説明

耐水蒸気酸化性を有するオーステナイト系ステンレス鋼管及びその製造方法

【課題】管内面の表面粗さの測定によりショット加工の良否を判断し、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管を得ること。
【解決手段】ボイラの伝熱管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管1において、鋼管内面へのショット加工後の管内表面3,4の粗さを算術平均粗さ(Ra)が2μm以下である。鋼管の使用時に鋼管内側に生成する水蒸気酸化スケール層6のうち、(Cr,Fe)から成る内層6aの厚さが10μm以下の鋼管であること。さらに、管内面へのショット加工後の管内表面の硬さが350Hv以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラの伝熱管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管に係わり、特に、鋼管内を高温、高圧の水蒸気が流れる部位に使用するのに好適な耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラの高温のガスが流れる高温部には鋼管内を高温、高圧の水蒸気が流れる過熱器や再熱器等が設けられており、これらを構成する伝熱管には高温強度及び耐食性の観点から、Crを18%以上含有するオーステナイト系ステンレス鋼管が用いられている。ボイラ運転中、鋼管の内表面には、鋼管内部を流れる高温、高圧の水蒸気との接触、反応により、水蒸気酸化スケールが生成する。この水蒸気酸化スケールは(Cr,Fe)から成る内層とFeからなる外層からなる2層構造となっている。
【0003】
オーステナイト系ステンレス鋼は、一般に線膨張係数が大きいため、ボイラの負荷変化や、運転停止又は運転起動に伴う鋼管内部を流れる流体の温度変化により、鋼管の膨張または縮小が生じるがこのとき鋼管自体と鋼管の内表面に層を生成している水蒸気酸化スケールとの膨張差が大きいため水蒸気酸化スケールの剥離が生じやすい。剥離した水蒸気酸化スケールは、鋼管の曲げ部に堆積して生じる管閉塞や蒸気配管を経由して蒸気タービン部へ飛散して生じる蒸気タービン翼エロージョンの原因となる。従って、ボイラの高温部で使用される鋼管には、高温強度に加え、優れた耐水蒸気酸化性が要求される。
【0004】
オーステナイト系ステンレス鋼の耐水蒸気酸化性の向上策には、材料中Cr含有量の増加、結晶粒の微細化、鋼管内面のショット加工による硬化層形成等が挙げられるが、一般的に広く採用されている方法は、鋼管内面のショット加工による硬化層の形成である。ショット加工は、例えば特許文献1で示されているように、鋼管内面にステンレス鋼からなる粒子などを所定の圧力および吹付け量以上でショット加工を施し、鋼管内面に所定の厚さ以上のショット加工層を形成させるものである。このように加工した鋼管を高温蒸気発生用の過熱器などで使用した場合、鋼管内表面に極めて薄くかつ緻密なスケールが形成されて、水蒸気酸化スケール全体の生長を防止するとされている。
【0005】
また、オーステナイト系ステンレス鋼管におけるショット加工が全面に確実に施工されているか否かを判定する手法として、例えば、特許文献2では、ショット加工された管の片側から光源を管内面に当て、他端から内面観察用のTVカメラを管内で移動させながら、ショット加工された面積を測定する方法が記載されている。この場合、ショット加工された面は、微小な凹凸のために非光沢面となり、未加工面は光沢があることで判別できる。そしてショット加工された面積が全体の70%以上となるショット条件を選択することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−8930号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2007/099949 (特願2008−502795)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近の火力発電用大型ボイラでは、過熱器や再熱器管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管の長さはボイラ一缶あたり数千m以上となり、ショット加工が鋼管内面全体に確実に施工されていることを品質保証する必要があり、そのための判定技術が必要とされている。上記の特許文献1には所定の圧力および吹付け量以上でショット加工を行う必要があることは記載されているが、適正なショット加工が行われたことを判定する必要があることは記載されていない。
【0008】
また、上記の特許文献2にはショット加工が確実に施工されているか否かを判定する手法として、ショット加工面が凹凸のために非光沢面となり、未加工面が光沢面となることを利用してTVカメラで観察し判定する方法が記載されているが、管内表面への異物の付着はもちろんショット加工前の管内表面の状態の影響を受けやすく測定精度が高くないため実用的ではなかった。
【0009】
本発明の目的は、ショット加工が確実に施工されているか否かを判定する手法として、適切な判定手法を提供することにあり、さらにこの判定手法により施工することにより得られる耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
