説明

膜厚測定装置および膜厚測定方法

【課題】屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定することができる膜厚測定装置および膜厚測定方法を提供する。
【解決手段】膜厚測定装置は、第1の反射干渉光および第2の反射干渉光のそれぞれについて第1の波長分布および第2の波長分布を生成する波長分布生成部72と、第1の波長分布および第2の波長分布にもとづいて、それぞれ第1の入射角に対応する第1の光路差および第2の入射角に対応する第2の光路差を求める光路差算出部73と、入射角、膜厚および屈折率を変数とした関数として光路差を表した式を用いて、第1の入射角および第2の入射角ならびに光路差算出部73に算出された第1の光路差および第2の光路差を式に代入することにより、薄膜の膜厚および屈折率を求める膜厚屈折率算出部74と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘電体薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置および膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体薄膜の物性は、膜厚や屈折率(または誘電率)により変化する。このため、誘電体薄膜に所望の性能を与えるためには、膜厚や屈折率を正確に測定することが重要となる。膜厚の測定方法としては、たとえば試料を破壊するおそれのない非接触な測定方法の1つである反射率分光法などが知られている。
【0003】
従来、反射率分光法を用いて誘電体薄膜の膜厚を測定する技術として、たとえば特開2010−2328号公報(特許文献1)に開示された技術がある。
【0004】
この特許文献1に開示された膜厚測定装置は、被測定物から測定される反射率スペクトルと各波長における反射率との対応関係から波数と波数変換反射率との対応関係を求め、波数変換反射率を波数について周波数にフーリエ変換し、得られたピークにもとづいて各層の膜厚を求めることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−2328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、誘電体薄膜の充填率(見かけの充填率)は作製条件によって変化する。一方、薄膜の屈折率は充填率によって変化する。このため、薄膜の屈折率は、作製条件によって変化してしまう。
【0007】
しかし、従来の反射率分光法を用いて誘電体薄膜の膜厚を求める技術では、測定対象の薄膜の膜厚を求めるための初期パラメータとして屈折率を用いるにもかかわらず、屈折率として標準試料の屈折率を用いるか、屈折率が既知であることを前提としている。このため、標準試料の屈折率を用いる場合は、測定対象薄膜の実際の屈折率とは異なる屈折率を用いて膜厚を測定することになり、測定誤差が生じてしまう。また、屈折率が既知であることを前提とする場合は、膜厚測定前にあらかじめ測定対象薄膜の屈折率を別工程で計測しておかなくてはならず煩雑である。
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定することができる膜厚測定装置および膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る膜厚測定装置は、上述した課題を解決するために、薄膜の表面反射光と裏面反射光との光路差により生じる反射干渉光の波長分布にもとづいて前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、基板表面に前記薄膜が形成された被計測体に対し、所定の波長範囲を有する照射光を第1の入射角および前記第1の入射角とは異なる第2の入射角で照射する照射部と、前記第1の入射角および前記第2の入射角で照射された光の前記薄膜からの第1の反射干渉光および第2の反射干渉光をそれぞれ前記第1の入射角および前記第2の入射角にほぼ等しい第1の反射角および第2の反射角で受光する受光部と、前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれについて第1の波長分布および第2の波長分布を生成する波長分布生成部と、前記第1の波長分布および前記第2の波長分布にもとづいて、それぞれ前記第1の入射角に対応する第1の光路差および前記第2の入射角に対応する第2の光路差を求める光路差算出部と、入射角、膜厚および屈折率を変数とした関数として光路差を表した式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記光路差算出部に算出された前記第1の光路差および前記第2の光路差を前記式に代入することにより、前記薄膜の膜厚および屈折率を求める膜厚屈折率算出部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る膜厚測定装置および膜厚測定方法によれば、屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略的な全体構成図。
【図2】(a)は、膜厚測定装置が第3の照射ユニットおよび第3の受光ユニットを有する場合の一例を示すy方向矢視図、(b)はz方向矢視図、(c)はx方向矢視図。
【図3】本実施形態に係る照射光スポットエリアのサイズと受光スポットエリアのサイズの関係を示す説明図。
【図4】主制御部のCPUによる機能実現部の構成例を示す概略的なブロック図。
【図5】薄膜の表面反射光と裏面反射光との光路差を説明するための図。
【図6】図1に示す主制御部のCPUにより、屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定する際の手順を示すフローチャート。
【図7】実施例1に係る被計測体の第1の波長分布および第2の波長分布の一例を示す説明図。
【図8】図7に示す例における光路差算出部による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ解析結果の一例を示す説明図。
【図9】実施例2に係る被計測体の第1の波長分布および第2の波長分布の一例を示す説明図。
【図10】図9に示す例における光路差算出部による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ解析結果の一例を示す説明図。
【図11】実施例3に係る被計測体に対し、光源としてハロゲンランプを用いる場合と広帯域レーザ光源を用いる場合の第2の入射角30度に対応する波長分布の違いの一例を示す説明図。
【図12】光源として広帯域レーザを用いる場合における実施例3に係る被計測体の第1の波長分布および第2の波長分布の一例を示す説明図。
【図13】図12に示す例における光路差算出部による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ解析結果の一例を示す説明図。
【図14】照射部および受光部の変形例を示す構成図。
【図15】図14に示す照射部および受光部の変形例において0度の入射角を利用するための照射部および受光部の一構成例を示す図。
