説明

脂肪蓄積抑制剤

【課題】優れた脂肪蓄積抑制効果を有するホエータンパク質加水分解物からなる脂肪蓄積抑制剤の提供。
【解決手段】分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)が2〜8、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量が20%以下、分岐鎖アミノ酸含量が20%以上、抗原性はβ-ラクトグロブリンの抗原性の1/100,000以下であるホエータンパク質加水分解物を用いた脂肪蓄積抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味が少なく、安定性及び安全性に優れたホエータンパク質加水分解物を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤に関するものである。
本発明はまた、苦味が少なく、安定性及び安全性に優れたホエータンパク質加水分解物を有効成分として含有した脂肪蓄積抑制用飲食品、脂肪蓄積抑制用栄養組成物、又は脂肪蓄積抑制用飼料に関する。
本発明の脂肪蓄積抑制剤は、高齢化や老化によって代謝が低下し体脂肪が蓄積することの防止に有効で、且つ苦味が少なく、安定性及び安全性に優れた脂肪蓄積抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化や老化は、生物の身体に様々な生理学的変調(基礎代謝の低下による脂肪の蓄積、骨格筋の萎縮、骨の脱灰など)を起こすことが知られている。特に脂肪の蓄積による肥満については、心筋梗塞・致死率の増加や、生活の質(Quality of Life:QOL)の低下につながることが問題となっている(非特許文献1、非特許文献2)。これに伴い、心筋梗塞の症例や致死率を低減させることを目的として、肥満の改善方法に関する研究が盛んに行われている(非特許文献3、非特許文献4)。
肥満を改善する方法としては食生活の改善や継続的な適度の運動等が挙げられるが、これらはある程度の忍耐や苦痛を伴うものである。このような背景から、食事成分によって肥満を改善しようとする試みが行われており、例えば、大豆ペプチドの摂取によるダイエット効果に関する報告がなされている(特許文献1)。
【0003】
牛乳や乳製品は、食物アレルギーの原因として挙げられることが多いが、なかでも、ヒトの母乳中には含まれないホエータンパク質がアレルゲンとなっていると考えられている。このため、ホエータンパク質を酵素で加水分解することでアレルゲン性を低下させる方法が知られており、特許文献2等の方法が報告されている。
特に、特許文献3の方法で製造されたホエータンパク質加水分解物は、Inhibition ELISA法(非特許文献5)での測定により、抗原性がβ-ラクトグロブリンに比べて1/10,000以下、ホエータンパク質に比べて1/10,000以下になることが確認されている。一方で、このホエータンパク質加水分解物は、経口摂取により、筋肉増強効果があることが明らかになっており、低アレルゲン性と機能性を併せ持つ素材として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−20312号公報
【特許文献3】国際公開番号WO2008/111562
【非特許文献1】Obesity in Old Age, I.M.Chapman, Obesity and Metabolism. Front Horm Res. Basel, Karger, 2008, Vol.36, pp97-106
【非特許文献2】Obesity as an independent risk factor for cardiovascular disease, Circulation 1983, Vol. 67, pp968-977
【非特許文献3】Primary prevention of cardiovascular disease, Acta Med Croatica 2009, Vol. 63, pp71-74
【非特許文献4】Prevention of excess gain, Int. J. Obes (Lond) 2009, in press.
