説明

脱硫剤及び溶融鉄の脱硫処理方法

【課題】 比較的簡便に製造可能で、特にフッ素を含有しなくても高効率で溶融鉄の脱硫処理を可能にする脱硫剤を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決するための脱硫剤は、CaOを主成分とする粉状の石灰と、溶鉱炉で溶銑を製造する際に副産物として生成されるスラグを固化させた後に粉砕処理することにより得られた固体粉状物質と、を混合することにより製造されたことを特徴とする。この場合に、前記固体粉状物質と前記石灰との配合質量比(固体粉体物質の配合量(質量%)/石灰の配合量(質量%))を0.05以上1.0以下とする、前記固体粉状物質の平均粒子径を15μm以下とする、前記脱硫剤の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))を3.5以上とすることで、より一層脱硫効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融鉄の脱硫処理に使用するCaO系脱硫剤及びそれを用いた溶融鉄の脱硫処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼の高純度化に対する要求が従来にも増して強くなり、これに伴って鋼中の不純物を除去する技術開発が盛んに行われている。今日の鉄鋼精錬プロセスにおいては、転炉を始めとする製鋼炉での脱炭精錬に先立って、溶銑に含有される燐及び硫黄を除去する方法、即ち溶銑の予備処理が一般的に行われている。また、溶銑段階での脱燐処理及び脱硫処理のみでは所望する成分濃度まで安定して低下できない場合には、転炉を始めとする製鋼炉より出湯した溶鋼においても、脱燐処理や脱硫処理が行われている。溶銑の予備処理に対して製鋼炉から出湯された溶鋼における脱燐処理及び脱硫処理を、それぞれ溶鋼脱燐、溶鋼脱硫と称している。尚、本発明では溶銑及び溶鋼をまとめて溶融鉄と称している。
【0003】
このうち、溶銑及び溶鋼における脱硫処理、つまり溶融鉄の脱硫処理での脱硫剤としては、石灰(以下「CaO」と記す)粉を主成分とする脱硫剤、カルシウムカーバイド(CaC2)、カルシウムアルミネート(mCaO・nAl23)などが挙げられるが、処理コストの面からCaO粉を主成分とする脱硫剤が広く用いられている。このCaO粉による溶融鉄中の脱硫反応は、一般的に下記の(1)式で示される。
【0004】
【数1】

【0005】
(1)式において、[S]は溶融鉄中の硫黄、(CaS)はスラグ中のCaS、[O]は溶融鉄中の酸素を示す。(1)式の反応を進める方法としては、溶融鉄中の酸素ポテンシャルの低下、スラグの塩基度増加などが挙げられる。
【0006】
また、溶融鉄の脱硫速度は、一般的に、メタル及びスラグの物質移動を律速段階として、下記の(2)式及び(3)式で示される。
【0007】
【数2】

【0008】
ここで、Aはメタル/スラグの反応界面積、Vはメタル体積、[%S]はメタルの硫黄濃度、(%S)はスラグの硫黄濃度、kSは総括反応速度定数、kmはメタル側の物質移動係数、kslagはスラグ側の物質移動係数、LSはメタル/スラグ間の硫黄の分配比である。脱硫速度を高めるには、(2)式及び(3)式からも明らかなように、反応界面積(A)の増大、或いは、スラグの滓化促進によるスラグ側の物質移動の促進(kslagの増大)が挙げられる。このうち、後者に関してそれを達成する手段として、脱硫剤の組成を制御して、脱硫剤の融点を低下させる方法が行われている。
【0009】
例えば、特許文献1には、高炉スラグとCaF2との混合物、或いは低融点の合成スラグ(Al23−CaO−SiO2−CaF2系スラグ)を脱硫剤として用い、脱硫槽に溶銑を連続的に供給しながら、溶銑を脱硫処理する方法が開示されている。また、特許文献2には、溶銑及び溶鋼の脱硫剤として好適な精錬用フラックスとして、CaOを27〜37質量%、Al23を14〜24質量%、SiO2を29〜39質量%、CaF2を10〜20質量%含有する精錬用フラックスであって、12CaO・7Al23、CaO・Al23、CaO・2Al23及びCaO・SiO2を含有する精錬用フラックスが開示されている。
【0010】
一方、近年、フッ素の環境への影響が問題視され、フッ素を含有しない脱硫剤の開発が望まれている。従来、フッ素を使用せずに脱硫剤の滓化を促進し、脱硫速度を高める方法としては、Al23或いはSiO2をCaOの滓化促進剤として利用した脱硫剤が数多く提案されている。
