説明

船舶の減揺兼制動装置

【課題】
減揺板の先端を船幅内に納めることで、減揺板の格納構造を不要にして製造コストを下げる。
【解決手段】
船体の没水部の両側から回動軸を中心に回動可能な減揺板を突出させた船舶の減揺兼制動装置であり、減揺板の先端を船体の最大船幅内に納めるとともに、これにおいて、減揺板の先端が取付け位置における船体の最大幅内に納まったものである船舶の減揺兼制動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波浪等の外乱で船体が揺れるのを防止するとともに、制動機能も併せもつ船舶の減揺兼制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船体の揺れの主なものには、ピッチング(縦揺れ)とローリング(横揺れ)とがあるが、いずれの場合も、乗組員の環境悪化、積荷の荷崩れにつながる。特に、ローリングを激しく受けた場合、海水の打込みが生じ、船体の復元性を低下させて転覆の危険がある。また、保針性を低下させて、燃料の無駄、到着時刻の遅延といった事態を起こす。
【0003】
このため、何らかの減揺装置(スタビライザー等)を装備しているものもあるが、下記の特許文献1には、船体の没水部の両側に、取付軸を回転することでこれを中心に回動するフィン(減揺板)を突出させ、この減揺板を回動させて揚力を発生させて船体の揺れを抑えるものが提案されている。また、特許文献2には、減揺板にフラップ(副減揺板)を付設して高揚力を発生させるものが提案されている。
【特許文献1】特開昭61−261185号公報
【特許文献2】特開平06−122394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、格納式又は非格納式の減揺板を船首と船尾に取り付ける旨が記載されているが、非格納式のものを採用した場合、接岸時にこの減揺板をどうするかについては触れていない。船首及び船尾は船幅が狭くなっていることから、減揺板が最大船幅からはみ出ていると、接岸時に減揺板を破損させる。これを避けるには、船体を岸壁に直付けしないことであるが、そうすると、操船が難しくなる上に荷役にも障害を来す。一方、特許文献2では、複葉式の減揺板を取り付けたものが従来例として存在する旨が記載されているが、上記と同様、離接岸時にこの減揺板をどうするかについては触れられていない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、減揺板の突出量を最大船幅内に納めることで、さらに好適には、減揺板の取付け位置における最大船幅内に納めることで、減揺板を非格納式にできて製造コストの低減を図るとともに、接岸時に船体を岸壁に直付けできるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、船体の没水部の両側から回動軸を中心に回動可能な減揺板を突出させた船舶の減揺兼制動装置であり、減揺板の先端を船体の最大船幅内に納めたことを特徴とする船舶の減揺兼制動装置を提供するとともに、これにおいて、請求項2に記載した、減揺板の先端が取付け位置における船体の最大幅内に納まったものである手段を提供したものである。
【発明の効果】
【0007】
減揺板の先端を船体の船幅内に納めておくと、船体を岸壁に直付けしたとしても、減揺板は破損を免れる。また、減揺板の先端が取付け位置における船体の最大幅内に納まっておれば、岸壁の縁線と船軸とが傾いて当該取付け位置が岸壁に接触している場合であっても、減揺板の保護が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は減揺板を取り付けた船舶の平面図、図2は側面図、図3は後面図であるが、本発明では、船体1の没水部の両側において、船体1から突出する回動軸2に減揺板3を取り付けたものである。この減揺板3は、矩形をした板状のもので、船舶の舵に似たものである。そして、本発明では、この減揺板3を取り付けた場合、その先端が船体1の最大船幅D内に納まっているのである。
【0009】
