説明

自動変速機のシフト装置

【課題】簡易な構成によって短時間で組み付けが行える自動変速機のシフト装置を提供する。
【解決手段】駆動源92と、駆動源92によって回転駆動されるピニオン軸94と、ピニオン軸94の先端に形成されるピニオン94aと、トランスミッションケースに軸線方向に移動可能に支持される変速軸部材95と、変速軸部材95に連結され該変速軸部材95の作動によって変速機構を係脱させる変速部材91と、変速軸部材95の円筒外周部の一部に形成されるラック95aと、ラック95aの歯の軸受側の歯幅方向端部およびピニオン94aの歯の先端部の少なくとも一方に形成されるチャンファと、を備え、ピニオン軸94がトランスミッションケースに設けられた軸受105に軸線方向に挿入されるとピニオン94aおよびラック95aの少なくとも一方に形成されたチャンファに誘導されピニオン94aとラック95aとが噛合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機のシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両用の自動変速機として、動力の伝達効率がよいとされている歯車式手動変速機をベースにした変速機の自動化がいくつか提案されている。例えば特許文献1に開示されるように、電動モータによってフォーク駆動機構(以降シフト装置と称す)を駆動し、シフト装置が有するフォークに係合されたギヤシフトクラッチのスリーブを作動させギヤ段を切替えるものがある。
【0003】
具体的には特許文献1に開示される技術では、シフト装置が4つのギヤシフトクラッチ101〜104にそれぞれ対応して4つ設けられている。そして電動モータ131が電動モータ131の回転軸にそれぞれ設けられたウォームギヤ132を回転駆動させ、ウォームギヤ132はウォームギヤ132に噛合するウォームホイール133をそれぞれ回転駆動させる。ウォームホイール133の回転軸は各電動モータ131の回転軸と直交して配置されている。ウォームホイール133の回転軸(ピニオン軸)の先端にはピニオンギヤ134がそれぞれ形成され、該ピニオンギヤ134はラック軸135(フォークシャフト)に形成された各ラック部と噛合している。これにより電動モータ131の駆動によってラック部に噛合するピニオンギヤ134が回転駆動されるとラック軸135に固定されたフォーク121〜124が軸方向に進退移動しギヤシフトクラッチ101〜104のスリーブ302を作動させギヤ段を切替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−196745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の様に構成される特許文献1に記載の従来技術においては、ラック軸135(フォークシャフト)が自動変速機のケース内において変速機の出力軸と平行に支承されている。そしてピニオン軸を含むシフト装置が自動変速機のケースの外から組み付けられる。このときピニオン軸はピニオンギヤ134が形成された側からケースに貫通された支持穴を挿通されピニオンギヤ134がラック軸135に形成されたラック部の歯部と噛合するよう組み付けがされる。そしてピニオンギヤ134とラック部の歯部とが良好に噛合せず歯部同士が干渉する場合には、ピニオンギヤ134を少しずつ回転させ、良好に噛合できる位置を探りながら組み付けを行なう必要があり、組み付け工数が増大しコスト高になる虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成によって短時間で組み付けが行える自動変速機のシフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る自動変速機のシフト装置の発明は、駆動源と、前記駆動源によって回転駆動されトランスミッションケースに設けられた軸受によって回転可能に支承されたピニオン軸と、前記ピニオン軸の先端に形成されるピニオンと、前記トランスミッションケースに軸線方向に移動可能に支持される変速軸部材と、前記変速軸部材に連結され該変速軸部材の作動によって変速機構を係脱させる変速部材と、前記変速軸部材の円筒外周部の一部に形成されるラックと、前記ラックの歯の前記軸受側の歯幅方向端部および前記ピニオンの歯の先端部の少なくとも一方に形成されるチャンファと、を備え、前記ピニオン軸が前記トランスミッションケースに設けられた軸受に軸線方向に挿入されると前記ピニオンおよび前記ラックの少なくとも一方に形成された前記チャンファに誘導され前記ピニオンと前記ラックとが噛合される。
【0008】
請求項2に係る自動変速機のシフト装置の発明は、請求項1において、前記変速軸部材は前記変速機構のスリーブに係合するフォークが固定され前記軸線方向への作動によって前記フォークを駆動し前記スリーブを作動させて前記変速機構を係脱するフォークシャフトである。
【0009】
請求項3に係る自動変速機のシフト装置の発明は、請求項1または2において、前記変速軸部材は前記軸線方向における所定の位置で移動が保持される位置保持装置を有し、前記ラックに形成された前記チャンファは、前記位置保持装置によって前記変速軸部材が前記所定の位置に保持された状態において、前記ピニオン軸を前記軸受にガイドさせながら挿入したときに前記ピニオンと噛合する前記ラックの複数の歯のみに設けられる。
【0010】
請求項4に係る自動変速機のシフト装置の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記ピニオン軸が前記トランスミッションケースに設けられた軸受に軸線方向に挿入されると前記ピニオンは前記ラックの前記軸受側の歯幅方向端部のチャンファに誘導されるとともに、前記ラックの歯底に連なる前記変速軸部材の円筒面にガイドされて前記ラックと噛合される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、変速軸部材のラックの歯においてピニオン軸が挿入されてくる軸受側の端部およびピニオンの歯の先端部の少なくとも一方にはチャンファが形成されている。このため、シフト装置の組み付け時にピニオン軸がトランスミッションケースに形成された軸受にガイドされながらラックに接近し当接すると、ピニオンの歯またはラックの歯は対向するピニオンの歯またはラックの歯に形成された隣り合うチャンファの先端間に容易に係合する。