説明

自動二輪車用エンジン制御装置

【課題】コーナリング時にライダーが意図的にドリフト走行を行うことを可能としつつ、車体の転倒を防止するための制御を的確に行うこと。
【解決手段】エンジンの基準点火時期を演算する点火時期演算手段10と、エンジンの回転速度とスロットル開度とに対して車体が傾斜しているときの点火時期の基準補正量を演算する基準補正量演算手段15と、車体の傾斜量に応じて基準補正量に乗じる補正割合の大きさと符号とを決定する補正割合決定手段16と、基準補正量に補正割合を乗じて実補正量を演算する実補正量演算手段17と、基準点火時期を実補正量だけ補正して実点火時期を決定する実点火時期決定手段13とを備えて、車体の傾斜量がドリフト走行が可能な範囲にあるときに点火時期を進角方向に補正し、車体の傾斜量がドリフト走行が可能な範囲の上限を超えているときに点火時期を遅角させる方向に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のドリフト走行を安全に行わせることができるように内燃エンジンを制御するエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レース用の自動二輪車や、モトクロスに代表されるオフロード用自動二輪車においては、カーブを走行する際に、ライダーがドリフト走行を行うことがある。ドリフト走行は、車輪を意図的にスリップさせながらカーブを走り抜ける方法である。
【0003】
自動二輪車の後輪のグリップ力は、車体の傾斜角により変化し、車体の傾斜角が大きくなるに従って弱くなっていく。また後輪のグリップ力は路面の状況によっても変化する。自動二輪車をカーブの手前で減速し、その車体を傾斜させた状態でカーブに進入した後、加速操作を行って後輪(駆動輪)に与えるトルクを増大させると、後輪を意図的にスリップさせてドリフト走行を行わせることができる。
【0004】
ドリフト走行を行うためには、走行速度、車体の傾斜角、路面の状況等に応じて微妙なスロットル操作を行う必要がある。自動二輪車をドリフト走行させる際に過度なスロットル操作を行うと、後輪がトラクションを喪失して大きくスリップし、車体が転倒する危険がある。
【0005】
車両がスリップするの防止するため、特許文献1に示されているように、機関の回転速度の上昇割合から駆動輪のスリップを検出して、スリップが検出されたときに機関の出力を低下させることにより、駆動輪のグリップ力を回復させるトラクション制御装置が提案されている。
【0006】
特許文献1に示されたトラクション制御装置では、機関の回転速度の上昇率を一定の時間毎に検出して、回転速度の上昇率が閾値を超えている期間に検出された回転速度の上昇率を積算し、その積算値が判定値を超えているときに、駆動輪がスリップしていることを検出するようにしている。そして、駆動輪のスリップが検出されたときに、エンジンの点火時期を遅らせることにより、その出力を低下させ、これにより後輪に伝達されるトルクを小さくして、後輪のグリップ力を回復させるようにしている。特許文献1に示されたトラクション制御装置ではまた、スロットル開度の変化率を検出して、その変化率に応じて点火時期の遅角量を補正するようにしている。
【0007】
また特許文献2には、機関の回転速度の変化幅から自動二輪車の後輪のスリップを検出して、スリップが検出されたときに機関の点火時期を遅らせることにより、機関の出力を低下させて後輪のグリップ力を回復させるトラクション制御方法が提案されている。
【0008】
このトラクション制御方法では、自動二輪車の車体の傾斜角を検出するセンサを設けて、車体の傾斜が検出されたときに点火時期の遅角量を大きくすると共に、車体の傾斜時の点火時期の遅角量を、機関の回転速度の変化幅が大きい場合程大きくするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−64037号公報
【特許文献2】特開平8−232697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されたトラクション制御装置では、車体の傾斜角を考慮していないため、車体の傾斜角により後輪のグリップ力が変化する自動二輪車のカーブ走行時のトラクションを制御することはできない。
【0011】
特許文献2に記載されたトラクション制御方法では、車体の傾斜角を検出するセンサを設けて、機関の回転速度の変化幅から後輪のスリップが検出されたときに、車体の傾斜角に応じて点火時期の遅角量を増大させ、機関の回転速度の変化幅が大きい場合ほど点火時期の遅角量を大きくする制御を行っているが、特許文献2に示された制御方法によった場合には、ライダーが意図的に後輪をスリップさせてドリフト走行を行おうとしたときに、トラクション制御が働いて、後輪をスリップさせることができなくなることがあるため、ライダーの意のままにドリフト走行を行うことができない。
【0012】
本発明の目的は、カーブ走行時にライダーが意図的にドリフト走行を行うことを可能としつつ、車体の転倒を防止するための制御を的確に行うことができるようにした自動二輪車用エンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、エンジンと、従動輪である前輪と、エンジンにより駆動される駆動輪である後輪とを車体に取り付けた自動二輪車のエンジンを制御する自動二輪車用エンジン制御装置であって、本願においては、上記の目的を達成するために、以下の発明が開示される。
【0014】
