説明

自動変速装置付自転車

【目的】簡易な構成の自動変速装置付自転車を提供する。
【構成】車輪のハブ体53内に変速機構32を内装し、変速機構32は車輪の軸方向に移動することにより変速を行う変速ロッド50を有する自転車用変速装置において、手動変速用ケーブル4を介して手動操作手段9と接続するとともに変速ロッド50を作動させる手動変速レバー60と、自動変速用ケーブル14を介して、制御部5からの指令により駆動する駆動部10と接続するとともに変速ロッド50を作動させる自動変速レバー70とを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自転車用の変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、自転車の変速装置としては、複数段の変速ギヤと、この複数段の変速ギヤにチェーンを掛け替えるディレーラと、このディレーラに接続する変速用ワイヤとを備えたものがある。この装置は、前記変速用ワイヤの先端部に取り付けられたギヤレバーを手動操作することにより、変速用ワイヤを長さ方向に作動させ、ギヤの位置を選定している。
【0003】しかし、このような変速装置では、減速時にはブレーキレバーを握るため減速と変速を同時に行えないという欠点があった。そこで、変速操作を自動的に行う装置も考案されている。例えば実開平2ー133991号に記載されたものがある。この自転車の自動変速装置は、自転車のタイヤの回転数に応じて生じるソレノイドの推力によって変速ワイヤをその長さ方向に引張り変速するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような自動変速装置は、自動変速専用の変速装置が必要であり、従来の自転車とは機器が大幅に異なるため、コスト高とならざるを得ない。また、既存の自転車を改造して自動変速装置を取り付けようとしても、上記のように大幅な改造をしなければならないので、多大な労力と費用がかかってしまう。
【0005】本発明は前記事項に鑑みなされたものであり、簡易な構成の自動変速装置付自転車を提供することを技術的課題とする。また、手動変速と自動変速との双方を行える自動変速装置付自転車を提供することを技術的課題とする。
【0006】また、既存の自転車の構成部品を変更せずに自動変速装置を装着することのできる自動変速装置付自転車を提供することを技術的課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
<本発明の要旨>本発明は、車輪のハブ体内に変速機構を内装し、この変速機構は車輪の軸方向に移動することにより変速を行う変速ロッドを有する自転車用変速装置において、前記変速ロッドを作動させる手動変速レバー及び自動変速レバーを備える。
【0008】〔構成要素〕前記変速ロッドは、変速機構の軸心部に摺動可能に設けられており、ハブ体内に設けられた弾性体によりハブ体外方に向けて付勢されている。そして、変速ロッドが最外端位置にて変速機構のギヤ位置が最低速(1速)となり、変速ロッドが最内端位置にてギヤ位置が最高速となるように構成されている。
【0009】前記手動変速レバーは、手動変速用ケーブルを介して手動操作手段と接続するとともに、前記変速ロッドの外端部を所定量押圧することにより変速ロッドを作動させて変速を行うようになっている。
【0010】また、前記自動変速レバーは、自動変速用ケーブルを介して、制御部からの指令により駆動する駆動部と接続するとともに前記変速レバーを押圧することにより変速ロッドを作動させて変速を行うようになっている。
【0011】以上は自動変速レバーを手動変速レバーの外方に位置させた態様であるが、自動変速レバーを変速ロッドと手動変速レバーとの間に位置させるようにしてもよい。この場合、自動変速の際は自動変速レバーのみで変速ロッドを作動させるとともに、手動変速の際は手動変速レバーが自動変速レバーと共に変速ロッドを作動させることとなる。
【0012】前記駆動部は、制御部からの指示信号により駆動するモータと、このモータの駆動により前記自動変速用ケーブルを巻き上げあるいは巻戻す巻取ドラムとを備えるようにするとよい。
【0013】前記制御部は、例えば、中央処理装置(CPU),読み出し/書き込みメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、入出力装置(I/O)と、これらを接続するバスを備える構成とすることができる。
