説明

耐雨性が改良された農園芸用水和剤

【課題】茎葉散布処理において葉面上での殺菌活性成分マンゼブの耐雨性を向上することにより効果の持続性を改良し、かつ高濃度水希釈性の向上した農園芸用水和剤を得る。
【解決手段】マンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を含有する粉砕された粒子からなり、当該粒子の中位径が0.1〜3μm、且つ最大粒径10μm以下の粒度分布を有することを特徴とする農園芸用水和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛イオン配位マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート(以下「マンゼブ」と略記する。)、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を含有する農園芸用水和剤組成物に関する。更に詳しくは、使用時に水に希釈する際及び希釈液の物理的安定性(以下「水希釈性」と称する場合がある。)が良好で、且つ耐雨性を向上した農園芸用水和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マンゼブは、柑橘を中心とした果樹場面、野菜などの広範囲の病害に卓効があり、また作物に対する安全性も高い化合物で、長年農園芸用殺菌剤として使用されている。農園芸用農薬組成物の使用場面では、乳剤、フロアブル、水和剤及び顆粒水和剤などに製剤化した薬剤を水で一定割合に希釈した薬液として、専用の散布装置を用いて対象となる作物に散布する処理方法が一般的である。このような水希釈製剤の求められる性能として、希釈時に薬剤が速やかに水になじみ、均一に分散し、また、分散状態を長く保持する、即ち懸垂性に優れることが望まれる。また、散布機器によっては実使用濃度よりも濃厚な希釈液を作製し、使用時に2段階希釈するような場合もあり、このような施用場面では高濃度水希釈液における分散安定性(以下「高濃度水希釈性」と称する場合がある。)も重要である。水和剤においてこのような濡れ性、均一分散性を向上するためには濡れ効果の高い湿潤剤ならびに分散性の高い分散剤を併用して用いる技術が一般的に採用される。一方で、濡れ・分散剤を過剰に配合した場合には、作物に対する湿潤効果が過度に発揮され、結果的に作物に対する薬剤の付着量が減少することがある。さらに降雨時には製剤中の濡れ・分散剤の効果により薬剤が容易に流亡してしまい、期待される効果が得られないことがある。特にマンゼブのような非浸透移行性の殺菌剤の場合は、散布された活性化合物は植物体内に浸透移行することなくそのまま葉面上に残存するために、降雨による残効性の低下を受けやすい傾向にある。このため所定の殺菌効果を維持するために過剰な農薬の散布が行われ、施用者に多大の労力及び経済的負担を強い、環境汚染を引き起こす原因となることが懸念される。
【0003】
マンゼブを配合した水和剤の水希釈性を向上する技術としては、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、亜鉛イオン配位マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート又はジンクプロピレンビスジチオカーバメートより成る群から選ばれた薬剤の少なくとも1種を有効成分として含有し、かつ凝集防止剤として組成物当りポリビニルピロリドン0.2〜0.4重量%及び/又は分子量5000以上のポリオキシアルキレンアルキルアミン系界面活性剤0.5〜3.0重量%を配合したことを特徴とする農園芸用水和剤組成物(例えば、特許文献1:特許第2516015号);a)1以上のジチオカルバメート殺菌剤、及びb)分子量10,000〜80,000、加水分解レベル77パーセント〜95パーセント、及び粒子サイズ800ミクロン未満のポリビニルアルコールを含む組成物であって、該ポリビニルアルコールが組成物の全重量の0.1〜2パーセントである、組成物(例えば、特許文献2:特許第4380839号);マンネブと不溶性塩基性亜鉛塩を含有する殺菌製剤(例えば、特許文献3:特公昭47−34927号);マンネブと酸化亜鉛を含有する農園芸用殺菌剤組成物(例えば、特許文献4:特公昭48−7765号)などの技術が公知であるが、これらはいずれも水希釈性を向上するのと同時に耐雨性を向上する技術に関しては言及されていない。また、マンネブ、マンゼブ、ジネブ、ジラム、チウラムなる群から選ばれる1種以上の農薬活性成分、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛なる群から選ばれる1種以上の金属酸化物、及び界面活性剤を含有する農園芸用水和剤であって、かつ該水和剤の0.2%(W/W)水希釈液の20℃における表面張力が67〜72mN/mであることを特徴とする農園芸用水和剤(例えば、特許文献5:特許第4632509号)では、水希釈液の表面張力を限定することにより散布時の作物への付着と水希釈性の向上を意図した技術が公知であるが、耐雨性向上に関しては言及されていない。その上、特許文献5に記載の技術では、薬液の表面張力を厳密に管理する必要があるため界面活性剤の配合が極めて限定的となり、農薬活性成分の効果を最大限に引き出すような組成物の調製が難しいという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2516015号公報
【特許文献2】特許第4380839号公報
【特許文献3】特公昭47−34927号公報
【特許文献4】特公昭48−7765号公報