【非特許文献5】日本小児アレルギー学会誌、1、36(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在知られている大豆ペプチドの摂取による肥満の解消方法は、確かに効果が認められるものではあるが、大豆ペプチド特有の苦味があり、また水に分散させた際に白濁するため、飲食品等に使用するには制限があり、特に透明性を求める製品には使用できないという問題がある。一方、牛乳中のホエータンパク質の加水分解によって得られるホエータンパク質加水分解物は、抗原性も低く、苦味や沈殿も生じないことから、飲食品への添加に適しているが、脂肪の蓄積抑制効果に関する報告は無い。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、苦味や白濁、沈殿を生じることなく、かつ脂肪蓄積抑制効果を有する脂肪蓄積抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、牛乳中のホエータンパク質の加水分解によって得られるホエータンパク質加水分解物に高い脂肪蓄積抑制効果があることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の脂肪蓄積抑制剤及び、該脂肪蓄積抑制剤を含有させてなる脂肪蓄積抑制用飲食品、飼料を提供するものである。
【0008】
(1)以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.分岐鎖アミノ酸含量20%以上
5.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下
(2)前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら分解する分解工程と、前記分解工程を経た後、加熱して酵素を失活させる失活工程と、を経て得られるものであることを特徴とする(1)に記載の脂肪蓄積抑制剤。
(3)前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解する前分解工程と、前記前分解工程を経た後、50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解する分解工程と、前記分解工程を経た後に、加熱して酵素を失活させる失活工程と、を経て得られるものである(1)に記載の脂肪蓄積抑制剤。
(4)前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解する前分解工程と、前記前分解工程を経た後に50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解する分解工程と、前記分解工程を経た後に加熱して酵素を失活させる酵素失活工程と、分画分子量1〜20kDaの限外ろ過膜処理する限外ろ過工程と、前記限外ろ過工程を経て得られた透過液を、分画分子量100〜500kDaの精密ろ過膜処理し、未投下物を得る精密ろ過工程と、を経ることによって得られるものである(1)に記載の脂肪蓄積抑制剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の脂肪蓄積抑制剤を含むことを特徴とする脂肪蓄積抑制用飲食品、栄養組成物又は飼料。
(6)ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら分解する分解工程と、前記分解工程を経た後、加熱して酵素を失活させる失活工程と、を有する脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
(7)前記分解工程の前工程として、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解する前分解工程を有する(6)記載の脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
(8)前記失活工程の後工程として、分画分子量1〜20kDaの限外ろ過膜処理する限外ろ過工程と、前記限外ろ過工程を経て得られた透過液を、分画分子量100〜500Daの精密ろ過膜処理し、未透過物を得る精密ろ過工程と、を有する(6)又は(7)記載の脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
(9)以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を10g/日以上摂取することによる脂肪蓄積抑制方法。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.分岐鎖アミノ酸含量20%以上
5.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂肪蓄積抑制剤は、顕著な脂肪蓄積抑制作用効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[有効成分]
この脂肪蓄積抑制剤の有効成分として用いるホエータンパク質加水分解物は、以下の性質を有するものである。
・ 分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
・ APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
・ 遊離アミノ酸含量20%以下
・ 分岐鎖アミノ酸含量20%以上
・ 抗原性がβ-ラクトグロブリンの1/100,000以下
すなわち、本願発明の有効成分であるホエータンパク質加水分解物は、抗原性がβ-ラクトグロブリンに比べて1/100,000以下、ホエータンパク質に比べて1/100,000以下であることから、食物アレルギーの抑制という観点から極めて安全である。また、その水溶液は透明で、苦味度も2程度であることから、脂肪蓄積抑制剤として使用する際に味や外観の面での制限がなく、特に、透明性を求める脂肪蓄積抑制剤に対しても高配合が可能である。また、ホエータンパク質加水分解物を限外ろ過(UF)膜や精密ろ過(MF)膜処理することにより、水への溶解能を向上させることができる。
