説明

膜の製造方法及び得られた膜

【課題】ポリマー溶液からの微孔質膜の製造方法及び得られた膜を提供する。
【解決手段】相分離を生じない条件下でポリマー溶液のフイルム、チューブまたは中空糸を成形することによりポリマー溶液を成形後、前記溶液の加熱等の熱アシストを生起し得る。好ましい実施態様では、形成した溶液の本体に温度勾配を生ずるように該形成溶液を短時間加熱する。次いで、溶解しているポリマーを沈降させて細孔構造物を製造する。この方法を用いて、各種の対称性及び非対称性構造物が製造され得る。加熱ステップ中の温度が高い及び/または加熱時間が長いと、最終膜生成物の孔径が大きくなり、異なる孔勾配が生ずる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔径及び構造がコントロールされている非対称性微孔質膜の製造方法及びこうして製造された膜に関する。より具体的には、本発明は、その後の相分離ステップにおいて形成される所定の膜構造を誘導するようなコントロール条件下で選択的に加熱したポリマー溶液からの前記微孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半結晶ポリマーを主成分とする微孔質膜は既に製造されている。市販されている前記ポリマー膜の多くは対称性である。微孔質膜の製造は、例えばPVDF膜に関しては米国特許第4,208,848号明細書、ポリアミド膜については米国特許第4,340,479号明細書に記載されている。前記製造方法は、a)特定の十分にコントロールされたポリマー溶液を調製するステップ、b)前記ポリマー溶液を仮支持体上に注型するステップ、c)生じたポリマー溶液のフィルムを非溶媒中に浸漬し、凝固させるステップ、d)前記の仮支持体を除去するステップ、及びe)生じた微孔質膜を乾燥するステップを含むと包括的に記載されている。
【0003】
上記のポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜は、対称性微孔質膜を形成し得る特定凝固剤(例えば、アセトン−水混合物、IPA−水混合物またはメタノール)中でラッカーを注型することにより製造されている。対称性ポリアミド膜に関しても同様の方法が使用されている。従来技術の方法では、半結晶性ポリマーを使用すると主に対称性膜が形成される。半結晶性ポリマーから製造される膜は固有の特性を有し、よって注型前のポリマー溶液の熱履歴が膜性能に対して重大な影響を与える。一般的に、溶液を加熱する最高温度が高いほど得られる微孔質膜の定格孔径は大きくなる。孔径をコントロールする1つの方法では、ポリマー溶液を一般的な撹拌機付き製造タンクまたは類似の容器において比較的低温で調製した後、所望の最高温度に例えば加熱ジャケットを用いて加熱する。従って、ラッカー履歴が変動すると方法の収率が低下する。大量の粘性溶液の熱履歴を細かくコントロールすることは困難であることは分かっている。加工しようとするポリマー溶液の熱履歴をうまくコントロールするためにインライン加熱・冷却処理が時々使用されている。インライン方法はパイプラインを通って輸送しているときに溶液を加熱する手段を要し、加熱する溶液の有効質量が低下する。インライン加熱では加熱接触時間は短くしなければならないために、加熱処理を均一とするためには十分な混合が必要である。バルク中均一な熱履歴を有する溶液から製造した膜は対称性膜となる傾向にある。
【0004】
微孔質膜は対称性または非対称性として記載されている。対称性膜は、膜を通じて平均孔径が実質的に同一であることを特徴とする孔径分布を有する多孔質構造を有する。非対称性膜では、平均孔径は膜を通じて変化し、通常片面から他面に向かって増加している。他のタイプの非対称性も公知である。例えば、膜の途中の場所の孔径が最小で、そこから孔径が増加している膜も公知である。非対称性膜は、定格孔径及び厚さが同じ対称性膜に比して高いフラックスを有する傾向にある。また、プレ濾過効果を生ずるように濾過しようとする流体流と面する側の孔径が大きい非対称性膜を使用し得ることも公知である。
【0005】
当業者は、半結晶性ポリマーから非対称性膜を製造するための複雑な方法を開発した。PVDF膜は熱誘導相分離(TIPS)により製造されており、ここでは均質なポリマー溶液の押出フィルム、チューブまたは中空糸の温度を低温に急冷して相分離を誘導している。TIPSにより製造したPVDF膜の例は米国特許第4,666,607号明細書、同第5,013,339号明細書及び同第5,489,406号明細書に記載されている。これらの方法は高温及びスクリュー押出機を必要とし、このため方法がより複雑となっている。