本願に開示される第1の発明においては、エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、車体の傾斜量を検出する車体傾斜量検出手段と、エンジンの出力トルクに影響を及ぼすパラメータの基準目標値を演算するパラメータ演算手段と、車体の傾斜量とエンジンのスロットル開度と回転速度とに応じてパラメータの基準目標値の補正量を決定するパラメータ補正量決定手段と、パラメータ演算手段により演算されたパラメータの基準目標値とパラメータ補正量決定手段により決定された補正量とからパラメータの実目標値を決定する実目標値決定手段と、パラメータの値を実目標値に等しくするように制御するパラメータ制御部とが設けられる。
【0015】
上記パラメータ補正量決定手段は、車体傾斜量検出手段により検出された車体の傾斜量が後輪をスリップさせながら走行するドリフト走行が可能な範囲にあって、回転速度検出手段により検出された回転速度とスロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度とが、コーナリング時にライダーがドリフト走行を行うことを意図しているときに取り得る値を示しているときにパラメータの実目標値をドリフト走行を可能にするのに適した値とし、検出された車体の傾斜量が前記ドリフト走行が可能な範囲を超えていて、検出された回転速度とスロットル開度とが、後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあるときの値を示しているときにパラメータの実目標値をエンジンの出力トルクを低下させて後輪のグリップ力を回復させるのに適した値とし、検出された車体の傾斜角がドリフト走行が可能な範囲の下限値未満であるときにはパラメータの基準目標値を実目標値とするように、パラメータの基準目標値の補正量を決定する。
【0016】
上記のように構成すると、車体の傾斜量が後輪をスリップさせながら走行するドリフト走行が可能な範囲にあって、機関の回転速度とスロットル開度とから、ライダーがコーナリング時にドリフト走行を行うことを意図しているときにパラメータがドリフト走行を可能にするのに適した値(エンジンの出力トルクを増大させる値)に補正されるので、カーブ走行時にドリフト走行に適合したトラクション制御(後輪から路面への動力伝達の制御)を行わせて、ドリフト走行を容易に行わせることができる。
【0017】
また車体の傾斜量がドリフト走行が可能な範囲を超えていて、検出された回転速度とスロットル開度とが、後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあるときの値を示しているときには、パラメータが、エンジンの出力トルクを低減させて後輪のグリップ力を回復させるのに適した値に補正されるので、カーブ走行時に車体が転倒するのを防ぐことができる。
【0018】
本願に開示される第2の発明は、第1の発明に適用されるもので、本発明においては、パラメータの補正を基準値と補正量との加減算により行う。本発明においては、パラメータ補正量決定手段が、回転速度検出手段により検出された回転速度とスロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度とに対して車体が傾斜しているときのパラメータの適正値を求めるために基準目標値に加算する基準補正量を演算する基準補正量演算手段と、車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量に応じてパラメータの値を補正するために基準補正量に乗じる補正割合の大きさと符号とを決定する補正割合決定手段と、基準補正量に補正割合を乗じてプラスまたはマイナスの符号を有する実補正量を演算する実補正量演算手段と、パラメータ演算手段により演算されたパラメータの基準目標値に実補正量演算手段により演算された実補正量を加算してパラメータの実目標値を決定する実目標値決定手段とを備えている。この場合、補正割合決定手段は、車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲にあるときにパラメータの値をエンジンの出力を増大させる方向に補正するべく補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲の上限を超えているときにパラメータの値をエンジンの出力トルクを低下させる方向に補正するべく補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲の下限未満であるときには補正割合を零とするように構成される。
【0019】
エンジンの出力トルクに影響を及ぼすパラメータとしては、制御の容易性及びエンジンの出力トルクに及ぼす効果の点から、点火時期を用いるのが最も好ましい。本願に開示された第3の発明においては、点火時期をパラメータとして用いる。一般にエンジンにおいては、点火時期を進角することによりエンジンの出力トルクを高めることができ、点火時期を遅角させることにより、エンジンの出力トルクを弱めることができる。
【0020】
第3の発明においては、エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、車体の傾斜量を検出する車体傾斜量検出手段と、エンジンの各回転速度における基準点火時期を前記エンジンのピストンの上死点位置からの進み角またはエンジンの基準クランク角位置からの遅れ角の形で演算する点火時期演算手段と、回転速度検出手段により検出された回転速度とスロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度とに対して車体が傾斜しているときの点火時期の基準補正量を演算する基準補正量演算手段と、車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量に応じて前記基準補正量に乗じる補正割合の大きさと符号とを決定する補正割合決定手段と、基準補正量に補正割合を乗じてプラスまたはマイナスの符号を有する実補正量を演算する補正量演算手段と、点火時期演算手段により演算された基準点火時期を補正量演算手段により演算された実補正量だけ補正して実点火時期を決定する実点火時期決定手段とが設けられる。
