説明

肝炎の治療剤もしくは予防剤

【課題】本発明は、肝炎、特にCD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎に対して有効に作用しうる新規な治療剤もしくは予防剤を提供することを課題とする。
【解決手段】CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分として含有する肝炎治療剤または予防剤による。CCL20に対する抗体の投与により、動物モデルでの生存率および病理所見において改善が認められ、肝炎に対する予防効果および治療効果が認められた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCCL20抗体を有効成分とする肝炎の治療剤もしくは予防剤に関する。特にCD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎に有効な治療剤もしくは予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝炎はウイルス感染、アルコール摂取、薬剤または自己免疫等が原因で肝臓に炎症が起こる病気である。
【0003】
肝炎の中でも、C型肝炎ウイルスによる肝炎は自然治癒することがなく、感染すると約70%が慢性肝炎に移行し、その後肝硬変に至る。そして、ウイルスの持続感染によってALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値の高値が持続すると徐々に肝線維化が進行し、肝がんの発生率が上昇する(非特許文献1)。日本において約90%の肝がんがC型肝炎ウイルスが原因とされている。しかし、血中のウイルス量は肝臓の炎症の程度とは相関せず、C型肝炎の発症機序には宿主であるヒト免疫機構の関与が大きいと考えられており、強い肝臓の臓器障害の発生にCD8陽性T細胞が重要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献2)。また、薬剤の使用やウイルスの感染などにより誘引され、自己リンパ球が肝細胞と免疫反応を起こす自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis:AIH)や薬剤の使用によるアレルギー反応で誘引される薬剤性肝炎においても、同様に強い肝臓の臓器障害の発症にCD8陽性T細胞が重要であることが報告されている(非特許文献3、4)。
【0004】
このような肝炎の治療薬としては、C型肝炎の場合には現在インターフェロンと抗ウイルス剤が用いられているが、日本において最も多数をしめるGenotype1bの慢性C型肝炎においては、約50%の有効性しかなく、炎症が持続する例では肝硬変、さらには肝癌に進展し、生命予後に重大な影響を及ぼす。また、自己免疫性肝炎ではステロイド剤が用いられているが、ステロイドの長期の使用が余儀なくされ、炎症コントロールができずに肝硬変、さらには肝移植が必要とされる状態にいたる例も少なくない。以上の医療背景から、新しい肝炎治療薬の開発が望まれている。
【0005】
抗体関連産業は、従来細胞融合によるモノクローナル抗体作製技術を基盤として発展してきた。近年、ファージディスプレイ系を用いた抗体ライブラリー作製技術が開発され、とりわけヒト抗体単離に大きな力を発揮している。基盤技術としてファージディスプレイ系を駆使することで、臨床に役立つ各種感染症に対するヒト抗体の単離が可能となった。例えば、インフルエンザウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスに対して非常に強い中和活性を示すヒト抗体をそれぞれ数種類作製することに成功している(第24回日本分子生物学会年会で発表「抗体ライブラリーからのヒト型抗インフルエンザウイルス中和抗体の単離」、第50回日本ウイルス学会で発表「ヒト抗体ライブラリーからの水痘帯状疱疹ウイルス中和抗体の単離」)。近年では、モノクローナル抗体は、短期間で且つ効率的に調製することが可能であり、ヒト型化抗体についても容易に調製することができる。このような抗体は研究用試薬、診断用試薬、各種物質モニター用試薬として多数開発販売されており、更には治療用抗体の開発、生産が進められている。
【0006】
本発明者らは、先に自己免疫性肝炎を自然発症するモデル動物として、新生仔期胸腺切除(neonatal thymectomy:NTx)したBALB/c系統のPD−1遺伝子欠損マウス(NTx・PD−1KOマウス)を作製し、報告した(非特許文献5)。
【0007】
CCR6−CCL20(LARC/ MIP−3α)系は、獲得免疫に関与する樹状細胞、メモリーT細胞、成熟B細胞を外来抗原に暴露された部位に集結させ、免疫応答を迅速に開始するために重要な役割を担っているケモカインであると考えられている(非特許文献6)。
【0008】
