説明

舗装材組成物、舗装材組成物を使用した舗装材、及び舗装材組成物の調製方法

【課題】砂利状骨材の産出地や採砂時期等の違いによる特性に影響されることなく、施工現場において施工に適する粘度の舗装材組成物に調製可能な舗装材組成物の調製方法を提供する。
【解決手段】施工現場で混合された骨材5を収容容器4の内面を被覆する透明樹脂シート7内に収容して該骨材5の上方から水性エマルジョン6を振掛ける振掛工程と、該振掛工程により該骨材5の骨材層9の層上面9aに一時的に滞留して形成された該水性エマルジョン6のエマルジョン層10が、該骨材5の間の隙間を伝って重力に従って下方に向かって浸透するように静置する浸透静置工程と、該骨材層9の該層上面9aから該エマルジョン層10が消失して該骨材層9に対する該水性エマルジョン6の浸透混合が完了した後、該収容容器4から該骨材5及び該水性エマルジョン6の舗装材組成物1を該透明樹脂シート7とともに取出す組成物取出工程とで舗装材組成物の調整方法を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装材組成物、舗装材組成物を使用した舗装材(以下、単に「舗装材」と称す)、及び舗装材組成物の調製方法(以下、単に「調製方法」と称す)に関するものであり、特に、天然石を含む無機系の砂利状骨材を利用した舗装材組成物、舗装材、及び調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物の周囲等の路面や地面、或いは室内の床面、及び建築物の壁面の一部に対し、路面保護、防塵対策、環境対策等の観点からアスファルト舗装、セメント舗装、及びコンクリート舗装等の各種舗装材を敷設(または附設)することが行われている。さらに、近年のガーデニング等のブームによって、建築物の敷地内の庭を居住者の趣向に合わせて設計し、改良することが行われることがあり、この場合でも庭に設けた歩道等を上記舗装材によって舗装し、美観的な装飾を施すことが行われている。
【0003】
特に、美観や景観の向上を目的として敷設される舗装材は、例えば、数mm〜数十mm程度の天然石等の細粒状の骨材を利用し、無色透明のエポキシ樹脂やウレタン樹脂等の合成樹脂を含む溶剤系接着剤と混合し、これらの混合物を硬化させることにより、硬質素材のものを得ることができる。これにより、衝撃等に対して十分な強度を有し、雨水等に対する耐候性にも優れた舗装材が形成され、骨材として使用する天然石等の骨材の石の種類、採石場所の違い、色、サイズ、及び形等を適宜変更することにより、居住者の趣向や周囲とのバランスを考慮した舗装材を任意に選択し、庭園等を設計することができる。
【0004】
このとき、舗装材は、骨材及び接着剤を混合してなる舗装材組成物を硬化させることによって形成され、骨材に対し、主剤及び硬化剤の二液によって構成される二液硬化型の接着剤を混合するものが主に使用されている。ここで、接着剤は、細粒状の骨材を互いに凝集するように固め、舗装材として一定の形状(例えば、平板状)を維持するためのものであり、上記した耐衝撃性及び耐候性を必要とするとともに、所定の厚さの舗装材になるように舗装材組成物を施工するために、鏝塗作業等の施工時のハンドリング性が良好な適切な粘度に調製されたものを使用する必要がある。例えば、ウレタン樹脂の原料となる主剤の成分(アルコール基を有するポリオール成分)、及び、硬化剤の成分(イソシアネート基を有するジイソシアネート成分)をそれぞれトルエンやキシレン等の有機溶剤に溶解させ、骨材に対し、主剤及び硬化剤をそれぞれ規定量ずつ混合することにより、主剤及び硬化剤の間でウレタン結合が生成し、硬化反応が進行することで上記特性の舗装材が形成される。ここで、揮発性の有機溶剤であるトルエン等は、硬化及び乾燥工程で大気中に徐々に蒸散される。なお、二液硬化型の接着剤は、空気中の湿気(水分)によって硬化反応が促進されるものもある。
【0005】
しかしながら、二液硬化型の接着剤の場合、主剤及び硬化剤の混合後は硬化反応が速やかに進行するため、当該接着剤を含む舗装材組成物を施工対象面に塗工することのできる作業時間(可使時間)が制限されていた。すなわち、舗装材組成物を製造する工場等で、事前に混合することは当然できず、さらに施工現場で主剤及び硬化剤を混合したとしても、可使時間が比較的短時間である場合が多く、混合した舗装材組成物の全量を使い切ることができないことがあった。
【0006】