【0021】
本発明においては、補正割合決定手段が、車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲にあるときに点火時期を進角方向に補正するべく補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲の上限を超えているときに点火時期を遅角させる方向に補正するべく補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲の下限未満であるときに補正割合を零とするように構成される。
【0022】
本願に開示される第4の発明は、第3の発明に適用されるもので、本発明においては、基準補正量演算手段が、スロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度が設定された制御開始開度以上であるときに、検出されたスロットル開度が大きい場合ほど点火時期の補正量を大きくするように構成される。制御開始開度は、回転速度の上昇に伴って大きくなっていくように、回転速度に応じて変化させられる。
【0023】
一般にエンジンの回転速度が低い状態で自動二輪車が運転されるときには、スロットル開度が小さい状態にされ、エンジンの回転速度が高い状態で運転されるときには、スロットル開度が大きい状態にされる。このように、自動二輪車が、エンジンの回転速度が低い状態で運転されるときと、エンジンの回転速度が高い状態で運転されるときとでは、スロットル開度が異なるため、点火時期等のパラメータの補正によるトラクション制御を開始するスロットル開度(制御開始開度)を一定にした場合には、エンジンの回転速度によって、制御が効き過ぎたり、制御が不足したりするおそれがある。これに対し、上記第4の発明のように、制御開始開度をエンジンの回転速度に応じて変化させるようにすると、エンジンの回転速度を低くして運転するときも、エンジンの回転速度を高くして運転するときも、パラメータの補正によるエンジンの出力トルク制御の効果を適度に効かせてトラクションコントロールを的確に行わせることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、車体の傾斜量が、後輪をスリップさせながら走行するドリフト走行が可能な範囲にあって、機関の回転速度とスロットル開度とが、コーナリング時にライダーがドリフト走行を行うことを意図しているときに取り得る値を示しているときに、エンジンの出力トルクに影響を及ぼすパラメータがドリフト走行を可能にするのに適した値(出力トルクを増大させる値)に補正されるので、ドリフト走行を容易に行わせることができる。
【0025】
また本発明によれば、車体の傾斜量がドリフト走行が可能な範囲を超えていて、検出された回転速度とスロットル開度とが、後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあるときの値を示しているときに、エンジンの出力トルクを低減させて後輪のグリップ力を回復させるのに適した値にパラメータを補正するので、カーブ走行時に車体が転倒するのを防ぐことができる。
【0026】
本発明において、点火時期等のパラメータの補正によるトラクション制御を開始するスロットル開度(制御開始開度)を、エンジンの回転速度に応じて変化させるようにした場合には、エンジンの回転速度を低くして運転するときも、エンジンの回転速度を高くして運転するときも、パラメータの補正による効果を適度に効かせてトラクションコントロールを的確に行わせることができるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の実施形態において補正割合を決定するために用いるマップの構造の一例を示した図表である。
【図3】図2に示したマップの構造を説明するためのグラフである。
【図4】本発明の実施形態において、エンジンの回転速度とスロットル開度とに対してパラメータ(点火時期)の基準補正量を演算するために用いるマップの構造の一例を示した図表である。
【図5】本発明の一実施形態においてECUのコンピュ−タに実行させるプログラムのアルゴリズムの要部を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明は、エンジンと、従動輪である前輪と、エンジンにより駆動される駆動輪である後輪とを車体に取り付けた自動二輪車のエンジンを制御する自動二輪車用エンジン制御装置に係わるもので、その基本的構成は図1に示された通りである。
【0029】
図1において、1は自動二輪車の後輪を駆動するエンジン、2はエンジン1を点火する周知の点火装置である。点火装置2は、エンジンの各気筒に対して設けられた点火コイルと、エンジンの各気筒の点火時期において各気筒用の点火信号が与えられたときに各気筒用の点火コイルの一次電流に急激な変化を生じさせる一次電流制御回路とを備えている。点火装置2は、各気筒用の一次電流制御回路に点火信号が与えられたときに、各気筒用の点火コイルの一次電流に急激な変化を生じさせて点火コイルの二次コイルに高電圧を誘起させる。この高電圧は、エンジンの各気筒に取り付けられた点火プラグに印加されるため、各気筒の点火プラグで火花が生じて各気筒が点火される。点火装置2としては、コンデンサ放電式の点火装置や、電流遮断型の点火装置等、種々の形式のものが知られているが、本発明では、いずれの形式の点火装置を用いてもよい。
