説明

自動変速装置

【課題】ソフトウェアが1種類しかなく、トランスミッション機構の種類を自動判別できる自動変速装置を提供する。
【解決手段】移動指令部は、アクチュエータの各位置に対する各ギア段の割付が異なる2種のトランスミッション機構について両方の割付を設定されており、アクチュエータが特定の位置に移動したときにトランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったどうかにより、トランスミッション機構の種類を判別する種類判別部を備えており、種類判別部が判別した種類に基づいて上記2種の割付の一方を選択的に参照する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトウェアが1種類しかなく、トランスミッション機構の種類を自動判別できる自動変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速装置は、1以上の前進ギア段と後進ギア段とを含む複数のギア段を有するトランスミッション機構と、該トランスミッション機構のギア段を切り替えるために複数の位置に移動するアクチュエータと、所望するギア段に応じて上記アクチュエータに移動する位置を指令する移動指令部とを備える。ECU(Engine Control Unit)が車速やアクセル開度等の諸条件あるいはシフトレバー操作に基づいて適切なギア段を決定すると、移動指令部がアクチュエータに対し、該当する位置への移動指令を出し、アクチュエータがその位置に移動することで、トランスミッション機構のギア段が上記適切なギア段に切り替わる。
【0003】
移動指令部は、ECU等のデジタル処理装置にソフトウェアを搭載することで実現される。移動指令部を実現するソフトウェアは、アクチュエータに適切な移動指令が出せるよう、アクチュエータの各位置に対するトランスミッション機構の各ギア段の割付が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トランスミッション機構には、アクチュエータが移動する各位置に対する各ギア段の割付が異なる2種のトランスミッション機構がある。トランスミッション機構の種類別を、Aタイプ、Bタイプと呼び分けることにする。
【0006】
図3(a)に示されるように、Aタイプのトランスミッション機構のレイアウトは、左右に延びたニュートラル位置があり、そのニュートラル位置の各所から上下に枝が分岐されており、各枝の終端に各ギア段位置がある。最左上の位置に後進ギア段Revが割り付けられ、そこから右順に、前進ギア段2nd、前進ギア段4thが割り付けられる。後進ギア段Revが割り付けられた位置の直下の位置に前進ギア段1stが割り付けられ、そこから右順に、前進ギア段3rd、前進ギア段5thが割り付けられる。前進ギア段4thが割り付けられた位置のさらに右に前進ギア段6thが割り付けられてもよい。
【0007】
図3(b)に示されるように、Bタイプのトランスミッション機構のレイアウトは、左右に延びたニュートラル位置があり、そのニュートラル位置の各所から上下に枝が分岐されており、各枝の終端に各ギア段位置がある。最左下の位置に後進ギア段Revが割り付けられ、そこから右順に、前進ギア段2nd、前進ギア段4thが割り付けられる。前進ギア段2ndが割り付けられた位置の直上の位置に前進ギア段1stが割り付けられ、そこから右順に、前進ギア段3rd、前進ギア段5thが割り付けられる。前進ギア段4thが割り付けられた位置の右に前進ギア段6thが割り付けられてもよい。
【0008】
ここで、アクチュエータが移動する位置をギア段とは無関係に記述するために、図4のようにアクチュエータが移動する線の分岐枝ごとに位置の名称を定義する。すなわち、左右に延びた直線があり、その直線上の間隔を隔てた各所から上下に櫛歯状に分岐枝が分岐されており、最左上の分岐枝の位置をアとし、そこから右順の分岐枝の位置をウ、オ、キとする。位置アの分岐枝の直下で最左下の分岐枝の位置をイとし、そこから右順の分岐枝の位置をエ、カ、クとする。
【0009】
Aタイプのトランスミッション機構を用いた自動変速装置では、移動指令部のソフトウェアは、図3(a)のレイアウトにしたがってアクチュエータに移動する位置を指令することになる。例えば、ECUが決定したギア段が後進ギア段であれば、ソフトウェアはアクチュエータを後進ギア段Revに移動させるが、この移動は図4で見ると位置アへの移動に相当する。
【0010】