さらに、広範囲の施工対象面に舗装材を施工しようとした場合、一度に大量の舗装材組成物を調製することができず、施工対象面の面積に応じて骨材及び接着材の軽量及び混合作業を複数回に亘って実施する必要があった。また、計量や混合のために使用した器具や設備等(例えば、計量器、トロ舟、練りクワ等)を硬化前に洗浄する必要があり、洗浄のために有機溶剤を必要としていた。ここで、洗浄に使用した有機溶剤は、施工現場では処理することができず、施工業者が事業所まで持ち帰り、専用の廃棄物処理施設等で処分する必要があった。さらに、二液硬化型の接着材の場合、硬化が完了した舗装材は、硬質素材に変化し、柔軟性に欠けるものだった。そのため、許容以上の強い衝撃が加えられると、弾性変形することなく、舗装材の一部又は全部がひび割れたり、欠けを生じる等の問題があった。すなわち、衝撃に対する耐性、耐久性がほとんどなかった。
【0007】
これに対し、上記不具合を解消するものとして、本願出願人は、ポリプロピレン等の有機ポリマーと、ポリビニルアルコール等の分散剤と、水とを混合することで形成された高分子系水性エマルジョンを開発し、これを一液乾燥硬化型の接着剤として利用した舗装材組成物及び舗装材等への応用を既に行っている(特許文献1参照)。
【0008】
上記の水性エマルジョンを接着剤として使用した所謂「プレミックスタイプ」の舗装材組成物は、その成分中にトルエン等の有機溶剤を含有することがなく、かつ、施工現場で作業者が撹拌混合し、調製する必要がなく、容器を開封して直ぐに施工対象面に施工することが可能であり、良好なハンドリング性を有していた。さらに、二液硬化型の場合と比べ、施工可能な可使時間も長くなり、再施工や舗装材面の修正作業等が比較的容易になることがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の「プレミックスタイプ」の舗装材組成物を使用する場合、下記に掲げる問題点を生ずる可能性があった。すなわち、舗装材組成物に使用される細粒状の無機系の砂利状骨材は、日本、中国、及びフィリピン等の世界各国で産出されるものであり、特に河口付近や海岸線で多くが採砂されていた。そのため、多くが海水等に晒され、含有成分は個々に相違していた。また、同じ土地で採砂されたものであっても、採砂時期や日本国内に搬送されるまでの搬送状況、或いは採砂後の保管方法等によって、水分率(乾燥率)、塩分濃度等の各種特性が大きく異なることがあった。
【0010】
そのため、上記特性の違いによって、水性エマルジョンとの硬化性に違いを生じることがあった。したがって、製造工場で砂利状骨材と接着剤(水性エマルジョン)とをプレミックスした場合、製造工場から各施工現場に到達するまでの保管時及び搬送時に硬化反応が進行し、施工に適するよりも高い粘度になっている可能性があった。そのため、ハンドリング性が低下し、良好な塗工が行えないことがあった。
【0011】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、砂利状骨材の産出地や採砂時期等の違いによる特性に影響されることなく、施工現場において施工に適する粘度の舗装材組成物の提供を課題とし、さらに、施工業者の作業負担を軽減することのできるハンドリング性に優れた舗装材組成物、舗装材、及び調製方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の舗装材組成物は、「砂利状骨材と、前記砂利状骨材の施工現場で上方から振掛けられ、前記砂利状骨材の間に重力に従って浸透することで前記砂利状骨材と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンと」を具備するものから主に構成されている。
【0013】
ここで、砂利状骨材とは、例えば、数mm程度から数十mm程度の砂、砂利、岩石等の天然石、砕石、或いはセラミックス粒等の主に無機物からなる無機系の骨材を想定し、日本、中国等の各国において産出されるものを想定している。一方、水性エマルジョンとは、従来の二液硬化型の接着剤のように、有機溶剤を使用するものではなく、主剤を分散剤を利用して水中に分散させ、乳化状態としたものであり、例えば、アクリル酸エステル等の周知の素材を利用することが可能である。なお、水性エマルジョンは、大気中に放置することにより、含有する水分が徐々に蒸散し、乾燥することにより粘着性を有することになり、接着機能を奏する性質を有している。そして、最終的に乾燥が完了すると固化(硬化)し、混合された各骨材同士を互いに接着させ、板状等の所望の形状の舗装材に整形することが可能となる。すなわち、従来の二液硬化型の接着剤のように、主剤及び硬化剤を混合し、硬化反応を促進させる作業を行う必要がなく、さらに可使時間を従来のタイプに比べて延長することが可能となる。