【0030】
本発明においては、自動二輪車がコーナに進入したときの車体の傾斜角がドリフト走行が可能な範囲にあって、エンジンの回転速度とスロットル開度とが、コーナリング時にドリフト走行を行う際にとり得る値を示しているときに、エンジンの出力トルクに影響を及ぼすパラメータを補正することにより、エンジンの出力トルクを増大させてドリフト走行を行い易くし、車体の傾斜角が、ドリフト走行が可能な範囲を超えてスリップにより車体が転倒するおそれがあるときには、上記パラメータを補正することにより、エンジンの出力トルクを減少させて、後輪のグリップ力を回復させる。
【0031】
エンジンの出力トルクに影響を及ぼすパラメータとしては、エンジンの点火時期の他、エンジンの排気タイミングや、スロットルバルブをバイパスするように設けたバイパス流量補正用バルブの開度等を用いることができるが、このパラメータとしては、制御の容易性及び制御した結果得られる効果の点から、エンジンの点火時期を用いるのが最も好ましい。そのため、本実施形態では、エンジンの点火時期を、車体が傾斜した時にエンジンの出力トルクを制御するために変化させるパラメータとして用いる。エンジンの点火時期は、点火装置2に点火信号を与えるタイミングを制御することにより適宜に制御することができる。本実施形態では、エンジンを制御するために電子式制御ユニット(ECU)3が設けられ、このECU3により点火装置2も制御される。
【0032】
ECU3にエンジンの情報を与えるため、エンジン1に、パルス信号発生器4と、スロットルバルブの開度(スロットル開度)を検出するスロットルセンサ5とが取り付けられている。
【0033】
パルス信号発生器4は、エンジンのクランク軸により駆動されて、エンジンの各気筒のピストンの上死点位置(ピストンが上死点に達したときのクランク角位置)に対して十分に進角した位置に設定された各気筒の基準クランク角位置で各気筒用の第1のパルス信号を発生し、各気筒のピストンの上死点位置付近で各気筒用の第2のパルス信号を発生する。パルス信号発生器4が各気筒用の第1のパルス信号を発生するクランク角位置(基準クランク角位置)は、各気筒の点火時期の計測を開始する基準位置として用いられる。
【0034】
スロットルセンサ5は、例えばエンジンのスロットルバルブの操作軸の回転角を検出するポテンショメータからなっていて、スロットルバルブの開度に比例した信号を出力する。
【0035】
上記パルス信号発生器4及びスロットルセンサ5の出力は、所定のインターフェースを通してECU3に入力されている。
【0036】
また本実施形態では、自動二輪車の車体に加速度センサなどからなる傾斜角センサ6が取り付けられ、この傾斜角センサにより、走行中の自動二輪車の車体の傾斜角の情報が得られるようになっている。
【0037】
ECU3は、パルス信号発生器4がパルスを発生する周期からエンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段7と、スロットルセンサ5の出力からスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段8と、傾斜角センサ6の出力から車体の傾斜量を検出する車体傾斜量検出手段9とを備えていて、これらの検出手段により、エンジンの回転速度、スロットル開度及び車体の傾斜量の情報を得るようになっている。
【0038】
車体の傾斜量は、車体の特定の方向(例えば鉛直方向)に対する傾斜角そのもので表してもよく、傾斜の程度(度合)で表してもよい。本実施形態では、走行中の車体の傾斜量を、車体の前後方向と直交する垂直面と、後輪の車軸の軸線と直交する平面との交線が前記垂直面上で鉛直方向に対してなす傾斜角で表すものとする。
【0039】
ECU3はまた、エンジンの各回転速度における基準点火時期(パラメータの基準目標値)を演算する点火時期演算手段(パラメータ演算手段)10と、車体が傾斜しているときの点火時期の補正量を決定する点火時期補正量決定手段(パラメータ補正量決定手段)11と、他の制御条件による点火時期補正量決定手段12と、基準点火時期を補正して実点火時期を決定する実点火時期決定手段(パラメータの実目標値決定手段)13と、実点火時期決定手段13により決定された点火時期に点火装置に与える点火信号を発生する点火信号発生部(パラメータ制御信号発生部)14とを備えている。
【0040】
点火時期演算手段10は、エンジン1の回転速度に対してエンジンの各気筒の基準点火時期θを、各気筒のピストンの上死点位置(各気筒のピストンが上死点に達したときのクランク角位置)からの進み角(上死点位置から基準点火時期に相当するクランク角位置までの進み角)、または各気筒の上死点位置よりも十分に進角した位置に設定された基準クランク角位置からの遅れ角(基準クランク角位置から基準点火時期に相当するクランク角位置までの遅れ角)の形で演算する。本実施形態では、点火時期演算手段10が、各気筒の基準点火時期を、各気筒の上死点位置からの進み角として演算するものとする。
【0041】
点火時期補正量決定手段11は、車体が傾斜しているときの点火時期の補正量を決定する手段である。本実施形態で用いる点火時期補正量決定手段11は、車体傾斜量検出手段9により検出された車体の傾斜量が、後輪をスリップさせながら走行するドリフト走行が可能な範囲にあって、回転速度検出手段7により検出された回転速度の値及びスロットル開度検出手段8により検出されたスロットル開度の値が、ライダーがコーナリング時にドリフト走行を行うことを意図しているときに取り得る値を示しているときに、点火時期の実目標値をドリフト走行を可能にするのに適した値とし、検出された車体の傾斜量がドリフト走行が可能な範囲を超えていて、検出された回転速度及びスロットル開度の値が、後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあるときの値を示しているときに、点火時期を、エンジンの出力トルクを低減させて後輪のグリップ力を回復させるのに適した時期とし、検出された車体の傾斜角がドリフト走行が可能な範囲の下限値未満であるときには点火時期を基準点火時期とするように、点火時期の補正量を決定する。