一般に、船体1を平面視で見ると、船長の真ん中部分で最大船幅をとり、船尾及び船首側に行くほど船幅は狭くなっている。また、後面視(又は前面視)で見ると、甲板部分で最大船幅となり、船底側に行くほど船幅は狭くなっている(図3の鎖線は、減揺板3を取り付ける船高方向の位置の外郭ライン)。減揺板3は、没水部に取り付けられるのであれば、どの位置であってもよいが、その先端が最大船幅D内に納まることが条件であるから、上方投影面内では、船幅が狭くなっている部分であり、かつ、後方投影面内でも、船幅が狭くなっている部分ということになる。
【0010】
この場合の減揺板3の突出量は、ある程度のものが確保される必要があるから、取付けの好適な位置は、船尾又は船首側で船底近くの個所ということになる。中でも、好ましいのは、後記する理由から船尾側ということになる。具体的には、船尾から船長の0〜1/3程度、さらに、好ましいのは、1/20〜3/20程度であろう。回動軸2は回転させられるものであるから、その駆動機構の構成上、突出個所の船体1の表面に直角に突出することになる。すなわち、平面視ではやや後方に向き(船尾側に取り付けた場合)、後面視では下向きになる(図3)。
【0011】
減揺板3の先端は、最大船幅D内に納まることが条件であることは上述したが、取付け位置が船長方向では、船尾側に取り付けられること、船高方向では、船底側に取り付けられることが好ましいことから、さらに、減揺板3の先端は、その取付け位置における最大船幅D1 であることが望ましい。なお、左右の減揺板3の船長方向の取付け位置は、同じ位置であることが望ましい。
【0012】
船舶が接岸するとき、船軸は岸壁の縁線と平行にして着岸する。したがって、減揺板3の先端が船体1の最大船幅D内に納まっておれば、減揺板3が岸壁に干渉して破損する事態は防がれる。このため、減揺板3を船体1内に格納する必要はなく、その分、構造も簡単で、コストも安くなる。
【0013】
ところで、この着岸のとき、船幅の狭くなっている船尾又は船首側は、船体と岸壁との間に隙間が生ずる。そこで、何らかの原因で船軸と岸壁の縁線との平行が崩れて隙間の存在する船体1の部分が岸壁に対して直接着岸するときがある。そこで、上記の条件に加えて、減揺板3の先端が取付け位置における船体1の最大幅D1 内に納まっておれば、上記のような着岸状態になったとしても、減揺板3の保護が図れる。
【0014】
減揺板3は、回動軸2を回転させると回動し、その回動方向に応じて揚力を上方又は下方に発生させる。このため、船体の揺れ状態に対応して、回動軸2を回転させることになる。例えば、ローリングを減揺させようとすれば、左右の減揺板3を逆位相で回動させて、浮き上がる側は下方に揚力を発生させ、沈み込む側は上方に揚力を発生させることになる。なお、揺れがない状態のときには、減揺板3は進行方向に平行に向けて、最小限の抵抗となるようにしている。
【0015】
また、ピッチングを減揺させようとすれば、左右の減揺板3を同位相で回動させて、取付け位置が浮き上がるタイミングでは下方に揚力を発生させ、沈み込むタイミングでは上方に揚力を発生させる。ところで、これら実際の揺れにおいては、これらが合成されたものであるから、この揺れを揺れセンサーで検出し、コンピュータ等の制御によって最適な減揺機能を発生させることになる。
【0016】
さらに、この減揺板3は、緊急停止等が要求されるときの制動装置ともなる。具体的には、緊急停止等の必要が生じたときに、左右の減揺板3を同じタイミングで回動させて下方に揚力を発生させる。すると、船尾側が沈み込んで船首側が浮いた立ち姿勢となってトリムを発生させ、船底が一種の抵抗体となって大きな制動力を得ることができる。ただし、船首に大きなバルバスバウが設けられているような場合は、反対に船首側を下げるのが効果的になる。
【0017】
図4は減揺板3の一例を示す一部断面平面図、図5は図4のA矢視図であるが、本例では、減揺板3の上部に板頭盤4を設け、この板頭盤4の下面を船体1面と面一にして船体1内に引き込み、その下面を船体1面と面一にして船体1に設けたケーシング5でベアリング6によって回転自在に吊支している。そして、回動軸2は船体1内に延ばされ、駆動原からの駆動力を駆動機器7によって駆動(回転)させられるようになっている。
【0018】
ところで、本例では、減揺板3として、回動軸2に固定される主減揺板3aと、主減揺板3aの後部にヒンジ軸8で回動可能に連結される副減揺板3bからなる複葉式のものを用いている。この場合、板頭盤4上方の船体1内において、回動軸2とヒンジ軸8との間にケーシング5から延ばされるブラケット9等で支持されるリンク軸10を位置固定的に設け、ヒンジ軸8にリンク軸10を挿通する長孔11を形成したリンク12を固定したリンク機構を設けている。
