説明

耐放射線ケーブル

【課題】 外径がφ5mmを超えるような大径のケーブルであっても、可撓性が良好で、安価な耐放射線ケーブルを提供するものである。
【解決手段】 本発明に係る耐放射線ケーブル10は、10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体11の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆12を有する線芯13を複数本撚り合わせて撚線部14を形成し、その撚線部14の周りに金属製の編組線で構成される外装19を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10MGy以上の放射線に曝される環境下で使用される耐放射線ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質を構成する原子の原子核に、高エネルギーの陽子ビームをぶつけると、原子核が砕けて、中性子、陽子、π中間子、ニュートリノ、ミューオン等の二次粒子が発生する。このような方法で生成した強力な中性子(neutron)ビームを用いて、核変換法により半減期の長い長寿命核を短寿命化して放射性廃棄物を処理したり、タンパク質や酵素の未知の微細構造を解明し医薬品や食品の開発に利用しようとする計画がある。
【0003】
この計画の中核施設として、大強度、かつ、高エネルギーの陽子ビームを生成するための陽子加速器がある。この陽子加速器は、通常、線形加速器(リニアック)とシンクロトロンとで構成される。
【0004】
シンクロトロンにおいては、陽子を加速するために、陽子の通路である管状のビームダクト内を真空状態にする必要がある。この真空排気手段として、真空ポンプ、特に、清浄で高い真空度が得られるターボ分子ポンプ(以下、TMPという)が使用される。TMPは、例えば、図5に示すように、TMP本体51、TMPコントローラ52、TMP中継器53、コネクタボックス部54を備えている。TMPコントローラ52とTMP中継器53、及びTMPコントローラ52とコネクタボックス部54は、それぞれ接続ケーブル55a,55bを介して接続される。また、TMP本体51とTMP中継器53、及びTMP本体51とコネクタボックス部54は、それぞれ接続ケーブル56a,56bを介して接続される。接続ケーブル56a,56bの各線芯群(図示せず)は、それぞれTMP本体51の内部配線における各線芯群58a,58bと電気的に接続される。TMP本体51及び接続ケーブル56a,56bは、遮蔽壁57で囲まれたシンクロトロン主トンネルの内部(図5中の斜線領域)58に布設される。このシンクロトロン主トンネルの内部58は、放射線領域となっている。
【0005】
接続ケーブル55a,55b及び56a,56bは、導体の周りに絶縁体被覆を有する線芯を複数本撚り合わせた撚線部の周りに、良導体の編組で構成される電磁遮蔽層を設け、その電磁遮蔽層の外側に外装(シース)を設けてなるものである。接続ケーブル55a,55bは、高度の放射線に曝されることがないため高い耐放射線性は要求されず、線芯の絶縁体被覆、ケーブルの外装共にポリエチレン系材料(以下、PEという)で構成される。
【0006】
これに対して、接続ケーブル56a,56bは、高度の放射線に曝されるため高い耐放射線性が要求される。また、接続ケーブル56a,56bには高難燃性が要求される。例えば、高難燃性として、JIS C 3521(IEEE383)に準拠した垂直トレイ燃焼試験に合格することが要求される。さらに、接続ケーブル56a,56bは、燃焼時におけるハロゲンガスやダイオキシンの発生を防ぐべく、ポリ塩化ビニル(PVC)のようにハロゲン元素を含んでいないこと(ハロゲンフリーであること)が重要である。
【0007】
耐放射線性及び耐熱性(難燃性)に優れた同軸ケーブルとして、絶縁体被覆をポリイミドの押出被覆で構成し、シース(外装)をポリイミド又はポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKという)の押出被覆で構成する耐熱・耐放射線性ケーブルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、耐熱性(難燃性)に優れた同軸ケーブルとして、導体上に、PEEKで構成される絶縁体被覆を設けた絶縁電線がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平7−130219号公報
【特許文献2】特開平5−225832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、外径がφ5mmを超えるような大径のケーブルにおいては、ポリイミドやPEEKの押出被覆でシースを形成することが非常に難しいという問題があった。この場合、ポリイミド(又はPEEK)製のテープ材を巻回すことでシースを形成することが可能であるものの、可撓性が劣化し、しかも高コストになるという問題があった。
