説明

色素細胞性疾患のモデル動物及びその用途

【課題】ヒト皮膚における色素沈着を再現したモデル動物を提供する。
【解決手段】活性化型RET遺伝子が遺伝子導入されており且つメラニン産生能を有するヘアレス齧歯類遺伝子改変動物を提供。皮膚への紫外線照射によって、表皮基底層でメラニン産生が亢進して一時的色素沈着が生じた後、該色素沈着からの回復を経て遅延性色素沈着が生ずる、遺伝子改変動物。遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、遅延性色素沈着の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子改変動物に関する。詳しくは、ヒトの色素沈着を再現する遺伝子改変動物及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線によって日焼けとともに生じる色素沈着(サンタン)や、肝斑をはじめとする自然回復が困難な色素沈着(シミ)は、美容上の大きな問題となっている(Torok,2006.)。例えば、現時点の肝斑の治療としては、トレチノイン、ステロイド、ハイドロキノン、トランサミン内服を組み合わせるのが一般的である(Sehgal et al., 2011)。しかし、再発の問題や、効果がでるまでに8週間から場合によっては1年を要するなど問題点も多く(Torok, 2006.)、治療法の改善が求められる。
【0003】
色素沈着の発症メカニズムは不明な点が多い。色素沈着の発症メカニズムが解明されれば、色素沈着に有効な薬剤(予防剤・改善剤)の開発が可能となる。本来であればヒトを対象(被験者)として薬剤開発を進めるべきところではあるが、安全性や被験者数の確保、個人差によるデータのばらつきなどの問題があり、ヒトを用いた薬剤開発は非現実的である。
【0004】
これまでに、皮膚の試験方法として、ヒト皮膚あるいはヒト皮膚培養三次元培養をヌードマウスに移植し、各種の評価を行う方法(特許文献1、非特許文献1)が報告されている。この方法はヒトの皮膚を用いて評価できるというメリットはあるものの、移植操作に多くの手間と時間を要する上、免疫応答等、非生理的な検査となることから、必ずしも薬剤スクリーニング系としては適当といえない。一方、ヘアレスマウス(HL-マウス)が紫外線により色素沈着を起こすことが報告されている(非特許文献2)。この報告によると、ヘアレスマウスに対して紫外線を1週間に3回の頻度で4週間に亘って照射すると遅延性のシミを発症する。つまり、遅延性のシミが現れるまでに、最初の紫外線照射から約28週をも必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−263980号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hachiya A et al., J Invest Dermatol. 125(2):364-72, 2005
【非特許文献2】Naganumaa M et al., J Dermatol Sci. 25(1):29-35, 2001
【非特許文献3】Kato et al., Oncogene 8(3):837-42, 1999
【非特許文献4】Panteleyev et al., Exp Dermatol. 7(5): 281-8, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、従来の試験方法は改善すべき大きな問題点を抱えるものであり、色素沈着の新たな試験系(評価系)の開発が切望される。そこで本発明は、色素沈着の試験系に利用できるモデル動物、即ち、ヒト皮膚における色素沈着を再現するモデル動物を提供することを課題とする。また、当該モデル動物の用途を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実用性を重視すれば、飼育が容易であり、繁殖性に優れ、更には遺伝的背景の均一性も高いこと等から齧歯類、中でもマウスを用いた試験系の構築が望まれる。しかしながら、ヒトとマウスの間では皮膚の特徴に顕著な差異がある。即ち、ヒトの表皮では常に一定のメラニン沈着が認められるのに対し(Imokawa, 2004)、通常マウスの表皮にはメラニンがほとんど存在しない(Kunisada et al.,1998)。そのため、色素沈着に関するメカニズムの解明や色素沈着に対する予防剤・治療剤の開発にマウスを用いることは事実上、不可能であった。このような状況下で本発明者らは、以前に報告したRet/o -トランスジェニックマウス(RET-マウス)(非特許文献3)に注目し、当該マウスとヘアレスマウスhr/hr(非特許文献4)を交配することにより、無毛で皮膚にメラニンを持つhr/hr;RET/o-トランスジェニックマウス(HL/RET-マウス)の開発に成功した。このトランスジェニックマウスが皮膚色素沈着のモデルになるとの期待の下、皮膚に紫外線を照射し、ヒト同様の色素沈着を再現するか否か検討した。その結果、驚くべきことに、紫外線照射後に一時的色素沈着(サンタン)が生じた後、色素沈着からの回復を経て遅延性色素沈着が生じた。即ち、ヒトの皮膚における色素沈着を良好に再現することが判明した。特筆すべきことは、僅か1回の紫外線照射によって遅延性色素沈着を生じたことであり、しかも遅延性色素沈着を認めるまでに約16週しか要しなかったことである。この特徴はヘアレスマウス(上掲の非特許文献2。高頻度且つ長期間の紫外線照射を必要とし、しかも遅延性色素沈着を認めるまでに約28週を要する)との間の決定的な違いであり、本マウスがヘアレスマウスよりも格段に優位且つ実用的であることを示す。
以上の通り、本発明者らは鋭意検討の末、極めて有用な色素沈着モデルの作製に成功した。主として当該成果に基づき、以下の発明が提供される。
[1]活性化型RET遺伝子が遺伝子導入されており、且つメラニン産生能を有するヘアレス齧歯類遺伝子改変動物。
[2]活性化型RET遺伝子が、c-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じた癌遺伝子RFP-RET遺伝子である、[1]に記載の遺伝子改変動物。
[3]活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーターに連結している、[1]又は[2]に記載の遺伝子改変動物。
[4]活性型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されている、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
[5]齧歯類がマウスである、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
[6]遺伝子型がhr/hr;Ret/oのマウスである、[4]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
[7]皮膚への紫外線照射によって、表皮基底層でメラニン産生が亢進して一時的色素沈着が生じた後、該色素沈着からの回復を経て遅延性色素沈着が生ずる、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
[8]色素沈着からの回復が、紫外線照射後1月前後に認められる、[7]に記載の遺伝子改変動物。
[9]192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、又は304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスとヘアレスマウスの交配によって得られ、皮膚への紫外線照射によって、一時的色素沈着と遅延性色素沈着が生ずる、[1]に記載の遺伝子改変動物。
