脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法
【課題】効率的で長時間の連続的な実施が可能な、油脂を原料とする脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】リパーゼ反応により油脂から脂肪酸低級アルコールエステルを連続的に製造する方法であって、1)反応容器に固定化リパーゼを加え、そこに、油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールを一定の流量で加え、反応させながら、同時に反応容器より反応液を同流量で連続的に抜き出す工程;2)抜き出した反応液を蒸留し、脂肪酸低級アルコールエステルが濃縮された留分を得る工程;3)蒸留の残留分として回収されるトリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを1)の反応容器に原料として戻す工程;を含む前記方法である。
【解決手段】リパーゼ反応により油脂から脂肪酸低級アルコールエステルを連続的に製造する方法であって、1)反応容器に固定化リパーゼを加え、そこに、油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールを一定の流量で加え、反応させながら、同時に反応容器より反応液を同流量で連続的に抜き出す工程;2)抜き出した反応液を蒸留し、脂肪酸低級アルコールエステルが濃縮された留分を得る工程;3)蒸留の残留分として回収されるトリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを1)の反応容器に原料として戻す工程;を含む前記方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼ反応により油脂から脂肪酸低級アルコールエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、バイオディーゼル燃料として、脂肪酸メチルエステルが注目されていることから、油脂から脂肪酸メチルエステルを製造する方法がいくつか報告されている(特許文献1など)。また、例えば生理活性脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)のエチルエステルは医薬品として利用されており、これらの製造原料として脂肪酸エチルエステルが使用される。EPAおよびDHAのエチルエステルは医薬品であるために高純度であることが必要であるため、その製造原料のエステルも高純度であることが求められる。したがって、高純度の脂肪酸低級アルコールエステルの効率的な製造方法が求められている。
【0003】
油脂からの脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法として、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ化合物を触媒としてアルコリシス反応を行う方法が一般的に行われている。しかし、当該方法によれば、アルカリを含んだグリセリンを含むアルカリ廃液が生じるため、その処理にコストがかかり、また環境にも悪影響を与えるという問題点を有している。
【0004】
アルカリ化合物以外の化学触媒を利用する方法やリパーゼを利用した方法では、多くの場合、アルカリ法に比べ反応速度やエステルへの変換率が劣るため、製造コストおよび得られるエステルの純度が問題となる。他の方法として、超高圧条件下でエステル交換反応を行う方法が知られているが、高温、高圧での反応に耐える特殊な設備が必要であり、また、反応効率は必ずしも高くはない。
【0005】
特開平5−328962号公報(特許文献2)には、固定化リパーゼを内蔵した固定床リアクターと脱水槽を含む、脂肪酸とアルコールを原料とするエステルの連続合成装置が開示されている。当該装置においてはリアクターと脱水槽がそれぞれ少なくとも2つ以上必要となる。また、当該装置による反応を、脂質からのエステル合成にそのまま利用することはできない。
【0006】
国際出願公報WO00/12743号(特許文献3)は、無溶媒系において直鎖低級アルコールのリパーゼ阻害濃度以下の濃度に該直鎖低級アルコール濃度を調節しつつ、リパーゼと油脂と該直鎖低級アルコールとを反応させる、脂肪酸エステルの製造方法に関するものであり、固定化リパーゼのカラムを使用する連続式の脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法について言及する。しかし、あくまでもリパーゼ反応にのみによって脂肪酸低級アルコールエステルの純度を高めることをめざす技術である。
【特許文献1】特開2002−233393号公報
【特許文献2】特開平5−328962号公報
【特許文献3】国際出願公報WO00/12743号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率的で長時間の連続的な実施が可能な、油脂を原料とする酵素的連続反応による脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を様々な角度から研究した結果、リパーゼを使用して効率的に脂肪酸低級アルコールエステルを製造することができる方法を見いだし、本発明を完成させた。リパーゼ反応により脂肪酸低級アルコールエステルを製造する場合、原料としては、リパーゼ、油脂、低級アルコールが必要であり、製造効率の面からは、反応速度、純度、収率、コストなどを考慮する必要がある。本発明は原料の中でもっともコストが高いリパーゼを最も効率よく使用することに着眼して完成した発明である。リパーゼ反応のみで高純度、高収率の脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を目指すのではなく、リパーゼ反応と別の精製方法を組み合わせることにより、結果的にリパーゼに負担が少なく、長く使用することができることを可能にし、高純度、高収率で脂肪酸低級アルコールエステルを製造することを可能にした。
【0009】
本発明の1つの側面によれば、脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法であって、
1)反応容器に固定化リパーゼを加え、そこに、油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールを一定の流量で加え、反応させながら、同時に反応容器より反応液を同流量で連続的に抜き出す工程;
2)抜き出した反応液を精製し、脂肪酸低級アルコールエステルを得る工程;
を含む前記方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法においては、使用するリパーゼの触媒活性が長期間維持されるため、比較的高価であるリパーゼを交換することなく長期間連続的に脂質から脂肪酸低級アルコールエステルを製造することが可能となり、製造効率を向上させることができる。また、本発明の方法はリパーゼを使用して製造するため、アルカリ性廃液などが生じないという利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
原料として用いる油脂は特には限定されず、例えば植物性油脂としては、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、これらの油の調合油など、動物性油脂としては、牛脂、ラード、魚油など、微生物由来のシングルセルオイル、合成油、またはこれらの油の使用済みの廃油を使用することができる。例えば、生理活性脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)が構成脂肪酸として豊富に含まれる魚油(例えば、イワシ、マグロ、カツオ、ブリ、サバ、サンマ、ウナギ、ニジマス、サケ、アジ、タラ、オキアミ、エビ、魚卵など由来の油)を油脂として使用して得られる脂肪酸エチルエステルは、医薬品の原料として使用することができる。
【0012】