【0006】
Wrasidloの米国特許第4,629,563号明細書は、スキン層が比較的に密で厚く、その下の孔径が段階的に変化していることを特徴とする非対称性膜を開示している。対向する表面の孔径の比は10から20,000倍であると規定されている。この方法では、「不安定な液体分散液」を使用しなければならない。前記分散液を使用すると全方法に亘って利用可能なコントロールが少なくなる。
【0007】
米国特許第4,933,081号明細書及び同第5,834,107号明細書は、高フラックス特性を有する微孔質膜を製造するためにPVDF膜を製造するために湿潤空気をPVDF−PVP溶液に露出させることを開示している。米国特許第4,629,563号明細書に教示されているような類似の湿潤空気露出法を用いることにより、Wrasidlo特許とは幾つかの若干であるが明確に重大な違いが生ずる。前記特許明細書は、ラッカー組成及び湿潤空気の露出の相違より構造が大きく変化することを教示している。米国特許第4,933,081号明細書では、微孔質表面から粗孔質表面のラインに沿って孔の平均直径が低下する砂時計多孔質構造を有する膜を製造している。その後、孔径は同一ラインに沿って再び増加している。いずれの方法も湿潤空気−ポリマー溶液の接触時間、湿潤空気の速度、温度及び湿度を更にコントロールする必要があり、よって方法がより複雑となる。
【0008】
更に、米国特許第5,834,107号明細書は、微孔質表面から粗孔質表面へと孔径が段階的に変化する構造物を記載している。構造物はすべて膜の粗表面近くの膜の部分に幾つかの大きな開放容積を有している。この特許明細書では、前記構造物はフィラメント状ウェブと定義されている。大きな開放容積は巨孔とは元々異なるが、大きな開放容積により膜使用時に同様の機械的欠損が生じる恐れがあり、従って高い一体性が必要とされる用途では望ましくない。流路の直径が微孔質膜により濾過される典型的な溶質または粒子を保持するには余りに大きいので、大きな開放容積が存在していることは保持の点で有利でない。加えて、上記方法は常にラッカー中に高分子量の添加剤を使用し、湿潤空気を露出している。
【0009】
米国特許第6,013,668号明細書は、密接に配列した連続ポリマー粒子の密な列を含む等方性構造を有すると見られるPVDF膜の製造を開示している。構造物の一部は所謂球状クレータにより特徴づけられる。前記構造物は機械的に弱い傾向にある。
【0010】
米国特許第5,626,805号明細書及び同第5,514,461号明細書は、ポリマー溶液のフィルムの両側を異なる時間フレームで異なる過飽和を生じさせる異なる速度で急冷する複雑な熱誘導相分離方法(TIPS)を開示している。熱急冷方法では、一方の表面の断面がビーズ様開放構造、他方の表面の断面がリーフ状のより密な構造により特徴づけられる非対称な構造が形成され得る。しかしながら、フラックスを改良するためには、両表面の孔径が大きくても孔径を膜を通じて変化させても不十分である。
【0011】
米国特許第5,444,097号明細書は、高フロー膜を製造するための熱誘導相分離を開示している。この方法では、ポリマー溶液をその下限溶解温度(LCST)より高い温度に加熱することにより相分離を生じさせている。LCSTは、溶液の相分離のためにポリマー溶液が曇るようになる温度である。ポリマー濃度に対する曇点温度の曲線の最小ポイントを下限溶解温度と称する。この方法は、下限溶解温度(LCST)により特徴づけられるポリマー溶液に対してかなり特異的である。この方法では、ポリマー溶液をLCSTを越える所望の温度に維持しなければならない。最終の孔径が所望の孔径と変わらないように所望温度の上または下の狭い温度範囲に所望温度を維持しながら溶媒含有溶液を工程の加熱領域から浸漬領域に輸送しなければならないので、これは方法をより複雑とする。
【0012】
従って、膜の厚さを通じて孔径が変化している非対称性多孔質構造を有する微孔質膜を製造するための簡単で、容易にコントロールされる方法を提供することが望ましい。
(発明の要旨)
【0013】
本発明は、ポリマー溶液からの微孔質膜の製造方法を提供する。得られる膜の孔径が半結晶性ポリマー溶液が到達する最高温度によりコントロールされることは公知であるが、驚くことに、本発明では加熱のような短時間の熱アシストにより、成形されたポリマー溶液の厚さの少なくとも一部に温度勾配が生ずるように該ポリマー溶液の時間を従来技術で教示されているよりもかなり短くしても非対称性及び孔径がコントロールされた膜が得られることが知見された。コントロールされた孔径を有する対称性膜は、成形された溶液の厚さを通じて均一な温度に熱アシスト(例えば、成形された溶液の加熱)により製造され得る。
