説明

自動車用保安装置

【課題】車体が転倒したことを精度良く検出して保安のための処理を的確に行うことができるようにした自動車用保安装置を提供する。
【解決手段】車体の傾斜量を検出する傾斜量センサ8と、サスペンションの変位量を検出するサスペンション変位センサ9と、傾斜量センサにより検出された傾斜量が転倒判定値以上であるか否かを判定する車体傾斜量判定部2と、サスペンション変位センサの出力の変化の有無を判別する検出信号変化判定部3と、車体傾斜量判定部2により車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつスサスペンション変位センサの出力の変化がないときに転倒判定カウンタ5の計数値をインクリメントするカウンタ制御部4と、転倒判定カウンタの計数値が設定値以上になったときに転倒時に必要な保安処理を起動させる保安処理起動部6とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車、ATV、スノーモビル等の自動車の保安装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車、ATV(All Terrain Vehicle)、スノーモビル等の自動車においては、転倒したときにエンジンを停止させたり、エンジンの出力を低下させたりする保安処理を行うことが好ましい。また自動車にナビゲーション装置が搭載されている場合には、転倒事故が生じた際に、事故情報を自動車の現在位置を示す位置情報と共に発信する機能を持たせておくことが好ましい。
【0003】
転倒時にエンジンを停止させたり、事故情報を発信したりする等の保安措置を講じる場合には、エンジンが無用に停止したり、事故情報が濫りに発信されたりするのを防ぐために、保安措置を講じる必要がある転倒状態のみを検出するようにしておく必要がある。
【0004】
一般に、車体の転倒を検出するセンサとしては、車体の傾斜量を検出する傾斜量センサが用いられている。傾斜量センサとしては、車体の傾斜に伴って回動する振り子と、この振り子が所定角以上回動したときに検出動作を行う位置センサとを備えたものや、加速度センサとその出力電圧から傾斜角を検出する検出回路とを組み合わせたもの等が用いられる。
【0005】
傾斜量センサのみにより車体の転倒を検出して保安処理を起動するようにした場合には、走行中の車体の姿勢により、検出された傾斜量が瞬時的に転倒判定値以上になった場合にも保安処理が起動し、エンジンが停止するおそれがある。またレース中に車体が転倒した後、乗員がすぐに車体を起こした場合にも、保安処理が起動してエンジンが停止し、レースに復帰するのが遅れるという不都合が生じる。
【0006】
保安処理を起動させる必要がある車体の転倒状態を精度よく検出する転倒検出装置として、特許文献1に記載されているように、車体の傾斜量を検出する傾斜量センサと、車体フレームと車輪との間に設けられるサスペンションの変位量を検出するサスペンション変位センサとを用いて、これらのセンサの出力から車体の転倒を検出するようにしたものが提案されている。
【0007】
特許文献1に示された転倒検出装置では、傾斜量センサにより検出された車体の傾斜量が転倒判定値以上で、かつサスペンションの変位量が最大になる前(サスペンションが伸びきった状態になる前)の所定の時間内にサスペンションの変位量が所定値未満になったこと(サスペンションの変位量が小さくなったこと)が検出されていない場合に、車体が転倒したと判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−274847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動二輪車、ATV、スノーモービルなどの自動車においては、ユーザが好みにより、サスペンションのスプリングレートや減衰力を調整したり、変更したりすることがある。従って、同じ車種で、同じサスペンションが同じように使われていても、車によってサスペンションの変位量が大きく異なる場合がある。またドライバーの体重によっても、サスペンションの変位量に大きな差が生じる。
【0010】
従って、特許文献1に記載されているように、サスペンションの変位量を転倒の判定に用いると、転倒の判定を的確に行うことができないおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、ユーザによるサスペンションの設定変更や、ドライバーの体重差の影響を受けることなく、保安処理を講じる必要がある車体の転倒を精度よく検出して、保安処理を的確に起動させることができるようにした自動車用保安装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、車体フレームと車体フレームにサスペンションを介して支持された車輪または無限軌道とを有する車体と車体に取り付けられて車輪または無限軌道を駆動する原動機とを備えた自動車に搭載されて、車体が転倒したときに必要な保安処理を行う自動車用保安装置を対象とする。
【0013】
