説明

色評価方法及び色評価システム

【課題】 理想的な色に対する実際の色の差異を把握し易くする色評価方法を提供する。
【解決手段】 一実施形態の色評価方法は、(a)対象物からの光の波長強度分布又は当該光に基づく三刺激値を測定するステップと、(b)測定した波長強度分布からXYZ値又はRGB値を得て、当該XYZ値又はRGB値に基づいて色相と彩度を求め、色相を偏角方向にとり彩度を動径方向にとった分布図であって、求めた色相及び前記彩度の位置を示す該分布図を作成するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の色や表示装置に表示される色を評価するための色評価方法及び色評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、表示装置に表示される色の評価には、CIEで規定されたXYZ表色系やUCS表色系等の表色系が用いられている。以下の特許文献1及び特許文献2に開示された色評価方法は、このような表色系を用いて、表示装置に表示された色を評価するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−209230号公報
【特許文献2】特開2002−218261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の色評価に用いられる色度図は、色空間が歪められた図である。また、従来の色度図では、原色や二次色の位置の対称性が悪く、白色が原点に位置していない。したがって、従来の色度図では、物体の理想的な色や表示装置が表示すべき理想の色に対する実際の色の差異が色空間上で把握し難いものとなっている。
【0005】
本発明は、理想的な色に対する実際の色の差異を把握し易くする色評価方法及び色評価システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の色評価方法は、(a)対象物からの光の波長強度分布又は当該光に基づく三刺激値を測定するステップと、(b)測定した波長強度分布からXYZ値又はRGB値を得て、当該XYZ値又はRGB値に基づいて色相と彩度を求め、色相を偏角方向にとり彩度を動径方向にとった分布図であって、求めた色相及び前記彩度の位置を示す該分布図を作成するステップと、を含む。
【0007】
本発明の色評価システムは、(a)対象物からの光の波長強度分布又は当該光に基づく三刺激値を測定する手段と、(b)波長強度分布を測定する手段によって測定された波長強度分布からXYZ値又はRGB値を得て、当該XYZ値又はRGB値に基づいて色相と彩度を求め、色相を偏角方向にとり彩度を動径方向にとった分布図であって、求めた色相及び前記彩度の位置を示す該分布図を作成する手段と、を備える。
【0008】
本色評価方法及び色評価システムでは、対象物としての表示装置から出力される光の波長強度分布又は当該光に基づく三刺激値を測定してもよい。
【0009】
本色評価方法及び色評価システムによって作成される分布図は、色相(H)を偏角方向にとり彩度(S)を動径方向にとったものであり、偏角方向及び動径方向における歪みがない。したがって、この分布図によれば、対象物が例えば印刷物や染色された物体である場合には、これら対象物のある特定環境化での実際の色が理想的な色に対してシアン、マゼンダ、イエローのどの方向にずれているか等、理想的な色に対する実際の色の差異の把握が容易となる。また、当該分布図によれば、対象物が表示装置である場合には、表示装置から出力された色が赤、緑、青のどの方向にずれているか等、理想的な色に対する実際の色の差異の把握が容易となる。
【0010】
また、上記分布図は、電気的な色信号の歪を測定するベクトルスコープの表示形式と等価なものである。したがって、ベクトルスコープの出力を、当該分布図に重ね合わせるといったように本発明における分布図と共に用いることが可能である。これにより、理想的な色値、ベクトルスコープで計測された色信号、及び、本色評価方法によって得た色値を互いに比較することが可能となる。その結果、理想的な色値に対する実際の色値の差異を、電気的な要因と表示装置固有の要因とに分離することが可能となる。
【0011】
本発明では、測定する手段として、XYZ等色関数に対応する透過スペクトルを有するカラーフィルタを用いた測色計、又は、入力する光を分光して波長成分毎の光の強度を取得する分光測色計を用いてもよい。カラーフィルタを用いた測色計は、簡易な装置であるという利点を有する。また、分光測色計は、波長強度分布を出力することができるので、上記分布図と共に波長強度分布を提供することができ、発色方式の異なる表示装置の波長強度分布の違いによる表色値の微妙な差異などの情報を提供することも可能である。
【0012】
