説明

船外機用パワートリムユニットの制御装置

【課題】オーバシュート及びアンダーシュートを生じさせることなくトリム角を短時間で目標値に収束させることができる船外機用パワートリムユニットの制御装置を提供する。
【解決手段】直流電源10から半導体スイッチにより構成されたハイサイドスイッチとHブリッジ回路11とを介してPTTモータ4に駆動電流を供給する。船外機のトリム角の目標値とトリム角センサ5により検出されるトリム角との偏差に応じて直流電源10からHブリッジ回路11を通してPTTモータ4に与えられる駆動電流をPWM制御してトリム角を目標値に収束させる制御を行わせる。Hブリッジ回路11を通して過電流が流れたときにハイサイドスイッチをオフ状態にして過電流を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機用パワートリムユニットを制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータボートなどの船舶の推進装置として船外機が広く用いられている。船外機を推進装置として用いる船舶においては、船外機のプロペラが指向する方向により推進力が変わるため、推進力を効率よく得るには、船外機の船体に対する傾き角(トリム角)を最適な角度に調整する必要がある。そのため、比較的大型の船外機においては、例えば特許文献1に示されているように、船外機を船体の船尾(トランザム)に取付けている左右のブラケットの間に、油圧機構等を動力源として船外機の船体に対する傾きを変化させるパワートリムユニット(PTT装置)を備えている。PTT装置は、例えば船外機の船体に対する傾きを変化させる油圧機構と、該油圧機構に圧力油を供給する油圧ポンプを駆動するPTTモータとを備えていて、PTTモータを一方向に回転させることにより船外機をトリムアップ方向(トリム角を大きくする方向)に変位させ、PTTモータを他方向に回転させることにより船外機をトリムダウン方向(トリム角を小さくする方向)に変位させるように構成されている。特許文献1に示された制御装置では、船外機本体の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を設けて、この検出手段により検出された船外機の傾斜角を最適値に保つように、PTTモータを制御している。
【0003】
特許文献1に示された制御装置では、トリム角を大きくする方向(トリムアップ方向)にPTTモータを回転させる際に励磁されるトリムアップ用リレーと、トリム角を小さくする方向(トリムダウン方向)にPTTモータを回転させる際に励磁されるトリムダウン用リレーとの2つのリレーを設けて、これらのリレーの常開接点をそれぞれ、PTTモータをトリムアップ方向に回転させる際に励磁される電機子コイル及びPTTモータをトリムダウン方向に回転させる際に励磁される電機子コイルに対して直列に接続し、トリム角と目標値との偏差に応じて、トリムアップ用リレーまたはトリムダウン用リレーを励磁することにより、PTTモータをトリムアップ方向またはトリムダウン方向に回転させて、トリム角を、推進力を効率よく得るために適した目標値に収束させるようにしている。トリム角の目標値は、船体のピッチ角や船速などにより、航行中細かく変化する。
【特許文献1】特開昭61−105296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されたように、船外機のトリム角を目標値に収束させるように制御する場合には、航行中に目標値が細かく変化するため、PTT装置によるトリム角のアップダウンを頻繁に繰り返すことになり、操船者が手動操作するPTTスイッチにより発生させたトリムアップ指令及びトリムダウン指令に応じてPTT装置を動作させてトリム角を調整する場合に比べて、PTTモータの駆動電流のオンオフの回数が大幅に増加する。またPTT装置は、重量が重い船外機を動かすため、PTTモータには大きな駆動電流が流れる。そのため、PTTモータの回転方向を切り替える回路のスイッチはPTTモータの大きな駆動電流を高い頻度でオンオフすることになり、このスイッチとして、特許文献1に示されたようにリレーを用いた場合には、その接点の消耗が激しくなり、制御装置の耐久性が悪くなるのを避けられない。
【0005】
また特許文献1に示されたように、スイッチのオンオフによりPTTモータを制御した場合には、トリム角の微調整を容易に行うことができないため、トリム角が目標値に近づいた際にオーバシュート及びアンダーシュートが発生し、トリム角の目標値への収束を短時間で行わせることができないという問題があった。トリム角の目標値への収束に時間がかかると航行状態が安定するのに時間がかかるだけでなく、PTT装置での消費電力が多くなって、バッテリー等の電源にかかる負担が大きくなり、好ましくない。
【0006】
また従来の船外機用パワートリムユニットの制御装置では、PTTモータの負荷の増大などによりPTTモータのドライブ回路に過電流が流れたときに保護を図る手段が設けられていなかったため、過電流が流れた際にドライブ回路の構成部品が故障したり、PTTモータが故障したりするおそれがあった。
【0007】
また船外機用パワートリムユニットの制御装置は、多くの場合、エンジンを制御するコントローラと同じ場所に設置されるため、パワートリムユニット用制御装置で故障が生じるとエンジンのコントローラにまで被害が及ぶおそれがあり、万一エンジンのコントローラにまで被害が及ぶと、船が航行することができなくなって、帰港することができなくなるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、耐久性に問題を生じさせることなく、トリム角の自動制御を行わせることができるようにした船外機用パワートリムユニットの制御装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、オーバシュート及びアンダーシュートを発生させることなく、トリム角を短時間で目標値に収束させることができるようにした船外機用パワートリムユニットの制御装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、PTTモータの異常等により過電流が流れたときに制御装置の構成部品が故障したりPTTモータが故障したりするのを防ぐことができるようにした船外機用パワートリムユニットの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、PTTモータを駆動源として船外機のトリム角を変化させる船外機用パワートリムユニットを制御する船外機用パワートリムユニットの制御装置を対象とする。
