説明

耐熱中性子遮蔽体及び中性子遮蔽方法

【課題】250℃以上の耐熱性を示すと共に、充分な中性子遮蔽性能を有し、特別な冷却装置を設けなくても、核融合装置における真空容器等の外壁に沿っての設置が可能な耐熱中性子遮蔽体及び該遮蔽体を用いた中性子遮蔽方法を提供すること。
【解決手段】本発明の耐熱中性子遮蔽体は、硬化物の耐熱温度が250℃以上のフェノール樹脂100質量部と、炭化ホウ素粉末1質量部以上を有する中性子吸収粉末1〜10質量部とを含む中性子遮蔽組成物を、加熱加圧成形して得られる。本発明の中性子遮蔽方法は、超伝導コイルの内側にドーナツ型真空容器を備えた核融合装置において、少なくとも前記真空容器の外壁に沿って、前記本発明の耐熱中性子遮蔽体を配設したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合装置等から発生する中性子を遮蔽すると共に、発生した中性子による核発熱を抑え、安定した核融合による発電等を行うことを可能にする、250℃以上の耐熱性を備えた耐熱中性子遮蔽体及び中性子遮蔽方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合発電装置は、ドーナツ形状等の真空容器内に重水素等の燃料水素を供給し、これに電圧を印加してプラズマを励起させ、水素を超高温に加熱し、水素の原子核同士が融合する核融合反応によって生じるエネルギーを利用する装置である。このような核融合反応が生じると、前記エネルギーと共に中性子も発生する。
前記核融合発電装置においては、核融合反応を継続させるために、常時極低温環境が要求される超伝導コイルが前記真空容器の外側に設置されている。ところで、前記核融合反応により生じる中性子が前記超伝導コイルに照射されると発熱反応が生じ、これにより高温になると超伝導コイルにおける超伝導機能が失われ、核融合反応を継続させることが困難となり、結果として発電ができなくなる。
そこで、このような核融合発電装置においては、超伝導コイルへの前記中性子照射を抑制するために、中性子遮蔽体等を設ける必要がある。また、核融合装置等の運転前に行なう真空容器のベーキング、即ち、真空容器内の不純物を除去するために、真空容器内を加熱し、不純物を蒸発させてから行うガス抜き作業も250〜300℃程度で行われるので、前記中性子遮蔽体にはこのような高温に対する耐熱性も要求される。
しかし、従来提案されている中性子遮蔽体は、中性子遮蔽樹脂材料としてポリエチレン樹脂やエポキシ系樹脂を用いるものが殆どであるため、その耐熱性は高くても百数十℃程度に過ぎず、上記真空容器の内側に配設する中性子遮蔽体としての利用はできない。
【0003】
特許文献1には、中性子遮蔽材料の耐熱性を改善するために、中性子遮蔽樹脂材料としてのエポキシ系樹脂等に代えてフェノール樹脂を用いることが提案されている。しかし、この文献に記載された耐熱性中性子遮蔽材は、中性子遮蔽性を確保するために、中性子吸収材料100質量部に、フェノール樹脂を10〜100質量部の範囲で配合して成形加工した材料である。このような中性子吸収材料の含有量が多いものでは、中性子遮蔽性には優れるが、フェノール樹脂の有する優れた耐熱性を充分に発揮させることが困難であり、200℃以上の耐熱性が得られる場合もあるが、250℃以上の耐熱性が得られるまでには至っていない。
そこで、特許文献2には、前記真空容器の外壁に沿って配設する核融合装置用中性子遮蔽体として、従来のエポキシ樹脂等と中性子吸収材料とを混合成形した遮蔽体に、水を内包した冷却チャンネルを設けた、冷却装置付き中性子遮蔽体が提案されている。
このような中性子遮蔽体は、前記冷却チャンネルにより発熱が抑制され、中性子遮蔽体自体の耐熱性が150℃以下であっても充分に核融合反応やベーキング作業を実施することができ、中性子遮蔽性にも優れる。
しかし、このような中性子遮蔽体を採用するには、前記冷却チャンネル設備が必要であり、しかも、該冷却チャンネルが水冷式であるため、錆等による容器の劣化、更には、水漏れによる冷却能力の低下により中性子遮蔽体自体の軟化又は流動化が生じることが無いように充分な管理が必要となる。
【特許文献1】特開平6−180388号公報
【特許文献2】特開2002−296390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、250℃以上の耐熱性を示すと共に、充分な中性子遮蔽性能を有し、例えば、特別な冷却装置を設けなくても、核融合装置における真空容器等の外壁に沿っての設置が可能である耐熱中性子遮蔽体を提供することにある。
