説明

自動車用多段変速機

【課題】単価を押し上げることなく、シャフトを支持するオイルシールの疲労劣化を抑制する。
【解決手段】自動車用多段変速機は、クラッチハウジング17にオイルシール18を介して挿通されたシャフト13と、シャフト13に嵌入されオイルシール18をギヤケース11側から覆うオイルシールカバー22と、シャフト13にカラー23を介して嵌入されシャフト13をギヤケース11に支持する玉型軸受け24と、シャフト13に回転可能に嵌入されてカラー23に接触するスプリッタギヤ19aと、スプリッタギヤ19aに歯合し又はスプリッタギヤ19aから離間するクラッチプレート26とを備える。オイルシールカバー22とカラー23の間の空間への潤滑油10cの閉じ込みを防止する閉じ込み防止手段がオイルシールカバー22又はカラー23のいずれか一方又は双方に講じられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油により潤滑される自動車用多段変速機に関する。更に詳しくは、主変速機の他にその主変速機の変速回転をロー又はハイに切り換える副変速機が設けられた自動車用多段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックや、バス等の大型自動車にあっては、エンジンの出力が車両の総重量に対して相対的に小さく、かつそのパワーバンドが狭い。また、積載時と空車時とでは重量が大きく異なる。そのため、一般的な主変速機の他に、その主変速機の変速回転をロー又はハイに切り換える副変速機が設けられた自動車用多段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような多段変速機における副変速機は、図6に示すように、クラッチハウジング1aにオイルシール2を介してインプットシャフト3が挿通され、そのオイルシール2をギヤケース1b側から覆うリング状のオイルシールカバー4がそのインプットシャフト3に嵌入される。そのインプットシャフト3は、カラー5を介してそのオイルシールカバー4に隣接嵌入された玉型軸受け6によりギヤケース1bに支持される。そのインプットシャフト3には、玉型軸受け6に隣接してカラー5に接触する第一スプリッタギヤ7aと、その第一スプリッタギヤ7aから離間する第二スプリッタギヤ7bが回転可能に設けられる。この第一及び第二スプリッタギヤ7a,7bはそれぞれカウンタシャフト8に歯合するものであって、この第一及び第二スプリッタギヤ7a,7bの中間のインプットシャフト3にはクラッチプレート9が回転不能であって軸方向に移動可能に嵌入される。そして、その第一スプリッタギヤ7a又は第二スプリッタギヤ7bのいずれか一方にクラッチプレート9が選択的に歯合することにより、インプットシャフト3の回転をその回転比を変えた状態でカウンタシャフト8に伝達するように構成される。
【0004】
一方、このような多段変速機にあっては、そのギヤケース1bの内部に潤滑油1cが蓄えられ、カウンタシャフト8とともに回転する段ギヤがその潤滑油1cを掻き上げて潤滑を行うとともに、カウンタシャフト8等の回転により駆動する図示しないオイルポンプによってギヤケース1b内の潤滑油1cを吸引し、そして送られる潤滑油1cによって各給油部の潤滑を強制的に行うことが知られている。このオイルポンプにより送られる潤滑油1cは、オイルシールカバー4の周囲に導かれ、そのオイルシールカバー4に放射状に形成された油道4aによりオイルシールカバー4の外周からインプットシャフト3の周囲にまでその潤滑油1cが達するように構成される。
【0005】
一方、インプットシャフト3には、その軸芯にオイル通路3aが形成され、オイルシールカバー4に包囲される部分には、そのオイル通路3aとインプットシャフト3の外周におけるオイルシールカバー4とを連通するように、その径方向に連通孔3bが形成される。インプットシャフト3の連通孔3bが形成された部位は、その周囲がオイルシールカバー4により枢支される。そして、このインプットシャフト3は、オイルシールカバー4に形成された油道4aにより、そのオイルシールカバー4の外周からインプットシャフト3の周囲にまで達する潤滑油1cを、連通孔3bを介してオイル通路3aに案内するように構成され、オイル通路3aに案内された潤滑油1cは、そのオイル通路3aを通して、図示しない各ギヤのジャーナル部やシンクロ機構部に供給され、その供給された潤滑油1cによってそれらを潤滑するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−13838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の多段変速機では、玉型軸受け6を支持するカラー5が第一スプリッタギヤ7aに接触し、そのカラー5は更にオイルシールカバー4に隣接する。