【0012】
本発明においては、駆動信号が与えられているときにオン状態になる上側半導体スイッチ及び下側半導体スイッチによりそれぞれブリッジの上辺及び下辺が構成されて、上側半導体スイッチの共通接続点と下側半導体スイッチの共通接続点との間に直流電源から直流電圧が印加され、各上側半導体スイッチと下側半導体スイッチとの接続点がPTTモータの入力端子に接続されるHブリッジ回路と、船外機を動作させる際にオン状態にされるイグニッションスイッチと、船外機のトリム角を検出するトリム角センサと、運転状態に応じて設定されるトリム角の目標値とトリム角センサにより検出されるトリム角との偏差に応じて直流電源からHブリッジ回路を通してPTTモータに与えられる駆動電流をPWM制御するようにHブリッジ回路の半導体スイッチへの駆動信号の供給を制御して船外機のトリム角を目標値に収束させる制御を行うトリム角自動制御手段と、直流電源からHブリッジ回路を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する過電流保護手段とが設けられる。
【0013】
上記のように、半導体スイッチにより構成されたHブリッジ回路を用いてPTTモータの回転方向を切換えるようにすると、消耗する接点がないため、制御装置の耐久性を向上させることができる。
【0014】
また上記のように、トリム角の目標値とトリム角センサにより検出されるトリム角との偏差に応じて直流電源からHブリッジ回路を通してPTTモータに与える駆動電流をPWM制御することにより、トリム角を目標値に収束させる制御を行なわせると、トリム角の微調整を行うことができるため、トリム角が目標値に近づいた際にオーバシュート及びアンダーシュートが発生するのを防いで、トリム角を短時間で目標値に収束させることができ、PTT装置での消費電力を少なくして、電源(通常はバッテリ)にかかる負担を少なくすることができる。
【0015】
更に、本発明においては、直流電源からHブリッジ回路を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する過電流保護手段が設けられているため、過電流によりドライブ回路の構成部品が故障したり、PTTモータが故障したりするのを防ぐことができる。
【0016】
また本発明の好ましい態様では、イグニッションスイッチ(キースイッチ)がオン状態にされたとき及びPTTスイッチが操作されたときに起動するマイクロプロセッサが設けられて、該マイクロプロセッサにトリム角センサにより検出されたトリム角の情報が与えられ、トリム角自動制御手段及びマニュアル操作時モータ駆動手段がマイクロプロセッサを用いて構成される。
【0017】
上記のように、PTTスイッチが操作されたときにもマイクロプロセッサが起動するようにしておいて、トリム角自動制御手段及びマニュアル操作時モータ駆動手段を該マイクロプロセッサを用いて構成するようにすると、わざわざキーを持ってきてイグニッションスイッチをオン状態にしなくてもマイクロプロセッサを起動させて、船外機のトリムアップ及びトリムダウンを行わせることができるため、保守点検作業を容易にすることができる。
【0018】
本発明の好ましい態様では、上記過電流保護手段が、Hブリッジ回路の上側半導体スイッチの共通接続点と直流電源との間に挿入されてPTTモータを駆動する際に駆動信号が与えられてオン状態にされるハイサイドスイッチからなっている。ハイサイドスイッチは、自らを通して流れる電流を監視して監視している電流が過大になったときにマイクロプロセッサに過電流情報を与える診断機能と、監視している電流が過大になったときに自ら遮断状態になって過電流を遮断する保護機能とを有するスイッチである。ハイサイドスイッチ自体は公知であり、市販されているものを用いることができる。
【0019】
上記のように、過電流保護手段として診断機能と保護機能とを有するハイサイドスイッチを用いると、電流検出回路が不要になるだけでなく、過電流が流れた際にスイッチ素子をオフ状態にする制御手段が不要になるため、制御装置の構成を簡単にすることができる。またハイサイドスイッチから過電流情報を得ることができるため、異常が生じたことの表示を行なわせたり、Hブリッジ回路のスイッチ素子への駆動信号の供給を停止してPTT装置の駆動を禁止したりすることを容易にすることができる。
【0020】
一般に電源を構成するバッテリは、そのマイナス側出力端子が船外機ボディ(船外機本体及びエンジンブロック)に接続された状態で設けられるため、Hブリッジ回路の下流側(下側半導体スイッチの共通接続点と直流電源との間)に過電流保護手段を挿入した場合には、PTTモータへの配線が船外機ボディに短絡した際に過電流保護手段を経由しない電流通路が形成され、短絡電流を遮断できない事態が生じる。これに対し、上記のように、Hブリッジ回路の上流側(ハイサイド)に過電流保護手段を設けると、PTTモータと船外機ボディとの間で短絡事故が生じた際に短絡電流を遮断できない状態が生じるのを防ぐことができ、安全性を向上させることができる。
【0021】