【特許文献5】特許第4632509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、茎葉散布処理において葉面上での殺菌活性成分マンゼブの耐雨性を向上することにより、殺菌効果の持続性を改良し、かつ高濃度水希釈性の向上した農園芸用水和剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことにマンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を均一に配合、粉砕した粒子の中位径が0.1〜3μm且つ最大粒径10μm以下の粒度分布を有する水和剤が、良好な高濃度水希釈性と耐雨性を同時に達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、マンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を含有する粉砕された粒子からなり、該粒子の中位径が0.1〜3μm、且つ最大粒径が10μm以下の粒度分布を有することを特徴とする農園芸用水和剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、所定の成分を配合してなる農園芸用水和剤の粒子の中位径を制御することで、耐雨性の向上、例えば、茎葉散布処理における葉面上での殺菌活性成分マンゼブの耐雨性を向上させることができる。併せて該水和剤の粒度を微細化することで、一般的に性能を維持することが困難である水中分散性をも良好に保ち、且つ高濃度水希釈性を向上することができる。すなわち、本発明により、従来技術では極めて困難であった耐雨性と水希釈性の向上の両立が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、殺菌活性成分としてのマンゼブに酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を均一に配合し、粉砕した粒子の中位径が0.1〜3μmであり、且つ最大粒径10μm以下の粒度分布を有することを特徴とする、耐雨性が改良され、且つ水希釈性の良好な茎葉散布処理用殺菌剤水和剤である。
【0010】
[定義]
本明細書において、用語「中位径」とは、粉体の粒度分布についてある粒子径より大きい個数又は質量が全粉体のそれの50%を占める時の粒子径、すなわち、個数又は質量基準の粒径分布の累積値が50%を示す粒子径である。また、用語「最大粒径」とは、累積粒度分布において、小粒径値からの累積値で95%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の粒子が含まれるような粒子径の上限値をいう。
【0011】
[成分及び組成]
本発明に係る農薬活性成分としてのマンゼブの配合量は、農園芸用水和剤中に、通常、0.5〜95重量%であり、好適には、10〜90重量%である。
【0012】
本発明において使用する酸化亜鉛は、任意の酸化亜鉛を使用可能であるが、中位径が0.1〜10μmの粉末状のものが好適であり、0.1〜3μmの微細粉末が特に好適である。酸化亜鉛の水和剤中の配合割合は、水和剤の総量に対して0.1〜10重量%が好適であり、さらに1〜5重量%の配合が好適である。
【0013】
本発明において使用するリグニンスルホン酸塩は、特に形態を選ばないが、粉末状のものが好適である。リグニンスルホン酸の水和剤中の配合割合は、水和剤の総量に対して0.1〜10重量%が好適であり、さらに1〜5重量%の配合が好適である。
【0014】
本発明の農園芸用水和剤は、上記マンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩に加え、さらにデキストリン、澱粉又は澱粉誘導体を含有させてもよい。デキストリンとは、例えば、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉などの各種デンプンから、酸分解法やアルカリ分解法、酵素分解法、酸焙焼法などによって得られたデキストリンである。
【0015】
本発明の1つの実施形態におけるデキストリンの使用量は、通常、農園芸用水和剤中に、0.1〜50重量%であり、好適には0.1〜10重量%である。
【0016】
上記実施形態において使用される澱粉又は澱粉誘導体とは、例えば、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉などの澱粉と、それら澱粉の無水グルコース残基の水酸基に、反応性に富む種々の官能基を結合させることによって得られた澱粉誘導体である。
【0017】
さらに上記澱粉誘導体は、好適には、エーテル化澱粉、エステル化澱粉又は架橋澱粉であり、更により好適には、エステル化澱粉である。中でも、酢酸澱粉が好ましく、具体的には、酢酸澱粉のZ−300F、Z−100(以上、商品名。日澱化学株式会社製。)及びファラジムT(以上、商品名。松谷化学工業株式会社製。)等が挙げられる。
【0018】
本発明の1つの実施形態における農園芸用水和剤中の澱粉又は澱粉誘導体の使用量は、通常、農園芸用水和剤中に、0.1〜50重量%であり、好適には0.1〜10重量%である。
【0019】
本発明の農園芸用水和剤は、必要に応じて、界面活性剤又はその他補助剤を配合することができる。
【0020】
1つの実施形態において使用される界面活性剤としては、通常の農薬に用いられるものであれば特に限定はなく、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤などのいずれの界面活性剤をも用いることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、α−オレフィンスルホン酸、α−スルホ脂肪酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸の縮合物、フェノールスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルケニルスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、スチレンスルホン酸とカルボン酸の縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル、アルキル又はジアルキルスルホコハク酸、高級脂肪酸等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又は種々のアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアリールアリールエーテルリン酸エステル及びこれらリン酸エステルのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又は種々のアミン塩などが挙げられ、好適には、アルキルナフタレンスルホン酸縮合物の塩、ポリアクリル酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩又は、(ジ)アルキルスルホコハク酸塩である。