Bタイプのトランスミッション機構を用いた自動変速装置では、移動指令部のソフトウェアは、図3(b)のレイアウトにしたがってアクチュエータに移動する位置を指令することになる。例えば、ECUが決定したギア段が後進ギア段であれば、ソフトウェアはアクチュエータを後進ギア段Revに移動させるが、この移動は図4で見ると位置イへの移動に相当する。
【0011】
前述したように、移動指令部を実現するソフトウェアは、各位置に対する各ギア段の割付が設定されている。トランスミッション機構の種類によって各位置に対する各ギア段の割付が異なるのであるから、ソフトウェアも同様に、各位置に対する各ギア段の割付が異なる2種類のソフトウェア、つまりAタイプ用ソフトウェアとBタイプ用ソフトウェアが必要となる。
【0012】
このようにソフトウェアが2種類存在するため、インストール(ダウンロード、チップ装着など)のとき間違いが起こり得る。もし、自動変速装置に不適切なソフトウェアがインストールされてしまうと、例えば、シフトレバーが後進ポジションに操作されても後進ギア段に入らないなど、決定されたギア段と実際にトランスミッション機構が切り替わるギア段とが不一致になる現象が発生してしまう。したがって、製造する自動変速装置のひとつひとつに、それぞれ適切なソフトウェアがインストールされるよう、製造工場において管理を行う必要がある。よって、製造工場における管理コストが増大する。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ソフトウェアが1種類しかなく、トランスミッション機構の種類を自動判別できる自動変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、1以上の前進ギア段と後進ギア段とを含む複数のギア段を有するトランスミッション機構と、該トランスミッション機構のギア段を切り替えるために複数の位置に移動するアクチュエータと、所望するギア段に応じて上記アクチュエータに移動する位置を指令する移動指令部とを備えた自動変速装置において、上記移動指令部は、上記アクチュエータの各位置に対する各ギア段の割付が異なる2種のトランスミッション機構について両方の割付を設定されており、上記アクチュエータが特定の位置に移動したときに上記トランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったどうかにより、トランスミッション機構の種類を判別する種類判別部を備えており、種類判別部が判別した種類に基づいて上記2種の割付の一方を選択的に参照するものである。
【0015】
上記アクチュエータが特定の位置に移動したときに特定のギア段に切り替わるトランスミッション機構は、特定のギア段に切り替わったときに信号を出力するギア段センサを備え、上記種類判別部は、上記信号が入力されることにより、上記トランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったことを認識してもよい。
【0016】
上記種類判別部は、当該自動変速装置が車両に組み付けられたとき種類判別を実施し、その後は、種類判別を実施しなくてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0018】
(1)ソフトウェアが1種類しかなく、管理が容易である。
【0019】
(2)トランスミッション機構の種類を自動判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態を示す自動変速装置の種類判別部における手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態を示す自動変速装置の移動指令部における手順を示すフローチャートである。
【図3】(a)はAタイプ、(b)はBタイプのトランスミッション機構におけるレイアウト図である。
【図4】アクチュエータが移動する線の分岐枝に位置名称を定義する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0022】
本発明に係る自動変速装置(図示せず)は、1以上の前進ギア段と後進ギア段とを含む複数のギア段を有するトランスミッション機構と、該トランスミッション機構のギア段を切り替えるために複数の位置に移動するアクチュエータと、所望するギア段に応じて上記アクチュエータに移動する位置を指令する移動指令部とを備える。
【0023】
上記構成部材のうち、トランスミッション機構、アクチュエータは、従来より公知であるので、詳しい説明は省略する。
【0024】
移動指令部は、従来と同様に、ECU等のデジタル処理装置にソフトウェアを搭載することで実現される。ただし、本発明ではソフトウェアが従来と異なる。
【0025】