伝熱管用のオーステナイト系ステンレス鋼管において、鋼管内面へのショット加工後の管内表面の粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2μm以下である鋼管。さらにこの鋼管は使用時に鋼管内側に生成する水蒸気酸化スケール層のうち、(Cr,Fe)から成る内層の厚さが10μm以下の鋼管である。
【0011】
また、ボイラの伝熱管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、鋼管内面にショット加工を施し、ショット加工後の管内表面の粗さを算術平均粗さ(Ra)で2μm以下とする鋼管の製造方法。さらに使用時に鋼管内側に生成する水蒸気酸化スケール層のうち、(Cr,Fe)から成る内層の厚さを10μm以下とする鋼管の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
従来は鋼管内表面に加工層を形成させることにより水蒸気酸化スケールの生成を抑制することは知られていたが、確実にショット加工が施工されているか否かを判定する手法として適切なものがなかった。本発明によれば、管内面の表面粗さの測定により確実にショット加工が施工されているか判断することができ、耐水蒸気酸化性に優れた鋼管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼管の内面にショット加工を施す概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に関するショット加工後における、管内表面に生成する水蒸気酸化スケール厚さとの関係を示す図であり、併せて算術平均粗さと管内面深さ50μmでの硬さとの関係を示す図である。
【図3】第1の実施形態に関するショット加工後における、管内表面の粗さと生成した水蒸気酸化スケールとの関係を説明する模式図である。
【図4】本発明の第2と第3の実施形態に関するショット加工後の管内表面からの深さ位置での管内面の硬さ分布と、ショット加工無しの場合での管内面の硬さ分布とを比較した図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に関するショット加工後の管内面にエッチング処理を施してショット加工層を明瞭にした断面ミクロ組織の写真である。
【図6】本発明の第5の実施形態に関するショット加工後の管内面にエッチング処理を施してショット加工層を明瞭にした管内表面からの深さ約50μm位置の断面ミクロ組織の写真である。
【図7】第5の実施形態に関するショット加工後の管内表面からの深さ50μm位置での10μm長さ当たりのすべり線の本数と管内面面の深さ50μm位置での硬さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1〜第5の実施形態に係る耐水蒸気酸化性を有するオーステナイト系ステンレス鋼管及びその製造方法について、図面を参照しながら以下説明する。
【0015】
まず、本発明の第1の実施形態に係る耐水蒸気酸化性を有するオーステナイト系ステンレス鋼管とその製造方法について、図1〜図3を参照しながら説明する。図面において、1はオーステナイト系ステンレス鋼管、2はショットノズル、3はショット粒子、4はショット加工層、5は管内表面、6は水蒸気酸化スケール、をそれぞれ表す。
【0016】
図1において、オーステナイト系ステンレス鋼管の内面へのショット加工は、オーステナイト系ステンレス鋼製の小さな鋼片や鋼球などのショット粒子を圧縮空気で鋼管内表面に衝突させて、鋼管内表面近傍の結晶粒内にすべり変形を多数生じさせ、硬化させるものである。ショット加工を鋼管内面に均一に施工するには、このショット粒子の形状や硬さ、ショット粒子の吹き付け圧力や吹き付け量、ショットノズルの鋼管の内周方向への回転速度やノズルの軸方向への移動速度の条件を最適化する必要がある。
【0017】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、16〜23%Crからなるオーステナイト系ステンレス鋼において、ショット加工後の鋼管内表面の粗さが耐水蒸気酸化性の指標となる鋼管内表面に生成する水蒸気酸化スケールの厚さと関連性を有していることを知見し、その関連性について図2に示すように実験データで確認した。
【0018】
図2はショット加工後の18%Crからなるオーステナイト系ステンレス鋼管内表面の算術平均粗さ(Ra)と鋼管内を流れる水蒸気温度が650℃で876時間経過後の18Cr8Niオーステナイト系ステンレス鋼管(火SUS304J1HTB)における水蒸気酸化スケールの厚さ(全層および内層の厚さ)を計測したものである。なお、図2には鋼管内表面からの深さが50μmの位置の硬さの計測値も併せて示している。算術平均粗さは、ショット加工条件を変化させて調整し、粗さの測定は、接触式表面粗さ計を用いて直接測定で行った。なお、測定機器については、接触式に限定するものではなく、レーザー顕微鏡等の非接触式の粗さ計を使用してもよい。実際の測定は鋼管の全長に渡り行うことが望ましいが、ショット加工条件が一定であればサンプル測定により行うことも可能である。また、水蒸気酸化スケールの厚さについてはサンプル抽出したものを腐食試験により顕微鏡にて計測した。
【0019】
