説明

肝機能保護剤又は改善剤

【課題】 日常的な経口摂取に適した安全性を有し、肝機能の保護剤又は改善剤として実効のある肝機能保護剤又は改善剤を提供する。
【解決手段】 本発明は、日本酒から調製される濃縮物からなる肝機能保護剤又は改善剤、特にエタノールを含まないことを特徴とする日本酒濃縮物からなる肝機能保護剤又は改善剤であり、本発明の肝機能保護剤又は改善剤は、各種剤型の飲食品組成物に配合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本酒から調製される濃縮物からなる肝機能保護剤又は改善剤、並びに肝機能保護又は改善を目的とする飲食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、糖質、タンパク質、脂質等の栄養素の代謝調節や貯蔵を始め、胆汁の生成、不要な物質、有害な物質の分解、解毒等、多様な機能を担っている重要な臓器である。肝臓が、ウイルス感染、薬物や毒物、過剰なアルコールの摂取、乱れた食習慣、ストレス、喫煙等により慢性的或いは急性的に障害を受けると、肝炎が引き起こされ肝機能が低下し、重大な健康障害となって現われる。
【0003】
肝機能を評価する指標としては、通常、血中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ、以下GOTと略称する。)やアラニンアミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ、以下GPTと略称する。)の活性が用いられることが多い。これらの酵素は、肝細胞中の酵素であるが、ウイルス感染やアルコール等で障害を受けると、細胞から逸脱して血液中に漏出するため、血中におけるこれら酵素活性が上昇する。また、実験的な肝機能障害の発症モデルとしては、各種薬剤や毒物の投与による方法が知られており、例えば、D−ガラクトサミン(GalN)やコンカナバリンA(ConA)の投与による肝機能障害が挙げられる。
【0004】
このような肝障害を治療する製剤として、グリチルリチンやグルタチオンのような化学製剤や肝臓加水分解物やインターフェロンのような生物学的製剤が用いられているが、副作用の面から問題がある。一方、安全性の面で有利な天然物を起源とする肝機能保護剤や改善剤の開発も試みられており、例えば、菌体を有効成分とするもの(特許文献1)、食用キノコの抽出物を用いるもの(特許文献2)、各種植物由来の抽出物を利用するもの(例えば特許文献3〜6)が報告されている。また焼酎の製造過程で生成する副産物や大麦の醗酵産物が肝障害を抑制することが知られている(特許文献7、8)。しかしながら、これらのものは、効果の面で必ずしも十分満足のいくものではなかった。
【0005】
日本酒は我国独自の酒で、他の酒には含まれないメバロノラクトン、エチルグルコシド等の独自の成分を含有する他、アミノ酸や有機酸等の健康増進に有用な成分も含有することが知られている。また、適度の飲酒は血行を促進し、気分を高揚させるため、日本酒は「百薬の長」として、健康面において良い影響を与えると考えられている。また飲用だけでなく、民間療法としての日本酒風呂や化粧水としての利用等、外用剤としての用途も知られている。
【0006】
日本酒が健康の維持増進に役立つことは前述の通りであり、疫学的調査からは、日本酒の飲用量が多い地域では肝硬変による死亡率が低いという報告がされている(非特許文献1)。しかしながら、その科学的根拠は明らかでなく、また適度を過ぎれば、日本酒が含有するアルコールが脳に大きな影響を与えることも知られている。さらにアルコールに対する感受性は個人差が大きいため、これまで日本酒を肝機能の保護、改善に積極的に役立てようとする試みはなされていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−221124号公報
【特許文献2】特開平2−124829号公報
【特許文献3】特開2002−10968号公報
【特許文献4】特開2001−247470号公報
【特許文献5】特開2002−275082号公報
【特許文献6】特開2003−137802号公報
【特許文献7】特許第3600819号明細書
【特許文献8】特開2003−342187号公報