本発明の他の好ましい態様では、Hブリッジ回路の各上側半導体スイッチとして、駆動信号が与えられたときにオン状態にされるハイサイドスイッチが用いられる。このハイサイドスイッチは、自らを通して流れる電流を監視して、監視している電流が過大になったときにマイクロプロセッサに過電流情報を与える診断機能と、監視している電流が過大になったときに自ら遮断状態になって過電流を遮断する保護機能とを有するスイッチである。
【0022】
上記のように構成した場合も、PTTモータと船外機ボディとの間で短絡事故が生じた際に短絡電流を遮断できない状態が生じるのを防ぐことができる。またこのように構成した場合には、Hブリッジ回路の上側半導体スイッチ自体に過電流保護機能を持たせることができるため、パワー素子の数を減らして回路構成の簡素化を図るとともにヒートシンクの小形化を図り、さらには基板上の部品専有面積を減らして、制御装置の小型化を図ることができる。また部品点数が減ることにより組立の工数を削減して製造コストの低減を図ることができる。
【0023】
更に上記のように、Hブリッジ回路の各上側半導体スイッチとしてハイサイドスイッチを用いた場合には、PTTモータの正転時に流れた過電流と逆転時に流れた過電流とを区別して検出することができるため、トリム角を変化させる機構の異常によりPTTモータにかかる負荷が過大になって過電流が流れた際に、PTTモータがトリムアップ方向に回転している過程で異常が生じたのか、トリムダウン方向に回転している過程で異常が生じたのかを識別して、異常箇所の推定を可能にすることができる。
【0024】
なお本発明で用いる過電流保護手段は、直流電源からHブリッジ回路を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する機能を有するものであればよく、ハイサイドスイッチを用いる場合に限定されない。例えば、Hブリッジ回路を通して流れる電流を検出する電流センサと、該電流センサにより過電流が検出されたときにHブリッジ回路の上側半導体スイッチを強制的にオフ状態にするように制御する手段とにより過電流保護手段を構成することができる。
【0025】
本発明の他の好ましい態様では、マニュアル操作されてトリムアップ指令及びトリムダウン指令を発生するPTTスイッチと、トリムアップ指令及びトリムダウン指令がそれぞれ与えられたときに船外機をトリムアップさせる方向及びトリムダウンさせる方向にPTTモータを回転駆動するようにHブリッジ回路の所定の半導体スイッチに駆動信号を与えるマニュアル操作時モータ駆動手段とが更に設けられる。
【0026】
このように、PTTスイッチとマニュアル操作時モータ駆動手段とを設けておくと、トリム角の自動制御だけでなく、マニュアル操作によるトリム角の調整をも行うこともできる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、半導体スイッチにより構成されたHブリッジ回路を用いてPTTモータに供給する駆動電流を制御するようにしたので、装置の耐久性を低下させることなく、トリム角の自動制御を行なわせることができる。
【0028】
また本発明では、トリム角を目標値に収束させる際に、駆動電流をPWM制御するので、トリム角が目標値に近づいた際に駆動電流を微細に調整して、オーバシュート及びアンダーシュートを生じさせることなく、トリム角を短時間で目標値に収束させることができる。従って、トリム角制御の精度を高くすることができるだけでなく、制御装置での電力消費を少なくすることができる。
【0029】
更に請求項2または3に記載された発明によれば、Hブリッジ回路の上流側に過電流保護手段を設けたので、PTTモータの負荷が過大になって過電流が流れた場合だけでなく、PTTモータへの配線が船外機のボディに短絡した場合や、PTTモータの内部で地絡事故が生じた場合に過電流を遮断できなくなる事態が生じるのを防ぐことができ、制御装置の構成部品が故障したりPTTモータが故障したりするのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は船外機を備えた船舶の構成例を概略的に示している。図1において1は操舵用のステアリングホイール1a、スロットルレバー1b、運転席1cなどを有する船体、2は船外機である。
【0031】
船外機2は、エンジン2aと該エンジンにより駆動されるプロペラ2bとを備えた船外機本体2cと、船外機本体の前部の左右に設けられたブラケット2dとを備えていて、ブラケット2dを介して船体1のトランザム(船尾)に取付けられている。左右のブラケット2dの間には、モータや流体圧シリンダを駆動源として、ブラケット2に設けられた回動軸2eの回りに船外機本体2cを回動させるパワートリムユニットが設けられている。
【0032】
図2は本発明に係わる制御装置の構成例を示したブロック図である。同図において、2は船外機を示し、3は船体の船外機から離れた箇所(運転席の近傍)に取り付けられたリモートコントロールユニット(リモコンユニット)を示している。
【0033】
船外機2には、パワートリムモータ(PTTモータ)4を動力源として船外機本体の船体に対する傾斜角を調節するトリム機構及び船外機本体の船体に対する傾斜角を検出するトリム角センサ5を有するパワートリムユニット(PTTユニット)6と、パワートリムユニット6を制御するコントローラ(PTTコントローラ)7とが設けられている。パワートリムユニット(PTTユニット)6は、前述のように、船外機を船体の船尾に取り付ける左右のブラケット2dの間に設けられ、PTTコントローラ7は、船外機2のカバー内に設けられている。
【0034】
PTTコントローラ7内には、マイクロプロセッサ8と、傾斜角センサ9と、バッテリ10からPTTモータ4に供給する駆動電流の極性を切り替えるHブリッジ回路11と、バッテリ10とHブリッジ回路11との間に挿入されたハイサイドスイッチ12と、マイクロプロセッサ8から与えられる指令に応じてHブリッジ回路11の半導体スイッチ素子に駆動信号を供給するドライブ回路13とが設けられている。
【0035】