[10]304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスとヘアレスマウスの交配によって得られ、メラノサイト系良性腫瘍およびメラノーマを発症する、[1]に記載の遺伝子改変動物。
[11]紫外線がUV-A及び/又はUV-Bである、[7]〜[9]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
[12]以下の(a)〜(c)のいずれかの方法からなる、色素沈着モデルマウスの作製方法:
(a)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されているRETトランスジェニックマウスと、遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスを交配して生まれたhr/+;RET/o-マウスを選抜した後、該hr/+;RET/o-マウスと遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスを交配して生まれたhr/hr;RET/o-マウスを選抜する;
(b)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されており、且つ遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスと、遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスを交配して生まれたhr/hr;RET/o-マウスを選抜する;
(c)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されており、且つ遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウス同士の交配によって生まれたhr/hr;RET/o-マウスを選抜する。
[13][1]〜[11]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、遅延性色素沈着の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法。
[14]以下のステップ(1)〜(3)を含んでなる、[13]に記載のスクリーニング方法:
(1)[1]〜[11]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ;
(2)ステップ(1)の前及び/又は後に、前記遺伝子改変動物に被験物質を投与するステップ;
(3)前記遺伝子改変動物が発症する遅延性色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
[15]ステップ(3)における評価が、遅延性色素沈着が生ずるまでの時間、遅延性色素沈着のサイズ、遅延性色素沈着部位の皮膚色、色彩色差計のL*a*b*の値、皮膚メラニン量、皮膚メラノサイトの量、皮膚メラノファージの量、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化、及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間からなる群より選択される一以上の項目についての評価である、[14]に記載のスクリーニング方法。
[16]ステップ(1)の後であって且つ遅延性色素沈着を認めた後にステップ(2)を実施し、
ステップ(3)における評価が、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間からなる群より選択される一以上の項目についての評価である、[14]に記載のスクリーニング方法。
[17]遅延性色素沈着が肝斑、雀卵斑又は日光黒子である、[14]〜[16]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[18][1]〜[11]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、一時的色素沈着の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法。
[19]以下のステップ(1)〜(3)を含んでなる、[18]に記載のスクリーニング方法:
(1)[1]〜[11]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ;
(2)ステップ(1)の前及び/又は後に、前記遺伝子改変動物に被験物質を投与するステップ;
(3)前記遺伝子改変動物が発症する一時的色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
[20][1]〜[11]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、一時的色素沈着又は遅延性色素沈着の発症又は進展機構の解析方法。
[21]以下のステップ(1)及び(2)を含んでなる、[20]に記載の解析方法:
(1)[1]〜[11]のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ:
(2)紫外線照射部位の皮膚組織を試料として、遺伝子発現・活性解析、形態学的解析、生化学的解析、分子生物学的解析、細胞生物学的解析、生理学的解析からなる群より選択される一以上の解析を行うステップ。
[22]同一の個体において紫外線照射部位と紫外線非照射部位との間の比較解析をステップ(2)で行う、[21]に記載の解析方法。
[23]紫外線照射前の皮膚組織を採取しておき、該皮膚組織と、紫外線照射後に採取した前記皮膚組織との間の比較解析をステップ(2)で行う、[21]に記載の解析方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】紫外線照射前の比較解析(代表例として、242系統RETマウスとHL-マウスの交配で得られたHL/RET-マウスの結果を示す)。a: HL-マウスおよびHL/RET-マウスの外観。b: 皮膚の色を色彩色差計で測定した結果。c,d: HL-マウスおよびHL/RET-マウスの皮膚組織切片像(cはHE染色、dはメラニンを特異的に染めるフォンタナマッソン染色)。e: WinROOF解析ソフトによる染色結果(d)の数値化。** 有意差あり(P<0.01、Unpaired-T-testによる)
【図2】紫外線照射後の比較解析(代表例として、242系統RETマウスとHL-マウスの交配で得られたHL/RET-マウスの結果を示す)。a: HL-マウスおよびHL/RET-マウスの左背側に1MEDにあたるUVB(45mJ/cm2)を照射し、5日後の肉眼所見。b: UVB非照射部に対する照射部のL*相対値。c: UVB照射後5日目の皮膚におけるフォンタナマッソン染色。d: 画像解析ソフト(WinROOF)を用いたメラニンの定量化。* 有意差あり(P<0.5、Unpaired-T-testによる)、** 有意差あり(P<0.01、Unpaired-T-testによる)、n.s. 有意差なし
【図3】紫外線照射後の色素沈着の経過(代表例として、242系統RETマウスとHL-マウスの交配で得られたHL/RET-マウスの結果を示す)。a: UVB照射後、45日間の非照射部に対する照射部のL*値の相対比の推移。b: 紫外線照射から45日後のマウス。c: 紫外線照射から45日目の皮膚におけるフォンタナマッソン染色。d: メラニン量の数値化。* 有意差あり(P<0.5、Unpaired-T-testによる)、** 有意差あり(P<0.01、Unpaired-T-testによる)