CCL20(chemokine beta4)に対して特異的に結合する抗体について開示がある(特許文献1)。明細書中に、当該抗体の用途として、癌、炎症性疾患、創傷治癒、自己免疫疾患など数多くの一般的な疾病が羅列されている。そして、炎症性疾患の多数の例示の中の1つとして肝炎が挙げられているが、これら疾患との関連を実証するデータは何ら示されていない。2003年に報告された「The CC chemokine CCL20 and its receptor CCR6」に関する総説である上記非特許文献6においても、また、2008年に報告された「Chemokines and Their Receptors: Drug Targets in Immunity and Inflammation」に関する総説(非特許文献7)においても、肝炎との関連を開示する記載はない。また、LARC(CCL20)を阻害する物質を有効成分とする慢性関節リウマチの治療剤もしくは予防剤について開示がある(特許文献2)。実施例には、CCL20に対するポリクローナル抗体による、リウマチ患者の単核球の遊走阻害作用が示されている。さらに、抗CCL20抗体による自己免疫疾患の治療について開示がある(特許文献3)。ここでは、抗CCL20抗体を関節リウマチの治療に使用することが記載されている。ヒトCCL20のアミノ酸配列、核酸配列について開示がある(特許文献4)。ここでは、CCL20のアンタゴニストの用途として感染症や自己免疫疾患が述べられているが、具体的に疾患は特定されていない。また、哺乳動物CCR6レセプターおよび関連試薬の新規使用について開示がある(特許文献5)。ここでは、MIP−3α抗体が慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患に有用であることが記載されている。しかしながら、CCL20と肝疾患との関係について開示する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2003/092597号パンフレット
【特許文献2】特開2002-187856号公報
【特許文献3】国際公開2007/083759号パンフレット(特開2009-96716号公報)
【特許文献4】国際公開96/05856号パンフレット
【特許文献5】特表2003-508496号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】新潟医学会雑誌、第119巻、第7号、411頁 (2005)
【非特許文献2】Clinical Science, 112: 141-155 (2007)
【非特許文献3】Autoimmunity Reviews, 3: 207-214 (2004)
【非特許文献4】Nature Reviews, 4: 489-499 (2005)
【非特許文献5】Gastroenterology, 135: 1333-1343 (2008)
【非特許文献6】Cytokine & Growth Factor Reviews, 14: 409-426 (2003)
【非特許文献7】Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 48:171-97 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、肝炎、特にCD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎に対して有効に作用しうる新規な治療剤もしくは予防剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために既存の肝炎モデル動物を用いて検討し、当該モデル動物の肝細胞に浸潤している細胞障害性T細胞に多く発現している分子CCR6に着目して更に鋭意検討を重ねた結果、そのリガンドであるCCL20に対する抗体が肝炎の予防/治療に効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分として含有する肝炎治療剤または予防剤。
2.CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントが該CCL20に特異的に反応するモノクローナル抗体またはその活性フラグメントである前項1記載の肝炎治療剤または予防剤。
3.肝炎が、CD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎である前項1または2記載の肝炎治療剤または予防剤。
4.肝炎が、ウイルス性肝炎、薬剤性肝炎または自己免疫性肝炎である前項1または2記載の治療剤または予防剤。
5.CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分とする肝組織へのCD8陽性T細胞浸潤抑制剤。
6.CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを投与することにより肝組織へのCD8陽性T細胞の浸潤を抑制する方法。
また、本発明は、CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントの、肝炎治療剤の調製のための使用、及び、CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを肝炎治療が必要な対象に有効量で投与することを含む肝炎治療方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗CCL20抗体は、CD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎モデル動物に予防的もしくは治療的に使用することで、当該肝炎による死亡率を改善することができた。また、生存モデル動物の肝臓を摘出し、ホルマリン固定後、ヘマトキシリン・エオジン染色し、病理学的検索を行った結果、コンロトールのアイソタイプ抗体投与モデルでは肝臓門脈域を中心に高度に浸潤する単核球細胞と正常肝細胞の壊死が認められるのに対し、本発明の抗CCL20抗体の投与モデルでは、単核球細胞の浸潤や正常肝細胞の壊死などのいずれの所見も著明に改善した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】NTx・PD−1KOマウスにおけるCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞でのCCR6を発現した細胞の分布を確認した図である。(参考例1)
