説明

肺腺癌を判定するためのデータ検出方法、診断薬、及び診断用キット

【課題】 被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定するためのデータの検出方法、及び該方法に用いるキットを提供する。
【解決手段】 ヒトカルネキシン(以下、ヒトカルネキシンという)に特異的に結合する抗体を用いて被検者の検体中のヒトカルネキシンを測定し、その測定結果より被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定するためのデータの検出方法。ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体として、モノクローナル抗体を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトカルネキシン(Human calnexin:以下必要に応じてCANXと略す。)に特異的に結合する抗体を用いる肺腺癌の判定方法に関する。また、本発明は、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含有する肺腺癌の診断薬及び診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、発生頻度が高く、また膵臓癌と並び難治性癌の代表であり、患者が病状に気付く時には、治療不可能な状態まで進行していることが多い。従来、肺癌の診断は、X線と、喀痰液の細胞学検査を組み合わせて行われて来たが、ステージが早期の状態で、治療し得る状態にある間に発見することが難しい場合が多かった。
肺癌は薬剤感受性の高い小細胞肺癌と、薬剤感受性の低い非小細胞肺癌に分類されるが、小細胞肺癌は肺癌全体の2割、非小細胞肺癌は肺癌全体の8割を占める。非小細胞肺癌はさらに肺腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌に分類されるが、肺腺癌は非小細胞肺癌の8割を占める非常に重要な癌である。
【0003】
これまで、ヒト非小細胞肺癌に対して特異的な抗原(HCAVIII)が肺癌マーカーとして特定、単離され、かつ該肺癌マーカーに対する抗体を診断、及び治療に用いる方法が知られている(特許文献1)。また、ヒト非小細胞肺癌タンパク質に関連するLCGAのアミノ酸中に見られるエピトープに対する特異的なモノクローナル抗体が知られている(特許文献2)。
ヒトカルネキシン(NCBI Refseq,No.NP001737)は、 calreticulin ファミリーに所属し、約67kDaのタンパク質として発現され、小胞体において新たに合成された糖たんぱく質と相互作用するカルシウム結合蛋白質として知られている。ヒトカルネキシンは、小胞体中で合成されるたんぱく質の品質管理の役割を持つ他、たんぱく質の折りたたみや分泌、また抗原提示にも関わっている。ヒトカルネキシンの細胞質ドメインがcaspaseにより切断され、その断片がアポトーシスを抑制すると考えられている(非特許文献1)。メラノーマの原発組織に比べ、メラノーマの転移巣ではヒトカルネキシンの発現が有意に低下しており、ヒトカルネキシンの発現低下がメラノーマ細胞の転移性に寄与していると考えられている(非特許文献2)。
これまで知られている非小細胞肺癌のマーカーおよびモノクローナル抗体を用いて、非小細胞肺癌のうち肺腺癌を他の癌腫又は他の肺癌の種類と区別して検出することは知られていない。
【0004】
【特許文献1】特表平10-503087号公報
【特許文献2】特表2003-501444号公報
【特許文献3】特開平01-052800号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)、136巻、3号、399−405ページ、2004年
【非特許文献2】キャンサー・レター(Cancer Letters)203巻、2号、225−231ページ、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を用いて被検者の検体中のヒトカルネキシンを測定し、その測定結果より被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定するデータ検出方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含有する肺腺癌の診断薬、及び、肺腺癌診断用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、肺腺癌細胞、又はその破砕物を用いてモノクローナル抗体を作製し、獲得した該抗体を用いて、プロテオーム技術により肺腺癌特異的なマーカーを同定したところ、ヒトカルネキシンが肺腺癌を他の癌腫及び肺癌の他の種類と区別することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)に関する。
【0007】
(1) ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を用いて被検者の検体中のヒトカルネキシンを測定し、その測定結果より被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定する方法。
(2) ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である(1)記載の方法。
(3) ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるモノクローナル抗体である、(2)記載の方法。
(4) 検体が血液である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含む肺腺癌診断薬。
(6) ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である(5)記載の診断薬。
(7) ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるモノクローナル抗体である、(6)記載の診断薬。
(8) ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含む、肺腺癌診断用キット。
(9) ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である(8)記載のキット。
(10) ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるモノクローナル抗体である、(9)記載のキット。
(11) ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体。
(12) ハイブリドーマFERM BP-11318。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を用いて被検者の検体中のヒトカルネキシンを測定し、その測定結果より被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定するためのデータ検出方法を提供する。また、本発明は、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含有する肺腺癌の診断薬及びキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ハイブリドーマKU-Lad-001の培養上清に含まれる抗体とAMeX固定したA549細胞との反応性を示す。
【図2】ヒト肺腺癌細胞に過剰に発現し、当該モノクローナル抗体に結合する抗原タンパク質の精製方法について説明した図である。
【図3】精製した抗原タンパク質の同定および確認方法について説明したフローチャートである。
【0010】
【図4】(A)図2に示した手順により濃縮した前記抗原及び抗体混合物を、SDS-PAGEで展開し、亜鉛染色した結果を示している。左から2番目のレーンでは、KU-Lad-001の腹水化抗体とA549可溶性タンパク質混合物との抗原抗体反応後、セファロースビーズから回収した回収物をSDS-PAGEで展開したものを示す。左から4番目のレーンでは、KU-Lad-001の腹水化抗体の代わりにKU-Lad-001の培養上清抗体を用いて、その後の操作は2番目のレーンと同様である。その他のレーンは対照実験の結果を示している。左から2番目と4番目のレーンのみ、目的の抗原タンパク質が濃縮されていることを示している。(B)図4Aと同様の操作でSDS-PAGEして得られたもう一枚のゲルに対してKU-Lad-001抗体を用いてウエスタンブロッティングした結果を示す。左から2番目(KU-Lad-001腹水化抗体とA549可溶性タンパク質混合物)、4番目のレーン(KU-Lad-001培養上清抗体とA549可溶性タンパク質混合物)および一番右のレーン(濃縮前のA549可溶性タンパク質混合物)のみ、目的の抗原タンパク質が検出されている。
【0011】
【図5】患者および健常人血清をドットブロットし、その後KU-Lad-001と反応させた結果を示している。該抗体は肺腺癌(adenocarcinoma)、肺扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)、肺小細胞癌(small cell carcinoma)を含む肺がん患者血清と強い反応性を示すが、健常人血清とは強い反応を示さないことを示している。
【図6】ホルマリン固定およびパラフィン包埋したA549細胞とKU-Lad-001抗体との反応性を示した図である。KU-Lad-001抗体は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋した標本の染色に適していることを示している。
【0012】
【図7】ヒト正常気管支上皮およびヒト正常肺胞上皮のヒト肺正常組織についてKU-Lad-001抗体が反応するか否かを検討した結果を示している。
【図8】4人の肺腺癌患者より採取された肺腺癌組織(図8A〜D)についてKU-Lad-001抗体が反応するか否かを検討した結果を示している。
【図9】4人の肺扁平上皮癌患者より採取された肺扁平上皮癌組織(図9A〜D)についてKU-Lad-001抗体が反応するか否かを検討した結果を示している。
【0013】
【図10】肺小細胞癌(SCLC、図10AからC)および肺大細胞性神経内分泌癌(LCNEC、図10D)患者より採取された肺扁平上皮癌組織についてKU-Lad-001抗体が反応するか否かを検討した結果を示している。
【図11】肺癌の各組織型別の腫瘍細胞における陽性率の結果を表している。
【図12】肺癌の各組織型別の染色強度の結果を表している。
【図13】肺癌の各組織型別の染色スコアの結果を表している。
【図14】肺腺癌患者血清33例と健常者血清56例中に含まれるKU-Lad-001抗体が認識する抗原タンパク質ヒトカルネキシンの量を定量した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の、肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定するためのデータ検出方法に用いられる、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体は、ヒトカルネキシンに特異的に結合することができる抗体であれば特に限定はなく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体は、ヒトカルネキシン又はその断片を免疫することにより得ることができる。ヒトカルネキシンとしては、例えば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチド等が挙げられる。
ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体は、例えば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するヒトカルネキシン又はその断片で免疫したマウスから取り出した抗体産生細胞から作製したハイブリドーマを培養することにより製造することができる。
ヒトカルネキシン又はその断片はそのまま免疫源とすることもできるが、当該タンパクあるいはその断片を用いて所望の免疫源を作製することも可能である。
【0015】
該免疫源によって引き起こされる免疫誘導を効率よく行わせるために、上記抗原タンパクあるいはその断片を担体と結合させることも好ましい態様の1つである。抗原タンパクあるいはその断片が100アミノ酸以下である場合には特に好ましい。
上記抗原タンパクあるいはその断片と担体との結合方法は、それぞれの官能基の間で、リンカーを介してまたは介さず共有結合を生じる反応によって行うことができる。該官能基としては、カルボキシル基やアミノ基、グリシジル基、チオール基、水酸基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシサクシニルエステル基、マレイミド基、イソチオシアネート基などがあげられるが、この官能基同士の間で縮合反応を行うことにより上記タンパク質あるいはその断片と担体との結合を行うことができる。
リンカーを介さない結合方法としては例えば、EDCなどのカルボジイミド化合物を使う方法があげられる。この反応を増強する物質としてNHSまたはその誘導体が使用することも可能である。イソチオシアネート基とアミノ基の間の縮合反応は、他の試薬を必要とせず、中性〜弱アルカリ性の条件で混合するだけで結合できる。
【0016】
該リンカーとしては、例えば、キャリア蛋白とペプチドの側鎖の官能基をお互いに結び付け合う分子であればどのようなものでもよい。好ましい態様は、例えば、キャリア蛋白のアミノ酸残基と反応することができる第1の反応活性基と、ペプチドの側鎖の官能基と反応することができる第2の反応活性基を同時に持つ分子であり、第1の反応活性基と第2の反応活性基が異なる基であることが好ましい。該反応活性基としては例えば、アリルアジド、カルボジイミド、ヒドラジド、ヒドロキシメチルホスフィン、イミドエステル、イソシアネート、マレイミド、NHS−エステル、PFP−エステル、ソラレン、ピリジルジスルフィド、ビニルスルフォン、イソチオシアネートなどを挙げることができる。
上記免疫源を用いて所望の抗体または抗体断片を製造することができる。免疫源による免疫誘導を効率的に行わせるためにアジュバントともに免疫源を投与することも好ましい。アジュバントとしては例えば、フロイントアジュバントやアラムなどがあげられる。
【0017】
製造できる抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体などがあげられる。該ポリクローナル抗体としては、免疫を施された動物の抗血清、または該抗血清から精製されたポリクローナル抗体をあげることができる。本発明のポリクローナル抗体としては、上記のヒトカルネキシンと特異的に結合するポリクローナル抗体であればいかなるものも包含されるが、具体的には、温血動物をヒトカルネキシンで免疫して、その動物の血清を採取し、ヒトカルネキシンに反応性を示す画分を除去した画分を公知のアフィニティークロマトグラフィー等により、調製したポリクローナル抗体などがあげられる。該温血動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリなどが挙げられる。
【0018】
モノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産された抗体または抗体断片、あるいは抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体または抗体断片をあげることができる。
該モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマの製造方法は、上記免疫源を通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度温血動物に投与し、該免疫された温血動物から抗体価が認められた個体を選択して、最終免疫を行い、その2〜5日後に脾臓、又はリンパ節などを取り出して、マウスミエローマ細胞と細胞融合することにより行うことができる。ハイブリドーマの作製およびモノクローナル抗体の調製はすでに述べた方法を適応できる。
遺伝子組換え抗体としては、ヒト化抗体、ヒト抗体または抗体断片など、遺伝子組換えにより製造される抗体などがあげられる。本発明の遺伝子組換え抗体をしては、遺伝子組換え抗体において、モノクローナル抗体の特徴を保持している抗体があげられる。
【0019】
ヒト化抗体は、ヒト型キメラ抗体またはヒト型相補性決定領域(complementarity determining region; 以下、CDRと表記する)移植抗体などの、ヒト抗体のFc領域を有する抗体があげられる。
ヒト型キメラ抗体は、温血動物の抗体の抗体重鎖(以下、H鎖と表記する)V領域(以下、抗体重鎖可変領域をVHと表記する)、および抗体軽鎖(L鎖と表記する)V領域(以下、抗体可変領域軽鎖をVLと表記する)と、ヒト抗体の重鎖定常領域(以下、CHと表記する)またはヒト抗体の軽鎖定常領域(以下、CLと表記する)とからなる抗体を意味する。
本発明のヒト型キメラ抗体は、ヒトカルネキシン特異的マウスモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマから、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターに挿入したヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ製造することができる。
本発明のヒト型キメラ抗体の構造としては、いずれのイムノグロブリン(Ig)クラスに属するものでもよいが、IgG型、さらにはIgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのイムノグロブリンのC領域が好ましい。
【0020】
ヒト型CDR移植抗体は、ヒトカルネキシン特異的マウスモノクローナル抗体のVHおよびVLのCDR配列で任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列をそれぞれ置換したV領域をコードする遺伝子を構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ導入し、発現させることにより製造することができる。
本発明のヒト型CDR移植抗体C領域の構造としては、いずれのイムノグロブリン(Ig)クラスに属するものでもよいが、IgG型、さらにはIgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのイムノグロブリンのC領域が好ましい。
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体を意味するが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリー、およびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども包含する。
【0021】
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト抗体を産生するヒト抗体産生細胞を単離し、EBウイルスなどを感染させて不死化、単一クローン化することにより、該抗体を産生するリンパ球を抗体再生細胞として培養することができ、培養物中より該抗体を精製することができる。
ヒト抗体ファージライブラリーは、B細胞またはリンパ球などのヒト抗体産生細胞から調製した抗体cDNAをファージベクター中に挿入することにより、Fab、scFvなどの抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーのことをいう。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに遺伝子工学的手法を用いて、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子に変換することもできる。
【0022】
ヒトカルネキシン抗体産生細胞の単離は、抗原あるいはその断片を用いて単離することができる。好ましい態様としては、抗原あるいはその断片を介して抗体産生細胞を標識して他の細胞と区別して単離する方法、抗原あるいはその断片を不溶性担体に結合したものを用いて抗体産生細胞を不溶性担体に捕捉する方法などが挙げられるが、これら方法には限定されない。
ヒト抗体産生トランスジェニック動物としては、ヒト抗体遺伝子がゲノム内に組み込まれた動物が用いられる。具体的には、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞を他のマウス初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニック動物を創製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常の温血動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体産生ハイブリドーマを取得し、培養することで培養物中より該抗体を精製することができる。
【0023】
本発明の抗体断片としては、抗体を適当なペプチダーゼで消化して得られる抗体断片または遺伝子組換えにより作製される抗体断片があげられる。該抗体断片は、ヒトカルネキシンに特異的に反応する抗体断片であるFab(Fragment of antigen binding)、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(Single chain Fv; 以下、scFvと称す)(Science, 242, 423, 1988)、2量体化可変領域(Diabodyとも称す)(Nature Biotechnol., 15, 629, 1997)、およびジスルフィド安定化V領域断片(disulfide stabilized Fv; 以下、dsFvと称す)(Molecular Immunol., 32, 249, 1995)を包含する。また、抗体断片としては、上記VHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を含むペプチド(以下、CDRを含むペプチドと表記する)(J. Biol. Chem., 271,2966, 1996)も包含する。あるいは、VHとVLをジスルフィド結合によって一体化せず、それぞれ別の分子(それぞれVH分子、VL分子として表記する)として発現させたもの(Nature Biotechnology, 14, 1714, 1996)も抗体断片として包含する。
【0024】
Fabは、IgGのヒンジ領域で2本のH鎖を架橋している2つのジスルフィド結合の上部のペプチド部分を酵素パパインで切断して得られるH鎖のN末端側半分と、L鎖全体で構成される分子量約3万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0025】
本発明のFabは、抗ヒトカルネキシン抗体を酵素パパインで処理して取得することができる。または、該抗体のFab断片をコードするDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
Fab'は、下記F(ab')2のヒンジ間のジスルフィド結合を切断して得られる分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のFab'は、抗ヒトカルネキシン抗体のF(ab')2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。また、該抗体のFab'断片をコードするDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させ、Fab'を製造することもできる。
F(ab')2は、IgGのヒンジ領域の2対のジスルフィド結合の下部を酵素トリプシンで処理して得ることができる、2つのFab領域がヒンジ部分で結合した分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のF(ab') 2は、抗ヒトカルネキシン抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のF(ab')2断片をコードするDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させ、F(ab')2を製造することができる。
【0026】
scFvは、一本のVHと一本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと表記する)を用いて連結した、VH-P-VLないしはVL-P-VHポリペプチドに示される。本発明で使用されるscFvに含まれるVHおよびVLは、本発明の抗ヒトカルネキシン抗体のいずれでも用いることができる。
本発明のscFVは、抗ヒトカルネキシン抗体産生ハイブリドーマより調製されたmRNAからVHならびにVLのcDNA を合成し、該抗体のscFv断片をコードするDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させ、scFvを製造することができる。
【0027】
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片で、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性、または異なる抗原に対する2特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のDiabodyは、抗ヒトカルネキシン抗体産生ハイブリドーマより調製されたmRNAからVHならびにVLのcDNA を合成し、該抗体のDiabody断片をコードするDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させ、Diabodyを製造することができる。
【0028】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをジスルフィド結合により結合させたものである。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらに示された方法[Protein Engineering, 7, 697(1994)]に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明のdsFvに含まれるVHならびにVLは、抗ヒトカルネキシン抗体のいずれでも用いることができる。
本発明のdsFvは、抗ヒトカルネキシン抗体産生ハイブリドーマより調製されたmRNAからVHならびにVLのcDNA を合成し、該抗体のdsFv断片をコードするDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させ、dsFvを製造することができる。
【0029】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることによって製造することができる。
VH分子とVL分子は、抗ヒトカルネキシン抗体産生ハイブリドーマより調製されたmRNAからVHならびにVLのcDNA を合成し、これを適当な発現ベクターと宿主の組み合わせで発現することによって製造することができる。ヒトカルネキシン分子との親和性のよい分子を得るために、該発現ベクターをファージ発現ベクター、宿主を大腸菌とすることも好ましい態様である。VH分子とVL分子を所望のタンパクとの融合タンパクとして発現し製造することもできる。
【0030】
(抗体誘導体の製造)
本発明に用いられる抗ヒトカルネキシン抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片に放射性同位元素、蛋白質、または薬剤などを化学的に、あるいは遺伝子工学的に導入または結合させた抗体の誘導体を包含する。
本発明に用いられる抗体の誘導体は、本発明に用いられる抗ヒトカルネキシン抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖の、N末端側あるいはC末端側、さらには抗体あるいは抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには抗体または抗体断片中の糖鎖に放射性同位元素、蛋白質、または薬剤などを化学的に結合させることにより製造することができる(抗体工学入門、金光修著、(株)地人書館、1994)。
【0031】
または、抗ヒトカルネキシン抗体または抗体断片をコードするDNAと、結合させたい蛋白質をコードするDNAを連結させたDNAを原核生物発現ベクターあるいは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物に導入することにより発現させて遺伝子工学的に製造することができる。
薬剤としては、放射線同位元素、蛋白質、低分子などいかなるものでもよい。
本発明の抗体の誘導体の検出方法、定量方法、検出試薬、定量試薬または診断薬として使用する場合の薬剤としては、通常の免疫学的測定法で用いられる標識体があげられる。該標識体としては、放射性同位元素、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼなどの酵素、アクリジニウムエステル、ロフィンなどの発光物質、フルオレッセインイソチオシアナート(FITC)、ローダミンイソチオシアナート(RITC)などの蛍光物質などがあげられる。また、該薬剤として、ビオチンなどの物質も標識体として用いることが可能である。該物質は、放射性同位元素、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼなどの酵素、アクリジニウムエステル、ロフィンなどの発光物質、FITC、RITCなどの蛍光物質などが結合された、例えばアビジンなどの、該物質に特異的かつ高親和性をもって結合しうる2次標識物質を使用可能とする物質である。
【0032】
本発明に用いられるヒトカルネキシン又はその断片に結合する抗体は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するヒトカルネキシン又はその断片を産生する細胞やその破砕物等で免疫したマウスの抗体産生B細胞からハイブリドーマを作製し、得られる多種類のハイブリドーマの中から、ヒトカルネキシン又はその断片と反応するハイブリドーマをスクリーニングし、得られたハイブリドーマを培養することにより製造することができる。以下、細胞又はその破砕物等を用いて、本発明に係るモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを製造する方法について説明する。