【図4】紫外線照射約4ヶ月後の比較解析(代表例として、242系統RETマウスとHL-マウスの交配で得られたHL/RET-マウスの結果を示す)。a: 紫外線照射から約4ヶ月後、一度サンタンの回復が観察された領域に、再び観察された遅延性の色素沈着。b: 紫外線照射から約4ヶ月目の皮膚におけるフォンタナマッソン染色。c:メラニン量の数値化。** 有意差あり(P<0.01、Unpaired-T-testによる)
【図5】hr/hr;Ret/O-マウス304系の表現型。a: 皮膚に発症する腫瘍のサイズの変化。b〜d: 各ステージのhr/hr;Ret/O-マウス304系。
【図6】hr/hr;Ret/O-マウス304系における原発性腫瘍と転移性腫瘍。原発性皮膚良性メラノサイト系腫瘍(a-c)、原発性皮膚メラノーマ(d-f)、リンパ節転(g-i)、肺転移(j-l)における組織病理学的所見。HE染色(a, c, d, f, g, i, j, l)、抗S100抗体による免疫組織染色(b, e, h, k)での組織所見が示されている。(a-c)バーは100μm(a, b, d, e, g, h, j, k)と25μm(c, f, i, l)。リンパ節および肺におけるS100陽性細胞は、メラノーマの転移である。
【図7】hr/hr;Ret/O-マウス304系(HL-RET-マウス)とオリジナルのマウス(RET-マウス)との転移率の比較。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.遺伝子改変動物
本発明の第1の局面は齧歯類遺伝子改変動物に関する。本発明の遺伝子改変動物は、ヒトの皮膚に生ずる一時的色素沈着(サンタン)及び遅延性色素沈着(シミ)を再現可能であり、ヒト色素沈着のモデルとして有用である。例えば、後述の通り、遅延性色素沈着の予防や治療に有効な薬剤・医薬の開発用ツール、或いは遅延性色素沈着の形成メカニズムの解析ないし研究用ツールとして、本発明の遺伝子改変動物を利用可能である。
【0011】
本発明の遺伝子改変動物の第1の特徴は、活性化型RET遺伝子が遺伝子導入されていることである。好ましい一態様では、活性化型RET遺伝子はヘテロ型に遺伝子導入されている。活性化型RET遺伝子の種類は限定されないが、好ましい一例として、RFP遺伝子と活性化型RET遺伝子のハイブリッドであるRFP-RETを挙げることができる。活性化型RET遺伝子は、例えばメタロチオネインIプロモーター等の適宜なプロモーターの下流に連結されて遺伝子導入されている。活性化型RET遺伝子の具体例(塩基配列)を配列表の配列番号1に示す。
【0012】
本発明の遺伝子改変動物の第2の特徴はヘアレス(体毛が欠落する)という表現型を示すことである。換言すれば、本発明の遺伝子改変動物はヘアレス個体の遺伝型を有する。但し、後述の通り、本発明の遺伝子改変動物は紫外線照射によって皮膚に色素沈着を生ずるものであり、メラニン産生能を有する。つまり、本発明の遺伝子改変動物は表皮にメラニンをもつ。
【0013】
本発明の遺伝子改変動物は、ヒトの皮膚における色素沈着を再現する。即ち、皮膚への紫外線照射(例えば、UV-A、UV-B、又はこれら両方)。によって、表皮基底層でメラニン産生が亢進して一時的色素沈着が生じた後、当該色素沈着からの回復を経て遅延性色素沈着が生ずる。実施例の欄に示した具体例(hr/hr;RET/o-トランスジェニックマウス)においては、紫外線照射後5日〜10日にかけて一時的色素沈着が生じ、色素沈着からの回復が紫外線照射後1月前後に認められる。ここで、「遅延性色素沈着」とは、紫外線照射直後から数日後に生ずる日光皮膚炎(サンバーン)及び一時的色素沈着(サンタン)とは対照的に、紫外線照射から相当な期間経過した後(典型的には数ヶ月後〜数年後)に生ずる色素沈着(シミ)であり、肝斑、雀卵斑及び日光黒子を含む。
【0014】
「肝斑」とは、左右対称に生ずることが特徴的な淡褐色の色素斑(シミ)であり、30代から40代の女性に多く認められる。また、黄色人種に多いことも特徴の一つである。メラノサイトの活性化型に伴うメラニン色素が過剰生産によって肝斑が生ずると考えられているが、詳しい発症メカニズムは不明である。
【0015】
「雀卵斑」とは、別名「そばかす」と呼ばれる、直径2〜3ミリの褐色の色素斑(シミ)であり、顔に多く生ずる。遺伝背景に加え、紫外線、女性ホルモンの変化、ストレスなども原因とされる。
【0016】
「日光黒子」とは、別名「老人性色素斑」とも呼ばれる色素斑(シミ)である。日光黒子は40代以降に多く見られる。紫外線が主な原因であり、皮膚の老化現象の一つとして捉えられている。数ミリ程度の小さなもの(小斑型)と数センチほどの大きなもの(大斑型)に大別される。疣状に隆起し、脂漏性角化症(老人性のいぼ)に進展することがある。
【0017】
齧歯類は特に限定されず、マウス、ラット、モルモット、ハムスター及びウサギを含む。好ましくはマウスである。
【0018】
本発明の遺伝子改変動物は例えば交配によって作製することができる。当該作製法では、齧歯類に活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRETトランスジェニック動物と、同種の齧歯類であるヘアレス個体とを用意し、これらを交配させれば良い。RETトランスジェニック動物として、c-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じた癌遺伝子RFP-RET遺伝子を活性化型RET遺伝子として保有するものを用いることが好ましい。また、活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーター(MT)に連結していることが好ましい。RETトランスジェニック動物の具体例は192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス (Kato et al.,1999; Iwamoto et al.,1991)、及び304系統RET/o-トランスジェニックマウスに対してC57BL/6マウスを交配して得られた304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウス(Kato et al,.1998)である。好ましくは、242系統を用いる。尚、RETトラスジェニックマウスの凍結受精卵及び凍結精子は国立大学法人熊本大学の生命資源研究・支援センター(CARD)、および、独立行政法人理化学研究所の理研バイオリソースセンター(筑波)に保存されている。
【0019】
ヘアレス個体には、メラニン産生能のあるものを用いる。当該特徴を備えるヘアレス個体の例として、ヘアレスマウスであるHos:HRM、Hos:HRM-2及びHR/DeF1(いずれも星野試験動物飼育所から入手可能である)等を挙げることができる。
【0020】
RETトランスジェニックマウスとヘアレスマウスを用いる場合を例として、交配方法を説明する。
(交配方法1)
hr/hr-マウスとRET/o-マウスを交配し、第一世代としてhr/+;RET/o-マウスを作製する。
(交配方法2)
第一世代のhr/+;RET/o-マウスとhr/hr-マウスを交配し、第二世代として本発明の遺伝子改変動物に該当するhr/hr; RET/o-マウスを得る。このhr/hr; RET/o-マウスが生まれる確率は1/4である。
(交配方法3)
一度、交配方法1又は2によってhr/hr; RET/o-マウスを作製すれば、次に示すいずれかの交配を1回行うだけでhr/hr; RET/o-マウスをルーティンに繁殖させる事ができる。
(1) hr/hr;RET/o-マウスとhr/hr-マウスの交配。この場合、1/2の確率でhr/hr; RET/o-マウスが得られる。
(2) hr/hr; RET/o-マウス同士の交配。この場合も1/2の確率でhr/hr; RET/o-マウスが得られる。
【0021】
活性化型RET遺伝子及び/又はヘアレス変異遺伝子のノックインによって、或いはクローン技術を用いて本発明の遺伝子改変動物を作製することも可能である。
【0022】