このため、このクラッチプレート9が第二スプリッタギヤ7bから第一スプリッタギヤ7a方向に移動して、その第一スプリッタギヤ7aに歯合するとき、そのクラッチプレート9の慣性力によりそのクラッチプレート9は第一スプリッタギヤ7aを押して、そのクラッチプレート9が接触するカラー5をオイルシールカバー4方向に瞬間的に押し付けることが生じる。ここで、カラー5には玉型軸受け6が設けられて軸方向と径方向の双方において支持されているけれども、玉型軸受け6は、そのインナーレース6aに対してアウターレース6bが球6cを介して嵌入されており、ギヤケース1bに支持されるアウターレース6bに対して、インナーレース6aは、僅かな遊びによってシャフト3の軸方向に若干移動可能に構成される。
【0008】
このため、カラー5がインナーレース6aとともにオイルシールカバー4方向に押し付けられると、それが瞬間的なものであったとしても、オイルシールカバー4とカラー5の間の隙間は減少し、そのオイルシールカバー4とカラー5の間にある潤滑油1cはその間に閉じ込められてその潤滑油1cの圧力が急激に上昇する、いわゆる水撃現象が生じる。すると、オイルシールカバー4が変形して、又はそのオイルシールカバー4とインプットシャフト3の間の僅かな隙間を通過して、オイルシール2にもその水撃現象が伝搬し、そのオイルシール2を加圧変形させて疲労劣化させる可能性があった。このオイルシール2の劣化を防止するためには、耐圧性に優れた比較的高価な専用のオイルシール2を用いることが考えられるけれども、変速機自体の単価を著しく押し上げることが考えられる。
【0009】
本発明の目的は、単価を押し上げることなく、シャフトに設けられたオイルシールの疲労劣化を抑制し得る自動車用多段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、クラッチハウジングにオイルシールを介して挿通されたシャフトと、シャフトに嵌入されオイルシールをギヤケース側から覆うリング状のオイルシールカバーと、シャフトにカラーを介して嵌入されオイルシールカバーに隣接してシャフトをギヤケースに支持する玉型軸受けと、玉型軸受けに隣接してシャフトに回転可能に嵌入されてカラーに接触するスプリッタギヤと、シャフトに回転不能であって軸方向に移動可能に嵌入され軸方向に移動してスプリッタギヤに歯合し又はスプリッタギヤから離間するクラッチプレートとを備えた自動車用多段変速機の改良である。
【0011】
その特徴ある構成は、オイルシールカバーとカラーの間の空間への潤滑油の閉じ込みを防止する閉じ込み防止手段がオイルシールカバー又はカラーのいずれか一方又は双方に講じられたところにある。
【0012】
この閉じ込み防止手段は、オイルシールカバー又はカラーのいずれか一方又は双方における対向面に放射状に形成された溝であることが好ましく、オイルシールカバーとカラーとの間隔を内周から外周に向かって拡大させるようにオイルシールカバー及びカラーのいずれか一方又は双方における対向面に形成された内周から外周に向かって軸方向に傾斜する傾斜面であっても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自動車用多段変速機では、潤滑油の閉じ込みを防止する閉じ込み防止手段をオイルシールカバー又はカラーのいずれか一方又は双方に講じるので、クラッチプレートがその慣性力によりカラーをオイルシールカバー方向に押し付けて、オイルシールカバーとカラーの間の隙間が減少したとしても、そのオイルシールカバーとカラーの間にある潤滑油の閉じ込みは防止される。これにより、その間における潤滑油の水撃現象は回避され、この水撃現象に起因するオイルシールの疲労劣化は防止される。この結果、シャフトとクラッチハウジングの間に設けられたオイルシールの疲労劣化を効果的に抑制することができ、オイルシールは比較的安価な一般的に広く販売されている汎用オイルシールを用いることにより、高価なオイルシールを用いることに起因する変速機自体の単価が押し上げられるようなことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明実施形態の自動車用多段変速機のクラッチプレートが第一スプリッタギヤに歯合した状態を示す要部拡大断面図である。
【図2】その変速機のクラッチプレートが第二スプリッタギヤに歯合した状態を示す図1に対応する要部拡大断面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】その変速機の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の別の閉じ込み防止手段を含む図1に対応する断面図である。