反応容器は、撹拌式、振盪式または循環式の反応容器を使用することができる。連続反応の場合、カラム式に代表される固定層型の反応装置がエステル交換には一般的に用いられているが、油脂のアルコリシスの場合では副生成物であるグリセリンが油から分離し、固定化リパーゼの担体へと吸着し、またグリセリンの粘度が高いことから、酵素担体同士が固まって原料がその隙間を流れてしまうチャンネリング現象が起こりやすく、接触阻害により反応性が急速に落ちるというような現象がみられるため(比較例1)、カラムを使用する場合には考慮が必要である。したがって、連続的な反応の反応効率を維持するためには固定化担体が反応装置内で一定箇所にとどまらないように攪拌または通液を行うのが好ましい。撹拌型の連続反応の場合、基質の混合拡散のためにカラム等の固定層型などと比較して反応効率は若干低くなるが、固定化リパーゼが高濃度のアルコールと接触することもなく、また環境が常に一定であることから、安定したエステルの製造が可能となり、脂肪酸低級アルコールエステルの工業的生産においては有利である。
【0013】
固定化リパーゼとしては、基質特異性の低いものであれば特に限定されないが、例えば、カンジダ・アンタークチカ(Candida. Antarctica)またはサーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)に属する微生物由来の固定化リパーゼ、具体的には、ノボザイム435(商品名)またはリポザイムTL IM(商品名)などを使用することができる。
【0014】
本発明の工程2において行う精製方法は、生成物である脂肪酸低級アルコールエステルと未反応物であるトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドとを分離できる方法であれば特に限定されない。当該精製方法は、好ましくは蒸留であり、例えば、分子蒸留および短行程蒸留などを行うことができる。当該蒸留において回収される、未反応のトリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを反応容器に再度戻すことにより、収率の向上も図ることができる。
【0015】
本発明の方法は、工程2において抜き出した反応液を蒸留する前に、反応により生じたグリセリンを除去する工程を含んでいてもよい。グリセリンは、例えば、遠心分離によりまたは水による洗浄により、反応液から除去することができる。当該処理を含めることにより、蒸留の効率を向上させることができる。また、回収したグリセリン自体も工業製品として使用することができる。
【0016】
本発明の方法は、工程2での蒸留により得られた脂肪酸低級アルコールエステルを、液−液分配法またはクロマトグラフィーにより更に精製する工程を含んでいてもよい。液−液分配法において洗浄のために使用することができる溶媒としては、低級アルコール(例えばC1−3アルコール)、および水を含む親水性有機溶媒(例えば、含水メタノール、含水メタノール、含水アセトンなど)を使用することができる。また、洗浄する脂肪酸低級アルコールエステルは、例えばC5−8アルカン(特に、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなど)の溶液としてもよい。クロマトグラフィーとしては、例えば、適当な充填剤を使用するカラムクロマトグラフィーが挙げられ、充填剤としては、例えば、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、モレキュラーシーブなどが使用されうる。
【0017】
反応で使用される固定化リパーゼの使用量は、撹拌効率の観点から、工程1で反応容器内の油脂に対する重量比で24%以下であることが好ましく、反応効率も考慮すると、反応容器内の油脂に対する重量比で4〜24%、特に4〜12%であることが好ましい。
【0018】
使用する低級アルコールは、固定化リパーゼの基質となるアルコールであれば制限されない。低級アルコールとしては、例えば、C1−6アルコール、好ましくはC1−4アルコール、更に好ましくはメタノールまたはエタノールが挙げられる。反応系中のアルコールの量が多ければ反応が進行しやすくなる一方で、アルコールが過剰になることによりリパーゼ活性が阻害される場合があるため、アルコールの使用量はモル比で原料混合物中の油脂の3倍未満(すなわち、反応当量未満)であれば特に制限されない。アルコールは、原料混合物中の油脂に対するモル比で1.8〜2.7、好ましくは、2.2〜2.5倍の量で使用することができる。
【0019】
反応温度は、固定化リパーゼの至適温度の範囲内であれば特に制限されず、例えば、25〜70℃、好ましくは、30〜60℃、より好ましくは30〜50℃の範囲とすることができる。
【0020】
原料の添加流量および抜き出しの流量は、1時間当たり反応容器内の反応溶液に対して100%以下の原料量を流す速度、好ましくは1時間当たり反応容器内の反応溶液に対して30〜75%の範囲の原料量を流す速度とすることができる。反応液の容器内における平均滞留時間では、1時間以上、好ましくは1時間〜3時間30分の範囲とすることができる。
【0021】
本発明による脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法の一例を、図1に基づいて説明する。油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールからなる原料混合物Aを原料供給槽1に投入し、内部に固定化リパーゼを含む反応容器2内に原料混合物を一定の流量で投入する。反応容器2内の原料混合物が撹拌可能となった時点で直ちに撹拌を開始し、所定の反応温度で撹拌を継続しながら反応液が一定量となるまで原料混合物を反応容器2に投入する。反応液が反応容器2内で一定量に達した時点で、原料混合物の投入流量と同じ流量で反応液の抜き出しを開始し、抜き出した反応液をグリセリン除去装置3に送液する。グリセリン除去装置3では、遠心分離法や液−液分配法(例えば、水による洗浄)などの処理がされ、ここで除かれたグリセリンはグリセリン溶液Bとして得られる。当該処理後の反応液は蒸留装置4に送られ、分子蒸留または短行程蒸留などにより精製される。目的の脂肪酸低級アルコールエステルを含む留分は、更に精製装置5に送られ、液−液分配やクロマトグラフィーにより精製され、目的の脂肪酸低級アルコールエステルを含む生成物Cと回収物を含む溶液Dが得られる。
【0022】
ここで、蒸留装置4による蒸留で得られる残分は未反応のトリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを主成分とするため、回収物貯蔵槽6に投入し、一定の割合で反応容器2に再投入してもよい。当該再投入を行う場合は、反応容器内の反応液の量が一定となるように原料混合物の投入流量か反応液の抜き出し流量を調節する。
【0023】
上記の例では、固定化リパーゼのみが入った反応容器に原料混合物を投入する方法を示しているが、実際には固定化リパーゼを液になじませるために、反応前に生成物である脂肪酸低級アルコールエステルを入れて攪拌しておくのが好ましい。実施例に示すように、その状態から、一定量の原料を投入し、一定量の反応液を抜き出す工程を開始する。
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1:魚油(精製イワシ油)からの脂肪酸エチルエステルの製造
図2のような装置系を組み、40℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、魚油としてイワシ脱酸油(日本水産株式会社製)(以下、精製イワシ油と称する)を使用した。固定化リパーゼを液になじませるために、精製イワシ油をエチルエステル化した油(エチルエステル:74%)10gを加え、固定化リパーゼと撹拌しながら1時間インキュベートした。精製イワシ油にモル比で2.5倍モル(反応当量で0.84倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hの流量で供給しつつ、容器内の溶液が約10gで一定を保つように反応液の抜き出しを行った。この時、固定化リパーゼ量は油脂に対して重量比で12%である。反応容器内は常に撹拌混合を行った。
【0026】
得られた反応液100gを遠心分離(1900G、10分)して90g(回収率90%)のグリセリンが除去された油を得た。さらにトリグリセリドおよびジグリセリド分離のために、短行程蒸留にて処理を行った。短行程蒸留装置KD6型(UIC GmbH社)を用いて行った。短行程蒸留の条件を以下に示す。
【0027】
蒸留面面積:0.05m2
内部圧力:1×10−3mbar(8×10−4torr)以下(開始時から終了時まで)
内部コンデンサー温度:40℃
留分排出部ジャケット温度:40℃
残分排出部ジャケット温度:60℃
蒸留面温度(熱媒の蒸留面出口温度):160℃
フィード量:実測0.60L/h(スペック値0.54L/h、ポンプギア速度30rpm)