【0010】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、外径がφ5mmを超えるような大径のケーブルであっても、可撓性が良好で、安価な耐放射線ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく本発明に係る耐放射線ケーブルは、10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆を有する線芯を形成し、その線芯の周りに金属製の編組線で構成される外装(シース)を設けたものである。
【0012】
また、本発明に係る耐放射線ケーブルは、10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆を有する線芯を複数本撚り合わせて撚線部を形成し、その撚線部の周りに金属製の編組線で構成される外装(シース)を設けたものである。
【0013】
さらに、本発明に係る耐放射線ケーブルは、10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆を有する線芯を撚り合わせて対撚線を形成し、少なくとも1本の対撚線を用いて複種類の撚線ユニットを形成し、各撚線ユニットを束ねて撚線部を形成し、その撚線部の周りに金属製の編組線で構成される外装(シース)を設けたものである。
【0014】
ここで、外装(シース)は、ステンレス鋼製の編組線で構成することが好ましい。
【0015】
また、絶縁体被覆を構成するポリエーテルエーテルケトンの比重が1.28以上であることが好ましい。
【0016】
さらに、外装の内側及び/又は撚線部内に、ポリイミド系材料の介在物を設けることが好ましく、より好ましい介在物はアラミド繊維である。
【0017】
また、外装(シース)の周りに、ポリイミド系材料、例えばポリイミドテープ等、又はポリエーテルエーテルケトン系材料、例えばポリエーテルエーテルケトンテープ等で構成される絶縁保護層を設けてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐放射線性、高難燃性、及びハロゲンフリーを満足し、かつ、可撓性の良好な耐放射線ケーブルを得ることができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の好適一実施の形態に係る耐放射線ケーブルの横断面図を図1に示す。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル10は、10MGy以上、好ましくは10〜30MGy未満、より好ましくは10〜20MGyの放射線に曝されるケーブルである。具体的な構成は、導体11の周りにPEEKの絶縁体被覆12を有する線芯13を形成し、その線芯13の周りに良導体の編組で構成される電磁遮蔽層17を設け、その電磁遮蔽層17の周りに金属製の編組線で構成される外装(シース)19を設けたものである。
【0022】
より具体的には、耐放射線ケーブル10は、線芯13を複数本(図1中では3本)撚り合わせてなる撚線本体をポリイミドテープ15で固定した撚線部14を有し、その撚線部14の周りに、順に電磁遮蔽層17、ポリイミドテープで構成される絶縁層18、外装19を設けたものである。また、撚線部14の内側(撚線本体とポリイミドテープ15との空隙)には、ポリイミド系材料の介在物16が設けられる。
【0023】
外装19は、シースであって、電磁遮蔽層ではなく、頑強で、耐食性に優れるステンレス鋼製の編組線で構成されることが好ましい。ステンレス鋼としては、好ましくはSUS316(JIS規格)が、より好ましくは原子力用SUS316材(いわゆるSUS316NG材)が挙げられる。
【0024】
また外装19の周りには、必要に応じ、適宜ポリイミドテープやPEEKテープを巻回し、外装19を絶縁、保護する絶縁保護層を設けるようにしてもよい。外装19、すなわち金属(ステンレス鋼)製編組線は経時劣化等により、表面がささくれ立つおそれがある。しかし、この絶縁保護層を設けることにより、耐放射線ケーブル10のハンドリング時における安全性をより高めることができると共に、外装19から周囲に不要なアース電流が漏洩するのを防止することができる。
【0025】
絶縁体被覆12を構成するPEEKは、以下に示す化学式(1)で表される。
【0026】
【化1】

【0027】
PEEKの比重は結晶化度が高いほど大きくなり、その強度も結晶化度と共に大きくなる。PEEK製の絶縁体被覆12に要求される結晶化度は特に規定するものではないが、比重1.28以上(上限は1.401)が特に好ましい。ここで言う“比重”は、温度23℃で測定した時の比重d23を指している。
【0028】
介在物16を構成する材料としては、ポリイミド系材料の他に、例えばアラミド繊維が挙げられる。可撓性にも優れるアラミド繊維の介在物16を設けることで、耐放射線性ケーブル全体の可撓性を更に高めることができる。
【0029】
電磁遮蔽層17を構成する良導体としては特に限定するものではなく、ケーブルの遮蔽層として通常用いられているものが適用可能であり、例えばSnめっき軟銅線などが挙げられる。
【0030】