【0014】
熱アシストは、成形された溶液の厚さにわたる熱の適用である。熱アシストは、成形された溶液の表面を加熱したり、成形された溶液の片側を加熱すると共に予め、同時にまたはその後にその溶液の他側を冷却することにより達成され得る。片側を冷却し、他側を加熱することによっても、熱アシストは達成され得る。
【0015】
本発明の方法では、ポリマー溶液は相分離を防止する条件下で熱アシストされる。ポリマー溶液を成形(例えば、ポリマー溶液のフィルム、チューブまたは中空糸を形成)した後ポリマー溶液を熱アシストしてもよい。便宜上フィルムまたはシート膜に関連して本発明を説明するが、これらに限定されない。好ましい実施態様では、成形された溶液を短時間熱アシストしてこの成形された溶液の本体に温度プロフィールを生じさせる。次いで、溶解しているポリマーを沈降させて、例えばポリマーに対する溶媒でない浴に浸漬させるかまたは溶媒を蒸発させることにより微孔質構造物を形成する。前記した浸漬または蒸発のステップは場合により相分離の前またはその間に湿潤空気との接触と組合せてもよい。熱アシストステップ中の温度を高くしたり及び/または時間を長くすると、最終膜製品により大きな孔径及び異なるプロフィールが生ずる。
【0016】
1つの好ましい実施態様では、熱アシストステップにより成形されたポリマー溶液に温度勾配が生じ、これにより非対称性膜が製造される。
【0017】
好ましい熱アシストは加熱による。加熱を実施すると、成形されたポリマー溶液フィルムの本体に均一な温度勾配が生じ得、その後の相分離ステップで非対称性膜が製造され得る。
【0018】
成形されたポリマー溶液フィルムの本体中の容量エレメントを最高温度で保持する時間の長さも最終構造物に影響を及ぼす。従って、本発明は全熱アシスト時間及び成形されたポリマー溶液フィルムの少なくとも一部に生じた熱勾配のコントロールを開示する。
【0019】
本発明の方法により製造した微孔質構造物はスキン層を有していてもいなくてもよく、対称でも非対称でもよい。本発明の方法により製造した微孔質構造物には、膜の平均孔径よりも実質的に大きい巨孔が存在しない。本明細書中、用語「巨孔」は残渣を生じるように機能しないほど十分大きい膜中の孔を指す。更に、本発明の構造物には濾過を非効率とする従来技術のフィラメント状ウェブも存在しない。
【0020】
加えて、少なくとも1層が本発明の熱アシスト法により形成されている2層以上の複合構造物を製造し得る。
【0021】
更に、前記熱アシストは方法の条件に応じて異なる孔径を有する対称性膜を製造するためにも使用され得る。
【0022】
(図面の簡単な説明)
図1は本発明の方法を実施する際に有用な装置の側面図である。
図2は本発明の膜のバブルポイント対空気フラックスのグラフである。
図3は本発明の非対称性微孔質膜の断面の写真である。
図4は図3の膜の上面の写真である。
図5は図3の膜の底面の写真である。
【0023】
(特定の実施態様の説明)
本発明は、熱プロフィールがコントロールされている成形されたポリマー溶液からの多孔質ポリマー構造物の製造方法に関する。本発明者は、相分離ステップ前に半結晶性ポリマーの成形溶液にコントロールされた温度勾配を生じさせることにより、コントロールされた孔径勾配を有する構造特徴を有する多孔質構造物を製造することができることを知見した。熱ステップに続いてポリマーを沈降させ、熱ステップの前及びその間沈降を避けることが必須である。
【0024】
本発明の方法により、異なる対称性を有する膜が製造され得る。非対称性は、多孔質構造物の厚さ方向で平均孔径が変化していることを指す。シートの場合、非対称性はシートの片側から他側までの厚さを横断して平均孔径が変化していることを指す。中空糸膜の場合、非対称性は内径から外径まで(または、その逆)の厚さを横断して平均孔径が変化していることを指す。非対称性は単調であり得、すなわち平均孔径が厚さを通じてコンスタントに増加していてもよい。非対称性は、厚さを通じて平均孔径が最小値に減少した後増加する砂時計プロフィールを有していてもよい。別の非対称性は煙突に似ており、単調に増加する非対称部分に隣接して対称部分を有している。
【0025】
本発明の方法は、1つ以上のポリマーの溶液の調製;前記溶液の成形物体への成形;成形した溶液に熱アシストを加えて前記の成形溶液の厚さの少なくとも一部に温度プロフィールの生成;相分離ステップによる多孔質構造物の製造を含む。
【0026】