エチルエステルを含む留分について、さらに、モノグリセリドの分離のために、液−液分配を行った。条件を以下に示す。
【0028】
上層を油(留分):ヘキサン=1:1、下層を含水エタノール(80%)として上層:下層=6:5の溶媒組成で液−液分配を行い、分液後の上層(油層)を回収して、含水エタノールを加えて、再び分液操作を繰り返して、合計3回分液操作をした。
【0029】
得られた反応液の脂質組成の分析は、薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC/FID,イアトロスキャン(三菱化学ヤトロン株式会社))にて行った。サンプル25μLを酢酸エチル1mLに溶解し、クロマロッドに0.6〜1.0μLを負荷した。展開溶媒 クロロホルム:メタノール(95:5、v/v)で5分展開したのち、乾燥させてさらに展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:ギ酸(90:10:0.1)またはトルエン:ジエチルエーテル:酢酸(140:30:0.1、v/v/v)を用いて35分展開を行った。これをイアトロスキャンにて脂質組成の分析を行った。
【0030】
短行程蒸留後および液−液分配後の油の脂質組成の測定は以下の通りに行った。
分画はシリカゲルカートリッジカラムボンドエルート(登録商標)SI(2g、12mL)を用いて行った。ヘキサン:酢酸エチル(20:1、v/v)で置換したボンドエルート(登録商標)に、サンプル油(約500mg)をヘキサン:酢酸エチル(20:1、v/v、500μL)に溶解して負荷した。ヘキサン:酢酸エチル(20:1、v/v、30mL)を流して脂肪酸エチルエステルを流した後、ヘキサン:酢酸エチル(7:3、v/v、20mL)、ヘキサン:酢酸エチル(4:6、v/v、20mL)を流した画分をそれぞれ分取した。前者にはジグリセリド、後者にはモノグリセリドが含まれる。それぞれの画分を濃縮し、減圧下で乾燥した後、0.5N 水酸化ナトリウム/エタノール溶液(500μL)を加えて、80℃で1時間ケン化させて、1N塩酸(1mL)を加えて中和してから乾固した。これにTMSI−H(ジーエルサイエンス社、500μLずつ)を加えて60℃で15分間反応させてグリセリンをトリメチルシリル誘導体化し、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化検出器(GC/FID)に供した。GC/FIDの条件は以下の通りである。
【0031】
機種:島津GC−14(島津製作所)
カラム:DB−5(15m×0.53mm×0.25μm、J&G)
カラム温度:80℃(3分保持)
80℃−280℃(昇温20℃/分)
280℃(15分保持)
注入温度:250℃
注入方法:スプリット
スプリット比:1:1
スプリット流量:20mL/min
キャリアーガス:ヘリウム(25kPa、コンスタントプレッシャ)
定量はジオレインおよびグリセリンで検量線を作成して行った。部分グリセリド量は全てジオレインに換算した値である。回収率は短行程蒸留前の反応液に対する留分の重量比である。
【0032】
酵素反応と遠心分離後、短行程蒸留後、液−液分配後の油の回収率および脂質組成について以下に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
部分グリセリドが0.25%、エチルエステル99.8%の油が原料に対して61%の回収率で得られた。短行程蒸留および液−液分配で分離された油は、回収後再度原料に戻して再使用することができる。
【0035】
実施例2:エチルエステル化の長期連続反応
実施例1と同様の装置系で、40℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、魚油として精製イワシ油を使用し、モル比で2.2倍モル(反応当量で0.73倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hの流量で供給しつつ、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。反応容器内は常に撹拌混合を行った。得られた反応液の脂質組成の分析は、実施例1と同様にTLC/FIDにて行った。
【0036】
図3に、反応開始後の反応液の脂質組成の経時変化について、36日目までのデータを示す。TLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示す。目的物であるエチルエステルの成分比は70〜75%で36日間保たれており、使用したリパーゼの活性は維持されることが確認された。
【0037】
実施例3:反応温度および原料供給流量を変化させた場合のエチルエステル化反応
実施例1と同様の装置系で、60℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、精製イワシ油に対してモル比で2.2倍モル(反応当量で0.73倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を2.5g/hから5.5g/hへと原料供給流量を変化させて流し、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。
【0038】
図4に、反応開始後の反応液の脂質組成の経時変化について、3日目までのデータを示す。実施例1と同様にTLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示す。本実施例の結果では、原料供給量が2.5g/hと5.5g/hのいずれでも脂質組成に実質的な変化は確認されなかった。また、反応温度が60℃でも本発明の連続反応は実施可能であることが確認された。
【0039】
実施例4:反応温度を変化させた場合のエチルエステル化反応
実施例1と同様の装置系で、反応温度を40℃から30℃に変化させ、反応容器内に固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、精製イワシ油に対してモル比で2.5倍モル(反応当量で0.84倍量)または1.6倍モル(反応当量で0.53倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hで供給しつつ、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。
【0040】
図5に、反応液の脂質組成の7日目までの経時変化を示す。実施例1と同様にTLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示す。反応温度が30℃では、反応速度の低下に伴い、反応液中のエチルエステルの成分比は低下するが、本発明の方法を行う上で問題ないことが確認された。
【0041】
実施例5:反応液を振盪方式で混合した場合のエチルエステル化反応
図6のような装置系を組み、40℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、精製イワシ油に対してモル比で2.5倍モル(反応当量で0.84倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hの流量で供給しつつ、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。反応容器ごと振とうすることで、酵素と溶液の混合をおこなった。
【0042】
図7に、反応液の脂質組成の12日目までの経時変化を示す。実施例1と同様にTLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示してある。振盪式による反応装置を使用した場合でも、実施例1と同様に、連続的なエチルエステル生成反応が可能であることが確認された。
【0043】
実施例5:短行程蒸留処理の温度変化
実施例1で得られたグリセリン除去後の反応液を用いて、短行程蒸留装置(実施例1と同じ装置)を用いた蒸留の温度条件を130℃、145℃、160℃、175℃に変化させて、ジグリセリドおよびモノグリセリドの除去について条件検討を行った。蒸留条件を以下に示す。
【0044】
蒸留面温度(熱媒の蒸留面出口温度):130℃、145℃、160℃、175℃
フィード量:実測0.60L/h(スペック値0.54L/h、ポンプギア速度30rpm)
各温度条件で留分と残分を取り、計8サンプルを得た。
【0045】
定量は実施例1と同様にジオレインおよびグリセリンで検量線を作成して行った。
【0046】
【表2】
【0047】