測定の結果、鋼管内表面の算術平均表面粗さ(Ra)が1.97μm以下の場合(本発明G〜J)、水蒸気酸化スケールの厚さは20μm(内層10μm)となり、鋼管内表面への水蒸気酸化スケールの生成を抑制できた。これに対して、鋼管内表面の算術平均表面粗さ(Ra)が2.06μm以上の場合(比較例C〜F)、水蒸気酸化スケールの厚さは20μmより大となり、さらに鋼管内表面の算術平均表面粗さ(Ra)が2.44μm以上の場合、水蒸気酸化スケールの厚さは70μm(内層40μm)より大となり、鋼管内表面への水蒸気酸化スケールの生成を抑制できなかった。
【0020】
また、非ショット管(比較例A,B)では水蒸気酸化スケールの厚さは150μm(内層75μm)となった。なお鋼管内表面の算術平均表面粗さ(Ra)は2.44,2.51μmであった。
【0021】
また、図2には鋼管内表面からの深さが50μmの位置の硬さの計測値も併せて示しているが、鋼管内表面の算術平均表面粗さ(Ra)が1.97μm以下の場合、硬さが300Hv以上であり、確実にショット層が形成されていることがわかる。これに対して、鋼管内表面の算術平均表面粗さ(Ra)が2.06μm以上の場合、管内表面から深さ50μmの位置での硬さ(ピラミッド形圧子を用いた材料硬さのビッカース硬さ試験)が300Hv未満となっており、確実なショット層が形成されていないことがわかる。
【0022】
図3はショット加工後の管内表面5の粗さと生成する水蒸気酸化スケール6との関係を示したものである。図3の左図に示すように、ショット加工が不均一であった場合、鋼管内表面に部分的にショット加工による硬化層が形成されるため、表面粗さは粗くなる。一方、図3の右図に示すように、ショット加工が鋼管内表面に均一に施工された場合、全体にショット加工層4が形成されるため、表面粗さは滑らかになる。
【0023】
高温水蒸気中に暴露した場合、ショット加工が行われたショット加工層の表面には水蒸気酸化スケールのうち内層6aが薄くしか生成せず、その外側に生成する外層6bも薄くしか生成しないため、全層厚さは薄くなる。ショット加工が不十分である部位には内層6aが厚く生成し、その外側の外層6bも厚く生成するため全体で厚い水蒸気酸化スケール6が生成されることになり、従って、算術平均粗さでも水蒸気酸化スケール厚が大きくなる(左図)。
【0024】
一方、ショット加工が鋼管内表面に均一に施工された場合、全体にショット加工層4が形成されており、水蒸気酸化スケールは内層6a、外層6bとも薄くしか生成しないため、全層厚さは薄くなり、従って、算術平均粗さでも水蒸気酸化スケール厚が小さくなる(右図)。
【0025】
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼管の内表面に生成する水蒸気酸化スケールについて説明する。オーステナイト系ステンレス鋼管の内表面に生成する水蒸気酸化スケール6は、ショット有無に関わらず、外層6bがFeからなり、 内層6aが(Cr,Fe)からなる2層構造になっている。ここで、Feを多く含む酸化物(Fe,(Cr,Fe):(Fe>Cr))はCrを多く含む酸化物(Cr,((Cr,Fe):(Cr>Fe))に比べ生成速度が一般的に速い。これは、酸化物中のイオン(Fe,Cr,Oイオン)の拡散速度(移動速度)がFe酸化物の方がCr酸化物に比べて速いためである。
【0026】
ショット加工は、金属中の金属(Fe,Cr)の拡散速度を速くする効果があり、18(16)Cr以上のSUS鋼では、相対的にFeよりもCrの拡散速度を速くするため、ショット無しに比べてスケール中のCr量が多いスケールが初期に生成し、スケール成長速度は著しく低下(抑制)する。従って、ショット加工が均一(全面)に施工されていれば、均一(全面)にCr量が多い薄いスケールが生成されが、ショット加工が不均一(部分的)であった場合には、部分的にFeを多く含む厚いスケールが生成するため、スケール成長を完全には抑制できないことになる。なお、Cr酸化物もFe酸化物もいずれも金属が蒸気と参加して生成する水蒸気酸化スケールである。
【0027】
従って、鋼管1へのショット加工後の管内表面の算術平均粗さを測定することによって、水蒸気酸化スケールの生成を抑制するためのショット加工が確実に施工されているかを判断することができる。本実施形態では、管内表面の粗さに算術平均粗さ(Ra)を用いたが、これに限定するものではなく、例えば最大高さ(Rz)や平均平方根高さ(Rq)などの他の粗さパラメータを使用してもよい。これらの粗さパラメータを用いることの妥当性は、深さ50μm位置での硬さを測定することにより確認した。
【0028】
このように、本実施形態では、ショット加工後の管内表面の算術平均粗さが2μm以下であれば、(Cr,Fe)から成る内層6aの厚さを10μm以下の鋼管とすることができ、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管であると判断される。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼管の内面ショット加工による耐水蒸気酸化性を、さらに鋼管の使用前において管内表面の硬さを用いて評価する手法について、図4を参照しながら説明する。図4はショット加工後の18%Crからなるオーステナイト系ステンレス鋼管の管内面硬さと、ショット加工無しの硬さとを比較した結果を示す。図4によると、ショット加工による硬さ増加は、管内表面で最大となり、管内部方向への位置で徐々に低下する。従って、管内表面の硬さは、管内部のように測定位置による影響を受けないため、安定した結果が得られる。
