説明

船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システム

【課題】津波が襲来した際に、船体などが漂流したり、他の物体に損害を与えることがない船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システムを提供する。
【解決手段】船体1などには係留索21の先端にフック係止具3を取り付け、途中に緩衝材22を介在させた漂流防止索2を設置し、海底あるいは陸上には漂流防止索の先端のフック係止具が係合可能である捕捉索4を設置して構成する。漂流防止索の先端のフック係止具は、複数のフックを回転軸で軸止し、フックには外側へ開く弾性を付与し、外周から拘束帯で拘束して構成することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波の来襲時の安全性を考慮した船舶、コンテナおよび木材ブロックなど(以下船舶などという)の漂流抑制システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本には漁船、遊漁船とプレジャーボート合わせて約100万隻ほどあり、そのうちの9割以上が5総トン未満の小型船舶と言われている。
これらの船舶の係留方法では、急激な海面の上昇、低下を伴う大きな津波が襲来した場合、衝撃的な大きな力がもやい綱に加わり、もやい綱が破断して、船溜り、泊地など港内から多数の船舶が一挙に津波とともに漂流を始めること、および船舶が波とともに互いに衝突しながら陸上に遡上し、住宅地や公共施設を襲うこと、また引き潮時には座礁あるいは水路に打ち上げられながら外洋に潮とともに流され多大な損害を与えることは、本年3月11日の東日本大震災津波によって明らかになった。
また、陸上に遡上した津波は港内のヤードのコンテナ、木材なども流し大きな経済的な損害を与えた。
とくに漁船の損壊、流出はその地域の水産業の崩壊につながり、地域経済に大きな打撃を与えることも明らかとなった。
しかし、従来は津波の際に船舶などの流出を阻止する発明はほとんど存在しない。
また、陸上の貯木場の木材、あるいは岸壁に積み上げたコンテナでも同様であって、流れによって打ち上げられるか沖に流されるという現象となって現れた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような現象に対して従来は、津波時の港内の急激な海面上昇もしくは低下によって船首もしくは舷側と係船柱が離れようとする力が係留索に衝撃力として働き、もやい綱が切断されるか、あるいは船の係留金具であるビットの破断がおき、あるいは続いてくる急速な潮の流れで漂流を始めるという問題があった。
また陸上のヤードに蔵置してある状態の木材(原木)、コンテナはそのまま浮き上がり流されるのが一般的である。
しかし従来は津波の現象としての研究、船舶などへ働く外力の研究は行われてきたものの、現実に即した漂流抑制システムの開発は行われておらず特許文献を調査しても見つけることができない状態である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決するために本発明の船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システムは、津波対策のためのシステムであって、船体などには、係留索の先端にフック係止具を取り付け、途中に緩衝材を介在させた漂流防止索を設置し、海底あるいは陸上には漂流防止索の先端のフック係止具が係合可能である捕捉索を設置して構成することを特徴とするものである。
また本発明の船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システムは、上記のシステムにおいて、漂流防止索の先端のフック係止具は、複数のフックを回転軸で軸止し、フックには外側へ開く弾性を付与し、外周から拘束帯で拘束して構成することを特徴とするものである。
また本発明の船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システムは、前記のシステムにおいて、捕捉索は、端部を海底、あるいは地中に設置した水平材から構成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の船舶、コンテナおよび木材ブロックなどの漂流抑制システムは以上のようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 船舶の場合、津波の最初の襲来によって海面が急激に上昇、下降しても、漂流防止索の先端に取り付けたフックが、陸上、海底に設置した捕捉索に係合して船舶などの漂流を阻止することができる。
<2> 陸上のコンテナ、木材ブロックの場合も、それらが遡上した場合には、漂流防止索のフックが同様に捕捉索に掛かり海上への流失、陸上への流入を抑えることができる。津波の第二波、第三波が押し寄せても同じところに留まるか、別の捕捉索に係合するように船舶などの漂流を阻止することができる。