【図6】従来の自動車用変速機を示す図1に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図4に示すように、本発明の自動車用多段変速機10は、そのギヤケース11の内部の上側にメインシャフト12が自動車の前後方向に延びて配置される。メインシャフト12は、図示しないクラッチに連結されるインプットシャフト13と、その後方に同軸に設けられるアウトプットシャフト14を備える。一方、そのメインシャフト12の下方のギヤケース11の内部には、カウンタシャフト16がそのメインシャフト12に平行に配置される。この自動車用多段変速機10は、一般的な主変速機10aの他に、その主変速機10aの変速回転をロー又はハイに切り換える副変速機10bが設けられる。
【0017】
副変速機10bは図示しないクラッチ側に設けられ、インプットシャフト13はクラッチハウジング17にオイルシール18を介して挿通される。ギヤケース11内部のインプットシャフト13には第一及び第二スプリッタギヤ19a,19bが設けられ、それら第一及び第二スプリッタギヤ19a,19bと噛合する第一及び第二ドライブギヤ21a,21bがカウンタシャフト16に設けられる。これにより、この副変速機10bは、インプットシャフト13から入力される回転をインプットシャフト13上の第一又は第二スプリッタギヤ19a,19bと、それらに噛合する第一又は第二ドライブギヤ21a,21bとを介してカウンタシャフト16に伝達するように構成される。
【0018】
また、第一及び第二ドライブギヤ21a,21bより後方のカウンタシャフト16には主変速機10aを構成する各速段ギヤ15a〜15dが設けられ、これらに歯合する各段ギヤ15h〜15kがメインシャフト12に設けられる。そして、各段ギヤ15h〜15kのいずれかをメインシャフト12に連結する複数のシフトフォーク15e〜15gが設けられる。これにより、この主変速機10aは、このカウンタシャフト16上に設けた各速段ギヤ15a〜15dと、メインシャフト12上に設けた各段ギヤ15h〜15kの噛合を変えて、図示しないエンジンのトルクを出力側の副変速機(レンジギヤ)10d,アウトプットシャフト14を経由して図示しない駆動輪に伝えるように構成される。また、ギヤケース11の前方には、クラッチハウジング17が設けられ、ギヤケース11の内部には図示しないオイルポンプが設けられる。
【0019】
図1及び図2に詳しく示すように、クラッチハウジング17にオイルシール18を介して挿通されたインプットシャフト13には、そのオイルシール18をギヤケース11側から覆うリング状のオイルシールカバー22が嵌入される。また、そのインプットシャフト13は、カラー23を介して玉型軸受け24がオイルシールカバー22に隣接して嵌入される。この玉型軸受け24は、そのインナーレース24aに対してアウターレース24bが球24cを介して嵌入されたものであって、この玉型軸受け24により、インプットシャフト13がギヤケース11に支持される。そして、第一スプリッタギヤ19aは玉型軸受け24に隣接してそのインプットシャフト13に回転可能に嵌入され、この第一スプリッタギヤ19aはカラー23に接触するように設けられる。
【0020】
一方、第二スプリッタギヤ19bは、その第一スプリッタギヤ19aに離間して回転可能にインプットシャフト13に嵌入される。この第一及び第二スプリッタギヤ19a,19bはそれぞれカウンタシャフト16に設けられた第一及び第二ドライブギヤ21a,21bに歯合するものであって、この第一及び第二スプリッタギヤ19a,19bの中間のインプットシャフト13にはクラッチプレート26が回転不能であって軸方向に移動可能に嵌入される。そして、その第一スプリッタギヤ19a又は第二スプリッタギヤ19bのいずれか一方にクラッチプレート26が選択的に歯合することにより、インプットシャフト13の回転をその回転比を変えた状態でカウンタシャフト16に伝達するように構成される。この実施の形態では、第一スプリッタギヤ19aにクラッチプレート26が歯合した図1に示す場合に比較して、図2に示すように、第二スプリッタギヤ19bにクラッチプレート26が歯合した場合の方が、カウンタシャフト16を速く回転させることができるように構成される。
【0021】
