説明

育成装置

【課題】構造が簡易で、且つ、小形で安価な育成装置を提供する。
【解決手段】育成装置1は、育成容器2と、電気化学反応により酸素含有混合ガス中から酸素を分離して取り出す酸素富化器3を備える。酸素富化器3で生じる酸素と熱を使用して育成容器2内を動植物の育成状況に応じた好適環境に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素富化器で生じる酸素と熱を育成容器内の環境設定に使用した育成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、育成容器内の環境(温湿度、酸素量、光等)を好適育成条件に管理・維持して植物や動物を育成する様々な育成装置が知られており、例えば、特許文献1には植物の発芽および接ぎ木活着処理装置が開示され、特許文献2には水生動物の孵化装置が開示されている。
【0003】
ところが、これら育成装置では、育成容器内を各育成対象の育成状況に応じた好適環境に維持するために、例えば、特許文献1の装置のように、冷凍機、加湿器、温度調節器、酸素ボンベ等、様々な設備を個々に備える必要があり、よって、装置は複雑化、大型化し、且つ、高価なものとなっていた。
【0004】
【特許文献1】特開平7−79647号公報
【特許文献2】特開平11−206261
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、係る問題に鑑み成されたもので、構造が簡易で、且つ小形で安価な育成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、育成容器と、電気化学反応により酸素含有混合ガス中から酸素を分離して取り出す酸素富化器を備え、前記酸素富化器で生じる酸素と熱を使用して、前記育成容器内の温度管理および酸素濃度管理を行うことを特徴としている。
【0007】
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の育成装置において、前記育成容器内の酸素濃度を検知する酸素濃度検知手段と、当該酸素濃度検知手段の検知出力に基づいて前記酸素富化器の酸素発生量を制御する制御部とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2の何れかに記載の育成装置において、前記酸素富化器の排熱を熱源とし、熱交換された空気を前記育成容器に供給する熱交換器と、前記育成容器内の温度を検知する温度検知手段と、当該温度検知手段の検知出力に基づいて前記熱交換器の熱交換量を制御する制御部とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、請求項4に記載の本発明は、請求項1から請求項3までの何れかに記載の育成装置において、育成対象が発芽苗であることを特徴としている。
【0010】
また、請求項5に記載の本発明は、請求項1から請求項3までの何れかに記載の育成装置において、育成対象が鳥類、或いは爬虫類の卵であることを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項6に記載の本発明は、請求項1から請求項3までの何れかに記載の育成装置において、育成対象が魚類、或いは両生類の卵であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸素富化器からの酸素および排熱を育成容器内における温度の管理および酸素濃度の管理に使用することにより、育成対象の育成状況に応じた好適環境を常に維持できる小形で安価な育成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明に係る育成装置の実施形態を説明する。
図1は本実施形態による育成装置の概略構成を示し、図2は制御部による酸素濃度や温度等の制御を示し、図3は電気化学セルの構成を示している。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の育成装置1は、略密閉された育成容器2と、この育成容器2の外に配設された酸素富化器3と、この酸素富化器3を作動温度に昇温するためのヒータ5と、酸素富化器3からの熱を熱源とする熱交換器4と、育成容器2内の酸素濃度と温度を調整する制御部6とを備えており、且つ、育成容器2内には、容器内の酸素濃度を検知する酸素濃度センサ7および容器内温度を検知する温度センサ8が付設され、酸素富化器3には、酸素富化器3の温度を検知する温度センサ9が付設されている。
【0015】
酸素富化器3は、図3に示す電気化学セル10を複数用いて構成されている。この電気化学セル10は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質11の両面にそれぞれ電極12(正極)と電極13(負極)を配した電気化学デバイスであって、図示のように、電極12、13間に直流電圧Vを印加することにより、およそ、400〜800℃の温度下において、上記固体電解質1が、その一方の面(負極側)から他方の面(正極側)に向けて酸素含有混合ガス中(空気)から酸素のみを選択的に透過させる酸素透過膜として作用し、これにより、正極12側の雰囲気を酸素富化状態にすることができる。
【0016】
正極12側(図1中、酸素富化器3の上部)の酸素富化空気は配管20aを通して育成容器2内に供給されると共に、酸素富化器3からの排熱(作動時のジュール熱等)は熱交換器4において、例えば、送風機Fにより送られて来る外部空気と熱交換され、温風が配管20bを通して育成容器2内に供給されるようになっている。尚、上記熱交換は、外部空気と排熱とを直接混合する直接的な熱交換でも、管体を介した間接的な熱交換でも良い。
また、この配管20bの途上にバルブ30(電磁弁)が配設されており、その弁開度により育成容器2内に供給する温風量を調整できるようになっている。
【0017】
制御部6には、育成容器2内からの酸素濃度センサ7出力と温度センサ8出力、および酸素富化器3からの温度センサ9出力が接続されており、これらの検知出力に基づいて、下記の制御動作により育成容器2内を好適環境空間に管理・維持持する。
【0018】