【図16】厚み方向(Y方向)に屈折率ny、境界平行方向(X方向)に屈折率nxを有する薄膜における最小作用の原理による光路差の算出方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る膜厚測定装置および膜厚測定方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る膜厚測定装置は、薄膜に対して互いに異なる2種の入射角で照射光を入射し、この2種の入射光に対応する薄膜の表面反射光と裏面反射光との光路差Yにより生じる2種の反射干渉光の波長分布にもとづいて薄膜の膜厚を測定するものである。
【0014】
(1.概略構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る膜厚測定装置10の一例を示す概略的な全体構成図である。なお、以下の説明では、薄膜の法線方向をZ軸、薄膜の法線方向に垂直な方向をX軸およびY軸とする場合の例について示す。
【0015】
膜厚測定装置10は、照射部11、受光部12、分光部13および情報処理装置14を有する。
【0016】
照射部11は、光源20、第1の照射ユニット21、第2の照射ユニット22、およびビームスプリッタ23を有する。
【0017】
光源20は、ハロゲンランプや広帯域レーザなどにより構成され、所定の波長範囲を有する照射光を出射し、この照明光を光ファイバなどにより構成されるライトガイド24を介してそれぞれ第1の照射ユニット21および第2の照射ユニット22に与える。また、第1の照射ユニット21および第2の照射ユニット22の光源側には、それぞれシャッタ25および26が設けられる。
【0018】
シャッタ25および26は、情報処理装置14により制御されて、第1の照射ユニット21による被計測体31に対する照射光の照射と第2の照射ユニット22による被計測体31に対する照射光の照射が同時に行われないようそれぞれ照射光を適宜遮蔽する。
【0019】
第1の照射ユニット21および第2の照射ユニット22は、基台30に載置された被計測体31に対し、互いに異なる第1の入射角および第2の入射角で照射光を照射する。被計測体31は、基板32を有するとともに、基板32の表面には所定の粒径を有する誘電体により構成された薄膜33が形成される。
【0020】
受光部12は、第1の受光ユニット41および第2の受光ユニット42を有する。
【0021】
第1の受光ユニット41は、薄膜33の表面の法線を介して第1の照射ユニット21に対向する位置に配置され、第1の照射ユニット21により第1の入射角で薄膜33に照射された光の薄膜33による第1の反射干渉光を、第1の入射角にほぼ等しい第1の反射角で受光する。また、第2の受光ユニット42は、薄膜33の表面の法線を介して第2の照射ユニット22に対向する位置に配置され、第2の照射ユニット22により第2の入射角で薄膜33に照射された光の薄膜33による第1の反射干渉光を、第2の入射角にほぼ等しい第2の反射角で受光する。
【0022】
なお、図1に示すように、第1の入射角および第1の反射角を0度とする場合は、ビームスプリッタ23を用いるとよい。このとき、第1の受光ユニット41は、薄膜33の表面の法線を介して第1の照射ユニット21に対向する位置には配置されず、たとえば第1の照射ユニット21および第1の受光ユニット41の一方がX軸に平行に配置され、他方が薄膜33の法線上に配置される。図1には、第1の照射ユニット21がX軸に平行に照射光を出射するように配置され、第1の受光ユニット41が薄膜33の法線上に配置される場合の例について示した。この場合、第1の照射ユニット21からX軸に平行に出射された照射光は、ビームスプリッタ23を介してZ軸に平行に(薄膜33の法線に平行に)薄膜33に向かって反射されることにより、入射角0度で薄膜33に照射される。そして第1の反射干渉光は、反射角0度で(Z軸に平行に)反射されてビームスプリッタ23を透過し、第1の受光ユニット41により受光される。
【0023】
図2(a)は、膜厚測定装置10が第3の照射ユニット51および第3の受光ユニット52を有する場合の一例を示すy方向矢視図であり、(b)はz方向矢視図、(c)はx方向矢視図である。図2には、第1の入射角が0度、第2の入射角が20度、第3の照射ユニット51による照射光の第3の入射角が30度である場合の例について示した。
なお、便宜上、図2(a)においては第3の照射ユニット51、第3の受光ユニット52およびシャッタ53の図示を省略し、(b)においてはシャッタ25、26および53の図示を省略し、(c)においては第2の照射ユニット22、シャッタ25、26および第2の受光ユニット42の図示を省略した。
【0024】
図2に示すように、照射ユニットおよび受光ユニットの組の数は2組に限られず、この組の数を増やすことにより、薄膜33に対する照射光の入射角の数を容易に増やすことができる。なお、第3の照射ユニット51の光源20側には、シャッタ25および26と同様に情報処理装置14により制御されるシャッタ53が設けられるとよい。
【0025】
分光部13は、一般的な分光器により構成され、ライトガイド43を介して第1の受光ユニット41により受光された第1の反射干渉光を受け、この第1の反射干渉光を所定の波長間隔で分光して、各波長における反射干渉光の強度の情報を情報処理装置14に与える。同様に、分光部13は、ライトガイド43を介して第2の受光ユニット42により受光された第2の反射干渉光を受け、この第2の反射干渉光を所定の波長間隔で分光して、各波長における反射干渉光の強度の情報を情報処理装置14に与える。
【0026】
情報処理装置14は、たとえばデスクトップ型やノートブック型のパーソナルコンピュータやワークステーションなどにより構成することができる。情報処理装置14は、入力部61、表示部62、記憶部63および主制御部64を有する。
【0027】
入力部61は、たとえばキーボード、タッチパネル、テンキーなどの一般的な入力装置により構成され、ユーザの操作に対応した操作入力信号を主制御部64に出力する。表示部62は、たとえば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなどの一般的な表示出力装置により構成され、主制御部64の制御に従って各種情報を表示する。記憶部63は、CPUにより読み書き可能な記憶媒体であり、あらかじめ、入射角、膜厚および屈折率を変数とした関数として光路差Yを表した式を記憶している。
【0028】
主制御部64は、分光部13から反射干渉光の分光スペクトルを受け、この分光スペクトルにもとづいて第1の入射角および第2の入射角に対応する第1の光路差および第2の光路差を求める。また、主制御部64は、記憶部63に記憶された式を用いて、第1の入射角および第2の入射角ならびに第1の光路差および第2の光路差を式に代入することにより、薄膜33の膜厚および屈折率を求める。主制御部64の構成および動作の詳細については後述する。
【0029】
(2.反射干渉光の高強度化)