短行程蒸留を行うことで、処理温度160℃以下で反応用液からジグリセリドを極めて低いレベルまで低減した。生成物であるエチルエステルの回収率は145℃の処理温度で72%であり、1回の処理でエチルエステルの成分比が82%の油から9割近くを回収することができた。
【0048】
実施例6:液−液分配における分配回数と溶媒組成変化
実施例1で得られた短行程蒸留後の反応液を用いて液−液分配の条件検討を行った。上層を油:ヘキサン=1:0.6、下層を含水エタノール(70%)として上層:下層=2:3という条件、および上層を油:ヘキサン=1:1、下層を含水エタノール(80%)として上層:下層=6:5という条件で、分液後の上層(油層)を回収して、含水エタノールを加えて、再び分液操作を繰り返して、得られた油について部分グリセリドの分析を行った。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
液−液分配を1回以上行うことで、モノグリセリドを非常に低いレベルまで低減でき、99%以上の純度のエチルエステルを得ることができた。
実施例7:短行程蒸留残分の原料としての再利用
短行程蒸留処理において得られた残分がエステル化反応の原料となりうるかを確認するために、実施例5において反応液を160℃で処理した際の残分を使用して、ノボザイム435を用いたエステル化反応を行った。反応原料として、160℃で処理した残分をそのまま使用した場合、および当該残分と精製イワシ油の1:1混合液を使用した場合についてそれぞれ試験した。また、使用するリパーゼ(ノボザイム435)は160℃で処理した残分または160℃で処理した残分と精製イワシ油の1:1混合液に対する重量比で4%(反応a)または8%(反応b)とした。各原料の脂質組成組成は表4の通りである。
【0051】
【表4】
【0052】
ガラスバイアル(SV−10、日電理化硝子社製)に160℃残分のみ、160℃残分と精製イワシ油を1:1で混合した油、精製イワシ油のみをそれぞれに5gとり、エタノール0.82g(モル比で3.15倍モル;本実施例ではバッチ式なので、酵素に対する影響は無視できるためエタノール量は等量以上用いている)とノボザイム435(4%または8%)を加えてふたをし、40℃にてバイアルを振とうするというバッチ式で反応を行った。逐次サンプリングを行い、反応液の脂質組成の分析を行った。反応液中のエチルエステル含量変化の結果を図8および図9に示す。
【0053】
図8および図9の結果は、短行程蒸留残分を原料としたエチルエステル化反応は問題なく進行することが示しており、蒸留における残分を反応容器に再度加えることにより、本発明の製造方法の収率をより向上させることができることが確認された。
【0054】
比較例1:カラムを用いたエチルエステル化の反応
直径1cm、長さ7.5cmのガラス製カラムに固定化酵素ノボザイム435(2g)を充填し、40℃で保温し、定量ポンプにて精製イワシ油に3.15倍モル(反応当量で1.05倍量)のエタノールを混合した液を5.5g/hの流速で上から流し、反応液を分取して脂質組成の分析を行った。
【0055】
図10に、反応後の溶液の脂質組成について、15時間後までの経時変化のデータを示す。TLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とし、グラフは横軸に経過時間を、縦軸にエチルエステル比率を示す。図10によれば、開始から数時間で急速にエチルエステル化の反応率が低下している。この原因は、エチルエステル化の副生成物のグリセリンが酵素の固定化担体に吸着することによるものと考えられる。
【0056】
比較例2:バッチ式でのエチルエステル化の反応
ガラスバイアルSV−10に魚油5g、エタノール0.82g(モル比で3.15倍モル)とノボザイム435(魚油に対する重量比で4%、8%または12%)を加えてふたをし、40℃にてバイアルを振とうするというバッチ式で反応を行った。逐次サンプリングを行い、反応液の脂質組成の分析を行った。反応液中のエチルエステル含量変化の結果を図11に示す。
【0057】
酵素量が多い方が反応速度は早いが、実施例1と比較すると、同じノボザイム435(使用量12%)の条件で、バッチ式で反応進行が早い反応初期段階(バッチ式での反応開始後3時間)でもエチルエステルの割合は62%であり、酵素1g当たりに換算すると、1.7g/hのエチルエステルを生産する。
【0058】
それに対して、連続式として実施例1の場合には、酵素1.2gを使用して、エチルエステルの割合が74%の油を5.5g/h生産することから、酵素1g当たりに換算すると、3.4g/hのエチルエステルを生産し、これはバッチ式の倍のエチルエステルの生産量である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の製造方法を実施するための装置の略示図である。
【図2】実施例1で使用した反応装置の模式図である。
【図3】実施例2の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図4】実施例3の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図5】実施例4の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図6】実施例5で使用した反応装置の模式図である。
【図7】実施例5の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図8】実施例7のリパーゼを4%使用した場合(反応a)の反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【図9】実施例7のリパーゼを8%使用した場合(反応b)の反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【図10】比較例1のカラムを用いたエチルエステル化の反応における反応後の反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【図11】比較例2のバッチ式でのエチルエステル化の反応における、反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 原料供給槽
2 反応容器
3 グリセリン除去装置
4 蒸留装置
5 精製装置
6 回収物貯蔵槽
A 原料混合物
B グリセリン溶液
C 生成物
D 回収物を含む溶液
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼ反応により油脂から脂肪酸低級アルコールエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、バイオディーゼル燃料として、脂肪酸メチルエステルが注目されていることから、油脂から脂肪酸メチルエステルを製造する方法がいくつか報告されている(特許文献1など)。また、例えば生理活性脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)のエチルエステルは医薬品として利用されており、これらの製造原料として脂肪酸エチルエステルが使用される。EPAおよびDHAのエチルエステルは医薬品であるために高純度であることが必要であるため、その製造原料のエステルも高純度であることが求められる。したがって、高純度の脂肪酸低級アルコールエステルの効率的な製造方法が求められている。
【0003】
油脂からの脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法として、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ化合物を触媒としてアルコリシス反応を行う方法が一般的に行われている。しかし、当該方法によれば、アルカリを含んだグリセリンを含むアルカリ廃液が生じるため、その処理にコストがかかり、また環境にも悪影響を与えるという問題点を有している。
【0004】
アルカリ化合物以外の化学触媒を利用する方法やリパーゼを利用した方法では、多くの場合、アルカリ法に比べ反応速度やエステルへの変換率が劣るため、製造コストおよび得られるエステルの純度が問題となる。他の方法として、超高圧条件下でエステル交換反応を行う方法が知られているが、高温、高圧での反応に耐える特殊な設備が必要であり、また、反応効率は必ずしも高くはない。
【0005】