本発明に係る自動変速装置の移動指令部は、AタイプとBタイプのトランスミッション機構について両方の割付を設定されており、アクチュエータが特定の位置に移動したときにトランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったどうかにより、トランスミッション機構の種類を判別する種類判別部を備えており、種類判別部が判別した種類に基づいて上記2種の割付の一方を選択的に参照するようになっている。
【0026】
本発明の自動変速装置においては、2種類のトランスミッション機構のうち、アクチュエータが特定の位置に移動したときに特定のギア段に切り替わるトランスミッション機構は、特定のギア段に切り替わったときに信号を出力するギア段センサを備える。本実施形態においては、特定の位置を位置イとし、特定のギア段を後進ギア段とする。アクチュエータが位置イに移動したときに後進ギア段に切り替わるトランスミッション機構は、Bタイプのトランスミッション機構である。
【0027】
Bタイプのトランスミッション機構は、ギア段センサとして、後進ギア段に切り替わったときにリバース信号としてON信号を出力するリバースセンサを備える。ON信号は、電気的にHレベル又はLレベルのいずれか、また、論理的に“1”又は“0”のいずれかで表すことができる。リバースセンサの具体的構造については特に限定しないが、例えば、車軸に逆回転を与えるギアが車軸ギアに噛合したときのみ導通する(あるいはそのときのみ非導通となる)スイッチをトランスミッション機構に設置して実現することができる。
【0028】
種類判別部は、ギア段センサからの信号が入力されることにより、トランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったことを認識するようになっている。具体的には、Bタイプのトランスミッション機構において、後進ギア段に切り替わったときにリバースセンサがON信号を出力するので、このON信号が種類判別部に入力されると、種類判別部がトランスミッション機構が後進ギア段に切り替わったことを認識するようになっている。
【0029】
種類判別部は、アクチュエータが特定の位置に移動したときにトランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったどうかにより、トランスミッション機構の種類を判別するようになっている。本実施形態では、アクチュエータが位置イに移動したときにトランスミッション機構が後進ギア段に切り替わったのであるから、このトランスミッション機構の種類はBタイプであると判別することになる。ON信号が入力されない(OFFである)ときは、トランスミッション機構の種類がAタイプであると判別することになる。
【0030】
種類判別部は、当該自動変速装置が車両に組み付けられたとき種類判別を実施し、その後は、種類判別を実施しないようになっている。
【0031】
移動指令部は、種類判別部が判定して記憶した種類に基づいてAタイプとBタイプの割付の一方を選択的に参照するようになっている。
【0032】
以下、本発明の自動変速装置の動作を説明する。
【0033】
自動変速装置が車両に組み付けられたとき、より具体的には、車両の組み立てが完了したとき、作業者は車両の電源を投入する。これにより、種類判別部が起動される。
【0034】
図1に示されるように、ステップS11において、種類判別部は、種類判別を未実施かどうか判定する。未実施であるかどうかは、後述する判別結果が存在するか否かにより分かる。あるいは判別終了のときにフラグを立てて、そのフラグの有無で判定してもよい。実施済みであれば、ステップS11に戻る。未実施であれば次に進む。
【0035】
ステップS12において、種類判別部は、車両が停車しているかどうか、ブレーキがONかどうか、クラッチが断かどうかを判定する。これらは、従来技術であり、車両が停車しているかどうかは車速センサの出力値から、ブレーキがONかどうかはブレーキセンサのON/OFFから、クラッチが断かどうかはECUの内部状態から分かる。これらの条件が全て揃わなければ、ステップS11に戻る。条件が全て揃えば次に進む。
【0036】
ステップS13において、種類判別部は、アクチュエータを位置イに移動させる。
【0037】
ステップS14において、種類判別部は、一定時間が経過するのを待つ。これは、トランスミッション機構が切り替わるのを待つためである。
【0038】