【0014】
したがって、本発明の舗装材組成物によれば、一液乾燥硬化型の水性エマルジョンが舗装材組成物の接着剤として利用される。このとき、砂利状骨材と水性エマルジョンとの混合は、施工現場で施工の直前に行われる。さらに、施工現場では、砂利状骨材に予め規定された量の水性エマルジョンを上方から振掛け、重力に従って下方に浸透するようにして砂利状骨材の間を水性エマルジョンで充填することにより、混合された状態となる。そのため、施工現場では両者を混ぜ合わせる混練作業をする必要がない。ここで、水性エマルジョンは所定の粘性を有するため、砂利状骨材の上方から振掛けられた直後は、砂利状骨材の骨材層の層上面に滞留し、徐々に内部に浸透する。そのため、混合の完了までに数分程度を必要とする。
【0015】
さらに、本発明の舗装材組成物は、上記構成に加え、「前記水性エマルジョンは、少なくとも一種類の有機ポリマーと、前記有機ポリマーと混合される鹸化度が95%以上のポリビニルアルコール成分と、水と」を具備するものであっても構わない。
【0016】
ここで水性エマルジョンに使用される有機ポリマーとは、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂や、スチレン重合体、塩化ビニル重合体、酢酸ビニル重合体等のポリマー若しくはコポリマー、及びブチラール樹脂等のその他各種の周知の熱可塑性を有する合成樹脂を使用することが可能であり、係る合成樹脂が少なくとも一種類以上選択されて使用される。さらに、水性エマルジョンの改質のためにアクリル酸アルキル・スチレン共重合体等の共重合体成分を必要に応じて加えるものであっても構わない。
【0017】
一方、ポリビニルアルコール成分は、一般に水溶性状を呈するものであり、周知の合成樹脂として知られている。ポリビニルアルコール成分は、有機ポリマーを分散し、乳化状態に維持することにより水性エマルジョンの状態を保つための分散剤として作用している。ここで、上記舗装材組成物による舗装材の施工が行われる場所は、一部を除き、建築物の周囲の屋外の路面等であることが多い。そのため、本発明の舗装材組成物は、施工完了後の舗装材の状態で、雨水等の水分に対して十分な耐水性を有している必要がある。上述したように、ポリビニルアルコール成分は一般に水溶性を呈するため、上記の舗装材組成物にポリビニルアルコール成分を分散剤として使用することは、乾燥硬化後の舗装材の耐水性が低くなる可能性がある。
【0018】
しかしながら、本実施形態の舗装材組成物は、鹸化度が95%以上のポリビニルアルコール成分が採用されている。ここで、鹸化度の値が小さい場合には、上述のように水に対する溶解性が高いことを意味するものであり、一方、95%以上の鹸化度であれば、水に対する不溶性が高いことを意味している。そのため、本実施形態の舗装材組成物の水性エマルジョンは、鹸化度の高いポリビニルアルコール成分を使用することにより、水性エマルジョンとして構成されることができ、かつ乾燥硬化後であっても雨水等により溶解することのない強い耐水性を発揮することが可能となる。その結果、屋外等に対する舗装材の施工が可能となる。
【0019】
したがって、本発明の舗装材組成物によれば、有機ポリマー及び鹸化度の調整されたポリビニルアルコール成分によって耐水性の高い水性エマルジョンを形成することが可能となり、屋外等における使用が制限されることがない。ここで、水性エマルジョンに使用される有機ポリマーは、例えば、平均分子量が3000以上100000以下のものが使用され、ポリビニルアルコール成分は、平均分子量が500以上3000以下のものを使用するものを例示することができる。さらに、砂利状骨材の間への浸透が容易となる。
【0020】
一方、本発明の舗装材は、「上記舗装材組成物を使用した舗装材であって、砂利状骨材と、前記砂利状骨材の施工現場で上方から振掛けられ、前記砂利状骨材の間に重力に従って浸透することで前記砂利状骨材と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンとを有する舗装材組成物を、所定の厚さに塗工し、乾燥硬化することによって形成される」ものから主に構成されている。