また、分光測色計は、光を受ける端面を有する光ファイバと、光ファイバの端面と対象物との距離を規定するためのアダプタと、光ファイバから出力される光を分光する分光素子と、分光素子によって分光された光を波長成分ごとに受光する複数の受光素子と、を有していてもよい。かかる分光測色計によれば、アダプタによって光ファイバ端面と表示装置との間の距離を略一定に保つことが出来るので、安定したスペクトル分布の取得が可能となる。
【0013】
本発明では、RGB値、又はXYZ値を変換して得たRGB値を用いて、次式(1a)及び(1b)、又は、次式(1a)及び(1c)に基づき、前記色相H及び前記彩度Sを求めることが好適である。
【数1】


なお、a及びbは定数である。また、MIN、MAXはそれぞれ、RGB値のうちの最大値、最小値である。
【0014】
(1a)及び(1b)、又は、次式(1a)及び(1c)によって得られる色相及び彩度を分布図上に表示させることにより、a=b=1の場合には、分布図上において、赤、緑、青の位置関係を正三角形とし、シアン、マゼンダ、イエローの位置関係を正三角形とすることができる。また、原点が白色となる。したがって、非常に理解し易い分布図が得られる。さらに、当該分布図は、ベクトルスコープと等価な表示となる。また、a及びbの値を選択することにより、所望の色領域を拡大することが出来るようになる。すなわち、肌色等の色領域を拡大したい場合、|a|<1とすればよい。
【0015】
また、本発明では、RGB値、又はXYZ値を変換して得たRGB値を用いて、次式(2)に基づき、色相H及び彩度Sを求めることも好適である。
【数2】


ここで、a及びbは定数である。
【0016】
(2)式によって得られる分布図の第1象限では、二次色が座標軸の正の方向に位置し、45度方向に原色が位置する。さらに、当該分布図では、各座標軸の負の方向は、二次色の補色である原色を表す方向となる。したがって、この分布図を用いることにより、理想の色に近づけるための補正すべき原色の決定及び当該原色の補正量の決定が容易となる。なお、(2)式によって得られる分布図は、対象物が表示装置のような自発的に発光するデバイスに適したものであるが、印刷物や染色された物体等を対象物として反射光や透過光を測定対象とする場合には、表示装置の場合に対して原色と2次色とを入れ替えて、色相の位相を45度ずらすことにより、対象物が表示装置の場合と同じ効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、理想的な色に対する実際の色の差異を把握し易くする色評価方法及び色評価システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る色評価システムを示す図である。
【図2】XYZ等色関数を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る色評価方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る色評価システムによって表示される分布図の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る色評価システムによって表示される分布図の一例を示す図である。
【図6】図4に対応するXYZ表色系の色度図を示す図である。
【図7】図4に対応するUCS表色系の色度図を示す図である。
【図8】図5に対応するUCS表色系の色度図を示す図である。
【図9】本発明の別の一実施形態に係る色評価システムを示す図である。
【図10】図9における測定ユニットを示す斜視図である。
【図11】本発明の別の実施形態に係る色評価システムによって得られる分布図の一例を示す図である。
【図12】図9に示す色評価システムによって得られる波長強度分布の一例を示す図である。
【図13】図9に示す色評価システムによって得られる波長強度分布の一例を示す図である。
【図14】図9に示す色評価システムによって得られる波長強度分布の一例を示す図である。
【図15】図9に示す色評価システムによって得られる波長強度分布の一例を示す図である。
【図16】本発明の更に別の一実施形態に係る色評価システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る色評価システムを示す図である。図1に示す色評価システム10は、測定部12、演算部14、及びディスプレイ16を備えている。なお、本実施形態の色評価システムは、ディスプレイ16を備えているが、本発明の色評価システムは、ディスプレイを備えず、汎用のディスプレイに供給する信号を出力するものであってもよい。以下、色評価システム10の各構成要素について、詳細に説明する。
【0020】
測定部12には、色を評価したい対象物100からの反射光若しくは透過光、又は発光に基づく光を受けて、当該光の波長強度分布を生成する。
【0021】
測定部12としては、分光測色計を用いることができる。分光測色計は、例えば、回折格子又はプリズム、及び、受光素子アレイ(1次元のラインセンサや1次元のフォトダイオードアレイ)を有する。この場合には、対象物100からの光が回折格子又はプリズムを経て、異なる波長の光が受光素子アレイの異なる受光素子に受光される。この結果、受光素子アレイから光の波長強度分布が得られる。