【0033】
(抗体産生B細胞の調製)
本発明に係る抗体産生細胞の調製は、ヒトカルネキシン又はその断片を産生する細胞又はその破砕物を温血動物に投与し、その脾臓、又はリンパ節などを取り出して、マウスミエローマ細胞と細胞融合することにより行う。
ヒトカルネキシン又はその断片を産生する細胞は、患者から手術によって切除した肺癌細胞、又は継代培養細胞株のいずれでもよい。該継代培養細胞株としては、ヒトLCNEC細胞株LCN1、LCN2、肺腺癌細胞A549等が挙げられる。なお、免疫染色法によるモノクローナル抗体のスクリーニングにも、これらの細胞株を使用することができる。
なお、該肺癌細胞を、温血動物の感作に用いる場合、該細胞のホモジュネートもしくは細胞そのままなどの形態で使用するのが好ましい。
【0034】
前記温血動物は、特に制限されるものではないが、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどを挙げることができ、特にマウス、ラット、モルモットなどの小動物が好ましい。
また、前記細胞等は、例えば、腹腔内、静脈,皮下など、抗体産生が可能な部位に投与する。マウスを用いる場合、腹腔又は尾静脈から投与するのが好ましい。また、該細胞などの投与は、それ自体単独で、又は抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントと共に投与してもよい。
【0035】
なお、該細胞等は、該温血動物の体重1kgあたり、10〜10個程度、又はその相当量を投与する。例えば、マウスを使用する場合、10〜10個/匹投与する。
また、前記細胞等は、温血動物に対して、通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度投与する。また、該免疫された温血動物から抗体価が認められた個体を選択して、最終免疫を行い、その2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させる。
【0036】
(ハイブリドーマの作製)
得られた抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを作製する。マウスを用いる場合、該ミエローマ細胞として、SP2/0、NS−1、P3U1、AP−1などの細胞株を挙げることができる。また、融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどがあり、PEG、特にPEG1000〜PEG6000が好ましい。該PEGは濃度10〜80%程度で添加するのが好ましい。
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞との好ましい数比率は、通常1:1〜20:1程度である。これらの細胞は、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で、通常1〜10分間インキュベートすることで効率よく細胞融合させることができる。
次に、細胞融合させた細胞群を、牛胎児血清10〜20%を含む動物細胞用培地(例えば、RPMI1640)を用いて、5日〜25日間培養し、細胞コロニーを形成させる。
【0037】
該細胞コロニーに対し、1細胞/ウエルの割合で細胞を蒔く限界希釈法を2度行い、ハイブリドーマが確認できたウエルの培養上清を用いて、スクリーニングにより、ヒトカルネキシン又はその断片に結合する抗体の産生が確認されたハイブリドーマを単クローンとする。
【0038】
一度目の限界希釈法は96ウエルプレートを用いて、ウエル当たりハイブリドーマが2個入るように200μlのRPMI-1640培地(最終濃度が15%牛胎児血清と10% BM-Condimed H1(ロシュ・ダイアグノスティック、東京))に加える。1週間から2週間後に、各ウエルに1個ないし2個のハイブリドーマのコロニーが見えてくる。この時点で、さらに上記と同様のスクリーニング法を用いてハイブリドーマが抗体産生能力を維持しているか否かを検討する。陽性ウエルからハイブリドーマを採取し、96ウエルプレートを用いて、ウエル当たり細胞が0.5個入るように200μlのRPMI-1640培地(最終濃度が15%牛胎児血清と10% BM-Condimed H1)に加える。これも約1週間から10日後にwellによって通常1個のハイブリドーマのコロニーが見られる。この上清を用いて、同様のスクリーニング方法を用いて、抗体の産生を確認する。このハイブリドーマはこの時点で単クローンとなっており、この培養上清をモノクローナル抗体として使用する。
【0039】
前記ハイブリドーマのスクリーニングは、抗原として用いた細胞等に特異的な抗体、及び/又はハイブリドーマのIgG抗体を、特異性を問わず検出することにより行うこともできる。当該スクリーニングは、特に制限なく、前記抗体を検出する方法を採用することができる。
前者の例としては、例えば、前記抗原として用いた細胞等を培養上清と接触させ、放射性物質、酵素、及び蛍光色素などで標識した抗免疫グロブリン抗体、又はプロテインGを加えて、前記細胞等と結合したモノクローナル抗体を検出する方法が挙げられる。具体的には、免疫染色法等がある。ここで抗免疫グロブリン抗体としては、細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体等が挙げられる。
【0040】
後者の例を挙げると、培養上清に含まれる抗体を膜などに固定し、放射性物質、酵素、及び蛍光色素などで標識した抗免疫グロブリン抗体、又はプロテインGと接触させて複合体を形成させて、該抗体を検出する方法がある。具体的には、免疫ブロット法等が挙げられる。
前記細胞コロニーのスクリーニングでは、培養上清が、前記細胞などのいずれか一部に陽性を示した細胞コロニー、及び該細胞等も用いた方法では陰性であっても、ヒトカルネキシン又はその断片に対する抗体を産生していると確認されたコロニーを選択し、単一クローンのハイブリドーマを作製することができる。
【0041】
このようにして、製造されるハイブリドーマ株としては、肺腺癌細胞株A549細胞を免疫原として製造され、かつヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株がある。ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株KU-Lad-001は、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所特許生物寄託センター(IPOD)にFERM BP-11318として寄託されている。
(モノクローナル抗体の調製)
まず、得られた単一クローンのハイブリドーマを培養して、該培養上清から、前記肺癌細胞に反応するモノクローナル抗体を回収し、該抗体を精製する。
【0042】
該ハイブリドーマの培養は、常法により、通常、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT)などを添加して、牛胎児血清10〜20%を含む動物細胞用培地(例えば、RPMI1640)で行うことができる。該培養上清を必要量取得した後、モノクローナル抗体の分離、精製を行う。該分離精製は、通常の免疫グロブリンの分離精製法で行うことができる。例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例えば、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相、プロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得ることができる。
【0043】
抗原あるいはその断片と本発明に用いられる抗体あるいは抗体断片との結合の状態を確認する方法としては、例えば、酵素免疫測定法、ウエスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法等があげられる。
酵素免疫測定法とは、ヒトカルネキシンまたはヒトカルネキシンを発現した微生物、動物細胞あるいは昆虫細胞の細胞抽出液などとヒトカルネキシンに対する抗体または抗体断片とを反応させ、さらにアルカリフォスファターゼあるいはペルオキシダーゼなどの酵素標識を施した抗マウスIg抗体またはIgG抗体あるいは抗体断片を反応させた後、酵素の基質が酵素反応の結果色原体、発光体あるいは蛍光体を生ずる物質であった場合には、その酵素反応を吸光度計、発光光度計あるいは蛍光光度計などで測定する方法である。該方法は、酵素で直接的にヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片を標識した誘導体も使用可能であり、また、ビオチンなどで該抗体または抗体断片で標識した誘導体を反応させ、次にまたは同時に、酵素で標識された2次標識物質を反応させた後、酵素反応を適切な計測機などで測定する方法であってもよい。
【0044】
ウェスタンブロッティング法とは、ヒトカルネキシンまたはヒトカルネキシンを発現した微生物、動物細胞あるいは昆虫細胞の細胞抽出液などをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動[Antibodies-A LaboratoryManual,Cold Spring Harbor Laboratory, 1988] で分画した後、分画した蛋白質群をゲルからPVDF膜あるいはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜にヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素標識を施した抗マウスIg抗体またはIgG抗体あるいは抗体断片を反応させた後、確認する方法である。
【0045】
ドットブロッティング法とは、ヒトカルネキシンまたはヒトカルネキシンを発現した微生物、動物細胞あるいは昆虫細胞の細胞抽出液などをニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜にヒトカルネキシンに結合する抗体を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素標識を施した抗マウスIg抗体またはIgG抗体あるいは抗体断片を反応させた後、確認する方法である。
免疫沈降法とは、ヒトカルネキシンまたはヒトカルネキシンを発現した微生物、動物細胞あるいは昆虫細胞の細胞抽出液をヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片と反応させた後、プロテインG-セファロースなどのイムノグロブリンに特異的な結合能を有する担体を加えて抗原抗体複合体を沈降させる方法である。
【0046】
(検体中のヒトカルネキシンの測定方法)
また、本発明は、ヒトカルネキシン又はその断片を用いて、検体中のヒトカルネキシンを免疫学的に検出または定量する方法に関する。検体としては、例えばヒト由来の生体試料、ヒトカルネキシンを発現すると考えられる微生物、動物あるいは昆虫由来の細胞または組織などが挙げられるが、ヒト由来の生体試料が好ましい。
本発明における生体試料としては、例えば疾患部位の組織または細胞、体液中の組織または細胞などが挙げられる。体液試料としては、例えば血液、リンパ液、腹腔液、喀痰、肺胞洗浄液、尿、汗などが挙げられる。また、本発明においては、前記の組織、細胞、体液などを加工処理したサンプルも生体試料として使用することができる。加工処理としては、例えば希釈、濃縮、抽出、病理切片作製上の処理などが挙げられる。病理切片作製上の処理としては、例えばホルマリン固定、切出し、包埋、薄切、伸展などの一連の処理が挙げられる。
【0047】
本発明の免疫学的な検出または定量方法により、ヒトカルネキシンが関与する疾患の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定することができる。ヒトカルネキシンが関与する疾患としては、肺腺癌等が挙げられる。疾患部位としては、原発巣であっても転移巣であってもよい
本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片を用いて、検体中のヒトカルネキシンを、免疫学的に検出または定量する方法としては、免疫学的測定法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法などの免疫化学染色法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法[単クローン抗体実験マニュアル(講談社サイエンティフィック、1987年)、続生化学実験講座5免疫生化学研究法(東京化学同人、1986年)]などが挙げられる。
【0048】
免疫学的測定法は標識方法の違いにより、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、発光免疫測定法(luminescent immunoassay)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)などがあるが、好ましくは酵素免疫測定法である。
酵素免疫測定法で用いる標識体としては、任意の公知(石川榮次ら編、酵素免疫測定法、医学書院)の酵素を用いることができる。例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼなどを用いることができる。酵素の基質が酵素反応の結果色原体を生ずる物質であった場合には、その色素呈色反応を吸光光度計などで測定する。酵素の基質が酵素反応の結果発光物質を生ずる物質であった場合には、その発光物質生成反応を発光検出機などで測定する。
【0049】
発光免疫測定法で用いる標識体としては、任意の公知[今井一洋編、生物発光と化学発光、廣川書店;臨床検査42(1998)]の発光物質を用いることができる。例えば、アクリジニウムおよびその誘導体、ルテニウム錯体化合物、ロフィンなどを用いることができる。ルテニウム錯体化合物としては、例えばClin.Chem.37,9,1534-1539(1991)に記載されたものが好ましい。該化合物は電子供与体と共に電気化学的に発光する。
蛍光免疫測定法で用いる標識体としては、任意の公知(川生明著、蛍光抗体法、ソフトサイエンス社)の蛍光物質を用いることができる。例えば、FITC、RITCなどである。その他の蛍光物質として、例えばquantum dot(Science, 281,2016-2018, 1998)があげられる。または、フィコエリスリンなどのフィコビリタンパク、GFP(Green fluorescent Protein)あるいはこれの類縁タンパクのように蛍光を発するタンパクであってもよい。
【0050】
放射免疫測定法(RIA)とは、ヒトカルネキシンを含むと考えられる検体に、本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片を反応させ、さらに放射性物質標識を施した抗マウスIg抗体またはIgG抗体あるいは抗体断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法である。該方法は、放射性物質で直接的に本発明に用いられるヒトカルネキシンモノクローナル抗体または抗体断片を標識した誘導体も使用可能であり、また、ビオチンなどで該抗体または抗体断片で標識した誘導体を反応せしめ、次にまたは同時に、放射性物質で標識された2次標識物質を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法であってもよい。