ポリマー溶液は、少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの該ポリマーに対する溶媒から構成される。前記溶液に該ポリマーに対する貧溶媒または非溶媒である成分を1つ以上配合してもよい。前記成分は時に当業界では「孔形成剤(porogens)」と呼ばれている。均質な溶液は、場合により該ポリマーに対する非溶媒である成分を1つ以上含み得る。ポリマー溶液は経時的に安定であるか(良好な溶媒性)または経時的に準安定性であり得る。前記溶液はまた潜在的に下限溶解温度及び上限溶解温度を有し得る。前記溶液の成分の例は当業界で公知であり、可能なすべての成分を網羅する必要はない。本発明において有用なポリマーの例にはポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンのブレンド(例えば、ポリビニルピロリドンとのブレンド)、ポリフッ化ビニリデンコポリマー、各種ポリアミド(例えば、ナイロン66を含めた各種ナイロン)が含まれるが、これらに限定されない。使用される溶媒の例にはジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラメチルウレア、アセトン、ジメチルスルホキシドが含まれる。多数の孔形成剤、例えばホルムアミド、各種アルコール及び多価化合物、水、各種ポリエチレングリコール、各種塩(例えば、塩化カルシウム及び塩化リチウム)が当業界で使用されてきた。
【0027】
ポリマー溶液は、熱アシストステップにおいて加えられる温度以下に温度を冷却手段によりコントロールするように注意しながら、公知方法に従って密閉容器において混合することにより調製される。場合により、前記溶液を溶液成形ステップ前に濾過してもよい。
【0028】
生じた均質溶液は注型、コーティング、スピニング、押出等の当業界で公知の方法を用いて所望の形態に成形される。ブロック、円筒、フラットシート、中空管、充実または中空糸のような製造しようとする所望形態の最終製品を得るために溶液を成形する。例えば、シートを成形するためには、Leos J.Zeman及びAndrew L.Zydney,「微細濾過及び限外濾過の原理及び実地(Microfiltration and Ultrafiltration Principles and Practice)」,Marcel Dekker(1996年)発行に記載されているようにナイフコーター、スロットコーターまたはLFCコーターを使用し得る。中空糸は環状押出ダイを用いて成形され得る。
【0029】
好ましいモードでは、成形された溶液の厚さに温度勾配を生じさせるために該溶液を短時間加熱する。ウェブのような支持体上に担持させたシートの場合、支持体を加熱ロッドまたは他の加熱物と接触させることにより片側を短時間加熱する。成形された溶液が熱平衡に達せず、非加熱側は加熱側の温度に達しないように加熱を実施する。別のモードでは、所望の温度勾配が得られるように片側または他方側を加熱するために赤外ヒータを使用してもよい。得られる膜の厚さ内に最小孔径の領域が存在する「砂時計」様非対称性を与えるように各表面から勾配を生じさせるために加熱方法の組合せを使用することも考えられ得る。別のモードでは、対称性構造物を所望するならば、成形溶液を熱平衡まで加熱する。この場合温度勾配は残っていない。
【0030】
成形したポリマー溶液の少なくとも一部を加熱する温度及び加熱時間は、ポリマー溶液を調製するために使用するポリマー及び溶媒/孔形成剤並びに方法により生ずる膜の所望孔径に依存する。当業者は、溶液の最高温度と得られる膜の最終孔径の関係を予め調べている。成形溶液の少なくとも片側を加熱し得る最低温度は、溶液がその前のステップで達した最高温度と同じまたはそれ以上に制限される。当業者は、その温度以上に加熱しても孔径が殆ど増加しない温度を分かっている。この温度範囲で、当業者は成形溶液の少なくとも片側を加熱する温度及び熱接触時間をコントロールすることにより孔径及び非対称性を変えることができる。
【0031】
処理温度だけでなく、溶液がその温度に保持されている時間が孔径に影響を与える。ある温度に保持されている時間が長くなると、影響は強くなり、通常孔径は大きくなる。温度勾配も減少する。従って、加熱源と接するフィルムの表面は加熱源と離れている反対側とは異なる温度を有する。フイルムを通じて温度勾配が生じ、温度勾配の孔径に対する影響は勾配の相対的傾斜及びフィルム厚さの各部分がある温度に保持されている時間に依存する。従って、加熱源温度、加熱適用時間、成形ポリマー溶液の厚さ及び溶液の特性(例えば、熱キャパシティー及び粘度)をコントロールすることにより、本発明の膜の特性を変更することができる。
【0032】