【非特許文献1】滝澤行雄著、「日本酒いきいき健康法」、柏書房、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情において、肝疾患等による肝機能障害を安全かつ効果的に治療できる薬剤や、日々の摂取に適した肝機能の保護剤又は改善剤として有用な素材が求められていた。即ち、本発明の目的は、安全性で実効のある肝機能保護剤又は改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記のようなことから鑑みて鋭意研究を行った結果、日本酒濃縮物が、経口摂取により、顕著な肝機能保護効果又は改善効果を発揮するという、従来全く知られていなかった新規の機能を有することを確認し、本発明を完成させるに到った。即ち本発明は、日本酒から調製される濃縮物からなる肝機能保護剤又は改善剤にある。また第2の本発明は、エタノールを含まないことを特徴とする上記の肝機能保護剤又は改善剤にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の肝機能保護剤又は改善剤は、経口摂取又は静注等の投与方法により優れた肝機能保護効果又は改善効果を発揮する。また安全性、安定性にも優れ、飲食品組成物等に配合して日常的に継続摂取させることにより、肝機能を保護、改善し、体内の代謝機能全般を健全にする効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の肝機能保護剤又は改善剤の原料となる日本酒は、普通酒・本醸造酒・純米酒・吟醸酒等に拘らず、一般に飲用に供される日本酒であれば使用可能であるが、好ましくは本醸造酒や純米酒を使用する。
【0012】
日本酒から調製される濃縮物とは、日本酒を原料とし、これを濃縮して得られる濃縮物である。濃縮方法は特に限定はされず、公知の一般的な濃縮方法を用いることができる。濃縮工程ではアルコール分、水分等が除去されるが、アルコール分は完全に除去し、実質的に非アルコール性の日本酒濃縮物とすることが好ましい。濃縮度合いについては、質量換算で、当初の日本酒を2倍から25倍に濃縮するのが好ましく、また製造コスト、飲食品組成物等への適用、ハンドリング等の利便性から、10倍から20倍に濃縮するのがより好ましい。また必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、精製処理等を施しても良い。
【0013】
前記の日本酒から調製される濃縮物は、それを直接用いることも可能であるが、必要に応じて水等の溶媒を適宜添加して使うこともできる。また、ハンドリングのし易さから、公知の造粒手段を用いて、濃縮物の粉末化、顆粒化等を行っても良い。
【0014】
本発明の肝機能保護剤又は改善剤は、経口又は静注等の非経口方法により投与され、肝機能保護効果又は改善効果を発揮する。その他、本発明の肝機能保護剤又は改善剤の利用方法として、これらを飲食品組成物に配合することにより、該飲食品組成物に肝機能保護又は改善という機能を賦与することができる。
【0015】
前記飲食品組成物には、本願効果を損なわない範囲で、一般に機能性飲食品組成物にお
いて用いられる成分、例えば乳化剤、分散剤、滑沢剤、崩壊剤、緩衝剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、安定剤、保存剤、酸化防止剤、溶剤、香料、賦形剤等や、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンP、葉酸、イノシトール、パントテン酸、ナイアシン等のビタミン類、核酸、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、アミノ酸、グルテンペプチド、カゼイン、ラミニン等の栄養成分、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等のミネラル成分、オリゴ糖、果糖、乳糖、新甘味料等の糖質、不溶性食物繊維、水溶性食物繊維、キチン・キトサン等の食物繊維類、飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、コレステロール等の脂肪酸類、乳酸菌、ビフィズス菌、クエン酸、ポリフェノール類等の各種機能性原料の各種栄養成分を組み合わせて配合することができる。
【0016】