導体11は、単線材又は撚線材のいずれであってもよい。導体11の構成材としては、特に限定するものではなく、電力供給線又は信号供給線用の導体として通常用いられているものが適用可能であり、Niめっき軟銅線、Agめっき軟銅線、Snめっき軟銅線などが挙げられる。
【0031】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0032】
PEEKは、耐熱性に優れたハロゲンフリーの材料であると共に、耐放射線性にも優れた材料である。ここで、PEEKと同じような特性を有する材料に、ポリイミドがある。ところが、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル10においては、導体11の周りに設ける絶縁体被覆12の構成材として、ポリイミドではなくPEEKを採用している。その理由を以下に述べる。
【0033】
PEEKの吸収線量と引張強度、吸収線量と伸びとの関係を図3に、ポリイミドの吸収線量と引張強度、吸収線量と伸びとの関係を図4に示す(参考文献:「リザルツ オブ ラディエーション テスツ アット クライアジェニック テンパラチャ オン サム セレクテッド オーガニック マテリアルズ フォー ザ LHC(Results of radiation tests at cryogenic temperature on some selected organic materials for the LHC)」,ヨーロピアン オーガニゼーション フォー ニュークリア リサーチ(EUROPEAN ORGANIZATION FOR NUCLEAR RESEARCH(CERN)),1996年7月4日,96-05,p.16-18)。
【0034】
図4に示すように、ポリイミドは、室温、吸収線量が0〜50MGyの範囲の時、引張強度(図4中では黒丸印を結んだ線41)が約130〜180MPa、伸び(図4中では■印を結んだ線42)が約9〜30%である。また、ポリイミドは、77K、吸収線量が0〜120MGyの範囲の時、引張強度(図4中では○印を結んだ線43)が約170〜280MPa、伸び(図4中では□印を結んだ線44)が約5〜10強%である。
【0035】
また、図3に示すように、PEEKは、室温、吸収線量が0〜50MGyの範囲の時、引張強度(図3中では黒丸印を結んだ線31)が約40〜100MPa、伸び(図3中では■印を結んだ線32)が約0.8〜160%である。また、PEEKは、77K、吸収線量が0〜120MGyの範囲の時、引張強度(図3中では○印を結んだ線33)が約130〜180MPa、伸び(図3中では□印を結んだ線34)が約5〜8%である。
【0036】
図3,図4からわかるように、77K、吸収線量が0〜120MGyの範囲において、ポリイミド及びPEEKの引張強度、伸びはそれぞれ略同じである。ところが、室温、吸収線量が0〜20MGyの範囲においては、ポリイミドの方がPEEKよりも引張強度が高く、逆に、伸びはPEEKの方がポリイミドよりも大きくなっている。つまり、室温、かつ、吸収線量0〜20MGyの使用環境下では、PEEK絶縁体被覆の方がポリイミド絶縁体被覆よりも伸びが良好であり、PEEKの伸びは約20〜160%である。よって、PEEK絶縁体被覆を有する電線は、ポリイミド絶縁体被覆を有する電線と比べ、屈曲を伴う布設、取り廻し時におけるハンドリング性が良好となる。
【0037】
また、絶縁電線の曲率部において、絶縁体被覆の伸びが大きい方が、屈曲時に絶縁層に割れやヒビなどが生じにくく、耐屈曲性が良好となる。放射線照射後の絶縁電線に要求される伸び率の規定はないが、UL1581規格ではETFE絶縁電線に対して加熱後の伸び率75%以上を要求しており、また、伸び率が50%以上であれば外径の2倍程度に線材を丸めても計算上割れが生じないとされている。さらに、絶縁電線の製造工程において、通常の押出加工を用いて導体に樹脂製の絶縁体被覆を被せる際、少なくとも50%程度の伸び率が必要とされる。ここで、PEEKの放射線照射後の耐屈曲性(伸び)は、PEEKの比重によって変化するものであり、比重1.28以上のPEEKを用いることで大きく向上する。比重1.28以上のPEEKが好ましいのは、引張強度、カットスルー強度、及びAC絶縁破壊電圧のいずれの特性もが、比重1.28の時に大きく変化し、各特性が大幅に向上するためである。よって、比重1.28以上のPEEKを用いることで、耐放射線性、耐屈曲性、及び難燃性が更に向上する。具体的には、比重が1.28未満のPEEKの場合、図3に示したように、吸収線量10〜20MGyの範囲で、伸び率が約50%未満となってしまうが、比重が1.28以上のPEEKを用いた場合、吸収線量30MGy以下の範囲で、50%以上の伸び率を確保することができる。
【0038】
以上より、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル10では、絶縁体被覆12をPEEK、好ましくは比重が1.28以上のPEEKで構成している。
【0039】