本発明に係わる保安装置は、保安処理を遂行する転倒時保安処理遂行部と、車体の傾斜量を検出する傾斜量センサと、サスペンションの可動部の変位量を検出して、検出した変位量を示す変位量検出信号を出力するサスペンション変位センサと、傾斜量センサにより検出された傾斜量を設定された転倒判定値と比較して、検出された車体の傾斜量が転倒判定値以上であるか否かを一定の時間間隔で繰り返し判定する車体傾斜量判定部と、サスペンション変位センサが出力する変位量検出信号の変化の有無を一定の時間間隔で繰り返し判定する検出信号変化判定部と、転倒判定カウンタと、車体傾斜量判定部により車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつ検出信号変化判定部により変位量検出信号の変化がないと判定されたときに転倒判定カウンタの計数値をインクリメントし、傾斜量判定部により傾斜量が転倒判定値未満であると判定されたとき又は検出信号変化判定部により変位量検出信号の変化があると判定されたときに転倒判定カウンタをリセットするように制御するカウンタ制御部と、転倒判定カウンタによる計数値が設定値以上になったときに転倒時保安処理遂行部を起動する保安処理起動部とを備えたことを特徴とする。
【0014】
上記のように、傾斜量センサにより検出された傾斜量が転倒判定値以上であるか否かを判定する車体傾斜量判定部と、サスペンション変位センサが出力する変位量検出信号の変化の有無を判定する検出信号変化判定部と、車体傾斜量判定部により車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつ検出信号変化判定部により変位量検出信号の変化がないと判定されたときに計数値がインクリメントされる転倒判定カウンタとを設けて、転倒判定カウンタの計数値が設定値以上になったときに転倒時保安処理遂行部を起動するように構成すると、傾斜量センサの出力から車体が転倒したと判定された状態と、サスペンション変位センサの出力から車体が転倒したと判定された状態とが所定の時間継続した場合にのみ保安処理が起動する。従って、走行中の車体の姿勢などにより、車体の傾斜量が瞬時的に転倒判定値以上になった場合等、保安処理を講じる必要がない転倒状態が生じたときに、保安処理が起動するのを防ぐことができる。またサスペンションの変位量の大小を判定することなく、車体の転倒を検出することができるため、ユーザによるサスペンションの設定変更や、ドライバーの体重差の影響を受けることなく、車体の転倒を精度よく検出して、保安処理を的確に起動させることができる。
【0015】
本発明の好ましい態様では、自動車の原動機が燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンである場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときに燃料噴射装置からの燃料の噴射を停止させてエンジンを停止させる処理を行うように構成する。
【0016】
本発明の他の好ましい態様では、原動機がエンジンである場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときにエンジンを点火する点火装置の動作を停止させてエンジンを停止させる処理を行うように構成する。
【0017】
本発明の更に他の好ましい態様では、原動機が燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンである場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときにエンジンの点火装置の動作を停止させる処理と、燃料噴射装置からの燃料の噴射を停止させる処理とを行ってエンジンを停止させるように構成する。
【0018】
上記のように、起動させられたときにエンジンを停止させるようにした場合には、転倒時に駆動輪や無限軌道を停止させることができるため、投げ出された乗員が駆動輪や無限軌道に触れて怪我をするのを防ぐことができ、安全性を高めることができる。
【0019】
本発明の他の好ましい態様では、原動機が燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンである場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときに燃料噴射装置からの燃料の噴射量を減少させてエンジンの出力を低下させる処理を行うように構成する。
【0020】
本発明の他の好ましい態様では、原動機がエンジンである場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときにエンジンの点火時期を遅角させてエンジンの出力を低下させる処理を行うように構成する。
【0021】
上記のように、保安処理起動部により起動させられたときにエンジンの燃料噴射量を減少させるか、または点火時期を遅角させることによりエンジンの出力を低下させるようにした場合には、転倒時に投げ出された乗員が駆動輪や無限軌道から大きな力を受けるのを防ぐことができるため、ドライバーが駆動輪や無限軌道に触れて怪我をするのを防ぐことができる。また転倒時にエンジンを停止させないので、自動車がレース用である場合に、レースへの復帰を容易に行わせることができる。
