説明

船舶用プロペラ

【課題】キャビテーションに基づくエロージョンが発生し易い個所にコストの安いエロージョン対策として耐エロージョン材を取り付けた船舶用プロペラを提供する。
【解決手段】ボス2の外周に複数のブレード3を径方向に突設した船舶用プロペラ1において、ブレード3が位置するボス2の外周に根部を抜出不能に埋めて耐エロージョン材5をある程度径方向に突出させ、耐エロージョン材5からブレード3の根部を耐エロージョン材5の中に取り込んで抜出不能に突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビテーションによるエロージョン対策を施した船舶用プロペラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶用のプロペラ(以下、プロペラ)にはキャビテーションが起こることが知られており、キャビテーションによる気泡がブレードの表面で崩壊すると、その衝撃でブレードの表面に傷が付く。これがエロージョン(壊食)と称されるもので、エロージョンが進行すると、ブレードが穿孔したり、破損したりしてプロペラの推進能率を下げたり、振動や騒音の原因となる。このため、プロペラのピッチやブレードの輪郭及び断面形状を半径方向に適宜に変更してキャビテーションが起こり難いものにしたりしているが、完全には防止できない。
【0003】
キャビテーションに基づくエロージョンは、多くは、周速の大きい先端付近に起こるが、小型船舶のプロペラではプロペラシャフトの傾斜角が大きいために水流の乱れが大きく、ブレードのルート部にも発生することがある(ルートエロージョン)。また、エロージョンの発生の原因となるキャビテーションはブレードと水流との相対速度に対応しており、この点で、エロージョンが発生する面は水流の流れが早いバック面(船首側から見えるブレードの面)に多いが、乱れが大きい場合にはフェース面(船尾側から見えるブレードの面)にも発生することがある。
【0004】
このため、下記特許文献1にはブレードの根元部に銅合金等の金属製のボスとそれに続く取付部を設け、この取付部に繊維強化樹脂を取り付けたものが示されている。また、下記特許文献2にはブレード全体を径(周速)によってそれぞれ求められる複合資材とし、これをボスに嵌合するものが示されている。しかし、これらに共通することは、軽量化と強度向上であって、耐エロージョン性を高めるものではない。また、これによると、ボスの加工が非常に複雑になるといったことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−029268号公報
【特許文献2】特開2009−286284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐エロージョン性を第一義とし、耐エロージョン性が高い部材をエロージョンが発生し易い個所に交換可能に取り付けることでエロージョンを発生し難くするとともに、発生した場合でも、当該部材のみを交換することができるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周に根部を抜出不能に埋めて耐エロージョン材をある程度径方向に突出させ、耐エロージョン材からブレードの根部を耐エロージョン材の中に取り込んで抜出不能に突出させたことを特徴とする船舶用プロペラ、請求項2に記載した、ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周に根部を抜出不能に埋めて耐エロージョン材をある程度径方向に突出させるとともに、ブレードの根部を耐エロージョン材の根部と合わせて耐エロージョン材で覆って抜出不能に突出させたことを特徴とする船舶用プロペラを提供したものである。
【0008】
また、本発明は、請求項3に記載した、ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周に根部を抜出不能に埋めてブレードを突出させるとともに、ブレードのルート部にブレードを覆って耐エロージョン材をブレード又は/及びボスに取り付けたことを特徴とする船舶用プロペラ、請求項4に記載した、ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周をやや盛り上げるとともに、ボスを耐エロージョン材で構成し、耐エロージョン材からブレードの根部を耐エロージョン材の中に取り込んで抜出不能に突出させたことを特徴とする船舶用プロペラを提供する。
【0009】
さらに、これらの耐エロージョン材の取付けの部位や方法として、請求項5に記載した、耐エロージョン材が取り付けられるブレードのルート部がブレードのバック面又はバック面とフェース面である手段、請求項6に記載した、ブレード又はボスに対する耐エロージョン材の固定が凹凸嵌合、接着、ビス止め、ピン止めのいずれか又は複合したものである手段を提供する。
【0010】