【0011】
例えば、特許文献3には、CaO、SiO2及びAl源を主成分とし、CaO/SiO2比が1.5〜3.5であり、Al源がCaO及びSiO2の合計含有量の0.03〜0.15の比率である溶銑の脱硫剤が開示されている。また、特許文献4には、CaO:30〜60質量%、MgO:3〜10質量%、Al23:25〜50質量%、SiO2:5〜15質量%の成分からなり、融点を1300〜1600℃とする、流動性に優れたカルシウムアルミネート系脱硫剤が開示されている。
【0012】
更に、特許文献5及び特許文献6には、CaOを主成分とする脱硫剤中に、酸化鉄(FeO)、Al源を含有させ、溶銑中の珪素をFeOで酸化させてSiO2を生成させ、且つAlをFeOと反応させることによってAl23を生成させ、生成するCaO−SiO2−Al23系の半溶融スラグにより溶銑を脱硫処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭52−42411号公報
【特許文献2】特開2006−257518号公報
【特許文献3】特開2000−313911号公報
【特許文献4】特開2002−60832号公報
【特許文献5】特開2003−253315号公報
【特許文献6】特開2006−161086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
【0015】
即ち、特許文献1及び特許文献2の脱硫剤は、CaF2を含む脱硫剤であり、スラグ中にフッ素が存在すると、スラグの水砕処理などの際に水にフッ素が溶出する。また、通常、スラグは路盤材、セメント原料などに利用されるため、スラグ中のフッ素が雨などにより水中に溶出し、溶出した水が土壌へと浸食して、先に記述したように環境に問題が生じる可能性がある。
【0016】
特許文献3による脱硫剤は、CaO/SiO2比が低いために、脱硫反応が現実的には促進しない可能性がある。また、特許文献4によるカルシウムアルミネート系脱硫剤は、脱硫剤の原料となる各種鉱物を所定の組成になるように混合し、これを電気炉などの溶解炉で溶解して製造することから、製造コストが増大するという問題が生じる。また、特許文献5及び特許文献6に開示された脱硫剤は、FeOが脱硫剤中に含有するため、該脱硫剤を溶融鉄へ添加した際、溶融鉄の酸素ポテンシャルが増大し、脱硫反応の進行を阻害する恐れが生じる。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、比較的簡便に製造可能で、特にフッ素を含有しなくても高効率で溶融鉄の脱硫処理を可能にする脱硫剤を提供するとともに、この脱硫剤を用いた溶融鉄の脱硫方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための第1の発明に係る脱硫剤は、CaOを主成分とする粉状の石灰と、溶鉱炉で溶銑を製造する際に副産物として生成されるスラグを固化させた後に粉砕処理することにより得られた固体粉状物質と、を混合することにより製造されたことを特徴とするものである。
【0019】
第2の発明に係る脱硫剤は、第1の発明において、前記固体粉状物質と前記石灰との配合質量比(固体粉体物質の配合量(質量%)/石灰の配合量(質量%))が0.05以上1.0以下であることを特徴とするものである。
【0020】
第3の発明に係る脱硫剤は、第1または第2の発明において、前記固体粉状物質の平均粒子径が15μm以下であることを特徴とするものである。
【0021】
第4の発明に係る脱硫剤は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が3.5以上であることを特徴とするものである。
【0022】
第5の発明に係る脱硫剤は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤はフッ素を含有しないことを特徴とするものである。
【0023】
第6の発明に係る脱硫剤は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、更に、脱酸のための金属物質を含有することを特徴とするものである。
【0024】
第7の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、処理容器内に保持された溶融鉄に、第1ないし第6の発明の何れか1つに記載の脱硫剤を添加し、溶融鉄を脱硫処理することを特徴とするものである。
