説明

耐熱性有機材料、その製造方法および該耐熱性有機材料の用途

【課題】 耐熱性の低い有機材料、例えば有機繊維、ゴムダスト、カシューダストなどから得られた耐熱性に優れる有機材料を提供する。
【解決手段】 TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料の表面にリン酸塩被覆層を設けたことを特徴とする耐熱性有機材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性有機材料、その製造方法および前記耐熱性有機材料の用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、耐熱性の低い有機材料から得られた耐熱性の良好な有機材料、その効果的な製造方法、および前記耐熱性の良好な有機材料を含むブレーキ用摩擦材や摺動部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車分野において、一般のブレーキやクラッチ用の摩擦材(ブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチ、フェーシング等)の原材料には、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の結合材、有機繊維、無機繊維、金属繊維等の繊維補強材、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機充填材及び摩擦調整材等、種々の材料が用いられる。
前記繊維補強材の分野においては、有機繊維の繊維補強材としてアラミド繊維が主に使用されている。アラミド繊維は有機繊維の中でも耐熱性が高いが、近年の自動車の高速化に伴い、アラミド繊維にかかる負荷が大きくなり、500℃以上ではその補強効果は充分に満足するものではなかった。
【0003】
特許文献1においては、耐熱性、耐摩耗性および耐久性に優れたブレーキパッドを提供するために、エポキシバインダー、ウレタン系バインダーまたはアミノ糖類を含み、さらにシランカップリング剤を含有した表面処理剤をアラミド繊維表面にコーティングする技術が開示されている。この技術においては、表面処理したアラミド繊維を配合したブレーキパッドの曲げ強度および引張強度は向上しているが、アラミド繊維単独およびブレーキパッドに配合したときの耐熱性、耐摩耗性についての記載はない。
【0004】
一方、摩擦調整材の分野においては、ゴムダストやカシューダストなどに代表される有機微粒子が用いられているが、有機物系のゴムダストやカシューダストは、他の摩擦調整材に比べ耐熱性が劣るため、特に酸化消耗する500℃前後において性能を満足できなかった。
【0005】
特許文献2には、ゴムダスト表面に金属粒子がその一部を露出して埋め込まれたり、金属薄膜が成膜されて一体化されたゴムダスト金属複合体を作製する技術が開示されているが、摩擦材に配合したときの分散性向上を狙ったものであり、耐熱性についての記載はなくゴムダスト自身の特性を向上させるものではなかった。
また、上記ゴムダスト金属複合体を作製するためには、シータコンポーザ等の粒子複合機による複合化処理が必要であり、表面改質処理として簡易的な方法ではなかった。
【0006】
さらに、特許文献3には、カシューダスト表面に研削材であるアルミナ及び/又はジルコニアのコーティング層が形成された複合粒子を摩擦材に配合することで、耐摩耗性、耐攻撃性、摩擦係数の安定性などを向上させる技術が開示されているが、熱硬化性樹脂に対する混合性に優れたカシューダスト表面にアルミナやジルコニアをコーティングすることで、アルミナやジルコニア粒子の均一分散性が向上し上記特性の発現を狙ったものであり、耐熱性についての記載はなく、カシューダスト自身の特性を向上させるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−92906号公報
【特許文献2】特開平9−264356号公報
【特許文献3】特開平6−220217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたものであり、耐熱性の低い有機材料、例えば有機繊維、ゴムダスト、カシューダストなどから得られた耐熱性有機材料、および前記耐熱性有機材料を含むブレーキ用摩擦材や摺動部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、原料の有機材料として、特定の方法で測定した耐熱温度が500℃以下のものを用い、この有機材料の表面にリン酸塩の被覆層を形成することにより、所望の耐熱性有機材料が得られ、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料の表面にリン酸塩被覆層を設けたことを特徴とする耐熱性有機材料、
(2) 有機材料が、有機繊維、ゴムダストまたはカシューダトである上記(1)項に記載の耐熱性有機材料、
(3) リン酸塩を構成する金属が、周期表(長周期型)1族、2族、12族または13族に属する金属である上記(1)または(2)項に記載の耐熱性有機材料、
(4) TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料を、リン酸塩含有水性溶液中に浸漬処理したのち、乾燥処理することを特徴とする上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の耐熱性有機材料の製造方法、
(5)リン酸塩含有水性溶液中のリン酸塩濃度が、0.3〜1.3質量%である上記(4)項に記載の製造方法、
(6) 上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の耐熱性有機材料を含むことを特徴とするブレーキ摩擦材、および