そしてピニオン軸がさらに挿入されると、ラックは、自身の歯に形成されたチャンファのテーパ面がピニオンの歯または該歯に形成されたチャンファのテーパ面によって、またはチャンファを設けていないラックの歯がピニオンに形成されたチャンファのテーパ面によってラックの歯筋と平行に押しつけられる。こうすることにより変速軸部材は、押しつけられた力の大きさおよびチャンファのテーパ角度に応じた変速軸部材の移動方向への分力を受けて軸線方向に移動し、やがてピニオンはラックに噛合する。これによりスペースが狭く組み付けが困難な自動変速機においてピニオン軸の回転方向のばらつきを吸収してピニオンをラックに短時間で良好に噛合させ低コストに組み付けることができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、請求項1において、変速軸部材はフォークシャフトである。つまり、シフト装置は複数ある変速軸部材(フォークシャフト)毎にピニオンが噛合するためのラックが形成され、該ピニオンが回転駆動することによってフォークシャフトおよびシフトフォークを移動させ変速機構を係脱させてギヤ段を変更する。このようにシフト装置は変速軸部材の数だけ設けられており、シフト装置を組み付ける際に短縮される時間の効果はより大きなものとなる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、請求項1または2において、変速軸部材は位置保持装置によって軸線方向における所定の位置で移動が保持される。そして所定の位置に保持された状態において、組み付けのためピニオン軸を軸受にガイドさせながら挿入したときにピニオンと噛合するラックの複数の歯のみにチャンファが設けられる。このため、ラックの歯の強度を低減させるチャンファの形成を最小限に留めることができ信頼性が確保される。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至3のいずれか1項において、ラックが円筒の変速軸部材に形成されるので、ピニオン軸がトランスミッションケースに設けられた軸受に軸線方向に挿入されるとピニオンはラックの軸受側の歯幅方向端部に形成されたチャンファに誘導されるとともに、ラックの歯底に連なる変速軸部材の円筒面にガイドされてラックと噛合される。このようにピニオン軸の半径方向のばらつきを吸収しピニオンをラックに短時間で良好に噛合させ低コストに組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係るケース10のトランスミッションケース11及びクラッチハウジング12を側面からみた透視図である。
【図2】図1における2−2断面図である。
【図3】変速機の全体構造を示すスケルトン図である。
【図4】第1の実施形態に係るシフト装置の側断面図である。
【図5】図4のA視図(a)とB視図(b)でありチャンファ形状を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る自動変速機に搭載されるシフト装置の透視概要図である。
【図7】第2の実施形態に係るシフト装置の組み付け説明図である。
【図8】変速軸部材が保持位置に保持された状態を示す位置保持装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化したシフト装置が適用される自動変速機の第1の実施形態について、図1〜図5を参照し説明する。第1の実施形態である自動変速機1は、図1〜図3に示すように、前進7速のデュアルクラッチ式自動変速機であり、ケース10内の軸線方向に、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、及び第2副軸32を備えている。またケース10内には、図3に示すように、デュアルクラッチ40、各変速段の駆動ギヤ51〜57、最終減速駆動ギヤ58、68、各変速段の従動ギヤ61〜67、後進ギヤ70、及びリングギヤ80を備えている。以降、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、及び第2副軸32と同一軸方向を入力軸方向と称す。
【0017】
ケース10は、図1に示すように、トランスミッションケース11と、クラッチハウジング12とを有する。図2に示すように、トランスミッションケース11には第1副軸31、及び第2副軸32に対してそれぞれ設けられた第1〜第4シフトクラッチ101〜104(本発明の変速機構に該当する)を駆動し各変速段を係脱して切替えるための本発明に係る各シフト装置90が設けられている(図2、図4参照)。なお、図2においては代表として2つのシフト装置90のみを示している。
【0018】
クラッチハウジング12は、トランスミッションケース11の端面と対向する端面を有し、トランスミッションケース11とボルト締結により固定されている。このクラッチハウジング12は、複数の軸受により各軸を支承するとともに、内部にデュアルクラッチ40を収容している。
【0019】
図1、図3に示すように、第1入力軸21は、軸受によりトランスミッションケース11、及びクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。また、第1入力軸21の外周面には、軸受を支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。そして、第1入力軸21には、1速駆動ギヤ51及び3速駆動ギヤ53が直接形成されている。5速駆動ギヤ55及び7速駆動ギヤ57は、第1入力軸21の外周面に形成された外歯スプラインにスプライン嵌合により圧入されている。また、第1入力軸21の端部には、デュアルクラッチ40の第1クラッチ41に連結される連結部が形成されている。
【0020】
第2入力軸22は、中空軸状に形成されており、第1入力軸21の1部の外周に複数の軸受を介して回転可能に支承され、且つ、軸受によりトランスミッションケース11、及びクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。つまり、第2入力軸22は、第1入力軸21に対して同心に相対回転可能に配置されている。また、第2入力軸22の外周面には、第1入力軸21と同様に、軸受を支持する部位と複数の外歯歯車が形成されている。第2入力軸22には、2速駆動ギヤ52、4速駆動ギヤ54及び6速駆動ギヤ56が形成されている。また、第2入力軸22の端部には、デュアルクラッチ40の第2クラッチ42に連結される連結部が形成されている。