またリモコンユニット3には、動作モードを自動制御モードとするか、マニュアルモードとするかを選択するために運転者により操作されるモードスイッチ14と、マニュアルモードが選択されているときに船外機をトリムアップ方向及びトリムダウン方向にそれぞれ動かすために運転者により操作されるPTTスイッチ15と、現在のトリム角、動作モード、異常の有無等を表示する表示器16とが設けられている。
【0036】
上記トリム角センサ5は、船外機のトリム角θtを検出するセンサであり、傾斜角センサ9は、船外機の鉛直方向に対する傾斜角θoを検出するセンサである。本明細書においては、船外機2のプロペラ2bの中心軸線を含む平面のうち、船体1が静止水面に浮いて静止しているときに鉛直方向に沿う状態になる一つの平面を基準平面とし、この基準平面上で船体1の喫水線に沿う方向(図1の直線Lに沿う方向)を船舶の長手方向とする。また船外機が設定された最小トリム位置にあるとき(トリム角が零のとき)に基準平面上で船舶の長手方向に対して一定の取付角度θIをなして船外機3に沿う一つの直線を船外機の基準軸線O−Oとし,基準平面上で船外機の基準軸線が鉛直方向に対してなす角を船外機の傾斜角θoとする。また船外機の基準軸線が基準平面上で船舶の長手方向に対してなす角度から取付角度θIを減じた角度を船外機のトリム角θtとする。
【0037】
PTTモータ4は、パワートリムユニットの駆動源を構成する電動機で、船外機のトリム角を調整するトリム機構に油圧機構が用いられる場合には、油圧機構に圧力油を供給する油圧ポンプがPTTモータ4により駆動される。またPTTモータ4の回転を減速機構を介して船外機に伝達することにより船外機のトリム角を調整するようにトリム機構が構成される場合もある。
【0038】
図3は、本発明に係わるパワートリムユニット用制御装置のハードウェアの回路構成例を示している。図3において、図2に示した各部と同一の部分には同一の符号が付されている。図3に示した例では、バッテリ10が、そのマイナス出力端子を船外機のボディに接地した状態で設けられている。バッテリ10の出力電圧はヒューズ21と、船外機を動作させる際にオン状態にされるイグニッションスイッチ22と、アノードをイグニッションスイッチ側に向けたダイオード23とを通して電源回路24に入力されている。電源回路24は、バッテリ10の出力電圧をマイクロプロセッサ8を駆動するのに適した一定の電圧に変換する回路で、電源回路24の出力電圧Vccがマイクロプロセッサ8の電源端子に印加されている。マイクロプロセッサ8は、電源電圧が与えられたときに起動して各部をリセットする。
【0039】
PTTスイッチ15は、ヒューズ21を通してバッテリ10のプラス側出力端子に接続された可動接点15aと、可動接点15aが選択的に接触する固定接点15b,15cとを有する切換スイッチからなっている。PTTスイッチ15は、トリムアップボタンとトリムダウンボタンとを備えていて、操船者がトリムアップボタン及びトリムダウンボタンを押したときにそれぞれ可動接点15aが固定接点15b及び15cに接触させられるようになっている。PTTスイッチの固定接点15b及び15cはそれぞれアノードをこれらの固定接点側に向けたダイオード25及び26を通して電源回路24の入力端子に接続され、PTTスイッチが操作されたときにもバッテリ10から電源回路24を通してマイクロプロセッサ8に電源電圧が与えられるようになっている。
【0040】
マイクロプロセッサ8は、起動した後、何らかの処理を行うときに、その処理の途中で電源が落とされるのを防ぐために、その処理が終了するまでの間ポートAから電源保持指令を発生する。マイクロプロセッサのポートAには、エミッタが接地されたNPNトランジスタ27のベースが抵抗器28を通して接続され、トランジスタ27のコレクタにダイオード29を通してPNPトランジスタ30のベースが接続されている。トランジスタ30のエミッタはヒューズ21を通してバッテリ10のプラス側出力端子に接続され、トランジスタ30のコレクタはダイオード31を通して電源回路24の入力端子に接続されている。マイクロプロセッサがポートAから電源保持指令を発生すると、トランジスタ27及び30がオン状態になり、バッテリ10からトランジスタ30とダイオード31とを通して電源回路24に電圧が与えられる。この状態では、イグニッションスイッチ22がオフ状態にされてもマイクロプロセッサ8に電源電圧が与えられた状態が保持される。本実施形態では、抵抗器28とトランジスタ27及び30とダイオード31とによりマイクロプロセッサの電源を保持する電源保持回路が構成されている。
【0041】
マイクロプロセッサ8は指令信号や検出信号が入力されるポートB〜Fを有している。ポートB及びCには、PTTスイッチ15の可動接点15aが固定接点15b及び15cに接触したときにそれぞれ発生するトリムアップ指令及びトリムダウン指令がインターフェース(I/F)回路32及び33を通して入力されている。
【0042】
トリム角センサ5は、船外機の回動変位が回転軸に伝達されるように設けられたポテンショメータからなっていて、該ポテンショメータの両端に電源回路24の出力電圧Vccが印加され、このポテンショメータの可動接触子を通してトリム角に比例した電圧値を有するトリム角検出信号Stが出力される。トリム角検出信号Stはインターフェース回路34を通してマイクロプロセッサのポートDに入力されている。
【0043】
またモードスイッチ14の一端が接地電位部に接続され、モードスイッチ14が閉じられた際に該モードスイッチの他端の電位が接地電位に落とされることにより発生する自動モード切替指令が、インターフェース回路35を通してマイクロプロセッサのポートEに入力されている。
【0044】
傾斜角センサ9は、加速度センサからなっていて、その出力はインターフェース回路36を通してマイクロプロセッサのポートFに入力されている。傾斜角センサを構成する加速度センサは、例えば船外機の基準軸線O−Oの方向に働く加速度Gyと、前記基準平面上で基準軸線と直交する方向に働く加速度Gxとを検出する2軸加速度センサからなっている。この場合、マイクロプロセッサは、加速度GxとGyとの比Gx/Gyのアークタンジェント値tan−1 (Gx/Gy)から加速度Gyと重力の加速度との間の角度を演算することにより、船外機の傾斜角θoを演算する。