反射率分光法を用いて誘電体薄膜の膜厚や誘電率(屈折率)を高速で計測する場合には、一般に、入射光と反射光の干渉信号が微弱であることが知られている。この理由としては、(1)誘電体薄膜の表面や膜内での散乱により、誘電体薄膜表面からの反射光が弱いこと、(2)誘電体薄膜を塗布する基板の表面やその内部での散乱および干渉により、誘電体薄膜裏面からの反射光が弱いこと、(3)誘電体薄膜や誘電体を塗布する基板の表面およびその内部での散乱および干渉により、基板表面からの反射光が弱いこと、(4)誘電体薄膜の表面や誘電体薄膜を塗布する基板の表面の凸凹により干渉信号が小さくなること、などが考えられる。
【0030】
反射干渉光の高強度化を目指すため、本実施形態に係る膜厚測定装置10は以下の条件を満たすよう構成されるとよい。
【0031】
(2−1.粒径に応じた光源波長および入射角)
誘電体に対し光が進入した場合、誘電体を構成する粒子の粒径によって現象が異なる事が知られている。構成粒子に対して光の波長が十分長い場合はレイリー散乱と呼ばれる散乱現象を起こし、散乱光は波長が短いほど大きな強度を持つ。他方、構成粒径が波長とほぼ等しいオーダーになると、ミー散乱とよばれる状態に移行する。この状態では、前方散乱の強度が非常に大きくなり、反射光(後方散乱光)を使用する反射率分光法にとってエラー光の強度が増すというデメリットがある。
【0032】
したがって、たとえば誘電体の粒径が200nm以下の場合には0.3-2μm程度の波長を用い、粒径がそれ以上の場合にはより波長が長い光(たとえば粒径が400μmの場合には波長領域の下限が1.7μm以上の光など)を用いるとよい。また粒径の大きなものを測定する場合は、ミー散乱理論の前方散乱域が後方散乱域(反射光域)に影響を与えないような範囲の角度(粒径400nm以上、等価屈折率1.5の場合なら入射角30度以下)を使用するとよい。
【0033】
(2−2.基板32の反射率を考慮した光源波長)
誘電体の塗布してある基板32での干渉は、基板32の厚さや屈折率によって変化する。このため、あらかじめ基板32のみの反射率を測定し、その結果から反射率の大きい測定波長を用いることで、干渉信号を大きくすることができる。
(2−3.照射光エリアと集光エリア)
【0034】
図3は、本実施形態に係る照射光スポットエリアA1のサイズと受光スポットエリアA2のサイズの関係を示す説明図である。
【0035】
干渉信号を効率的に集光するためには、照射光スポットエリアA1の半径r1よりも受光スポットエリアA2の半径r2のほうが大きいことが好ましい。照射光スポットエリアA1の半径r1は、照射ユニット21および22を構成するレンズの開口数などを調整することにより制御できる。また、受光スポットエリアA2の半径r2は、受光ユニット41および42を構成するレンズの開口数などを調整することにより制御できる。
【0036】
上記条件のほか、薄膜33の測定エリアサイズを狭くすることによっても、干渉信号の高強度化を期待することができる。
【0037】
(3.主制御部の構成)
主制御部64は、CPU、RAMおよびROMをはじめとする記憶媒体などにより構成され、この記憶媒体に記憶されたプログラムに従って、膜厚測定装置10の動作を制御する。
【0038】
主制御部64のCPUは、ROMをはじめとする記憶媒体に記憶された膜厚測定プログラムおよびこのプログラムの実行のために必要なデータをRAMへロードし、このプログラムに従って、屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定するための処理を実行する。主制御部64のRAMは、CPUが実行するプログラムおよびデータを一時的に格納するワークエリアを提供する。主制御部64のROMをはじめとする記憶媒体は、情報処理装置14の起動プログラム、膜厚測定プログラムや、これらのプログラムを実行するために必要な各種データを記憶する。
【0039】
なお、ROMをはじめとする記憶媒体は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、CPUにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有し、これら記憶媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は電子ネットワークを介してダウンロードされるように構成してもよい。
【0040】
図4は、主制御部64のCPUによる機能実現部の構成例を示す概略的なブロック図である。なお、この機能実現部は、CPUを用いることなく回路などのハードウエアロジックによって構成してもよい。
【0041】
図4に示すように、主制御部のCPUは、膜厚測定プログラムによって、少なくとも入射角制御部71、波長分布生成部72、光路差算出部73および膜厚屈折率算出部74として機能する。この各部71〜74は、RAMの所要のワークエリアを、データの一時的な格納場所として利用する。
【0042】
入射角制御部71は、一の入射角による反射干渉光が他の入射角による反射干渉光に混入する弊害を未然に防ぐよう、一の入射角により照射光が照射されて波長分布生成部72によりこの一の入射角に対応する波長分布が生成された後に、次の入射角により照射光が照射されて波長分布生成部72によりこの次の入射角に対応する波長分布が生成されるようにシャッタ25、26および53を制御する。
【0043】
波長分布生成部72は、分光部13により生成された各波長における反射干渉光の強度の情報にもとづいて、第1の反射干渉光および第2の反射干渉光のそれぞれについて、所定の波長間隔ごとのデータからなる離散的な第1の波長分布および第2の波長分布を生成する。また、膜厚測定装置10が第3の照射ユニット51および第3の受光ユニット52を有する場合など、第3の入射角に対応する第3の反射干渉光を利用可能な場合は、この第3の反射干渉光について第3の波長分布を生成する。
【0044】
光路差算出部73は、所定の波長間隔ごとのデータからなる離散的な第1の波長分布および第2の波長分布を、波長の逆数の関数として扱い、所定の波長間隔に対応する非等間隔な前記波長の逆数の間隔ごとにサンプリングして離散フーリエ変換を行うことにより、第1の光路差および第2の光路差を求める。
【0045】
膜厚屈折率算出部74は、記憶部63に記憶された式を用いて、2種の入射角(たとえば第1の入射角および第2の入射角)および各入射角に対応する2種の光路差(たとえば第1の光路差および第2の光路差)を式に代入することにより、薄膜33の膜厚および屈折率を求め、その結果を表示部62に表示する。
【0046】
(3−1.光路差の算出方法)
ここで、光路差算出部73による光路長(より具体的には、表面反射光と裏面反射光の光路差Y)の算出方法について詳細に説明する。反射率分光法では、被測定対象の表面と裏面、および多層膜であればその界面各々での反射光の干渉を用いてまずは光路差Yを算出する。従来は1組または多数組の干渉波形ピークの波長を用いての推定が行われることが多かった。しかしこの推定方法では、多層膜の場合にどのピークがどのピークに対応するかが不明である。
【0047】
そこで、本実施形態では、光を平面波として表記した場合に、光の方程式が
【数1】