特開平5−328962号公報(特許文献2)には、固定化リパーゼを内蔵した固定床リアクターと脱水槽を含む、脂肪酸とアルコールを原料とするエステルの連続合成装置が開示されている。当該装置においてはリアクターと脱水槽がそれぞれ少なくとも2つ以上必要となる。また、当該装置による反応を、脂質からのエステル合成にそのまま利用することはできない。
【0006】
国際出願公報WO00/12743号(特許文献3)は、無溶媒系において直鎖低級アルコールのリパーゼ阻害濃度以下の濃度に該直鎖低級アルコール濃度を調節しつつ、リパーゼと油脂と該直鎖低級アルコールとを反応させる、脂肪酸エステルの製造方法に関するものであり、固定化リパーゼのカラムを使用する連続式の脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法について言及する。しかし、あくまでもリパーゼ反応にのみによって脂肪酸低級アルコールエステルの純度を高めることをめざす技術である。
【特許文献1】特開2002−233393号公報
【特許文献2】特開平5−328962号公報
【特許文献3】国際出願公報WO00/12743号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率的で長時間の連続的な実施が可能な、油脂を原料とする酵素的連続反応による脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を様々な角度から研究した結果、リパーゼを使用して効率的に脂肪酸低級アルコールエステルを製造することができる方法を見いだし、本発明を完成させた。リパーゼ反応により脂肪酸低級アルコールエステルを製造する場合、原料としては、リパーゼ、油脂、低級アルコールが必要であり、製造効率の面からは、反応速度、純度、収率、コストなどを考慮する必要がある。本発明は原料の中でもっともコストが高いリパーゼを最も効率よく使用することに着眼して完成した発明である。リパーゼ反応のみで高純度、高収率の脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法を目指すのではなく、リパーゼ反応と別の精製方法を組み合わせることにより、結果的にリパーゼに負担が少なく、長く使用することができることを可能にし、高純度、高収率で脂肪酸低級アルコールエステルを製造することを可能にした。
【0009】
本発明の1つの側面によれば、脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法であって、
1)反応容器に固定化リパーゼを加え、そこに、油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールを一定の流量で加え、反応させながら、同時に反応容器より反応液を同流量で連続的に抜き出す工程;
2)抜き出した反応液を精製し、脂肪酸低級アルコールエステルを得る工程;
を含む前記方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法においては、使用するリパーゼの触媒活性が長期間維持されるため、比較的高価であるリパーゼを交換することなく長期間連続的に脂質から脂肪酸低級アルコールエステルを製造することが可能となり、製造効率を向上させることができる。また、本発明の方法はリパーゼを使用して製造するため、アルカリ性廃液などが生じないという利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
原料として用いる油脂は特には限定されず、例えば植物性油脂としては、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、これらの油の調合油など、動物性油脂としては、牛脂、ラード、魚油など、微生物由来のシングルセルオイル、合成油、またはこれらの油の使用済みの廃油を使用することができる。例えば、生理活性脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)が構成脂肪酸として豊富に含まれる魚油(例えば、イワシ、マグロ、カツオ、ブリ、サバ、サンマ、ウナギ、ニジマス、サケ、アジ、タラ、オキアミ、エビ、魚卵など由来の油)を油脂として使用して得られる脂肪酸エチルエステルは、医薬品の原料として使用することができる。
【0012】
反応容器は、撹拌式、振盪式または循環式の反応容器を使用することができる。連続反応の場合、カラム式に代表される固定層型の反応装置がエステル交換には一般的に用いられているが、油脂のアルコリシスの場合では副生成物であるグリセリンが油から分離し、固定化リパーゼの担体へと吸着し、またグリセリンの粘度が高いことから、酵素担体同士が固まって原料がその隙間を流れてしまうチャンネリング現象が起こりやすく、接触阻害により反応性が急速に落ちるというような現象がみられるため(比較例1)、カラムを使用する場合には考慮が必要である。したがって、連続的な反応の反応効率を維持するためには固定化担体が反応装置内で一定箇所にとどまらないように攪拌または通液を行うのが好ましい。撹拌型の連続反応の場合、基質の混合拡散のためにカラム等の固定層型などと比較して反応効率は若干低くなるが、固定化リパーゼが高濃度のアルコールと接触することもなく、また環境が常に一定であることから、安定したエステルの製造が可能となり、脂肪酸低級アルコールエステルの工業的生産においては有利である。
【0013】
固定化リパーゼとしては、基質特異性の低いものであれば特に限定されないが、例えば、カンジダ・アンタークチカ(Candida. Antarctica)またはサーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)に属する微生物由来の固定化リパーゼ、具体的には、ノボザイム435(商品名)またはリポザイムTL IM(商品名)などを使用することができる。
【0014】
本発明の工程2において行う精製方法は、生成物である脂肪酸低級アルコールエステルと未反応物であるトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドとを分離できる方法であれば特に限定されない。当該精製方法は、好ましくは蒸留であり、例えば、分子蒸留および短行程蒸留などを行うことができる。当該蒸留において回収される、未反応のトリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを反応容器に再度戻すことにより、収率の向上も図ることができる。
【0015】
本発明の方法は、工程2において抜き出した反応液を蒸留する前に、反応により生じたグリセリンを除去する工程を含んでいてもよい。グリセリンは、例えば、遠心分離によりまたは水による洗浄により、反応液から除去することができる。当該処理を含めることにより、蒸留の効率を向上させることができる。また、回収したグリセリン自体も工業製品として使用することができる。
【0016】
本発明の方法は、工程2での蒸留により得られた脂肪酸低級アルコールエステルを、液−液分配法またはクロマトグラフィーにより更に精製する工程を含んでいてもよい。液−液分配法において洗浄のために使用することができる溶媒としては、低級アルコール(例えばC1−3アルコール)、および水を含む親水性有機溶媒(例えば、含水メタノール、含水メタノール、含水アセトンなど)を使用することができる。また、洗浄する脂肪酸低級アルコールエステルは、例えばC5−8アルカン(特に、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなど)の溶液としてもよい。クロマトグラフィーとしては、例えば、適当な充填剤を使用するカラムクロマトグラフィーが挙げられ、充填剤としては、例えば、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、モレキュラーシーブなどが使用されうる。
【0017】
反応で使用される固定化リパーゼの使用量は、撹拌効率の観点から、工程1で反応容器内の油脂に対する重量比で24%以下であることが好ましく、反応効率も考慮すると、反応容器内の油脂に対する重量比で4〜24%、特に4〜12%であることが好ましい。
【0018】
使用する低級アルコールは、固定化リパーゼの基質となるアルコールであれば制限されない。低級アルコールとしては、例えば、C1−6アルコール、好ましくはC1−4アルコール、更に好ましくはメタノールまたはエタノールが挙げられる。反応系中のアルコールの量が多ければ反応が進行しやすくなる一方で、アルコールが過剰になることによりリパーゼ活性が阻害される場合があるため、アルコールの使用量はモル比で原料混合物中の油脂の3倍未満(すなわち、反応当量未満)であれば特に制限されない。アルコールは、原料混合物中の油脂に対するモル比で1.8〜2.7、好ましくは、2.2〜2.5倍の量で使用することができる。