<3> このシステムによって津波による大量の船舶などの漂流を防ぐことができ、港の背後の住宅や公的施設が漂流物によって破壊を受ける危険性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の船舶などの漂流防止抑制システムの実施例の説明図。
【図2】漂流抑制システムの平常時の状態の説明図。
【図3】水面が上昇した状態の説明図。
【図4】水面がさらに上昇し、緩衝材が働き漂流防止索が伸びた状態の説明図。
【図5】水面がさらに上昇し、防潮堤を超えた状態の説明図。
【図6】フックの実施例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0008】
<1>全体の構成
本発明は主に100トン未満の船舶、あるいはコンテナ、木材ブロックを対象とし、漂流防止索と、陸上、海底の捕捉索とによって構成するものである。
この漂流防止索の先端のフックを、陸上、海底の捕捉索にひっかけることによって、船舶などの漂流を抑制する、漂流を抑えるシステムである。
図の実施例では船体1を対象に説明する。
【0009】
<2>漂流防止索
漂流防止索2は、通常の船舶を係留する市販の繊維ロープなど一般的な素材の係留索21と、緩衝材22と、フック3とによって構成する。
係留索21の中間、あるいはその一端に緩衝材22を介在させる。
介在させる緩衝材22は、高い伸縮特性を備えたゴムなどの索、棒または帯状の部材であり、高伸縮特性によって衝撃張力の緩和やエネルギーの吸収を行うものである。
【0010】
<3>フック
漂流防止索2の自由端にはフック3を取り付ける。
フック3は、どの面でも捕捉索に掛かるように鉤31を備えた、従来の錨に似た鋼製または合金製の部材である。
ただし、錨のように常時、周囲に向けて鉤31を突出していては、平常時にも海底の岩や、海底に敷設した捕捉索4と係合してしまう。
そこで一般の雨傘の骨のように、常時は複数本の鉤31を閉じた状態に配置してあり、必要に応じて周囲に向けて鉤31が放射状に拡散する構成を採用する。
そのために例えば図6に示すように、複数本の鉤31の一端を回転軸32に回転自在に軸止めし、かつ中心から周囲に拡大する方向に鉤31の押し出し力を与えておく。
そして常時は、複数本の鉤31をバネに抵抗した状態で収縮し、その周囲を拘束帯33で拘束しておく。
さらにその拘束帯33と係留索21との間を、短い長さの解放索34で接続しておく。
すると船体1などの急激な上昇によって係留索21が引っ張られた場合に、係留索21の引張力がフック3に到着する前に、解放索34からの引張力が拘束帯33を引き出し、あるいは拘束帯33を破壊して、拘束帯33の拘束力を解放する。
その結果、拘束帯33で解放力を拘束されていた多数の鉤31群が、放射方向に解放されて周囲に複数のフック3を張り出した錨状を呈することになる。
【0011】
<4>索破断防止装置
津波の来襲時に漂流防止索2には、津波に抗してゴムやスプリングの緩衝材22が働いたままの状態が続く場合がある。
すると緩衝材22の内部に大きなエネルギーが解放されずに蓄積し、破断するおそれがある。
そのため、係留索21を緩めエネルギーを解放してやる必要があり、21索に数メートルあるは数十メートルの索21を繰り出すことができる索破断防止装置5を取り付けることも必要になる。
そのために例えば係留索21の途中に巻尺の巻き取り具のような索破断防止装置5を介在させることもできる。
この索判断防止装置5は、係留索21を巻き取り、折り返して束ね中空の容器に収納した装置である。
内部に収納した係留索21には、バネなどの弾力または容器の出口と係留索21の摩擦力によって引き出しに抵抗を与えておく。
係留索21に一定の外力が作用した場合に、係留索21に抵抗を与えながら徐々に容器から係留索21を引き出すことができる。
したがって津波で船体1が上昇した場合に、船体1に抵抗を与えながら、切断することなく係留索21を引き出して、漂流を阻止することができる。
【0012】
<5>捕捉索
海底、および陸上に捕捉索4を設置する。
この捕捉索4は、地中、海底に基礎を埋設した水平材によって構成する。
水平材は、鋼棒、鋼線などで構成する。
すなわち「索」と称しても線材に限るものではなく、明細書、請求項ともに鋼棒なども含んだ意味で使用する。
この水平材に、前記したが係合することによってフック3にひっかかるようにすることで船体1の漂流を阻止する。
捕捉索4は、例えば複数本の、平行して設置した支柱の上端を、共通の水平材で連結した構成を採用することができる。
したがって陸上の捕捉索4は、ガードレールや転落防止柵、岸壁コーナー材、クルマ止めなどとして他の機能を付加することもできる。
コンテナターミナルや貯木場では不沈式、起伏式の索のシステムを採用することができる。
これは通常時には荷役活動の妨げにならないように地面の下に水平材の索を設置しておき、津波時には索を支える杭が上昇し、あるいは起き上がることで水平材としての索が地表から数十センチ上昇するように構成する。
あるいは、捕捉索4に浮きを複数個固着して、津波の波が到来したとき、浮きの浮力によって捕捉索4が地上に浮き出るように構成しても良い。
【0013】
<6>船舶の挙動の説明
次に平常時と津波来襲時の船舶の挙動と、本発明のシステムの作動について説明する。
【0014】
<7>平常時