【0021】
したがって、本発明の舗装材によれば、上述の舗装材組成物を使用し、所定の塗工厚さとなるように鏝塗り等によって塗工(塗布)され、係る状態で長時間放置することにより、水性エマルジョンを硬化させて形成される。これにより、上述した優れた作用を奏する舗装材組成物を利用して、簡易な作業で舗装材を施工することが可能となる。さらに、舗装材は、一液乾燥硬化型の水性エマルジョンの性状によって、一定以上の応力が加えられた場合には、当該応力に対して変形可能な軟質部材としての性状を有している。そのため、特に美観的な装飾を施すために、曲面や凹凸面を有する施工対象面に対して舗装材組成物を塗工し、舗装材を形成しようとする場合、施工作業時、乾燥途中等の段階であっても、施工対象面の形状に合わせた修正及び変形作業を容易に行えることとなる。すなわち、施工後の事後修正が可能となる。これにより、施工の失敗等によりやり直しを行う場合であっても、容易に形を整え、最終形態に整えることが可能となる。
【0022】
一方、本発明の調製方法は、「上記の舗装材組成物の調製方法であって、舗装材を施工する施工現場で行われ、砂利状骨材の収容された収容容器の上方から予め規定された量の一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを振掛ける振掛工程と、前記砂利状骨材に振掛けられ、前記収容容器内の前記砂利状骨材の骨材層の層上面に一時的に形成されたエマルジョン層の前記水性エマルジョンが、前記砂利状骨材の間に重力に従って下方に浸透するように静置する浸透静置工程と、前記水性エマルジョンの前記骨材層への浸透が完了し、前記エマルジョン層が消失した後、前記収容容器から前記砂利状骨材及び前記水性エマルジョンが浸透混合した舗装材組成物を取出す組成物取出工程と」を主に具備して構成されている。
【0023】
したがって、本発明の調製方法によれば、施工現場までは収容容器に収容された砂利状骨材と、当該砂利状骨材と混合される水性エマルジョンとがそれぞれ個別に搬送される。そして、施工現場で係る両者の混合及び調製作業が行われる。このとき、収容容器に収容された砂利状骨材は、収容容器の容器内部の形状に沿った外観を呈する骨材層を形成している。そして、収容容器の容器蓋を開蓋し、収容容器に収容された状態の骨材層の上方から水性エマルジョンを振掛ける。なお、振掛ける水性エマルジョンの量は、砂利状骨材の重量及び粒度によって予め規定されている。
【0024】
このとき、収容された砂利状骨材からなる骨材層の上に水性エマルジョンが振掛けらた直後には、水性エマルジョンは直ぐに骨材層内(砂利状骨材の間)に浸透することはなく、一時的に骨材層の上面に水性エマルジョンの液層(エマルジョン層)が形成される。骨材層は複数の粒状の砂利状骨材の集まったものであるため、各砂利状骨材の間には微細な隙間が形成されている。その結果、一時的に形成されたエマルジョン層の水性エマルジョンは、重力に従って、徐々にその隙間を通じて下方に落下していく。そのため、砂利状骨材の各粒の粒表面を水性エマルジョンで濡らしながら徐々に浸透し、砂利状骨材の間に水性エマルジョンが存在する状態が創成される。その結果、最終的にはエマルジョン層が骨材層の層上面から消失し、砂利状骨材及び水性エマルジョンが浸透混合した状態となる。なお、砂利状骨材に対して水性エマルジョンが多い場合には、収容した収容容器の底部付近に水性エマルジョンが溜まることになり、一方、水性エマルジョンが足りない場合には、底部付近の砂利状骨材まで水性エマルジョンが到達しない可能性があり、これらの状態は好ましくはない。そのため、砂利状骨材に対する水性エマルジョンの量は工場出荷時に厳密に計測しておく必要がある。
【0025】
その結果、施工現場では、砂利状骨材に対し、水性エマルジョンを振掛ける作業を行うだけで足り、施工業者に多大な負担を課すことがない。さらに、二液硬化型のように複雑な混合作業を必要とせず、かつ可使時間の管理もそれほど必要とならない。さらに、砂利状骨材の産地や採砂後の処理の違いも、施工直前に水性エマルジョンを浸透混合させることにより、施工時に急激に高い粘度になることがない。
【0026】
さらに、本発明の調製方法は、上記構成に加え、「前記収容容器及び前記砂利状骨材の間に袋状の透明樹脂シートが介設され、前記組成物取出工程は、前記砂利状骨材及び前記水性エマルジョンが浸透混合した前記舗装材組成物を前記透明樹脂シートとともに前記収容容器から取出し、前記透明樹脂シートの外方から圧力を加えることにより、前記舗装材組成物を混練する混練工程と」を具備するものであっても構わない。