【0051】
免疫学的測定法とは、上述した各種標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を測定する方法である。本発明の免疫学的測定法としては、抗原の検出または測定を行う方法であればいかなる方法でもよい。例えば、競合法、サンドイッチ法[免疫学イラストレイテッド 第5版 (南光堂)]があげられるが、サンドイッチ法が好ましい。
【0052】
サンドイッチ法は、固相に第一の抗体を結合させた後、測定したい抗原をトラップさせ、標識した第二の抗体を反応させる方法である。該サンドイッチ法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、上述したFab、Fab'、F(ab)2などの抗体断片を用いてもよい。サンドイッチ法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープを認識する抗体あるいは抗体断片の組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体あるいは抗体断片の組み合わせでもよい。具体的には、本発明のモノクローナル抗体であるヒトカルネキシンとヒトカルネキシンのエピトープと異なるエピトープを認識する抗体あるいは抗体断片の組み合わせなどがあげられる。
【0053】
免疫細胞染色法とは、ヒトカルネキシンを含むと考えられる検体に、本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質でラベルした抗マウスイムノグロブリン(Ig)抗体またはイムノグロブリンG(IgG)抗体あるいは抗体断片を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡などで測定する方法である。該方法は、蛍光物質で直接的に本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合する抗体または抗体断片を標識した誘導体も使用可能であり、また、ビオチンなどで該抗体または抗体断片で標識した誘導体を反応せしめ、次にまたは同時に、蛍光物質で標識された2次標識物質を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡などで測定する方法であってもよい。
【0054】
蛍光物質の代わりにアクリジニウムエステル、ロフィンなどの発光物質を使用して上記態様を実施することも可能である。この場合、測定器は発光測定器を用いることができる。
免疫組織染色法は、ヒトまたは動物の生体組織から採取した組織片などを、ホルマリンやエタノールなどの固定液を用いて固定化した後または固定せず、該組織片を凍結またはパラフィンへ包埋し、該組織片から組織切片を調製し、該組織切片をガラスなどのスライドガラスに固着せしめ、脱パラフィンなどの不要物を除く処理、さらに必要に応じて抗原と抗体の反応性を向上させる処理を施した後、本発明の抗体または抗体断片で反応させた後、組織切片に含まれるヒトカルネキシンの発現を顕微鏡またはカメラなどを用いて観察または定量する方法である。
上記免疫染色法において、蛍光物質、発光物質、酵素、放射性物質標識抗体を用いた免疫染色法が可能であり、それぞれの標識に適した上述の免疫学的測定法と同様の手技によって検出または測定を行うことができる。
ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法および免疫沈降法はすでに述べた方法を適用することができる。
【0055】
(試薬・キットの製造)
ヒトカルネキシンに結合する抗体あるいは抗体断片を用いて試薬またはキットを製造できる。以下、サンドイッチELISA、免疫細胞染色法、免疫組織染色法を原理とする試薬またはキットの態様を例示するが、本発明はこれらに限定されない。
本発明の抗ヒトカルネキシン抗体を含む、ヒトカルネキシンの検出試薬または定量試薬は、上記免疫学的測定法を用いる検出方法または定量方法に用いられ、該方法が実施できる構成要素を含むヒトカルネキシンの検出試薬または定量試薬の各構成要素と実質的に同一、またはその一部と実質的に同一な物質が含まれていれば、構成または形態が異なっていても、本発明の試薬に包含される。
【0056】
(1)サンドイッチELISA
構成要素としては、抗ヒトカルネキシン抗体、抗ヒトカルネキシン抗体を固定化するための担体、抗ヒトカルネキシン抗体が固定化された固相、検出に用いる標識された二次抗体またはその抗体断片などがあげられ、また必要に応じ、生体試料の処理試薬、生体試料の希釈液、反応緩衝液、洗浄液、標識体の検出用試薬またはヒトカルネキシンの標準物質などを含む、キットの形態であっても良い。
抗ヒトカルネキシン抗体としては、ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体であれば特に制限はないが、例えば本発明のハイブリドーマヒトカルネキシンが生産するヒトカルネキシンなどが好適である。本発明に用いられる抗ヒトカルネキシン抗体は、必要に応じて断片化した抗体断片とすることができる。
該抗体断片としては、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv、diabodyおよびCDRを含むペプチド、VHまたはその融合タンパク、VLまたはその融合タンパクなどがあげられる。
上記の抗体あるいは抗体断片は、二次抗体を用いて検出することができ、また、該抗体を標識化して直接検出することもできる。
二次抗体を用いて検出する場合の、二次抗体としては、抗体に結合できる抗体であれば、いかなる抗体でも用いることができ、該抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体よく、あるいはFab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv、diabodyおよびCDRを含むペプチドなどを用いることができる。二次抗体に用いられる抗体あるいは抗体断片は、検出のために標識化して使用される。
【0057】
上記の抗ヒトカルネキシン抗体あるいは抗体断片または該抗体を検出するための二次抗体あるいは抗体断片を標識する物質としては、上記免疫学的測定法で詳述した標識方法を用いることができる。
抗体あるいは抗体断片を上記の標識により標識化する方法としては、遺伝子工学的に結合させる方法や、化学的に結合させる方法がある。遺伝子工学的に結合させる方法は、文献 [Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 974 (1996); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 7826 (1996)] 記載の方法に従って行うことができる。化学的に結合させる方法は、文献 [Science, 261, 212 (1993)] 記載の方法に従って行うことができる。また、放射性同位元素を化学的に結合させる方法は、文献 [Antibody Immunoconjugates and Radiopharmaceuticals, 3, 60 (1990); Anticancer Research, 11, 2003 (1991)] 記載の方法に従って行うことができる。
【0058】
標識量を測定する方法としては、吸光度法(比色法)、蛍光法、発光法、放射活性法などがある。標識が酵素である場合、酵素の基質を当該酵素と反応させ、生成した物質を測定することにより、標識量を測定することができる。
酵素がペルオキシダーゼである場合には、例えば吸光度法、蛍光法などによりペルオキシダーゼ量を測定することができる。吸光度法によりペルオキシダーゼ量を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素および酸化発色型色原体の組み合わせとを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計などで測定する方法などがある。酸化発色型色原体としては、例えばロイコ型色原体、酸化カップリング発色型色原体などがある。
【0059】
ロイコ型色原体は、過酸化水素およびペルオキシダーゼなどの過酸化活性物質の存在下、単独で色素へ変換される物質である。具体的には、o-フェニレンジアミン、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(CCAP)、10-N-メチルカルバモイル-3,7−ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(MCDP)、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3-ビス(4-クロロフェニル)メチル-4-ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)などがある。
【0060】
酸化カップリング発色型色原体は、過酸化水素およびペルオキシダーゼなどの過酸化活性物質の存在下、2つの化合物が酸化的カップリングして色素を生成する物質である。2つの化合物の組み合わせとしては、カプラーとアニリン類(トリンダー試薬)との組み合わせ、カプラーとフェノール類との組み合わせなどがあげられる。該カプラーとしては、例えば4-アミノアンチピリン(4-AA)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラジンなどがあげられる。アニリン類としては、N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ−3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N,N-ジメチル-3-メチルアニリン、N,N-ジ(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N'-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N'-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-4-フルオロ-3,5-ジメトキシアニリン(F-DAOS)などがあげられる。該フェノール類としては、フェノール、4-クロロフェノール、3-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード安息香酸(HTIB)などがある。
【0061】
蛍光法によりペルオキシダーゼ量を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素および蛍光物質の組み合わせとを反応させ、生成した蛍光の強度を測定する方法などがある。当該蛍光物質としては、例えば4-ヒドロキシフェニル酢酸、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、クマリンなどがある。
パーオキシダーゼの基質として化学発光を呈する化合物としては、例えばルミノール化合物、ルシゲニン化合物などがある。
【0062】
酵素がアルカリ性ホスファターゼである場合には、例えば発光法などによりアルカリ性ホスファターゼ量を測定することができる。発光法によりアルカリ性ホスファターゼ量を測定する方法としては、例えばアルカリ性ホスファターゼとその基質とを反応させ、生成した発光の発光強度を発光強度計などで測定する方法などがある。アルカリ性ホスファターゼの基質としては、例えば3-(2'-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3'-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・二ナトリウム塩(AMPPD)、2-クロロ-5-{4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル}フェニル ホスフェート・二ナトリウム塩(CDP-StarTM)、3-{4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル}フェニル ホスフェート・二ナトリウム塩(CSPDTM)、[10-メチル-9(10H)-アクリジニルイデン]フェノキシメチルリン酸・二ナトリウム塩(LumigenTM APS-5)およびその類縁体(H.Akhavan-Tafti,Z.Arghavani et al John Wiley and Sons, Chichester,497-500(1997))などがあげられる。
【0063】
酵素がβ-D-ガラクトシダーゼである場合には、例えば吸光度法(比色法)などによりβ-D-ガラクトシダーゼ量を測定することができる。吸光度法(比色法)によりβ-D-ガラクトシダーゼ量を測定する方法としては、例えばβ-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計などで測定する方法などがある。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えば2-クロロ-4-ニトロフェニルβ-D-ガラクトシドなどがある。
酵素がルシフェラーゼである場合には、例えば発光法などによりルシフェラーゼ量を測定することができる。発光法によりルシフェラーゼ量を測定する方法としては、例えばルシフェラーゼとその基質とを反応させ、生成した発光の発光強度を発光強度計などで測定する方法などがある。ルシフェラーゼの基質としては、ルシフェリン、セレンテラジンなどがある。
【0064】
標識が、放射性同位元素である場合、放射性同位元素の量は、放射活性をシンチレーションカウンターなどにより測定することにより決定することができる。
抗ヒトカルネキシン抗体を固定化するための担体としては、抗体を結合させて保持できるものであればいかなるものも包含されるが、各種高分子素材を用途に合うように成形した素材が用いられる。
ペプチドなどを固定化させる担体の形状としてはチューブ、ビーズ、プレート、ラテックスなどの微粒子、スティックなどが、素材としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレートなどの高分子素材、ガラス、セラミックス、磁性粒子や金属などがある。
【0065】
抗体の固相化の方法としては物理的方法と化学的方法またはこれらの併用など、公知の方法が用いられる。物理的結合としては、例えば物理吸着などがあげられる。化学的結合としては、例えば共有結合、非共有結合などがある。非共有結合としては、例えば静電的結合、水素結合、疎水結合、配位結合などがあげられる。例えば、ポリスチレン製96ウェルの免疫測定用マイクロタープレートに抗体を疎水固相化したものがあげられる。
固定化させる抗体は、直接抗体を固相に固定化しても良いし、抗体をビオチン−アビジン、グルタチオン―グルタチオントランスフェラーゼなどを介してから、固相に固定化しても良い。
上記の抗ヒトカルネキシン抗体を固定化させた固相は、ブロッキングにより、担体上に残存する官能基を保護する。免疫学的測定法のブロッキングに用いられる物質としては、通常蛋白質、界面活性剤および市販のブロッキング試薬などが用いられるが、本発明のブロッキングに用いられる通常の蛋白質としては、BSA、KLHまたはガゼインなどが用いられる。
【0066】