【0025】
第8の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、第7の発明において、前記脱硫剤を、前記溶融鉄の浴面の上方から溶融鉄に上置き添加することを特徴とするものである。
【0026】
第9の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、第7の発明において、前記脱硫剤を、前記溶融鉄の浴面の上方に配置した上吹きランスを介して搬送用ガスとともに溶融鉄の浴面に向けて上吹き添加することを特徴とするものである。
【0027】
第10の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、第7の発明において、前記脱硫剤を、前記溶融鉄の浴中に浸漬させたインジェクションランスを介して搬送用ガスとともに溶融鉄中に吹き込み添加することを特徴とするものである。
【0028】
第11の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、第7ないし第10の発明の何れかにおいて、前記処理容器に保持された溶融鉄を、攪拌羽根によって攪拌しながら脱硫処理することを特徴とするものである。
【0029】
第12の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、第7ないし第11の発明の何れかにおいて、前記溶融鉄が溶銑であることを特徴とするものである。
【0030】
第13の発明に係る溶融鉄の脱硫処理方法は、第7ないし第11の発明の何れかにおいて、前記溶融鉄が溶鋼であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、CaOを主成分とする粉状の石灰に、一旦溶融した後に固化した、Al23及びSiO2を主に含有する固体粉状物質を加えたものを脱硫剤とするので、この固体粉状物質がCaOの融点を低下させてCaOの滓化を促進させ、フッ素を添加しなくても、高速且つ高効率の溶融鉄の脱硫処理が可能となる。これにより、脱硫処理時間の削減、脱硫剤原単位の削減が期待できる。更に、脱硫処理により生成されるスラグはフッ素を含有しないので、フッ素の環境への影響を考慮せずに、生成されるスラグをリサイクル使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】溶銑脱硫処理終了後のスラグ中の硫黄濃度の分布を示す概略図である。
【図2】脱硫実験装置の概略図である。
【図3】各試験水準における脱硫速度定数KSを比較して示す図である。
【図4】各種脱硫剤を使用したときの硫黄濃度の推移を比較して示す図である。
【図5】高炉スラグの混合比率を変化させたときの脱硫速度定数の値を示す図である。
【図6】高炉スラグ粒子の粒子径を変化させたときの脱硫速度定数の値を示す図である。
【図7】脱硫用フラックスの塩基度を変化させたときの脱硫速度定数の値を示す図である。
【図8】本発明を実施した機械攪拌式脱硫装置の概略図である。
【図9】本発明を実施したRH真空脱ガス装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。
【0034】
先にも述べたように脱硫速度を高める手段のひとつとして、脱硫剤の滓化を促進させ、スラグ側の物質移動を促進させる方法が挙げられる。ここで、実際の溶銑脱硫処理終了後のスラグ中の硫黄濃度の分布を図1に示す。図1に示すように、スラグはCaOの凝集体を形成し、硫黄は凝集したCaOの周辺に多く分布することが分る。このことから、脱硫処理中にスラグ表面に液相スラグを生成させるように、脱硫剤(以下、「フラックス」とも記す)の組成を制御し、且つ、スラグ表面における液相スラグ生成が容易となる条件を見出す必要がある。ホタル石(CaF2)はこれらの条件を満たし、且つ安価な物質であるが、前述のように環境問題の点からその使用が制限される。従って、CaF2を使用せずに溶銑処理温度の範囲で液相スラグの形成が望まれる。
【0035】
発明者等は、上記の点を考慮しつつ、調査を行った。その結果、CaO−Al23−SiO2の3元系スラグが比較的低融点組成を有することが分った。そこで、Al23及びSiO2を含有するCaO系フラックスの脱硫特性について小型溶解炉を用いて各種実験を行った。
【0036】