図1及び図2に示すように、このような多段変速機10にあっては、そのギヤケース11の内部に潤滑油10cが蓄えられ、カウンタシャフト16とともに回転する第一及び第二ドライブギヤ21a,21bや各段ギヤ15a〜15d(図4)がその潤滑油10cを掻き上げて各給油部の潤滑を行うとともに、カウンタシャフト16等の回転により駆動する図示しないオイルポンプによってギヤケース11内の潤滑油10cを吸引して各給油部へその潤滑油10cを送るように構成される。この図示しないオイルポンプにより送られる潤滑油10cの一部は、図3に示すように、オイルシールカバー22の周囲に導かれ、そのオイルシールカバー22に放射状に形成された図1に示す油道22aにより、オイルシールカバー22の外周からインプットシャフト13の周囲にまで達するように構成される。
【0022】
図1及び図3に戻って、インプットシャフト13には、その軸芯にオイル通路13aが形成され、オイルシールカバー22に包囲される部分には、そのオイル通路13aと外周におけるオイルシールカバー22とを連通するように、その径方向に連通孔13bが形成される。インプットシャフト13の連通孔13bが形成された部位は、その周囲がオイルシールカバー22により枢支される。そして、このインプットシャフト13は、オイルシールカバー22に形成された油道22aにより、そのオイルシールカバー22の外周からインプットシャフト13の周囲にまで達する潤滑油10cを、連通孔13bを介してオイル通路13aに案内するように構成され、オイル通路13aに案内された潤滑油10cは、そのオイル通路13aを通して、各段ギヤ15h〜15k(図4)等のジャーナル部やシンクロ機構部に供給され、その供給された潤滑油10cによってそれらを潤滑するように構成される。
【0023】
本発明の特徴ある構成は、オイルシールカバー22とカラー23の間の空間への潤滑油10cの閉じ込みを防止する閉じ込み防止手段がオイルシールカバー22又はカラー23のいずれか一方又は双方に講じられたところにあり、図1及び図2では、オイルシールカバー22のカラー23に対向する面に放射状に形成された溝22bからなる閉じ込み防止手段を示す。図3に示すように、この溝22bは放射状に形成され、例えばエンドミルやフライス等の切削工具を用い、そのオイルシールカバー22を切削することにより作られる。このような溝22bは放射状を成すので、図2に示すように第二スプリッタギヤ19bに歯合するクラッチプレート26が移動して、図1に示すように、第一スプリッタギヤ19aに歯合するとき、そのクラッチプレート26の慣性力によりそのクラッチプレート26がカラー23をオイルシールカバー22方向に瞬間的に押し付け、オイルシールカバー22とカラー23の間の隙間が減少したとしても、そのオイルシールカバー22とカラー23の間にある潤滑油10cは図3の実線矢印で示すようにその凹溝22bを介して外周方向に放射状に流れ、オイルシールカバー22とカラー23の間の空間に潤滑油10cが閉じ込められて発生する、いわゆる水撃現象が生じることを防止する。
【0024】
このように、本発明によれば、オイルシールカバー22とカラー23の間の空間に潤滑油10cが閉じ込められて発生する、いわゆる水撃現象を防止できるので、オイルシールカバー22が変形して、又はそのオイルシールカバー22とインプットシャフト13の間を潤滑油10cが通過して、オイルシール18を疲労劣化させるようなことはない。この結果、オイルシール18の劣化を防止するために、耐圧性に優れた比較的高価な専用のオイルシール18を用いることは不要となり、比較的安価な一般的に広く販売されている汎用オイルシール18を用いることにより、変速機自体の単価が押し上げられることを回避することができる。
【0025】
なお、上述した実施の形態では、閉じ込み防止手段である放射状の4本の溝22bをオイルシールカバー22のカラー23に対向する面に形成したけれども、この閉じ込み防止手段である放射状の溝22bは、4本でなくて、2本であっても、3本であっても、5本であっても、6本以上であっても良い。また、この溝22bは、図示しないが、カラー23のオイルシールカバー22に対向する面に形成しても良く、オイルシールカバー22及びカラー23の双方における対向面にそれぞれ形成しても良い。
【0026】