【図2】NTx・PD−1KOマウスにおけるIFN−γおよびTNF−αを発現した細胞の分布を確認した図である。(参考例1)
【図3】同系統の非遺伝子改変BALB/cマウス、PD−1KOマウス、NTx・PD−1KOマウスの肝臓CD3陽性T細胞におけるCCL20のmRNAの発現を確認した図である。(参考例1)
【図4】抗CCL20抗体を予防的にNTx・PD−1KOマウスに投与し、肝炎発症予防効果を生存率により確認した図である。(実施例1)
【図5】抗CCL20抗体を予防的にNTx・PD−1KOマウスに投与したときの生後28日目のマウス肝臓の病理的検索を行なった結果を示す写真図である。(実施例1)
【図6】抗CCL20抗体を治療的にNTx・PD−1KOマウスに投与し、肝炎治療効果を生存率により確認した図である。(実施例2)
【図7】抗CCL20抗体を治療的にNTx・PD−1KOマウスに投与したときの生後28日目のマウス肝臓の病理的検索を行なった結果を示す写真図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分として含有する肝炎治療剤または予防剤に関する。本発明者らは既存の肝炎モデル動物において肝細胞に浸潤している細胞障害性T細胞に多く発現している分子CCR6のリガンドであるCCL20に対する抗体またはその活性フラグメントが、肝炎の予防/治療に効果があることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0017】
背景技術の欄でも説明したように、本発明者らは先に自己免疫性肝炎を自然発症する新生仔期胸腺切除(neonatal thymectomy:NTx)したNTx・PD−1KOマウスについて報告した(非特許文献5)。このマウスは、血清中のAST(アスパルテートアミノトランスフェラーゼ)、ALTおよび総ビリルビンが高値を示し、また、胸腺切除によるTreg(CD4陽性CD25陽性制御性T細胞)の減少と共に、肝浸潤免疫担当細胞のCD8T陽性細胞が顕著に増加している。
【0018】
今般、本発明者らは、この肝炎モデルマウスを用いて肝細胞に浸潤している細胞障害性T細胞の発現分子について解析を行った。当該細胞に多く発現している分子のうちCCR6に着目し、そのCCR6のリガンドであるCCL20に対する抗体を用いて、NTx・PD−1KOマウスにおいて、自己免疫性肝炎の発症の抑制及び治療効果を検討したところ、CCL20の抗体が自己免疫肝炎の予防/治療に効果があることを見出した。
【0019】
本明細書において、CCL20に対する抗体とは、CCL20タンパク質を特異的に認識することができる免疫グロブリン(抗CCL20抗体)をいう。本発明における抗体とは、ポリクローナル抗体(抗血清)あるいはモノクローナル抗体の何れであってもよく、特に限定されないが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、本発明の抗体は、例えば、天然型抗原、遺伝子組換抗原または抗原を発現している細胞等からなる抗原を哺乳動物に免疫して得られる天然型抗体や遺伝子組換技術を用いて製造され得るモノクローナル抗体も包含する。
【0020】
抗CCL20抗体を製造するための抗原は、CCL20の抗原性を有していれば良く、例えばCCL20タンパク質を公知の方法に従って精製した抗原、または遺伝子工学的に調製し、精製した抗原であればよい。当該抗原は、抗原性を有するのであれば、例えばCCL20タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよいし、CCL20タンパク質の一部であってもよい。抗CCL20抗体は、上記抗原を用いて自体公知の方法で作製することができ、例えば特許文献1に開示する方法により作製することができる。
【0021】
上記抗体の活性フラグメントとは、当該抗体の抗原結合部位を含むフラグメントであって、フラグメント自体でCCL20タンパク質を特異的に認識することができるものをいう。具体的には、抗CCL20抗体の抗体フラグメントF(ab’)若しくはFab’が挙げられる。活性フラグメントは、自体公知の方法により作製することができる。
【0022】
本発明における抗体またはその活性フラグメントは、CCL20タンパク質に特異的に結合し、CCL20タンパク質の機能に影響を与えるものであることが好ましい。CCL20タンパク質の機能に影響を与えるとは、例えば、当該抗体がCCL20タンパク質と結合することにより、CCL20タンパク質とCCR6との結合を阻害したり、または該抗体がCCL20タンパク質と結合することにより、CCR6の活性化を介した細胞遊走を阻害すること等が挙げられる。
【0023】
本発明は、CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分とする肝炎治療剤または予防剤に関する。
肝炎としては、例えば、B型或いはC型などのウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎、薬剤性肝炎、自己免疫性肝炎などが挙げられる。病態としては、急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎のいずれにも適用し得る。