図2に、脱硫実験装置の概略図を示す。脱硫実験装置1では、高周波加熱コイル2に通電しつつ坩堝容器4に保持した溶銑6に攪拌羽根5を浸漬させ電動機3により回転撹拌を行い、そこに脱硫用のフラックスを添加した。実験に使用したフラックスの一覧を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
脱硫用フラックスとしては、石灰粉単体のもの(水準1)、試薬のAl23及びSiO2を質量比で1:1の割合で混合したものを、石灰に20質量%混合したもの(水準2)、Al23、SiO2を質量比で1:1の割合で混合したものを一度溶融させ、その後固化させた後に粉砕し、粉状にしたもの(以下、上記の処理を施したものを「プリメルト」と称する)を、石灰に20質量%混合したもの(水準3)の3種類を使用した。
【0039】
脱硫用フラックスの添加量は5kg/tとした。脱硫用フラックスの添加は処理前に一括して全量を添加した。所定時間毎に溶銑6のサンプリングを行い、脱硫挙動を調査した。実験結果から判断して脱硫速度を下記の(4)式に示す速度式と仮定し、実験結果に基づいて脱硫速度定数KS(1/min)を求めた。
【0040】
【数3】

【0041】
求めた各試験水準における脱硫速度定数KSを図3に示す。Al23及びSiO2をプリメルト処理した物質を混合したフラックス(水準3)で最も脱硫反応が促進した。
【0042】
そこで、本発明者等は、プリメルトであり、比較的容易に入手する物質を模索した結果、溶鉱炉で溶銑を製造する際に副産物として生成されるスラグ、即ち、高炉スラグに着目した。高炉スラグの組成の一例を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
高炉スラグはセメント用原料向けに冷却され、微粉末化されるものがある。この高炉スラグの粉末を20質量%の配合割合で石灰に混合して、前述した図2に示す脱硫実験装置を用いて脱硫実験を行った。その結果、図4に示すように高炉スラグを20質量%の配合割合で石灰に混合したフラックスにおいて、Al23及びSiO2のプリメルト処理したものを20質量%の配合割合で石灰に混合したフラックスと同等の脱硫速度が得られた。そこで、本発明者等はこの高炉スラグを混合したフラックスについて、更に実験、調査を行った。
【0045】
石灰への高炉スラグの混合比率を変化させて脱硫速度を調査した結果を図5に示す。図5に示すように、高炉スラグと石灰との配合質量比(高炉スラグの配合量(質量%)/石灰の配合量(質量%))が0.05〜1.0の範囲において脱硫速度定数KSが増加することが判明した。また、高炉スラグと石灰との配合質量比を一定とした条件下で、高炉スラグ粉末粒子の粒子径を変化させたフラックスを用いて脱硫速度を調査した。その結果を図6に示す。図6に示すように、高炉スラグ粉末粒子の粒子径が15μm以下のときに脱硫速度定数KSが増加することが分った。
【0046】
また、SiO2含有量の異なる高炉スラグを使用し、高炉スラグと石灰との配合質量比を変化させ、フラックスの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))を変更して脱硫速度を調査した。その結果を図7に示す。フラックスの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が3.5以上の領域で脱硫速度定数KSが大きく向上することが分った。
【0047】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであり、本発明に係る、高効率で溶融鉄の脱硫処理を可能にする脱硫剤は、CaOを主成分とする粉状の石灰と、Al23及びSiO2を主に含有し且つ予め溶融した後に固化した固体粉状物質と、を含有することを特徴とする。これは、プリメルトにより、純物質を混合した場合に比べて固体粉状物質の溶融温度が低下し、それに伴ってCaOを主成分とする石灰の溶融が促進され、その結果、脱硫スラグの表面に液相スラグが容易に形成されて、脱硫速度が向上するからである。尚、本発明において、Al23及びSiO2を主に含有する固体粉状物質とは、Al23及びSiO2をそれぞれ10質量%以上含有する粉状物質のことである。Al23及びSiO2が10質量%未満の含有量では、上記の効果を得ることが困難である。
【0048】
本発明に係る脱硫剤では、フッ素源がなくても、脱硫スラグ表面の液相生成が促進され、脱硫スラグ中の硫黄の拡散を著しく増大させるので、十分に脱硫反応が進行する。従って、蛍石を始めとするフッ素源(ハロゲン化物)は添加する必要がなく、環境対策からは添加しないことが好ましい。