【0030】
本実施形態では、ショット加工後の管内表面の硬さが350Hv以上であれば、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管であると判断される。本実施形態は管内表面から直接硬さを測定するため、管断面からの管内部の測定に比べて測定が容易でかつ正確な手法と言える。
【0031】
次に、本発明の第3の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼管の内面ショット加工による耐水蒸気酸化性を、さらに鋼管の使用前において管内部面(管内の深さ位置)の硬さを用いて評価する手法について、図4を参照しながら説明する。図4に示すように、ショット加工後の18%Crからなるオーステナイト系ステンレス鋼管の硬さは、管内表面で最大となり、管内表面から約200μmの深さ位置まで観測される。管内表面から深さ約200μmの位置の範囲内で硬さを測定すれば、ショット加工の影響を評価できるが、重要なのは管内表面近傍での硬さである。
【0032】
管内表面から深さ約100μmの位置で硬さを規定する方法(上記の特許文献3を参照)もあるが、管内面から距離が大きくなると、硬さの値のバラツキも大きくなり、極表面の硬さを保証できない場合もあるため、可能な限り管内表面近傍での硬さで評価する方が良い。
【0033】
ビッカース試験法を用いて鋼管の内面硬さを測定する場合、鋼管をその軸方向に垂直な面で切断して輪切り形状とし、この輪切り形状鋼管の管内面の硬さを管内表面から管外表面に向かって測定するときに、極内表面近傍ではダイヤモンド形圧子(例えば、圧子形状は四角錐体で、角度136度、対角線長さ0〜数μm)が測定部位からずれてしまって正確な圧痕ができ難いために、管内表面から最低限深さ50μmの位置が硬さ測定の適宜な位置である。図4によると、本実施形態では、管内表面から深さ50μmの位置での硬さが300Hv以上であれば、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管であると判断される。
【0034】
次に、本発明の第4の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼管の内面ショット加工による耐水蒸気酸化性を、さらに鋼管の使用前においてミクロ組織から測定されるショット加工層4(ショット加工により形成される層)の深さを用いて評価する手法について、図5を参照しながら説明する。図5はショット加工後の18%Crからなるオーステナイト系ステンレス鋼管の断面ミクロ組織写真である。この写真は、ショット加工層4を明瞭にするため、ショット加工後の鋼管を650℃で1時間熱処理後、樹脂に埋めこみ、鏡面研磨した後、クロム酸溶液中で電解エッチング処理して観察したものである。
【0035】
管内面には、ショット加工による塑性変形によって生じた多数のすべり線7(後述の図6を参照)により黒く観測され、これをショット加工層4と呼ぶ。このショット加工層4は、ショット加工が確実に施工されている場合には、均一かつ深くなる。本実施形態では、管内表面からのショット加工層深さが50μm以上であれば、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管であると判断される。
【0036】
次に、本発明の第5の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼管の内面ショット加工による耐水蒸気酸化性を、さらに鋼管の使用前においてミクロ組織から測定されるショット加工層4のすべり線7の密度(本数)を用いて評価する手法について、図6と図7を参照しながら説明する。
【0037】
図6は管内表面から深さ50μ位置でのショット加工後の18%Crからなるオーステナイト系ステンレス鋼管の断面ミクロ組織写真である。この写真は、図5と同様な処理方法で観察したものである。結晶粒の中に、ショット加工による塑性変形によって生じたすべり線が観測されるのが分かる。このすべり線の本数(10μm長さ当たり)と硬さとの関係が、実験データとして図7に取り纏められている。
【0038】
図7によると、深さ50μm位置でのすべり線の本数が3本以下では、硬さが300Hv以下となり得ることが分かる。従って、本実施形態では、管内表面から深さが50μm位置でのすべり線の本数が10μm長さ当たり4本以上であれば、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管であると判断される。
【0039】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る、ボイラの伝熱管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管において、ショット加工後の管内表面の粗さ、管内表面の硬さ、管断面における極表面近傍の硬さ、管断面における組織観察から求まるショット加工層深さ、のそれぞれが特定の基準値を満足することにより、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管であると判断することができる。