【0021】
第1副軸31は、軸受によりトランスミッションケース11及びクラッチハウジング12に対して回転可能に支承され、トランスミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第1副軸31の外周面には、最終減速駆動ギヤ58が形成されるとともに、軸受を支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第1副軸31の外歯スプラインには、第1及び第3シフトクラッチ101、103の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。
【0022】
図2に示すように第1及び第3シフトクラッチ101、103部近傍のトランスミッションケース11外周面には第1及び第3シフトクラッチ101、103を駆動する各シフト装置90がそれぞれ固定されている。最終減速駆動ギヤ58は、ディファレンシャル(差動機構)のリングギヤ80に噛合している。リングギヤ80はトランスミッションケース11内に配置されるギヤのなかで軸線方向において内燃機関E/G側に配置されている。
さらに、第1副軸31には、1速従動ギヤ61、及び3速従動ギヤ63、4速従動ギヤ64、後進ギヤ70を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
【0023】
1速従動ギヤ61は第1入力軸21に形成された1速駆動ギヤ51と常時噛合されている。また、3速従動ギヤ63は、第1入力軸21に形成された3速駆動ギヤ53と常時噛合されている。
また、4速従動ギヤ64は、第2入力軸22に形成された4速駆動ギヤ54と常時噛合されている。
さらに、後進ギヤ70は、第2出力軸31に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62に一体的に形成された小径ギヤ62aに常時噛合されている。これにより、2速従動ギヤ62と噛合される第2入力軸22の2速駆動ギヤ52が第2入力軸22によって回転されると後進ギヤ70も同時に回転する。
【0024】
第2副軸32は、軸受によりトランスミッションケース11及びクラッチハウジング12に対して回転可能に軸承され、トランスミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第2副軸32の外周面には、第1副軸31と同様に、最終減速駆動ギヤ68が形成されるとともに、軸受を支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第2副軸32の外歯スプラインには、第2及び第4シフトクラッチ102、104の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。第2、第4シフトクラッチ102、104部近傍のトランスミッションケース11の外周面には第2、第4シフトクラッチ102、104を駆動する各シフト装置90がそれぞれ設けられている。最終減速駆動ギヤ68は、ディファレンシャルのリングギヤ80に噛合している。さらに、第2副軸32には、2速従動ギヤ62、5速従動ギヤ65、6速従動ギヤ66、7速従動ギヤ67、を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
【0025】
2速従動ギヤ62は第2入力軸22に形成された2速駆動ギヤ52と常時噛合されている。また、5速従動ギヤ65は、第1入力軸21に形成された5速駆動ギヤ55と常時噛合されている。また、6速従動ギヤ66は、第2入力軸22に形成された6速駆動ギヤ56と常時噛合されている。さらに、7速従動ギヤ67は、第2副軸32に遊転可能に支持される7速駆動ギヤ57に常時噛合されている。
【0026】
デュアルクラッチ40は、図3に示すように、内燃機関E/Gの回転駆動力を第1入力軸21に伝達する第1クラッチ41と、内燃機関E/Gの駆動力を第2入力軸22に伝達する第2クラッチ42とを有する。このデュアルクラッチ40は、図1の右側においてクラッチハウジング12に収容され、第1入力軸21及び第2入力軸22に対して同心に設けられている。第1クラッチ41は、第1入力軸21の連結部に連結され、第2クラッチ42は、第2入力軸22の連結部に連結されている。そして、車両の制御指令に基づき第1、第2入力軸21、22に対し、第1、第2クラッチ41、42を順次作動させ内燃機関E/Gとの連結を切り換えることにより、高速のシフト変更を可能としている。
【0027】
リングギヤ80は、図3に示すように、最終減速駆動ギヤ58及び最終減速駆動ギヤ68に噛合されることで、第1副軸31及び第2副軸32に常時回転連結されている。このリングギヤ80は、ケース10に軸支される出力軸80a及び差動機構(図示せず)を介して車両の駆動輪(図示せず)に連結されている。
【0028】
次に、第1〜第4シフトクラッチ101〜104(変速機構)について説明する。第1シフトクラッチ101は、第1副軸31の軸方向において1速従動ギヤ61と3速従動ギヤ63との間に配置されている。第2シフトクラッチ102は、第2副軸32の軸方向において2速従動ギヤ62と6速従動ギヤ66との間に配置されている。また第3シフトクラッチ103は、第1副軸31の軸方向において4速従動ギヤ64と後進ギヤ70との間に配置されている。さらに第4シフトクラッチ104は、第2副軸32の軸方向において5速従動ギヤ65と7速従動ギヤ67との間に配置されている。
【0029】
第1シフトクラッチ101は、第1副軸31にスプライン固定されたクラッチハブ201と、1速従動ギヤ61に圧入固定された1速係合部材205と、3速従動ギヤ63に圧入固定された3速係合部材205と、クラッチハブ201と左右の各係合部材205、205の間にそれぞれ介在されたシンクロナイザリング203と、クラッチハブ201の外周に軸線方向移動自在にスプライン係合されたスリーブ202よりなり、各従動ギヤ61、63を交互に第1副軸31に離脱可能に接続する周知のシンクロメッシュ機構である。
【0030】