2.遺伝子改変動物の用途
本発明の第2の局面は上述の遺伝子改変動物の用途に関する。第1の用途として遅延性色素沈着(肝斑、雀卵斑、日光黒子等)の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法が提供される。本発明のスクリーニング法は以下のステップ(1)〜(3)を含む。
(1)本発明の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ
(2)ステップ(1)の前及び/又は後に、前記遺伝子改変動物に被験物質を投与するステップ
(3)前記遺伝子改変動物が発症する遅延性色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ
【0023】
ステップ(1)では、本発明の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射する。紫外線照射の回数は特に制限はないが、本発明の遺伝子改変動物は少量の紫外線照射(典型的には1回)によっても遅延性色素沈着を発症可能であり、操作の簡便化のためには紫外線照射の回数は少ない方がよい。この点は、過去の報告にあるHL-マウス(非特許文献2)との顕著且つ決定的な差異であり、本発明のスクリーニング系によれば非常に効率的に有効物質を見出すことが可能になる。
【0024】
紫外線にはUV-A(波長315nm〜380nm)又はUV-B(波長280nm〜315nm)を用いる。UV-AもUV-Bも皮膚の黒化を引き起こす。UV-Aは既存のメラニンを酸化させる事で即時的な黒化を引き起こし、UVBはメラニン産生量を上昇させる(Miyamura, et al., 2011.)。そのため、UVAとUVBを併用することにしてもよい。例えば、複数回の紫外線照射を行う場合に一部についてUV-Aを採用し、残りについてUV-Bを採用するような照射態様も可能である。また、UVAとUVBを同時に照射することにしてもよい。
【0025】
紫外線の照射量は、使用する遺伝子改変動物に特徴的な症状、即ち、遅延性の色素沈着を発症させることが可能な限りにおいて特に限定されないが、照射総量を例えば5mJ/cm2〜420,000mJ/cm2(Kato et al., 2007)、好ましくは45mJ/cm2〜135mJ/cm2とする。照射部位は特に限定されないが、好ましくは、背中など、評価の際に観察や測定し易い部位を採用するとよい。尚、紫外線の照射には市販の紫外線照射装置(例えば、FL20S.E-30/DMR(東芝医療用品株式会社)、東芝デルマレイMDMR-100(東芝)等)を用いることができる。
【0026】
ステップ(2)では、紫外線照射を受ける遺伝子改変動物(即ち、本発明の遺伝子改変動物)に被験物質を投与する。この投与はステップ(1)の前又は後に行われる。被験物質の投与をステップ(1)の前と後の両方で行うことにしてもよい。紫外線照射前から照射後にわたって投与し続けることにしてもよい。被験物質の投与方法(投与経路)は特に限定されない。例えば、被験物質又はそれを含む組成物(溶液など)を用意し、これを投与する。投与方法として皮膚への塗布、皮膚内、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内又は腹腔内注射、噴霧投与、経鼻投与、経気管投与を例示することができる。被験物質を含む餌又は飲料水を用意し、これを摂取させることにしてもよい(経口投与)。また、経口投与の方法としては、ゾンデを用いた強制投与法も有効である。被験物質を複数回投与することにしてもよい。その場合には各回の投与量は同一であっても異なっていても良い。
【0027】
被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として、核酸、ペプチド(ダイペプチド、トリペプチド等のオリゴペプチドやポリペプチド)、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、細胞抽出液、培養上清などを試験物質として用いてもよい。また、既存の薬剤を被験物質としてもよい。
【0028】
試験群及び対照群に含まれる個体数は特に限定されない。一般に使用する個体数が多くなるほど信頼性の高い結果が得られるが、多数の個体を同時に取り扱うことは使用する個体の確保や操作(飼育を含む)の面で困難を伴う。そこで例えば各群に含まれる個体数を1〜50、好ましくは2〜30、さらに好ましくは3〜20とする。
【0029】
ステップ(3)では、遺伝子改変動物が発症する遅延性色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定する。有効性が認められた複数の被験化合物を用いて再度ステップ(1)〜(3)を行い、有効性の高い物質の絞り込みを行うことにしてもよい。ここでの評価は、被験物質の予防又は治療効果の指標になる項目に関するものである。採用可能な評価項目として、遅延性色素沈着が生ずるまでの時間、遅延性色素沈着のサイズ、遅延性色素沈着部位の皮膚色、色彩色差計のL*a*b*の値、皮膚メラニン量、皮膚メラノサイトの量、皮膚メラノファージの量、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化、及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間(即ち、遅延性色素沈着の持続時間)を挙げることができる。皮膚色の評価は目視によっても行えるが、より客観的な評価を可能にするため、色彩色差計を利用するとよい(Kato et al., 2011)。色彩色差計によって皮膚色を評価する際には、国際色彩基準L*a*b*表色系を採用するとよい。色素沈着のサイズやメラニン量による評価は、例えばWinROOF画像解析ソフト(三谷商事株式会社)を用いる事で客観的に評価することができる。
【0030】
評価の正確性や信頼度を高めるため、二つ以上の評価項目を併用することが好ましい。例えば、「遅延性色素沈着が生ずるまでの時間」と「遅延性色素沈着部位の皮膚色」に基づき評価を下すことができる。尚、遅延性色素沈着が生ずるまでの時間、遅延性色素沈着のサイズ、遅延性色素沈着部位の皮膚色等の評価項目は被験物質の予防効果を評価する上で特に有用であり、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、これらの変化の解消にかかる時間等の評価項目は被験物質の治療効果を評価する上で特に有用である。
【0031】
被験物質の投与によって予防又は治療効果を認めた場合、被験物質が有効であると判定されることになる。例えば、評価項目として「遅延性色素沈着が生ずるまでの時間」を採用した場合、遅延性色素沈着が生ずるまでの時間が対照群に比較して試験群で長いようであれば、被験物質が遅延性色素沈着の発症を抑制ないし阻害したと評価でき、被験物質の有効性(特に予防効果に関する有効性)を推認する。評価項目として「遅延性色素沈着部位の皮膚色」を採用した場合にあっては、生じた遅延性色素沈着部位の皮膚色が対照群よりも試験群の方が薄いのであれば、被験物質が遅延性色素沈着を抑制ないし阻害したと評価でき、被験物質の有効性(特に予防効果に関する有効性)を推認する。同様に、別の例として、「遅延性色素沈着のサイズの変化」及び/又は「遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化」に基づき評価・判定する場合には、被験物質を投与した後に色素沈着のサイズの低減(前者の指標を採用した場合)及び/又は被験物質を投与した後に色素沈着部位の皮膚色の回復(後者の指標を採用した場合)が認められたときに被験物質が有効であると判定する(好ましくは、試験群と対照群、或は、紫外線照射部と非照射部を用い、「遅延性色素沈着のサイズの変化」及び/又は「遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化」について両者を比較する)。