【0048】
と書ける事を利用する。波数の大きさと、波長および屈折率の関係はk=2π/(nλ)(nは屈折率、λは波長を表す)となるから、光の方程式の空間依存部分(ωtの項を除いたもの)は
【数2】

【0049】
となる。ここで屈折率nは定数であるから、φを波長の逆数の関数と見て、離散フーリエ変換を行えば、光路差Yが得られる。しかも基底関数の直行性によりピーク値だけを用いた場合には分離できなかった多層膜反射による光路差Yも分離できる事となる。
【0050】
このケースでの離散フーリエ変換は、干渉信号を波長の逆数の関数と見るため通常は波長に対して等間隔の測定点を使用することに起因して、データのサンプリングが波長の逆数に対しては等間隔とならず、通常の高速フーリエ変換の手法は使用できない。しかし、ここでの離散フーリエ変換の精度は光路差Yの精度(ひいては膜厚や屈折率の精度)に直結するため、単なる台形公式ではなく、以下のようにして行い精度を確保する。
【0051】
まずφ(r)に対するフーリエ変換は(便宜上k=1/nλ)とすれば)、
【数3】

【0052】
測定データφ(k)はコンパクトサポートではない(測定の両側がゼロに収束しない)ため、離散フーリエ変換でよく用いられる窓関数W(k)を用いて、
【数4】

【0053】
とする。窓関数W(k)としては、たとえば一般化ハミング窓W(k)=a−(1−a)cos2πkなどを用いることができる。
【0054】
ここでφ(k)は連続関数ではなく、φ0、φ1・・・、φnのような離散的な観測データである。このため、式(2)を離散化する。
【0055】
一般には、式(4)は台形公式を用いて離散化される。しかし、一般的な分光器により構成される分光部13の出力は波長に対して等間隔であるため、波長の逆数を用いた場合、k0,k1,k2・・・kNの間隔が非等間隔となる。また、この式(4)を用いて算出する等価光路差Yの精度が膜厚や屈折率の精度に大きく左右する。このため、本実施形態では、台形公式は用いず、以下の独自のアルゴリズムにより離散フーリエ変換を行う。
【0056】
まず、式(4)でのW(k)φ(k)(≡ψ(k)と定義する)とexp(−ikd)を別の取り扱いとし、式(4)を実部と虚部に分離する。
【数5】

【0057】
なお、Ψi=Ψ(ki)として置き換えた。この式(6a)および(6b)の積分は実行可能であるため、最終的に積分を含まない次の式(7a)および(7b)を得ることができる。
【数6】

式(7a)および(7b)は、プログラム化を行った場合ループ処理を1回しか含まず、台形公式とそん色ない速度で計算が実行でき、しかも精度が良いアルゴリズムとなる。
【0058】
そこで、光路差算出部73は、所定の波長間隔ごとのデータからなる離散的な波長分布および第2の波長分布にもとづいて、式(7a)および(7b)を用いて離散フーリエ変換を行うことにより、各波長分布に対応する光路差Yを求める。
【0059】
(3−2.膜厚および屈折率の算出)
次に、膜厚屈折率算出部74による薄膜33の膜厚および屈折率の算出方法について詳細に説明する。
【0060】
図5は、薄膜33の表面反射光と裏面反射光との光路差を説明するための図である。
【0061】
図5に示すように、入射光の波面(入射光に垂直な図中垂直マークのついている点線部分)と薄膜表面のなす角度をθ1とし、膜中の入射角をθ2とする。このとき、図5のfの長さはaの長さにsinθ1を乗じたものに等しい(f=a・sinθ1)。一方、二点鎖線の長さを2Xとすると、a=2X・sinθ2と書ける。したがって、f=2X・sinθ1・sinθ2と表せる。
【0062】
よって、表面反射光と裏面反射光の光路差Yは、屈折率をnとすれば、
Y=n・2X - f=2X(n - sinθ1・sinθ2) (8)
【0063】
となる。
図5から明らかなように、二点鎖線の長さ2X、膜厚t、膜中の入射角θ2は、X=t/cosθ2の関係を満たす。この関係を用いて式(8)からXおよびθ2を消去してtおよびnで表すと、次の式(9)を得ることができる。
【数7】