すなわち、図2において、先ず、ステップS10において、温度センサ9の検知出力により、酸素富化器3の温度がチェックされる。酸素富化器3の温度が設定温度(設定値)、すなわち、酸素富化器3の作動温度(例えば、400〜800℃)より低い場合、ステップS11においてヒータ5の通電が開始され、酸素富化器3が昇温される。また、ステップS10において酸素富化器3の温度が設定温度より高い場合は、ヒータ5への通電が停止される。このように、ヒータ5の通電制御により酸素富化器3は常に好適作動温度に管理される。
【0019】
次ぎに、ステップS13において、酸素濃度センサ7の検知出力により、育成容器2内の酸素濃度がチェックされ、容器内の酸素濃度が設定濃度(設定値)より高い場合は、ステップ14において酸素富化器3への供給電流が減少され、これにより酸素富化器3による酸素供給量は低減する。また、ステップ13において容器内の酸素濃度が設定濃度より低い場合は、ステップ15において酸素富化器3への供給電流が増加され、これにより酸素富化器3による酸素供給量は増加する。
尚、酸素濃度の設定値は、後述する育成対象の育成状況に応じて最適値が設定されており、よって、当処理により育成容器2内は常に育成対象に応じた好適酸素濃度に管理される。
【0020】
次いで、ステップS16において、温度センサ8の検知出力により、育成容器2内の温度がチェックされ、容器内の温度が設定温度(設定値)より低い場合は、ステップ17において、バルブ30の弁開度を大きくして、育成容器2内への温風供給量を増加することにより、容器内の温度を上昇させる。また、ステップS16において、容器内温度が設定温度より高い場合は、ステップ18においてバルブ30の弁開度を小さくして、育成容器2内への温風供給量を減少する。
尚、容器内温度の設定値は、後述する育成対象の育成状況に応じて最適値が設定されており、よって、当処理により、育成容器2内は、常に育成対象に応じた好適温度に管理される。
【0021】
さらに、本実施形態では、熱交換器4の熱源は酸素富化器3からの排熱を使用したが、外部の環境などにより熱交換器4の熱量が不足する場合は、ヒータ5の熱の一部を熱交換器4の補助熱源として利用することも勿論可能である。但し、この場合は、酸素富化器3の作動温度に影響を与えない範囲で利用するものとする。
【0022】
このように、本実施形態による育成装置1では、育成容器2内の酸素濃度と温度を任意に調整可能であるから、様々な動植物の育成に適用することができ、その具体的な適用例を示せば、例えば、(1)発芽苗の育苗装置、(2)鳥類や爬虫類の孵化装置、(3)魚類や両生類の孵化装置等である。
ここで、(1)の育苗装置では、育成容器2は播種床であり、発芽後の苗の育成状況に合わせて育成容器2内(播種床)の酸素濃度と温度を調節する。すなわち、播種から発芽までの期間、播種床を発芽適温に維持すると共に、種子の代謝呼吸に必要な僅かな酸素を供給する。発根から葉が出るまでの期間は、根が酸素を十分吸収し育成できるように酸素供給量を多くする。
(2)の孵化装置では、育成容器2が恒温層であり、(3)の孵化装置では、育成容器2が水槽となる。これらの場合は、孵化条件とその後の育成状況に合わせて育成容器2内(恒温層、或いは水槽)の酸素濃度と温度を調整する。すなわち、卵が孵化するまでの期間は、恒温層や水槽を孵化適温に維持すると共に、孵化後は幼魚、雛等の育成に好適な温度と酸素量を設定する。
【0023】
以上、本発明によれば、酸素富化器3を設け、この酸素富化器3からの酸素および熱を育成容器2内の環境管理に使用することにより、育成対象の育成状況に応じた好適環境を常に維持できる。しかも、容器内の温度制御は排熱を利用するため、温度管理のための特別な熱供給手段等を必要とせず、よって、コージェネレーション化が図れる。また、構造は極めて簡易であるから、装置の小形を図ることが可能であり、よって、安価な育成装置1を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る育成装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る育成装置の動作制御を示すフローチャート。
【図3】電気化学セルの構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0025】
1 育成装置
2 育成容器
3 酸素富化器
4 熱交換器
6 制御部
7 酸素濃度検知手段
8 温度検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
育成容器と、電気化学反応により酸素含有混合ガス中から酸素を分離して取り出す酸素富化器を備え、
前記酸素富化器で生じる酸素と熱を使用して、前記育成容器内の温度管理および酸素濃度管理を行うことを特徴とする育成装置。
【請求項2】
前記育成容器内の酸素濃度を検知する酸素濃度検知手段と、当該酸素濃度検知手段の検知出力に基づいて前記酸素富化器の酸素発生量を制御する制御部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の育成装置。
【請求項3】
前記酸素富化器の排熱を熱源とし、熱交換された空気を前記育成容器に供給する熱交換器と、前記育成容器内の温度を検知する温度検知手段と、当該温度検知手段の検知出力に基づいて前記熱交換器の熱交換量を制御する制御部とを備えることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の育成装置。
【請求項4】
育成対象が発芽苗であることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の育成装置。
【請求項5】
育成対象が鳥類、或いは爬虫類の卵であることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の育成装置。
【請求項6】
育成対象が魚類、或いは両生類の卵であることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の育成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−110919(P2007−110919A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302907(P2005−302907)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】