【0032】
後述の実施例に示すhr/hr;RET/o-トランスジェニックマウスを用いた場合には、通常、紫外線照射から約4ヶ月で遅延性色素沈着が発症する。従って、予防効果を示す物質を探索する場合におけるステップ(3)の評価を行うタイミングの一つの目安は、紫外線照射後4ヶ月から5ヶ月である。
【0033】
一態様では、ステップ(1)の後であって且つ遅延性色素沈着を認めた後にステップ(2)を実施する。即ち、紫外線照射後、遅延性色素沈着が発症した段階で被験物質の投与を行う。この態様では、ステップ(3)において、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間(即ち、遅延性色素沈着の持続時間)等を評価項目として採用し、被験物質の有効性を判定する。この態様においても二つ以上の評価項目を併用することが好ましい。尚、この態様のスクリーニング法は、遅延性色素沈着に対して治療効果を示す物質の探索において特に有用である。
【0034】
本発明のスクリーニング方法によって選択された物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのまま医薬や医薬部外品或いは化粧料の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、医薬等の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
【0035】
上述の通り、本発明の遺伝子改変動物は、ヒトの皮膚に生ずる一時的色素沈着(サンタン)も再現する。この特徴に注目し、本発明の遺伝子改変動物の第2の用途として、一時的色素沈着の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法も提供される。当該スクリーニング方法では以下のステップ(1)〜(3)を行う。
(1)本発明の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ
(2)ステップ(1)の前及び/又は後に、前記遺伝子改変動物に被験物質を投与するステップ
(3)前記遺伝子改変動物が発症する一時的色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ
【0036】
ステップ(1)及び(2)は、上記第1の用途におけるステップ(1)及び(2)とそれぞれ同様であるため、その説明を省略する。その他、特に言及しない事項についても上記第1の用途に準ずる。
【0037】
ステップ(3)では、遺伝子改変動物が発症する一時的色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定する。有効性が認められた複数の被験化合物を用いて再度ステップ(1)〜(3)を行い、有効性の高い物質の絞り込みを行うことにしてもよい。
【0038】
ここでの評価は、被験物質の予防又は治療効果の指標になる項目に関するものである。採用可能な評価項目として、一時的色素沈着が生ずるまでの時間、一時的色素沈着のサイズ、一時的色素沈着部位の皮膚色、色彩色差計のL*a*b*の値、皮膚メラニン量、皮膚メラノサイトの量、皮膚メラノファージの量、一時的色素沈着の持続時間、一時的色素沈着のサイズの変化、一時的色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化、及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間を挙げることができる。皮膚色の評価は、上記第1の用途の場合と同様に行えばよい。評価の正確性や信頼度を高めるためには二つ以上の評価項目を併用することが好ましいことや、被験物質の有効性の判断手法も上記第1の用途の場合に準ずる。
【0039】
一時的色素沈着は、通常、紫外線照射後数日(3日〜8日)の間に生ずる。従って、予防効果を示す物質を探索する場合におけるステップ(3)の評価を行うタイミングの一つの目安は紫外線照射後3日目〜8日目である。尚、紫外線照射後、一時的色素沈着が発症した段階で被験物質の投与を行い、一時的色素沈着部位の皮膚色の変化や一時的色素沈着の持続時間等の評価を行うことは、一時的色素沈着に対して治療効果を示す物質の探索において特に有用である。
【0040】
本発明は、上記遺伝子改変動物の第3の用途として、一時的色素沈着又は遅延性色素沈着の発症又は進展機構の解析方法も提供する。本発明の解析方法では本発明の遺伝子改変動物を利用する。具体的には、本発明の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射した後、紫外線照射部位の皮膚組織を採取して各種解析に供し、一時的色素沈着又は遅延性色素沈着の発症又は進展機構に関して有益な情報を得る。典型的には以下のステップ(1)及び(2)を実施する。
(1)本発明の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ
(2)紫外線照射部位の皮膚組織を試料として、遺伝子発現・活性解析、形態学的解析、生化学的解析、分子生物学的解析、細胞生物学的解析、生理学的解析からなる群より選択される一以上の解析を行うステップ
【0041】
ステップ(1)は、上記第1の用途におけるステップ(1)と同様であるため、その説明を省略する。その他、特に言及しない事項についても上記第1の用途に準ずる。
【0042】
ステップ(2)では、まず紫外線照射部位の皮膚組織を採取する。皮膚組織の採取にはパンチ(トレパン)、メス、カミソリなどを用いることができる。経時的に皮膚組織を採取し、解析に供することが好ましい。例えば、紫外線照射直後に採取した後、一定の時間間隔で複数回の採取を行う。尚、紫外線非照射部位の皮膚組織も同時に採取し、紫外線照射部位と紫外線非照射部位の間で比較解析を行うことが好ましい。即ち、同一の個体において紫外線照射部位と紫外線非照射部位との間の比較解析を行うことが好ましい。
【0043】
紫外線照射部位の皮膚組織を採取することなく解析に供することも可能である。即ち、紫外線照射部位の皮膚組織を直接解析することにしてもよい。
【0044】
一態様では、ステップ(1)の前、即ち紫外線照射前に皮膚組織を採取しておき、当該皮膚組織を対照(コントロール)として解析を行う。即ち、紫外線照射前の皮膚組織と紫外線照射後の皮膚組織の間の比較解析を行う。このような比較解析によれば、例えば発症機構の開始ないし初期段階に関する情報などが得られ有益である。
【0045】
ステップ(2)では、遺伝子発現・活性解析、形態学的解析、生化学的解析、分子生物学的解析、細胞生物学的解析、生理学的解析等が行われる。各解析には常法を用いることができる。例えば遺伝子発現解析であれば、ノーザンブロット法、in situハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、CATアッセイ、ルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイ等を利用できる。遺伝子発現解析として、複数の遺伝子の発現状態を網羅的に解析する遺伝子発現プロファイル解析を実施することにしてもよい。一方、組織化学的解析の具体例は免疫組織化学的染色による解析である。免疫組織化学的染色法については様々な文献及び成書を参照することができる(例えば、「酵素抗体法、改訂第3版」、渡辺慶一、中根一穂編集、学際企画)。
【0046】
本明細書で特に言及しない事項(条件、操作方法など)については常法に従えばよく、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)、Current protocols in Immunology, John Wiley& Sons Inc等を参考にすることができる。