【0064】
ただし、Yは光路差、θ1は入射角、θ2は膜中の入射角、tは膜厚、nは屈折率をそれぞれ表す。
【0065】
したがって、式(9)から、2種の入射角における光路差Yが得られれば、膜厚および屈折率を求めることができることがわかる。この式(9)は、あらかじめ記憶部63に記憶される。なお、式(9)は、主制御部64のROMをはじめとする記憶媒体に記憶されてもよい。
(4.動作)
【0066】
次に、本実施形態に係る膜厚測定装置10の動作の一例について説明する。
【0067】
図6は、図1に示す主制御部64のCPUにより、屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定する際の手順を示すフローチャートである。図6において、Sに数字を付した符号は、フローチャートの各ステップを示す。
【0068】
この手順は、式(9)が記憶部63に記憶された時点でスタートとなる。
【0069】
まず、ステップS1において、波長分布生成部72は、分光部13により生成された各波長における反射干渉光の強度の情報にもとづいて、複数の入射光のそれぞれに対応する複数の波長分布を生成する。
【0070】
次に、ステップS2において、光路差算出部73は、たとえば式(7a)および(7b)を用いることにより、複数の波長分布のそれぞれに対応する複数の光路差Yを算出する。
【0071】
次に、ステップS3において、膜厚屈折率算出部74は、記憶部63から式(9)を取得する。
【0072】
次に、ステップS4において、膜厚屈折率算出部74は、記憶部63から取得した式(9)に対して、入射角および光路差Yの組を少なくとも2組代入する。
【0073】
次に、ステップS5において、少なくとも2組の入射角および光路差Yの組のそれぞれを式(9)に代入することにより得られた少なくとも2つの式を連立することにより、薄膜33の膜厚および屈折率を算出する。
【0074】
以上の手順により、屈折率が未知の誘電体薄膜の膜厚を正確に測定することができる。
【0075】
本実施形態に係る膜厚測定装置10は、被計測体31に対し、互いに異なる2種の入射角で照射光を照射するため、少なくとも一方の入射角は0度とは異なる角度となる。このとき、式(9)を用いることにより、屈折率が未知の誘電体薄膜についても、膜厚を正確に測定することができるとともに、同時にその屈折率(誘電率)を測定することができる。また、たとえば入射角が3種設定可能な場合(図2参照)、3組の入射角の組から3種の膜厚・屈折率が算出できる。この場合、3種の算出値を平均して最終的な薄膜33の膜厚・屈折率の算出結果としてもよい。
【0076】
(5.充填率)
本実施形態に係る膜厚屈折率算出部74によれば、薄膜33の屈折率を測定することができる。このため、薄膜33の屈折率と、薄膜を構成する誘電体の結晶における屈折率とを比較することにより、この薄膜を構成する誘電体の薄膜33中の充填率(見かけの充填率)を求めることができる。
【0077】
たとえば、誘電体が酸化チタンである場合、酸化チタン薄膜中の酸化チタンの含有率をa(%)とし、酸化チタン薄膜の見かけの充填率をb(%)=100−a(%)とする。また、酸化チタンの屈折率をN1、薄膜内の空間を充填する他の物質(たとえば空気などの雰囲気気体や樹脂など)の屈折率をN2とする。
【0078】
いま、酸化チタン薄膜の屈折率Naは、酸化チタン薄膜中の酸化チタンと薄膜内の空間を充填する他の物質の含有比率に比例すると仮定する。この仮定は、酸化チタンが均質な場合は成り立つ。このとき、酸化チタン薄膜の屈折率Naは、次の式(10)で与えられる。
Na=N2+(N1-N2)*a (10)
【0079】
式(10)を変形すると、次の式(11)が得られる。
a=(Na-N2)/(N1-N2) (11)
【0080】
したがって、屈折率N1およびN2が既知であるものとすれば、光路差算出部73による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ変換の結果算出される光路差Yを用いて式(9)から得られる屈折率をNaとして式(11)に代入することで、酸化チタンの含有率aが求められる。このa(%)から、酸化チタン薄膜の見かけの充填率b(%)=100−a(%)を求めることができる。
【0081】
(6.実施例)
(6−1.実施例1)
実施例1として、第1の入射角が0度、第2の入射角が30度である場合において、基板32に誘電体薄膜としての酸化チタン薄膜33を1層塗布した被計測体31の膜厚および屈折率を計測した。レーザ共焦点顕微鏡による測定では、薄膜33の膜厚は12.0μmと測定された。
【0082】
図7は実施例1に係る被計測体31の第1の波長分布および第2の波長分布の一例を示す説明図である。また、図8は、図7に示す例における光路差算出部73による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ解析結果の一例を示す説明図である。
【0083】
図7および図8に示すように、薄膜33が1層である場合は、各入射角に対応する波長分布のフーリエ解析結果として、それぞれ1つのピークが観測される。なお、基板32の厚さや透過率によっては、基板32の表面反射および裏面反射に起因するピークが観測される場合があることに注意する。
【0084】
図7および図8に示す例では、膜厚屈折率算出部74により、膜厚11.66μm、屈折率1.60と測定された。この膜厚値は、レーザ共焦点顕微鏡による測定結果12.0μmに近い値であるといえる。また、使用した酸化チタンの結晶の屈折率は2.52であることから、式(11)から、見かけの充填率として60.5%を得ることができた。
【0085】
(6−2.実施例2)
実施例2として、第1の入射角が20度、第2の入射角が40度である場合において、基板32に誘電体薄膜としての酸化チタン薄膜を2層塗布した被計測体31の膜厚および屈折率を計測した。レーザ共焦点顕微鏡による測定では、2層合計の膜厚は9.6μmと測定された。