また、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル10によれば、外装(シース)19の構成材を金属としていることから、吸収線量10MGy以上を超えるような高度の放射線環境下においても、耐放射線性が良好である。例えば、外装19の構成材をステンレス鋼とすることで、耐放射線性及び耐食性に優れたケーブルシースを得ることができる。また、外装19をフレキシブルな金属製の編組線で形成していることから、外径がφ5mmを超えるような大径の耐放射線ケーブル10であっても、その可撓性は良好であり、屈曲を伴う布設、取り廻し時におけるハンドリング性は良好である。さらに、外装19により絶縁体被覆12の放射線被曝量を軽減することもできる。
【0040】
以上より、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル10は、絶縁体被覆12をPEEKで構成し、外装19を金属製の編組線で構成したことで、吸収線量が10MGy以上の高度の放射線環境下において、線芯の耐放射線性及び耐屈曲性が高く、高難燃性、ハロゲンフリーが満足され、かつ、ケーブル全体の可撓性も良好となる。
【0041】
本実施の形態に係る耐放射線ケーブル10は、シンクロトロンのターボ分子ポンプ用接続ケーブルとして好適であるが、適用範囲は特にこれに限定するものではない。例えば、吸収線量が10MGy以上の高度の放射線に曝されるケーブル、その他の加速器(例えば、リニアック)、原子力機器、放射線を用いる医療機器などのパワーケーブル、信号ケーブルなどにも適用可能である。また、難燃性及びハロゲンフリーが要求される大径の耐屈曲ケーブルなどにも適用可能である。
【0042】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0043】
本発明の他の好適一実施の形態に係る耐放射線ケーブルの横断面図を図2に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0044】
図2に示すように、本実施の形態に係る耐放射線ケーブル20は、複種類(図2中では4種類)の撚線ユニット23a〜23dを束ねてなるものをポリイミドテープ27で固定して撚線部24を形成し、その撚線部24の周りに、順に電磁遮蔽層17、ポリイミド系材料のテープで構成される絶縁層18、外装(シース)19を設けたものである。
【0045】
撚線部24は、撚線ユニット23a,23b,23cで構成される内層撚線部24aと、撚線ユニット23dで構成される外層撚線部24bとを有する。
【0046】
内層撚線部24aは、一対の撚線ユニット23a、一対の撚線ユニット23b、及び1本の撚線ユニット23cを撚り合わせてなるユニット群をポリイミドテープ26で固定し、このユニット群とポリイミドテープ26との空隙にポリイミド系材料の介在物16を設けてなる。
【0047】
外層撚線部24bは、内層撚線部24aの周りに同心撚りされた12本の撚線ユニット23dの群の周りに、ポリイミドテープで構成される絶縁層27を設け、これらの撚線ユニット23dの群と絶縁層27との空隙にポリイミド系材料の介在物16を設けてなる。
【0048】
各撚線ユニット23aは、図1に示した線芯13を2本撚り合わせてなる対撚線29を4本撚り合わせたユニット本体部の周りに、順にポリイミドテープで構成される絶縁層25、電磁遮蔽層17を設けたものである。このユニット本体部と絶縁層25との空隙には、ポリイミド系材料の介在物16が設けられる。
【0049】
各撚線ユニット23bは、対撚線29を2本撚り合わせたユニット本体部の周りに、順に絶縁層25、電磁遮蔽層17を設けたものである。このユニット本体部と絶縁層25との空隙には、ポリイミド系材料の介在物16が設けられる。
【0050】
撚線ユニット(線芯)23cは、図1に示した線芯13と同様の構成であり、導体21の周りにPEEKの絶縁体被覆22を有するものである。また、各撚線ユニット23dは対撚線29で構成されるものである。
【0051】
本実施の形態では、撚線ユニット23aの線芯数が8本、撚線ユニット23bの線芯数が4本、線芯23cの線芯数が1本、撚線ユニット23dの線芯数が2本の場合について説明を行ったが、線芯数は特にこれに限定するものではなく、必要に応じて適宜選択されるものである。
【0052】
また、本実施の形態では、内層撚線部24aが、1対の撚線ユニット23a、1対の撚線ユニット23b、及び1本の線芯23cで、外層撚線部24bが、12本の撚線ユニット23dで構成される場合について説明を行ったが、ユニットの種類数及び各ユニットの本数は特にこれに限定するものではなく、必要に応じて適宜選択されるものである。
【0053】
本実施の形態に係る耐放射線ケーブル20は、図1に示した前実施の形態に係る耐放射線ケーブル10と比べて更に大径であるものの、外装19を金属製の編組線で構成していることから十分な可撓性を有しており、屈曲を伴う布設、取り廻し時のハンドリング性に優れる。
【0054】
本実施の形態に係る耐放射線ケーブル20においても、前実施の形態に係る耐放射線ケーブル10と同様の作用効果が得られる。
【0055】
以上、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0056】