(7) 上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の耐熱性有機材料を含むことを特徴とする摺動部品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性の低い有機材料、例えば有機繊維、ゴムダスト、カシューダストなどから得られた耐熱性有機材料、および前記耐熱性有機材料を含むブレーキ用摩擦材や摺動部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3及び比較例1で得られた未処理又は処理アラミド繊維における、温度と質量残存率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例4〜6及び比較例2で得られた未処理ゴムダスト又は処理ゴムダストにおける、温度と質量残存率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例7〜9及び比較例3で得られた未処理又は処理カシューダストにおける、温度と質量残存率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の耐熱性有機材料について説明する。
[耐熱性有機材料]
本発明の耐熱性有機材料は、TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料の表面にリン酸塩被覆層を設けたことを特徴とする。
【0014】
(原材料の有機材料)
本発明においては、原料の有機材料として、TG−DTA分析機器(示差熱−熱重量分析機器)により測定される質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料(以下、低耐熱性有機材料と称することがある。)が用いられる。
【0015】
このような低耐熱性有機材料としては、摩擦材や摺動部品などにおいて繊維補強材として用いられている各種の有機繊維や、前記の摩擦材や摺動部品において、摩擦調整材として用いられているゴムダストやカシューダストなどを挙げることができる。
【0016】
前記有機繊維としては、特に制限はなく、従来摩擦材の材料として用いられている公知の有機繊維、例えばアラミド繊維、フェノール樹脂繊維、アクリル樹脂繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリエステル繊維、レーヨンなどの中から、適宜選択して用いることができる。
【0017】
前記ゴムダストは、具体的には加硫もしくは未加硫の天然もしくは合成ゴムからなる粒子である。また、前記合成ゴムダストとしては、例えばSBR(スチレン・ブタジエンゴム)やNBR(ニトリル・ブタジエンゴム)等を代表的に挙げることができ、タイヤトレッドゴムを粉砕したゴムダストも含まれる。
【0018】
一方、カシューダストとしては、例えばフルフラールを硬化剤として用いたフルフラール変性カシューダスト、ニトリル系ゴムおよびアクリル系ゴムで変性した軟質カシューダストなどがある。
【0019】
(リン酸塩)
本発明の耐熱性有機材料は、前述した低耐熱性有機材料の表面に、リン酸塩の被覆層を設けたものであって、該被覆層の形成に用いるリン酸塩としては、それを構成する金属が、周期表(長周期型)1族、2族、12族または13族に属する金属であるものが好ましい。具体的には1族に属するNa、K;2族に属するMg;12族に属するZn;13族に属するAl;などを好ましく挙げることができる。耐熱性有機材料の表面処理に用いるリン酸塩としては、例えばリン酸アルミニウム類、リン酸マグネシウム類、リン酸カルシウム類、リン酸カリウム類、リン酸ナトリウム類およびリン酸亜鉛類の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらのリン酸塩は、水溶性やpHなどの観点から、リン酸水素塩が好ましい。
【0020】
例えば、リン酸アルミニウム類としては、リン酸二水素アルミニウム[Al(HPO]、リン酸水素アルミニウム[Al(HPO]が、リン酸マグネシウム類としては、リン酸水素マグネシウム[MgHPO]、リン酸二水素マグネシウム[Mg(HPO]が、リン酸カルシウム類としては、リン酸二水素カルシウム[Ca(HPO]、リン酸水素カルシウム[CaHPO]、リン酸亜鉛カルシウム[ZnCa(PO]が、リン酸カリウム類としては、リン酸二水素カリウム[KHPO]が、リン酸水素二カリウム[KHPO]が、リン酸ナトリウム類としては、リン酸二水素ナトリウム[NaHPO]、リン酸水素二ナトリウム[NaHPO]、リン酸亜鉛類としては、リン酸水素亜鉛[ZnHPO]、リン酸二水素亜鉛[Zn(HPO]が挙げられる。
【0021】
これらのリン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、性能の観点から、リン酸二水素アルミニウムおよびリン酸二水素マグネシウムが好ましく、特にリン酸二水素アルミニウムが好適である。
【0022】
本発明においては、前記の低耐熱性有機材料を、前記リン酸塩を含有する水性溶液中に浸漬処理したのち、乾燥処理することにより、該低耐熱性有機材料の表面にリン酸塩の被覆層を形成させる。
【0023】
前記のリン酸塩を含有する水性溶液のリン酸塩濃度は、0.3〜1.3質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜1.0質量%である。水性溶液を構成する水性媒体としては、水や、水と低級アルコールとの混合物などを用いことができる。リン酸塩被覆層の厚さは、通常5〜100nm程度であり、好ましくは5〜50nmである。このように、低耐熱性有機材料表面に、リン酸塩被覆層を設けることにより、所望の耐熱性有機材料が得られる。
【0024】
[耐熱性有機材料の製造方法]
本発明はまた、耐熱性有機材料の製造方法をも提供する。
本発明の耐熱性有機材料の製造方法は、TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料を、リン酸塩含有水性溶液中に浸漬処理したのち、乾燥処理することを特徴とする。