ステップS15において、種類判別部は、リバース信号がONかどうかを判定する。リバース信号がONであれば、トランスミッション機構が後進ギア段に切り替わったことを認識し、アクチュエータが位置イに移動したときにトランスミッション機構が後進ギア段に切り替わったのであるから、このトランスミッション機構の種類はBタイプであると判別し、ステップS16に進んで、種類をBタイプと記憶する。リバース信号がONでなければ、アクチュエータが位置イに移動したにもかかわらずトランスミッション機構が後進ギア段に切り替わらないのであるから、このトランスミッション機構の種類はAタイプであると判別し、ステップS17に進んで、種類をAタイプと記憶する。
【0039】
ステップS18において、種類判別部は、アクチュエータをニュートラルに戻す。その後、種類判別部は、判別終了のフラグを立てて、ステップS11に戻る。
【0040】
自動変速装置が変速制御を行うとき、移動指令部は、図2のように割付を参照する。
【0041】
図2に示されるように、ステップS21において、移動指令部は、種類判別部が記憶した種類に基づいて、トランスミッション機構の種類がBタイプかどうかを判定する。種類がBタイプであれば、ステップS22に進んで、Bタイプの割付を参照する。種類がAタイプであれば、ステップS23に進んで、Aタイプの割付を参照する。
【0042】
このように、判別した種類を記憶しておくことにより、それ以降の変速制御において正しい割付が参照できるようになるので、トランスミッション機構がECUで決定した通りのギア段に切り替わるようになる。
【0043】
以上説明したように、本発明によれは、トランスミッション機構が2種類あるのに対してアクチュエータに移動位置を指令する移動指令部のソフトウェアは1種類でよく、管理が容易となる。
【0044】
また、本発明によれば、トランスミッション機構の種類を自動判別してアクチュエータを動作させるので、不適切なソフトウェア使用によるギア段切り替えミスが生じなくなる。
【0045】
本実施形態では、トランスミッション機構の種類判別のためにアクチュエータが移動する特定の位置を位置イとしたが、他の位置としても本発明は実施できる。本実施形態では、特定のギア段を後進ギア段としたが、他のギア段としても本発明は実施できる。
【0046】
また、本実施形態では、Bタイプのトランスミッション機構にリバースセンサを備えるものとしたが、Aタイプのトランスミッション機構にリバースセンサを備えてもよい。この場合、Aタイプのトランスミッション機構では、アクチュエータが位置アに移動したとき後進ギア段に切り替わるので、トランスミッション機構の種類判別のためにアクチュエータが移動する特定の位置は位置アとなる。
【0047】
また、本実施形態では、トランスミッション機構の種類をAタイプとBタイプとしたが、他のタイプが存在する場合でも、特定の位置、特定のギア段、ギア段センサを適宜に配置することにより、本発明を実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の前進ギア段と後進ギア段とを含む複数のギア段を有するトランスミッション機構と、該トランスミッション機構のギア段を切り替えるために複数の位置に移動するアクチュエータと、所望するギア段に応じて上記アクチュエータに移動する位置を指令する移動指令部とを備えた自動変速装置において、
上記移動指令部は、上記アクチュエータの各位置に対する各ギア段の割付が異なる2種のトランスミッション機構について両方の割付を設定されており、上記アクチュエータが特定の位置に移動したときに上記トランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったどうかにより、トランスミッション機構の種類を判別する種類判別部を備えており、種類判別部が判別した種類に基づいて上記2種の割付の一方を選択的に参照することを特徴とする自動変速装置。
【請求項2】
上記アクチュエータが特定の位置に移動したときに特定のギア段に切り替わるトランスミッション機構は、特定のギア段に切り替わったときに信号を出力するギア段センサを備え、
上記種類判別部は、上記信号が入力されることにより、上記トランスミッション機構が特定のギア段に切り替わったことを認識することを特徴とする請求項1記載の自動変速装置。
【請求項3】
上記種類判別部は、当該自動変速装置が車両に組み付けられたとき種類判別を実施し、その後は、種類判別を実施しないことを特徴とする請求項1又は2記載の自動変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−159823(P2010−159823A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2587(P2009−2587)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】