特に、本発明においてCD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎、例えば、ウイルス性肝炎、薬剤性肝炎、自己免疫性肝炎に好適に適用できる。動物モデルの肝組織浸潤CD3陽性T細胞において、臓器障害を惹起する炎症性サイトカインである、IFN−γとTNF−αを高度に発現した細胞の増加が認められる。更に肝組織浸潤CD3陽性T細胞のCD8発現について解析したところ、CD8陰性(CD4陽性)T細胞よりもCD8陽性T細胞の方がその増加は著しかった。よって、CD8陽性肝細胞は、肝障害を惹起する主因と考えられる。CD8陽性T細胞が末梢免疫組織から肝臓組織に移行してくるにはケモカインとケモカインセプターの相互作用が必要であり、当該動物モデルでは、肝組織に浸潤しているCD8陽性T細胞において、ケモカインレセプターであるCCR6の発現が確認された。また更に、当該動物モデルでは、肝組織にケモカインであるCCL20のmRNAの発現が認められる。そして、同系統の非遺伝子改変BALB/cマウス、PD−1KOマウスに比較して、NTx・PD−1KOマウスの肝組織でのCCL20のmRNA発現が相対的に増加していることが確認された。これらの結果から、本発明のCCL20に対する抗体またはその活性フラグメントは、CD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎、例えば自己免疫性肝炎に対して効果的に作用しうる。
【0024】
CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントは、上述の肝炎の治療薬または予防薬として使用することができる。また、本発明のCCL20に対する抗体またはその活性フラグメントは、肝組織へのCD8陽性T細胞浸潤抑制作用を有することから、肝組織へのCD8陽性T細胞浸潤抑制剤としても使用することができる。また、本発明はCCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを投与することにより肝組織へのCD8陽性T細胞の浸潤を抑制する方法にも及ぶ。これらより、本発明の抗体またはその活性フラグメントを含む組成物は、肝炎の治療剤若しくは予防剤としての医薬組成物として使用することができる。
【0025】
本発明による治療剤若しくは予防剤の投与形態は、特に制限されず、経口投与、非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができるが、非経口投与、特に静脈注射、が好ましい。経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、本発明による抗体を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0026】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、通常、本発明による抗体を注射用蒸留水に溶解して調製するが、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、安定化剤等を添加することができる。また、用事調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0027】
経口投与のための剤型は、固体または液体の剤型、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、トローチ剤等が挙げられる。
【0028】
本発明による医薬組成物は、治療上有効な他の薬剤を更に含有していてもよく、また、必要に応じて血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤等の成分を配合することもできる。このときの有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。
【0029】
これらの製剤の製剤化に用いる担体には、例えば通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化することが可能である。使用可能な無毒性のこれらの成分としては、例えば大豆油、牛脂、合成グリセライド等の動植物油;例えば流動パラフィン、スクワラン、固形パラフィン等の炭化水素;例えばミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;例えばセトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;例えばポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;例えばヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の水溶性高分子;例えばエタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;例えばグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);例えばグルコース、ショ糖等の糖;例えば無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられる。
【0030】
賦形剤としては、例えば乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミン等が、崩壊剤としては、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等が、それぞれ用いられる。上記の成分は、その塩またはその水和物であってもよい。