また、飲食品組成物は、錠剤、顆粒剤、各種カプセル剤、ドリンク製剤、固形剤、丸剤等、任意の剤型とすることができる。飲食品としては、飲料、ゼリー、チューインガム、キャンディ、錠菓等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例、処方例に基づき詳説するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0018】
実施例1(日本酒濃縮物の製造)
純米酒(大関株式会社製)930Lを減圧下に過熱濃縮し、過熱殺菌及び濾過を行い、約45.6kgの粗濃縮物を得た(ブリックス68°)。ここで得た濃縮物3.09kgにイオン交換水0.41kgを加えて加熱処理を行い、本発明の日本酒濃縮物3.50kg(ブリックス60°)を得た。
【0019】
試験例1(肝障害保護効果の評価1)
実施例1の日本酒濃縮物の肝機能への効果を明らかにする為、以下の試験を行った。
【0020】
[試験方法]
試験動物:8週齢のウィスター系雄性ラットを1群6匹として用いた。
肝障害の惹起:D−ガラクトサミン塩酸塩(以下、GalNと略、Sigma社製)を生理食塩水にて150mg/mLに調製し、ラットに2mL/kgの用量で腹腔内投与した(GalNとしての投与量:300mg/kg)。
評価試料の投与:実施例1の日本酒濃縮物は、GalN投与の24時間前及び1時間前に、3mL/kgの用量でラットに経口投与した。尚、対照群のラットには、日本酒濃縮物の代わりに、同容量の精製水を経口投与した。
肝障害の評価:GalN投与の24時間後に採血を行い、血清中のGPT活性を、トランスアミナーゼCII−テストワコー(和光純薬社製)を用いて測定した。尚、対照群と試験群との比較は、スチューデントのt検定(Student’s t−test)により行った。
【0021】
[試験結果]
結果を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1で得られた日本酒濃縮物は、3mL/kgの投与量で、GalN投与により誘発される血清GPT活性の上昇を有意に抑制した。
【0022】
(表1)
――――――――――――――――――――――――
ラット群 GalN 日本酒濃縮物 血清GPT活性a)
(実施例1) (Karmen Units)
――――――――――――――――――――――――
正常群 − − 46±4
----------------------------------------------
対照群 + − 900±129
試験群1 + +(3mL/kg) 511±70
――――――――――――――――――――――――
a)数値は平均値±標準誤差
*p<0.05(対照群との有意差)
【0023】
試験例2(肝障害保護効果の評価2)
[試験方法]
試験動物:BALB/c系雄性マウスを1群5匹として用いた。
肝障害の惹起:コンカナバリンA(以下、ConAと略、Sigma社製TypeIV)を滅菌リン酸緩衝生理食塩水にて3mg/mLに調製し、マウスに10mL/kgの用量で尾静脈内投与した(ConAとしての投与量:300mg/kg)。
評価試料の投与:実施例1の日本酒濃縮物は、ConA投与の24時間前及び1時間前に、3又は10mL/kgの用量でマウスに経口投与した。尚、対照群のマウスには、日本酒濃縮物の代わりに、同容量の精製水を経口投与した。
肝障害の評価:実施例2と同様に行った。
【0024】
[試験結果]
結果を表2に示す。表2から明らかなように、実施例1で得られた日本酒濃縮物は、3及び10mL/kgで、ConA投与により誘発される血清GPT活性の上昇を抑制し、10mL/kgでは、対照群に比べて有意に上昇を抑制した。
【0025】
(表2)
――――――――――――――――――――――――
ラット群 ConA 日本酒濃縮物 血清GPT活性a)
(実施例1) (Karmen Units)
――――――――――――――――――――――――
正常群 − − 6±1
----------------------------------------------
対象群 + − 416±157
試験群1 + +(3mL/kg) 204±51
試験群2 + +(10mL/kg) 41±20
――――――――――――――――――――――――
a)数値は平均値±標準誤差
*p<0.05(対照群との有意差)
【0026】
実施例2(日本酒濃縮物粉末の製造1)