【0086】
図9は実施例2に係る被計測体31の第1の波長分布および第2の波長分布の一例を示す説明図である。また、図10は、図9に示す例における光路差算出部73による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ解析結果の一例を示す説明図である。
【0087】
図9および図10に示すように、薄膜33が2層である場合は、各入射角に対応する波長分布のフーリエ解析結果として、それぞれ少なくとも2つのピークが観測される。図10中に示した通り、本実施例では、基板32上に形成された透明電極膜の表面反射および裏面反射に起因するピークが観測されており、図10では1つの波長分布ごとにそれぞれ3つのピークを確認することができる。
【0088】
図9および図10に示す例では、膜厚屈折率算出部74により、3つのピークのそれぞれの組(楕円で囲んだ組)について、膜厚8.3μmおよび屈折率1.73と、膜厚6.1μmおよび屈折率1.44と、膜厚5.2μmおよび屈折率1.40が得られた。
【0089】
なお、あらかじめ多層膜の作製段階で目標とした膜厚がある場合は、この目標膜厚から推定される光路差Yを予測することができる。この場合、光路差算出部73は、図10に示すフーリエ解析結果について、予測光路差付近のピークの組を自動抽出して膜厚屈折率算出部74に与えてもよい。
【0090】
(6−3.実施例3)
実施例3として、第1の入射角が10度、第2の入射角が30度である場合において、基板32に粒径400nmの酸化チタンにより構成された薄膜を2層塗布した被計測体31の膜厚および屈折率を計測した。触針による測定では、膜厚は15.6μmと測定された。
【0091】
図11は、実施例3に係る被計測体31に対し、光源20としてハロゲンランプを用いる場合と広帯域レーザ光源を用いる場合の第2の入射角30度に対応する波長分布の違いの一例を示す説明図である。
【0092】
図11に示すように、光源20としてハロゲンランプを用いた場合、粒径400nmの酸化チタンでは測定波長が1600nmから2100nmでは干渉波形が弱く、干渉波形を大きくするためには測定波長を長くしてもよいし、光源20として、ハロゲンランプの変わりに干渉性の高い広帯域レーザを用いることにより干渉波形を大きくしてもよい。
【0093】
図12は、光源20として広帯域レーザを用いる場合における実施例3に係る被計測体31の第1の波長分布および第2の波長分布の一例を示す説明図である。また、図13は、図12に示す例における光路差算出部73による式(7a)および(7b)を用いたフーリエ解析結果の一例を示す説明図である。
【0094】
図12および図13に示す例において、最も光路差の長いピークの組について測定を行った結果、膜厚15.1μmおよび屈折率1.68を得た。
【0095】
(7.光学系の変形例)
図14は、照射部11および受光部12の変形例を示す構成図である。
【0096】
図14に示すように、照射部11は、薄膜33の法線に平行な光軸を有するとともに平側が薄膜33側となるよう配置された平凸レンズ80を備えてもよい。このとき、照射部11および受光部12はそれぞれ照射ユニット81および受光ユニット82を1つずつ備えればよい。
【0097】
照射ユニット81および受光ユニット82は、平凸レンズ80の凸側に配置されるとともに、照射ユニット81および受光ユニット82の光軸が平凸レンズ80の光軸と平行となるよう配置される。
【0098】
このとき、入射角制御部71は、照射ユニット81および受光ユニット82の光軸の位置が平凸レンズ80の光軸に対して対称な位置となるよう照射ユニット81および受光ユニット82の位置を制御する。照射ユニット81の光軸から平凸レンズ80の光軸までの距離(受光ユニット82の光軸から平凸レンズ80の光軸までの距離に等しい)を変更することで、照射光の入射角を変更することができる。
【0099】
なお、図14に示す変形例では、照射部11は照射ユニット81を1つのみ備える。このため、図14に示す構成ではシャッタ25、26および53は不要である。
【0100】
図15は、図14に示す照射部11および受光部12の変形例において0度の入射角を利用するための照射部11および受光部12の一構成例を示す図である。
【0101】
図14に示すような照射ユニット81および受光ユニット82を一組備えた構成では、入射角を0度にすることが難しい。そこで、図14に示す変形例において入射角0度を用いる場合には、図1に示す光学系の構成と同様に、入射角0度のための照射ユニット84、受光ユニット85およびビームスプリッタ86を設けるとよい。
【0102】
なお、図15に示す構成では、照射ユニット81および照射ユニット84の光源20側にそれぞれシャッタを設けることが好ましい。
【0103】
(8.薄膜33の屈折率に異方性がある場合)
薄膜33の屈折率に異方性がある場合は、膜厚屈折率算出部74は薄膜33の膜厚および屈折率を算出する際に、屈折率の異方性に対応して式(9)を変形した式を用いることが好ましい。
【0104】
たとえば、酸化チタン(二酸化チタン)には、屈折率の異方性が存在する可能性があることがわかってきた。粒子の大きさ(粒径)が小さい場合は、各粒子での方向に関するランダムネスが高いため、全体としては異方性が打ち消されることが期待できる。他方、膜厚が薄くかつ粒径が大きい場合は、結果として異方性が残る可能性がある。
【0105】
そこで、薄膜33が厚み方向に屈折率nyを有するとともに境界平行方向に屈折率nxを有する場合において、この屈折率の異方性に対応して式(9)を変形する方法について以下説明する。なお、以下の説明では、厚み方向をY方向、境界平行方向をX方向であるものとする。
【0106】
表面反射光と裏面反射光の光路差Yは、屈折率nxおよびnyを用いて次の式(12)のように書ける(図5参照)。
【数8】