【0042】
本実施形態では、点火時期補正量決定手段11が、基準補正量演算手段15と、補正割合決定手段16と、実補正量演算手段17とにより構成されている。
【0043】
基準補正量演算手段15は、回転速度検出手段7により検出された回転速度と、スロットル開度検出手段8により検出されたスロットル開度とに対して、車体が傾斜しているときの点火時期の基準補正量B[°]を演算する手段である。
【0044】
基準補正量Bは、車体傾斜時に点火時期を進角側又は、遅角側に補正する際の補正量の基準値である。本発明においては、車体の傾斜角が、ドリフト走行が可能な範囲にあって、エンジンの回転速度及びスロットル開度が、コーナリング時にライダーがドリフト走行を行うことを意図しているときに取り得る値を示しているときに、点火時期を進角側に補正することにより、エンジンの出力トルクを増大させてドリフト走行を容易にする。また車体の傾斜角が、ドリフト走行が可能な範囲を超えていて、エンジンの回転速度及びスロットル開度が、後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあるときの値を示しているときには、点火時期を遅角側に補正して、エンジンの出力トルクを減少させ、これにより後輪のグリップ力を回復させて車体が転倒するのを抑制する。車体傾斜時の点火時期を進角側または遅角側に補正する際の実際の補正量は、基準補正量Bと後記する補正割合Aとの積により決める。
【0045】
本実施形態の基準補正量演算手段15は、エンジンの回転速度とスロットル開度と点火時期の基準補正量との間の関係を与える三次元マップを用いて、車体が傾斜しているときの点火時期の基準補正量を、エンジンの回転速度とスロットル開度とに対して補間演算する。
【0046】
図4は、エンジンの回転速度とスロットル開度と点火時期の基準補正量との間の関係を与える三次元マップの構造の一例を示している。図4において、表の左端に縦方向に並べて表示されている1000乃至10000の各数値はエンジンの回転速度[r/min]を示し、表の最上部に横方向に並べて表示されている0乃至90の数値はスロットル開度[°]を示している。また回転速度及びスロットル開度よりも内側に表示されている 0,2,4,6,8,10の数値は、各気筒の上死点位置から各基準点火時期に相当するクランク角位置までの進み角として演算されている各気筒の基準点火時期を補正するために用いる基準補正量B[°]を示している。
【0047】
一般に、自動二輪車がエンジンの回転速度が高い状態で運転されているときには、スロットル開度が大きい状態にある。またエンジンの回転速度が低い状態で運転されるときには、定常走行ではスロットル開度が小さい範囲に保たれ、ドリフト走行時にはスロットルが大きく開かれる。そのため、図4に示したマップにおいては、エンジンの回転速度が高く、スロットル開度が小さい領域で基準補正量を0とし、エンジンの回転速度が高く、スロットル開度が大きい領域で基準補正量Bを増大させている。
【0048】
またエンジンの回転速度が低い状態で自動二輪車が運転されるときには、定常走行時にはスロットルが絞られ、ドリフト走行時にはスロットルが大きく開かれる。そのため、エンジンの回転速度が低い領域では、スロットル開度が小さい範囲から基準補正量Bによる点火時期の補正が働くように、基準補正量Bを0以外の値とし、スロットル開度の増加に伴って、基準補正量Bの値を増大させるようにしている。
【0049】
従って、回転速度とスロットル開度と基準補正量との間の関係を与える図4のマップの左下の領域では、基準補正量を0として車体傾斜時の点火時期の補正が行われないようにし、図4に矢印で示したように、マップの右上の領域に行くに従って基準補正量Bの値を大きくして、車体傾斜時に点火時期を大きく補正するようにしている。基準補正量Bを演算するためのマップをこのように構成しておくことにより、特定の運転領域で点火時期の補正が効かなかったり、効き過ぎたりするのを防いで、回転速度とスロットル開度とに対する車体傾斜時の点火時期の補正を、全運転領域で的確に行わせることができる。
【0050】
一般に、ライダーがドリフト走行を行う際には、一度エンジンの回転速度を落としてコーナーに進入した後、スロットルを大きく開いてエンジンの出力トルクを増大させようとする操作を行う。図4に示したマップは、このドリフト走行時のライダーの運転操作の特徴から、コーナリング時にライダーがドリフト走行を行うことを意図しているときにエンジンの回転速度及びスロットル開度がそれぞれとり得る値を定めて、エンジンの回転速度及びスロットル開度が定められた値を示しているときに、ドリフト走行をアシストするのに適した点火時期の補正を行わせるように作成されている。
【0051】
即ち、エンジンの回転速度が比較的低く、スロットルが大きく開かれる領域(図4のマップの右上の領域)で、スロットル開度の増大に伴って、基準補正量Bの値を大きくして、基準補正量Bによる点火時期の補正が大きく働くようにし、ドリフト走行時に、スロットル開度の増大に伴って、点火時期の進角側への補正量を増大させることにより、エンジンの出力トルクを増大させて、ドリフト走行を容易にするようにしている。またスロットル開度を大きくして、ドリフト走行を行っている際に車体の傾斜角がドリフト走行が可能な範囲を超えて、後輪のスリップ量が増大し、車体が転倒するおそれが生じたときに、点火時期の遅角側への補正量を十分に大きくするために、スロットル開度が大きい範囲で、基準補正量Bの値を大きくしている。