【0027】
したがって、本発明の調製方法によれば、袋状の透明樹脂シートが収容容器内に設けられることにより、収容容器の容器内壁と砂利状骨材とが直に接することがない。そのため、砂利状骨材の上方から振掛ける水性エマルジョンも容器内壁と接することがなく、浸透混合後に容器内壁を洗浄する必要がない。さらに、砂利状骨材の収容容器からの取出しが容易となり、透明性の素材で形成されているため、砂利状骨材と水性エマルジョンとの浸透混合状態(換言すれば、濡れ具合)を透明樹脂シートの外部から視認することができる。
【0028】
ここで、透明樹脂シートは、ポリプロピレン樹脂等からなる可撓性素材を利用して構築することが可能であり、外方からの圧力によって容易に変形することができる。そのため、浸透混合状態があまり良好でない箇所を視認した場合、透明樹脂シートの外方から指や手等を使って揉み上げるようにして力を加える操作を行うことにより、濡れ具合を均一なものとすることが可能となる。当該作業は、収容容器から取出した後に簡易的に実施可能なものであり、施工業者の負担となることはない。さらに、透明樹脂シートに収容した状態で施工対象面の近くまで搬送し、袋から少しずつ取出しながら鏝塗り等によって施工を行うことにより、水性エマルジョン中の水分の蒸発、乾燥を防ぎ、可使時間を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の舗装材組成物等の効果によれば、有機溶剤を一切使用することなく、一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを使用し、施工現場で施工業者が砂利状骨材に規定量の水性エマルジョンを振掛けるだけの簡易な作業で、そのまま施工作業に取りかかることができる。すなわち、施工現場での複雑な調製作業等が不要となり、現場の作業者の負担にならない程度の簡易な調製作業(混合作業)で足り、施工業者の作業負担及び作業ミスを著しく減らすことができる。さらに、産出した地域や採砂条件により異なる砂利状骨材の影響によって、水性エマルジョンの硬化及び粘度が上昇する問題も施工直前の調製によって係る不具合を解消することができる。また、有機溶剤に対する火気や換気等の対策及び取扱いの制限が緩和され、室内等での施工も可能となる。さらに、鹸化度の高いポリビニルアルコール成分を含む水性エマルジョンを使用することにより、屋外での使用が可能となり、さらに応力に対して変形可能な軟質性素材により、施工後の修正や立上がりに対する舗装材の施工が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態の(a)舗装材の構成、(b)収容容器に収容された砂利状骨材を示す説明図である。
【図2】舗装材組成物の調製方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【図3】舗装材組成物の調製方法の流れの一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態である舗装材組成物1、舗装材2、及び調製方法3のそれぞれについて、図1乃至図3に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の(a)舗装材2の構成、(b)収容容器4に収容された砂利状骨材5(以下、「骨材5」と称す)を示す説明図であり、図2は舗装材組成物1の調製方法3の流れの一例を示すフローチャートであり、図3は舗装材組成物1の調製方法3の流れの一例を示す模式図である。
【0032】
本実施形態の舗装材組成物1は、数mm程度の細粒状の天然石を含む骨材5と、当該骨材5と混合され、ポリプロピレン樹脂等からなる有機ポリマーをポリビニルアルコール成分を分散剤として使用し、水中に分散させ、乳化状に調製した水性エマルジョン6とから構成されている。ここで、骨材5及び水性エマルジョン6は、それぞれ別々の容器に収容された状態で施工現場まで搬送される。例えば、骨材5は、樹脂性の20kg容量のポリペール缶で構成された収容容器4に収容され、大気等との接触を遮断した状態で供給される。このとき、収容容器4の容器内壁4aと骨材5との間には、袋状の透明樹脂シート7が介設され、骨材5は当該透明樹脂シート7に内包された状態で収容容器4に収容されている。本実施形態では、透明樹脂シート7として無色透明のポリプロピレン樹脂製のシートが用いられている。これにより、外部から収容された骨材5の状態や色等を視認することができる。また、後述する取出後の外方から加えられる圧力によっても破れ等がないように、ある程度の強度を有する肉厚素材のものが使用される。