次に、本発明について実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
外径がφ0.2mmのNiめっき軟銅線を19本撚り合わせてなる導体の周りに、厚さが0.34mmのPEEK(比重:1.28以上)絶縁体被覆を形成し、外径1.68mmのPEEK絶縁電線(線芯)を製作した(試料11)。
【0058】
試料11に対して放射線(γ線)を照射し、耐放射線性の評価を行った。目標吸収線量は10MGy(実際は11.8MGy)、30MGy、50MGy(実際は45.4MGy)の3種類とした。それぞれの吸収線量のγ線を照射した後の試料11について、外観の観察と、耐電圧試験を行った。耐電圧試験は、電気学会技術報告(II部)第139号に準拠して行った。具体的には、試料11をφ34mm(被覆電線外径の20倍)のステンレス鋼製マンドレルに巻き付けた後、1.1kVのAC電圧を5分間流し、絶縁破壊が生じなかったものを良とした。試験電圧は、絶縁体被覆の厚さに応じて決定され、厚さ1mm当たり3.2kV、つまり3.2kV×[0.34mm/1.00mm]=1.1kVとした。
【0059】
吸収線量10MGyのγ線を照射した後(以下、10MGy照射後という)の試料11では、表面に亀裂などの損傷は全く観察されなかった。吸収線量30MGy(又は50MGy)のγ線を照射した後(以下、30MGy(又は50MGy)照射後という)の試料11では、表面に幾つかの亀裂が観察された。これは、放射線照射に伴う硬化により、PEEKの伸びが劣化するということを示していると考える。一方、それぞれの吸収線量のγ線を照射した後の試料11において、絶縁破壊は生じなかった。
【0060】
つまり試料11は、耐電圧について言えば、10〜50MGyの耐放射線性を有しているということが確認できた。また、試料11は、吸収線量10〜30MGyの範囲であれば、良好な伸び、すなわち良好な耐屈曲性を有しているということが確認できた。
【0061】
本実施例においては、比重が1.28以上のPEEK材を用いて絶縁体被覆を構成した線芯について耐放射線性の評価を行ったが、吸収線量が10〜20MGy程度であれば、比重が1.28未満のPEEK材を用いて絶縁体被覆を構成した線芯であっても十分な耐放射線性及び耐屈曲性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係る耐放射線ケーブルの横断面図である。
【図2】本発明の他の好適一実施の形態に係る耐放射線ケーブルの横断面図である。
【図3】PEEKの吸収線量と引張強度、吸収線量と伸びとの関係を示す図である。
【図4】ポリイミドの吸収線量と引張強度、吸収線量と伸びとの関係を示す図である。
【図5】シンクロトロンにおけるターボ分子ポンプの配置図である。
【符号の説明】
【0063】
10 耐放射線ケーブル
11 導体
12 絶縁体被覆
13 線芯
14 撚線部
19 外装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆を有する線芯を形成し、その線芯の周りに金属製の編組線で構成される外装を設けたことを特徴とする耐放射線ケーブル。
【請求項2】
10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆を有する線芯を複数本撚り合わせて撚線部を形成し、その撚線部の周りに金属製の編組線で構成される外装を設けたことを特徴とする耐放射線ケーブル。
【請求項3】
10MGy以上の放射線に曝されるケーブルであって、導体の周りにポリエーテルエーテルケトンの絶縁体被覆を有する線芯を撚り合わせて対撚線を形成し、少なくとも1本の対撚線を用いて複種類の撚線ユニットを形成し、各撚線ユニットを束ねて撚線部を形成し、その撚線部の周りに金属製の編組線で構成される外装を設けたことを特徴とする耐放射線ケーブル。
【請求項4】
上記外装が、ステンレス鋼製の編組線で構成される請求項1から3いずれかに記載の耐放射線ケーブル。
【請求項5】
上記絶縁体被覆を構成するポリエーテルエーテルケトンの比重が1.28以上である請求項1から4いずれかに記載の耐放射線ケーブル。
【請求項6】
上記外装の内側及び/又は上記撚線部内に、ポリイミド系材料の介在物を設けた請求項1から5いずれかに記載の耐放射線ケーブル。
【請求項7】
上記介在物がアラミド繊維である請求項6記載の耐放射線ケーブル。
【請求項8】
上記外装の周りに、ポリイミド系材料で構成される絶縁保護層を設けた請求項1から7いずれかに記載の耐放射線ケーブル。
【請求項9】
上記外装の周りに、ポリエーテルエーテルケトン系材料で構成される絶縁保護層を設けた請求項1から7いずれかに記載の耐放射線ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−127858(P2006−127858A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312841(P2004−312841)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】