説明

脱穀装置

【課題】手刈りした穀稈を手作業でフィードチェンの始端部に供給する際に、異物がフィードチェンに噛み込まれるのを防止する。
【解決手段】フィードチェン(14)を備えた脱穀下枠体(35)に対して、扱室(21a)およびフィードチェン(14)の上側に対向する挟扼杆(13)を備えた脱穀上枠体(34)を上下回動自在に取り付け、脱穀上枠体(34)を上昇側に付勢する付勢手段(36)を設け、付勢手段(36)による上昇付勢力に抗して脱穀上枠体(34)を下降位置に固定するロック機構(9)を設け、ロック機構(9)のロック状態を解除操作する安全レバー(28)がフィードチェン(14)の搬送方向(A)へ回動した場合に、ロック機構(9)のロック状態が解除されて脱穀上枠体(34)が上昇し、フィードチェン(14)の搬送作用域と挟扼杆(13)との間に隙間が形成される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等に備えられた脱穀装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自脱型コンバインによる収穫作業では、圃場の四隅などで手刈りした穀稈を、手作業でフィードチェンへ投入して脱穀する作業が行なわれており、この作業を手扱ぎ作業と呼んでいる。
【0003】
この手扱ぎ作業において、穀稈をフィードチェンへ供給する際に、このフィードチェンへ異物が噛み込まれる問題があり、この問題を解消するために、特許文献1に例示するような技術が試みられている。
【0004】
即ち、脱穀穀稈を搬送するフィードチェンに対して、このフィードチェンの搬送方向上流側に設けられ、作用位置と非作用位置とに切換える供給ガイドと、フィードチェンの搬送始端部の少なくとも横外側に配置され、上端がフィードチェンよりも低くなる非作用位置と上端がフィードチェンよりも上側に突出する作用位置とに位置変更可能に設けられた手扱ぎプレートとを備える。そして、供給ガイドを上方に回動してフィードチェンの搬送上流側を開放する非作用位置への位置変更にともない、手扱ぎプレートを作用位置に位置変更する連動機構を設けている。
【0005】
これにより、手扱ぎ作業を行うために、供給ガイドを非作用位置へ位置変更することによって手扱ぎプレートが自動的に作用位置へ位置変更されるので、作業者が供給ガイドを非作用位置に切換えずに手扱ぎ作業を行おうとした際、手扱ぎプレートが非作用位置のままであることで、手扱ぎ作業を牽制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−14287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の先行技術では、手扱ぎ作業を開始する準備の段階で所定の準備操作をしなければ、手扱ぎプレートがフィードチェンへの穀稈の供給を遮って手扱ぎ作業が行えなくなる。
従って、所定の準備操作を行った後には、作業者が刈り取った穀稈を手作業でフィードチェンの始端部に供給できるようになるが、この手作業によるフィードチェンへの穀稈供給時に、穀稈と共に異物がフィードチェンと挟扼杆との間に噛み込まれる問題を解消できるものではない。
【0008】
本発明は、手扱ぎ作業時に、異物がフィードチェンと挟扼杆との間に噛み込まれたまま搬送されることを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、フィードチェン(14)を備えた脱穀下枠体(35)に対して、扱胴(21)を備えた扱室(21a)および前記フィードチェン(14)の上側に対向する挟扼杆(13)を備えた脱穀上枠体(34)を上下回動自在に取り付け、該脱穀上枠体(34)を上昇側に付勢する付勢手段(36)を設け、該付勢手段(36)による上昇付勢力に抗して脱穀上枠体(34)を下降位置に固定するロック機構(9)を設けた脱穀装置において、前記ロック機構(9)のロック状態を解除操作するレバー(28)を脱穀上枠体(34)または脱穀下枠体(35)におけるフィードチェン(14)側の部位に設け、該レバー(28)がフィードチェン(14)の搬送方向下手側へ回動した場合に、前記ロック機構(9)のロック状態が解除されて脱穀上枠体(34)が上昇し、フィードチェン(14)の搬送作用域と挟扼杆(13)との間に隙間が形成される構成としたことを特徴とする脱穀装置とする。
【0010】