【0049】
また、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質と、石灰との配合質量比(固体粉体物質の配合量(質量%)/石灰の配合量(質量%))は、前述した図5に示す結果のように、0.05〜1.0の範囲内にあることが好ましい。また、前記固体粉体物質と石灰とを混合した脱硫剤の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))は3.5以上とすることが好ましい。
【0050】
これは、脱硫剤の塩基度が3.5未満では、SiO2の含有量が増加するためにスラグの粘性が増加し、脱硫スラグの凝集が盛んになって反応界面積が低下することから好ましくない。更に、塩基度が3.0未満の低塩基度になると、脱硫スラグのサルファイドキャパシティーが低下し、液相生成による脱硫促進効果よりも脱硫用フラックスそのものの脱硫能が低下するので、好ましくない。尚、この塩基度が3.5の値は、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質と石灰との配合質量比が1.0の場合に相応する。
【0051】
一方、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質と石灰の配合質量比が0.05未満では、脱硫スラグの液相が少な過ぎて、スラグの凝集のみに作用し、結果的に石灰単体と同等の脱硫速度となるため、効果的ではない。
【0052】
本発明の脱硫剤では、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質の粒子径は15μmとすることが好ましい。これは粒子径を15μm以下とすることにより、溶融鉄中に添加したときに、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質の溶融が促進し、CaO凝集スラグの表面に液相スラグを短時間で形成することができるからである。このとき、凝集した脱硫スラグ表面の溶融スラグ相へCaOが溶解し、CaO濃度が飽和である溶融スラグ相を脱硫スラグ表面に形成する。この溶融スラグはCaOが飽和状態であるので、多少塩基度が低下しても脱硫能を維持することができる。逆に、粒子径が15μmを超えると溶融鉄中に添加したときの溶融速度が低下するため、液相スラグの形成が遅れ、本来プリメルトの固体粉状物質の有する脱硫速度の向上効果が低下することから好ましいとはいえない。
【0053】
本発明に係る脱硫剤は、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質を石灰に添加し、混合するという比較的簡便な手法で製造できるため、比較的低コストで製造することが可能である。尚、本発明において石灰に混合する、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉末状物質としては、高炉スラグに代表される鉄鋼スラグが望ましいが、鉄鋼分野以外の工業製品製造過程で発生する副生品やダスト、或いは廃棄物を有姿の状態、或いは粉砕、分級などの加工をして使用することもできる。当然ながら、珪石とボーキサイトとを混合したものを電気炉などで溶融して製造したものであっても構わない。但し、何れの場合も平均粒子径は先述の通り、15μm以下とすることが好ましい。
【0054】
また、本発明に係る脱硫剤に脱酸のための金属物質を添加しても構わない。脱酸のための金属物質を添加すると、溶融鉄の酸素ポテンシャルが低減するため、脱硫反応が促進されるからである。脱酸のための金属物質としては、Al、Si、Mgなどの元素を含有している金属或いは合金などを用いればよい。
【0055】
本発明に係る脱硫剤は、該脱硫剤を処理容器内に保持された溶融鉄に添加して溶融鉄中に含有する硫黄を除去するプロセスに適用できる。このとき、脱硫剤の添加方法としては、回転している溶融鉄浴面の上方から上置き添加することで十分脱硫処理することができる。また、溶融鉄の浴面上に上吹きランスを介して搬送用ガスとともに上吹き添加する方法でも十分適用できる。更に、溶融鉄中に浸漬させたインジェクションランスから搬送用ガスとともに溶融鉄中に吹き込んで添加する方法でもよい。尚、上吹きランスを用いた上吹き添加、インジェクションランスを介した吹き込み添加に使用する搬送用ガスとしては、窒素、アルゴンなどの不活性ガスやプロパンなどの還元性ガスなど、非酸化性ガスを用いるのが好ましい。