さらに、上記脂肪蓄積抑制剤を有効成分として含有する脂肪蓄積抑制能を有し、安全性に優れた脂肪蓄積抑制用飲食品、脂肪蓄積抑制用栄養組成物や脂肪蓄積抑制用飼料を提供できる。なお、本発明の脂肪蓄積抑制剤は、ホエータンパク質を原料としているため、簡便且つ経済的に容易に製造することができる。
【0011】
[製造方法]
本発明の脂肪蓄積抑制剤に含有されるホエータンパク質加水分解物は、ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃とし、これに耐熱性のタンパク質加水分解酵素を加えて熱変性させながら分解した後、加熱して酵素を失活させることにより得られる。また、上記酵素分解を行う前に、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解し、これを冷却することなくただちに上記条件で酵素分解することによって収率を一層高めることができる。
なお、上記のように調製したホエータンパク質加水分解物を、さらに分画分子量1kDa〜20kDa、好ましくは2kDa〜10kDaの限外ろ過(UF)膜及び/又は分画分子量100Da〜500Da、好ましくは150Da〜300Daの精密ろ過(MF)膜から選択される方法で濃縮することにより、一層脂肪蓄積抑制作用を高めることができる。また、さらに苦味を低減し、透明性を高めることができる。
本発明におけるホエータンパク質は、牛、水牛、山羊、ヒト等の哺乳動物のホエー、その凝集物、粉末、あるいは精製タンパク質をいい、これを酵素反応させるときは水溶液の状態で使用する。
この溶液をpH6〜10に調整するが、通常ホエータンパク質はこの範囲のpHになっているので格別pHの調整を行う必要はないが、必要な場合は塩酸、クエン酸及び乳酸等の酸溶液あるいは苛性ソーダ、水酸化カルシウム及びリン酸ソーダ等のアルカリ溶液を用いてpH6〜10とする。また、加熱によって50〜70℃まで昇温するが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素は、昇温後に添加するよりも、加熱前に添加し、加温中も酵素分解を行っていた方が収率の面からは好ましい。
一般的なタンパク質加水分解酵素であるProtease(プロテアーゼ)の至適温度は40℃以下であるが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素は45℃以上であり、耐熱性のタンパク質加水分解酵素としては、このような至適温度を有する耐熱性のタンパク質加水分解酵素であれば特に制限無く用いることができる。このような耐熱性のタンパク質加水分解酵素として、例えば、パパイン、プロテアーゼS(商品名)、プロレザー(商品名)、サモアーゼ(商品名)、アルカラーゼ(商品名)、プロチンA(商品名)等を例示することができる。耐熱性のタンパク質加水分解酵素は80℃で30分加熱して残存活性が10%あるいはそれ以上になるものが望ましい。また、単独よりも複数の酵素を併用するとより効果的である。反応は30分〜10時間程度行うことが好ましい。
最後に反応液を加熱して酵素を失活させる。酵素の失活は反応液を100℃以上で10秒間以上加熱することにより行うことができる。
酵素を失活させた後、反応液を遠心分離して上清を回収し、上清を乾燥して粉末製品とする。なお、遠心分離した時に生じる沈殿物は上清に比べて低アレルゲン化の程度が小さいので、除去した方が好ましいが、抗原性の問題がなければ、反応液をそのまま乾燥して使用しても差し支えない。
この方法により得られるホエータンパク質加水分解物は、Inhibition ELISA法で測定して、抗原性がβ-ラクトグロブリンに比べて1/100,000以下、ホエータンパク質に比べて1/100,000以下になることが確認されているため、極めて安全である。また、その水溶液は透明で、苦味度も2程度であることから、製品に使用する際に色及び風味の点で課題が少ない。なお、透明性及び苦味の評価は下記の方法により評価した。
透明性評価法:1%ホエータンパク質加水分解物溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。
苦味評価法:10%ホエータンパク質加水分解物溶液を調製し、苦味物質である塩酸キニーネを添加して、苦味を評価する。表1に示すように、苦味点数が2点以下であれば、飲食品などに利用可能である。
また、得られたホエータンパク質のAPLについては、HPLC等の方法によって測定することができる。
【0012】
【表1】

【0013】
[使用方法]
本発明のホエータンパク質加水分解物は、そのまま脂肪蓄積抑制剤として使用することが可能であるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることも出来る。また、さらに限外ろ過(UF)膜や精密ろ過(MF)膜処理により得られたホエータンパク質加水分解物についても、そのまま脂肪蓄積抑制剤として使用することも可能であり、そのまま乾燥しても使用できる。また、常法に従い、製剤化して用いることもできる。
さらに、これらを製剤化した後、栄養剤やヨーグルト、飲料、乳飲料、ウエハース等の飲食品、飼料及びサプリメント等に配合することも可能である。
脂肪蓄積抑制用飲食品、脂肪蓄積抑制用栄養組成物、脂肪蓄積抑制用飼料におけるタンパク質分解物の配合量は、特に制限はないが、成人一人一日あたりホエータンパク質加水分解物を10g以上、好ましくは20g以上摂取できるように商品設計を行うことが好ましい。
本発明の脂肪蓄積抑制剤は、上記の有効成分に適当な助剤を添加して任意の形態に製剤化して、経口投与が可能な脂肪蓄積抑制剤とすることができる。
【0014】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0015】
[実施例1]
ホエータンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク質、及びプロレザー(Proleather : 天野エンザイム社製)150U/g・ホエータンパク質となるように加え、pH8に調整し、55℃において6時間ホエータンパク質を変性させながら酵素分解を行った。反応液を100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させ、遠心分離して上清を回収し、これを乾燥してホエータンパク質加水分解物(実施例品1)を得た。得られたホエータンパク質加水分解物(実施例品1)の分子量分布は10kDa以下、メインピークは1.3kDa、APLは7.2、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は18.9%であった。
Inhibition ELISA法によってβ-ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ、1/100,000以下で収率(酵素反応液を遠心分離し、仕込み量の乾燥重量に対する上清の乾燥重量の比率(%))80.3%、苦味度は2であった。
このようにして得られたホエータンパク質加水分解物(実施例品1)は、そのまま発明の脂肪蓄積抑制剤として使用可能である。
【0016】
[実施例2]
ホエータンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク質、及びプロレザー150U/g・ホエータンパク質を加え、pH8、50℃で3時間酵素分解を行った。これを55℃に昇温させ、この温度で3時間維持し、タンパク質を変性させるとともに、タンパク質の酵素分解を行い、100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させた。この反応液を分画分子量10kDaのUF膜(STC社製)及び分画分子量300DaのMF膜(STC社製)処理を行い、濃縮液画分を回収し、これを乾燥してホエータンパク質加水分解物(実施例品2)を得た。
得られたホエータンパク質加水分解物(実施例品2)の分子量分布は10kDa以下、メインピークは500Da、APLは3.0、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は15.2%であった。
Inhibition ELISA法によってβ-ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ、1/100,000以下となっており、収率65.4%、苦味度は2であった。このようにして得られたホエータンパク質加水分解物(実施例品2)は、そのまま本発明の脂肪蓄積抑制剤として使用可能である。
【0017】
[比較例1]
ホエータンパク質120gを精製水1,800mlに溶解し、1M苛性ソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、2時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエータンパク質加水分解物(比較例品1)を得た。得られたホエータンパク質加水分解物の分解率は18%、収率は80.6%であった。
【0018】
[比較例2]
ホエータンパク質120gを精製水1,800mlに溶解し、1M苛性ソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社性)20gを添加し、8時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエータンパク質加水分解物を得た。得られたホエータンパク質加水分解物の分解率30%、収率80.6%であった。
【0019】
[試験例1]
(透明性試験)
実施例1,2及び比較例1,2の各タンパク質加水分解物の1%水溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。その結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例品1、実施例品2のホエータンパク質加水分解物は吸光度が低いことからわかるように、透明性が高い。一方、比較試料においては、実施例1,2のホエータンパク質加水分解物に比べて吸光度が高く透明性が低いことがわかった。また、膜処理をした実施例品2の吸光度は、実施例品1のより低く、透明性に優れていた。
【0022】
[試験例2]
(脂肪蓄積抑制試験)
実験動物として、日本SLCより購入した20週齢のSAM−P系雌ラットを体重が等しくなるように5群に分類した(各群n=6〜10、144±6.8g)。餌はAIN93標準試料をベースにカゼインタンパク質を加水分解前のホエータンパク質、実施例品1、実施例品2、比較例品1で置き換えたものを与えた。また、一方、肥満のコントロールとして20週齢のSAM−R系雌ラット(n=8、143±5.4g)に対し、AIN93標準試料与えた。各群とも摂取量は自由としたが、2〜3日毎に摂食量の測定を行った。各群のラットは45週齢まで飼育した後、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)による麻酔下で、白色脂肪組織(WAT)を摘出し、白色脂肪組織重量の測定に供した。白色脂肪組織の体重あたりの相対白色脂肪組織重を測定した結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
体重あたりの相対白色脂肪細胞重量は、標準飼料群では、コントロール群に比べて優位な白色脂肪細胞重量の増加を示した。これは、SAM−P系雌ラットは老化促進マウスであり、SAM−R系に比べて基礎代謝量が低下していることを示している。一方、ホエータンパク質群及び、比較例品1群では標準飼料群と比較しても有意差はみられず、ホエータンパク質及び比較例1群の摂取では脂肪蓄積を抑制できないことを示している。