通常、本発明の非対称性膜は膜の所与の口径レーティングで高いフラックスにより特徴づけられる。このことは、幾つかの膜の使用中濾過処理時間を短縮するために望ましい。これに関連して、孔径が若干勾配していると微細質膜の濾過粒子の保持能力が高くなる。処理条件を僅か変化させることにより、同一ラッカーを用いて、ほぼ同一の孔径を有するが透過性が異なる非対称性膜が製造され得る。よって、特定層の孔径は類似しているが対称性の異なる構造物が提供される。本発明の方法によると、孔径に関係なく非対称性の異なる微孔質膜が提供され得る。本発明の微孔質対称性/非対称性膜は通常0.02〜10ミクロンの範囲の平均孔径を有している。
【0033】
本明細書に記載されている本発明の方法は、広範囲の非対称性構造物を製造するものとして意図され得る。成形溶液の厚さを通じて温度勾配を均一とするために熱アシストを実施するならば、生じた膜は熱アシストを加えた側の孔径が最大であって孔径がほぼ一定の勾配を有する。厚さの一部のみが影響されるように熱アシストを実施するならば、その部分は非対称性構造を有し、残りは対称性である。これは時に「煙突」構造と呼ばれている。厚さの一部にほぼ均一の温度まで熱アシストを加え、厚さの残りが温度勾配を達したならば、別のタイプの煙突構造が生じ得る。この場合、加熱した側に隣接した厚さ部分は対称性であり、膜の残りは非対称性である。成形溶液の各側から伸びた2つの勾配が生ずるように該溶液の両側に熱アシストを加えるならば、両側は厚さの内部領域よりも大きい孔径を有すると予想される。側の相対温度を変えることにより、各種の構造物を製造することができる。本発明の微孔質膜は巨孔またはフィラメント状ウェブ構造を持たない。従って、当業者は多くの可能な構造物を形成することができるが、そのすべてを本発明の有用性を示すために網羅的に記載する必要はないであろう。
【0034】
図1を参照する。本発明の方法の実施態様を実施するために使用される装置10はナイフボックス14の出口と接する移動ベルト12を含む。前記ナイフボックス14からベルト12に対してポリマー溶液が分配される。ポリマー溶液のフィルムを担持しているベルト12はポリマー溶液フィルムを短時間加熱すべく加熱パイプ16上を移動する。次いで、ベルト14及び加熱されたポリマーフィルムを凝固浴18に浸漬させるが、その時間はポリマー溶液を相分離し、微孔質ポリマー膜を形成するのに十分な時間である。ベルト14は浴18中の1つ以上のローラー20上を運ばれる。次いで、微孔質膜を担持しているベルトはドラム22に巻き取られる。
【0035】
上記したように、本発明の他の実施態様を実施するために異なる装置を使用することができる。例えば、赤外ヒータのような代替熱源を使用し得る。或いは、熱源をベルト14と反対の溶液側に配置してもよい。別の実施態様では、熱アシスト伝達を延長させるために一連の熱源を使用してもよい。或いは、構造物中により大きな勾配を生じさせるために熱源の反対の溶液側に正の冷却を加えてもよい。各側に2つの熱源を適用することもできる。2つの熱源は同一または異なる温度を有し、同時にまたは逐次適用され、製造したい構造物に依存して加熱時間を変えてもよい。
【0036】
所望により、1つ以上の層を本発明の方法により製造した複合膜、すなわち2層以上から構成される膜を製造することもできる。通常、第1支持体層、例えば本発明の微孔質構造物または他のタイプの微孔質構造物であり得る別の微孔質構造物を形成する。第1支持体層はデラウェア州ウィルミントンに所在のE.I.DuPont de Nemoursから入手可能なTYPAR(登録商標)またはTYVEK(登録商標)シート材料のような不織シートまたは織シート、或いはガラスファイバまたはプラスチックファイバシートであってもよい。第2層を予備形成層上に注型すると複合構造物が形成される。前記構造物の1実施態様は、本発明の非対称性膜の上面上に対称性膜を形成する。対称性膜は本発明に従って製造しても他の公知の方法で製造してもよいが、前者が好ましい。或いは、本発明に従って特定の多孔度及び非対称性を有する第1の非対称性膜を製造した後、同一または異なる非対称性及び孔径を有する第2層を製造する。非対称性及び孔径は異なる方が好ましい。また、所望により、2つ以上の非対称構造物の複合体を製造することもできる。
【0037】