加えて、本発明は、請求項7に記載した、ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードの先端側までを強化樹脂材とするとともに、先端側から先端までを樹脂系又は金属系の耐エロージョン性を有する先端ブレードで接合したことを特徴とする船舶用プロペラを提供するとともに、これにおいて、請求項8に記載した、接合を差込み、皿ビス止め、ピン止めのいずれか又は複合したものである手段、請求項9に記載した、先端ブレードをブレードを覆うカバーとし、カバーとブレードをピン止めした手段を提供する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜4の発明によると、ルートエロージョンに対してはブレードのルート部にブレードを覆うようにして耐エロージョン材を取り付けたことにより、エロージョンが発生し難く、エロージョンに対して耐久性に優れたものになる。また、エロージョンが発生すると、耐エロージョン材のみを交換すればよいから、交換の手間やコストを抑えることができる。請求項7の発明によると、特に、多く発生するブレードの先端部分のエロージョンに対しても同様な効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る船舶用プロペラの側面図である。
【図2】本発明に係る船舶用プロペラの正面図である。
【図3】本発明に係る船舶用プロペラの他の例の背面側断面図である。
【図4】本発明に係る船舶用プロペラの他の例の背面側断面図である。
【図5】本発明に係る船舶用プロペラの他の例の背面側断面図である。
【図6】本発明に係る船舶用プロペラの他の例の正面図である。
【図7】本発明に係る船舶用プロペラの側面図である。
【図8】本発明に係る船舶用プロペラの他の例の背面図である。
【図9】図7のA断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、図1はプロペラの側面図であり、プロペラ1は周知のようにボス2の周囲に複数のブレード3が突設されたものである(4はボス2の後端に取り付けられるキャップ)。これにおいて、ブレード3は3〜6枚程度設けられており、それぞれのブレード3は所定のねじり角に設定されている。本例では、ボス2はアルミ青銅等で構成され、ブレード3は軽量と高強度のFRP等の繊維強化樹脂で構成されているものを示している。
【0014】
本発明は、ルートエロージョン対策として、ブレード3のルート部に耐エロージョン材5を取り付けるのである。耐エロージョン材5としては、ステンレスやチタン或いは超高分子量ポリエチレン等の強化樹脂といった素材そのものが耐エロージョン性を有するものや、基材の表面に炭化クロームやセラミックといった耐エロージョン性を有する部材をコーティング等する表面処理を施したものが考えられる。
【0015】
図2に示すものはその一例であるが、本例のものは、ブレード3が位置するボス2の外周に耐エロージョン材5の根部を抜出不能に埋めてある程度径方向に突出させ、耐エロージョン材5からブレード3の同じく根部を耐エロージョン材5の中に取り込んで抜出不能に突出させている。具体例として、ボス2の外周に径大側が狭くなった凹溝6を形成し、耐エロージョン材5の基端を凹溝6と同じ形状の凸部7としてこれを根部とし、凹溝6と凸部7を緊く凹凸嵌合している。なお、ブレード3には捩じりがあるが、凹溝6や凸部7をこれと同じ捩じりにしておけば、後方から挿入することができる。
【0016】
さらに、本例では、耐エロージョン材5の外端付近に径大側が狭くなった楔溝8を形成し、この楔溝8に同じ形状の楔部9を根部として有するブレード3を緊く凹凸嵌合している。これにより、耐エロージョン材5はボス2から、ブレード3は耐エロージョン材5から径方向にそれぞれ抜出が不能になり、特別の固定を要しないが、後述するような固定策と併用してもよい。
【0017】
図3に示すものは他の例であるが、本例のものは、ボス2の外周に凹溝6を形成する点は同じであるが、これに嵌合される耐エロージョン材5とブレード3の根部を合わせたものを凸部7とし、これらを合わせて凹溝6に抜出ができないように緊嵌したものである。この場合でも、耐エロージョン材5を外側に位置させてブレード3を覆うのはもちろんである。
【0018】
ところで、本例では、表面の曲面長の違いによって水流の流れが早くてエロージョンが発生し易いブレード3のバック面3aのみに耐エロージョン材5を取り付けているが、水流の乱れが大きい場合や高速回転等によってフェース面3bの水流の流速の絶対値が高い場合であって、フェース面3bにもエロージョンの発生が予測されるときには、図4に示すようにバック面3aとフェース面3bの両方に取り付けることがある。この場合は、ブレード3の根部も太くして耐エロージョン材5から抜出ができないようにしておく必要がある。
【0019】
図5に示すものも他の例であるが、本例のものは、ブレード3の根部を上記の形状の凸部7として凹溝6に緊嵌している。そして、ブレード3のルート部に径方向にある程度の長さを有する耐エロージョン材5を取り付けている。この取付けは、ブレード3に取り付けてもよいし、ボス2に取り付けてもよく、場合によっては両者3、2に亘って取り付けてもよい。取付けの具体例としては、接着剤による接着、ビスやピンによる固定、ブレード3自体に凹凸嵌合することが考えられる。なお、本例のものも、耐エロージョン材5はバック面3aとフェース面3bの両面に取り付けているものを示している。
【0020】