【0052】
本実施形態では、基準補正量演算手段15が、スロットル開度検出手段8により検出されたスロットル開度が設定された制御開始開度以上であるときに、検出されたスロットル開度が大きい場合ほど点火時期の補正量を大きくするように構成され、制御開始開度は、回転速度の上昇に伴って大きくなっていように、回転速度に応じて変化させられる。図4に示した例では、各回転速度の欄において、基準補正量Bが初めて0以外の値をとるときのスロットル開度が、各回転速度における制御開始開度である。例えば、エンジンの回転速度が1000〜3000r/minのときの制御開始開度は20°であり、回転速度が4000〜5000r/minのときの制御開始開度は30°である。このように、制御開始開度をエンジンの回転速度に応じて変化させるようにすると、エンジンの回転速度を低くして運転するときも、エンジンの回転速度を高くして運転するときも、点火時期の補正によるエンジンの出力トルク制御の効果を適度に効かせてトラクションコントロールを的確に行わせることができる。
【0053】
補正割合決定手段16は、車体傾斜量検出手段9により検出された傾斜量に応じて点火時期を補正するために基準補正量Bに乗じる補正割合A[%]の大きさと符号とを決定する手段である。この補正割合決定手段16は、車体の傾斜角と補正割合との間の関係を与える二次元マップを用いて、車体の傾斜角に対して補正割合Aを補間演算する。
【0054】
図2及び図3は、車体の傾斜角と補正割合との間の関係を与える二次元マップの構造の一例を示している。図2の左欄に示された数値は、車体の鉛直方向に対する傾斜角を示し、右欄の数値は、補正割合A[%]を示している。
【0055】
本実施形態では、車体の傾斜角が0°ないし20°のときに補正割合Aを0[%]としている。また車体の傾斜角が30°ないし40°の範囲では補正割合Aを+100[%]とし、車体の傾斜角が60°ないし70°の範囲で補正割合Aを−100[%]としている。傾斜角が20°を超え、30°未満の範囲、40°を超え、50°未満の範囲及び50°を超え、60°未満の範囲では、補正割合Aを補間法により演算し、50°未満の範囲では補正割合の符号を+とし、50°を超える範囲では補正割合の符号を−とする。
【0056】
実補正量演算手段17は、基準補正量演算手段15により演算された基準補正量B[°]に補正割合決定手段16により決定された補正割合A[%]を乗じてプラスまたはマイナスの符号を有する実補正量C[°](=B×A)を演算する。
【0057】
実点火時期演算手段(実目標値決定手段)13は、点火時期演算手段10により演算された基準点火時期θ(この例では上死点位置から基準点火時期に相当するクランク角位置までの進角度)に実補正量演算手段17により演算された実補正量Cを加算して、実点火時期θf=θ+Cを演算する。従って、補正割合Aの符号が+であるときには、実点火時期θfが基準点火時期θよりも進角側に補正され、補正割合Aの符号が−であるときには、実点火時期θfが基準点火時期θよりも遅角側に補正される。
【0058】
この例では、車体の傾斜角が20[°]以下のときには、点火時期の補正を行わないようにしている。そのため、車体の傾斜角が20[°]以下のときには、補正割合Aを0として、実補正量C(=B×A)を0とすることにより、点火時期の補正を行わないようにしている。
【0059】
またこの例では、車体の傾斜角が20[°]を超え、50[°]未満の範囲にあるときに、車体の傾斜角がドリフト走行が可能な範囲にあるとして、エンジンの点火時期を、点火時期演算手段10により演算された基準点火時期θよりも進角させる方向に点火時期を補正して、エンジンの出力トルクを増大させ、ドリフト走行を容易にする。
【0060】
点火時期の進角量は、車体の傾斜角に応じて補正割合Aを変化させることにより変化させる。図2及び図3に示した例では、傾斜角が30°ないし40°の範囲を最もドリフト走行に適した範囲として、この範囲で補正割合Aを+100[%]とすることにより、エンジンの回転速度とスロットル開度とにより決まる基準補正量B[°]の100[%]を実補正量として、点火時期を、エンジンの回転速度とスロットル開度とにより決まる進角量の上限限まで進角させるようにしている。
【0061】
また車体の傾斜角が20°から30°の範囲にあるときには、傾斜角の増加に伴って、実補正量をエンジンの回転速度とスロットル開度とにより決まる基準補正量Bの0[%]から100[%]まで漸増させ、車体の傾斜角が40°ないし50°の範囲では、傾斜角の増加に伴って、実補正量をエンジンの回転速度とスロットル開度とにより決まる基準補正量Bの100[%]から0[%]まで漸減させるようにしている。
【0062】
また車体の傾斜角が50°以上の範囲にあるとき(傾斜角がドリフト走行が可能な範囲の上限を超えているとき)には、後輪がスリップして車体が転倒するおそれがあるため、補正割合Aの符号を−として、エンジンの点火時期を点火時期演算手段10により演算された基準点火時期θよりも遅角させる方向に補正してエンジンの出力トルクを低下させ、これにより後輪のグリップ力を回復させて、後輪がスリップするのを抑制する。
【0063】