【0019】
反応温度は、固定化リパーゼの至適温度の範囲内であれば特に制限されず、例えば、25〜70℃、好ましくは、30〜60℃、より好ましくは30〜50℃の範囲とすることができる。
【0020】
原料の添加流量および抜き出しの流量は、1時間当たり反応容器内の反応溶液に対して100%以下の原料量を流す速度、好ましくは1時間当たり反応容器内の反応溶液に対して30〜75%の範囲の原料量を流す速度とすることができる。反応液の容器内における平均滞留時間では、1時間以上、好ましくは1時間〜3時間30分の範囲とすることができる。
【0021】
本発明による脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法の一例を、図1に基づいて説明する。油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールからなる原料混合物Aを原料供給槽1に投入し、内部に固定化リパーゼを含む反応容器2内に原料混合物を一定の流量で投入する。反応容器2内の原料混合物が撹拌可能となった時点で直ちに撹拌を開始し、所定の反応温度で撹拌を継続しながら反応液が一定量となるまで原料混合物を反応容器2に投入する。反応液が反応容器2内で一定量に達した時点で、原料混合物の投入流量と同じ流量で反応液の抜き出しを開始し、抜き出した反応液をグリセリン除去装置3に送液する。グリセリン除去装置3では、遠心分離法や液−液分配法(例えば、水による洗浄)などの処理がされ、ここで除かれたグリセリンはグリセリン溶液Bとして得られる。当該処理後の反応液は蒸留装置4に送られ、分子蒸留または短行程蒸留などにより精製される。目的の脂肪酸低級アルコールエステルを含む留分は、更に精製装置5に送られ、液−液分配やクロマトグラフィーにより精製され、目的の脂肪酸低級アルコールエステルを含む生成物Cと回収物を含む溶液Dが得られる。
【0022】
ここで、蒸留装置4による蒸留で得られる残分は未反応のトリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを主成分とするため、回収物貯蔵槽6に投入し、一定の割合で反応容器2に再投入してもよい。当該再投入を行う場合は、反応容器内の反応液の量が一定となるように原料混合物の投入流量か反応液の抜き出し流量を調節する。
【0023】
上記の例では、固定化リパーゼのみが入った反応容器に原料混合物を投入する方法を示しているが、実際には固定化リパーゼを液になじませるために、反応前に生成物である脂肪酸低級アルコールエステルを入れて攪拌しておくのが好ましい。実施例に示すように、その状態から、一定量の原料を投入し、一定量の反応液を抜き出す工程を開始する。
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1:魚油(精製イワシ油)からの脂肪酸エチルエステルの製造
図2のような装置系を組み、40℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、魚油としてイワシ脱酸油(日本水産株式会社製)(以下、精製イワシ油と称する)を使用した。固定化リパーゼを液になじませるために、精製イワシ油をエチルエステル化した油(エチルエステル:74%)10gを加え、固定化リパーゼと撹拌しながら1時間インキュベートした。精製イワシ油にモル比で2.5倍モル(反応当量で0.84倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hの流量で供給しつつ、容器内の溶液が約10gで一定を保つように反応液の抜き出しを行った。この時、固定化リパーゼ量は油脂に対して重量比で12%である。反応容器内は常に撹拌混合を行った。
【0026】
得られた反応液100gを遠心分離(1900G、10分)して90g(回収率90%)のグリセリンが除去された油を得た。さらにトリグリセリドおよびジグリセリド分離のために、短行程蒸留にて処理を行った。短行程蒸留装置KD6型(UIC GmbH社)を用いて行った。短行程蒸留の条件を以下に示す。
【0027】
蒸留面面積:0.05m2
内部圧力:1×10−3mbar(8×10−4torr)以下(開始時から終了時まで)
内部コンデンサー温度:40℃
留分排出部ジャケット温度:40℃
残分排出部ジャケット温度:60℃
蒸留面温度(熱媒の蒸留面出口温度):160℃
フィード量:実測0.60L/h(スペック値0.54L/h、ポンプギア速度30rpm)
エチルエステルを含む留分について、さらに、モノグリセリドの分離のために、液−液分配を行った。条件を以下に示す。
【0028】
上層を油(留分):ヘキサン=1:1、下層を含水エタノール(80%)として上層:下層=6:5の溶媒組成で液−液分配を行い、分液後の上層(油層)を回収して、含水エタノールを加えて、再び分液操作を繰り返して、合計3回分液操作をした。
【0029】
得られた反応液の脂質組成の分析は、薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC/FID,イアトロスキャン(三菱化学ヤトロン株式会社))にて行った。サンプル25μLを酢酸エチル1mLに溶解し、クロマロッドに0.6〜1.0μLを負荷した。展開溶媒 クロロホルム:メタノール(95:5、v/v)で5分展開したのち、乾燥させてさらに展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:ギ酸(90:10:0.1)またはトルエン:ジエチルエーテル:酢酸(140:30:0.1、v/v/v)を用いて35分展開を行った。これをイアトロスキャンにて脂質組成の分析を行った。
【0030】
短行程蒸留後および液−液分配後の油の脂質組成の測定は以下の通りに行った。
分画はシリカゲルカートリッジカラムボンドエルート(登録商標)SI(2g、12mL)を用いて行った。ヘキサン:酢酸エチル(20:1、v/v)で置換したボンドエルート(登録商標)に、サンプル油(約500mg)をヘキサン:酢酸エチル(20:1、v/v、500μL)に溶解して負荷した。ヘキサン:酢酸エチル(20:1、v/v、30mL)を流して脂肪酸エチルエステルを流した後、ヘキサン:酢酸エチル(7:3、v/v、20mL)、ヘキサン:酢酸エチル(4:6、v/v、20mL)を流した画分をそれぞれ分取した。前者にはジグリセリド、後者にはモノグリセリドが含まれる。それぞれの画分を濃縮し、減圧下で乾燥した後、0.5N 水酸化ナトリウム/エタノール溶液(500μL)を加えて、80℃で1時間ケン化させて、1N塩酸(1mL)を加えて中和してから乾固した。これにTMSI−H(ジーエルサイエンス社、500μLずつ)を加えて60℃で15分間反応させてグリセリンをトリメチルシリル誘導体化し、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化検出器(GC/FID)に供した。GC/FIDの条件は以下の通りである。
【0031】
機種:島津GC−14(島津製作所)
カラム:DB−5(15m×0.53mm×0.25μm、J&G)
カラム温度:80℃(3分保持)
80℃−280℃(昇温20℃/分)
280℃(15分保持)
注入温度:250℃
注入方法:スプリット
スプリット比:1:1
スプリット流量:20mL/min
キャリアーガス:ヘリウム(25kPa、コンスタントプレッシャ)
定量はジオレインおよびグリセリンで検量線を作成して行った。部分グリセリド量は全てジオレインに換算した値である。回収率は短行程蒸留前の反応液に対する留分の重量比である。
【0032】
酵素反応と遠心分離後、短行程蒸留後、液−液分配後の油の回収率および脂質組成について以下に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
部分グリセリドが0.25%、エチルエステル99.8%の油が原料に対して61%の回収率で得られた。短行程蒸留および液−液分配で分離された油は、回収後再度原料に戻して再使用することができる。
【0035】
実施例2:エチルエステル化の長期連続反応