【実施例】
【0047】
1.方法
(1)モデル動物の作製
メラニン産生可能な無毛のhr/hr-マウス(Panteleyev et al., 1998)と本発明者らの研究グループが以前開発したRET/o-トランスジェニックマウス (Kato et al.,1999)を交配して、hr/hr;RET/o-トランスジェニックマウスを得た。RET/o-トランスジェニックマウスの作製方法の概要を以下に示す。尚、hr/hr-マウスにはHos:HRM(星野試験動物飼育所)を用いた。
【0048】
(RET/o-トランスジェニックマウスの作製方法)
マウスのメタロチオネインI(MT-I)プロモーターを含む1.7kbのEcoR1-Bg/II断片をプラスミドpMK(Brinster et al.,1981)から切り出し、プラスミドpUC8のポリリンカーサイトにサブクローンした。次に、pSV2RETTプラスミド(Takahashi et al.,1988)におけるSV-40制御領域に相当する340bpのPvuII-HindIII断片を、上記のpUC8にサブクローニングされたMT-Iプロモーターを含むPvuII-HindIII断片で置き換えて、プラスミドpMT/RETを構築した。このプラスミドpMT/RETは、MT-Iプロモーター領域と連結した活性化型RET遺伝子であるトランスジーンMT/RETを含んでいる。次に、国立大学法人名古屋大学医学部の動物実験施設より提供を受けたBCF1マウス(BALB/c×C57BL/6)×BALB/c受精卵に対して、6.9kbのTth111I-PvuI断片(pMT/RET)のマイクロインジェクションを行い、これらの受精卵を偽妊娠させたDDYの雌に移植することにより、MT/RETトランスジーンを遺伝子導入された17個体のファウンダー(founder)マウスを得た。マイクロインジェクションの方法、胚移植、及びDNA分析は、ホーガンらの方法(Hogan et al.,1986)に従った。これらのファウンダーマウスの内、次の4系統であって、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたものをMT/RET-トランスジェニックマウスとして樹立した。304系マウスが作製されてから数年後、304系とC57BL/6系マウスの交配を繰り返すことにより304/B6系が作製された。これら4系統のMT/RET-トランスジェニックマウスは、いずれも一生を通じて体毛の毛色が変化しない。但し、老齢期に1%程度の白髪が混じることはある。
192系:雌、トランスジーンのコピー数が14、皮膚黒色症(メラノーシス)及びメラノサイト系腫瘍を必ず発症する。
242系:雄、トランスジーンのコピー数が4、皮膚黒色症が見られるが腫瘍は発症しない。
304系:雄、トランスジーンのコピー数が5、皮膚黒色症及びメラノサイト系腫瘍を必ず発症する。
304/B6系:上記の304系のMT/RET-トランスジェニックマウスに対してC57BL/6マウスを交配して得たものである。生後3〜4ケ月位で良性メラノサイト系腫瘍を必ず発症する。
【0049】
(2)ヘマトシキリン・エオジン(HE)染色法
サンプリングした皮膚は、10%中性ホルマリン(v/v)にて4℃で一晩固定した。PBSで固定液洗浄後、エタノールで脱水し、キシレンにて透徹した後、パラフィン包埋を行った。パラフィン切片(4μm)を作製し、キシレンおよびエタノールにて脱パラフィンを行い、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った。
【0050】
(3)フォンタナマッソン染色法
上述の(2)と同様に脱パラフィン作業を行った後、アンモニア銀液中に、暗所で一晩に浸漬した。その後、0.25%チオ硫酸ナトリウム水溶液に室温で1分浸漬し、定着させた。
【0051】
(4)色彩色差計によるモデル動物肌色の測定法
皮膚の色は、コニカミノルタ色彩色差計(CR-400)により、国際色彩基準であるL*a*b*にて評価した。
【0052】
(5)紫外線照射
紫外線照射は、FL20S.E-30/DMR;分光放射照度290-330 nm; ピーク波長305 nm (東芝医療用品株式会社)を用いて行った(Kato et al., 2007)。紫外線照射部以外は、アルミホイルで覆った。マウス皮膚に到達する実際の紫外線の強さは、紫外線測定器を用いて計測した。紫外線量は、45mJ/cm2(hr/hr-マウスにおける1MEDに相当)とした。
【0053】
(6)メラニン量の数値化
フォンタナマッソン染色によって検出したメラニン量は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事株式会社)により数値化した。
【0054】
2.結果
(1)紫外線照射前の皮膚メラニン
無毛のヘアレスマウス(HL-マウス)にRET-マウスを交配することで、無毛でかつ皮膚にメラニンを有するHL/RET-マウスの作製に成功した(図1a)。HL/RET-マウスの皮膚表面の色を色彩色差計で測定したところ、明るさの指標であるL*値が、HL-マウスと比較して有意に減少した(図1b)。組織解析にて表皮メラニンを検出したところ、HL-マウスでは表皮にメラニンがほとんどないのに対し(図1c, d, e)、HL/RET-マウスの表皮の基底層、有棘層、顆粒層、角化層にわたってメラニンの分布が確認された(図1c, d)。メラニンは特に表皮細胞のapical側に沈着しており、メラニンキャップと呼ばれる形態をとっていた(図1d)。
【0055】
(2)紫外線照射によるメラニン産生の亢進
紫外線によるシミの形成を再現するためにHL/RET-マウス及びHL-マウス(コントロール)の左背側にUV-B(45mJ/cm2)を照射した。照射から5日後、HL-マウスの照射部と非照射部では皮膚色に大きな変化がみられなかったのに対し、HL/RET-マウスのUVB照射部では色素沈着が亢進していた(図2a)。非照射部に対する照射部のL*値はHL/RET-マウスにおいて有意な減少を示した(図2b)。次に、照射後5日目の皮膚を採取し、フォンタナマッソン法にて皮膚内のメラニンの分布を調べた。HL-マウスではメラニンの増加は見られなかった(図2c)。一方、HL/RET-マウスでは基底層に顕著なメラニン産生の亢進が見られた(図2c)。また、画像解析ソフト(WinROOF)によりメラニン量を定量した。その結果、HL-マウスでは有意なメラニン産生の亢進はみられなかったのに対し、HL/RET-マウスではUV-B照射後にメラニン産生量が有意に増加した(図2d)。
【0056】
(3)紫外線照射による色素沈着の回復
紫外線照射後5日目にHL/RET-マウスに生じた色素沈着の経過を調べた(図3a)。非照射部に対する照射部の皮膚のL*を調べたところ、HL/RET-マウスでは紫外線照射から10日目に最も皮膚色が暗くなった。しかし、10日を過ぎると徐々に皮膚の明るさが回復しはじめ、紫外線照射から約40日頃になると、紫外線非照射部の皮膚の明るさまで回復した(図3b)。皮膚切片を作製し、フォンタナマッソン法により組織化学的にメラニンを検出したところ、肉眼所見を裏付けるように、皮膚内メラニン分布およびその量は紫外線照射前(図1)と同等であった(図3c, d)。
【0057】
(4)遅延性色素沈着の発症
紫外線による一時的な色素沈着がみられた皮膚(図2, 3)を長期的に観察したところ、紫外線照射から約4ヶ月後、一度は回復した色素沈着部において(図3)、再び色素沈着が観察された(図4a)。一方、HL-マウスの皮膚では、このような遅延性の色素沈着はみられなかった(図4a)。さらに、この色素沈着は、その後6ヶ月(約1年齢)を経ても消えることはなかった。フォンタナマッソン染色により、メラニンを検出したところ、HL/RET-マウスの遅延性色素沈着部では基底層を中心にメラニンが沈着していた(図4b)。また、WinROOFによりメラニンを数値化したデータからも、HL/RET-マウスでみられた遅延性色素沈着部におけるメラニン沈着は、HL-マウスと比べて有意に亢進していた(図4c)。