【0056】
本発明に係る脱硫剤を使用して脱硫処理を行う対象の溶融鉄は、溶銑及び溶鋼の何れの場合でも適用できる。特に溶銑の脱硫処理装置としては、インペラとも称する攪拌羽根を溶銑内に浸漬して回転させ、溶銑の攪拌を行う機械攪拌式脱硫槽値が、攪拌力が大きく反応速度が大きいことから好ましい。
【0057】
本発明に係る脱硫剤を製造するに当たり、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質と石灰とを単純に混合するのみで十分な脱硫効果が得られる。しかし、密閉の攪拌装置を有する混合器の中で両者を十分に混合して製造することが好ましい。これは攪拌機での混合により、物理的に石灰粒子の表面に、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質を付着させることができるため、溶融鉄へのフラックス添加と同時にAl23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質粒子の溶融が起こり、微細状態で固体CaO粒子の表面に溶融スラグ相を形成することが可能となる。その結果、液相生成の効果に加えて、反応界面積増大の効果が更に加わり、脱硫反応が更に向上するためである。
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、CaOを主成分とする粉状の石灰に、一旦溶融した後に固化した、Al23及びSiO2を主に含有する固体粉状物質を加えたものを脱硫剤とするので、この固体粉状物質がCaOの融点を低下させてCaOの滓化を促進させ、フッ素を添加しなくても、高速且つ高効率の溶融鉄の脱硫処理が可能となる。これにより、脱硫処理時間の削減、脱硫剤原単位の削減が期待できる。
【実施例1】
【0059】
本発明に係る脱硫剤を用いて、溶銑の脱硫処理を実施した例(本発明例)について示す。図8に、本発明を実施した機械攪拌式脱硫装置の概略図を示す。図8に示すように、機械攪拌式脱硫装置7において、溶銑搬送用の溶銑鍋8に保持した約300トンの溶銑6に攪拌羽根10を浸漬させ、脱硫剤13を、集塵フード11を貫通して設けた投入シュート12を介して溶銑浴面上に添加し、電動機9により攪拌羽根10を所定時間回転させ、溶銑6と脱硫剤13との回転撹拌を行った。また、投入シュート12を使用せずに、上吹きランス(図示せず)を用いて吹き付けて添加した脱硫処理も実施した。
【0060】
脱硫剤の原料としては、Al23及びSiO2を質量比で1:1の割合で混合したものを加熱炉で溶融して製造したAl23−SiO2系のプリメルトの固体物質(以下、「プリメルトフラックス」と記す)、高炉スラグ、及び、石灰を使用し、これらの原料をそれぞれ粉砕処理し、粉砕処理したものを混合機で混合して製造した。脱硫剤の添加量は5.0kg/tとした。また、比較のために本発明に係る脱硫剤とは異なる脱硫剤を用いた脱硫処理(比較例)も実施した。表3に、本発明例及び比較例における共通の脱硫処理条件を示す。
【0061】
【表3】

【0062】
また、表4に、本発明例及び比較例の実施条件の一覧を示す。
【0063】
【表4】

【0064】
本発明例1では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が20μmであるプリメルトフラックスを60質量%混合したものを用いた。脱硫剤の添加方法は溶銑浴表面上方からの一括添加とした。本発明例2では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が20μmであるプリメルトフラックスを30質量%混合したものを用いた。脱硫剤の添加方法は、本発明例1と同様に溶銑浴表面上方からの一括添加とした。本発明例3では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が10μmであるプリメルトフラックスを20質量%混合したものを用いた。脱硫剤の添加方法は、本発明例1と同様に溶銑浴表面上方からの一括添加とした。
【0065】