【0022】
なお、測定部12は、対象物100からの光に基づく三刺激値(XYZ値)を生成してもよい。この場合には、測定部12として、測色計を用いることができる。測色計としては、例えば、XYZの等色関数の透過度を有する三つのカラーフィルタと、三つの受光素子とを備えるものを用いることができる。
【0023】
演算部14は、測定部12によって生成されたデータを用いて、対象物100の色の位置を示す分布図を作成する部分である。具体的には、測定部12が光の波長強度分布をデータとして生成する場合には、演算部14は、当該波長強度分布から下記(3)式に基づいて、XYZ値を算出する。
【数3】


ここで、S(λ)は、波長強度分布であり、x(λ)、y(λ)、z(λ)はそれぞれ、図2に示すようなx、y、zの等色関数であり、Kは、任意の定数である。なお、測定部12が上述した測色計の場合には、演算部14は、測定部12によって生成されるデータの三刺激値をXYZ値として用いることができる。
【0024】
また、演算部14は、算出したXYZ値を下式(4)に適用することによって、RGB値を算出する。
【数4】

【0025】
なお、測定部12から波長強度分布が得られる場合には、演算部14は、RGB等色関数r(λ),g(λ)、b(λ)を用いて、波長強度分布からRGB値を直接算出することも可能である。この場合には、式(3)のx(λ),y(λ)、z(λ)を、r(λ),g(λ)、b(λ)に置き換えればよい。
【0026】
演算部14は、算出したRGB値を用いて、上記(1a)式及び(1b)式に基づき、色相H及び彩度Sを求める。ここで、(1a)式及び(1b)式におけるa及びbには、任意の定数を用いることができる。以下の説明では、a及びbが「1」であるものとする。なお、(1b)式の代わりに、(1c)式が用いられてもよい。
【0027】
さらに、演算部14は、色相を偏角方向にとり彩度を動径方向にとった分布図であって、求めた色相H及び彩度S、即ち測色値の位置を示す分布図(以下、「第1の分布図」という)を作成する。
【0028】
また、演算部14は、算出したRGB値を用いて、上記(2)式に基づいて、色相H及び彩度Sを求め、色相を偏角方向にとり彩度を動径方向にとった分布図であって、求めた色相H及び彩度Sの位置、即ち測色値の位置を示す分布図(以下、「第2の分布図」という)を作成してもよい。ここで、(2)式におけるa及びbには、任意の定数を用いることができる。以下の説明では、a及びbが「1」であるものとする。なお、a<0であれば、色相の回る方向が逆向きになる。
【0029】
本システム10では、演算部14によって作成された分布図が、ディスプレイ16に表示される。なお、ディスプレイ16に表示される分布図は、第1の分布図及び第2の分布図の双方又は一方の何れであってもよい。
【0030】
以下、色評価システム10の動作について図3を参照しつつ説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る色評価方法を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施形態では、まず、ステップS2において、図1の測定部12が、対象物100からの光の波長強度分布を計測する。なお、ステップS2においては、波長強度分布に代えて、対象物100からの光に基づく三刺激値が計測されてもよい。
【0031】
次いで、ステップS4において、演算部14が、測定部12によって測定された波長強度分布を上記(3)式に適用して、XYZ値を算出する。なお、測定部12が三刺激値を計測する場合には、当該三刺激値がXYZ値としてそのまま用いられてもよい。次いで、ステップS4において、演算部14が、算出したXYZ値を上記(4)式に適用して、RGB値を算出する。なお、測定部12によって測定された波長強度分布からRGB値が直接求められてもよい。
【0032】
次いで、ステップS6において、演算部14が、RGB値を上記(1a)式及び(1b)式、又は、(1a)式及び(1c)式に適用して、色相H及び彩度Sを算出する。次いで、ステップS8において、演算部14が、ステップS6にて算出した色相H及び彩度Sを用いて、上述した第1の分布図を作成する。
【0033】
なお、演算部14は、ステップS6において、RGB値を上記(2)式に適用して色相H及び彩度Sを算出し、ステップS8において、算出した色相H及び彩度Sを用いて、上述した第2の分布図を作成してもよい。
【0034】
以下、この色評価システム10によって作成される分布図について説明する。図4及び図5は、本発明の一実施形態に係る色評価システムによって作成される分布図の一例を示す図である。
【0035】