【0022】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアリールアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの共重合物、高級脂肪酸アルカノールアマイドなどが挙げられ、水に対する溶解度や湿潤作用の点から、好適には、HLB値が9〜13の範囲のものである。
【0023】
尚、これらエチレンオキサイドを付加したタイプの界面活性剤においては、その一部にプロピレンオキサイドを含有してもよい。
【0024】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、アミンオキサイドなどが挙げられる。
【0025】
両性イオン性界面活性剤としては、例えば、アミノ酸型やベタイン型の界面活性剤が挙げられる。
【0026】
本発明の1つの実施形態で用いられる界面活性剤としては、好適には、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤であり、より好適には、アルキルナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム又はHLB値が9〜13の非イオン性界面活性剤である。
【0027】
本発明の1つの実施形態で用いられる界面活性剤の量は、通常、農園芸用水和剤中に、0.01〜20重量%であり、好適には、0.1〜10重量%である。
【0028】
本発明の農園芸用水和剤には、通常の農園芸用水和剤に用いられるその他の添加剤を含有させることができ、添加剤としては、例えば、着色剤、無機及び有機担体、防腐剤、pH調節剤などが挙げられ、これらは使用される農薬活性成分の種類に応じて選択すればよい。
【0029】
着色剤としては、通常農薬に用いられるものであれば特に限定はなく、例えば、色素が挙げられ、好適には、ブリリアントブルーFCF、シアニングリーンG又はエリオグリーンGである。用いられる着色剤の量は、通常、農園芸用水和剤中に、0.05〜0.5重量%であり、好適には、0.1〜0.3重量%である。
【0030】
本発明の農園芸用水和剤に配合出来る担体としては、例えば、ベントナイト、タルク、クレー、カオリン、珪藻土、無晶形二酸化ケイ素、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムのような、一般的に農薬の担体として用いられる鉱物質微粉;グルコース、砂糖及び乳糖のような糖類、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩類、澱粉、デキストリン及び/又はその誘導体並びに微結晶セルロースのような有機物;硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム及び塩化カリウムのような水溶性無機塩類;又は尿素であり得、好適にはデキストリンである。担体の配合量は、本発明の農園芸用水和剤の必須成分を除いた必要な最小量であり、担体の種類により異なるが、通常、農園芸用水和剤中に、0.1〜90重量%であり、好適には、0.5〜70重量%である。
【0031】
防腐剤としては、通常農薬に用いられるものであれば特に限定はなく、好適には、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラクロロメタキシレノ−ル、パラオキシ安息香酸ブチル、又はデヒドロ酢酸ナトリウムである。用いられる防腐剤の量は、通常、農園芸用水和剤中に、0.1〜3重量%であり、好適には、0.2〜2重量%である。
【0032】
pH調節剤としては、通常農薬に用いられるものであれば特に限定はなく、例えば、塩酸、リン酸のような無機酸;クエン酸、フタル酸、コハク酸のような有機酸;クエン酸ナトリウム、フタル酸水素カリウムのような有機金属塩;リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸ナトリウムのような無機金属塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような水酸化物;及び、トリエタノールアミンのような有機アミン類等を挙げることができ、好適には、無機酸、無機金属塩、水酸化物であり、より好適には、塩酸、クエン酸、コハク酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は炭酸ナトリウムである。また、使用されるpH調節剤は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0033】
pH調節剤は、通常、水で0.1〜5規定の適当な濃度に希釈し、その希釈液を0.01〜5重量%添加することにより使用される。
【0034】
[製造方法]
本発明の農園芸用水和剤は、種々の方法で製造することができる。例えば、乾式粉砕する場合は、マンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を少なくとも含み、場合によりデキストリン、澱粉又は澱粉誘導体と、また必要に応じて界面活性剤及び担体と共に混合し、以下のような乾式粉砕機を用いて、所定の粒度まで乾式粉砕する。次いで必要に応じてその他補助成分を加えて混合することにより、本発明の農園芸用水和剤を得ることができる。これらの成分は一度に配合してもよく、または成分ごとに分割して配合し、その都度粉砕しながら所定の粒度に調整しても良い。所定の粒度とは、粉砕した粒子の中位径0.1〜3μm、好ましくは0.5〜2.0μm、さらに好ましくは1.0〜2.0μmであり、且つ最大粒径が10μm以下となるような粒度分布である。粒度の調整は当業者にとっては周知の技術であり、例えば、用いる乾式粉砕機の出力強度、供給能力及び粉砕時間等を調節することにより所定の粒度に調整することができる。