実施例1と同様の装置系で、40℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、魚油として精製イワシ油を使用し、モル比で2.2倍モル(反応当量で0.73倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hの流量で供給しつつ、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。反応容器内は常に撹拌混合を行った。得られた反応液の脂質組成の分析は、実施例1と同様にTLC/FIDにて行った。
【0036】
図3に、反応開始後の反応液の脂質組成の経時変化について、36日目までのデータを示す。TLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示す。目的物であるエチルエステルの成分比は70〜75%で36日間保たれており、使用したリパーゼの活性は維持されることが確認された。
【0037】
実施例3:反応温度および原料供給流量を変化させた場合のエチルエステル化反応
実施例1と同様の装置系で、60℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、精製イワシ油に対してモル比で2.2倍モル(反応当量で0.73倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を2.5g/hから5.5g/hへと原料供給流量を変化させて流し、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。
【0038】
図4に、反応開始後の反応液の脂質組成の経時変化について、3日目までのデータを示す。実施例1と同様にTLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示す。本実施例の結果では、原料供給量が2.5g/hと5.5g/hのいずれでも脂質組成に実質的な変化は確認されなかった。また、反応温度が60℃でも本発明の連続反応は実施可能であることが確認された。
【0039】
実施例4:反応温度を変化させた場合のエチルエステル化反応
実施例1と同様の装置系で、反応温度を40℃から30℃に変化させ、反応容器内に固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、精製イワシ油に対してモル比で2.5倍モル(反応当量で0.84倍量)または1.6倍モル(反応当量で0.53倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hで供給しつつ、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。
【0040】
図5に、反応液の脂質組成の7日目までの経時変化を示す。実施例1と同様にTLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示す。反応温度が30℃では、反応速度の低下に伴い、反応液中のエチルエステルの成分比は低下するが、本発明の方法を行う上で問題ないことが確認された。
【0041】
実施例5:反応液を振盪方式で混合した場合のエチルエステル化反応
図6のような装置系を組み、40℃に保温した反応容器内に、固定化リパーゼとしてノボザイム435を1.2gとり、精製イワシ油に対してモル比で2.5倍モル(反応当量で0.84倍量)の特級エタノールを混合した原料溶液を5.5g/hの流量で供給しつつ、容器内に溶液が約10gで一定となるように反応液の抜き出しを行った。反応容器ごと振とうすることで、酵素と溶液の混合をおこなった。
【0042】
図7に、反応液の脂質組成の12日目までの経時変化を示す。実施例1と同様にTLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とした。グラフは横軸に経過日数を、縦軸に脂質組成比を示してある。振盪式による反応装置を使用した場合でも、実施例1と同様に、連続的なエチルエステル生成反応が可能であることが確認された。
【0043】
実施例5:短行程蒸留処理の温度変化
実施例1で得られたグリセリン除去後の反応液を用いて、短行程蒸留装置(実施例1と同じ装置)を用いた蒸留の温度条件を130℃、145℃、160℃、175℃に変化させて、ジグリセリドおよびモノグリセリドの除去について条件検討を行った。蒸留条件を以下に示す。
【0044】
蒸留面温度(熱媒の蒸留面出口温度):130℃、145℃、160℃、175℃
フィード量:実測0.60L/h(スペック値0.54L/h、ポンプギア速度30rpm)
各温度条件で留分と残分を取り、計8サンプルを得た。
【0045】
定量は実施例1と同様にジオレインおよびグリセリンで検量線を作成して行った。
【0046】
【表2】
【0047】
短行程蒸留を行うことで、処理温度160℃以下で反応用液からジグリセリドを極めて低いレベルまで低減した。生成物であるエチルエステルの回収率は145℃の処理温度で72%であり、1回の処理でエチルエステルの成分比が82%の油から9割近くを回収することができた。
【0048】
実施例6:液−液分配における分配回数と溶媒組成変化
実施例1で得られた短行程蒸留後の反応液を用いて液−液分配の条件検討を行った。上層を油:ヘキサン=1:0.6、下層を含水エタノール(70%)として上層:下層=2:3という条件、および上層を油:ヘキサン=1:1、下層を含水エタノール(80%)として上層:下層=6:5という条件で、分液後の上層(油層)を回収して、含水エタノールを加えて、再び分液操作を繰り返して、得られた油について部分グリセリドの分析を行った。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
液−液分配を1回以上行うことで、モノグリセリドを非常に低いレベルまで低減でき、99%以上の純度のエチルエステルを得ることができた。
実施例7:短行程蒸留残分の原料としての再利用
短行程蒸留処理において得られた残分がエステル化反応の原料となりうるかを確認するために、実施例5において反応液を160℃で処理した際の残分を使用して、ノボザイム435を用いたエステル化反応を行った。反応原料として、160℃で処理した残分をそのまま使用した場合、および当該残分と精製イワシ油の1:1混合液を使用した場合についてそれぞれ試験した。また、使用するリパーゼ(ノボザイム435)は160℃で処理した残分または160℃で処理した残分と精製イワシ油の1:1混合液に対する重量比で4%(反応a)または8%(反応b)とした。各原料の脂質組成組成は表4の通りである。
【0051】
【表4】
【0052】
ガラスバイアル(SV−10、日電理化硝子社製)に160℃残分のみ、160℃残分と精製イワシ油を1:1で混合した油、精製イワシ油のみをそれぞれに5gとり、エタノール0.82g(モル比で3.15倍モル;本実施例ではバッチ式なので、酵素に対する影響は無視できるためエタノール量は等量以上用いている)とノボザイム435(4%または8%)を加えてふたをし、40℃にてバイアルを振とうするというバッチ式で反応を行った。逐次サンプリングを行い、反応液の脂質組成の分析を行った。反応液中のエチルエステル含量変化の結果を図8および図9に示す。
【0053】
図8および図9の結果は、短行程蒸留残分を原料としたエチルエステル化反応は問題なく進行することが示しており、蒸留における残分を反応容器に再度加えることにより、本発明の製造方法の収率をより向上させることができることが確認された。
【0054】
比較例1:カラムを用いたエチルエステル化の反応
直径1cm、長さ7.5cmのガラス製カラムに固定化酵素ノボザイム435(2g)を充填し、40℃で保温し、定量ポンプにて精製イワシ油に3.15倍モル(反応当量で1.05倍量)のエタノールを混合した液を5.5g/hの流速で上から流し、反応液を分取して脂質組成の分析を行った。
【0055】
図10に、反応後の溶液の脂質組成について、15時間後までの経時変化のデータを示す。TLC/FIDにて得られたピークの面積比を油の脂質組成とし、グラフは横軸に経過時間を、縦軸にエチルエステル比率を示す。図10によれば、開始から数時間で急速にエチルエステル化の反応率が低下している。この原因は、エチルエステル化の副生成物のグリセリンが酵素の固定化担体に吸着することによるものと考えられる。
【0056】
比較例2:バッチ式でのエチルエステル化の反応
ガラスバイアルSV−10に魚油5g、エタノール0.82g(モル比で3.15倍モル)とノボザイム435(魚油に対する重量比で4%、8%または12%)を加えてふたをし、40℃にてバイアルを振とうするというバッチ式で反応を行った。逐次サンプリングを行い、反応液の脂質組成の分析を行った。反応液中のエチルエステル含量変化の結果を図11に示す。