結晶セルロース1600g及びデキストリン400gをとり均一にし、30Mesh篩で篩過後、流動層乾燥機に投入して混合し、この粉末に、実施例1の日本酒濃縮物540gに精製水1000gを加えた溶液を噴霧し、流動層造粒を行った。造粒物は乾燥後、コーミルにて整粒して実施例2の日本酒濃縮物粉末を得た。
【0027】
実施例3(日本酒濃縮物粉末の製造2)
結晶セルロース400g及びデキストリン100gをとり均一にし、30Mesh篩で篩過後、品川式混合機にて予備混合し、次に実施例1の日本酒濃縮物135gを投入し、
練合を行った。練合物は、流動層乾燥機にて乾燥後、コーミルを用いて整粒し、実施例3の日本酒濃縮物粉末を得た。
【0028】
実施例4(日本酒濃縮物粉末の製造3)
結晶セルロース1600g及びデキストリン400gをとり均一にし、30Mesh篩で篩過後、高速攪拌造粒機に投入して混合し、実施例1の日本酒濃縮物540gを投入し、攪拌造粒を行った。造粒物は、流動層乾燥機にて乾燥後、コーミルを用いて整粒し、実施例4の日本酒濃縮物粉末を得た。
【0029】
以下に、本発明の肝機能保護剤又は改善剤を、各種剤型の飲食品組成物に応用した処方例を示す。
【0030】
処方例1(錠剤)
実施例2の日本酒濃縮物粉末1200gに、ヘスペリジン50g、酵母エキス100g、セイヨウタンポポ乾燥エキス20g、ショ糖脂肪酸エステル160g、結晶セルロース200g、ソルビトール2014g及び微粒二酸化ケイ素72gを加えて均一に混合した後、混合物を直径12mmの杵を用いてロータリー式打錠機で1錠あたり600mgに打錠して錠剤を得た。
【0031】
処方例2(錠剤)
実施例3の日本酒濃縮物粉末1200gに、ヘスペリジン50g、ベニバナエキス粉末50g、酵母エキス100g、2%アスタキサンチン粉末100g、セイヨウタンポポ乾燥エキス20g、クエン酸100g、スクラロース5g、ショ糖脂肪酸エステル180g、結晶セルロース180g、ソルビトール1525g、香料18g及び微粒二酸化ケイ素72gを加えて均一に混合した後、混合物を直径12mmの杵を用いてロータリー式打錠機で1錠あたり600mgに打錠して錠剤を得た。
【0032】
処方例3(顆粒剤)
実施例4の日本酒濃縮物粉末300gに、酵母エキス300g、ヒドロキシプロピルセルロース200g、結晶セルロース2000g及びソルビトール3200gを混合し、その混合物を常法により顆粒とし、2gずつに分包して顆粒剤を得た。
【0033】
処方例4(液剤)
精製水5kgに、実施例1の日本酒濃縮物10g、アスコルビン酸50g、クエン酸10g、アスパラギン酸5g、白糖50g、スクラロース1.5gを加えて加熱溶解し、さらに精製水を適量加えて溶解し、冷後、香料10gを加え、精製水を加えて10kgとした。この液を100mLずつ容器に分注し、液剤を得た。
【0034】
処方例5(ゼリー剤)
精製水1kgに、実施例1の日本酒濃縮物10g、5%水溶性CoQ1075g、アスコルビン酸5g、アセスルファムK0.5g、リン酸リボフラビンナトリウム1.2g、塩酸ピリドキシン5g、ゲル化剤(カラギーナン、ローカストビーンガム、寒天のプレミックス)9mLを加えて加熱溶解し、精製水を加えて1.5kgとした。液は60℃で保温しながら、15gずつアルミラミネートフィルムに分注して成形し、ゼリー剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の肝機能保護剤又は改善剤は、経口又は非経口投与により、肝障害を保護又は改善する効果を発揮し、各種剤型の飲食品組成物、例えば錠剤、顆粒剤、液剤、丸剤、ゼリー剤等の飲食品組成物に配合することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本酒から調製される濃縮物からなる肝機能保護剤又は改善剤。
【請求項2】
エタノールを含まないことを特徴とする請求項1に記載の肝機能保護剤又は改善剤。

【公開番号】特開2006−306792(P2006−306792A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132046(P2005−132046)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月14日に第59回日本栄養・食糧学会大会にて発表
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(000204686)大関株式会社 (9)
【Fターム(参考)】