生体試料の希釈液としては、界面活性剤、緩衝剤などに安定化剤を含む水溶液などがある。検体として全血を用いる場合には、水性溶液は、赤血球などの血球の膨張や収縮による血清中の成分濃度の変化を防止する目的で、塩類、糖類など、緩衝剤などにより等張液に調製されたものであることが好ましい。該塩類としては、特に制限はないが、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのハロゲン化アルカリ金属塩などがあげられる。該糖類としては、特に制限はないが、例えば、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコールなどがあげられる。
【0067】
該反応緩衝液としては、抗体固定化固相の抗体と生体試料中の抗原とが結合反応をすることができればいかなるものであってもよい。また、必要に応じて、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、反応促進剤あるいは酵素活性調節剤などを添加してもよい。
該洗浄液としては、通常未反応の物質を除去、洗浄でき、抗原抗体反応に影響を与えなければ、いかなるものも使用することができる。また、必要に応じて、緩衝剤、界面活性剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤あるいは安定化剤などを添加してもよい。例えば、PBS-Tween Tablets (2130-10、BioVision社)などが使用される。
【0068】
検体の希釈液、反応緩衝液あるいは洗浄液などに用いられる緩衝液としては、緩衝液に用いる緩衝剤は緩衝能を有するものならば特に限定されないが、pH1〜11の例えば乳酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、リン酸緩衝剤(但し、標識がアルカリ性ホスファターゼである場合を除く)、トリエタノールアミン緩衝剤、ジエタノールアミン緩衝剤、リジン緩衝剤、バルビツール緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝剤、イミダゾール緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、グッド緩衝剤などがあげられる。グッド緩衝剤としては、例えばMES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝剤、ビス-トリス[ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン]緩衝剤、ADA[N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸]緩衝剤、PIPES[ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸)]緩衝剤、ACES{2-[N-(2-アセトアミド)アミノ]エタンスルホン酸}緩衝剤、MOPSO(3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、BES{2-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸}緩衝剤、MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝剤、TES〈2-{N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸〉緩衝剤、HEPES[N-(2-ヒドロキシエチル)-N'-(2-スルホエチル)ピペラジン]緩衝剤、DIPSO{3-[N,N-ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸}緩衝剤、TAPSO〈2-ヒドロキシ-3-{[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸〉緩衝剤、POPSO[ピペラジン-N,N'-ビス(2-ヒドロキシプロパン-3-スルホン酸)]緩衝剤、HEPPSO[N-(2-ヒドロキシエチル)-N'-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)ピペラジン]緩衝剤、EPPS[N-(2-ヒドロキシエチル)-N'-(3-スルホプロピル)ピペラジン]緩衝剤、トリシン[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン]緩衝剤、ビシン[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン]緩衝剤、TAPS{3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノプロパンスルホン酸}緩衝剤、CHES[2-(N-シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸]緩衝剤、CAPSO[3-(N-シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸]緩衝剤、CAPS[3-(N-シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸]緩衝剤などがある。
【0069】
酵素活性調節剤、酵素安定化剤としては、例えばマグネシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオンなどの金属イオンがある。試薬中のこれらの金属イオンの含量としては、測定において、酵素が安定化される含量であれば特に制限はない。
該防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質などがある。試薬中のこれらの防腐剤の含量としては、測定において、検体中の被測定物質が適切に測定されるような含量であれば特に制限はない。
ヒトカルネキシンの標準物質としては、遺伝子組換え技術により取得された、あるいは生体試料から取得されたヒトカルネキシンや、ヒトカルネキシンが発現している細胞、ヒトカルネキシンの部分ペプチドなどがあげられる。
【0070】
(2)免疫細胞染色法
構成要素としては、標識抗ヒトカルネキシン抗体あるいはその抗体断片、または抗ヒトカルネキシン抗体と検出に用いる標識された二次抗体あるいはその抗体断片などの組み合わせがあげられ、また必要に応じ、生体試料の処理試薬、生体試料の希釈液、反応緩衝液、洗浄液、ブロッキング、溶血剤、固定剤またはヒトカルネキシンの標準物質などを含む、キットの形態であっても良い。抗体断片および二次抗体の態様は(1)サンドイッチELISAに例示された物質と同様である。
【0071】
標識抗ヒトカルネキシン抗体、標識二次抗体に用いられる標識は上記免疫学的測定(酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、放射免疫測定法)で例示された標識物質の中から選択することができるが、蛍光標識が望ましい態様である。
生体試料の処理試薬、生体試料の希釈液、反応緩衝液、洗浄液、ブロッキング、またはヒトカルネキシンの標準物質は上記(1)サンドイッチELISAの項で例示された物質を利用することができる。溶血剤としては、塩化アンモニウムを含むものが一般に用いられているが、これには限らない。固定液としてはエタノールやホルムアルデヒドを含むものが用いられるがこれには限らない。市販のものとしては、BD FACS Lysing SolutionやBD PharmLyse(ともにベクトン・ディッキンソン社)が利用できる。
【0072】
(3)免疫組織染色法
構成要素としては、本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合するモノクローナル抗体あるいは抗体断片は、標識物質で標識されたモノクローナル抗体あるいは抗体断片であってもよく、その他検出に必要な試薬は公知の試薬が利用できる。その他検出に必要な試薬としては、検出に用いる標識された二次抗体またはその抗体断片、後述の高感度染色に用いられる公知の物質などがあげられ、また必要に応じ、抗原の賦活化試薬または溶液、ブロッキング試薬または溶液、内因性物質の活性阻止試薬または溶液、抗体の希釈液、反応緩衝液、洗浄液、標識体の検出用試薬またはヒトカルネキシンの標準物質などを含む、キットの形態であっても良い。抗体断片および二次抗体の態様は(1)サンドイッチELISAに例示された物質と同様である。
【0073】
標識抗ヒトカルネキシン抗体あるいは抗体断片、標識二次抗体あるいは抗体断片に用いられる標識は上記免疫学的測定(酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、放射免疫測定法)で例示された標識物質の中から選択することができるが、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法で例示された標識物質の使用がより好ましい。
本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合するモノクローナル抗体あるいは抗体断片、標識二次抗体あるいは抗体断片の反応条件については、抗体濃度は0.01〜100μg/mL、好ましくは、0.1〜30μg/mLである。抗体反応温度は通常4℃〜37℃の範囲であり、抗体反応時間は反応温度に従って適切に設定することができるが、4℃の場合は1時間以上〜24時間以内、室温の場合には10分以上8時間以内が好ましい。
【0074】
内因性物質の活性阻止に用いられる試薬としては、内因性ペルオキシダーゼの除去のために、0.2〜2%の過ヨウ素酸水溶液、1〜5%過酸化水素水、0.1〜0.5%過酸化水素加メタノール、0.1〜0.5%過酸化水素・0.05〜0.2%アジ化ナトリウム水溶液などが用いられる。また、内因性アルカリフォスファターゼ活性の阻止のため、レバミゾールの希釈液が用いられる。内因性ビオチンの活性阻止のため、0.01〜0.1%のアビジン水溶液を反応させ、次いで0.001〜0.01%のビオチン水溶液を反応させることが可能である。内因性物質の活性阻止のためには、上記の液体を室温で5分〜1時間反応させることができるが、この反応温度、反応時間には限らない。
【0075】
内因性物質の活性化阻止の操作は、酵素標識されたまたは酵素非標識の、本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合するモノクローナル抗体または抗体断片を希釈液で希釈した液を反応させた後に行ってもよい。
洗浄液としては、PBSまたはリン酸緩衝液またはトリス塩酸緩衝液などを用いることができる。このpHは5.5〜9.0、好ましくは、6.0〜8.5である。該濃度は0.2〜0.005 mol/L、好ましくは、0.1〜0.01 mol/Lである。
ブロッキング液としては、正常動物血清、ウシ血清アルブミン、スキムミルク、カゼイン溶液などが好適であるが、これには限らない。正常動物血清に用いられる動物としては、ヒトまたはマウス以外ではすべての動物種が使用できるが、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ブタなどが好適である。酵素標識抗マウスIgまたはIgGを使用する場合には、抗マウスIgまたはIgG抗体を得た動物種と同種の正常血清を用いるのが好ましい。その血清濃度は0.1〜20%の範囲で任意に選ぶことができるが、好ましくは、1〜5%である。ブロッキング温度は4℃〜37℃の範囲で適宜設定できる。ブロッキング時間は反応温度にしたがって適切に設定することができるが、室温の場合には10分以上1時間以内が好ましい。
【0076】
抗体の希釈液としては、ウシ血清アルブミンを含むPBSが好適に用いられるが、これに制限されない。ウシ血清アルブミンの濃度は0.1〜5%の範囲で任意に選ぶことができる。さらに、界面活性剤を添加することも可能である。界面活性剤の種類としては、トライトンX−100(X-100、Sigma-Aldrich社)、ツイーン20(40350-02、関東化学株式会社)などが用いることができる。界面活性剤の濃度は0.005〜0.5%、好ましくは、0.01〜0.2%である。
【0077】
発色反応液としては、ペルオキシダーゼを標識酵素とする場合、3,3'-diaminobenzidine(DAB)液を用いることができる。使用時に過酸化水素水を添加して使用することが望ましい。DAB発色の増感剤として、イミダゾールを添加することが可能である。また、3-アミノ-9-エチルカルバゾール溶液、4-クロロ-1-ナフトール溶液を使用することもできる。アルカリフォスファターゼを標識酵素とする場合には、ファストレッドまたはファストレッドバイオレットまたはファストブルーの各塩を発色剤とすることも可能である。また、ニューフクシン液(105226、Merck社)あるいはBCIP/NBT液(B6404、Sigma-Aldrich社)を利用することもできる。グルコースオキシダーゼの発色反応液としては、例えばグルコース、PMS(phenazine methosulfate)および色原体の混合液が用いられる。該色原体としてはPMSによって還元されて不溶性の色素を生じるものであれば如何なる色原体であってもよい。該色原体として、例えば、NBT、TNBT、BSPT、INT(349-01503和光純薬工業株式会社)などのテトラゾリウム塩などが挙げられる。発色反応時間としては、30秒〜20分間の間で適宜選ぶことができるが、1〜10分間がより好ましい。
【0078】
ホルマリン固定パラフィン包埋された組織では、アルデヒド固定によってしばしば抗原が隠された状態になるため抗原と抗体の接触が阻害されることがある。この場合、抗原の賦活化処理によって、染色性を向上させることが可能である。賦活化処理としては、例えば、蛋白分解酵素処理または加熱処理などが使用できる。蛋白分解酵素は抗原上の抗体認識部位に対して切断活性がなければ任意のものが使用可能であるが、特に限定分解酵素が好ましく、例えば、トリプシン、プロナーゼ、ペプシン、アクチナーゼ、フィシン、プロテイナーゼK、サブチリシン、パパインなどが挙げられる。
【0079】
加熱処理としては、水または任意の緩衝液中で、マイクロウェーブ照射器、電子レンジ、オートクレーブ、圧力鍋、ウォーターバス、蒸し器、ホットプレートなどによる加熱操作が用いられるがこれには限定されない。加熱処理に用いられる緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液、EDTA溶液、水酸化ナトリウム加クエン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液などがあるが、特にこれらには限定されない。緩衝液の塩濃度は0.0005〜0.2 mol/Lで、好ましくは0.001〜0.1 mol/Lである。緩衝液のpHは5.0〜10.0で、好ましくはpH5.5〜9.5である。さらには、尿素水溶液、塩化アルミニウム水溶液、過ヨウ素酸水溶液なども用いることが可能である。これらの水溶液の濃度は、0.1〜7%、好ましくは、1〜5%である。
【0080】
また、アルカリ処理、酸処理も可能である。アルカリ処理としては、NaOH、KOHなどが用いられ、酸処理としては、塩酸、ギ酸、酢酸などが用いられる。さらに、蛋白変性剤も用いることが可能である。蛋白変性剤としては、尿素、グアニジンなどを用いることができる。
染色強度を向上させる目的で以下の高感度染色法(「改訂四版 渡辺・中根 酵素抗体法」、名倉宏、長村義之、堤寛 編集 学際企画株式会社出版)を行うことが可能である。これらの高感度染色法は本発明のモノクローナル抗体および抗体断片の反応後に使用することで優れた効果を発揮する。
【0081】