平常時には、船体11は通常のもやい綱61で岸壁の係船柱6に係留しているが、同時に船尾から漂流防止索2を海底に垂れ流した状態で停泊している。
その漂流防止索2の先端のフック3は、傘の骨を畳んだように、複数のフック3群を拘束帯33で収納した状態にある。
そのためにフック3の鉤31が海底の岩や、海底に敷設した捕捉索4にひっかかることがない。
船舶が漁などで港の外部に出るときには、漂流防止索2を、先端のフック3とともに船体1の内部に取り込む。
【0015】
<8>海底での係止
津波の影響で海面が急激に上昇すると、船体11が波によって急激に持ち上げられ、係船柱6と船体11を繋いでいた長さ数十センチから1m程度の船首側のもやい綱61は切断される。
津波によって海面が更に上昇して漂流防止索2に引張力が作用すると、先端の解放索34がフック3の拘束帯33を解体し、複数の鉤31はバネの弾力によって放射方向に広がる。
その後さらに漂流防止索2が引かれると、フック3は海底面を引きずられる。そのためにフック3の鉤31が、海底に設置してある捕捉索4に係合し、船体1の漂流を一時的に阻止する。
それ以上に海面が上昇すると、ゴムベルトなどで構成した緩衝材22が伸びて係合状態を維持する。
海面の上昇がこの段階で停止すれば、緩衝材22の伸びによってフック3と捕捉索4との係合を維持し続け、船体1の漂流の阻止の機能を果たすことができる。
【0016】
<9>陸上での係止
津波の規模によっては、海面がさらに上昇する。
その場合には海底の捕捉索4が破損し、船体1は漂流防止索2を引きずったままさらに上昇を続ける。
すると漂流防止索2の末端のフック3の鉤31は、陸上に設置したいずれかの捕捉索4に係合することになる。
フック3の鉤31にひっかかった捕捉索4は、岸壁上にガードレール状に設置した捕捉索4の場合もあり(図4)、さらに海面が上昇すれば、防潮堤の頂部に設置した捕捉索4の場合もある。(図5)
図示していないが、いずれの段階でも、緩衝材22とともに、前記した索破断防止装置5が十分働きフック3と捕捉索4がつながっている状態を長く維持することができる。
【0017】
<10>引き波時の係合
津波の陸上への遡上が限界に達すると、引き波が生じる。
この引き波によって船体1が沖へ流される可能性があるが、船体1が引きずるフック3は、いずれかの地上の捕捉索4に係合しているから、沖への流出を阻止することができる。
地上の捕捉索4の破損などで、地上への係止が困難となった場合にも、フック3は海底を引きずるから、海底に設けた捕捉索4に係合する可能性が高く、そこで漂流を阻止することもできる。
【0018】
<11>船舶以外
以上は、船体1に漂流防止索2を取り付けた場合の説明であるが、貯木場などに積み上げた木材ブロック、コンテナにおいても同様の効果を期待することができる。
その場合に木材ブロックの外周をワイヤーで拘束し、そのワイヤーに本願発明の漂流防止索2を取り付ける。
あるいはコンテナの底部に開設したフォークリフトのアームを挿入するツイストコーンが着脱する穴に本願発明の漂流防止索2を取り付ける。
するといずれの場合でも津波によって漂流し始めた木材ブロック、コンテナーに一端を固定した漂流防止索2の他端のフック3係止具が、海底あるいは陸上の捕捉索4に係合してそれ以降の漂流を阻止することができる。
【符号の説明】
【0019】
1:船体1
2:漂流防止索
3:フック
4:捕捉索
5:索破断防止装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波対策のためのシステムであって、
船体などには、係留索の先端にフック係止具を取り付け、途中に緩衝材を介在させた漂流防止索を設置し、
海底あるいは陸上には漂流防止索の先端のフック係止具が係合可能である捕捉索を設置して構成した、
船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
漂流防止索の先端のフック係止具は、
複数のフックを回転軸で軸止し、フックには外側へ開く弾性を付与し、外周から拘束帯で拘束して構成した、
船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システム。
【請求項3】
請求項1記載のシステムにおいて、
捕捉索は、
端部を海底、あるいは地中に設置した水平材から構成した、
船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システム。
【請求項4】
請求項1記載のシステムにおいて、
係留索に索破断防止装置を介挿して構成した、
船舶、コンテナおよび木材ブロックの漂流抑制システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−28253(P2013−28253A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165299(P2011−165299)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000182030)若築建設株式会社 (39)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【出願人】(000106955)シバタ工業株式会社 (81)