この構成で、コンバインの傍らに立った作業者が刈り取った穀稈を手作業でフィードチェン(14)の始端部に供給する手扱ぎ作業を行っている際に、このフィードチェン(14)と挟扼杆(13)との間に異物が噛み込まれた場合、または異物が噛み込まれようとした場合に、作業者がレバー(28)をフィードチェン(14)の搬送方向下手側へ操作すれば、脱穀上枠体(34)が脱穀下枠体(35)から浮き上がり、挟扼杆(13)がフィードチェン(14)から離れて、異物をフィードチェン(14)側から引き離すことが出来るようになる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記レバー(28)に、該レバー(28)の外側方へ張り出すアーム(28a)を設けた請求項1に記載の脱穀装置とした。
この構成で、異物がフィードチェン(14)に引き込まれて作業者が搬送方向へ移動すると、アーム(28a)が作業者の身体に触って解除レバー(レバー)(28)を搬送方向(A)へ回動して脱穀上枠体(34)を脱穀下枠体(35)から浮き上がらせることで挟扼杆(13)がフィードチェン(14)から離れて、異物をフィードチェン(14)から引き離すことが出来る。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記ロック機構(9)のロック状態の解除と共に扱胴(21)の駆動が停止する構成とした請求項1または請求項2に記載の脱穀装置とした。
この構成で、解除レバー(レバー)(28)が回動されてロック機構(9)が解除されると、扱胴(21)の駆動が停止するので、異物をフィードチェン(14)から引き離すことが遅れても安全である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記レバー(28)がフィードチェン(14)の搬送方向下手側へ回動した場合に、エンジン(E)の駆動が停止する構成とした請求項1または請求項2または請求項3に記載の脱穀装置とした。
【0014】
この構成で、異物がフィードチェン(14)に引き込まれた際に解除レバー(レバー)(28)をフィードチェン(14)の搬送方向Aへ回動すると、コンバインの回転各部が停止するので、より安全である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、手扱ぎ作業中に穀稈と共に異物がフィードチェン(14)と挟扼杆(13)との間に噛み込まれた場合、または噛み込まれようとした場合に、作業者がレバー(28)を操作すれば、脱穀上枠体(34)が脱穀下枠体(35)から浮き上がり、挟扼杆(13)がフィードチェン(14)から離れるので、異物をフィードチェン(14)から引き離すことができる。しかも、この際にレバー(28)をフィードチェン(14)の搬送方向下手側に操作するため、手扱ぎ作業中の作業者にとって操作性が高まる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加え、レバー(28)の外側方へ張り出すアーム(28a)によって、緊急時の操作性を向上させることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1または請求項2記載の発明の効果に加え、レバー(28)の操作によって扱胴(21)の回転も停止することで、異物の損壊等を来たしにくくなる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、上記請求項1または請求項2または請求項3記載の発明の効果を奏するうえに、レバー(28)の操作によってエンジン(E)の駆動も停止するので、異物の損壊等を更に来たしにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】コンバインの全体側面図である。
【図2】脱穀装置の上面図である。
【図3】脱穀装置の拡大上面図である。
【図4】一部の拡大側面図である。
【図5】脱穀装置の要部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
なお、本明細書では左側及び右側とはコンバインが前進する方向に向かっての方向を言い、前側と後側はそれぞれコンバインの前進側と後進側を言うものとする。
【0021】
図1に示すコンバイン1の全体図において、走行フレーム2の下部には、ゴムなどの可撓性材料を素材として無端帯状に成型した左右一対のクローラ4を持ち、乾田はもちろんのこと、湿田においてもクローラ4が若干沈下するだけで自由に走行できる構成の走行装置3を備え、走行フレーム2の前部には刈取装置6を搭載し、走行フレーム2の上部にはエンジンEならびに脱穀装置15、操縦席20およびグレンタンク30を搭載する。