【0045】
Hブリッジ回路11は、駆動信号が与えられているときにオン状態になる上側半導体スイッチQu,Qv及び下側半導体スイッチQx,Qyによりそれぞれブリッジの上辺及び下辺が構成された周知のスイッチ回路で、上側半導体スイッチQu,Qvの共通接続点から引き出されたプラス側入力端子aと下側半導体スイッチQx,Qyの共通接続点から引き出されたマイナス側入力端子bとの間に直流電源(バッテリ10)から直流電圧が印加され、上側半導体スイッチQu,Qvと下側半導体スイッチQx,Qyとのそれぞれの接続点から引き出された出力端子c及びdがPTTモータ4の入力端子に接続されている。本実施形態では、上側半導体スイッチQu,Qv及び下側半導体スイッチQx,QyがMOSFETからなっていて、上側半導体スイッチQu,Qvを構成するMOSFETのドレインが入力端子aに接続されている。また下側半導体スイッチQx,Qyを構成するMOSFETのソースが入力端子bに接続され、上側半導体スイッチQu,Qvを構成するMOSFETのソースと下側半導体スイッチQx,Qyを構成するMOSFETのドレインとがそれぞれ出力端子c,dに接続されている。
【0046】
Hブリッジ回路11の半導体スイッチQu,Qv,Qx及びQyには、マイクロプロセッサ8からドライブ回路13を通して駆動信号Su,Sv,Sx及びSyが与えられる。各半導体スイッチは駆動信号が与えられている間オン状態になってバッテリ10からPTTモータに駆動電流を流す。
【0047】
本実施形態においては、Hブリッジ回路11の上側半導体スイッチQu,Qvの共通接続点(プラス側入力端子)とバッテリ(直流電源)との間にハイサイドスイッチ12が挿入されている。
【0048】
ハイサイドスイッチ12は、その制御端子12aに駆動信号Sdが与えられている間オン状態を保持し、駆動信号Sdが除去されたときにオフ状態になるスイッチ機能と、自らを通して流れる電流を監視して、監視している電流が過大になったときに検出信号出力端子12bから過電流検出信号Siを出力する診断機能と、監視している電流が過大になったときに自ら遮断状態になって過電流を遮断する保護機能とを有するスイッチである。このハイサイドスイッチとしては市販されているものを用いることができる。本実施形態では、このハイサイドスイッチにより、バッテリ10からHブリッジ回路11を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する過電流保護手段が構成されている。
【0049】
本実施形態では、PTTモータ4を駆動する際にHブリッジ回路11のブリッジの対角位置にある1対のスイッチをオン状態にしてバッテリ10からPTTモータ4に所定の極性の駆動電流を流す。またオン状態にされる1対のスイッチのうちの少なくとも一方に与える駆動信号をPWM変調することにより、該少なくとも一方のスイッチを所定のデューティ比で断続させて、PTTモータに供給する駆動電流PWM制御する。
【0050】
例えばPTTモータ4をトリムアップ方向に回転させる際にHブリッジ回路11の上側スイッチQvと下側スイッチQxとをオン状態にする。またトリム角とその目標値との偏差が大きいときにPTTモータに大きな駆動電流を流し、トリム角とその目標値との偏差が小さくなっていくに従って、PTTモータに供給する駆動電流の平均値を小さくしていくように下側スイッチQxをオンオフさせて、駆動電流をPWM制御する。PTTモータをトリムダウン方向に回転させる際には、Hブリッジ回路11の上側スイッチQuと下側スイッチQyとをオン状態にし、上側スイッチQu及び下側スイッチQyのうちの一方、例えば下側スイッチQyをオンオフさせて駆動電流をPWM制御する。
【0051】
マイクロプロセッサ8は、トリム角を目標値に収束させるために必要な駆動電流をPTTモータに流すためにオン状態にする必要があるスイッチに駆動信号を与えることを指令するスイッチ駆動指令とPWM信号とをドライブ回路13に与える。ドライブ回路13は、Hブリッジ回路11にスイッチQu,Qv,Qx,Qyのうち、マイクロプロセッサから与えられるスイッチ駆動指令によりオン状態にすべきことを指令されたスイッチに駆動信号を与えるとともに、駆動電流をPWM制御するためにオンオフさせるスイッチ(例えば下側スイッチ)に与える駆動信号をPWM信号に応じて断続させる。
【0052】
マイクロプロセッサ8は、所定のプログラムを実行することにより、トリム角を制御するために必要な各種の機能を果たす手段を構成する。図4は、マイクロプロセッサ8により構成される手段を含む制御装置の構成を示したもので、同図において41は傾斜角センサ9が検出した船外機の鉛直方向に対する傾斜角θoとトリム角センサ5により検出された現在のトリム角θtとに基づいてトリム角の目標値θtoを演算するトリム角目標値演算部、42はトリム角θtの目標値θtoと、トリム角センサ5により検出されるトリム角θtとの偏差に応じてバッテリ10からHブリッジ回路11を通してPTTモータ4に与えられる駆動電流をPWM制御するようにHブリッジ回路11の半導体スイッチへの駆動信号の供給を制御してトリム角θtを目標値θtoに収束させる制御を行うトリム角自動制御手段であり、43は、PTTスイッチ15からトリムアップ指令及びトリムダウン指令がそれぞれ与えられたときに船外機をトリムアップさせる方向及びトリムダウンさせる方向にPTTモータを回転駆動するようにHブリッジ回路11の所定の半導体スイッチに駆動信号を与えるマニュアル操作時モータ駆動手段である。また44はバッテリ10からHブリッジ回路を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する過電流保護手段、本実施形態ではこの過電流保護手段がハイサイドスイッチ12からなっている。更に45はマイクロプロセッサの起動時に、過電流保護手段44を構成するハイサイドスイッチ12に駆動信号を与えてハイサイドスイッチ12をオン状態にするハイサイドスイッチ駆動手段、46はハイサイドスイッチ12が過電流検出信号Siを出力したときに表示器16にPTTモータの駆動回路で異常が生じたこと(過電流が流れたこと)の表示動作を行わせる表示器駆動手段である。