【0058】
(5)304/B6系RETマウスとヘアレスマウスの交配で得られたHL/RET-マウス(hr/hr;Ret/O-マウス304系)の表現型
hr/hr;Ret/ O -マウス304系では、他の242系統や192系統と同様に、皮膚黒色症を発症する。さらに、生後数ヶ月で、皮膚メラノサイト系良性腫瘍を、生後12ヶ月以上で、皮膚メラノーマを自然発症する(図5)。hr/hr;Ret/ O -マウス304系の発症する皮膚メラノサイト系良性腫瘍はS100陽性の円形細胞から構成される(図6a-c)。原発性皮膚メラノーマの細胞は異型であり、有糸分裂活性も高い(図6d-f)。リンパ節及び肺への転移も認められる(図6g-i)。hr/hr;Ret/ O -マウス304系における、リンパ節、腎臓、肝臓、脾臓、肺への転移率は、オリジナルの毛のあるRet/O-マウス304系と統計的に差がない(図7)。
【0059】
3.考察・まとめ
表皮にメラニンをもつHL/RET-マウスに紫外線を照射することで、一時的な色素沈着(サンタン)および肝斑を代表とする自然回復困難な色素沈着(シミ)の形成を再現することに成功した。
【0060】
<一時的な色素沈着(サンタン)の再現>
ヒトの皮膚が紫外線に曝露されると、数時間後から翌日にかけてサンバーン(日光皮膚炎)と呼ばれる炎症が生じ、その後、数日後にサンタンと呼ばれるメラニン色素の産生亢進が見られる。紫外線によって産生されたメラニンは、表皮細胞質のapical側に分布することでsupranuclear capと呼ばれる分布形態をとる。このsupranuclear capは細胞核内のDNAを紫外線から守るための防御システムと考えられている(Park et al., 2009)。紫外線によって一時的に過剰に産生されたメラニンは表皮細胞のターンオーバーによって約1ヶ月で体外へ排出され、サンタンが回復する。今回、作製したHL/RET-マウスでも、紫外線照射から5-10日にかけて色素沈着が観察され、産生されたメラニンはsupranuclear capの形態をとった。また、この色素沈着は紫外線照射から約40日をかけて徐々に回復した。これらのことから、HL/RET-マウスに誘導した紫外線による一時的な色素沈着は、少なくともメラニン産生様式からみてヒトのサンタンを再現しているといえる。
【0061】
<遅延性の色素沈着の再現>
サンタンとよばれる一時的な色素沈着は自然回復可能であるのに対し、肝斑を代表とする色素沈着(シミ)は、通常、そのままでは回復が困難である(Torok., 2006)。肝斑は特に中年の女性によく発症し、紫外線の影響を受けやすい顔面に発症する(Jadotte and Schwartz, 2010)。つまり、紫外線の影響が加齢性に出てくると考えられる。また、組織学的には、ヒト肝斑におけるメラニンの蓄積は表皮層全体でみられるものの、特に表皮基底細胞おいて顕著な蓄積が観察される (Sehgal et al., 2011)。HL/RET-マウスでみられた紫外線による遅延性の色素沈着でも、加齢とともに紫外線の影響が徐々に現れた。また、自然回復がみられず、メラニンの表皮基底細胞への蓄積が観察された。このことは、HL/RET-マウスに紫外線を照射して形成された遅延性の色素沈着は、ヒトの肝斑をはじめとする、紫外線の影響を受けて加齢性に発症する色素沈着の発症を再現しているといえる。
【0062】
皮膚にメラニンを持つ実験動物としてヘアレスギニアピッグ(Bolognia et al., 1990)が知られている。また、ヒト皮膚あるいはヒト皮膚培養三次元培養をヌードマウスに移植する方法(特許文献1、非特許文献1)も報告されている。しかし、ギニアピッグはマウスと比較して体が大きいため、大きな飼育スペースが必要となる上、飼育コストもかかる。また、遺伝情報のデータベース(例えば、MGI: Mouse Genome Informatics, http://www.informatics.jax.org/)や、動物交差性が問われる抗体等の試薬については、圧倒的にマウスの方が整っている。またヌードマウスへのヒト皮膚移植に関しては、ヒトの皮膚で試験ができるというメリットはあるものの、作製に時間と手間が非常にかかるため、スクリーニング動物としては適さない。
【0063】
紫外線により色素沈着を起こすマウスモデルとしては、本研究においてコントロールに用いたHL-マウスに関する報告がある(Naganumaa et al., 2001)。しかし、この報告によると、この遅延性のシミを形成させるには、紫外線を1週間に3回、4週間にわたって照射し続ける必要がある。また、この遅延性のシミがみられるまで、最初の紫外線照射から28週を要する。対照的にHL/RET-マウスでは1回の紫外線照射で且つ短時間(約16週)でシミを再現できる。従って、HL/RET-マウスを用いれば、非常に効率よく遅延性のシミの予防剤・治療剤を評価することができる。一方、シミ形成メカニズムを解明するためのツールとしてもHL/RET-マウスは有用である。新たなメカニズムが明らかになれば、それをターゲットとした新しい薬剤開発が可能となる。また、従来の培養メラニン産生細胞を用いた薬剤評価と比べ、HL/RET-マウスを用いた場合には生体での評価を行えることから、実際の効能を把握・評価し易くなる。なぜならば、メラニン産生を行うメラノサイトは、実際には周囲の表皮細胞との緻密に制御された相互作用によってその恒常性を維持しているからである(Imokawa, 2004)。さらに、生体モデルを用いれば、塗布・注射・飲用などによる試験法が可能であり、外用剤・皮膚内注射・内服薬(サプリメント)等、様々な治療形態に対応した予防・治療改善剤の開発が可能である。
【0064】
<hr/hr;Ret/O-マウス304系の有用性>
hr/hr;Ret/O-マウス304系は、増悪因子或いは予防・治療因子のスクリーニングツールとしての有用である。即ち、hr/hr;Ret/O-マウス304系は、毛のない皮膚に腫瘍が発症するので、皮膚メラノサイト系良性腫瘍や皮膚メラノーマの増殖を観察しやすい。また、hr/hr;Ret/O-マウス304系は、毛のない皮膚に腫瘍が発症するので、良性腫瘍およびメラノーマに対する増悪因子や予防・治療因子を調べるのに有効である。皮膚に腫瘍ができるので、(内臓腫瘍の場合と異なり)刺激や予防・治療法群とコントロール群における効果の違いを、マウスを淘汰することなく比較できる。更には、毛のあるRet/O-マウス304系に比較して、紫外線等の光線等の物理的刺激に対する影響、外用剤塗布の影響を調べるのに適している。加えて、原発腫瘍の転移が見られるので(図6、7)、刺激に対する転移の影響を調べることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の遺伝子改変動物はヒトの皮膚における色素沈着を良好に再現する。本発明の遺伝子改変動物は遅延性色素沈着のモデルとして特に有用であり、遅延性色素沈着の予防剤や治療剤の開発に利用可能である。一方、一時的な色素沈着のモデルとしても本発明の遺伝子改変動物を利用することもできる。
【0066】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【0067】
<参考文献>
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化型RET遺伝子が遺伝子導入されており、且つメラニン産生能を有するヘアレス齧歯類遺伝子改変動物。
【請求項2】
活性化型RET遺伝子が、c-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じた癌遺伝子RFP-RET遺伝子である、請求項1に記載の遺伝子改変動物。