【0033】
一方、水性エマルジョン6は、混合する骨材5の重量に応じて予め規定された量が液体容器8に収容され、施工現場まで搬送される。ここで、骨材5に対する水性エマルジョン6の投入量は、骨材5の種類や粒径等によって所定の範囲(例えば、2.2kg〜2.5kg)で予め設定され、本実施形態の場合、20kgの骨材5に対し、2.2kgの水性エマルジョン6を振掛けるように設定されている。
【0034】
水性エマルジョン6に含まれるポリビニルアルコール成分は、鹸化度が95%以上のものが使用され、乾燥硬化後の雨水等に対する耐水性を有している。ここで、ポリビニルアルコール成分の鹸化度は、約98%が理論的な上限値であることが知られ、本実施形態では、95%以上、98%以下の範囲の鹸化度のポリビニルアルコール成分が使用されている。これにより、乾燥硬化後に雨水等に晒されても劣化することがない耐候性に優れた舗装材2を構築することが可能となる。
【0035】
次に、本実施形態の舗装材組成物1の調製方法3の一例について説明する。ここで、上述した収容容器4及び液体容器8を利用してそれぞれ個別に収容された骨材5及び水性エマルジョン6が施工現場まで搬送されている。そして、骨材5の収容された収容容器4(ポリペール缶)の蓋部4bを開蓋し、さらに、骨材5を包んでいる透明樹脂シート7の袋口7aを開き、調製前の準備をする。これにより、収容容器4に収容された状態で、骨材5の一部が大気に晒されることになる。ここで、収容容器4として使用されるポリペール缶は、一般に底部に向かってペール缶径が縮径するように形成され、側方から観察すると逆台形状を呈している。そのため、ポリペール缶に充填された骨材5は、ポリペール缶の缶内形状に略一致する外形状を呈し、逆截頭円錐形状の骨材層9を形成している(図3(a)等参照)。
【0036】
上記の状態で、別途搬送された水性エマルジョン6の液体容器8の蓋を開け、骨材5(骨材層9)の上方から規定量の水性エマルジョン6を振掛ける(振掛工程S1:図3(b)参照)。なお、収容容器4の開口上端と骨材層9の層上面9aには、後述するエマルジョン層10の層高さに相当する分だけの空間が設けられている。ここで、骨材層9の上方から振掛けられた水性エマルジョン6は、直ぐには骨材層9の内部に浸透することはなく、骨材5(砂)が乾燥している場合或いは骨材5の粒度が小さい場合には、一時的に骨材層9の層上面9aに滞留することになる。すなわち、層上面9aに水性エマルジョン6からなるエマルジョン層10が形成されることになる(図3(c)参照)。
【0037】
ここで、骨材層9は細粒状の骨材5が凝集して形成されたものであり、互いの骨材5の間に水性エマルジョン6が通過可能な微小な空隙が存在している。そのため、振掛直後には、エマルジョン層10を形成することになる水性エマルジョン6は、上記空隙を通じ、重力に従って下方に移動することになる。すなわち、骨材層9に染み込む(浸透する)ようにして骨材層9に徐々に吸収されることになる。そして、エマルジョン層10の水性エマルジョン6が骨材層9の内部に完全に浸透するまで静置する(浸透静置工程S2:図3(d)参照)。このとき、浸透が完了するまでの時間は、使用する水性エマルジョン6の粘性及び骨材5の粒度等によって大きく依存する。ここで、振掛直後から骨材層9へ直ぐに浸透が始まるような低粘度の水性エマルジョンも使用可能ではあるものの、全量が収容容器4の底部付近に溜まり、骨材層9の上下で偏りが生じる可能性があり、使用に好適とは考えられない。一方、高粘度の水性エマルジョンは、骨材層9の層上面9aでの滞留が長時間に亘り、骨材層9の下方に完全に行き渡るまでに時間がかかり、施工作業における実用性を有していない。そのため、施工現場での作業効率を鑑み、2〜3分程度で浸透が完了する適度な粘性の水性エマルジョン6を使用することが好適と考えられる。
【0038】
骨材層9の内部への水性エマルジョン6の浸透が完了(エマルジョン層10が消失)することにより、本実施形態の舗装材組成物1の調製が完了する。すなわち、本実施形態の舗装材組成物1は、従来のように骨材5及び水性エマルジョン6を製造工場等或いは施工現場で混練したり、撹拌するような作業を必要とせず、作業者の労力の負担を軽減することができる。