本発明の別の課題は、中性子遮蔽体への特別な冷却装置の設置や特別の管理等を行う必要がなく、核融合装置における超伝導コイルへの中性子照射を充分に抑制すると共に、装置自体の中性子による発熱を抑制し、安定的な運転を可能にする中性子遮蔽方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、耐熱性に優れたフェノール樹脂に配合する中性子吸収材料として、特定の中性子吸収粉末を用いることにより、その含有量を非常に少なくした場合であっても充分な中性子遮蔽能が発揮されることを見出した。そして、このような中性子吸収粉末を用い、フェノール樹脂の配合割合を高くすることによって、該フェノール樹脂の有する耐熱性を充分に発揮させ、従来にはない250℃以上の耐熱性を示すと共に優れた中性子遮蔽能をも示す耐熱中性子遮蔽体が得られることを見出し本発明を完成した。
【0006】
本発明によれば、硬化物の耐熱温度が250℃以上のフェノール樹脂100質量部と、炭化ホウ素粉末1質量部以上を有する中性子吸収粉末1〜10質量部とを含む中性子遮蔽組成物を、加熱加圧成形して得た耐熱中性子遮蔽体が提供される。
また本発明によれば、超伝導コイルの内側にドーナツ型真空容器を備えた核融合装置における中性子遮蔽方法であって、少なくとも前記真空容器の外壁に沿って前記耐熱中性子遮蔽体を配設したことを特徴とする中性子遮蔽方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐熱中性子遮蔽体は、耐熱性に優れるフェノール樹脂と、炭化ホウ素粉末を特定量含む中性子吸収粉末とを特定割合で含む耐熱性中性子遮蔽組成物を、加熱加圧成形して得られるので、250℃以上の耐熱性を示すと共に、充分な中性子遮蔽能を有する。従って、中性子遮蔽体自体に特別な冷却装置を設けることなく、核融合装置における真空容器等の外壁に沿っての設置が可能であり、核融合装置における超伝導コイルの発熱を抑制し、安定した運転を可能にする。
本発明の中性子遮蔽方法は、本発明の耐熱中性子遮蔽体を、少なくとも真空容器等の外壁に沿って配設するので、超伝導コイルの内側にドーナツ型真空容器を備えた核融合装置における、該超伝導コイルへの中性子照射を有効に抑制することができる。しかも、配設する耐熱中性子遮蔽体には、特別な冷却装置の設置が必要なく、また特別の管理等を行う必要もないので、核融合装置における安定的な運転を容易に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明の耐熱中性子遮蔽体は、耐熱性に優れるフェノール樹脂と、炭化ホウ素粉末を有する中性子吸収粉末とを特定割合で含む中性子遮蔽組成物を加熱加圧成形して得られる。
前記フェノール樹脂は、その硬化物の耐熱性が250℃以上、好ましくは300℃以上であるフェノール樹脂であれば特に限定されず、電気・電子製品等に利用される耐熱性に優れるフェノール樹脂等が好ましく挙げられる。ここで、硬化物の耐熱温度は、JIS,ISO規格の熱負荷試験に準拠する耐熱温度を意味する。
フェノール樹脂は、前記耐熱性を有するものであれば、レゾール型、ノボラック型のいずれでも良く、更には、各種変性フェノール樹脂等が使用できる。
【0009】
前記中性子吸収粉末は、炭化ホウ素粉末を必須に含み、本発明の所望の効果を損なわない範囲で他の中性子吸収粉末を含んでいても良い。
他の中性子吸収粉末としては、例えば、中性子吸収作用を有する公知の、炭化ホウ素以外のホウ素系粉末、カドミウム系粉末、ガドリニウム系粉末等が挙げられる。
前記炭化ホウ素粉末の粒径は、本発明の所望の効果を得るために適宜選択できるが、通常5〜100μm、特に10〜30μm、更には10〜20μm程度のものがフェノール樹脂との混練性及び得られる遮蔽体の中性子遮蔽性の点から好ましい。他の中性子吸収粉末を用いる場合、該粉末の粒径は、本発明の所望の効果を得るために適宜選択でき、通常、炭化ホウ素粉末と同様な粒径のものを採用することができる。
【0010】
前記耐熱中性子遮蔽組成物は、前記フェノール樹脂及び中性子吸収粉末の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、また、他の効果を向上させるために、通常、樹脂製中性子遮蔽体に配合し得る各種添加剤を配合することもできるが、過度の配合は得られる耐熱中性子遮蔽体の耐熱性を250℃未満にする恐れがある。
耐熱中性子遮蔽組成物において、前記中性子吸収粉末の含有量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して1〜10質量部、好ましくは2〜5質量部である。該中性子吸収粉末の含有量が1質量部未満では中性子遮蔽能が低下する。一方、10質量部を超える場合には、得られる中性子遮蔽体の耐熱性が低下すると共に、中性子遮蔽能も低下する。
前記中性子吸収粉末中の炭化ホウ素粉末の含有割合は、1質量部以上、好ましくは2〜5質量部である。このような炭化ホウ素粉末の配合により、充分な中性子遮蔽能と耐熱性とを両立して得ることができる。