【0107】
式(12)においては、Y方向の屈折率をny、X方向の屈折率をnxとしている。このため、sinθ1とsinθ2の関係において、一般的なsinθと屈折率nの関係式は成立しない。したがって、式(12)を正しく解くには最小作用の原理を用いざるを得ない。
【0108】
図16は、厚み方向(Y方向)に屈折率ny、境界平行方向(X方向)に屈折率nxを有する薄膜における最小作用の原理による光路差の算出方法を説明するための図である。
【0109】
図16のように座標系を取る。点A(a、d)から出た光は空気層を進み点X(x,0)を経て媒質1(屈折率nx,ny)中を通過し、点B(−a,−d)に届くものとする。一般的な屈折理論では
【数9】

【0110】
一方、最小作用の原理を用いてそれを求めるには、点Aから出た光が点Xを経由して点Bに至る時間tを用い、この時間tが最小になるX(x,0)が実際の光が通る道であるとして求める。つまり、光速をcとすると、
【数10】

【0111】
としf(t)の時間偏微分f’(t)=0となるxを求める問題に帰着できる。
【0112】
一方今回のように、屈折率に異方性がある場合には、作用関数f(t)は、
【数11】

【0113】
そこで、式(14)を解いていく。まず、x=αが式(14)の解であるから、代入し
【数12】

【0114】
これらのうち厚さを表すdおよび屈折率、入射角θ以外を消去した形で求める事が必要となる。
まず、式(16)の前2項から、次式が得られる。
【数13】

【0115】
よってこれらの式(18)および(19)を式(17)に代入して
【数14】

【0116】
これを式(12)に代入して整理することにより、次の所望の式(21)を得ることができる。
【数15】

【0117】
式(21)において、nx=nyの場合は、式(9)と一致することがわかる。
【0118】
したがって、薄膜33の屈折率に異方性がある場合は、膜厚屈折率算出部74は、式(9)に変えて式(21)を用いて薄膜33の膜厚および屈折率を算出するとよい。
【0119】
なお、異方性比率ny/nxは、角度の変化だけからでは求めることができない。このため、式(21)を用いる場合、あらかじめ異方性比率ny/nxがわかっていることが必要である。異方性比率ny/nxは、偏光波を使う方法やその他の方法であらかじめ実験的に求めておいてもよいし、製造方法から決まるものであればあらかじめ情報を入手しておけばよい。
【0120】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0121】
10 膜厚測定装置
11 照射部
12 受光部
20 光源
21 第1の照射ユニット
22 第2の照射ユニット
25、26、53 シャッタ
31 被計測体
32 基板
33 薄膜
41 第1の受光ユニット
42 第2の受光ユニット
51 第3の照射ユニット
52 第3の受光ユニット
71 入射角制御部
72 波長分布生成部
73 光路差算出部
74 膜厚屈折率算出部
80 平凸レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の表面反射光と裏面反射光との光路差により生じる反射干渉光の波長分布にもとづいて前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、
基板表面に前記薄膜が形成された被計測体に対し、所定の波長範囲を有する照射光を第1の入射角および前記第1の入射角とは異なる第2の入射角で照射する照射部と、
前記第1の入射角および前記第2の入射角で照射された光の前記薄膜からの第1の反射干渉光および第2の反射干渉光をそれぞれ前記第1の入射角および前記第2の入射角にほぼ等しい第1の反射角および第2の反射角で受光する受光部と、
前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれについて第1の波長分布および第2の波長分布を生成する波長分布生成部と、
前記第1の波長分布および前記第2の波長分布にもとづいて、それぞれ前記第1の入射角に対応する第1の光路差および前記第2の入射角に対応する第2の光路差を求める光路差算出部と、
入射角、膜厚および屈折率を変数とした関数として光路差を表した式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記光路差算出部に算出された前記第1の光路差および前記第2の光路差を前記式に代入することにより、前記薄膜の膜厚および屈折率を求める膜厚屈折率算出部と、
を備えた膜厚測定装置。
【請求項2】
前記波長分布生成部は、
前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれについて、所定の波長間隔で分光することにより、前記所定の波長間隔ごとのデータからなる離散的な前記第1の波長分布および前記第2の波長分布を生成し、
前記光路差算出部は、
前記離散的な前記第1の波長分布および前記離散的な前記第2の波長分布を、波長の逆数の関数として扱い、前記所定の波長間隔に対応する非等間隔な前記波長の逆数の間隔ごとにサンプリングして離散フーリエ変換を行うことにより、前記第1の光路差および前記第2の光路差を求める、
請求項1記載の膜厚測定装置。
【請求項3】
前記薄膜は多層膜であり、
前記波長分布生成部により前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれから生成される波長分布は、それぞれ前記多層膜の各層の表面反射光と裏面反射光との光路差により生じる複数のピークを有し、
前記光路差算出部は、
前記各層の光路差に対応する前記ピークごとに前記第1の光路差および前記第2の光路差を求め、
前記膜厚屈折率算出部は、
前記式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記光路差算出部に算出された前記各層のピークごとの前記第1の光路差および前記第2の光路差を前記式に代入することにより、前記多層膜の前記各層の膜厚および屈折率を求める、
請求項2記載の膜厚測定装置。
【請求項4】
前記薄膜は、
前記薄膜の面方向に第1の屈折率を有するとともに前記薄膜の厚み方向に第2の屈折率を有し、かつ前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との比率である異方性比率が既知であり、
前記膜厚屈折率算出部は、
入射角、膜厚、第1の屈折率および異方性比率を変数とした関数として光路差を表した式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記光路差算出部に算出された前記第1の光路差および前記第2の光路差ならびに前記薄膜の既知の前記異方性比率から、前記薄膜の膜厚、前記第1の屈折率および前記第2の屈折率を求める、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項5】
前記受光部の光学系の前記薄膜上における受光スポットエリアのサイズは、
前記照射部の光学系の前記薄膜上における照射光スポットエリアのサイズよりも大きい、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項6】
前記照射部は、
前記所定の波長範囲の下限波長が前記薄膜を構成する粒子の径に応じて長波長となるよう、前記照射光の前記所定の波長範囲を設定する、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項7】