【0022】
刈取装置6は、図示しない刈取昇降シリンダの伸縮作用により刈取装置6全体を昇降して、圃場に植生する穀稈を所定の高さで刈取りができる構成としている。刈取装置6の前端下部に分草具7を、その背後に傾斜状にした図示しない穀稈引起し装置を、その後方底部には刈刃5を配置している。刈刃5と脱穀装置15のフィードチェン14の始端部との間に、前部搬送装置と供給搬送装置などを、順次穀稈の受継搬送と扱深さ調節とができるように配置している。
【0023】
コンバイン1の刈取装置6の作動は次のように行われる。まず、エンジンEを始動して主変速レバー10をコンバイン1が前進するように操作し、刈取レバーで刈取クラッチを入り操作し、また脱穀レバーで脱穀クラッチを入り操作して機体の回転各部を駆動しながら、走行フレーム2を前進走行させると、刈取作業や脱穀作業が開始される。
【0024】
圃場に植立する穀稈は刈取装置6の前端下部にある分草具7によって分草作用を受け、次いで穀稈引起し装置の引起し作用によって倒伏状態にあれば直立状態に引起こされ、穀稈の株元が刈刃5に達して刈取られ、前部搬送装置に掻込まれて後方に搬送され、供給搬送装置に受け継がれて順次連続状態で後部上方に搬送される。
【0025】
さらに、穀稈は供給搬送装置からフィードチェン14と挟扼杆13の始端部に受け継がれ、脱穀装置15に供給される。
脱穀装置15には、上側に扱胴21を軸架した扱室21aを配置し、扱室の下側に選別室を設け、供給されて搬送方向Aに移送される刈取穀稈の穂先を脱穀して選別する。
【0026】
脱穀装置15に供給された穀稈の穂先側は、扱室に送られて脱穀され、比重の重い穀粒は一番揚穀筒16を経てグレンタンク30へ搬送され、グレンタンク30に一時貯留される。
【0027】
脱穀装置15の扱室の終端に到達して脱穀された残りの穀稈は図示しない排藁チェンと排藁穂先チェンに挟持されて搬送され、脱穀装置15の後部の藁用カッター(図示せず)に投入された後、切断され、圃場に放出される。
【0028】
グレンタンク30内の穀粒は、縦オーガ18および横オーガ19で搬送されて、横オーガ19の排出口からコンバイン1の外部に排出する。
図2は脱穀装置15の正断面図を示し、扱胴21を軸支した扱室21aを形成する脱穀上枠体34を、脱穀下枠体35の上部にヒンジ32で回動自在に連結し、脱穀下枠体35側の下枠ピン26に対して脱穀上枠体34の枠フック25を係合するロック機構9を設け、該ロック機構9によって脱穀上枠体34を脱穀下枠体35に固定する。また、脱穀下枠体35と脱穀上枠体34の間に第一ダンパ(付勢手段)36を設けて脱穀上枠体34を上方へ付勢している。
【0029】
枠フック25は下支軸23に第一トーションバネ24で下枠ピン26に係合するように付勢している。枠フック25の下枠ピン26と係合する部分と反対側には開閉ロッド27を連結し、この開閉ロッド27は脱穀上枠体34を横切ってフィードチェン14側の側面から外に突出させて端部を後方へ向けて折り曲げている。
【0030】
開閉ロッド27の突出端部を押える解除レバー(レバー)28を脱穀上枠体34の側面にレバー支軸29で回動可能に設けている。解除レバー28は一端に押えカム部28cを形成し、他端に操作部28bを形成している。下側の操作部28bを後方すなわちフィードチェン14の搬送方向Aへ回動させると、解除レバー28の押えカム部28cによって開閉ロッド27が機体内側に向けて押し込まれ、枠フック25が第一トーションバネ24の付勢力に抗して回動し、下枠ピン26と枠フック25の係合が外れる。すると、脱穀下枠体35と脱穀上枠体34の間に備える第一ダンパ36が伸長して脱穀上枠体34を少し浮き上がらせるようになる。
【0031】
脱穀下枠体35にフィードチェン14を装着し、脱穀上枠体34に挟扼杆13を装着しているので、作業用具が穀稈と共にフィードチェン14に引き込まれようとする緊急時に解除レバー28の下側を後方すなわちフィードチェン14の移送方向へ回動すると、ロック機構9のロックが外れて脱穀上枠体34がヒンジ32のヒンジピン33を中心に上方へ浮き上がって挟扼杆13がフィードチェン14から離れて挟持力が無くなって、作業者が、引き込まれた作業用具(異物)を引き抜くことが可能になる。
【0032】