本発明例4では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が10μmである高炉スラグを、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質として20質量%混合したものを用いた。脱硫剤の添加方法は、本発明例1と同様に溶銑浴表面上方からの一括添加とした。本発明例5では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が10μmである高炉スラグを20質量%混合し、更に、脱酸用としてAl粉を3質量%添加したものを用いた。脱硫剤の添加方法は、本発明例1と同様に溶銑浴表面上方からの一括添加とした。本発明例6では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が10μmである高炉スラグを30質量%混合したものを用いた。脱硫剤の添加方法は、溶銑浴表面上に配した上吹きランス(図示せず)を介して、窒素ガスを搬送用ガスとして、1.0kg/min・tの添加速度で上吹き添加を行った。
【0066】
これに対し、比較例1では、脱硫剤としてCaO単体を用いた。脱硫剤の添加方法は溶銑浴表面上方からの一括添加とした。比較例2では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が20μmの珪石を20質量%混合したものを用いた。脱硫剤の添加方法は、溶銑浴表面上方からの一括添加とした。
【0067】
本発明例及び比較例ともに、処理前後の溶銑からサンプリングを行い、脱硫率を調査した。ここで、脱硫率は下記の(5)式で定義される値とした。
【0068】
【数4】

【0069】
本発明例及び比較例の実施結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
本発明例1〜3は比較例1よりも脱硫率が向上した。また、脱硫剤の添加歩留りも向上した。また、珪石を添加した比較例2と比べても、本発明例1〜3は脱硫率の向上並びに脱硫剤の添加歩留りの向上が確認された。ここで、プリメルトフラックスと石灰との配合質量比が1.0以上である本発明例1と、プリメルトフラックスと石灰との配合質量比が1.0以下、0.05以上である本発明例2とを比較すると、この配合比率を適正化した本発明例2の方が脱硫率が向上した。
【0072】
更に、プリメルトフラックスの平均粒径が20μmである本発明例2と、プリメルトフラックスの平均粒径が15μm以下である本発明例3とを比較すると、本発明例3の方が、より脱硫率が向上することを確認できた。
【0073】
同様に、平均粒径が15μm以下である高炉スラグを混合した本発明例4は、本発明例1〜3と同等以上の脱硫率を得て、比較例1,2に較べて大幅に脱硫率が向上した。また、脱酸用のAlを添加した本発明例5は、溶銑の酸素ポテンシャルが低下したため、本発明例4よりも更に脱硫率が向上した。また、脱硫剤の上吹き添加を行った本発明例6では溶銑内に直接脱硫剤粒子が進入するため、脱硫剤の添加歩留りが更に向上し、これにより、脱硫率は本発明例1〜5及び比較例1,2に比べて大きく向上した。
【実施例2】
【0074】
本発明に係る脱硫剤を用いて、溶鋼の脱硫処理を実施した例(本発明例)について示す。図9に、本発明を実施したRH真空脱ガス装置の概略図を示す。図9に示すように、RH真空脱ガス装置14において、溶鋼搬送用の取鍋18に保持した約300トンの溶鋼19を真空脱ガス処理する際に、真空槽15の内部に設けた上吹きランス17を介して真空槽内の溶鋼19の浴面に脱硫剤を吹き付けて脱硫処理した。図9中の符号16は浸漬管である。また、比較のために本発明に係る脱硫剤とは異なる脱硫剤を用いた脱硫処理(比較例)も実施した。表6に本発明例及び比較例における共通の脱硫処理条件を示す。
【0075】
【表6】

【0076】
また、表7に、本発明例及び比較例の実施条件及び実施結果を示す。
【0077】
【表7】

【0078】
本発明例7では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が20μmの高炉スラグを30質量%混合したものを用いた。本発明例8では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が10μmの高炉スラグを30質量%混合したものを用いた。一方、比較例3では、脱硫剤としてCaO単体を用い、比較例4では、脱硫剤としてCaO単体に平均粒径が20μmの珪石を20質量%混合したものを用いた。
【0079】