図5に本発明の別の実施の形態を示す。この別の実施の形態における閉じ込み防止手段は、オイルシールカバー22とカラー23との間隔を内周から外周に向かって拡大させるようにオイルシールカバー22及びカラー23のいずれか一方又は双方における対向面に形成された内周から外周に向かって軸方向に傾斜する傾斜面22cである。この傾斜面22cにあっても、例えば旋盤等の切削工具を用い、そのオイルシールカバー22又はカラー23を切削することにより作っても良いし、オイルシールカバー22又はカラー23を成形する鋳造型又は鋳造型の当該部に傾斜を付けて作っても良い。図5では、その傾斜面22cがオイルシールカバー22のカラー23に対向する面に形成される場合を示す。このような傾斜面22cによりオイルシールカバー22とカラー23との間隔はその内周から外周に向かって拡大するので、クラッチプレート26が移動して第一スプリッタギヤ19aに歯合するとき、そのクラッチプレート26の慣性力によりそのクラッチプレート26がカラー23をオイルシールカバー22方向に瞬間的に押し付け、オイルシールカバー22とカラー23の間の隙間が減少したとしても、そのオイルシールカバー22とカラー23の間にある潤滑油10cはその傾斜面22cに案内されて外周方向に放射状に流れ、オイルシールカバー22とカラー23の間の空間に潤滑油10cが閉じ込められて発生する、いわゆる水撃現象が生じることを防止する。
【0027】
このように、閉じ込み防止手段が、オイルシールカバー22とカラー23との間隔を内周から外周に向かって拡大させるようにオイルシールカバー22及びカラー23のいずれか一方又は双方における対向面に形成された傾斜面22cであっても、オイルシールカバー22とカラー23の間の空間に潤滑油10cが閉じ込められて発生する、いわゆる水撃現象を防止できるので、そのオイルシールカバー22とインプットシャフト13の間を潤滑油10cが通過して、オイルシール18を疲労劣化させるようなことはない。この結果、オイルシール18の劣化を防止するために、耐圧性に優れた比較的高価な専用のオイルシール18を用いることは不要となり、比較的安価な一般的に広く販売されている汎用オイルシール18を用いることにより、変速機自体の単価が押し上げられることを回避することができる。
【0028】
なお、上述した図5に示す別の実施の形態では、閉じ込み防止手段である傾斜面22cをオイルシールカバー22のカラー23に対向する面に形成したけれども、この閉じ込み防止手段である傾斜面22cは、図示しないが、カラー23のオイルシールカバー22に対向する面に形成しても良く、オイルシールカバー22及びカラー23の双方における対向面にそれぞれ形成しても良い。
【符号の説明】
【0029】
10 自動車用多段変速機
10c 潤滑油
11 ギヤケース
13 シャフト
17 クラッチハウジング
18 オイルシール
19a スプリッタギヤ
22 オイルシールカバー
22b 溝(閉じ込み防止手段)
22c 傾斜面(閉じ込み防止手段)
23 カラー
24 玉型軸受け
26 クラッチプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチハウジング(17)にオイルシール(18)を介して挿通されたシャフト(13)と、前記シャフト(13)に嵌入され前記オイルシール(18)をギヤケース(11)側から覆うリング状のオイルシールカバー(22)と、前記シャフト(13)にカラー(23)を介して嵌入され前記オイルシールカバー(22)に隣接して前記シャフト(13)を前記ギヤケース(11)に支持する玉型軸受け(24)と、前記玉型軸受け(24)に隣接して前記シャフト(13)に回転可能に嵌入されて前記カラー(23)に接触するスプリッタギヤ(19a)と、前記シャフト(13)に回転不能であって軸方向に移動可能に嵌入され軸方向に移動して前記スプリッタギヤ(19a)に歯合し又は前記スプリッタギヤ(19a)から離間するクラッチプレート(26)とを備えた自動車用多段変速機において、
前記オイルシールカバー(22)と前記カラー(23)の間の空間への潤滑油(10c)の閉じ込みを防止する閉じ込み防止手段が前記オイルシールカバー(22)又は前記カラー(23)のいずれか一方又は双方に講じられた
ことを特徴とする自動車用多段変速機。
【請求項2】
閉じ込み防止手段が、オイルシールカバー(22)又はカラー(23)のいずれか一方又は双方における対向面に放射状に形成された溝(22b)である請求項1記載の自動車用多段変速機。
【請求項3】
閉じ込み防止手段が、オイルシールカバー(22)とカラー(23)との間隔を内周から外周に向かって拡大させるように前記オイルシールカバー(22)及び前記カラー(23)のいずれか一方又は双方における対向面に形成された内周から外周に向かって軸方向に傾斜する傾斜面である請求項1記載の自動車用多段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104551(P2013−104551A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251313(P2011−251313)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】