第1シフトクラッチ101のスリーブ202は、中立位置では係合部材205、205の何れにも係合されていない。しかしシフト装置90の作動によってフォークシャフト95(本発明の変速軸部材に該当する)が入力軸方向に駆動され、フォークシャフト95に固定されたスリーブ202の外周の環状溝に係合されたシフトフォーク91(本発明の変速部材に該当する)によりスリーブ202が1速従動ギヤ61側にシフトすれば、スリーブ202は1速従動ギヤ61側のシンクロナイザリング203にスプライン係合する。そして第1副軸31と1速従動ギヤ61の回転を同期させる。次にスリーブ202が1速係合部材205の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸31と1速従動ギヤ61を一体的に連結して第1速段を形成する。またシフト装置90によりシフトフォーク91がスリーブ202を3速従動ギヤ63側にシフトされれば、同様にして第1副軸31と3速従動ギヤ63の回転を同期させた後にこの両者を一体的に連結して第3速段を形成する。
【0031】
第2〜第4シフトクラッチ102〜104は、第1シフトクラッチ101と実質的に同一構造で取り付け位置が異なるのみである。第2シフトクラッチ102は2速従動ギヤ62及び6速従動ギヤ66を第2副軸32に選択的に連結して2速段及び6速段を形成し、第3シフトクラッチ103は4速従動ギヤ64及び後進ギヤ70を第1副軸31に選択的に連結して4速段及び後進段を形成し、第4シフトクラッチ104は5速従動ギヤ65及び7速従動ギヤ67を第1副軸31に選択的に連結して5速段及び7速段を形成する。
【0032】
次に第1〜第4シフトクラッチ101〜104を駆動するための本発明に係る各シフト装置90について図2、図4に基づいて説明する。各シフト装置90は、トランスミッションケース11の外周面に図略のボルトによって固定されている。各シフト装置90は、トランスミッションケース11の外周面に着脱自在である。
【0033】
図4に示すように、各シフト装置90は、駆動源であるモータ92と、アクチュエータケース98と、ピニオン軸94と、ピニオン軸94と同軸で一体的に形成されたウォームホイール93と、ウォームホイール93と噛合しモータ92の回転軸に形成されモータ92によって回転駆動されるウォーム100と、を有している。このような構成によりピニオン軸94はモータ92の回転により回転駆動される。
【0034】
また、各シフト装置90は、ピニオン軸94を軸承するオイルシール99と、ピニオン軸94の先端に形成されたピニオン94aと、ピニオン94aと噛合するラック95aを円筒外周部の一部に備えたフォークシャフト95(変速軸部材)と、フォークシャフト95に固定されたシフトフォーク91(変速部材)と、を有している。
【0035】
アクチュエータケース98は、本体96と蓋体97とを有している。本体96は略直方体形状を有し図4における上方が開口している。また本体96は長方形形状を有した底壁96aと、底壁96aの4辺からそれぞれ立設される長辺の各側壁96b、96bと、短辺の各側壁96c、96cと、各側壁96b、96b、96c、96cの図4における下端から底壁96aと平行な面を有して立設されるボルト締結用の鍔部96dと、を備えている。鍔部96dの所定の位置には貫通孔(図略)が4箇所設けられている。該貫通孔にはアクチュエータケース98をトランスミッションケース11の外周面に固定する際にボルトが挿通される。また底壁96aには、ピニオン軸94と同軸に円筒壁96eがアクチュエータケース98内に突設されている。ピニオン軸94と円筒壁96eとの間にはシール部材としてのオイルシール99が液密に介在している。これにより、外部の水、塵、および埃がシフト装置内部へ進入するのを防止している。また、トランスミッションケース11の外周壁からはピニオン軸94と同軸に有底の円筒壁11aがトランスミッションケース11内に突設されている。ピニオン軸94と円筒壁11aとの間にはシール部材としてのオイルシール106が液密に介在している。これにより、トランスミッションケース11内のオイルが外部へ漏出することが防止されている。底壁96aおよび円筒壁11aの底面には、ピニオン軸94と同軸に貫通孔96fおよび後述する軸受105が設けられており、ピニオン軸94が挿通される。
【0036】
蓋体97はアクチュエータケース98の内部に水や異物が混入するのを防止するためのものであり、スクリュ等により側壁96b、96b、96c、96cの上面に固定されている。蓋体97にはピニオン軸94と同軸に円筒壁97aがアクチュエータケース98内に突設されており、ピニオン軸94の端部の軸受を形成している。
【0037】
ピニオン軸94のトランスミッションケース11側の先端にはピニオン94aが形成され、トランスミッションケース11内に所定量突出して配置されている。またピニオン軸94のもう一方の端部は、アクチュエータケース98の蓋体97に設けられた円筒壁97aに支持されている。
【0038】
ウォームホイール93は、蓋体97と底壁96aとの間でピニオン軸94と同軸で一体的に固定されている。そしてウォームホイール93の底壁96a側の平面は、底壁96aから突設された円筒壁96eの図4における上端面上に低μで摺動可能に支持されている。
【0039】
ウォーム100はモータ92の回転軸92a先端部に備えられている。ウォーム100はウォームホイール93に噛合しモータ92によって回転駆動されてウォームホイール93を回転させる。そしてウォームホイール93の回転軸(=ピニオン軸94)はモータ92の回転軸92aと直交して配置されている。モータ92は、自動変速機1の小型化のためハウジング部92bが外方に突出しないようにモータ92の回転軸92aがアクチュエータケース98の底壁96aに沿って配置され、所定の方法により底壁96aに固定されている。
【0040】
またピニオン軸94がトランスミッションケース11の円筒壁11aの底面と交差する位置には前述したとおりピニオン軸94を回転可能に軸承する本発明に係る軸受105が貫通している。軸受105はピニオン軸94の軸と直交する方向への振れを抑制するとともに、ピニオン軸94をトランスミッションケース11内に挿入しピニオン94aを後述する各フォークシャフト95のラック95aに噛合させるときのガイド機能を有している。
【0041】