【0035】
乾式粉砕機は、例えば、SK−ジェット・オー・マイザー(株式会社セイシン企業)、シングルトラック・ジェットミル(株式会社セイシン企業)等のジェットミル、ACMパルペライザー(ホソカワミクロン株式会社)、サンプルミル(株式会社ダルトン)等のハンマーミル、ピンミル、ボールミル、ターボミル等が挙げられる。このうちハンマーミル、ピンミル、ボールミル等の衝撃式粉砕機を用いた場合、微細な粒度を得るためには繰り返し粉砕する必要があり、著しく生産性が低下する。そのため本発明に係る中位径0.1〜3μmの水和剤を効率的に得るためにはSK−ジェット・オー・マイザーやシングルトラック・ジェットミル等のジェットミルを用いるのが好適である。
【0036】
本発明の農園芸用水和剤は、耐雨性を向上するために、配合成分の粒度分布を中位径0.1〜3μm且つ最大粒径10μm以下となるまで粉砕する必要がある。中位径が0.1μmより小さい場合は、水和剤のハンドリング性能が著しく低下し良好な物性が得られず、また中位径が3μmより大きい場合は良好な耐雨性を得ることが出来ない。最大粒径が10μmよりも大きい場合は粒度分布の広がりが大きくなり、安定的に良好な耐雨性性能を得ることが出来ない。一般的に水和剤の粒度が微細になると固形担体の比表面積が増大するため、水中分散性を向上するためには多量の界面活性剤が必要となり、結果として分散性が低下してしまう傾向にある。一方、本発明では、マンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を含有する処方において中位径0.1〜3μm且つ最大粒径10μm以下の粒度を有するまで微粉砕した水和剤とすることで従来技術では極めて困難であった耐雨性と水希釈性の向上の両立が可能となる。
【0037】
本発明の農園芸用水和剤の中位径や最大粒径を算出するための粒度分布は、レーザー回折法により測定することができる。例えば、Fraunhofer回折およびMie散乱理論を利用したレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(Laser diffraction particle size analyzer)LA−700ならびにLA−950(堀場製作所製)が使用できる。測定方法及び測定条件は、使用する装置の標準的な使用方法に従って行うことができ、例えば、レーザー回折法(JIS Z8825−1)によって得られる累積50%の粒径を中位径とし、粒度分布の最大粒径フラクションの上限値を最大粒径とすることができる。
【0038】
また、本発明の好ましい実施形態における農園芸用水和剤は、0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力が、67mN/mより小さい、更に好ましくは60mN/mより小さいことを特徴とする。
【0039】
[使用方法]
本発明の農園芸用水和剤の使用方法としては、通常の農薬散布方法を用いることができる。本発明の農園芸用水和剤を水に希釈して使用する場合、通常、2〜20000倍程度に希釈して散布液を調製し、この散布液を散布することができる。散布液の散布方法としては、希釈液をスプリンクラー等の噴霧器やジョロ等による散布、又は近年普及してきているラジコンヘリ(RCヘリ)等のラジコンによる方法などが挙げられる。
【0040】
本発明の農園芸用水和剤は湿気を避けるため、防湿性の容器などに保存するのが好ましい。このような容器としては、例えば、樹脂、アルミ、紙等を必要に応じて貼り合わせた材料や、樹脂や紙等の表面にアルミや珪酸を蒸着させた材料からなる瓶、袋、箱などが望ましい。また、使用時の粉立ち防止や使用者と薬剤の接触を避けるため、必要に応じて水溶性フィルム袋に包装して防湿性の容器などに保存して使用することができる。水溶性フィルムは、水に迅速に溶解あるいは分散するフィルムが適当であり、フィルムの素材としては、ポリビニルアルコール、ポリオキシポリアルキレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸、ゼラチン、プルラン及び可溶化澱粉等が例示される。また、用いられる水溶性フィルムの厚さは特に限定されないが、一般に20μm〜100μm程度が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例、比較例及び試験例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、ここにおいて用いられる%及び部は、特に記載がない限り、全て質量に関する%及び部を示す。なお、以下の実施例及び比較例における粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置LA−700(堀場製作所製)にて以下の測定法により測定した。(中位径、最大粒径の測定法)試料約0.5gに、0.2%POLYFON H液{POLYFON H(リグニンスルホン酸塩、Westvaco製)100ミリリットルを加え、3分間超音波分散を行い試料液とする。粒度測定機の超音波バスに、分散媒(精製水)約250ミリリットルを入れ、試料液を透過率が70〜90%となるように超音波バスに滴下し、あらかじめ下記条件を設定した粒度測定機により粒度分布を求める。得られた粒度分布より、中位径および最大粒径(μm)を求める。なお、上記粒度測定機(LA−700)の測定条件は、攪拌モーターの速度:「4」、超音波分散動作時間:「5min」、超音波終了後の待ち時間:「0sec」、循環ポンプの速度:「3」、データ取り込み回数:「10」、分布形態:「1」、及び、屈折率設定:「1.4」である。また本発明における表面張力は、水温20℃条件下においてデュヌイ表面張力試験器((株)伊藤製作所製)により白金プレートを用いて測定した。
【0042】