【0022】
本発明の更に他の好ましい態様では、原動機が電動機である場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときに電動機を停止させる処理を行うように構成する。
【0023】
本発明の他の好ましい態様では、GPSを用いたナビゲーション装置と、予め定めた通信基地との間で通信を行う通信装置とが自動車に設けられている場合に、転倒時保安処理遂行部を、保安処理起動部により起動させられたときに、車体が転倒したことを示す事故情報とナビゲーション装置により検出されている自動車の位置情報とを通信基地に送信するための通信を通信装置に行わせるように構成する。
【0024】
上記のように構成すると、車体が転倒したことを示す事故情報を車体の位置情報と共に通信基地に送信できるため、山間僻地等で転倒事故が発生したときに、その事故の情報を通信基地に報知して、乗員の救助のための措置を迅速に講じさせることができ、乗員が遭難するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、傾斜量センサにより検出された傾斜量が転倒判定値以上であるか否かを判定する車体傾斜量判定部と、サスペンション変位センサが出力する変位量検出信号の変化の有無を判定する検出信号変化判定部と、車体傾斜量判定部により車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつ検出信号変化判定部により変位量検出信号の変化がないと判定されたときに計数値がインクリメントされる転倒判定カウンタとを設けて、転倒判定カウンタの計数値が設定値以上になったときに転倒時保安処理遂行部を起動させるように構成したので、傾斜量センサの出力から車体が転倒したと判定された状態と、サスペンション変位センサの出力から車体が転倒したと判定された状態とが所定の時間継続した場合にのみ保安処理を起動させることができる。従って、走行中の車体の姿勢などにより、車体の傾斜量が瞬時的に転倒判定値以上になった場合等、保安処理を講じる必要がない転倒状態が生じたときに、保安処理が起動するのを防ぐことができる。
【0026】
また本発明によれば、サスペンションの変位量の大小を判定することなく、車体の転倒を検出することができるため、ユーザによるサスペンションの設定変更や、ドライバーの体重差の影響を受けることなく、車体の転倒を精度よく検出して、保安処理を的確に起動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の構成を示したブロック図である。
【図2】自動車が走行している際のサスペンション変位センサの出力波形の一例を示した波形図である。
【図3】自動車が転倒した際のサスペンション変位センサの出力波形の一例を示した波形図である。
【図4】図1に示した実施形態で用いる転倒検出装置を構成するためにECUのコンピュータに実行させるタスクのアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明は、車体フレームと、この車体フレームにサスペンションを介して支持された車輪または無限軌道とを有する車体と、車体に取り付けられて車輪または無限軌道を駆動する原動機とを備えた自動車に搭載されて、車体が転倒したときに必要な保安処理を行う自動車用保安装置に係わるものである。本発明に係わる保安装置は、エンジンまたは電動機により駆動される任意の自動車に適用することができるが、特に、自動二輪車、ATV、スノーモービルのように、レースや不整地走行に用いられる機会が多く、転倒事故が生じやすい自動車に適用するのに好適である。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係わる保安装置の要部の構成を示したものである。この実施形態では、自動車がエンジンにより駆動されるものとしている。
【0030】
図1において、1はコンピュータを用いて各種の車載の電装品の制御を行う電子式制御ユニット(ECU)である。ECU1は、コンピュータに所定のプログラムを実行させることにより、各種の手段を構成する。本実施形態では、ECU1により、車体傾斜量判定部2と、検出信号変化判定部3と、カウンタ制御部4と、転倒判定カウンタ5と、保安処理起動部6と、転倒時保安処理遂行部7とが構成される。本実施形態では、傾斜量センサ8の出力と、サスペンション変位センサ9の出力と、GPSを用いたナビゲーション装置10から得られる自動車の現在位置を示す位置情報信号とがECU1に入力されている。
【0031】
傾斜量センサ8は、例えば車体に取り付けられた加速度センサと、加速度センサの出力から車体の傾斜角を検出する傾斜角検出回路とからなっていて、車体の鉛直方向に対する傾斜角にほぼ比例した傾斜量検出信号を出力する。
【0032】