各フォークシャフト95(変速軸部材)は、トランスミッションケース11内に第1副軸31、第2副軸32と平行に軸承され、軸方向に往復動可能に配設されている。各フォークシャフト95を軸承するトランスミッションケース11の軸受部には所定の位置で移動が保持される位置保持装置23を有している(図1参照)。位置保持装置23はどのような構造を有していてもよいが、本実施形態においては、図8に示すように軸受側に窪み24を設け、該窪み24の中に軸受内径部内に突出部26が若干突出する板ばね25を設けている。そしてフォークシャフト95の所定の位置に板ばね25の突出部26を収容する凹部27が刻設されている。これによりフォークシャフト95は凹部27に突出部26を係合させることにより所定の位置で軸線方向の移動が軽度に保持される。そしてモータ92を駆動させフォークシャフト95を軸線方向に移動させることにより、凹部27のいずれかの両端部、即ちフォークシャフト95の外周面が板ばね25の突出部26を窪み24の中に押し下げることによって、フォークシャフト95の移動が自在となる。なお、位置保持装置23はこれ以外にもどのような機構であってもよい。
【0042】
このような構成を有するので、各フォークシャフト95を組み付けた初期状態においては、各フォークシャフト95を位置保持装置23によって軸方向における所定の位置に保持させておく。このときフォークシャフト95の所定の位置とはフォークシャフト95に固定されるシフトフォーク91が係合する第1〜第4シフトクラッチ101〜104の各スリーブ202をいずれのギヤ段にも連結していない中立状態にする位置とする。ただし、この形態に限らず、どのような位置で保持してもよい。例えば、位置保持装置23によって保持した所定の位置は、以降シフト装置90を作動させたときには使用しない位置としてもよい。つまり、所定の位置で組み付けを終了させた後には、モータ92を作動させてフォークシャフト95を所定の保持位置から、以降シフト装置90を作動させたときには使用しない位置まで移動させる。そして移動させた位置を作動の初期位置として設定すればよい。これにより通常の作動時においてはフォークシャフト95の凹部27は位置保持装置23の突出部26を通過しないので、凹部27に突出部26が係合される度に発生する作動のガタつき等が生じる虞はない。
【0043】
そして、前述のとおり、各フォークシャフト95の円筒外周部の一部にはラック95aが形成され、ラック95aとピニオン94aとが噛合している。なお、ラック95aの幅(歯の枚数)は各フォークシャフト95の必要作動量から決定すればよい。このとき必要作動量とは、スリーブ202に係合するシフトフォーク91がフォークシャフト95の軸方向に作動されてスリーブ202を作動させ、各シフトクラッチ101〜104を係脱可能とする範囲に等しい。
【0044】
位置保持装置23によって所定の位置に保持されたフォークシャフト95が備えるラック95aの一部の歯の軸受105側の歯幅方向端部にはチャンファ76が形成されている。詳細には、ピニオン軸94がトランスミッションケース11に設けられた軸受105に軸線方向に挿入されたときに噛合するラック95aにのみチャンファ76が形成されている。本実施形態においては、軸受105から挿入されるピニオン94aが接近したときにピニオン94aの近傍にある計4歯にチャンファ76が設けられている(図5参照)。チャンファ76は公知のものであり、先端T及びテーパ面tpよりなる。先端Tは左右(図5において)のテーパ面tpが交差して形成される稜線である。テーパtpの角度はピニオン94aがテーパtpに接触後、さらにラック95aの歯筋と平行に力を付与されたときにピニオン94aがテーパtp上を摺動しながら良好にフォークシャフト95の軸方向への分力を付与できる角度が好ましく、実験によって決定すればよい。各フォークシャフト95にはシフトフォーク91がそれぞれ固定されており、各シフトフォーク91は、各シフトクラッチ101〜104の各スリーブ202とそれぞれ係合している。
【0045】
次に、上述の第1の実施形態のシフト装置90の組み付けに係る作用について説明する。前述したようにシフト装置90を組み付ける際には、各シフトクラッチ101〜104は前述したように位置保持装置23の作用によって中立位置にある。このような状態で、モータ92、ウォーム100、ウォームホイール93、およびピニオン軸94が組み付けられたアクチュエータケース98をトランスミッションケース11の外周面に組み付ける。このため、まずピニオン軸94をピニオン94a側からトランスミッションケース11を貫通する軸受105に挿入する。そしてピニオン軸94を軸受105にガイドさせながらトランスミッションケース11内に押込みピニオン94aをラック95aに接近させていく。
【0046】
このとき図5に示すようにフォークシャフト95のラック95aの歯の軸受105側の歯幅方向端部には先端T及びテーパ面tpよりなるチャンファ76が4歯形成されている。このため、ピニオン軸94のピニオン94aをラック95aの歯に接近させていくと、ピニオン94aの歯は容易に隣り合うチャンファ76の先端T間に入り込むことができる(図5(b)2点鎖線参照)。さらにピニオン軸94をラック95a側に押込んでいくと、ラック95aの歯の隣り合うチャンファ76の先端T間に入り込んだピニオン94aの歯はチャンファ76の先端Tから所定の角度で形成されるいずれかのテーパ面tpをラック95aの歯筋と平行に押しつける。そしてフォークシャフト95はチャンファ76のテーパ面tpが押しつけられた力の大きさおよびテーパ面tpの角度に応じたフォークシャフト95の軸線方向への分力を受けて軸線方向に移動する。このようにラック95aとピニオン94aの組み付け時にチャンファ76を介することによってチャンファ76に誘導されピニオン94aをラック95aに短時間で良好に噛合させることができ低コストな組み付けとすることができる。
【0047】
なお、第1の実施形態においては、シフト装置90をデュアルクラッチ式自動変速機に適用させた。デュアルクラッチ式自動変速機では、副軸を2個以上備えるものが多く、各副軸に対してシフト装置をそれぞれ設ける必要がある。これにより副軸が1本の自動変速機に対し、必要なシフト装置90の数が多くなりシフト装置を短時間で組み付けたときのメリットは一層大きなものとなる。
【0048】
また、第1の実施形態においては、フォークシャフト95を4本設け、それぞれのフォークシャフト95に対して設けたシフト装置90を作動させ各シフトクラッチ101〜104の切り替えを行なった。しかしこれに限らずフォークシャフト95は4本を越えて設けてもよく設定本数は任意である。そして設けたフォークシャフトの本数に応じてシフト装置90をそれぞれ設けてやればよい。