【0014】なお、前記制御部と接続する速度検出手段を設け、この速度検出手段からの信号に基づき制御部が前記モータを制御するように構成することができる。この場合、速度検出手段としては、単位時間あたりの車輪やペダルの回転数を検出するセンサを例示することができる。このような回転数を検出するセンサとしては、電磁ピックアップ方式の回転センサを例示することができる。
【0015】また、クランクの回転を検出するクランク回転検出センサを設け、クランクが回転しているときにのみ前記駆動部を作動させるように構成してもよい。このクランク回転検出センサは、クランクの回転を検知して信号を出力するものであり、例えばペダルの回転を検出するセンサ、クランク軸の回転を検出するセンサ、クランク自体の回転を検出するセンサを例示できる。
【0016】
【作用】手動変速時において、運転者が手動操作手段を操作することにより、手動変速用ケーブルが引張りまたは弛緩され、手動変速レバーをハブ軸方向に作動させる。この手動変速レバーの作動により、変速ロッドが軸方向に移動して、変速機構のギヤ位置を変更する。
【0017】また、自動変速時においては、制御部が指示信号を駆動部に出力することにより、駆動部は自動変速用ケーブルを引張りまたは弛緩し、自動変速レバーをハブ軸方向に作動させる。この自動変速レバーの作動により、前記変速ロッドが軸方向に移動して、変速機構のギヤ位置を変更する。
【0018】そして、自動変速レバーが変速ロッド変速レバーとの間に位置しているならば、手動変速の際は変速レバーと自動変速レバーが一体に作動し、自動変速の際は自動変速レバーのみが作動する。また、変速レバーが変速ロッドと自動変速レバーとの間に位置しているならば、手動変速の際は変速レバーのみが作動し、自動変速の際は自動変速レバーと変速レバーとが一体となって作動する。
【0019】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。本実施例の自動変速装置付自転車は、変速ロッド50を有する内装式変速機構32と、前記変速ロッド50を作動させる手動変速レバー60及び自動変速レバー70とを備えている。
【0020】前記内装式変速機構32は、後輪軸に設けられたハブ体53内に変速機構32を内装したものであり、この変速機構32の軸心部に摺動可能に設けられた前記変速ロッド50が軸方向に移動することにより、変速機構32のギヤ位置を変更するようになっている。なお、前記変速ロッド50は、ハブ体53内に設けられたスプリングによって、ハブ体53の外方に向けて付勢されている。そして、変速ロッド50を押圧(内方に移動)するとギヤ位置が上昇し、変速ロッド50を戻す(外方に移動する)とギヤ位置が下降するよう変速機構が構成されている。
【0021】前記手動変速レバー60は、変速ロッド50の近傍に取り付けられたブラケット61に手動変速レバー60の基端部を回動可能に軸支してあり、手動変速レバー60の先端部が前記変速ロッド50に当接できるように位置している。そして、前記手動変速レバー60の基端部は、手動変速用ケーブル4の一端部と連接しており、手動変速用ケーブル4の他端部に連接する手動操作手段であるギヤレバー9を操作することにより、手動変速レバー60が作動するように構成されている。なお、手動変速用ケーブル4はアウターケーブル4aによって被覆されている。
【0022】一方、前記自動変速レバー70は、変速ロッド50の近傍に前記ブラケット61とは別角度にて取り付けられた自動変速ブラケット71に自動変速レバー70の基端部を回動可能に軸支(73)している(図2〜図6参照)。そして、自動変速レバー70の先端部は前記手動変速レバー60の側部に当接するように位置している。この自動変速レバー70は、自動変速用ケーブル14を介して駆動部10と接続している。前記駆動部10は、後述する制御部5からの指示信号により駆動するモータ13と、このモータ13の駆動力により前記自動変速用ケーブル14を巻き上げまたは巻戻す巻取ドラム12とを備えている。そして、前記モータ13が駆動することにより、自動変速レバー70が手動変速レバー60とともに変速ロッド50を作動させるようになっている。また、前記自動変速用ケーブル14は、アウターケーブル14aによって被覆されている。そして、前記駆動部10と制御部5は、シートステー25に取り付けられたボックス80内に収容されている。また、このボックス80内にはモータ13及び制御部5に電力を供給する電源が備えられている。なお、前記自動変速ブラケット71には開口部72が設けられており、図10に示す自動変速装置を備えない既存の自転車の変速ロッド50の部分に、図2に示すように前記開口部72が嵌合できるようになっている。