車体傾斜量判定部2は、傾斜量センサ8により検出された車体の傾斜量を予め設定された転倒判定値と比較して、検出された車体の傾斜量が転倒判定値以上であるか、転倒判定値未満であるかを一定の時間間隔で繰り返し判定する。本実施形態で用いる車体傾斜量判定部2は、傾斜量センサ1が出力している傾斜量検出信号を一定のサンプリング周期でサンプリングして、傾斜量検出信号をサンプリングする毎に、サンプリングした出力が転倒判定値以上であるか否かを判定する。
【0033】
車体の傾斜量(傾斜角)については、種々の定義の仕方が考えられるが、本明細書では、車体の前後方向に対して直交する平面と、車軸の向きが車体の前後方向に対して直交する方向に固定された車輪(舵取り時に向きが変わらない車輪)の軸線と直交する平面との交線が、鉛直方向に対してなす角度を車体の傾斜角とする。
【0034】
サスペンション変位センサ9は、車輪(スノーモービルの場合は無限軌道)と車体フレームとサスペンションの可動部との間に取り付けられて、サスペンションの可動部の変位量に比例した変位量検出信号(電気信号)を出力するリニア変位センサである。このサスペンション変位センサとしては、例えば、サスペンションストロークセンサとして市販されているものを用いることができる。サスペンション変位センサ9が出力する変位量検出信号は、自動車が走行している際には、サスペンションの変位に伴って、例えば図2に示すように細かく変化する波形を示すが、車体が転倒してサスペンションが伸びきった状態になったときには、図3に示すように一定のレベルを示す。
【0035】
検出信号変化判定部3は、サスペンション変位センサ9が出力する変位量検出信号の変化の有無を一定の時間間隔で繰り返し判定する部分で、変位量検出信号が図2に示すような波形を示しているときには、変位量検出信号が変化していると判定し、変位量検出信号が図3に示すように一定値を有しているときには、変位量検出信号が変化をしていないと判定する。本実施形態で用いる検出信号変化判定部3は、サスペンション変位センサ9が出力している変位量検出信号の大きさを一定のサンプリング周期でサンプリングして、変位量検出信号の大きさをサンプリングする毎に、サンプリングした変位量検出信号の大きさが前回サンプリングした変位量検出信号の大きさと異なるか否かを判定する。
【0036】
カウンタ制御部4は、車体傾斜量判定部2による判定結果と、検出信号変化判定部3による判定結果とに応じて転倒判定カウンタ5を制御する部分で、このカウンタ制御部4は、車体傾斜量判定部2により車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつ検出信号変化判定部3により変位量検出信号の変化がないと判定されたときに転倒判定カウンタ5の計数値をインクリメントし、車体傾斜量判定部2により傾斜量が転倒判定値未満であると判定されたとき、又は検出信号変化判定部3により変位量検出信号の変化がないと判定されたときに転倒判定カウンタ5の計数値を0にリセットする。
【0037】
保安処理起動部6は、転倒判定カウンタ5の計数値が設定値未満のときに車体が転倒していないと判定し、転倒判定カウンタ5の計数値が設定値以上になったときに車体が転倒したと判定して転倒時保安処理遂行部7を起動させる。転倒判定カウンタ5の計数値に対する設定値は、車体が転倒した後、乗員が車体を起こすのに要する通常の時間の間にカウンタが計数する計数値以上の値で、大きすぎない値に設定しておく。
【0038】
車体が転倒していない状態では、車体傾斜量判定部2により、車体の傾斜量が転倒判定値未満であると判定され、検出信号変化判定部3により、変位量検出信号が変化していると判定されるため、転倒判定カウンタ5は計数値をインクリメントしない。従って、保安処理起動部6が転倒時保安処理遂行部7を起動させることはない。
【0039】
走行中にたまたま車体の傾斜角が増大して車体傾斜量センサにより検出された傾斜量が転倒判定値を瞬時的に超えた場合にも、車体傾斜量判定部2により、検出された車体の傾斜量が転倒判定値以上であるとの判定が行われるが、このときサスペンション変位センサ9の出力が変化しているので、検出信号変化判定部3が変位量検出信号の変化がないとの判定を行うことはない。そのため、転倒判定カウンタ5が計数値をインクリメントすることはなく、転倒判定カウンタの計数値が設定値に達することはない。
【0040】
また車体が転倒した後、乗員に怪我がなく、乗員がすぐに車体を起こした場合には、転倒判定カウンタ5がリセットされるため、転倒判定カウンタ5の計数値が設定値に達することがなく、保安処理起動部6が転倒時保安処理遂行部7を起動することはない。
【0041】
これに対し、車体が転倒した際に乗員が車体を起こすことができない場合には、転倒判定カウンタ5の計数値が一定の時間間隔でインクリメントされて、やがてその計数値が設定値に達するため、保安処理起動部6が転倒時保安処理遂行部7を起動させる。
【0042】
転倒時保安処理遂行部7は、保安処理起動部により起動させられた時に、乗員を保護するために必要な保安処理を講じるための手段を備えている。
【0043】