【0049】
上述の説明から明らかな様に、第1の実施形態においては、フォークシャフト95(変速軸部材)のラック95aの歯においてピニオン軸94が挿入されてくる側である軸受105側の歯幅方向端部にはチャンファ76が形成されている。このため、組み付け時にピニオン軸94をトランスミッションケース11に形成された軸受105にガイドさせながらラック95aに接近させていくと、ピニオン94aの歯は対向するラック95aの歯に形成された隣り合うチャンファ76の先端T間に容易に係合できる。そしてピニオン軸94をさらに挿入していくと、ラック95aは、自身に形成されたチャンファ76のテーパ部がピニオン94aの歯によって、ラック95aの歯筋と平行に押しつけられる。こうすることによりフォークシャフト95(変速軸部材)は押しつけられた力の大きさおよびチャンファ76のテーパ角度に応じたフォークシャフト95の移動方向への分力を受けて軸線方向に移動し、やがてピニオン94aはラック95aに噛合する。このようにスペースが狭く組み付けが困難な自動変速機においてチャンファ76によってピニオン94aを誘導することによってピニオン94aの歯をラック95aに短時間で良好に噛合させ低コストに組み付けることができる。
【0050】
また第1の実施形態においては、変速軸部材はフォークシャフト95である。つまり、シフト装置90は複数ある変速軸部材(フォークシャフト95)毎にピニオン94aが噛合するためのラック95aが形成され、該ピニオン94aが回転駆動することによってフォークシャフト95およびシフトフォーク91を移動させ変速機構を係脱させてギヤ段を変更する。このようにシフト装置90はフォークシャフト95の数だけ設けられており、シフト装置90を組み付ける際に短縮される時間の効果は大きなものとなる。
【0051】
また第1の実施形態においては、変速軸部材(フォークシャフト95)は位置保持装置23によって軸線方向における所定の位置で移動が保持される。そして所定の位置に保持された状態において、組み付けのためピニオン軸94を軸受105にガイドさせながら挿入したときにピニオン94aの先端と噛合するラック95aの複数の歯のみにチャンファ76が設けられる。このため、ラック95aの歯の強度を低減させるチャンファ76の追加を最小限に留めることができ信頼性が向上される。
【0052】
また第1の実施形態においては、ラック95aが円筒のフォークシャフト95に形成されるので、ピニオン軸94がトランスミッションケース11に設けられた軸受105に軸線方向に挿入されるとピニオン94aはラック95aの軸受105側の歯幅方向端部に形成されたチャンファ76に誘導されるとともに、ラック95aの歯底に連なるフォークシャフト95(変速軸部材)の円筒面にガイドされてラック95aと噛合される。このようにピニオン軸94の半径方向のばらつきを吸収しピニオン94aをラック95aに短時間で良好に噛合させ低コストに組み付けることができる。
【0053】
次に第2の実施形態について説明する。第2の実施形態のシフト装置110は、ギヤ段のゲートを選択する、即ち、いずれのフォークシャフトを移動させるかを選択するセレクト機構SEと、フォークシャフトを軸線方向に移動させて各シフトクラッチ101〜104の係脱を行なうシフト機構Sと、を有し、シフト装置110は自動変速機2にそれぞれ1つだけ設けられる。そして第2の実施形態においては本発明に係るチャンファをセレクト機構SE部に設ける。
【0054】
第2の実施形態にかかる自動変速機2について説明する。自動変速機2においても第1の実施形態で適用したデュアルクラッチ式自動変速機に本発明を適用するものとして説明する。このため自動変速機2の構造および作用についての詳細な説明は省略し、主にシフト装置110のみについて図6、図7に基づいて説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明する。
【0055】
シフト装置110は、上述したようにギヤ段のゲートを選択するセレクト機構SEと、フォークシャフトを移動させてギヤ段を切替えるシフト機構Sと、を有している。図6に示すようにシフト装置110は、セレクト機構Sとしてアクチュエータケース108と、セレクトモータ112(本発明の駆動源に該当する)と、モータ軸ピニオン124と、スライドシャフト113と、第1ラック113aと、第2ラック113bと、セレクトシャフト114と、セレクトシャフト114の先端部近傍に形成されたセレクトシャフト114よりも大きな外径を有するセレクトシャフトピニオン114aと、係合部125と、フォークシャフト115と、シフトフォーク111とを有している。
【0056】
アクチュエータケース108は図6に示すように形成され、セレクトモータ112が外方からボルト等によって固定されている。そしてアクチュエータケース108はトランスミッションケース121の外方からトランスミッションケース121にボルト等によって固定される。
アクチュエータケース108内はトランスミッションケース121内と連通しており一体的に形成されている。モータ軸ピニオン124はセレクトモータ112の回転軸112aの先端に形成されている。
【0057】
スライドシャフト113(本発明の変速軸部材に該当する)は、トランスミッションケース121内と一体的に形成されているアクチュエータケース108内に一端を、またトランスミッションケース121内に形成された支持部に他端を支持され軸線方向に移動可能に構成されている。組み付け時においてはスライドシャフト113は支持部に設けた第1の実施形態と同様の位置保持装置23によって所定の位置に保持されている。スライドシャフト113の円筒外周部の一部にはモータ軸ピニオン124と噛合する第1ラック113aが形成されている。
【0058】
また後述するセレクトシャフト114のセレクトシャフトピニオン114aと噛合するための本発明に係る第2ラック113bが本実施形態においては第1ラック113aの裏面に相当する位置で円筒外周部の一部に形成されている。
【0059】