【0039】
その後、収容容器4から透明樹脂シート7に入った状態で骨材5及び水性エマルジョン6からなる舗装材組成物1を取出す(組成物取出工程S3:図3(e)参照)。ここで、透明樹脂シート7は、内部に収容された舗装材組成物1をそのまま視認することができる。そのため、骨材5と水性エマルジョン6とが十分に混合していない場合、換言すれば、骨材5の表面が水性エマルジョン6で濡れていない場合がある。例えば、比較的粒度の大きな天然石を使用した場合、水性エマルジョン6の流れる経路が固定され、個々の骨材5の間に十分に浸透しない可能性がある。このような場合、透明樹脂シート7の外側から圧力を与え、可撓性の透明樹脂シート7を変形させ、内部の骨材5及び水性エマルジョン6を揉み出すようにする(混練工程S4)。その結果、両者の混合状態が十分なものとなり、最終的に舗装材組成物1の調製作業が完了する。さらに、袋状の透明樹脂シート7によって、施工業者の手及び収容容器4の内側部分が水性エマルジョン6で汚れることがない。そのため、施工現場における洗浄作業や洗浄液の処理等の作業を大幅に削減することができる。
【0040】
なお、図2のフローチャートでは、上記調製方法3とともに、調製された舗装材組成物1を利用して舗装材2を形成する処理の流れの一部を含んで示している。上記調製の結果、透明樹脂シート7内の浸透混合された舗装材組成物1を使用し、施工対象面11に塗工することができる(塗工工程S5)。このとき、狭いスペースの施工対象面11へ塗工する場合には、袋状の透明樹脂シート7の袋内から必要量のみを少しずつ取出すものであっても構わない。一方、広い施工対象面11に一度に塗工を行う場合には、透明樹脂シート7内の舗装材組成物1を一度に取出すものであっても構わない。なお、本実施形態では、一般的な塗工作業及び塗工前のプライマー処理等の周知の作業については、簡略化のため、説明を省略するものとする。
【0041】
これにより、下地(施工対象面11)の上に、例えば、5mm〜10mm程度の塗工厚さの舗装材組成物1が塗工され、係る状態で舗装材組成物1の一液乾燥硬化型の水性エマルジョン6の乾燥及び養生処理(養生工程S6)を行うことにより、本実施形態の舗装材2が形成される。なお、乾燥及び養生の工程は、時期や気温等によって変化するものの、おおよそ24時間以上が必要となる。すなわち、一液乾燥硬化型の水性エマルジョン6を使用するため、完全に乾燥及び硬化するまでに要する時間は、従来の二液硬化型の接着材に比べ、必然的に長くなる。そのため、施工対象面が屋外の場合、外気温の変化によって、通常よりも乾燥及び硬化に時間がかかったり、養生時に降雨、夜露、結露、或いは強風等の自然環境の変化により、敷設される舗装材2等の仕上がりに変動が生じる可能性がある。そのため、比較的温度変化や気候条件の変化の小さな時期を選んで施工を行う必要がある。また、降雨や防塵対策用のシートを養生時に舗装材2の上から被せ、埃等から保護する対策を行うものであっても構わない。
【0042】
養生時間が経過すると、舗装材組成物1は、乾燥及び硬化が完了し、舗装材2として形成される。このとき、水性エマルジョン6と混練する骨材5の色、種類、サイズ等を適宜変化させることによって、周囲の景観に合致する雰囲気を呈する舗装材2を構築することができる。ここで、水性エマルジョン6は、無色透明のもの、或いは使用時には白色等を呈する場合であっても乾燥後には無色透明に変化するものがほとんどであり、乾燥及び硬化が完了すると内部に包含された砂利状骨材4の色や形状を視認することができる。この舗装材2は、従来の二液硬化型の接着剤を使用するものと異なり、強い衝撃によって割れや欠けを生じることがなく、応力に対して易変形可能な性状を有している。そのため、強い衝撃によって変形し、その力を吸収することができる利点を有している。
【0043】
以上、説明したように、本実施形態の舗装材組成物1によれば、95%以上の鹸化度を有するポリビニルアルコール成分を含む水性エマルジョン6を使用し、施工現場で骨材5の上から振掛ける簡易な作業を行うだけで調製することができる。そのため、施工業者に過大な負荷をかけることがない。さらに、施工直前に骨材5と水性エマルジョン6とを混合し、舗装材組成物1として調製するため、搬送時に固化したり、粘度が高くなり、塗工が困難な状態になることがない。特に、砂利状骨材4は天然から産出されるものであり、採砂条件やその後の処理による硬化や高粘度の影響を係る調製方法3によって小さくすることができる。