更に、非対称性膜の表側(小さな孔を有する側)の孔隙%が従来技術で達成される%よりも有意に高いことが判明した。通常、従来技術の方法ではスキン層の表面が生じた。スキン層とは、表面上の開放孔隙の量が全表面積に比してかなり少ないことを意味する。走査型電子顕微鏡で観察すると、表面には構造物中に伸びる小さな開放孔が存在し、前記孔が充実ポリマー構造物の大面積で包囲されていることが観察された。この表面は、表面が断面厚さくらい開放されている対称性微孔質構造物で得られるものとは異なる。例えば、上掲した従来技術の方法では緻密な孔構造を有し、通常開放孔隙%が全表面積の約1〜約5%である非対称性膜が製造された。従来技術の方法の幾つかでも5〜10%の孔隙%の緻密な表面を形成することができる。これは、膜で達成され得るフロー及びフラックスを制限するので許容できない。
【0038】
本発明によると表側多孔度の%が従来技術で達成されるよりも有意に高い非対称性膜を製造することができることが分かった。本発明の非対称性膜は10%以上、典型的には約10〜約20%、約20%を越える場合もある開放孔隙率を有し得る。これにより、従来技術の膜よりも高いフロー及びフラックスを達成することができる。
【0039】
下記実施例により本発明を説明するが、これらは本発明を限定するものではない。多孔質ポリマー構造物、特に多孔質膜を開発、製造している当業者は本発明の作用効果を認識することができる。本明細書の記載は考えられるすべての組合せ、置換または改変を網羅しているのではなく、当業者が理解するための代表的方法を提示していると解されたい。代表的実施例は実地を示すためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明者は、本出願当時公知の最も広範な方法で本発明を包括的に包含するつもりである。
【実施例1】
【0040】
初期実験では、成形後であって相分離前に注型フィルムを短時間熱に露出することにより膜のバブルポイントを劇的に変化させ得ることを示した。
【0041】
N−メチルピロリドン中で20重量%PVDF溶液を調製した。このフィルムをポリエステルシート上に注型し、その後熱ステージ上に時間を変えて置いた。次いで、加熱処理したフィルムをメタノール浴に2分間浸漬し、水で洗浄した。最後に膜を拘束下で風乾した。
【0042】
【表1】

驚くことに、膜のバブルポイントは比較的に短い時間フレームで明確に変化した(表1参照)。
【実施例2】
【0043】
熱アシストの注型方法を用いて、露出時間を限定するとフラックスが改良された膜を製造することができる。より優れた再現性結果を得るために、連続注型機上に加熱ロッドを設置した。注型中、支持ベルトをロッド上で動かした。加熱ロッドと凝固浴の間に空隙を設けて、フィルムを放冷して燃焼の危険性を低下させた。
【0044】
N−メチルピロリドン中で20重量%PVDF溶液を室温で調製した。ポリマー溶液の薄フィルムをポリエステルベルト上で連続注型した。この注型フィルムを一定温度の加熱ロッドに様々な時間曝した。表2に加熱露出の時間及び温度を示す。こうして加熱処理したフィルムを室温でメタノール中で急冷し、水で抽出し、拘束下で風乾した。
【0045】
【表2】

【0046】
本発明の方法により製造した非対称性膜の場合、同等のバブルポイントでの厚さ補正空気フラックス(thickness corrected air flux)(空気フラックス×厚さ)は、マサチューセッツ州ベッドォードに所在のMillipore Corporationから入手可能なDURAPORE(登録商標)として公知の市販の対称性膜に比して2倍くらい高いことが観察された。この厚さ補正フラックスの増加は、米国特許第5,834,107号明細書の湿潤空気露出により形成した膜と同等であるが高くはない。しかしながら、このようにフラックスを増加させるために大きな孔は形成されていない。このことは、膜内に大きな非対称性があることを意味する。
【0047】
表2及びこのデータをグラフで示す図2から明らかなように、本発明の方法により製造した膜は対称性膜に比して高いフラックスを有し得る。
【実施例3】
【0048】
PVDF膜の非対称性:SEMによる確認
NMP中で20重量%PVDFのPVDF溶液を調製した。注型フィルム(空隙6ミル)を加熱ロッドに2秒間曝すことにより膜を機械的に注型した。同一のラッカー及び凝固手順を用いて2種の構造物:バブルポイントの低いスキンレスの対称性PVDF膜(高温で)及び非対称性膜(中間温度で)を製造した。本発明の非対称性構造のイメージを図3に断面で示す。図4は図3の膜の上面、図5は図3の膜の下面を示す。
【0049】
【表3】

【0050】
基本的に対称性膜で通常観察されるものとは異なり、膜の浴側はベルト側と比べてより緻密で且つ不規則な構造を有している。
【0051】
いずれの実施例でも、巨孔もフィラメント状ウェブは形成されておらず、よって従来技術の方法で製造されるものに比してより効率的なフィルターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の方法を実施する際に有用な装置の側面図である。