さらに第2ラック113bの歯のうち、組み付け時にセレクトシャフト114のピニオン114aが接近してくる側(図6において右側)、つまり後述する軸受である一体支持部136側の歯幅方向端部にはチャンファ126が形成されている。このときチャンファ126を設ける歯の数は第1実施形態の場合と同様に接近したピニオン114aの近傍にある計4歯である(図5参照)。ただしこれは一例であるので、4歯に限定する必要はなく、いくつでもよい。チャンファ126は第1の実施形態のチャンファ76と同様の形状を有している。
【0060】
前述したセレクトシャフト114(本発明のピニオン軸および変速部材に該当する)は、セレクトモータ112の作動によって、モータ軸ピニオン124、第1ラック113a、スライドシャフト113、第2ラック113b、およびセレクトシャフトピニオン114aを介して回転駆動される。このようにセレクトシャフト114とスライドシャフト113とは第2ラック113bとピニオン114aとが噛合することにより連結されている。
【0061】
前述したとおり、セレクトシャフトピニオン114aはセレクトシャフト114の先端部近傍にセレクトシャフト114より大きな外径で形成される。このとき先端部とは、セレクトシャフト114を第2ラック113bに噛合させるときに第2ラック113bに接近させていく側の端部(図6において左方)をいう。
【0062】
そしてセレクトシャフト114は一方の端部(図6において右方)をクラッチハウジング122に設けられた支持部に支持され、セレクトシャフトピニオン114aが形成された側の他方の端部をトランスミッションケース121に設けられた支持部に支持される。このときセレクトシャフト114は軸方向への移動が可能であるとともに回転可能であるよう支持されている。
【0063】
フォークシャフト115は、セレクトシャフト114の一方の端部が支持される支持部と同様にクラッチハウジング122に設けられた支持部に支持されている。このときフォークシャフト115の支持部とセレクトシャフト114の支持部とは一体で形成され一体支持部136(軸受)を形成している。そして図7に示すように、クラッチハウジング122をトランスミッションケース121に組み付ける際にセレクトシャフト114およびフォークシャフト115を、一体化された一体支持部136で片持ち支持しながら同時に組み付けるものである。なお、このときトランスミッションケース121はトランスミッションケース121に設けられたガイド穴(本発明に係るトランスミッションケース121に設けられた軸受に該当する)がクラッチハウジング122に挿入されたピン135に係合されることによってセレクトシャフト114およびフォークシャフト115の軸線方向にガイドされながらクラッチハウジング122に接近して組み付けられる。
【0064】
シフトフォーク111はフォークシャフト115に固定され、各シフトクラッチ101〜104の各スリーブ202とそれぞれ係合している。
係合部125(本発明の変速機構に該当する)はセレクトシャフト114に設けられた突部114bと、該突部114bと係合する凹部115aとを有している。セレクトシャフト114の軸線回りの回動によって突部114bと凹部115aとは係脱される。複数ある別のフォークシャフトも同様の係合部125の凹部115aを有しており、このようにセレクトシャフト114の軸線回りの回動によって突部114bがいずれかのフォークシャフトの凹部115aと係合し該フォークシャフトを選択する。
【0065】
突部114bと凹部115aとが係合されている状態においてセレクトシャフト114がシフト機構Sによって軸線方向に移動されることによりフォークシャフト115およびシフトフォーク111が軸線方向に移動する。そしてシフトフォーク111が係合するスリーブ202を移動させ変速ギヤ段の切替えを行なう。
【0066】
シフト機構Sはセレクト機構SEとは別体で設けられている。シフト機構Sのシフトモータ142は、図6に示すようにアクチュエータケース109に固定されている。シフトモータ142の回転駆動力はアクチュエータケース109内に設けられた減速装置143(詳細は図示しない)を介してピニオン144に伝達される。そしてピニオン144はトランスミッションケース121内でセレクトシャフト114の外周に形成された円周ラック145と噛合している。これによりシフトモータ142が作動するとピニオン144が回転しセレクトシャフト114を軸線方向に移動させる。これによって上述したセレクトシャフト114の軸線方向の移動をおこない、シフトフォーク111が係合するスリーブ202を移動させギヤ段の切替えを行なう。
【0067】
次に、第2の実施形態のシフト装置110の組み付けに係る作用について図7に基づいて説明する。シフト装置110のセレクト機構SE部を組み付ける際には、まずセレクトモータ112、モータ軸ピニオン124、およびスライドシャフト113が組み付けられたアクチュエータケース108をトランスミッションケース121の外周面に組み付ける。このときトランスミッションケース121内にはスライドシャフト113が突出して挿入されていく。そしてスライドシャフト113の端部がトランスミッションケース121内に形成された支持部によって軸線方向に移動可能に支持される。このときスライドシャフト113は支持部に設けた位置保持装置23によって所定の位置に保持されている。
【0068】
このような状態において図7に示すように、セレクトシャフト114とフォークシャフト115とが軸線を重力方向と一致させた状態でクラッチハウジング122の一体支持部136に下方の一端を支持され待機している。そして上方からセレクト機構SE部が組み付けられたトランスミッションケース121が入力軸軸線方向を重力方向と一致させた状態で下降してくる。これによりセレクトシャフト114とフォークシャフト115とが下方からトランスミッションケース121内に挿入される。そしてセレクトシャフト114とフォークシャフト115とがさらにトランスミッションケース121内に挿入されるとクラッチハウジング122に挿入されたピン135とトランスミッションケース121のクラッチハウジング122側の端面に形成されたガイド穴の内周面とが係合する。そしてピン135がガイド穴にガイドされながらセレクトシャフト114の先端部近傍のセレクトシャフトピニオン114aがスライドシャフト113の第2ラック113bに接近する。
【0069】