[実施例1]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、亜鉛華3号4.7部、リグニンスルホン酸ナトリウム(日本製紙ケミカル製、商品名:サンエキスP252)1.5部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.5μm、最大粒径は8.82μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は57mN/mであった。
【0043】
[実施例2]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、JIS酸化亜鉛2種4.7部、リグニンスルホン酸ナトリウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスNP)1.5部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.4μm、最大粒径は7.70μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は58mN/mであった。
【0044】
[実施例3]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、活性亜鉛華4.7部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)1.5部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.4μm、最大粒径は7.70μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は57mN/mであった。
【0045】
[実施例4]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、活性亜鉛華3.2部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)3.0部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.4μm、最大粒径は7.70μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は55mN/mであった。
【0046】
[実施例5]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、活性亜鉛華2.5部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)3.0部、デキストリン(日澱化学製、商品名:アミコールNo.1)0.7部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.4μm、最大粒径は7.70μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は54mN/mであった。
【0047】
[実施例6]
UPL社製マンゼブ原体88.8部、活性亜鉛華2.5部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)3.0部、デキストリン(日澱化学製、商品名:アミコールNo.1)5.7部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.4μm、最大粒径は7.70μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は55mN/mであった。
【0048】
[比較例1]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、活性亜鉛2種4.7部、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(アクゾノーベル製、商品名:モルウェットD425パウダー)1.5部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.5μm、最大粒径は8.82μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は58mN/mであった。
【0049】
[比較例2]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、活性亜鉛華4.7部、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(アクゾノーベル製、商品名:モルウェットD425パウダー)1.5部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.5μm、最大粒径は7.70μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は58mN/mであった。
【0050】
[比較例3]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)1.5部、デキストリン(日澱化学製、商品名:アミコールNo.1)1.0部、カオリンクレー(山陽クレー工業製、商品名カオリンHA)3.7部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.9μm、最大粒径は8.82μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は56mN/mであった。
【0051】
[比較例4]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、亜鉛華3号2.7部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王製、商品名:ネオペレックスNo.6Fパウダー)3.5部を均一に混合後、ジェット・オー・マイザー0101型により混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は1.5μm、最大粒径は8.82μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は50mN/mであった。