【0023】前記制御部5は、中央処理装置(CPU),読み出し/書き込みメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、入出力装置(I/O)を備え、これらはバスにより接続している。そして、制御部5のI/Oは、車両に取り付けられたスピードセンサ20と、クランク43の回転を検出するクランク回転検出センサ90と、前記モータ13とに接続している。
【0024】RAMには、図8に示す各ギヤ位置ごとの設定値を格納する。なお、この設定値は、使用する自転車の仕様や運転者の希望する変速速度域によって変更・調整が行えるようになっている。または、基準となる設定値の他に、新たな設定値をRAMに読み込むようにしてもよい。なお、図9は、ギヤの位置と車輪速度との関係を表す図である。
【0025】また、ROMには、後述する実行プラグラムが格納してある。前記スピードセンサ20は、シートステー25に取り付けられた磁気検知部21と、後輪側のスポークに取り付けられた強磁性体22とにより構成されている。そして、後輪3の回転に伴って強磁性体22が磁気検知部21に近接する度(すなわち車輪が一回転する度に)、磁気検知部21がパルス信号を発信するようになっている。
【0026】前記クランク回転検出センサ90は、クランク43の回転を検出するフォトインタラプタにより構成されている。前記フォトインタラプタは、クランク43に取り付けられた反射板と、この反射板に対向する発光ダイオード及びフォトトランジスタとを備えている。なお、このフォトインタラプタは、左右のクランクの回転をそれぞれ検出できるように二組設けてある。
【0027】次に、自動変速制御である、制御部5における動作過程を説明する。図7は制御部5における実行プログラムのフローである。運転者の操作により電源が入れられると、ステップ101にて初期設定がなされた後、ステップ102において、クランク回転検出センサ90からの信号により、クランク43が回転しているか否かが判断される。クランク43が回転してチェーン8が回動している場合は、ステップ103に移行してモータ13を逆回転させてギヤ位置を降下させ、クランク43が回転せず、チェーン8が停止している場合はステップ102の循環ルーチンとなる。
【0028】ステップ104ではモータ13の逆回転が2秒に満たないか否かが判断される。モータ13の逆転が2秒に至らない場合は、ステップ103の循環ルーチンとなり、モータ13が2秒以上逆転した場合はステップ105に移行してギヤ位置(PG )が1速であることが記憶される。なお、本実施例では、モータ13が2秒逆転すれば、ギヤ位置がトップの状態から1速の状態まで降下するようになっている。
【0029】次に、ステップ106にてギヤ位置(この場合は1速)に対応する各設定値が呼び出される。すなわち、ギヤ位置(PG )が1速の場合は、ギヤアップ用しきい値(VUP)は5km/hであり、ギヤダウン用しきい値(VDOWN)は0km/hである。また、ギヤアップ用モータ駆動時間設定値(TUP)は0.3secであり、ギヤダウン用モータ駆動時間設定値(TDOWN)は0secである(図8参照)。
【0030】そして、ステップ107にて、スピードセンサ20からの情報に基づき、自転車の速度(V)が1速のギヤアップ用しきい値である5km/hよりも速いか否かが判断される。自転車の速度が5km/hよりも速い場合はステップ108に移行し、5km/hよりも遅い場合はステップ112に移行する。ステップ108では、クランク43が回転しているか否かが判断され、回転していない場合はステップ108の循環ルーチンとなり、クランク43が回転している場合はステップ109に移行してモータ13を正転させて自動変速レバー70を作動させ、変速ロッド50を押圧してギヤ位置をアップさせる。そして、ステップ110にてモータ13の駆動時間(TM )がギヤアップ用モータ駆動時間設定値である0.3secよりも少ないか否かが判断される。前記モータ13の駆動時間(TM )が0.3secよりも少ない場合はステップ109の循環ルーチンとなり、0.3secに至った場合はモータ13の駆動が停止され、ステップ111で元のギヤ位置である1速に1を加えた新たなギヤ位置の2速であることが記憶される。