本実施形態のように構成すると、車体の傾斜角が後輪をスリップさせながら走行するドリフト走行が可能な範囲にあって、機関の回転速度とスロットル開度とから、ライダーがコーナリング時にドリフト走行を行うことを意図していると判別されたときに、エンジンの点火時期がドリフト走行を可能にするのに適した値(エンジンの出力トルクを増大させる値)に補正されるので、カーブ走行時にドリフト走行に適合したトラクション制御(後輪から路面への動力伝達の制御)を行わせて、ライダーの意のままにドリフト走行を行わせることができる。
【0064】
また車体の傾斜量がドリフト走行が可能な範囲を超えていて、検出された回転速度とスロットル開度とから、後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあると判別されたときには、点火時期がエンジンの出力トルクを低減させて後輪のグリップ力を回復させるのに適した値に補正されるので、カーブ走行時に車体が転倒するのを防ぐことができる。
【0065】
実点火時期決定手段13はまた、必要に応じて、車体の傾斜角以外の制御条件に対して点火時期を補正するときに、点火時期演算手段10により演算された基準点火時期に、他の制御条件による点火時期補正量決定手段12から与えられる補正量を加算して、点火時期を補正する。点火時期補正量決定手段12から与えられる補正量は、制御条件の値に応じて+または−の符号をとる。
【0066】
実点火時期決定手段13が決定した実点火時期は、点火信号発生部(パラメータ制御信号発生部)14に与えられる。点火信号発生部14は、パルス信号発生器4が第1のパルス信号を発生する基準クランク角位置から、決定された実点火時期に相当するクランク角位置までクランク軸が回転する間にタイマに計数させる計数値を演算して、パルス信号発生器4が第1のパルス信号を発生したときに、演算した計数値をタイマにセットしてその計数を開始させる。点火信号発生部14は、上記タイマがセットされた計数値の計数を完了したときに点火装置2に点火信号を与えて、点火動作を行わせる。
【0067】
ECU3に設ける各手段は、コンピュータに所定のプログラムを実行させることにより構成することができる。図5を参照すると、点火時期演算手段10と、点火時期補正量決定手段11と、実点火時期決定手段13と、点火信号発生部14とを構成するためにコンピュータに実行させるタスクのアルゴリズムを示すフローチャートが示されている。図5に示したタスクは、エンジンのクランク軸の回転に同期して起動される。
【0068】
図5に示したアルゴリズムによる場合には、先ずステップ101で、エンジンの各回転速度における基準点火時期を、回転速度と点火時期との間の関係を与える点火時期演算用マップを用いて演算する。次いでステップ102に進んで、車体の傾斜角に応じて点火時期の補正割合Aを決定する。補正割合Aは図2及び図3に示したマップを用いて補間演算を行うことにより決定する。
【0069】
補正割合Aを演算した後、ステップ103において、現在の回転速度とスロットル開度とに対して点火時期の基準補正量Bを演算する。
【0070】
次いでステップ104で点火時期の基準補正量Bに補正割合Aを乗じて点火時期の実補正量Cを演算し、ステップ105で、基準点火時期に実補正量を加算して実点火時期を演算する。次いでステップ106に進んで、実点火時期で点火信号を発生させる処理を行わせる。ステップ106の処理では、パルス信号発生器4が基準クランク角位置でパルスを発生したときに、演算されている実点火時期を検出するためにタイマに計数させる計数値をタイマにセットし、該タイマがセットされた計数値を計数したときに点火信号を発生させる。
【0071】
図5に示したアルゴリズムによる場合には、ステップ101により点火時期演算手段10が構成され、ステップ102ないし104により、点火時期補正量決定手段11が構成される。またステップ105により、実点火時期決定手段13が構成され、ステップ106により点火信号発生部14が構成される。
【0072】
上記の実施形態では、点火時期をエンジンの出力トルクを制御するために変化させるパラメータとして用いているが、他のパラメータを用いる場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 エンジン
2 点火装置
3 ECU
4 パルス信号発生器
5 スロットルセンサ
6 傾斜角センサ
7 回転速度検出手段
8 スロットル開度検出手段
9 車体傾斜量検出手段
10 点火時期(パラメータ)演算手段
11 点火時期(パラメータ)補正量決定手段
13 実点火時期決定手段(実目標値決定手段)
14 点火信号発生部(パラメータ制御信号発生部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、従動輪である前輪と、前記エンジンにより駆動される駆動輪である後輪とを車体に取り付けた自動二輪車の前記エンジンを制御する自動二輪車用エンジン制御装置であって、
前記エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、
前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記車体の傾斜量を検出する車体傾斜量検出手段と、
前記エンジンの出力トルクに影響を及ぼすパラメータの基準目標値を演算するパラメータ演算手段と、
前記車体傾斜量検出手段により検出された車体の傾斜量が前記後輪をスリップさせながら走行するドリフト走行が可能な範囲にあって、前記回転速度検出手段により検出された回転速度と前記スロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度とが、コーナリング時にライダーがドリフト走行を行うことを意図しているときに取り得る値を示しているときに前記パラメータの実目標値を前記ドリフト走行を可能にするのに適した値とし、検出された車体の傾斜量が前記ドリフト走行が可能な範囲を超えていて、検出された回転速度とスロットル開度とが、前記後輪のグリップ力が低下して車体が転倒するおそれがあるときの値を示しているときに前記パラメータの実目標値を前記エンジンの出力トルクを低減させて前記後輪のグリップ力を回復させるのに適した値とし、検出された車体の傾斜角が前記ドリフト走行が可能な範囲の下限値未満であるときには前記パラメータの前記基準目標値を実目標値とするように、前記パラメータの基準目標値の補正量を決定するパラメータ補正量決定手段と、