【0052】
[比較例5]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、亜鉛華3号4.7部、リグニンスルホン酸ナトリウム(日本製紙ケミカル製、商品名:サンエキスP252)1.5部を均一に混合後、不二パウダルサンプルミルにより混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は3.4μm、最大粒径は11.56μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は57mN/mであった。
【0053】
[比較例6]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、亜鉛華3号4.7部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)1.5部を均一に混合後、不二パウダルサンプルミルにより混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は3.2μm、最大粒径は11.56μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は57mN/mであった。
【0054】
[比較例7]
UPL社製マンゼブ原体93.8部、活性亜鉛華2.5部、リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル製、商品名:パールレックスCP)3.0部、デキストリン(日澱化学製、商品名:アミコールNo.1)0.7部を均一に混合後、不二パウダルサンプルミルにより混合、粉砕し、水和剤を得た。得られた水和剤の中位径は3.7μm、最大粒径は13.25μmであった。また0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力は55mN/mであった。
【0055】
[試験例1]
水中分散性
試料をスプーンなどでよくかき混ぜてほぐし、その中から20gを量りとり3度硬水200mlを入れた200ml容ビーカーに投入した。完全に水和した後、ガラス棒を用いて左回りに10回円を描くように撹拌し、水の流れがほとんどなくなってから同様に右回りに10回撹拌した。攪拌後、ただちに内容物を目開き355μmのフルイの上にあけ、ビーカー中に残留物があれば、洗ビンを用いて少量の水でフルイに移した。フルイの下から落ちる水が切れたのを確認し、内容物を静かに少量の水でビーカーに移し、湯煎上で大部分の水がなくなるまで乾固し、ついで105℃で1時間乾燥して重量を測定した。残渣の重量を以下の計算式にあてはめ分散率を算出し、算出した分散率から、以下の基準に基づき分散指数をA〜Dの4段階で評価した。分散指数が高いほど水中分散性良好であり散布性に優れる。評価結果を表1に示す。
判定基準
分散率=(20−残査の重量(g))/20×100
分散指数A 分散率90%以上
分散指数B 分散率80%以上90%未満
分散指数C 分散率70%以上80%未満
分散指数D 分散率70%未満
【0056】
[試験例2]
耐雨性試験
試料0.167gを三角フラスコに入れ、イオン交換水100mlを加えてよく撹拌し散布液を調製した。次いでターンテーブルに乗せた直径約5cmのみかん(品種:宮川早生)果実6つに対し、スプレーガンを用いて散布液を40ml散布した。風乾後、果実3つへ自動降雨装置を用いて1時間に50mmの割合で総量200mmになるまで降雨処理を行った。降雨処理後、果実表面に白く残存しているマンゼブの量を果実表面に対する面積の割合(白色面積率)として目視により算出した。同様に降雨処理を行わない果実についても白色面積率を算出し、以下の計算式で残存率を算出した。算出した残存率から以下の基準に基づき耐雨性をA〜Cの3段階で評価した。残存率が高いほど降雨後の有効成分の付着量が多く安定した薬効が得られる。評価結果を試験例1の結果と併せて表1に示す。
判定基準
残存率(%)= 降雨処理後の白色面積率 / 降雨処理前の白色面積率
耐雨性A 残存率50%以上
耐雨性B 残存率20%以上50%未満
耐雨性C 残存率20%未満
【0057】
【表1】

【0058】
試験例1〜2から明らかなように、本発明による農園芸用水和剤は比較例として挙げた公知技術等による製剤では達成困難であった良好な水中分散性(高濃度水希釈性)と、良好な耐雨性との両立した農園芸用水和剤を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の農園芸用水和剤は、希釈時の水中分散性に優れ、更には散布後の耐雨性が良好な水和剤であり、農業用として、有用な製剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンゼブ、酸化亜鉛及びリグニンスルホン酸塩を含有する粉砕された粒子からなり、該粒子の中位径が0.1〜3μm、且つ最大粒径10μm以下の粒度分布を有することを特徴とする農園芸用水和剤。
【請求項2】
該水和剤の0.2重量%水希釈液の20℃における表面張力が、67mN/mより小さいことを特徴とする請求項1に記載の農園芸用水和剤。
【請求項3】
酸化亜鉛の含有量が、水和剤の総量に対して0.1〜10重量%である請求項1又は2に記載の農園芸用水和剤。
【請求項4】
リグニンスルホン酸塩の含有量が、水和剤の総量に対して0.1〜10重量%である請求項1〜3いずれか1項に記載の農園芸用水和剤。
【請求項5】
更にデキストリン、澱粉又は澱粉誘導体を含有する請求項1〜4いずれか1項に記載の農園芸用水和剤。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の農園芸用水和剤を水溶性フィルムで包装してなる農園芸用水和剤包装物。

【公開番号】特開2013−1662(P2013−1662A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132021(P2011−132021)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】