高感度染色法としては、PAP(peroxidase anti-peroxidase)法、その変法としての四段階PAP法、Double bridge PAP法、Fab fragmentを用いるPAP法、及びHapten sandwich methodが使用可能である。また、アビジン・ビオチン複合体形成の原理を応用したABC(avidin biotinylated-peroxidase complex)法、LAB(labeled avidin-biotin)法、BRAB(bridge avidin-biotin)法、streptavidinを利用したLSAB(labelled strept avidin biotin)法、SABC(streptavidin biotin complex)法、ビオチン化したtyramidを使用したCSA(catalyzed signal amplification)法、ABC法の変法として抗アビジン抗体を用いる方法、ビオチン化プロテインAを用いる方法、PAPとABCを組み合わせる方法、及びコロイド金標識抗ペルオキシダーゼ抗体によるABC法が利用可能である。さらに、酵素標識プロテインAを用いる方法も利用可能である。
【0082】
高感度染色法の別の態様としては酵素標識ポリマー法がある。デキストランまたはアミノ酸などの高分子ポリマーに発色酵素と1次抗体、または発色酵素と2次抗体を結合させたものを利用する方法であるが、本発明のモノクローナル抗体を1次抗体として高分子ポリマーに結合する態様、または抗マウスIg抗体または抗マウスIgG抗体を2次抗体として高分子ポリマーに結合する態様のどちらも可能である。
また、金属標識抗体を用いたイムノコロイド法も用いることが出来る。さらには、発色酵素をペルオキシダーゼの代わりにアルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼなどの発色酵素を利用することも可能である。アビジン・ビオチン複合体とこれらの発色酵素の組み合わせまたはAPAPP(alkaline phosphatase-antialkaline phosphatase)法も利用することができる。または、ペルオキシダーゼ標識抗FITC抗体を用いる間接法も行うことができる。
【0083】
上記の原理を使用した市販のキットも利用することができる。市販のキットとしては、例えばVector Stain Kit(Vector社)、Strept AB Complex(DAKO社製)、AB Complex(DAKO社製)、SAB-POキット(ニチレイ社製)、SAB-APキット(ニチレイ社製)、Super Sensitive Ready-to-Use Detection Kit(BioGenex社製)、Polyvalant染色キット(ScyTek社製)、EPOS system(DAKO社製)、EnVision system(DAKO社製)、Super Sensitive Non-Biotin HRP Ready-to-Use Detection Kit(BioGenex社製)、Simple stain system(ニチレイ社製)などがある。
【0084】
LAB法、及びLSAB法の手技については例えば以下の条件が挙げられる。本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合するモノクローナル抗体あるいは抗体断片反応後または内因性物質の活性阻止操作終了後、洗浄液で洗浄し、ビオチン標識抗マウスIg抗体またはビオチン標識抗マウスIgG抗体を反応し、次いでアビジン標識ペルオキシダーゼを反応させる態様が可能である。ビオチン標識抗マウスIg抗体またはビオチン標識抗マウスIgG抗体の反応条件については、抗体濃度は0.1〜100μg/mL、好ましくは、5〜75μg/mL、より好ましくは、20〜50μg/mLとすることができる。抗体反応温度および時間については本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合するモノクローナル抗体あるいは抗体断片の反応と同様な条件を選ぶことができる。アビジン標識ペルオキシダーゼの反応条件については、濃度は0.1〜100μg/mL、好ましくは、5〜75μg/mL、より好ましくは、20〜50μg/mLとすることができる。抗体反応温度および時間については本発明に用いられるヒトカルネキシンに結合するモノクローナル抗体あるいは抗体断片の反応と同様な条件を選ぶことができる。
【0085】
ヒト組織の採取については、手術時あるいはバイオプシーなどによって得られる病変部位など目的とする組織を含む組織を採取する方法などが挙げられる。採取した組織はそのまま検体として使用することが可能である。固定方法の代表的手技としては、未固定で凍結し、凍結切片を作製してから冷アセトンなどで固定する方法、固定後凍結し、凍結切片を作製する方法、固定後にパラフィンなどに包埋する方法などが挙げられる。該固定には、アルデヒド系を中心としたタンパク・ペプチド鎖に架橋形成を生じさせる固定と、タンパクの凝固沈殿を基本とする有機溶剤系による固定に大別される。アルデヒド系固定液としては例えば、10〜20%の非緩衝ホルマリン、10%緩衝ホルマリン、緩衝4%パラホルムアルデヒド、PLP(periodate-lysine-paraformaldehyde)、ザンボニ液、ブアン液(飽和ピクリン酸:ホルマリン原液:氷酢酸=15:5:1)、グルタールアルデヒドが挙げられる。有機溶剤系固定液として例えば、エタノール、アセトン、カルノア液(エタノール:クロロホルム:氷酢酸=6:3:1)、メタカン液(メタノール:クロロホルム:氷酢酸=6:3:1)が挙げられる。さらに、特殊な固定液(「改訂四版 渡辺・中根 酵素抗体法」、名倉宏、長村義之、堤寛 編集 学際企画株式会社出版)としては、カルボジイミド固定液、パラベンゾキノン液、アクロレイン液、昇汞加ホルマリン系固定液、ホルマリン・エタノール混合液(ホルマリン原液:100%エタノール:水=1:8:1)、酢酸エタノール・ホルマリン混合液(ホルマリン原液:氷酢酸:エタノール=2:1:17)も用いられる。
【0086】
未固定凍結の場合には、組織を細切し、凍結包埋剤(OCT compoundなど)に入れてドライアイス・アセトンにて急速に凍結し、アセトンを乾かし、密封してディープフリーザー中で保管する方法が用いられる。固定後凍結方法としては、組織を細切し、上述の任意の固定液を用いて固定し、例えばPBSまたは10〜20%のショ糖を含むPBSなどで洗浄し、凍結包埋剤(OCT compoundなど)に入れてドライアイス・アセトンにて急速に凍結し、アセトンを乾かし、密封してディープフリーザー中で保管する方法が用いられる。固定後にパラフィン包埋する方法としては、組織を細切し、上述の任意の固定液にて固定し、エタノール、キシレンなどで脱水・透徹し、パラフィン包埋し、パラフィンブロックとして保管する方法が用いられる。固定方法としては、浸漬固定、注入固定、脱気固定、凍結置換固定、凍結乾燥固定などが用いられる。浸漬固定の場合の固定時間は半日間から1週間が好ましいが、一般的には1ないし2日間がより好ましい。また、マイクロウェーブや家庭用電子レンジを利用することで固定時間を数時間に短縮することも可能である。
【0087】
ヒトまたは動物の生体組織などから採取した血液細胞や微生物、ヒトまたは動物あるいは昆虫などの培養細胞などについては、それが浮遊細胞の場合には、サイトスピンを用いてスライドガラスへ貼付する方法、遠心によって細胞をペレット化した後、凝塊を作らせ、それを凍結あるいはパラフィン包埋する方法が挙げられる。凝塊を作らせる方法としては、アガロースに封入する方法あるいはフィブリノーゲン次いでトロンビンを添加して人工的なフィブリン塊を作らせる方法などが挙げられる。
切片を作製する方法として好適な態様は、凍結切片の場合にはクリオスタットを用いる方法であり、パラフィン切片の場合にはミクロトームを用いる方法が好ましい。
【0088】
凍結切片の場合の酵素標識抗体法の染色フローとしては例えば以下の態様が挙げられる。凍結切片を適切な洗浄液で洗浄後、内因性物質の活性阻止を行った後、ブロッキング液にてブロッキングを行う。酵素標識された、本発明のモノクローナル抗体または抗体断片を希釈液で希釈した液を反応させ、洗浄液で洗浄後、発色反応を行う。あるいは、酵素非標識の、本発明のモノクローナル抗体または抗体断片を希釈液で希釈した液を反応させ、洗浄液で洗浄後、酵素標識の抗マウスIgまたはIgG抗体を希釈液で希釈した液を反応させ、洗浄液で再び洗浄した後に、発色反応を行うことも可能である。適宜、メチルグリーンなどを用いて核染色を行うこともできる。あるいは、細胞像を明瞭にするためにヘマトキシリンなどで染色を行うこともできる。
【0089】
パラフィン切片の場合には、キシレン、トルエン、ベンゼンなどで脱パラフィン操作を行った後、100%エタノール、70%エタノールになじませた後に水洗する。内因性物質の活性阻止以降の操作は上記と同様である。
自動免疫染色装置を使用することも本発明を完成するために利用できる方法である。自動免疫染色装置としては、HIS-20(サクラ精機社)、i6000(協和メデックス社)、ST5050(ライカ社)、HXベンチマーク(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)、Autostainer(DAKO社)、Horizon(DAKO社)などが挙げられるがこれには限定しない。
【0090】
免疫染色像の定性的または定量的判定方法としては、抗体の標識物質に応じて適した方法を利用することが可能である。すなわち、酵素を標識物質として選択した場合には光学顕微鏡、共焦点レーザースキャン顕微鏡などを、蛍光物質を標識物質として選択した場合には蛍光顕微鏡、共焦点レーザースキャン顕微鏡、蛍光画像解析装置などを、放射性物質の場合にはオートラジオグラフィー、放射線画像解析装置などを、発光物質の場合には発光画像解析装置などを用いることが可能である。
【0091】
顕微鏡で得られた画像について、目視にて染色陽性部位の形態および濃淡を検知することができ、これによって定性的または定量的判定が可能となる。
あるいは、顕微鏡で得られた画像に対して、目的に合った画像処理を行い、鮮明に表現するために、デジタルカメラなどのデジタル画像入力システムを用いて画像解析装置に画像データをデジタル信号として入力することができる。画像解析装置では、染色陽性部位の面積、最短径、最長径、周長などの計測、および染色陽性部位の透過率、光学的濃度、吸光度などを計測可能で、これらの測定値に基づいた反応産物の陽性率、分布など目的に応じた定量解析が可能となる。
【実施例】
【0092】
(実施例1)AMeX固定
まず、ヒト肺腺癌に由来するA549細胞株(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)のAMeX(アセトン・メタノール・キシレン)固定を下記の手順で行った。
培養したA549細胞株を1,000回転で10分間遠心分離し、上清を除去した後、2価のイオンを含まないリン酸緩衝生食液(PBS-)10mlを加え、攪拌後、さらに1,000回転10分間で遠心分離した。その上清を除去した後、4℃のアセトンの30mlを加え、4℃で16〜18時間固定した。固定後、上清を捨て、新たに4℃のアセトンを加え、室温で15分間浸透機を用いて室温に戻しながら脱水反応を行った。
さらに、上清を捨て、室温のアセトンを加え浸透機上で15分間攪拌を行い、水分を出来るだけ除いた。その後、安息香酸メチルを加え同様の方法で15分間2回置換反応を行った。さらに、キシレンを用いて透徹反応を同様の方法で行い、最後に融解温度58〜60℃のパラフィンに入れ、真空ポンプで減圧しながら、4時間かけて細胞標本にパラフィンを浸透させた後、パラフィンに包埋し、4℃でブロックを保存した。該ブロックをミクロトームで約3μmの切片とし、シランコーティングスライドグラスに拾い、40℃で1日乾燥させた。その後、ジッパー付きのビニール袋に入れ、4℃で保存した。
【0093】
(実施例2)ハイブリドーマの作製
ヒト肺癌の肺腺癌であるA549細胞株1×10個を、5週齢のメスBalb/cマウスの腹腔に一週間おきに3回免疫した。第3回目の免疫から3日後、該免疫マウスの尾静脈から1μlの血液を採取し、リン酸緩衝生食液(0.0075 M, pH7.4;以下PBSと略す。)で100倍希釈し、該希釈液を用いて免疫源に用いたA549細胞株をAMeX包埋した細胞標本を免疫染色した。
次に、免疫染色法による免疫マウスの抗体価を以下のようにして確認した。
約3μmに薄切したA549細胞株をキシレンで15分間脱パラフィンした。その後、切片は下降エタノール系列(100%エタノール3槽 → 95%エタノール1槽 → 90%エタノール1槽 → 80%エタノール1槽 → 70%エタノール1槽)を10秒間ずつ通し、徐々にエタノールの濃度を下げながら脱キシレン操作を行った。その後、切片は流水水洗し、3%過酸化水素水を切片に載せ10分間反応させ、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害させた。
【0094】
さらに流水水洗した後、切片は0.075M TBS(pH7.5)に5分間浸し、続いて2%正常ブタ血清/TBSで10分間処理し、非特異的蛋白質の反応を阻止する。その後、切片上の過剰な溶液を除いた後、上記に示したように100倍希釈したマウス血清100μlを切片に載せ、湿箱中で、室温2時間反応させた。反応後、TBSで5分間ずつ3回洗浄し、二次抗体としてHRP標識の高感度ポリマー試薬(ChemMate ENVISIN、DAKO Japan、京都)を切片に滴下し、室温で30分間反応させた。反応後、TBSで5分間ずつ3回洗浄後、HRP酵素の基質反応液であるStable DAB溶液(Invitrogen、東京)を100μl滴下し、2〜3分間反応させ、抗原抗体産物を可視化させた。その後、核染色として、マイヤーのヘマトキシリン30秒間染色した後、上昇エタノール系列(70%エタノール1槽 → 80%エタノール1槽 → 90%エタノール1槽 → 95%エタノール1槽 → 100%エタノール3槽)を通し、ついでキシレンを数槽通した後、化学封入剤、エンテラン(ムトー、東京)を滴下、カバーグラスを載せて永久標本とした。封入後、顕微鏡で免疫したマウスの血清中に含まれる抗体が認識する抗原の局在を確認した。
【0095】
上記の確認法によって、該A549細胞株が染色されて、その血液中の抗体価上昇が確認されたマウスを選び、第3回目の免疫から1週間後、最終免疫を同様の方法で行った。その3日後に、Balb/cマウスから脾臓細胞を取り出し、該脾臓細胞とミエローマ細胞SP2/0とを、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合させた。該ミエローマ細胞と該脾細胞の割合は1:5とし、96ウエルプレートの1ウエル当たり該脾細胞が1.8×105個となるように調製した。
該細胞融合から8〜23日後に、ハイブリドーマのコロニーが出現したウエルから培養上清100μlを回収し、該上清を一次抗体とした。
【0096】
(実施例3)免疫染色法によるハイブリドーマのスクリーニング
前記上清を一次抗体として、A549細胞株の標本を免疫染色し、該細胞株が陽性を示したコロニーを、目的とするモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを含むと判断し、選択した。該免疫染色法は免疫マウス血清を一次抗体として用いた免疫染色法と同様である。当該ハイブリドーマ培養上清に含まれる抗体とAMeX固定したA549細胞との反応性を図1に示す。当該抗体によって、Amex固定されたA549細胞は強く染色されたことから、当該抗体の認識する抗原タンパク質がA549細胞に過剰発現されていることが示めされた。