前記パラメータ演算手段により演算されたパラメータの基準目標値と前記パラメータ補正量決定手段により決定された補正量とから前記パラメータの実目標値を決定する実目標値決定手段と、
前記パラメータの値を前記実目標値に等しくするように制御するパラメータ制御部と、
を具備した自動二輪車用エンジン制御装置。
【請求項2】
前記パラメータ補正量決定手段は、
前記回転速度検出手段により検出された回転速度と前記スロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度とに対して前記車体が傾斜しているときの前記パラメータの適正値を求めるために前記基準目標値に加算する基準補正量を演算する基準補正量演算手段と、
前記車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量に応じて前記パラメータの値を補正するために前記基準補正量に乗じる補正割合の大きさと符号とを決定する補正割合決定手段と、
前記基準補正量に前記補正割合を乗じてプラスまたはマイナスの符号を有する実補正量を演算する実補正量演算手段と、
前記パラメータ演算手段により演算されたパラメータの基準目標値に前記実補正量演算手段により演算された実補正量を加算して前記パラメータの実目標値を決定する実目標値決定手段と、
を具備し、
前記補正割合決定手段は、前記車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲にあるときに前記パラメータの値を前記エンジンの出力を増大させる方向に補正するべく前記補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量が前記ドリフト走行が可能な範囲の上限を超えているときに前記パラメータの値を前記エンジンの出力トルクを低下させる方向に補正するべく前記補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量が前記ドリフト走行が可能な範囲の下限未満であるときには前記補正割合を零とするように構成されている、
請求項1に記載の自動二輪車用エンジン制御装置。
【請求項3】
エンジンと、従動輪である前輪と、前記エンジンにより駆動される駆動輪である後輪とを車体に取り付けた自動二輪車の前記エンジンを制御する自動二輪車用エンジン制御装置であって、
前記エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、
前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記車体の傾斜量を検出する車体傾斜量検出手段と、
前記エンジンの各回転速度における基準点火時期を前記エンジンのピストンの上死点位置からの進み角またはエンジンの基準クランク角位置からの遅れ角の形で演算する点火時期演算手段と、
前記回転速度検出手段により検出された回転速度と前記スロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度とに対して前記車体が傾斜しているときの前記点火時期の基準補正量を演算する基準補正量演算手段と、
前記車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量に応じて前記基準補正量に乗じる補正割合の大きさと符号とを決定する補正割合決定手段と、
前記基準補正量に前記補正割合を乗じてプラスまたはマイナスの符号を有する実補正量を演算する実補正量演算手段と、
前記点火時期演算手段により演算された基準点火時期を前記補正量演算手段により演算された実補正量だけ補正して実点火時期を決定する実点火時期決定手段と、
を具備し、
前記補正割合決定手段は、前記車体傾斜量検出手段により検出された傾斜量がドリフト走行が可能な範囲にあるときに前記点火時期を進角方向に補正するべく前記補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量が前記ドリフト走行が可能な範囲の上限を超えているときに前記点火時期を遅角させる方向に補正するべく前記補正割合の符号を決定し、検出された傾斜量が前記ドリフト走行が可能な範囲の下限未満であるときに前記補正割合を零とするように構成されている、
自動二輪車用エンジン制御装置。
【請求項4】
前記基準補正量演算手段は、前記スロットル開度検出手段により検出されたスロットル開度が設定された制御開始開度以上であるときに、検出されたスロットル開度が大きい場合ほど点火時期の補正量を大きくするように構成され、
前記制御開始開度は、前記回転速度の上昇に伴って大きくなっていように、回転速度に応じて変化させられる請求項3に記載の自動二輪車用エンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−99382(P2011−99382A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254622(P2009−254622)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】