本実施形態では、転倒時保安処理遂行部7が、エンジンを点火する点火装置11の点火動作を停止させるように点火装置11を制御する手段と、エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置12の燃料噴射動作を停止させるように燃料噴射装置12を制御する手段とを備えていて、保安処理起動部により起動させられたときに、点火動作と燃料噴射動作との双方を停止させることにより自動車の原動機であるエンジンを停止させるようにしている。転倒時保安処理遂行部7はまた、起動させられたときに、車体が転倒したことを示す事故情報とナビゲーション装置10により検出されている自動車の現在位置を示す位置情報とを通信基地に送信するための通信を自動車に備えられている通信装置13に行わせる通信制御手段を備えている。
【0044】
本実施形態では、車体傾斜量判定部2と、検出信号変化判定部3と、転倒判定カウンタ5と、保安処理起動部6とにより転倒検出装置が構成され、この転倒検出装置と、転倒時保安処理遂行部7とにより、自動車用保安装置が構成されている。
【0045】
図4を参照すると、転倒検出装置の各部を構成するためにECU1のコンピュータに一定の時間間隔で実行させるタスクのアルゴリズムを示すフローチャートが示されている。このタスクが起動すると、先ずステップ101で、傾斜量センサの出力から車体の傾斜角θを検出して、検出した傾斜角θが転倒判定値以上であるか否かを判定する。その結果、車体の傾斜角が判定値以上であると判定されたときにはステップ102に進んで、サスペンション変位センサの今回の検出値が前回の検出値から変化しているか否かを判定する。その結果、サスペンション変位センサの今回の検出値が前回の検出値から変化していないと判定されたときには、ステップ103に進んで転倒判定カウンタの計数値Ctをインクリメントする。
【0046】
次いでステップ104で、転倒判定カウンタの計数値Ctが設定値以上であるか否かを判定し、転倒判定カウンタの計数値Ctが設定値以上であれば、転倒時保安処理遂行部を起動させてこの処理を終了する。転倒判定カウンタの計数値Ctが設定値未満である場合には計数値Ctを次回に繰り越してこのタスクを終了する。
【0047】
ステップ101で車体の傾斜角が判定値未満であると判定されたとき、及びステップ102でサスペンション変位センサの今回の検出値が前回の検出値から変化していると判定されたときには、ステップ105に進んで転倒判定カウンタの計数値Ctを0にリセットしてこのタスクを終了する。
【0048】
図4に示したアルゴリズムによる場合には、ステップ101により車体傾斜量判定部2が構成され、ステップ102により検出信号変化判定部3が構成される。またステップ103により、車体傾斜量判定部により車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつ検出信号変化判定部により変位量検出信号の変化がないと判定されたときに転倒カウンタの計数値をインクリメントし、傾斜量判定部により傾斜量が転倒判定値未満であると判定されたとき又は検出信号変化判定部により変位量検出信号の変化があると判定されたときに転倒判定カウンタをリセットするように転倒判定カウンタ5を制御するカウンタ制御部4が構成され、ステップ104により、転倒判定カウンタ5の計数値が設定値以上になったときに転倒時保安処理遂行部7を起動させる保安処理起動部6が構成される。
【0049】
上記の実施形態では、起動させられたときに、エンジンの点火装置11の動作を停止させる処理と、燃料噴射装置12からの燃料の噴射を停止させる処理とを行ってエンジンを停止させるように転倒時保安処理遂行部7を構成したが、転倒時保安処理遂行部7は、起動させられたときにエンジンを点火する点火装置11の動作を停止させる処理のみを行わせてエンジンを停止させるように構成してもよく、起動させられたときに燃料噴射装置12らの燃料の噴射を停止させる処理のみを行ってエンジンを停止させるように構成してもよい。
【0050】
上記の実施形態では、起動させられたときにエンジンを停止させるように転倒時保安処理遂行部7を構成しているが、起動させられたときにエンジンの出力を低下させる処理を行うように転倒時保安処理遂行部7を構成することもできる。
【0051】
即ち、転倒時保安処理遂行部7は、起動させられたときに燃料噴射装置からの燃料の噴射量を減少させてエンジンの出力を低下させる処理を行うように構成してもよく、起動させられたときにエンジンの点火時期を遅角させてエンジンの出力を低下させる処理を行うように構成してもよい。
【0052】
上記の実施形態では、自動車の原動機がエンジンであるとしたが、電動機を原動機とした電気自動車にも本発明を適用することができる。原動機が電動機である場合には、起動させられたときに電動機を停止させる処理を行うように転倒時保安処理遂行部7を構成する。
【0053】
上記の実施形態では、起動させられたときに、車体が転倒したことを示す事故情報とナビゲーション装置10により検出されている自動車の現在位置を示す位置情報信号とを通信基地に送信するための通信を通信装置13に行わせる通信制御手段を転倒時保安処理遂行部7に設けたが、自動車にナビゲーション装置10及び通信装置13が搭載されていない場合には、当然のことながらこの通信制御手段は省略される。
【符号の説明】
【0054】
1 ECU
2 車体傾斜量判定部