図4に示す分布図は、対象物100としての表示装置に複数の異なる色を発色させたときに当該表示装置から出力された光を分光測色計によって計測し、分光測色計によって計測させて得た得波長強度分布からXYZ値を算出して、当該XYZ値をRGB値に変換し、当該RGB値から色相H及び彩度Sを求めて、作成したものである。図4中、左側に示す分布図は第1の分布図であり、右側に示す三つの分布図は第2の分布図である。
【0036】
図5に示す分布図は、三原色(RGB)のうちの最大彩度を与えた一色に、最大彩度の1/8を単位として他の二つの原色を徐々に加えることによって得られる複数の色を表示装置に表示させたときに、色評価システム10によって作成される第1の分布図及び第2の分布図を示している。即ち、図5に示す分布図は、各原色に一定の彩度の変化を徐々に与えたときの測色値を示している。
【0037】
比較のために、図4の分布図の作成に用いた測定部12による計測データに基づく、XYZ表色系の色度図及びUCS表色系の色度図を、図6及び図7に示す。また、図5の分布図の作成に用いた測定部12による計測データに基づくUCS表色系の色度図を図8に示す。
【0038】
なお、図4〜図8において、参照符号R、G、B、C、M、Y、Wはそれぞれ、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエロー、白を表示装置に表示させた場合のそれぞれの測色値の位置を示している。また、図4、図6、及び図7において、他より小さな黒塗りの円は、表示装置に中間色を表示させた場合の当該色の値の理想的な位置を示している。また、図4、図6、及び図7において、黒塗りの四角は、表示装置に中間色を表示させた場合の測色値を示している。また、図5及び図8において、黒塗りの四角は、上述したように表示装置に表示させた色の測色値の位置を示している。
【0039】
図6及び図7に示すように、従来の色度図では、白色からの距離が原色及び二次色のそれぞれで異なっている。また、原色間の角度、二次色間の角度、原色と二次色との間の角度が一定ではなく、したがって、従来の色度図は、角度方向に歪みを含んでいる。さらに、図8に示すように、従来の色度図は、一定の彩度の変化があっても、彩度が高くなるにつれて、彩度の変化量が大きくなるような色度図となっている。したがって、従来の色度図では、実際の色が理想の色からずれている方向やそのずれの量等、実際の色と理想的な色との差異を把握することが容易ではない。
【0040】
これに対して、図4に示すように、本色評価システム10によって得られる第1の分布図上では、赤、緑、及び青の原色間の角度が一定であり、シアン、マゼンタ、及びイエローの二次色間の角度も一定であり、更に、原色と二次色間の角度も一定である。また、第1の分布図上では、白色の位置が、当該分布図の原点となっている。さらに、第1の分布図では、白色と各原色との間の距離が一定であり、また、白色と各二次色との間の距離が一定となっている。また、図5に示すように、本色評価システム10によって得られる分布図上では、一定の彩度の変化に対して分布図の彩度の変化量も略一定となっている。なお、図4において、表示装置に中間色を表示させた場合の当該色の理想的な位置と測定値の位置とに差異があるが、この差異は、表示装置のガンマ補正といった補正の結果によるものである。
【0041】
以上説明した特徴をもつ第1の分布図によれば、実際の色が理想の色からずれている方向や、色相及び彩度のずれを補正するための補正量が容易に理解可能となる。
【0042】
また、図4に示すように、(2)式に基づく第2の分布図では、2次色であるシアン、マゼンタ、イエローが、座標軸の正の方向に分布し、2次色の補色(即ち、原色)である青、緑、赤が各軸の負の方向に分布する。したがって、第2の分布図によれば、ある色を補正する場合に補正すべき原色及び当該原色の補正量を、より容易に把握することが可能となる。なお、補正量は、変換方法が既知であるため、容易に算出し得る。
【0043】
以上説明した色評価システム10は、測定部12を用いているため、カラーカメラ等とは異なり、電気的な特性やフィルター特性等に依存しないデータを取得できる。したがって、ある環境下(昼光下、蛍光灯下等)において、対象物が本来有する色相及び彩度を測定することができ、また、色再現性の良い表示装置に測定した色相と彩度および明度(RGB最大の強度)を表示し、見た目と測定値とを比較検討することが出来る。また、環境を変えた場合の色の変化量を計測することも可能である。
【0044】
また、上述した説明では、(1a)式、(1b)式、(2)式におけるa及びbを「1」としたが、a及びbを適切に調整することにより、色領域の拡大を行うことも可能である。すなわち、|a|<1とすることで、色相の差を拡大することが可能である。また、b>1とすることによって、彩度の差を拡大することが可能となる。このように、a及びbを調整することによって、微妙な色変化を捉えることが可能となる。
【0045】