【0053】
トリム角自動制御手段42は、制御の目的に応じて適宜の構成をとり得るが、本実施形態のトリム角自動制御手段42は、船体1のピッチ角θp(前記基準平面上で船体の長手方向が水平面に対してなす角)を目標値に一致させるようにトリム角θtを制御する目標ピッチ角追従制御を行う。そのため、トリム角目標値演算部41は、先ず船外機2の船体1に対する取付角度θIと、トリム角センサ5により検出された船外機のトリム角θtと、傾斜角センサ9により検出された傾斜角θoとから船体の現在のピッチ角θpを演算し、このピッチ角θpと、あらかじめ設定されたピッチ角の目標値θpoとの偏差に応じて、ピッチ角θpを目標値θpoに一致させるために必要なトリム角の目標値θtoを演算する。トリム角自動制御手段42は、トリム角センサ5により検出されたトリム角θtと、演算されたトリム角の目標値θtoとの偏差をゼロにする方向にPTTモータ4を回転させるために必要な駆動電流をPTTモータに与えるように、Hブリッジ回路11のスイッチを制御してPTTモータ4に所定の極性の電流を流す。
【0054】
なお、トリム角の自動制御は、上記の例に限られるものではなく、例えば、船外機のプロペラの軸線方向を、推進力が最も効率よく働く方向(例えば水平方向)に向けるために必要なトリム角をトリム角の目標値として、トリム角センサにより検出されるトリム角を目標値に収束させるように制御する場合もある。この場合、トリム角目標値演算部41は、現在のトリム角と船外機の傾斜角θoとから、船外機のプロペラの軸線方向を、推進力が最も効率よく働く方向(例えば水平方向)に向けるために必要なトリム角をトリム角の目標値として演算し、トリム角自動制御手段42は、トリム角の目標値とトリム角センサにより検出されるトリム角との偏差に応じてバッテリ10から過電流保護手段44とHブリッジ回路11とを通してPTTモータに与えられる駆動電流をPWM制御するようにHブリッジ回路11の半導体スイッチへの駆動信号の供給を制御してトリム角を目標値に収束させる制御を行う。
【0055】
マニュアル操作時モータ駆動手段43は、マニュアルモードが選択されていて、PTTスイッチ15がトリムアップ指令及びトリムダウン指令を発生したときにそれぞれPTTモータをトリムアップ方向及びトリムダウン方向に回転させるべく、Hブリッジ回路11の所定の半導体スイッチに駆動信号を与える。この駆動信号も、マイクロプロセッサ8からドライブ回路13を通して与えられる。
【0056】
図4に示した制御装置を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示すフローチャートを図6ないし図8に示した。図6に示した処理はハイサイドスイッチ12が過電流を検出したときに実行される処理で、この処理においては、過電流検出フラグがセットされる。
【0057】
図7に示した処理は、一定の時間間隔で起動するPTT異常警告処理で、この処理においては、ステップS01において、PTT駆動回路に異常があるか否かを判定し、異常がある場合には、表示器16に設けられているLEDやLCD等にPTT異常警告表示動作を行わせる。ステップS01でPTTモータの駆動回路に異常がないと判定された場合には、何もしないでこの処理を終了する。PTT駆動回路の異常状態とは、例えばHブリッジ回路を通して過電流が流れた状態、トリム角センサ5が異常な状態、回路の断線などであるが、本実施形態では、図6の処理により過電流検出フラグがセットされているときに、ステップS01においてそのフラグの状態からPTT駆動回路に過電流が流れる異常が生じていると判定している。
【0058】
図8の処理も一定の時間間隔で実行される処理で、この処理が開始されると、ステップS101でPTT駆動回路に異常があるか否か(本実施形態では、過電流検出フラグがセットされているか否か)を判定し、異常がある場合にはステップS109でPTTモータの駆動を停止してからこの処理を終了する。ステップS101でPTT駆動回路に異常がないと判定されたときには、ステップS102において制御モードがエンジン始動モードであるか否かを判定する。その結果、エンジン始動モードであると判定されたときには、ステップS109でPTTモータの駆動を停止してからこの処理を終了する。
【0059】
図8の処理のステップS102でエンジン始動モードではないと判定されたときには、ステップS103においてPTTモータの制御モードが自動モードであるか否かを判定する。その結果、自動モードであると判定されたときにはステップS104に進んで前述したトリム角自動制御を実行させてこの処理を終了する。
【0060】
ステップS103でPTTモータの制御モードが自動モードでないと判定されたときには、ステップS105に進んでPTTスイッチ15のトリムアップボタンが押されているか否かを判定する。その結果、トリムアップボタンが押されていると判定されたときには、ステップS106に進んで船外機をトリムアップさせる(トリム角を増大させる)方向にPTTモータ4を回転させるためにオン状態にする必要がある半導体スイッチQv及びQxに駆動信号を与えてこれらのスイッチをオン状態にすることにより、船外機をトリムアップさせる方向にPTTモータを駆動した状態としてこの処理を終了する。
【0061】