一方、実施例品1および実施例品2を摂取した群においては、標準飼料群やホエータンパク質群、比較例品1群と比較して、有意に白色脂肪細胞重量の増加量が低いことが認められる。すなわち、本発明の脂肪蓄積抑制剤の摂取により、脂肪の蓄積が抑制されていることを示している。以上の結果から、本願発明の脂肪蓄積抑制剤は、優れた脂肪蓄積抑制効果を有し、肥満によって引き起こされる心筋梗塞・致死率の増加の防止、ならびに生活の質低下防止に有用であることが示唆された。
【0025】
[実施例3]
(脂肪蓄積抑制用錠剤の製造)
表4に示す配合で原材料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の脂肪蓄積抑制用錠剤を製造した。
【0026】
【表4】

【0027】
[実施例4]
(脂肪蓄積抑制用栄養組成物の製造)
500gの実施例品2を4500gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6000rpmで30分間攪拌混合して、溶液Aを得た。この溶液A5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS-4CRTGN、日阪製作所製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の脂肪蓄積抑制用栄養素生物50kgを製造した。
【0028】
[実施例5]
(脂肪蓄積抑制用飲料の調製)
脱脂粉乳30gを670gの脱イオン水に溶解した後、実施例品1を10g溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間攪拌混合した。マルチトール100g、酸味料2g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、本発明の脂肪蓄積抑制用飲料10本(100ml入り)を調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.分岐鎖アミノ酸含量20%以上
5.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下
【請求項2】
前記ホエータンパク質加水分解物が、
ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら分解する分解工程と、
前記分解工程を経た後、加熱して酵素を失活させる失活工程と、
を経て得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項3】
前記ホエータンパク質加水分解物が、
ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解する前分解工程と、
前記前分解工程を経た後、50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解する分解工程と、
前記分解工程を経た後に、加熱して酵素を失活させる失活工程と、
を経て得られるものである請求項1に記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項4】
前記ホエータンパク質加水分解物が、
ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解する前分解工程と、
前記前分解工程を経た後に50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解する分解工程と、
前記分解工程を経た後に加熱して酵素を失活させる酵素失活工程と、
前記酵素失活工程を経た後に、分画分子量1〜20kDaの限外ろ過膜処理する限外ろ過工程と、
前記限外ろ過工程を経て得られた透過液を、分画分子量100〜500Daの精密ろ過膜処理し、未透過物を得る精密ろ過工程と、
を経ることによって得られるものである請求項1に記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪蓄積抑制剤を含むことを特徴とする脂肪蓄積抑制用飲食品、栄養組成物又は飼料。
【請求項6】
ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら分解する分解工程と、
前記分解工程を経た後、加熱して酵素を失活させる失活工程と、
を有する脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
【請求項7】
前記分解工程の前工程として、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解する前分解工程を有する請求項6記載の脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
【請求項8】
前記失活工程の後工程として、分画分子量1〜20kDaの限外ろ過膜処理する限外ろ過工程と、
前記限外ろ過工程を経て得られた透過液を、分画分子量100〜500Daの精密ろ過膜処理し、未透過物を得る精密ろ過工程と、
を有する請求項6又は7記載の脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
【請求項9】
以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を10g/日以上摂取することによる脂肪蓄積抑制方法。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.分岐鎖アミノ酸含量20%以上
5.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下

【公開番号】特開2011−84485(P2011−84485A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236588(P2009−236588)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】