【0097】
(実施例4)ハイブリドーマのクローニング
目的とするハイブリドーマの存在が確認できたウエルの上清を用いて、先に記載した手順で、A549細胞株の免疫染色と免疫ブロット法を行い、モノクローナル抗体産生が確認されたものを単クローンのハイブリドーマとした。
このような手順により、前記A549細胞株と特異的に結合する、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株KU-Lad-001を得た。
ハイブリドーマの腹水化の方法は、以下のように実施した。BALB/cマウス(生後5週間程度)の腹腔内にプリスタンを500μlずつ注射した。1週間後にサブコンフレントなるように10cm ディッシュにハイブリドーマを植え継ぎ培養した。1週間経過後、ディッシュの全ての細胞を1200rpm、10分間遠心分離して集め、遠心分離後の上清を除いた後、500μlのRPMI1640・10% FCSに懸濁させ、マウス1匹当たり4,5枚のディッシュに相当する細胞数をマウスの腹腔内に注射した。10日程経過後、十分に腹腔に腹水が貯留したマウスをエーテル麻酔後、頸椎脱臼を行った。腹腔を少し開き、滅菌綿栓パスツールを用いて腹水を内蔵を傷つけないように回収した。腹水は1200rpm、10分間遠心分離して血球等を除いた後、約500μlずつ分注し、使用時まで-80℃で保存した。
【0098】
(実施例5)該モノクローナル抗体に対する抗原(ヒトカルネキシン)の同定とその確認
図2に、ヒト肺腺癌細胞に過剰に発現し、当該モノクローナル抗体に結合する抗原の精製方法について示した。
該抗原の分離精製は、抗体のFc領域を認識し結合するプロテインGを固定したセファロースビーズ(Protein G sepharose 4B FF, GEヘルスケア社製)を使用して行った。該セファロースビーズに前記モノクローナル抗体産生細胞の培養上清を反応させて培養上清中の抗体をセファロースビーズに固定した(図2(1))。その後、約20mg(10cmディシュ1枚分)のヒト肺腺癌培養細胞(A549)にRIPAバッファー(0.1% SDS、1% Triton-X100、0.2% sodium deoxycholate、0.05M Tris-HCl, 0.15M NaCl pH7.6、2mM CaCl2、2mM MgCl2、Complete mini (ロッシュアプライドサイエンス社、1錠/10ml)、pH7.6)800μlを加えて氷上で30分間可溶化を行って、得られた可溶性タンパク質混合物の適量を上記のモノクローナル抗体を固定化したセファロースビーズと反応させた。これにより、セファロースビーズに固定されている抗体と、可溶性タンパク質混合物中の抗原との抗原抗体反応により、抗原だけをセファロースビーズにトラップした(図2(2))。その後、変性剤(SDS)を含む溶液(2% SDS, 62.5mM Tris-Cl (pH8.5), 5% -メルカプトエタノール)約20μlを加えてセファロースビーズ上のプロテインGを変性させることにより抗体をセファロースビーズから分離し、抗体と抗原を回収した(図2(3))。
【0099】
次に、得られた抗原タンパク質をプロテオーム手法により同定した。図3は、精製した抗原タンパク質の同定および確認方法について説明したフローチャートである。該同定は2種の分析方法を組み合わせて行った。すなわち、前記精製した抗原を2つに分けて、それぞれをSDS-PAGEで展開し、一方のゲル(ゲル1)は亜鉛染色して、抗原と思われるバンドを特定し(図3(1))、これをゲル内消化して質量分析計を使って抗原を同定した。もう一方のゲル(ゲル2)で、該バンドのタンパク質が抗原であることをウエスタンブロッティングにて確認した(図3(2))。
該抗原の同定は、図2に示した手順により行った。即ち、濃縮した前記抗原及び抗体混合物を、SDS-PAGEで展開し、亜鉛染色した。
【0100】
亜鉛染色は以下の通りに実施した。亜鉛染色キット (2 97-57701、和光純薬社製) を使用した。まず、電気泳動の終了したゲルに付着している泳動バッファーをMilliQ水(ミリポア社製MilliQで精製した水)で洗い流した。亜鉛染色キットのA溶液が40ml入った容器にゲルを移し5分間振とうした。次に、亜鉛染色キットのB溶液が40ml入った容器に移し、バンドがはっきりと形成されるまで振とうした。B溶液を捨て、MilliQ水で5分間5回洗浄を行った。スキャナー(エプソン社製、GT-9800F)でバンドを読み取り画像を保存した。
亜鉛染色の後、ゲル上の抗原バンドを切り出して、消化酵素(トリプシン)にてゲル内消化によりペプチド断片群とし、質量分析計で、各ペプチド断片の分子量ならびにアミノ酸配列情報を測定した。この結果をデータベースを用いて検索し、該抗原に対応する既知のタンパク質を特定した。
【0101】
なお、該SDS-PAGEでは、ポリアクリルアミドゲルを用い、展開液として、トリス、グリシン、SDS溶液を用い、電流20 mA、で1.5時間程度展開した。また、抗原バンドの検出は、亜鉛染色で行った。その結果を図4Aに示す。左から2番目のレーンでは、KU-Lad-001の腹水化抗体とA549可溶性タンパク質混合物との抗原抗体反応後、セファロースビーズから回収した回収物をSDS-PAGEで展開したものを示す。左から4番目のレーンでは、KU-Lad-001の腹水化抗体代わりにKU-Lad-001の培養上清抗体を用いて、その後の操作は2番目のレーンと同様である。その他のレーンは対照実験の結果を示している。左から2番目と4番目のレーンのみ、目的の抗原タンパク質が濃縮されていることを示している。
【0102】
抗原精製に当たっては上記の通りプロテインGの結合したセファロースビーズを使用した。このため該セファロースビーズに抗原をトラップし、変性剤で回収した溶液中には抗原と共に抗体が存在している。したがって亜鉛染色したときに抗体の軽鎖と重鎖と抗原が検出される。図4Aでは抗体の軽鎖と重鎖以外のバンドは図中の点線□印(抗原と記載)で示したバンド以外にバンドは存在する。今回行った免疫沈降法ではしばしばセファロースビーズに非特異的に吸着したタンパク質を抗原と判断してしまう場合がある。しかし、対照サンプルとしてセファロースビーズに抗体のみを反応させたものとセファロースビーズにタンパク質混合物のみを反応させたものを同時に泳動したところ、それら対照サンプルには点線□印のバンドは認められなかった。したがって該バンドは抗原タンパク質のバンドであると判明した。
図4Bに図4Aと同様の操作でSDS-PAGEして得られたもう一枚のゲルに対して該抗体を用いてウエスタンブロッティングした結果を示す。この検出は化学発光で行った。
【0103】
ウェスタンブロッティングについては具体的には以下の方法で実施した。ウェスタンブロッティング用に作成したゲル中の蛋白質はPVDF膜(ミリポア社)に転写を行い、転写したPVDF膜は2% 正常ブタ血清(NSS)/TBS(0.01MTris-HCl pH7.5, 150mM NaCl)中で室温60分間ブロッキングを行った。ブロッキング終了後のPVDF膜はKU-Lad-001抗体を室温で60分間反応させた。PVDF膜は0.1% Tween20を含むTBS(TBS-T)中で5分間3回の洗浄操作を行った後、2%NSSで1000倍希釈したhorseradish peroxidase標識ウサギ抗マウスIgG抗体と室温で30分間反応させた。PVDF膜はTBS-T中で5分間3回の洗浄操作を行い、TBS中に移した後、さらに3回TBSで軽く洗浄を行った。その後、PVDF膜はImmobilon Western (ミリポア社)を室温で1分間インキュベートした後、化学発光の検出を行った。
【0104】
図4Bでは、左から2番目(KU-Lad-001腹水化抗体とA549可溶性タンパク質混合物)、4番目のレーン(KU-Lad-001培養上清抗体とA549可溶性タンパク質混合物)および一番右のレーン(濃縮前のA549可溶性タンパク質混合物)のみ、目的の抗原タンパク質が検出されていることを示している。
このウエスタンブロッティングでは二次抗体としてマウスIgG抗体を認識する抗体を使用しているため、抗体の軽鎖と重鎖も検出されている。それ以外の部分で発光検出された部分が抗原である。この抗原の部位は図4Aの亜鉛染色された抗原部位と一致しており、図2の免疫沈降法で濃縮されたタンパク質が抗原であることを確認できた。
【0105】
抗原同定のためのゲル内消化の方法は以下の通りに行った。
図4Aの抗原バンドを切り出したゲル片を亜鉛染色キット(和光純薬社製)の脱色液で脱色を行った後、50% アセトニトリル、50 mM 重炭酸アンモニウムで完全に脱色した。ゲル片を蒸留水で洗浄後、100% アセトニトリル中にて15分間脱水し、遠心エバポレーターで45分間乾燥した。乾燥したゲル片に、50 mM酢酸に溶かした 20 ng/μl トリプシン(Promega社, Madison, WI) を約20μl 加えて氷中で45分間吸収させた。その後、余分なトリプシン溶液を除去し、25mM重炭酸アンモニウムをゲルが浸る程度まで加えて、37℃で24時間ゲル内消化を行った。酵素消化終了後、ゲル片のまわりの溶液を完全に回収し、氷中で一時保存した。さらに、まだゲル内に残っているペプチド断片を回収するために、50% アセトニトリル/ 5% trifluoroacetic acid溶液をゲルが浸る程度加え、室温で20分間攪拌した。攪拌後、その上清を上記の保存溶液に加えた。こうして回収した酵素消化ペプチド混合物を質量分析計で分析し、タンパク質を同定した。
【0106】
質量分析計によるタンパク質の同定は以下のとおりである。
まず、ゲル内消化によって得られたペプチド混合物を質量分析計(autoflex III TOF/TOF, Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)で測定し、MSスペクトルとタンデムMSスペクトル(MS/MSスペクトル)の測定を行った。データベース検索は同定用プログラムMASCOT search(http://www.matrixscience.com/)を用いて行った。これにより、質量分析データと最も良く一致するタンパク質をデータベース中から選び出した。このプログラムによるタンパク質同定の概略は以下のとおりである。
【0107】
(1)該プログラムはデータベース上の全てのタンパク質をコンピューター上でトリプシン消化し、酵素消化ペプチドリストを作成する。
(2)測定で得られた1つのペプチド(P1とする)の分子量 MW ±1の分子量範囲にあるペプチドを(1)のリストから選び出す。
(3)(2)で選び出した全ペプチドのMS/MSスペクトルをそのアミノ酸配列よりコンピューター上でシミュレートする。
(4)測定で得たP1のMS/MSスペクトルと(3)でシミュレートしたMS/MSスペクトルを比較して、その一致度合いからP1がデータベース上のどのタンパク質のどの部分のペプチド断片である可能性が高いか、その可能性の高いペプチドを一致度合いに応じたスコアーを付ける。
(5)質量分析計で測定された全てのペプチドについて上記(2)〜(4)の作業を行う。
(6)(5)の結果をもとにデータベース上のタンパク質の中から質量分析データに最も一致するタンパク質を選ぶ。このときに1番可能性の高いタンパク質から15番目に可能性の高いタンパク質まで、それぞれの可能性に応じてスコアーを付ける。
【0108】
最もスコアーの高いタンパク質が真に分析したタンパク質であるか否かの判断基準は、主に以下の2点である。
1.1番目のタンパク質が他に比べて有意にスコアーが高い場合。2. 該タンパク質が上記(4)において最も可能性が高いと判断されたペプチドを3種類以上含む場合。
該同定、及び確認により、ヒト肺腺癌のA549細胞株から得たモノクローナル抗体の抗原タンパク質が、ヒトカルネキシンであると確認された。
【0109】
(実施例6)モノクローナル抗体による血清学的癌スクリーニング
Immobilon-Pメンブレン(ミリポア社製)を20秒間メタノールに浸し、親水化した。反応後、メンブレンをTBSに移した。60μlの患者および健常人血清中のアルブミン並びにIgGをProteoExtract Albumin/IgG Removal kit (メルク社製)を用いて除去し、VIVASPIN (ザルトリウス社製)を用いて脱塩、濃縮を行った。各血清の最終液量をPBS(-)で60μlとなるように調整した。前処理後の各血清はPBS(-)で20倍に希釈し、処理したメンブレン並びに希釈した血清はドットブロット装置(カケンジェネックス社製、千葉)にセットし、直径1mmピンを用いて血清を30秒間ずつ計5回(約0.5μl)メンブレンにドットした。メンブレンは1実験につき2枚ずつ用意した。メンブレンを装置より取り外し、TBSの入った小型の容器に入れ、10分間洗浄した。その後、50mlのブロッキング剤(0.5%カゼイン、Sigma-Aldrich社)の入った小型の容器に入れ、浸透しながら1時間ブロッキングした。その後、メンブレンをTBS-T(TBSに最終濃度0.1%のTween 20を加えたもの)で5分間洗浄した。
【0110】
1枚目のメンブレンは、一次抗体としてハイブリドーマの培養上清を、もう一方のメンブレンは抗体希釈液(TBS-Tで20倍希釈した0.5%カゼイン)を5×10cmのメンブレンに対してそれぞれ約1mlをメンブレンに滴下し、室温で30分間反応させた。反応後、TBS-Tで3分間ずつ5回洗浄したメンブレンは二次抗体として抗体希釈液で1,000倍希釈したHRP標識のウサギ抗マウスIgG (Fab')2 (Dako Japan社)を5×10cmのメンブレンに対して約1ml使用して室温で30分間反応させた。反応後、TBS-Tで3分間ずつ5回洗浄した後、HRPの化学発光試薬Immobilon Western (MILLIPORE)との反応を1分間行い、その化学発光を発光検出装置(カケンジェネックス社)で検出した。用いた血清中に目的の抗原が多く存在する場合は、強い発光が検出できる。存在しない場合や極端に少ない場合、発光はほとんど見られない。染色結果はこの装置と連動しているDotBlotChipSystem ver.4.0 (ダイナコム社製)で処理し、保存した。該抗体と肺癌患者血清との反応性を図5に示した。
該抗体は、肺腺癌(adenocarcinoma)、肺扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)、肺小細胞癌(small cell carcinoma)を含む肺がん患者血清と強い反応性を示したが、健常人血清とは強い反応を示さなかった。この結果は、該抗体が、肺癌患者を健常人と区別して見出す抗体であることを示している。
【0111】
(実施例7)該抗体とホルマリン固定・パラフィン包埋細胞標本との反応性
A549細胞を1,000回転で10分間遠心分離し、上清を捨てた。2価のイオンを含まないリン酸緩衝生食液(PBS-)を10ml加え、攪拌後1,000回転10分間遠心分離した。上清を捨てた後、10%ホルマリンを30ml加え4℃で16-18時間固定した。固定後、上清を捨て、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノールを加え、それぞれ浸透機上で2時間ずつ攪拌しながら脱水した。さらに100%エタノールを加え、室温で2時間浸透後、新しい100%エタノールに変え一昼夜室温に放置し、脱水を完全に行った。翌日クロロホルムに変え、室温で2時間を2回浸透しながら透徹操作を行った。最後に融解温度が58-60℃のパラフィンに入れ、4時間真空ポンプで減圧しながら細胞標本にパラフィンを浸透させた後、パラフィンに包埋し、4℃でブロックを保存した。切片はミクロトームを用いて約3μmに薄切し、シランコーティングスライドグラスに拾い、40℃で1日乾燥させた。その後、ジッパーつきのビニール袋に入れ、4℃で保存した。ホルマリン固定・パラフィン切片を用いた免疫染色法を以下に示す。