【0025】
リン酸塩の種類および濃度については、前述で説明したとおりである。浸漬処理条件としては、特に制限はないが、通常リン酸塩水溶液100質量部に対して、低耐熱性有機材料を0.1〜5質量部程度、好ましくは0.1〜2.5質量部の割合で加え、好ましくは10〜80℃、より好ましくは25〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃の温度にて、15〜120分間程度、好ましくは30〜60分間充分に攪拌することにより、浸漬処理を行う。
【0026】
乾燥処理は、低耐熱性材料として、ゴムダストやカシューダストを用いる場合には、100〜120℃程度の温度で20〜30時間程度加熱することにより、行うことができる。
【0027】
一方、低耐熱性材料として、有機繊維を用いる場合、100〜120℃程度の温度で40〜90秒間程度加熱して乾燥処理したのち、さらに170〜250℃程度の温度にて、0.5〜60分間程度熱処理を行うことが好ましい。
【0028】
このようにして、低耐熱性有機材料表面に、厚さ5〜100nm程度、好ましくは5〜50nmのリン酸塩被覆層を有する、本発明の耐熱性有機材料を得ることができる。
【0029】
本発明の耐熱性有機材料は、その原料である低耐熱性有機材料に比べて耐熱性に優れており、ブレーキ用摩擦材や、摺動部品、例えばクラッチ、フェーシングなどに好適に用いられる。
【0030】
本発明はまた、前述した本発明の耐熱性有機材料を含む、ブレーキ用摩擦材及び摺動部品をも提供する。
【0031】
[ブレーキ用摩擦材]
本発明のブレーキ用摩擦材は、前述した本発明の耐熱性有機材料を含むことを特徴とする。
本発明のブレーキ用摩擦材は、バインダー樹脂、固体潤滑材、繊維状補強材、摩擦調整材およびその他フィラーなどを含む摩擦材形成用材料を用い、常法に従って成形することにより、得ることができる。
【0032】
本発明においては、前記の繊維状補強材として、表面にリン酸塩被覆層を有する有機繊維(以下、耐熱性有機繊維と称することがある。)を、少なくとも用いることにより、また摩擦調整材として、表面にリン酸塩被覆層を有する、ゴムダスト(以下、耐熱性ゴムダストと称することがある。)やカシューダスト(以下、耐熱性カシューダストと称することがある。)を、少なくとも用いることにより、耐熱性に優れた摩擦材が得られる。
【0033】
当該摩擦材形成用材料におけるバインダー樹脂としては、特に制限はなく、従来、ブレーキ用摩擦材において、バインダー樹脂として知られている公知の熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂などの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0034】
当該摩擦材形成用材料における固体潤滑材としては、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択して併用することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
当該摩擦材形成用材料における繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができるが、本発明の摩擦材においては、少なくとも本発明の耐熱性有機繊維を用いる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また、当該摩擦材形成用材料における摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、マグネシア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、真ちゅう、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
なお、前記ゴムダストやカシューダストとして、本発明の耐熱性ゴムダストや耐熱性カシューダストを用いることにより、より一層耐熱性に優れるブレーキ用摩擦材が得られる。
【0038】
当該摩擦材形成用材料においては、補強材や摩擦調整材などのその他フィラーとして、膨潤性粘土鉱物を含有させることができる。この膨潤性粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0039】
なお、当該摩擦材形成用材料においては、前記の潤滑材、摩擦調整材およびその他フィラーの中で無機系フィラーは、当該材料中への分散性を良好なものとするために、有機化合物で処理されたフィラーを用いることができる。
【0040】
有機化合物で処理されたフィラーとしては、例えば膨潤性粘土鉱物を始め、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどの、有機化合物による処理物を挙げることができる。
【0041】
本発明の摩擦材を作製するには、前述した摩擦材形成用材料を金型などに充填し、常温にて5〜30MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度130〜190℃程度、圧力10〜100MPa程度の条件で、5〜35分間程度加熱・加圧成形したのち、必要に応じ160〜270℃程度の温度で1〜10時間程度、熱処理を行うことで、所望の摩擦材を作製することができる。
【0042】
このようにして作製された本発明のブレーキ用摩擦材は、高温域での耐摩耗性が向上し、製品寿命が延びる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた未処理有機材料及び処理有機材料の耐熱性は、下記の方法に従って評価した。
【0044】
<耐熱性の評価>
・分析装置: Mac Science社製 示差−熱重量分析装置「TG−DTA(2000S)」