【0057】
酵素量が多い方が反応速度は早いが、実施例1と比較すると、同じノボザイム435(使用量12%)の条件で、バッチ式で反応進行が早い反応初期段階(バッチ式での反応開始後3時間)でもエチルエステルの割合は62%であり、酵素1g当たりに換算すると、1.7g/hのエチルエステルを生産する。
【0058】
それに対して、連続式として実施例1の場合には、酵素1.2gを使用して、エチルエステルの割合が74%の油を5.5g/h生産することから、酵素1g当たりに換算すると、3.4g/hのエチルエステルを生産し、これはバッチ式の倍のエチルエステルの生産量である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の製造方法を実施するための装置の略示図である。
【図2】実施例1で使用した反応装置の模式図である。
【図3】実施例2の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図4】実施例3の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図5】実施例4の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図6】実施例5で使用した反応装置の模式図である。
【図7】実施例5の反応液中の脂質組成(面積%)の経時変化を示すグラフである(EE:エチルエステル、TG:トリグリセリド、DG:ジグリセリド、MG:モノグリセリド,FFA:遊離脂肪酸)。
【図8】実施例7のリパーゼを4%使用した場合(反応a)の反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【図9】実施例7のリパーゼを8%使用した場合(反応b)の反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【図10】比較例1のカラムを用いたエチルエステル化の反応における反応後の反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【図11】比較例2のバッチ式でのエチルエステル化の反応における、反応液中のエチルエステル含量変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 原料供給槽
2 反応容器
3 グリセリン除去装置
4 蒸留装置
5 精製装置
6 回収物貯蔵槽
A 原料混合物
B グリセリン溶液
C 生成物
D 回収物を含む溶液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法であって、
1)反応容器に固定化リパーゼを加え、そこに、油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールを一定の流量で加え、反応させながら、同時に反応容器より反応液を同流量で連続的に抜き出す工程;
2)抜き出した反応液を精製し、脂肪酸低級アルコールエステルを得る工程;
を含む前記方法。
【請求項2】
前記工程2の精製が蒸留によって行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸留において回収される、トリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを含む回収物を反応容器に加える工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸留が分子蒸留または短行程蒸留である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程2において抜き出した反応液を精製する前に、グリセリンを除去する工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留により得られた脂肪酸低級アルコールエステルを、液−液分配法またはクロマトグラフィーにより精製する工程を更に含む、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程1で油脂とともに加えられる低級アルコールが当該油脂に対して0.6〜0.9反応当量(油脂の1.8〜2.7倍モル)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程1において、反応容器内の油脂に対する重量比で4〜24%の固定化リパーゼを使用する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記固定化リパーゼが、カンジダ・アンタークチカ(Candida. Antarctica)またはサーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)に属する微生物から得られるリパーゼである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記固定化リパーゼが、ノボザイム435(商品名)またはリポザイムTL IM(商品名)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記低級アルコールがメタノールまたはエタノールである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
脂肪酸低級アルコールエステルの製造方法であって、
1)反応容器に固定化リパーゼを加え、そこに、油脂、および当該油脂に対して反応当量(油脂の3倍モル)未満の低級アルコールを一定の流量で加え、反応させながら、同時に反応容器より反応液を同流量で連続的に抜き出す工程;
2)抜き出した反応液を精製し、脂肪酸低級アルコールエステルを得る工程;
を含む前記方法。
【請求項2】
前記工程2の精製が蒸留によって行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸留において回収される、トリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを含む回収物を反応容器に加える工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸留が分子蒸留または短行程蒸留である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程2において抜き出した反応液を精製する前に、グリセリンを除去する工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留により得られた脂肪酸低級アルコールエステルを、液−液分配法またはクロマトグラフィーにより精製する工程を更に含む、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程1で油脂とともに加えられる低級アルコールが当該油脂に対して0.6〜0.9反応当量(油脂の1.8〜2.7倍モル)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程1において、反応容器内の油脂に対する重量比で4〜24%の固定化リパーゼを使用する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記固定化リパーゼが、カンジダ・アンタークチカ(Candida. Antarctica)またはサーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)に属する微生物から得られるリパーゼである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記固定化リパーゼが、ノボザイム435(商品名)またはリポザイムTL IM(商品名)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記低級アルコールがメタノールまたはエタノールである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−136239(P2009−136239A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318168(P2007−318168)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]