【0019】
このように、駆動機構及びリンク機構を船体1内に引き込んだのは、これらが推進抵抗にならないようにしたためと錆等を発生させないようにしたためである。特に、複葉式のものは、リンク機構を必要とするから、これを船体1内に引き込む効果は大きい。
【0020】
以上の複葉式のものによると、回動軸2を回転させて主減揺板3aをαの角度で回動させると、リンク7はリンク軸5に常に向くことから、副減揺板3b(ヒンジ軸4に固定されている)は、更にβの角度で回動する。すなわち、回動角が増強する構造のもので、非常に高揚力が出せるのが特徴である。なお、副減揺板3bは、主減揺板3aの前方に取り付けてもよいし、場合によっては、前後両方に取り付けてもよい。
【0021】
図6は減揺板3の他の例を示す一部断面平面図であるが、減揺板3は、このように主減揺板3aの単葉式のものであってもよい。これによると、リンク機構を必要としないから、構造が簡単になってコストが安くなる利点がある。なお、この場合も、上記と同様、駆動機構等は船体1内に引き込む。
【0022】
図7は減揺板3の更に他の例を示す平面図であるが、本例のものは、主減揺板3aと副減揺板3bとからなる複葉式のものである点は変わらないが、主減揺板3aを船体1に溶接等で固定したものである。そして、ヒンジ軸8を船体1内に引き込み、この中で駆動機器7を駆動して副減揺板3bのみが回動できるようにしたものである。これによると、揚力はやや低くなるが、リンク機構等を必要としないから、製造コストが安くなる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一例を示す船体の平面図である。
【図2】本発明の一例を示す船体の側面図である。
【図3】本発明の一例を示す船体の後面図である。
【図4】本発明の一例を示す減揺板とその駆動機構を示す一部断面平面図である。
【図5】図4のA矢視図である。
【図6】本発明の一例を示す減揺板とその駆動機構を示す一部断面平面図である。
【図7】本発明の更に他の例を示す減揺板の平面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 船体
2 回動軸
3 減揺板
3a 主減揺板
3b 副減揺板
4 板頭盤
5 ケーシング
6 ベアリング
7 駆動機器
8 ヒンジ軸
9 ブラケット
10 リンク軸
11 長孔
12 リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の没水部の両側から回動軸を中心に回動可能な減揺板を突出させた船舶の減揺兼制動装置であり、減揺板の先端を船体の最大船幅内に納めたことを特徴とする船舶の減揺兼制動装置。
【請求項2】
減揺板の先端が取付け位置における船体の最大幅内に納まったものである請求項1の船舶の減揺兼制動装置。
【請求項3】
減揺板が船尾側で、船長の後部から0〜1/3の位置に取り付けられる請求項1又は2の船舶の減揺兼制動装置。
【請求項4】
減揺板が回動軸に固定される主減揺板と、主減揺板に対してリンク機構によって連動して回動する副減揺板からなる複葉式のものであるとともに、リンク機構が船体内に設けられるものである請求項1〜3いずれか1項の船舶の減揺兼制動装置。
【請求項5】
減揺板が主減揺板と、主減揺板に対してヒンジ軸で連結される副減揺板とからなる複葉式のもので、主減揺板を船体に固定し、ヒンジ軸を回動させて副減揺板のみを回動させるものである請求項1〜3いずれか1項の船舶の減揺兼制動装置。
【請求項6】
減揺板が回動軸に固定される主減揺板の単葉式のものであり、回動機構が船体内に設けられるものである請求項1〜3いずれか1項の船舶の減揺兼制動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−111193(P2006−111193A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302554(P2004−302554)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(504387551)平安海運株式会社 (4)
【出願人】(000110424)ナカシマエンジニアリング株式会社 (1)