・条件: 室温〜800℃、空気中10℃/minで昇温
上記の分析装置を用い、上記条件で耐熱性試験を行い、300〜600℃の温度範囲における質量残存率を測定した。
【0045】
実施例1 耐熱性アラミド繊維の作製
リン酸二水素アルミニウム[純正化学社製、試薬一級、形状:粉末]を、エタノールと蒸留水との質量比が1:10になるように混合した水性溶液2.5Lに溶解させて、リン酸アルミニウム水性溶液(リン酸二水素アルミニウム濃度:0.5質量%、水性溶液温度:50℃)を調製し、東レ・デュポン社製アラミド繊維10gを上記水性溶液2.5L中に浸漬し、マグネットスターラーで5分間攪拌後、該水性溶液からアラミド繊維を取り出し、110℃にて1時間乾燥させた。その後、200℃にて5分間熱処理することにより、繊維表面にリン酸アルミニウムで被覆された(被覆層の厚さ約20nm)処理有機材料である耐熱性アラミド繊維を得た。
表1に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表2に各温度における質量残存率を示す。また、図1に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0046】
実施例2
実施例1において、リン酸アルミニウム水性溶液のリン酸二水素アルミニウム濃度を1.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、耐熱性アラミド繊維を得た。
表1に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表2に各温度における質量残存率を示す。また、図1に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0047】
実施例3
実施例1において、リン酸二水素アルミニウムをリン酸二水素マグネシウム[純正化学社製、試薬一級]に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、耐熱性アラミド繊維を得た。
表1に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表2に各温度における質量残存率を示す。また、図1に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0048】
比較例1
実施例1で原料として用いたアラミド繊維を、比較例1の未処理アラミド繊維とした。
表2に各温度における質量残存率を示す。また、図1に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表2および図1から分かるように、実施例1〜3のものは比較例1のものに比べて、300〜550℃の温度範囲において3〜5質量%程度、質量残存率が大きくなる傾向を示す。
【0052】
また、比較例1は、600℃にて質量残存率が1.2質量%になり、質量がほぼゼロになるが、実施例1〜3は、600℃で質量残存率が14.6〜15.4質量%であり、リン酸塩被覆による酸素侵入抑制効果が確認できた。
【0053】
実施例4 耐熱性ゴムダストの作製
リン酸二水素アルミニウム[純正化学社製、試薬一級、形状:粉末]を、エタノールと蒸留水との質量比が1:10になるように混合した水性溶液400gに溶解させて、リン酸アルミニウム水性溶液(リン酸二水素アルミニウム濃度:0.5質量%、水性溶液温度:50℃)を調製し、合成ゴムダスト10gを上記水性溶液400g中に浸漬し、マグネットスターラーで60分間攪拌後、吸引ろ過して表面処理したゴムダストを取り出し、110℃にて24時間乾燥させることにより、リン酸アルミニウムで被覆された(被覆層の厚さ約20nm)処理有機材料である耐熱性ゴムダストを得た。
表3に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表4に各温度における質量残存率を示す。また、図2に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0054】
実施例5
実施例4において、リン酸アルミニウム水性溶液のリン酸二水素アルミニウム濃度を1.0質量%に変更した以外は、実施例4と同様な操作を行い、耐熱性ゴムダストを得た。
表3に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表4に各温度における質量残存率を示す。また、図2に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0055】
実施例6
実施例4において、リン酸二水素アルミニウムをリン酸二水素マグネシウム[純正化学社製、試薬一級]に変更した以外は、実施例4と同様な操作を行い、耐熱性ゴムダストを得た。
表3に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表4に各温度における質量残存率を示す。また、図2に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0056】
比較例2
実施例4で原料として用いたゴムダストを、比較例2の未処理ゴムダストとした。
表4に各温度における質量残存率を示す。また、図2に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表4および図2から分かるように、400〜600℃の温度範囲において、実施例4〜6のものは比較例2のものに比べて、5〜7質量%程度、質量残存率が大きくなる傾向を示す。
【0060】
また、比較例2は、600℃にて質量残存率が0.5質量%になり、質量がほぼゼロになるが、実施例4〜6は、600℃で質量残存率が4.2〜7.1質量%であり、リン酸塩被覆による酸素侵入抑制効果が確認できた。
【0061】
実施例7 耐熱性カシューダストの作製