【図2】本発明の膜のバブルポイント対空気フラックスのグラフである。
【図3】本発明の非対称性微孔質膜の断面の写真である。
【図4】図3の膜の上面の写真である。
【図5】図3の膜の底面の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.02から10ミクロンの孔径を有する微孔質ポリマー構造物であって、
a) ポリマー組成物に対する溶媒である成分を少なくとも1つ含む溶媒系中に少なくとも1つのポリマー及び場合によりポリマー組成物に対する溶媒でない1又は2以上の成分を含む均質溶液を調製するステップ、
b) ポリマー溶液を所望の形態に成形するステップ、
c) 前記の所望形態に成形中又はその後に前記した所望形態のポリマー溶液を、相分離を防止する条件下で熱アシストにかけて、該所望形態中に所定の温度プロフィールを生じさせるステップ、
d) ポリマーに対する溶媒でない浴に浸漬させるか又は溶媒を蒸発させることにより、前記ポリマー溶液を相分離するステップ、及び
e) 微孔質ポリマー構造物を回収するステップを含む方法により製造されることを特徴とする前記構造物。
【請求項2】
前記構造物が膜の形態を有していることを特徴とする請求項1に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項3】
前記構造物が非対称性膜の形態であることを特徴とする請求項1に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項4】
前記構造物は膜の形態であり、非対称性であって、実質的に巨孔及びフィラメント状ウェブを含まないことを特徴とする請求項1に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項5】
前記構造物は膜の形態であり、非対称性であって、実質的に巨孔及びフィラメント状ウェブを含まず、表側の表面多孔率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項6】
前記構造物は膜の形態であり、非対称性であって、実質的に巨孔及びフィラメント状ウェブを含まず、表側の表面多孔率が10から20%であることを特徴とする請求項1に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項7】
前記構造物は膜の形態であり、非対称性であって、表側の表面多孔率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項8】
0.02から10ミクロンの孔径を有する微孔質ポリマー構造物であって、第1主表面から第2主表面へ多孔率の非対称勾配を有し、前記第1及び第2主表面はスキンレスであることを特徴とする前記構造物。
【請求項9】
少なくとも第1主表面は少なくとも10%の多孔率を有していることを特徴とする請求項8に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項10】
少なくとも第1主表面は10から20%の多孔率を有していることを特徴とする請求項8に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項11】
少なくとも第1主表面は10から20%の多孔率を有しており、構造物は膜の形態であり、実質的に巨孔及びフィラメント状ウェブを含んでいないことを特徴とする請求項8に記載の微孔質ポリマー構造物。
【請求項12】
微孔質ポリマー構造物がポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFブレンド及びPVDFコポリマーからなる群から選択される材料で形成されることを特徴とする請求項8に記載の微孔質ポリマー構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−191720(P2007−191720A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47499(P2007−47499)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【分割の表示】特願2001−585905(P2001−585905)の分割
【原出願日】平成13年5月22日(2001.5.22)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】