本発明例及び比較例ともに、処理前後の溶鋼からサンプリングを行い、脱硫率を調査した。ここで、脱硫率は上記の(5)式で定義される値とした。但し、この場合には(5)式の「溶銑中硫黄濃度」に代わって「溶鋼中硫黄濃度」となる。
【0080】
実施結果を上記の表7に併せて示す。実施結果は溶銑の脱硫処理の場合とほぼ同様であった。即ち、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質を混合した本発明例7,8は、比較例3よりも脱硫率が向上した。また、珪石を混合した比較例4と比べても、本発明例7,8は脱硫率の向上が確認された。また、Al23及びSiO2を含有するプリメルトの固体粉状物質の平均粒径が15μmを超えた本発明例7と平均粒径が15μm以下である本発明例8とを比較すると、本発明例8の方が脱硫率が向上した。
【符号の説明】
【0081】
1 脱硫実験装置
2 高周波加熱コイル
3 電動機
4 坩堝容器
5 攪拌羽根
6 溶銑
7 機械攪拌式脱硫装置
8 溶銑鍋
9 電動機
10 攪拌羽根
11 集塵フード
12 投入シュート
13 脱硫剤
14 RH真空脱ガス装置
15 真空槽
16 浸漬管
17 上吹きランス
18 取鍋
19 溶鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOを主成分とする粉状の石灰と、溶鉱炉で溶銑を製造する際に副産物として生成されるスラグを固化させた後に粉砕処理することにより得られた固体粉状物質と、を混合することにより製造されたことを特徴とする脱硫剤。
【請求項2】
前記固体粉状物質と前記石灰との配合質量比(固体粉体物質の配合量(質量%)/石灰の配合量(質量%))が0.05以上1.0以下であることを特徴とする、請求項1に記載の脱硫剤。
【請求項3】
前記固体粉状物質の平均粒子径が15μm以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の脱硫剤。
【請求項4】
前記脱硫剤の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が3.5以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の脱硫剤。
【請求項5】
前記脱硫剤はフッ素を含有しないことを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の脱硫剤。
【請求項6】
更に、脱酸のための金属物質を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の脱硫剤。
【請求項7】
処理容器内に保持された溶融鉄に、請求項1ないし請求項6の何れか1つに記載の脱硫剤を添加し、溶融鉄を脱硫処理することを特徴とする、溶融鉄の脱硫処理方法。
【請求項8】
前記脱硫剤を、前記溶融鉄の浴面の上方から溶融鉄に上置き添加することを特徴とする、請求項7に記載の溶融鉄の脱硫処理方法。
【請求項9】
前記脱硫剤を、前記溶融鉄の浴面の上方に配置した上吹きランスを介して搬送用ガスとともに溶融鉄の浴面に向けて上吹き添加することを特徴とする、請求項7に記載の溶融鉄の脱硫処理方法。
【請求項10】
前記脱硫剤を、前記溶融鉄の浴中に浸漬させたインジェクションランスを介して搬送用ガスとともに溶融鉄中に吹き込み添加することを特徴とする、請求項7に記載の溶融鉄の脱硫処理方法。
【請求項11】
前記処理容器に保持された溶融鉄を、攪拌羽根によって攪拌しながら脱硫処理することを特徴とする、請求項7ないし請求項10の何れか1つに記載の溶融鉄の脱硫処理方法。
【請求項12】
前記溶融鉄が溶銑であることを特徴とする、請求項7ないし請求項11の何れか1つに記載の溶融鉄の脱硫処理方法。
【請求項13】
前記溶融鉄が溶鋼であることを特徴とする、請求項7ないし請求項11の何れか1つに記載の溶融鉄の脱硫処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−193456(P2012−193456A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135332(P2012−135332)
【出願日】平成24年6月15日(2012.6.15)
【分割の表示】特願2007−71929(P2007−71929)の分割
【原出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】