リン酸二水素アルミニウム[純正化学社製、試薬一級、形状:粉末]を、エタノールと蒸留水との質量比が1:10になるように混合した水性溶液400gに溶解させて、リン酸アルミニウム水性溶液(リン酸二水素アルミニウム濃度:0.5質量%、水性溶液温度:50℃)を調製し、フルフラール変性カシューダスト10gを上記水性溶液400g中に浸漬し、マグネットスターラーで60分間攪拌後、吸引ろ過して表面処理したカシューダストを取り出し、110℃にて24時間乾燥させることにより、リン酸アルミニウムで被覆された(被覆層の厚さ約20nm)処理有機材料である耐熱性カシューダストを得た。
表5に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表6に各温度における質量残存率を示す。また、図3に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0062】
実施例8
実施例7において、リン酸アルミニウム水性溶液のリン酸二水素アルミニウム濃度を1.0質量%に変更した以外は、実施例7と同様な操作を行い、耐熱性カシューダストを得た。
表5に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表6に各温度における質量残存率を示す。また、図3に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0063】
実施例9
実施例7において、リン酸二水素アルミニウムをリン酸二水素マグネシウム[純正化学社製、試薬一級]に変更した以外は、実施例7と同様な操作を行い、耐熱性カシューダストを得た。
表5に、リン酸塩の種類及びリン酸塩水性溶液の濃度を示すと共に、表6に各温度における質量残存率を示す。また、図3に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0064】
比較例3
実施例7で原料として用いたフルフラール変性カシューダストを、比較例3の未処理カシューダストとした。
表5に各温度における質量残存率を示す。また、図3に、温度と質量残存率の関係をグラフで示す。
【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
表6および図3から分かるように、500〜600℃の温度範囲において、実施例7〜9のものは比較例3のものに比べて、5〜20質量%程度、質量残存率が大きくなる傾向を示す。
また、比較例3は、600℃にて質量残存率が0.0質量%になるが、実施例7〜9は、600℃で質量残存率が4.9〜5.2質量%であり、リン酸塩被覆による酸素侵入抑制効果が確認できた。
【0068】
実施例10〜18および比較例4〜6
表7〜表9に示す配合組成に従って、各成分をミキサーにより混合することにより、各摩擦材形成用材料を調製した。
この各摩擦材形成用材料を、それぞれ予備成形型に投入し、常温、30MPaで加圧して予備成形を行った。ついで、各予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを熱成形型にセットし、200℃、50MPa、600秒で加熱加圧成形を行った。熱成形後300℃、3時間加熱を行い摩擦材試料とした。
この摩擦材試料について、表10に示すJASO C403に準拠した試験条件で摩耗試験を行い、摩擦材摩耗量およびロータ摩耗量を測定した。結果を表11に示す。
【0069】
【表7】

【0070】
【表8】

【0071】
【表9】

【0072】
【表10】

【0073】
【表11】

【0074】
表11より、以下のことが明らかとなった。
摩擦材を製造し、その耐熱性を評価した結果、アラミド繊維、ゴムダストおよびカシューダスト全てにおいて、リン酸塩被膜層を設けたことにより、摩擦材摩耗量が未処理品に比べて低減した。また、ロータ摩耗量は同等であり、問題はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の耐熱性有機材料は、低耐熱性有機材料、例えば有機繊維、ゴムダスト、カシューダストなどの表面にリン酸塩被覆層を形成させて得られた耐熱性の良好な有機材料であって、ブレーキ用摩擦材や摺動部品などに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料の表面にリン酸塩被覆層を設けたことを特徴とする耐熱性有機材料。
【請求項2】
有機材料が、有機繊維、ゴムダストまたはカシューダトである請求項1に記載の耐熱性有機材料。
【請求項3】
リン酸塩を構成する金属が、周期表(長周期型)1族、2族、12族または13族に属する金属である請求項1または2に記載の耐熱性有機材料。
【請求項4】
TG−DTA分析機器により測定される、質量残存率が10質量%減量した際の温度が500℃以下である有機材料を、リン酸塩含有水性溶液中に浸漬処理したのち、乾燥処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性有機材料の製造方法。
【請求項5】
リン酸塩含有水性溶液中のリン酸塩濃度が、0.3〜1.3質量%である請求項4に記載の製造方法、
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性有機材料を含むことを特徴とするブレーキ摩擦材。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性有機材料を含むことを特徴とする摺動部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−35473(P2012−35473A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176561(P2010−176561)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】