ステップS105でトリムアップボタンが押されていないと判定されたときには、ステップS107に進んでトリムダウンボタンが押されているか否かを判定する。その結果、トリムダウンボタンが押されていると判定されたときには、ステップS108に進んで船外機をトリムダウンさせる(トリム角を小さくする)方向にPTTモータ4を回転させるためにオン状態にする必要がある半導体スイッチQu及びQyに駆動信号を与える。これによりスイッチQu及びQyをオン状態にし、船外機をトリムダウンさせる方向にPTTモータを駆動した状態としてこの処理を終了する。ステップS107でトリムダウンボタンが押されていないと判定されたときには、ステップS109でPTTモータを停止させた後、この処理を終了する。
【0062】
図7の処理により表示器駆動手段46が構成され、図8のステップS104によりトリム角自動制御手段42が構成される。また図8のステップS105ないしS108により、マニュアル操作時モータ駆動手段43が構成される。
【0063】
上記の実施形態では、過電流保護手段44を構成するハイサイドスイッチ12をHブリッジ回路11の上側半導体スイッチの共通接続点aとバッテリ10のプラス側出力端子との間に挿入したが、図5に示したように、Hブリッジ回路11の上側半導体スイッチとして、駆動信号が与えられたときにオン状態にされるハイサイドスイッチHSu及びHSvを用い、ドライブ回路るようにしてもよい。この場合、ハイサイドスイッチHSu及びHSvにはドライブ回路13から駆動信号Su及びSvが与えられて、これらのハイサイドスイッチが図3に示したスイッチQu及びQvと同じようにオンオフ制御される。またハイサイドスイッチHSu及びHSvが出力する過電流検出信号Siu及びSivがマイクロプロセッサ8に入力されている。この例では、ハイサイドスイッチHSu及びHSvにより過電流保護手段が構成されている。図5に示した制御装置のその他の構成は図3に示した例と同様である。
【0064】
上記の各実施形態のように、半導体スイッチにより構成されたHブリッジ回路11を用いてPTTモータ4の回転方向を切換えるようにすると、消耗する接点がないため、制御装置の耐久性を向上させることができる。
【0065】
また上記の各実施形態のように、トリム角の目標値とトリム角センサにより検出されるトリム角との偏差に応じて直流電源からHブリッジ回路を通してPTTモータに与える駆動電流をPWM制御することにより、トリム角を目標値に収束させる制御を行なわせると、トリム角の微調整を行うことができるため、トリム角が目標値に近づいた際にオーバシュート及びアンダーシュートが発生するのを防いで、トリム角を短時間で目標値に収束させることができ、PTTユニットでの消費電力を少なくして、電源(通常はバッテリ)にかかる負担を少なくすることができる。
【0066】
更に、上記の各実施形態のように、バッテリ10からHブリッジ回路を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する過電流保護手段を設けておくと、過電流によりHブリッジ回路の構成部品が故障したり、PTTモータのコイルが故障したりするのを防ぐことができる。
【0067】
また上記の各実施形態のように、過電流保護手段として診断機能と保護機能とを有するハイサイドスイッチを用いると、電流検出回路が不要になるだけでなく、過電流が流れた際にスイッチ素子をオフ状態にする制御手段が不要になるため、制御装置の構成を簡単にすることができる。またハイサイドスイッチから過電流情報を得ることができるため、異常が生じたことの表示を行なわせたり、Hブリッジ回路のスイッチ素子への駆動信号の供給を停止してPTT装置の駆動を禁止したりすることを容易にすることができる。
【0068】
上記の実施形態でも示したように、一般に電源を構成するバッテリ10は、そのマイナス側出力端子が船外機ボディ(船外機本体及びエンジンブロック)に接続された状態で設けられるため、Hブリッジ回路11の下流側(下側半導体スイッチの共通接続点と直流電源との間)に過電流保護手段を挿入した場合には、PTTモータ4への配線が船外機ボディに短絡した際に過電流保護手段を経由しない電流通路が形成され、短絡電流を遮断できない事態が生じる。これに対し、上記の各実施形態のように、Hブリッジ回路11の上流側(ハイサイド)に過電流保護手段を設けると、PTTモータ4と船外機ボディとの間で短絡事故が生じた際に短絡電流を遮断できない状態が生じるのを防ぐことができ、安全性を向上させることができる。
【0069】
図5に示した実施形態のように、Hブリッジ回路11の各上側半導体スイッチとして、駆動信号が与えられたときにオン状態にされるハイサイドスイッチを用いた場合には、Hブリッジ回路11の上側半導体スイッチ自体に過電流保護機能を持たせることができるため、パワー素子の数を減らして回路構成の簡素化を図るとともにヒートシンクの小形化を図り、さらには基板上の部品専有面積を減らして、制御装置の小型化を図ることができる。また部品点数が減ることにより組立の工数を削減して製造コストの低減を図ることができる。
【0070】
更に図5に示した実施形態のように、Hブリッジ回路11の各上側半導体スイッチとしてハイサイドスイッチを用いた場合には、PTTモータの正転時に流れた過電流と逆転時に流れた過電流とを区別して検出することができるため、トリム角を変化させる機構の異常によりPTTモータにかかる負荷が過大になって過電流が流れた際に、PTTモータがトリムアップ方向に回転している過程で異常が生じたのか、トリムダウン方向に回転している過程で異常が生じたのかを識別して、異常箇所の推定を可能にすることができる。
【0071】
また上記の各実施形態のように、PTTスイッチ15が操作されたときにもマイクロプロセッサ8が起動するようにしておいて、トリム角自動制御手段及びマニュアル操作時モータ駆動手段を該マイクロプロセッサを用いて構成するようにすると、わざわざキーを持ってきてイグニッションスイッチをオン状態にしなくてもマイクロプロセッサを起動させて、船外機のトリムアップ及びトリムダウンを行わせることができるため、保守点検作業を容易にすることができる。
【0072】