このとき、セレクトシャフトピニオン114aが噛合する第2ラック113bの歯の一体支持部136(軸受)側の歯幅方向端部には先端T及びテーパ面tpよりなるチャンファ126が形成されている。このため、セレクトシャフト114のセレクトシャフトピニオン114aを第2ラック113bの歯に接近させていくと、セレクトシャフトピニオン114aの歯は容易に隣り合うチャンファ126の先端T間に入り込むことができる。さらにセレクトシャフトピニオン114aを第2ラック113b側に押込んでいくと、隣り合うチャンファ126の先端T間に入り込んだセレクトシャフトピニオン114aの歯はチャンファ126の先端Tから所定の角度で形成される左右いずれかのテーパ面tpを第2ラック113bの歯筋と平行に押しつける。そしてスライドシャフト113はチャンファ126のテーパ面tpが押しつけられた力の大きさおよびテーパ面tpの角度に応じたスライドシャフト113の軸線方向への分力を受けて軸線方向に移動する。このように第2ラック113bとセレクトシャフトピニオン114aの組み付け時に、チャンファ126を介することによってセレクトシャフトピニオン114aがチャンファ126に誘導されセレクトシャフトピニオン114aを第2ラック113bに短時間で良好に噛合させることができ低コストな組み付けとすることができ、第1の実施形態と同様の効果が期待できる。
【0070】
なお、第1および第2の実施形態においては、チャンファ76、126をラック95a、113bの歯の一部のみに形成していたが、これに限らず全ての歯に形成してもよい。これによっても効果は得られる。
【0071】
また、第1および第2の実施形態においては、位置保持装置23を設けたがなくてもよい。その場合には上記のように、全ての歯にチャンファを形成してもよいし、全ての歯に設けずとも本実施形態で形成したチャンファの数(4つ)よりも多くの歯にチャンファを形成し、確実にピニオンが、チャンファが形成されたラックの歯と噛合するようにすればよい。
【0072】
また、第1および第2の実施形態においては、ラック95a、113bにチャンファ76、126を設けたが、ラック95a、113bには設けず、ピニオン94a、セレクトシャフトピニオン114aの各歯の先端にチャンファを設けてもよい。さらにラック95a、113bおよびピニオン94a、114aの両方にチャンファを設けてもよく同様の効果が得られる。
【0073】
また、第1および第2の実施形態においては、デュアルクラッチ式自動変速機によって発明を具体化したが、これに限らず手動式変速機のクラッチを自動化したオートメーテッドマニュアルトランスミッション(AMT)に適用してもよい。
【0074】
また、第1および第2の実施形態においては、変速軸部材をそれぞれフォークシャフト95およびスライドシャフト113としたが、これに限らず、AMTのFR車のシフトレバーに連結されるロッドを変速軸部材とし、該ロッドにラック部を形成してもよい。これによっても本実施形態と同様の効果が得られる。
【0075】
さらに、シフト装置90、110を、自動車用の自動変速機に適用するのではなく、自動二輪車等の他の自動変速機に適用してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1、2・・・自動変速機、10・・・ケース、11、121・・・トランスミッションケース、12、122・・・クラッチハウジング、76、126・・・チャンファ、90、110・・・シフト装置、91・・・変速部材(シフトフォーク)、92、112・・・駆動源(モータ、セレクトモータ)、94・・・ピニオン軸、94a・・・ピニオン、95・・・変速軸部材(フォークシャフト)、95a・・・ラック、105・・・軸受、113・・・変速軸部材(スライドシャフト)、113b・・・ラック(第2ラック)、114・・・変速部材およびピニオン軸(セレクトシャフト)、114a・・・ピニオン(セレクトシャフトピニオン)、135・・・ピン、136・・・軸受(一体支持部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源によって回転駆動されトランスミッションケースに設けられた軸受によって回転可能に支承されたピニオン軸と、
前記ピニオン軸の先端に形成されるピニオンと、
前記トランスミッションケースに軸線方向に移動可能に支持される変速軸部材と、
前記変速軸部材に連結され該変速軸部材の作動によって変速機構を係脱させる変速部材と、
前記変速軸部材の円筒外周部の一部に形成されるラックと、
前記ラックの歯の前記軸受側の歯幅方向端部および前記ピニオンの歯の先端部の少なくとも一方に形成されるチャンファと、
を備え、
前記ピニオン軸が前記トランスミッションケースに設けられた軸受に軸線方向に挿入されると前記ピニオンおよび前記ラックの少なくとも一方に形成された前記チャンファに誘導され前記ピニオンと前記ラックとが噛合される自動変速機のシフト装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記変速軸部材は前記変速機構のスリーブに係合するフォークが固定され前記軸線方向への作動によって前記フォークを駆動し前記スリーブを作動させて前記変速機構を係脱するフォークシャフトである自動変速機のシフト装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記変速軸部材は前記軸線方向における所定の位置で移動が保持される位置保持装置を有し、
前記ラックに形成された前記チャンファは、前記位置保持装置によって前記変速軸部材が前記所定の位置に保持された状態において、前記ピニオン軸を前記軸受にガイドさせながら挿入したときに前記ピニオンと噛合する前記ラックの複数の歯のみに設けられる自動変速機のシフト装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記ピニオン軸が前記トランスミッションケースに設けられた軸受に軸線方向に挿入されると前記ピニオンは前記ラックの前記軸受側の歯幅方向端部に形成されたチャンファに誘導されるとともに、前記ラックの歯底に連なる前記変速軸部材の円筒面にガイドされて前記ラックと噛合される自動変速機のシフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−87779(P2013−87779A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225528(P2011−225528)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】