【0031】また、前記ステップ112では、自転車の速度(V)が1速のギヤダウン用しきい値である0km/hよりも遅いか否かが判断される。0km/hよりも遅いことはありえないので、1速の場合はステップ112からはすべてステップ117へ移行する。ステップ117では、速度(V)が0km/hであるか否かが判断され、速度が0で自転車が停止している場合はステップ118に移行し、3分より長く停止し続けた場合は自動的に装置全体がパワーオフとなる。また、ステップ117及びステップ118の否定枝はステップ107の循環ルーチンとなる。
【0032】前記ステップ111からはステップ106の循環ルーチンとなり、ステップ106にて2速に対応する各設定値が呼び出され、以下前述と同様に各ステップの動作がなされる。
【0033】なお、2速以上のギヤ位置においてステップ112に至った場合、自転車の速度(V)がギヤダウン用しきい値(VDOWN)よりも遅い際は、ステップ113に移行してクランク43が回転しているか否かが判断される。クランク43が回転していない場合はステップ113の循環ルーチンとなり、クランク43が回転してチェーン8が回動している場合はステップ114にてモータ13を逆転させた後、モータ駆動時間(TM )がギヤダウン用モータ駆動時間設定値である0.5sec よりも少ないか否かが判断される。そして、ステップ115の肯定枝はステップ114の循環ルーチンとなり、否定枝はステップ116に移行して元のギヤ位置から1を減じた新たなギヤ位置(PG )を記憶し、ステップ106の循環ルーチンとなる。
【0034】以上のように本実施例によれば、既存の自転車の構成部品を変更することなく、自動変速装置を取り付けられる構成としたので、低コストにて容易に自動変速装置付自転車を提供することができる。
【0035】
【発明の効果】本発明によれば、簡易な構成の自動変速装置付自転車を提供することが可能となる。
【0036】また、手動変速と自動変速との双方を行える自動変速装置付自転車を提供することができる。また、既存の自転車の構成部品を変更せずに自動変速装置を装着することのできる自動変速装置付自転車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における自動変速装置付自転車の斜視図
【図2】実施例における変速ロッド付近の拡大斜視図
【図3】実施例における自動変速レバーの左側面図
【図4】実施例における自動変速レバーの底面図
【図5】実施例における自動変速レバーの右側面図
【図6】実施例における自動変速レバーの上面図
【図7】実施例における制御部の実行プログラムのフロー図
【図8】実施例の制御部における各変速ギヤにおける設定値を示す図
【図9】実施例の制御部における各変速ギヤの上昇・降下の関係を示す図
【図10】自動変速レバーを取り付けていない状態の変速ロッド付近の拡大斜視図
【符号の説明】
3・・後輪
4・・手動変速用ケーブル
4a・・アウターケーブル
5・・制御部(ECU)
8・・チェーン
9・・手動操作手段(ギヤレバー)
10・・駆動部
12・・巻取ドラム
13・・モータ
14・・自動変速用ケーブル
14a・・アウターケーブル
20・・スピードセンサ
21・・磁気検知部
22・・強磁性体
25・・シートステー
32・・変速機構
41・・クランク軸
43・・クランク
44・・ペダル
50・・変速ロッド
53・・ハブ体
60・・手動変速レバー
61・・ブラケット
70・・自動変速レバー
71・・自動変速ブラケット
72・・開口部
73・・軸
80・・ボックス
90・・クランク回転検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車輪のハブ体内に変速機構を内装し、この変速機構は車輪の軸方向に移動することにより変速を行う変速ロッドを有する自転車用変速装置において、手動変速用ケーブルを介して手動操作手段と接続するとともに前記変速ロッドを作動させる手動変速レバーと、自動変速用ケーブルを介して、制御部からの指令により駆動する駆動部と接続するとともに前記変速ロッドを作動させる自動変速レバーとを備えることを特徴とする自動変速装置付自転車。
【請求項2】 前記自動変速レバーは、前記変速ロッドと前記手動変速レバーとの間に位置していることを特徴とする請求項1記載の自動変速装置付自転車。
【請求項3】 前記自動変速レバーは、前記変速ロッドとの間に前記手動変速レバーを介在していることを特徴とする請求項1記載の自動変速装置付自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図7】
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