【0112】
上記の細胞標本や病理検査室に診断用に10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋された各種肺がん組織の3μmに薄切した組織切片をキシレンで15分間脱パラフィンした。その後、切片は下降エタノール系列(100%エタノール3槽 → 95%エタノール1槽 → 90%エタノール1槽 → 80%エタノール1槽 → 70%エタノール1槽)を10秒間ずつ通し、徐々にエタノールの濃度を下げながら脱キシレン操作を行った。その後、切片は流水水洗し、3%過酸化水素水を切片に載せ10分間反応させ、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。さらに流水水洗した後、切片は0.01M クエン酸緩衝液(pH6.0)に最終濃度0.1%になるようにTween 20を加えた溶液200mlを入れたプラスチック製の容器に入れ、オートクレーブで121℃ 10分間抗原性の賦活化を行った。処理後、容器ごと扇風機で室温まで温度を下げた。
【0113】
溶液が室温まで戻ったら、切片は0.075M TBS(pH7.5)に5分間浸し、続いて2%正常ブタ血清/TBSで10分間処理し、非特異的蛋白質の反応を阻止した。その後、切片上の過剰な溶液をティッシュペーパー等で除いた後、ハイブリドーマの培養上清100μlを切片に載せ、湿箱中で、室温2時間反応させた。反応後、TBSで5分間ずつ3回洗浄し、二次抗体としてHRP標識の高感度ポリマー試薬(ChemMate ENVISIN、DAKO Japan)を切片に滴下し、室温で30分間反応させた。反応後、TBSで5分間ずつ3回洗浄後、HRP酵素の基質反応液であるStable DAB溶液(Invitrogen、東京)を100μl滴下し、2〜3分間反応させ、抗原抗体産物を可視化した。その後、核染色として、マイヤーのヘマトキシリン30秒間染色した後、上昇エタノール系列(70%エタノール1槽 → 80%エタノール1槽 → 90%エタノール1槽 → 95%エタノール1槽 → 100%エタノール3槽)を通し、ついでキシレンを数槽通した後、化学封入剤、エンテラン(ムトー、東京)を滴下、カバーグラスを載せて永久標本とした。
【0114】
封入後、顕微鏡で該抗体が認識する抗原の局在、その程度を確認した。その結果、ホルマリン固定したA549細胞とも反応性が認められた(図6)。すなわち、該抗体は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋した標本の染色に適していることが示された。
次に、ホルマリン固定・パラフィン包埋された各種ヒト肺癌組織と該抗体との反応性を検討した。
図7に、ヒト肺正常組織について該抗体が反応するか否かを検討した結果を示した。図7に示したように、ヒト正常気管支上皮、ヒト正常肺胞上皮では該抗体による染色は見られなかった。すなわち、これらヒト正常組織では、該抗体の認識する抗原タンパク質はほとんど発現していないことが示された。
図8に、4人の肺腺癌患者より採取された肺腺癌組織について該抗体が反応するか否かを検討した結果を示した。図8に示したように、4組織すべてで強い染色が認められた。この結果より、該抗体の認識する抗原タンパク質はヒト肺腺癌では強く発現していることが判明した。
【0115】
図9では、4人の肺扁平上皮癌患者より採取された肺扁平上皮癌組織について該抗体が反応するか否かを検討した結果を示した。図9に示したように、4組織すべてで弱い染色が認められた。この結果より、該抗体の認識する抗原タンパク質はヒト肺扁平上皮癌では弱くしか発現していないことが判明した。
図10に、肺小細胞癌(SCLC、図10AからC)および肺大細胞性神経内分泌癌(LCNEC、図10D)患者より採取された肺扁平上皮癌組織について該抗体が反応するか否かを検討した結果を示した。図10に示したように、肺小細胞癌(SCLC)では、肺扁平上皮癌よりもさらに弱い染色しか認められなかった。従って、肺小細胞癌では、該抗体の認識する抗原タンパク質は非常に弱くしか発現していないことが判明した。肺大細胞性神経内分泌癌(LCNEC)では、中程度の染色性であるが、組織内のほとんどすべての癌細胞に染色が認められた。従って、肺神経内分泌癌では、該抗体の認識する抗原タンパク質は中程度の発現であることが判明した。
87例のホルマリン固定・パラフィン包埋されたヒト肺癌組織との反応性を検討した結果を表1にまとめた。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示されているように、肺腺癌(AD)では、59例中54例が陽性となり陽性率は91.5%となった。扁平上皮癌(SCC)では、24例中17例が陽性となり陽性率は70.8%となった。肺小細胞癌(SCLC)では、3例中2例が陽性となり、陽性率は66.7%となった。肺大細胞性神経内分泌癌(LCNEC)では、1例中1例が陽性となり陽性率は100%となった。
ホルマリン固定・パラフィン包埋されたヒト肺癌組織の免疫染色の染色性を次のように評価した。腫瘍細胞における陽性率を表2のように0から4の5段階に分類した。染色強度を表2のように強度、中程度、弱度の3段階に分類した。腫瘍細胞における陽性率のスコアに染色強度のスコアを乗じて、染色スコアを計算した。
【0118】
【表2】

【0119】
ホルマリン固定・パラフィン包埋されたヒト肺癌組織の免疫染色の染色スコア(Score)を表1にまとめた。肺腺癌(AD)、扁平上皮癌(SCC)、肺小細胞癌(SCLC)、肺大細胞性神経内分泌癌(LCNEC)のスコアはそれぞれ6.9、3.0、1.3、8.0となった。
さらに、各組織型別の腫瘍細胞における陽性率(図11)、染色強度(図12)、染色スコア(図13)を求めた。肺小細胞癌、肺神経内分泌癌は症例数が少なかったが、肺腺癌と扁平上皮癌との比較において、肺腺癌は扁平上皮癌に比較して明らかに腫瘍細胞における陽性率、染色強度および染色スコアにおいて有意に高いことが判明した。肺腺癌と扁平上皮癌の2群における腫瘍細胞陽性率、染色強度、染色スコアのMann-WhitneyのU テストによる危険率はそれぞれp<0.0005、p=0.012、p<0.0005であった。この結果は、ヒトカルネキシンは扁平上皮癌よりも肺腺癌において発現が高いことを示している。この結果、ヒトカルネキシンをホルマリン固定・パラフィン包埋されたヒト肺癌組織において発現を調べることは、肺腺癌の判定に有用であることが判明した。
【0120】
(実施例8)大腸菌での組換え蛋白質の発現と発現蛋白質の精製
各種抗原蛋白質の、N末端にヒスチジンタグ(His)を、C末端にFLAGタグをそれぞれ付加した融合蛋白質の発現を行った。各種抗原の融合蛋白質発現ベクターをDH5αまたはBL21 へ形質転換後、組換え蛋白質を発現誘導した。前培養として、50μg/mLのアンプシリンを含むLB液体培地で大腸菌を37℃一晩、振とう培養した。前培養液10 mLを、1Lの本培養液(50μg/mLのアンプシリンを含むLB液体培地)へ加え、37℃でOD600が0.5に達するまで振とう培養した。IPTGを0.5 mMになるよう添加し16時間、組換え蛋白質の発現を誘導した。大腸菌を集菌後、結合緩衝液(20 mM Sodium phosphate, 0.5 M NaCl, 5 mM imidazole, pH7.4)へ懸濁し、超音波破砕機(OHTAKE WORKS)で大腸菌を破砕した。破砕後の大腸菌破砕物を遠心し(18,000 gで30分間)、上清を可溶性画分とした。この可溶性画分をNickel Sepharose (Ni Sepharose 6, GE Healthcare)を充填したカラムへ通し、ベットボリュームの約20倍量の結合緩衝液でカラムを洗浄した。目的の精製組換え蛋白質は、溶出緩衝液(20 mM Sodium phosphate, 0.5 M NaCl, 500 mM imidazole, pH7.4)により溶出した。SDS-PAGE(ゲルは、ATTOのe・パジェル)、その後のCBB染色(CBBステインワン、ナカライテスク)により目的蛋白質の発現を確認した。
【0121】
(実施例9)ポリクローナル抗体の作製と精製
抗原には、一回の免疫で100μgの大腸菌で発現、精製した組換え蛋白質を用いた。免疫動物はモルモットを使用した。合計4回の免疫後、全採血、ポリクローナル抗体を得た。
作製したポリクローナル抗体を、C末端にFLAGタグを付加したHis蛋白質を結合させた担体を用いて精製した。方法は、プロトコール(CNBr-activated Sepharose 4B, GE-Healthcare)に従った。まず、Ni Sepharoseカラムで精製した5 mgのHis蛋白質を、0.3 mgのあらかじめ膨潤、洗浄しておいたCNBr-activated Sepharose 4B(GE-Healthcare)担体へ、4℃で一晩、攪拌しながら結合させた。この担体をカラムへ充填し、各種緩衝液で洗浄後、0.5 mgのポリクローナル抗体と4℃で一晩反応させた。フロースルー液を回収し、精製抗体とした。
【0122】
(実施例10)無細胞系による抗原蛋白質の合成
小麦の無細胞系による蛋白質の発現には、WEPRO1240H Expression Kit (セルフリーサイエンス社製)を用いた。方法は、本キットのプロトコールに従った。プラスミドは、Plasmid Midi-Prep Kit(キアゲン社製)を用いて抽出した。目的遺伝子をSP6プロモーターの下流に組み込んだプラスミドを鋳型に、目的遺伝子をSP6 RNA polymeraseを用いて転写した。さらに、その反応液を小麦の抽出液と反応させることで、組換え蛋白質を発現させた。SDS-PAGEにより、組換え蛋白質の発現を確認後、遠心分離により上清(可溶性画分)を回収し、抗FLAGアフィニティー・ゲルを用いて精製した。
【0123】
(実施例11)サンドイッチELISA系の構築
当該モノクローナル抗体をPBSで1000倍に希釈した希釈液をそれぞれ50μLずつ、ELISA用のマイクロプレート(F8 MAXISORP, NUNC)のウェルへ加え撹拌後、4℃で一晩静置し、プレートを固相化した。コントロールとして、PBSのみを50μL添加したものを未固相プレートとした。ウェル内の反応液を除き、300μLの1%Bovine Serum Albumin (BSA, Intergen)を含む`PBS溶液(1%BSA-PBS)を添加し、室温で3時間ブロッキングした。このプレートを、プレート洗浄器(Bio-Rad社製)を使って、PBST (0.05% Tween 20-PBS)で3回繰り返し洗浄後、標準抗原(1%BSA-PBSで希釈)を50μL加え、室温で1時間静置した。小麦の無細胞系を用いて発現させ精製した蛋白質を標準抗原として用いた。また、検体として、1%BSA-PBSで健常者血清または肺腺癌患者血清を10倍希釈したものを50μL反応させた。再び、PBSTで3回繰り返し洗浄し、50μLのポリクロ―ナル抗体溶液(1%BSA-PBSで100倍に希釈)を加えた後、室温で1時間静置した。PBSTで3回繰り返し洗浄後、HRP-Rabbit Anti-Guinea Pig IgG [H+L](Invitrogen社製)を1%BSA-PBSで6,000倍希釈した溶液を50μL加え、室温で1時間静置した。PBSTで3回繰り返し洗浄後、50μLのTM blue(SeraCare Life Sciences)を加え発色させ、50μLの0.5M 硫酸を添加、反応を停止させた。マイクロプレートリーダーを用いて、吸光度(A450)を測定した。健常者(Normal)56例、肺腺癌(AD)33例の血清中に含まれるヒトカルネキシンの測定結果をまとめたものを図14に示した。
【0124】
肺腺癌患者血清の値は健常者血清の値と比較して統計的有意差をもって高値であることが判明した(Mann-WhitneyのU テストで危険率は0.002であった)。この結果、肺腺癌患者血清のヒトカルネキシン量は健常者血清のヒトカルネキシン量よりも有意に高いことが判明した。
以上のことより、肺腺癌患者血清中には当該モノクローナル抗体の認識する抗原タンパク質ヒトカルネキシンが健常者血清中に比べて高濃度存在しており、血清を検体としてヒトカルネキシンを測定することによって、肺腺癌に罹患しているか否かを判定できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明により、被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定する方法、肺腺癌の診断薬、及び、肺腺癌の診断用キットが提供される。本発明は肺腺癌の診断に用いるデータの検出に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0126】
(配列番号1) 配列番号1は、ヒトカルネキシン(カルネキシン;NCBI Refseq,No.NP001737)のアミノ酸を示す。該配列番号1のヒトカルネキシンは、アミノ酸置換による変異体を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を用いて被検者の検体中のヒトカルネキシンを測定し、その測定結果より被検者の肺腺癌の発症の有無、進行の程度または予後の状況を判定するデータの検出方法。
【請求項2】
ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるモノクローナル抗体である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
検体が血液である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含む肺腺癌診断薬。
【請求項6】
ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である請求項5記載の診断薬。
【請求項7】
ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるモノクローナル抗体である、請求項6記載の診断薬。
【請求項8】
ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体を含む、肺腺癌診断用キット。
【請求項9】
ヒトカルネキシンに特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である請求項8記載のキット。
【請求項10】
ヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるモノクローナル抗体である、請求項9記載のキット。
【請求項11】
ハイブリドーマFERM BP-11318により産生されるヒトカルネキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体。
【請求項12】
ハイブリドーマFERM BP-11318。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−96783(P2013−96783A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238483(P2011−238483)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】