【0040】
本発明によれば、高価な計測手段を必要としない比較的簡単な方法で、オーステナイト系ステンレス鋼管の管内表面にショット加工が確実に施工されているかを判別でき、耐水蒸気酸化性に優れた鋼管を提供できる。
【符号の説明】
【0041】
1 オーステナイト系ステンレス鋼管
2 ショットノズル
3 ショット粒子
4 ショット加工層
5 管内表面
6 水蒸気酸化スケール層
6a 内層
6b 外層
7 すべり線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱管用のオーステナイト系ステンレス鋼管において、
鋼管内面へのショット加工後の管内表面の粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2μm以下である
ことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管において、
前記鋼管の使用時に鋼管内側に生成する水蒸気酸化スケール層のうち、(Cr,Fe)から成る内層の厚さが10μm以下の鋼管であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項3】
請求項2に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管において、
さらに管内面へのショット加工後の管内表面の硬さが350Hv以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項4】
請求項2に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管において、
さらに管内面へのショット加工後の硬さが、管内表面から深さ50μmの位置で、300Hv以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項5】
請求項2に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管において、
さらに管内面へのショット加工後の管内面のミクロ組織から観測されるショット加工層が、管内表面から50μm以上の深さに達する
ことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項6】
請求項2に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管において、
さらに管内面へのショット加工後の鋼管のミクロ組織から観測されるすべり線の本数が、管内表面から50μmの深さ位置で、10μmの長さ当たり4本以上ある
ことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5,6のいずれか1つの請求項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管を過熱器又は再熱器に用いることを特徴とするボイラ。
【請求項8】
ボイラの伝熱管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、
管内面にショット加工を施し、ショット加工後の管内表面の粗さを算術平均粗さ(Ra)で2μm以下とする
ことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、
前記鋼管の使用時に鋼管内側に生成する水蒸気酸化スケール層のうち、(Cr,Fe)から成る内層の厚さを10μm以下とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、
さらに管内面にショット加工を施し、ショット加工後の管内表面の硬さを350Hv以上とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、
さらに管内面にショット加工を施し、ショット加工後の硬さを、管内表面から深さ50μmの位置で、300Hv以上とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、
さらに管内面にショット加工を施し、ショット加工後の管内面のミクロ組織を観測し、前記観測から、塑性変形によって生じる複数のすべり線で黒く観測されるショット加工層を、管内表面から50μm以上の深さとする
ことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項13】
請求項9に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法において、
さらに管内面にショット加工を施し、ショット加工後の鋼管のミクロ組織を観測し、前記観測から、観測されるすべり線の本数を、管内表面から50μmの深さ位置で、10μmの長さ当たり4本以上とする
ことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−201975(P2012−201975A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70602(P2011−70602)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)