【0031】
例えば経口製剤は、有効成分に、賦形剤、さらに必要に応じて例えば結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を加えた後、常法により例えば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤等とする。錠剤・顆粒剤の場合には、例えば糖衣、その他必要により適宜コーティングすることはもちろん差支えない。シロップ剤や注射用製剤等の場合は、例えばpH調整剤、溶解剤、等張化剤等と、必要に応じて溶解補助剤、安定化剤等とを加えて、常法により製剤化する。また、外用剤の場合は、特に製法が限定されず、常法により製造することができる。使用する基剤原料としては、医薬品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される各種原料を用いることが可能であり、例えば動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、精製水等の原料が挙げられ、必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐防黴剤、着色料、香料等を添加することができる。さらに、必要に応じて血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤等の成分を配合することもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。本発明に使用する化合物類、本発明に使用するペプチド類または本発明に使用するポリヌクレオチド類を前記治療に使用する場合は、少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上に精製されたものを使用するのが好ましい。
【0032】
本発明による抗体の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができるが、通常、成人(体重60kg)あたり、経口投与では1〜5000mg/日、好ましくは5〜2000mg/日、さらに好ましくは10〜1000mg/日を、注射投与では1〜5000mg/日、好ましくは5〜2000mg/日、さらに好ましくは50〜1000mg/日を、1回または数回に分けて投与することができる。小児に投与される場合は、用量は成人に投与される量よりも少ない可能性がある。実際に用いられる投与法は、臨床医師の判断により大幅に変動することもあり、上記の投与範囲から逸脱することがある。
【実施例】
【0033】
本発明の理解をさらに進めるために、以下に参考例および実施例を示してより具体的に説明する。まず、本発明を完成するに至ったNTx・PD−1KOマウスを用いた検討結果を参考例に示し、本発明のCCL20に対する抗体を有効成分として含有する肝炎治療剤または予防剤を用いた結果を各実施例に示す。本発明は、これらの実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0034】
(参考例)NTx・PD−1KOマウスの細胞障害性T細胞におけるCCR6の発現および肝臓でのCCL20の発現
生後3日目のBALB/c系統のPD−1KOマウス(Science 291 319-322 2001)の新生仔胸腺を外科的に摘除した。2週間飼育後、自己免疫性肝炎を引き起こしているNTx・PD−1KOマウスの肝臓を摘出し、当該肝臓から単核球を精製し、フローサイトメトリーにて、CCR6を含む細胞表面分子と細胞内でのサイトカイン分子発現について、それぞれの分子に対する特異的抗体を用いて解析した。
【0035】
先ず、精製した単核球をFITC(fluorescein isothiocyanate)で標識された抗CD3抗体を使用してFACSCantoTM IIフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン社製)にてゲートした後、PE(phycoerythrin)標識抗CCR6抗体およびAPCy7(allophycocyanin-cy7)標識抗CD4抗体またはAPC(allophycocyanin)標識抗CD8抗体を使用して展開した。その結果、NTx・PD−1KOマウス肝臓CD3陽性T細胞において、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞のいずれも、脾臓T細胞に比較して、CCR6を発現した細胞の割合が増加していた (図1)。
【0036】
同様にして、精製した単核球をCD3ゲート後、CD8とIFN−γまたはTNF−αのサイトカインにそれぞれ対応する標識抗体を使用して展開した。その結果、NTx・PD−1KO3週齢のマウスの肝臓CD3陽性T細胞においては、CD3陽性CD8陰性T細胞(CD4陽性T細胞)とCD8陽性T細胞のいずれにおいても、臓器障害を伴う炎症惹起性サイトカインである、IFN−γとTNF−αを高度に発現した細胞の増加が認められた(図2)。
【0037】