上記の実施形態では、マニュアル操作されてトリムアップ指令及びトリムダウン指令を発生するPTTスイッチと、トリムアップ指令及びトリムダウン指令がそれぞれ与えられたときに船外機をトリムアップさせる方向及びトリムダウンさせる方向にPTTモータを回転駆動するようにHブリッジ回路の所定の半導体スイッチに駆動信号を与えるマニュアル操作時モータ駆動手段とを設けたが、これらの手段は省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】船外機を備えた船舶の構成例を一部断面して概略的に示した側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係わる制御装置の全体的な構成を示したブロックズである。
【図3】本発明の一実施形態に係わる制御装置のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図4】本発明の一実施形態に係わる制御装置の、マイクロプロセッサにより構成される機能実現手段を含む構成を示したブロック図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係わる制御装置のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図6】本発明の実施形態において過電流が検出されたときにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態において一定の時間間隔でマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態において一定の時間間隔でマイクロプロセッサが実行する他の処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
1 船体
2 船外機
4 PTTモータ
5 トリム角センサ
6 パワートリムユニット
8 マイクロプロセッサ
9 傾斜角センサ
11 Hブリッジ回路
12 ハイサイドスイッチ
42 トリム角自動制御手段
43 マニュアル操作時モータ駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTTモータを駆動源として船外機のトリム角を変化させる船外機用パワートリムユニットを制御する制御装置であって、
駆動信号が与えられているときにオン状態になる上側半導体スイッチ及び下側半導体スイッチによりそれぞれブリッジの上辺及び下辺が構成されて、前記上側半導体スイッチの共通接続点と前記下側半導体スイッチの共通接続点との間に直流電源から直流電圧が印加され、各上側半導体スイッチと下側半導体スイッチとの接続点が前記PTTモータの入力端子に接続されるHブリッジ回路と、
前記船外機を動作させる際にオン状態にされるイグニッションスイッチと、
前記船外機のトリム角を検出するトリム角センサと、
運転状態に応じて設定される前記トリム角の目標値と前記トリム角センサにより検出されるトリム角との偏差に応じて前記直流電源から前記Hブリッジ回路を通して前記PTTモータに与えられる駆動電流をPWM制御するように前記Hブリッジ回路の半導体スイッチへの駆動信号の供給を制御して前記トリム角を前記目標値に収束させる制御を行うトリム角自動制御手段と、
前記直流電源から前記Hブリッジ回路を通して過電流が流れたときに該過電流を遮断する過電流保護手段と、
を具備してなる船外機用パワートリムユニットの制御装置。
【請求項2】
前記イグニッションスイッチがオン状態にされたとき及び前記PTTスイッチが操作されたときに起動するマイクロプロセッサが設けられて、該マイクロプロセッサに前記トリム角センサにより検出されたトリム角の情報が与えられ、
前記トリム角自動制御手段及びマニュアル操作時モータ駆動手段が前記マイクロプロセッサを用いて構成される請求項1に記載の船外機用パワートリムユニットの制御装置。
【請求項3】
前記過電流保護手段は、前記Hブリッジ回路の上側半導体スイッチの共通接続点と前記直流電源との間に挿入されて前記PTTモータを駆動する際に駆動信号が与えられてオン状態にされるハイサイドスイッチからなり、
前記ハイサイドスイッチは、自らを通して流れる電流を監視して、監視している電流が過大になったときに前記マイクロプロセッサに過電流情報を与える診断機能と、監視している電流が過大になったときに自ら遮断状態になって過電流を遮断する保護機能とを有するスイッチである請求項1または2に記載の船外機用パワートリムユニットの制御装置。
【請求項4】
前記Hブリッジ回路の各上側半導体スイッチとして、駆動信号が与えられたときにオン状態にされるハイサイドスイッチが用いられ、
前記ハイサイドスイッチは、自らを通して流れる電流を監視して監視している電流が過大になったときに前記マイクロプロセッサに過電流情報を与える診断機能と、監視している電流が過大になったときに自ら遮断状態になって過電流を遮断する保護機能とを有するスイッチである請求項1または2に記載の船外機用パワートリムユニットの制御装置。
【請求項5】
マニュアル操作されてトリムアップ指令及びトリムダウン指令を発生するPTTスイッチと、前記トリムアップ指令及びトリムダウン指令がそれぞれ与えられたときに前記船外機をトリムアップさせる方向及びトリムダウンさせる方向に前記PTTモータを回転駆動するように前記Hブリッジ回路の所定の半導体スイッチに駆動信号を与えるマニュアル操作時モータ駆動手段とが更に設けられている請求項1,2,3または4に記載の船外機用パワートリムユニットの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−265601(P2008−265601A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112964(P2007−112964)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)