解除レバー28の操作部には、接触アーム(アーム)28aを側方へ突出し、搬送方向Aに移動する作業者の身体がこの接触アーム28aに触って後方へ回動するようにしている。
【0033】
なお、解除レバー28の後方回動に伴ってエンジンEを停止するようにすれば、フィードチェン14の駆動が停止するので、より安全である。
別実施例として、緊急停止スイッチと扱胴開閉ボタンを設け、脱穀下枠体35と脱穀上枠体34を連結する油圧シリンダを設け、緊急停止スイッチを押すと油圧シリンダが少し伸びて脱穀上枠体34が少し開き、扱胴開閉ボタンを押すと油圧シリンダが全ストローク伸びて脱穀上枠体34を全開にするようにしても良い。
【0034】
脱穀上枠体34の上部には扱胴カバー10を、前述のヒンジピン32と同軸のカバー軸8で枢支し、前記解除レバー28の上側に前後方向に設ける上支軸11にレバープレート16とカバーフック38を固着し、該カバーフック38が脱穀上枠体34に設ける上枠ピン37に係合するように第二トーションバネ12で上支軸11を回動付勢している。そして、レバープレート16に固着の取手17を扱胴カバー10の側面から外側に突出し、この取手17を上方へ押し上げるとカバーフック38が上枠ピン37から外れて扱胴カバー10を上方へ開くことが出来る。
【0035】
なお、取手17に下向きの補助取手を設けて、この補助取手を握って手前に引きながら取手17を上方へ回動するようにしても良い。
別実施例として、扱胴カバー10上に手扱ぎ作業中の作業者を監視するビデオカメラやサーモグラフィを設置し、画像分析処理によって作業者が手扱ぎ位置から後方へ所定時間移動したことを判定すると、電動の脱穀クラッチを切ったり、フィードチェン14の駆動クラッチを切ってエンジンEを停止したりすることで、フィードチェン14に巻き込まれた脱穀装置15への異物の混入を防止するようにしても良い。
【0036】
さらに、別実施例として、手扱ぎ時に収納位置から引き出す緊急停止レバーを設け、作業者が手で握っている作業用具が、フィードチェン14に巻き込まれると身体が緊急停止レバーに接触することで、エンジンEを停止したり、電動の脱穀クラッチを切ったり、フィードチェン14の駆動クラッチを切ってエンジンEを停止したりするようにしても良い。
【符号の説明】
【0037】
9 ロック機構
13 挟扼杆
14 フィードチェン
15 脱穀装置
21 扱胴
28 解除レバー(レバー)
28a 接触アーム(アーム)
34 脱穀上枠体
35 脱穀下枠体
36 第一ダンパ(付勢手段)
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードチェン(14)を備えた脱穀下枠体(35)に対して、扱胴(21)を備えた扱室(21a)および前記フィードチェン(14)の上側に対向する挟扼杆(13)を備えた脱穀上枠体(34)を上下回動自在に取り付け、該脱穀上枠体(34)を上昇側に付勢する付勢手段(36)を設け、該付勢手段(36)による上昇付勢力に抗して脱穀上枠体(34)を下降位置に固定するロック機構(9)を設けた脱穀装置において、前記ロック機構(9)のロック状態を解除操作するレバー(28)を脱穀上枠体(34)または脱穀下枠体(35)におけるフィードチェン(14)側の部位に設け、該レバー(28)がフィードチェン(14)の搬送方向下手側へ回動した場合に、前記ロック機構(9)のロック状態が解除されて脱穀上枠体(34)が上昇し、フィードチェン(14)の搬送作用域と挟扼杆(13)との間に隙間が形成される構成としたことを特徴とする脱穀装置。
【請求項2】
前記レバー(28)に、該レバー(28)の外側方へ張り出すアーム(28a)を設けた請求項1に記載の脱穀装置。
【請求項3】
前記ロック機構(9)のロック状態の解除と共に扱胴(21)の駆動が停止する構成とした請求項1または請求項2に記載の脱穀装置。
【請求項4】
前記レバー(28)がフィードチェン(14)の搬送方向下手側へ回動した場合に、エンジン(E)の駆動が停止する構成とした請求項1または請求項2または請求項3に記載の脱穀装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−9653(P2013−9653A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145976(P2011−145976)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】