次に、同系統の非遺伝子改変BALB/cマウス、PD−1KOマウス、NTx・PD−1KOマウスから肝臓を摘出し、肝組織よりRNAを抽出、cDNAを合成し、RT(real-time) PCRにて、CCR6のリガンドであるCCL20プライマー(ATG GCC TGC GGT GGC AAG CGT CTG(配列番号1)とTAG GCT GAG GAG GTT CAC AGC CCT(配列番号2):Yamazaki T et al. J Immunol. 2008 181:8391-401)を用いて、CCL20のmRNAの発現を確認した。その結果、同系統の非遺伝子改変BALB/cマウス、PD−1KOマウスに比較して、NTx・PD−1KOマウスの肝組織でのCCL20のmRNA発現が相対的に増加していた(図3)。これらの結果から、自己免疫性肝炎を引き起こすNTx・PD−1KOマウスの肝臓への肝炎惹起性のT細胞の浸潤には、CCR6のリガンドであるCCL20の肝臓での発現と、そのリガンド依存性に他の免疫組織から移行してくるCCR6発現T細胞の存在が重要であることが分かった。
【0038】
(実施例1)抗CCL20抗体による肝炎発症抑制効果
CCL20を阻害することで肝への肝炎惹起性T細胞の浸潤を阻害し、肝炎発症を抑制できるか検討した。自己免疫性肝炎を引き起こすNTx・PD−1KOマウスは、生後約10日頃から肝内に炎症細胞浸潤が生じ、約4−5週後には、ほぼ全例で高度の肝炎から死亡する。
【0039】
そこで、抗CCL20抗体をNTx・PD−1KOマウスに生後3日目、10日目、17日目および21日目に投与した。抗CCL20抗体としてはマウスCCL20ブロッキング抗体(anti-mMIP-3a/CCL20, purified rat monoclonal IgG1, R&Dシステムズ社製, clone: 114908)を、コントロール抗体としてはアイソタイプコントロールモノクローナル抗体(FG Purified rat IgG1, eBioscience社製, Cat No. 16-4301-85)を各々100μg、50μlのリン酸緩衝液に溶解し、抗体溶液を調製した。各抗体溶液を、NTx・PD−1KOマウスに上記投与スケジュールにて、計4回腹腔内注入を行なった。
【0040】
生後28日目における生存率を比較した。コントロール抗体投与群では、生存率が40%であるのに比較して、CCL20抗体投与群では、生存率が80%と生存率の改善を認めた(図4)。また、コントロール抗体投与群及び抗CCL20抗体投与群の生存マウスの肝臓を摘出し、ホルマリン固定後、ヘマトキシリン・エオジン染色し、病理学的検索を行った。その結果、抗CCL20抗体投与群では、肝臓に浸潤する単核球細胞が著明に減少し、正常肝組織構造の破壊も軽度となっていた(図5)。以上の結果から、抗CCL20ブロッキング抗体の投与によって、NTx・PD−1KOマウスの肝炎発症が抑制できることが明らかとなった。
【0041】
(実施例2)抗CCL20抗体による肝炎治療効果
CCL20を阻害することで発症した肝炎の治療効果が得られるか検討した。自己免疫性肝炎を引き起こすNTx・PD−1KOマウスは、生後約4−5週後には、ほぼ全例で高度の肝炎から死亡する。
【0042】
そこで、抗CCL20抗体をNTx・PD−1KOマウスの生後17日目および21日目に投与した。抗CCL20抗体およびコントロール抗体は、実施例1に準じて使用し、抗体溶液を調製した。各抗体溶液を、上記投与スケジュールにて、計2回腹腔内注入を行った。
【0043】
生後28日目における生存率を比較した。この実験において、コントロール抗体投与群では、生存率が33%であるのに比較して、抗CCL20抗体投与群では、生存率が100%と生存率の改善を認めた(図6)。また、生存マウスの肝臓を摘出し、実施例1と同様に病理学的検索を行った。その結果、コンロトールのアイソタイプ抗体投与マウスで認められる肝臓門脈域を中心に高度に浸潤する単核球細胞(図7矢印)と正常肝細胞の壊死(図7円内)のいずれの所見も、抗CCL20抗体投与群では著明に改善していた(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように、 本発明の抗CCL20抗体は、肝炎、特にCD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎に対して、治療剤または予防剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分として含有する肝炎治療剤または予防剤。
【請求項2】
CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントが該CCL20に特異的に反応するモノクローナル抗体またはその活性フラグメントである請求項1記載の肝炎治療剤または予防剤。
【請求項3】
肝炎が、CD8陽性T細胞による肝細胞障害により惹起される肝炎である請求項1または2記載の肝炎治療剤または予防剤。
【請求項4】
肝炎が、ウイルス性肝炎、薬剤性肝炎または自己免疫性肝炎である請求項1または2記載の治療剤または予防剤。
【請求項5】
CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを有効成分とする肝組織へのCD8陽性T細胞浸潤抑制剤。
【請求項6】
CCL20に対する抗体またはその活性フラグメントを投与することにより肝組織へのCD8陽性T細胞の浸潤を抑制する方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197228(P2012−197228A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174715(P2009−174715)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】