図6に示すものも他の例を示すものであるが、本例のものは、ブレード3が位置するボス2の外周を盛り上げ(ボス2の必要な厚みを確保するため)、ここに楔溝8を形成するとともに、ブレード3の根部を楔部9として両者を緊く凹凸嵌合しているものである(これにより、抜出が不能になる)。ところで、以上のいずれの例においても、耐エロージョン材5とブレード3の表面は滑らかに変化するもの(段差等がない)であるのはいうまでもない。また、凹凸嵌合の他に接着やビス止めを加えてもよい(これによると、凹溝7や凸部7の根部を必ずしも太くする必要はない)。
【0021】
さらに、本発明は、図7及び図8に示すように、以上の構成に加えて或いは独立してブレード3の先端付近までをFRP樹脂等の強化樹脂で構成するとともに、ここから先端までを上記した樹脂系又は金属系の耐エロージョン材5からなる先端ブレード10で接合するのである。このため、接合構造を必要とするが、これには図9(a)〜(d)に示されるものが考えられる。具体的には、ブレード3の接合部を薄い凸部11にするとともに、先端ブレード10をこれに嵌め込まれる凹部12にし(合計の厚みはブレード3の接合部分の厚みと同じにする)、両者を凹凸嵌合するのである(a)。
【0022】
この場合、凸部11と凹部12とを抜け外れることのない、入れ子式や段差を付けて後端から挿入すれば、遠心力による先端ブレード10の抜け外れを防止できる。また、重合部を接着剤等で接着してもよいし、交換の際の便を考慮してボルト、ピン、リベット等の固定具13で固定する(c)ことも考えられる。
【0023】
さらに、凸部11と凹部12に代えて接合部を互いに接面する薄肉部14、15とし(両者を合わせた厚みは接合部の厚みと同じにする)、この重合部を上記した固定具13で固定するものも考えられる(b)。ただし、表面の平滑化のために固定具13は埋め込む必要がある。この他、先端フレード10を薄いカバー状のものとし、これをブレード3の先端部分に被せ、固定具13で止めることも考えられる(d)。この場合でも、固定具13を表面に出さないのは上記と同じである。
【符号の説明】
【0024】
1 船舶用プロペラ
2 ボス
3 ブレード
3a 〃 のバック面
3b 〃 のフェース面
4 キャップ
5 耐エロージョン材
6 凹溝
7 凸部
8 楔溝
9 楔部
10 先端ブレード
11 凸部
12 凹部
13 固定具
14 薄肉部
15 薄肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周に根部を抜出不能に埋めて耐エロージョン材をある程度径方向に突出させ、耐エロージョン材からブレードの根部を耐エロージョン材の中に取り込んで抜出不能に突出させたことを特徴とする船舶用プロペラ。
【請求項2】
ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周に根部を抜出不能に埋めて耐エロージョン材をある程度径方向に突出させるとともに、ブレードの根部を耐エロージョン材の根部と合わせて耐エロージョン材で覆って抜出不能に突出させたことを特徴とする船舶用プロペラ。
【請求項3】
ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周に根部を抜出不能に埋めてブレードを突出させるとともに、ブレードのルート部にブレードを覆って耐エロージョン材をブレード又は/及びボスに取り付けたことを特徴とする船舶用プロペラ。
【請求項4】
ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードが位置するボスの外周をやや盛り上げるとともに、ボスを耐エロージョン材で構成し、耐エロージョン材からブレードの根部を耐エロージョン材の中に取り込んで抜出不能に突出させたことを特徴とする船舶用プロペラ。
【請求項5】
耐エロージョン材が取り付けられるブレードのルート部がブレードのバック面又はバック面とフェース面である請求項1〜4の船舶用プロペラ。
【請求項6】
ブレード又はボスに対する耐エロージョン材の固定が凹凸嵌合、接着、ビス止め、ピン止めのいずれか又は複合したものである請求項1〜5いずれかの船舶用プロペラ。
【請求項7】
ボスの外周に複数のブレードを径方向に突設した船舶用プロペラにおいて、ブレードの先端側までを強化樹脂材とするとともに、先端側から先端までを樹脂系又は金属系の耐エロージョン性を有する先端ブレードで接合したことを特徴とする船舶用プロペラ。
【請求項8】
接合を差込み、皿ビス止め、ピン止めのいずれか又は複合したものである請求項7の船舶用プロペラ。
【請求項9】
先端ブレードをブレードを覆うカバーとし、カバーとブレードをピン止めした請求項7の船舶用プロペラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−66699(P2012−66699A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213160(P2010−213160)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000110435)ナカシマプロペラ株式会社 (33)