【請求項3】
活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーターに連結している、請求項1又は2に記載の遺伝子改変動物。
【請求項4】
活性型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
【請求項5】
齧歯類がマウスである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
【請求項6】
遺伝子型がhr/hr;Ret/Oのマウスである、請求項4に記載の遺伝子改変動物。
【請求項7】
皮膚への紫外線照射によって、表皮基底層でメラニン産生が亢進して一時的色素沈着が生じた後、該色素沈着からの回復を経て遅延性色素沈着が生ずる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
【請求項8】
色素沈着からの回復が、紫外線照射後1月前後に認められる、請求項7に記載の遺伝子改変動物。
【請求項9】
192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、又は304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスとヘアレスマウスの交配によって得られ、皮膚への紫外線照射によって、一時的色素沈着と遅延性色素沈着が生ずる、請求項1に記載の遺伝子改変動物。
【請求項10】
304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスとヘアレスマウスの交配によって得られ、メラノサイト系良性腫瘍およびメラノーマを発症する、請求項1に記載の遺伝子改変動物。
【請求項11】
紫外線がUV-A及び/又はUV-Bである、請求項7〜9のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物。
【請求項12】
以下の(a)〜(c)のいずれかの方法からなる、色素沈着モデルマウスの作製方法:
(a)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されているRETトランスジェニックマウスと、遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスを交配して生まれたhr/+;RET/o-マウスを選抜した後、該hr/+;RET/o-マウスと遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスを交配して生まれたhr/hr;RET/o-マウスを選抜する;
(b)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されており、且つ遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスと、遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウスを交配して生まれたhr/hr;RET/o-マウスを選抜する;
(c)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されており、且つ遺伝子型がhr/hrのヘアレスマウス同士の交配によって生まれたhr/hr;RET/o-マウスを選抜する。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、遅延性色素沈着の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
以下のステップ(1)〜(3)を含んでなる、請求項13に記載のスクリーニング方法:
(1)請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ;
(2)ステップ(1)の前及び/又は後に、前記遺伝子改変動物に被験物質を投与するステップ;
(3)前記遺伝子改変動物が発症する遅延性色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
【請求項15】
ステップ(3)における評価が、遅延性色素沈着が生ずるまでの時間、遅延性色素沈着のサイズ、遅延性色素沈着部位の皮膚色、色彩色差計のL*a*b*の値、皮膚メラニン量、皮膚メラノサイトの量、皮膚メラノファージの量、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化、及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間からなる群より選択される一以上の項目についての評価である、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
ステップ(1)の後であって且つ遅延性色素沈着を認めた後にステップ(2)を実施し、
ステップ(3)における評価が、遅延性色素沈着のサイズの変化、遅延性色素沈着部位の皮膚色の変化、色彩色差計のL*a*b*の値の変化、皮膚メラニン量の変化、皮膚メラノサイトの量の変化、皮膚メラノファージの量の変化及びこれらの変化が解消されるまでに要する時間からなる群より選択される一以上の項目についての評価である、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
遅延性色素沈着が肝斑、雀卵斑又は日光黒子である、請求項14〜16のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、一時的色素沈着の予防又は治療に有効な物質のスクリーニング方法。
【請求項19】
以下のステップ(1)〜(3)を含んでなる、請求項18に記載のスクリーニング方法:
(1)請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ;
(2)ステップ(1)の前及び/又は後に、前記遺伝子改変動物に被験物質を投与するステップ;
(3)前記遺伝子改変動物が発症する一時的色素沈着に対して被験物質が予防又は治療効果を示すか否かを評価し、評価結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
【請求項20】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物を用いることを特徴とする、一時的色素沈着又は遅延性色素沈着の発症又は進展機構の解析方法。
【請求項21】
以下のステップ(1)及び(2)を含んでなる、請求項20に記載の解析方法:
(1)請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子改変動物の皮膚に紫外線を照射するステップ:
(2)紫外線照射部位の皮膚組織を試料として、遺伝子発現・活性解析、形態学的解析、生化学的解析、分子生物学的解析、細胞生物学的解析、生理学的解析からなる群より選択される一以上の解析を行うステップ。
【請求項22】
同一の個体において紫外線照射部位と紫外線非照射部位との間の比較解析をステップ(2)で行う、請求項21に記載の解析方法。
【請求項23】
紫外線照射前の皮膚組織を採取しておき、該皮膚組織と、紫外線照射後に採取した前記皮膚組織との間の比較解析をステップ(2)で行う、請求項21に記載の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−106554(P2013−106554A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253454(P2011−253454)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】