製造方法。

【公開番号】特開2010−138505(P2010−138505A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314012(P2008−314012)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】