【0044】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0045】
すなわち、本実施形態の舗装材組成物1の調製方法3において、透明樹脂シート7とともに取出した舗装材組成物1に対し、外方から圧力を加え、骨材5及び水性エマルジョン6をさらに混合させるものを示したがこれに限定されるものではなく、水性エマルジョン6を骨材5の上方から振掛け、骨材層9の内部に浸透させるだけで浸透混合が十分に達成できるものであれば、上述の混練工程S4を省略するものであっても構わない。この場合、透明樹脂シート7の構成を省略することができ、収容容器4に骨材5を直に収容するものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 舗装材組成物
2 舗装材(舗装材組成物を使用した舗装材)
3 調製方法(舗装材組成物の調製方法)
4 収容容器
5 骨材(砂利状骨材)
6 水性エマルジョン
7 透明樹脂シート
7a 袋口
8 液体容器
9 骨材層
9a 層上面
10 エマルジョン層
S1 振掛工程
S2 浸透静置工程
S3 組成物取出工程
S4 混練工程
S5 塗工工程
S6 養生工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】特願2009−72670

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂利状骨材と、
前記砂利状骨材の施工現場で上方から振掛けられ、前記砂利状骨材の間に重力に従って浸透することで前記砂利状骨材と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンと
を具備することを特徴とする舗装材組成物。
【請求項2】
前記水性エマルジョンは、
少なくとも一種類の有機ポリマーと、
前記有機ポリマーと混合される鹸化度が95%以上のポリビニルアルコール成分と、
水と
を有することを特徴とする請求項1に記載の舗装材組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の舗装材組成物を使用した舗装材であって、
砂利状骨材と、
前記砂利状骨材の施工現場で上方から振掛けられ、前記砂利状骨材の間に重力に従って浸透することで前記砂利状骨材と混合される一液乾燥硬化型の水性エマルジョンとを有する舗装材組成物を、所定の厚さに塗工し、乾燥硬化することによって形成されることを特徴とする舗装材。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の舗装材組成物の調製方法であって、
舗装材を施工する施工現場で行われ、砂利状骨材の収容された収容容器の上方から予め規定された量の一液乾燥硬化型の水性エマルジョンを振掛ける振掛工程と、
前記砂利状骨材に振掛けられ、前記収容容器内の前記砂利状骨材の骨材層の層上面に一時的に形成されたエマルジョン層の前記水性エマルジョンが、前記砂利状骨材の間に重力に従って下方に浸透するように静置する浸透静置工程と、
前記水性エマルジョンの前記骨材層への浸透が完了し、前記エマルジョン層が消失した後、前記収容容器から前記砂利状骨材及び前記水性エマルジョンが浸透混合した舗装材組成物を取出す組成物取出工程と
を具備することを特徴とする舗装材組成物の調製方法。
【請求項5】
前記収容容器及び前記砂利状骨材の間に袋状の透明樹脂シートが介設され、
前記組成物取出工程は、
前記砂利状骨材及び前記水性エマルジョンが浸透混合した前記舗装材組成物を前記透明樹脂シートとともに前記収容容器から取出し、前記透明樹脂シートの外方から圧力を加えることにより、前記舗装材組成物を混練する混練工程と
をさらに具備することを特徴とする請求項4に記載の舗装材組成物の調製方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80230(P2011−80230A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232743(P2009−232743)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(391051614)成瀬化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】