3 検出信号変化判定部
4 カウンタ制御部
5 転倒判定カウンタ
6 保安処理起動部
7 転倒時保安処理遂行部
8 傾斜量センサ
9 サスペンション変位センサ
10 ナビゲーション装置
11 点火装置
12 燃料噴射装置
13 通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと前記車体フレームにサスペンションを介して支持された車輪または無限軌道とを有する車体と前記車体に取り付けられて前記車輪または無限軌道を駆動する原動機とを備えた自動車に搭載されて、前記車体が転倒したときに必要な保安処理を行う自動車用保安装置であって、
前記保安処理を遂行する転倒時保安処理遂行部と、
前記車体の傾斜量を検出する傾斜量センサと、
前記サスペンションの可動部の変位量を検出して、検出した変位量を示す変位量検出信号を出力するサスペンション変位センサと、
前記傾斜量センサにより検出された傾斜量を設定された転倒判定値と比較して、検出された車体の傾斜量が転倒判定値以上であるか否かを一定の時間間隔で繰り返し判定する車体傾斜量判定部と、
前記サスペンション変位センサが出力する変位量検出信号の変化の有無を一定の時間間隔で繰り返し判定する検出信号変化判定部と、
転倒判定カウンタと、
前記車体傾斜量判定部により前記車体の傾斜量が転倒判定値以上であると判定され、かつ前記検出信号変化判定部により前記変位量検出信号の変化がないと判定されたときに前記転倒判定カウンタの計数値をインクリメントし、前記傾斜量判定部により前記傾斜量が転倒判定値未満であると判定されたとき又は前記検出信号変化判定部により前記変位量検出信号の変化があると判定されたときに前記転倒判定カウンタをリセットするように制御するカウンタ制御部と、
前記転倒判定カウンタによる計数値が設定値以上になったときに前記転倒時保安処理遂行部を起動する保安処理起動部と、
を具備してなる自動車用保安装置。
【請求項2】
前記原動機は燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンであり、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに前記燃料噴射装置からの燃料の噴射を停止させて前記エンジンを停止させる処理を行うように構成されている請求項1に記載の自動車用保安装置。
【請求項3】
前記原動機はエンジンであり、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに前記エンジンを点火する点火装置の動作を停止させて前記エンジンを停止させる処理を行うように構成されている請求項1に記載の自動車用保安装置。
【請求項4】
前記原動機は燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンであり、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに前記エンジンの点火装置の動作を停止させる処理と、前記燃料噴射装置からの燃料の噴射を停止させる処理とを行ってエンジンを停止させるように構成されている請求項1に記載の自動車用保安装置。
【請求項5】
前記原動機は燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンであり、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに前記燃料噴射装置からの燃料の噴射量を減少させて前記エンジンの出力を低下させる処理を行うように構成されている請求項1に記載の自動車用保安装置。
【請求項6】
前記原動機はエンジンであり、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに前記エンジンの点火時期を遅角させて前記エンジンの出力を低下させる処理を行うように構成されている請求項1に記載の自動車用保安装置。
【請求項7】
前記原動機は電動機であり、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに前記電動機を停止させる処理を行うように構成されている請求項1に記載の自動車用保安装置。
【請求項8】
前記自動車は、GPSを用いたナビゲーション装置と、予め定めた通信基地との間で通信を行う通信装置とを備え、
前記転倒時保安処理遂行部は、前記保安処理起動部により起動させられたときに、車体が転倒したことを示す事故情報と前記ナビゲーション装置により検出されている自動車の位置情報とを前記通信基地に送信するための通信を前記通信装置に行わせるように構成されている、
請求項1ないし7の何れか1つに記載の自動車用保安装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99383(P2011−99383A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254623(P2009−254623)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】