前記照射部は、
前記照射光の光源としての広帯域レーザを有する、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項8】
前記照射部は、
前記被計測体に対して前記第1の入射角で前記照射光を照射するための第1の照射ユニットと、前記被計測体に対して前記第2の入射角で前記照射光を照射するための第2の照射ユニットと、を有し、
前記受光部は、
前記薄膜の表面の法線を介して前記第1の照射ユニットに対向する位置に配置され前記第1の反射干渉光を受光する第1の受光ユニットと、前記法線を介して前記第2の照射ユニットに対向する位置に配置され前記第2の反射干渉光を受光する第2の受光ユニットと、を有する、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項9】
前記照射部は、
前記被計測体に対して第3の入射角で前記照射光を照射するための第3の照射ユニットをさらに有し、
前記受光部は、
前記薄膜の表面の法線を介して前記第3の照射ユニットに対向する位置に配置され、前記第3の入射角で入射された光の前記薄膜からの第3の反射干渉光を前記第3の入射角にほぼ等しい第3の反射角で受光する第3の受光ユニットをさらに有する、
請求項8記載の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記照射部は、
前記照射光の光路上に設けられたシャッタを有し、
一の入射角により前記照射光が照射されて前記波長分布生成部によりこの一の照射角に対応する波長分布が生成された後、次の入射角により前記照射光が照射されて前記波長分布生成部によりこの次の照射角に対応する波長分布が生成されるよう前記シャッタを制御する入射角制御部、
をさらに備えた、
請求項8または9に記載の膜厚測定装置。
【請求項11】
前記照射部は、
前記被計測体に対する前記照射光の入射角が可変となるよう前記被計測体に対する位置が可変な照射ユニットを有し、
前記受光部は、
前記照射ユニットの位置に応じて前記薄膜の表面の法線を介して前記照射ユニットに対向する位置に配置される、前記被計測体に対する位置が可変な受光ユニットを有し、
前記照射ユニットおよび前記受光ユニットの位置を制御する入射角制御部、
をさらに備えた、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項12】
前記照射部は、
前記薄膜の法線に平行な光軸を有し、前記薄膜に平らな面が対向するよう配置された平凸レンズ、
をさらに有し、
前記照射ユニットおよび前記受光ユニットは、
前記平凸レンズの凸側に配置されるとともに、前記照射ユニットおよび前記受光ユニットの光軸が前記平凸レンズの光軸と平行となるよう配置され、
前記入射制御部は、
前記照射ユニットおよび前記受光ユニットの光軸の位置が前記平凸レンズの光軸に対して対称な位置となるよう前記照射ユニットおよび前記受光ユニットの位置を制御し、前記照射ユニットの光軸から前記平凸レンズの光軸までの距離を変更することにより前記照射光の入射角を変更する、
請求項11記載の膜厚測定装置。
【請求項13】
薄膜の表面反射光と裏面反射光との光路差により生じる反射干渉光の波長分布にもとづいて前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
基板表面に前記薄膜が形成された被計測体に対し、所定の波長範囲を有する照射光を第1の入射角および前記第1の入射角とは異なる第2の入射角で照射するステップと、
前記第1の入射角および前記第2の入射角で照射された光の前記薄膜からの第1の反射干渉光および第2の反射干渉光をそれぞれ前記第1の入射角および前記第2の入射角にほぼ等しい第1の反射角および第2の反射角で受光するステップと、
前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれについて第1の波長分布および第2の波長分布を生成するステップと、
前記第1の波長分布および前記第2の波長分布にもとづいて、それぞれ前記第1の入射角に対応する第1の光路差および前記第2の入射角に対応する第2の光路差を求めるステップと、
入射角、膜厚および屈折率を変数とした関数として光路差を表した式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記光路差算出部に算出された前記第1の光路差および前記第2の光路差を前記式に代入することにより、前記薄膜の膜厚および屈折率を求めるステップと、
を有する膜厚測定方法。
【請求項14】
前記第1の波長分布および前記第2の波長分布を生成するステップは、
前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれについて、所定の波長間隔で分光することにより、前記所定の波長間隔ごとのデータからなる離散的な前記第1の波長分布および前記第2の波長分布を生成するステップであり、
前記第1の光路差および前記第2の光路差を求めるステップは、
前記離散的な前記第1の波長分布および前記離散的な前記第2の波長分布を、波長の逆数の関数として扱い、前記所定の波長間隔に対応する非等間隔な前記波長の逆数の間隔ごとにサンプリングして離散フーリエ変換を行うことにより、前記第1の光路差および前記第2の光路差を求めるステップである、
請求項13記載の膜厚測定方法。
【請求項15】
前記薄膜は多層膜であり、
前記第1の反射干渉光および前記第2の反射干渉光のそれぞれから生成される波長分布は、それぞれ前記多層膜の各層の表面反射光と裏面反射光との光路差により生じる複数のピークを有し、
前記第1の光路差および前記第2の光路差を求めるステップは、
前記各層の光路差に対応する前記ピークごとに前記第1の光路差および前記第2の光路差を求めるステップであり、
前記薄膜の膜厚および屈折率を求めるステップは、
前記式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記求められた前記各層のピークごとの前記第1の光路差および前記第2の光路差を前記式に代入することにより、前記多層膜の前記各層の膜厚および屈折率を求めるステップである、
請求項14記載の膜厚測定方法。
【請求項16】
前記薄膜は、
前記薄膜の面方向に第1の屈折率を有するとともに前記薄膜の厚み方向に第2の屈折率を有し、かつ前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との比率である異方性比率が既知であり、
前記薄膜の膜厚および屈折率を求めるステップは、
入射角、膜厚、第1の屈折率および異方性比率を変数とした関数として光路差を表した式を用いて、前記第1の入射角および前記第2の入射角ならびに前記求められた前記第1の光路差および前記第2の光路差ならびに前記薄膜の既知の前記異方性比率から、前記薄膜の膜厚、前記第1の屈折率および前記第2の屈折率を求めるステップである、
請求項13ないし15のいずれか1項に記載の膜厚測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−79921(P2013−79921A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221334(P2011−221334)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】