尚、フェノール樹脂の含有量は固形分換算である。
【0011】
前記中性子遮蔽組成物を加熱加圧成形して本発明の耐熱中性子遮蔽体を得るには、該組成物を充分混練した後、所望の金型等に注入し、加圧しながら加熱硬化反応させることにより得ることができる。好ましくは更にアフターベーキングすることで強度等を向上させることができる。
本発明の耐熱中性子遮蔽体は、250℃以上の耐熱性、即ち、250℃の環境下に曝露した場合であっても遮蔽体自体の表面が軟化又は流動化等することがなく、更には中性子遮蔽性が維持される。また、耐熱中性子遮蔽体の強度は、高温下においても、例えばボルト締め等により遮蔽体自体を固定するのに必要な強度を有していれば良い。
【0012】
本発明による中性子遮蔽方法は、超伝導コイルの内側に、核融合反応を生じさせるドーナツ型の真空容器を備えた核融合装置において、該超伝導コイルへの中性子の照射を抑制するため等に、少なくとも前記真空容器の外壁に沿って、前述の本発明の耐熱中性子遮蔽体を配設することにより行うことができる。
前記配設は、超伝導コイルへの中性子の照射が抑制しうる所望箇所に、本発明の耐熱中性子遮蔽体を固定することにより行うことができる。該固定の方法は特に限定されず、例えば、ボルト締め等により行うことができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
フェノール樹脂100質量部に、平均粒径13.7μmの炭化ホウ素粉末をホウ素量換算で1質量部、2質量部、3質量部、4質量部、5質量部又は10質量部を添加し、混練機で充分に混練して中性子遮蔽組成物の混練物をそれぞれ調製した。得られた各混練物を、400mm×400mm×50mmの金型に充填し、加圧しながら加熱加圧成形を行った。得られた成形体を、更に焼成し、耐熱中性子遮蔽体を6種類製造した。また、対照として、炭化ホウ素粉末を添加しないフェノール樹脂のみの成形体も同様に製造した。
得られた各耐熱中性子遮蔽体及び対照物を250℃のオーブンで600時間加熱し、その表面性状等を観察した。その結果、いずれも表面の軟化及び流動化は全くなく、変形も見られなかった。
次に、炭化ホウ素粉末5質量部を混練して調製した耐熱中性子遮蔽体を用いて以下の強度試験を行った。荷重たわみ試験の結果はいずれも300℃以上であった。他の試験結果を表1に示す。また、以下の中性子透過量及び発熱量の評価を行った。結果を表2に示す。
【0014】
<荷重たわみ試験>
JIS K 7191-2に準拠して曲げ応力2.00mPaで2回試験を行った。
<引張試験>
JIS K 7113に準拠して、23℃及び250℃における引張強度を測定した。測定は3検体づつ行った。
<曲げ試験>
JIS K 7171に準拠して、23℃及び250℃における曲げ強度を測定した。測定は3検体づつ行った。
<中性子透過量及び発熱量の評価>
核融合核設計計算コードプログラム(THIDA−2)を用いて、所定の核融合装置データをインプットし、当該核融合装置における超伝導コイルに悪影響を及ぼす核発熱量を計算したところ2.4mW/cc以上であった。この核融合装置に上記作製した各中性子遮蔽体を設置したことを想定したデータを更にインプットして、各中性子遮蔽体の中性子透過量及び該中性子透過量評価時の超伝導コイル自体の発熱量を計算した。
【0015】
【表1】

表1より、温度上昇により各強度は低下しているが、中性子遮蔽体としての機能を損なうものではなかった。
【0016】
【表2】

表2より、炭化ホウ素粉末の含有量が1〜10質量部の場合には、超伝導コイルに悪影響を及ぼす発熱が生じることがなく、中性子を遮断できることが判った。特に、炭化ホウ素粉末含有量が2〜5質量部で中性子遮蔽能が良好であることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化物の耐熱温度が250℃以上のフェノール樹脂100質量部と、炭化ホウ素粉末1質量部以上を有する中性子吸収粉末1〜10質量部とを含む中性子遮蔽組成物を、加熱加圧成形して得た耐熱中性子遮蔽体。
【請求項2】
炭化ホウ素粉末の含有量が2〜5質量部である請求項1記載の耐熱中性子遮蔽体。
【請求項3】
超伝導コイルの内側にドーナツ型真空容器を備えた核融合装置における中性子遮蔽方法であって、少なくとも前記真空容器の外壁に沿って、請求項1又は2記載の耐熱中性子遮蔽体を配設したことを特徴とする中性子遮蔽方法。

【公開番号】特開2006−145421(P2006−145421A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337219(P2004−337219)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)