以上の説明は、表示装置によって表示される色の評価に関するものであるが、色評価システム10の評価対象物は、印刷物や染色された物体であってもよい。印刷物や染色された物体は、CMYを原色とした減法混色によるものであり、RGBを原色とした加法混色による表示装置とは異なっている。したがって、印刷物や染色された物体等を対象物とする場合には、(2)式により計算される色相Hに対して45度の位相変換を施すことによって、第2の分布図の軸の正方向にRGBを分布させ、負の方向にCMYを分布させることができる。
【0046】
ここで、印刷物や染色された物体を対象物とした場合の色評価システムの応用例について以下に一例を示す。例えば、服飾、印刷、又は、染色においては、ある色が、様々な環境下において同じような色に見えることが望ましいと考えられることがある。この様な場合、同じ材料で作成した対象物を、種々の照明環境下に置き、色評価システム10によって色相及び彩度を取得すると、色相の変化や彩度の変化がどのように生じ、どの方向の三原色値のもたらす影響が大きいかといった情報を高精度に得ることが可能である。この結果を材料開発やインク等の開発に使用することにより、環境変化に強い素材開発が可能となる。
【0047】
以下、本発明の別の一実施形態に係る色評価システムについて説明する。図9は、本発明の別の一実施形態に係る色評価システムを示す図である。図9に示す色評価システム20は、測定ユニット22、第1の演算部24、第2の演算部26、及びディスプレイ28を備えている。なお、ディスプレイ28は、色評価システム20の構成要素でなくてもよい。
【0048】
色評価システム20は、カラー画像発生装置110によって発生された信号(例えば、RGB信号、YPbPr信号等)により表示装置120が表示する色を評価するシステムである。そのために、色評価システム20の測定ユニット22は、表示装置120によって発生される光の波長強度分布を取得する。
【0049】
図10は、図9における測定ユニットを示す斜視図である。測定ユニット22は、光ファイバ22a、分光器22b、及びアダプタ22cを有している。また、分光器22bは、反射型回折格子22d及びラインセンサ22eを含んでいる。この測定ユニット22では、光ファイバ22aの一端面に表示装置120からの光が入射し、当該光が光ファイバ22aの他端面から出射して、反射型回折格子22dに入射する。反射型回折格子22dは、入射する光を波長によって異なる方向に反射し、ラインセンサ22eが、それぞれの波長成分の光を受光する。ラインセンサ22eは、受けた光の強度に応じた信号を出力する。このように、測定ユニット22は、表示装置120からの光の波長強度分布を測定する。
【0050】
測定ユニット22におけるアダプタ22cは、表示装置120の表面と光ファイバ22aの一端面との距離を一定に保つ部品である。このアダプタ22cは、円筒形状又はコーン状の筒形状を有しており、その内部に光ファイバを保持する。アダプタ22cの内面は、黒塗り等によって、外部からの光の侵入を防ぐ機能を有している。かかるアダプタ22cによって、測定ユニット22は、表示装置120からの光の波長強度分布を安定的に測定することができる。
【0051】
なお、測定ユニット22には、反射型回折格子に代えて、透過型回折格子素子、プリズム等を用いてもよい。また、ラインセンサ22eには、CCD、CMOS、又はフォトダイオードをアレイ状に並べたデバイス等、光を受光可能なラインセンサであれば、如何なるデバイスが用いられてもよい。また、測定ユニット22は、波長強度分布を測定することに変えて、三刺激値を測定する測色計であってもよい。
【0052】
第1の演算部24は、測定ユニット22によって測定された波長強度分布を上記の(3)式に適用して、XYZ値を算出する。なお、測定ユニット22が測色計である場合には、三刺激値をそのままXYZ値として用いることができる。
【0053】
第1の演算部24は、上述のように得たXYZ値を上記の(4)式に適用してRGB値を得る。なお、波長強度分布からRGB値が直接算出されてもよい。
【0054】
また、第1の演算部24は、色評価システム10の演算部14と同様に、RGB値から色相H及び彩度Sを算出して、第1の分布図を作成する。第1の演算部24は、演算部14と同様に、第2の分布図を作成してもよい。
【0055】
第2の演算部26は、カラー画像発生装置110が表示装置120に与える信号と同じ信号を受けて、当該信号からRGB値を得る。カラー画像発生装置110がRGB信号を出力する場合には、当該RGB信号がそのままRGB値として利用される。カラー画像発生装置110がYPbPr信号であれば、当該YPbPr信号が公知の変換によってRGB値に変換される。
【0056】
第2の演算部26は、カラー画像発生装置110から受けた信号に基づくRGB値を用いて、(1a)式及び(1b)式、又は(1a)式及び(1c)式により色相H及び彩度Sを算出して、当該色相H及び彩度Sの位置を第1の分布図上に表示する。第2の演算部26は、更に、(2)式により色相H及び彩度Sを算出して、当該色相H及び彩度Sの位置を第2の分布図上に表示してもよい。
【0057】
色評価システム20では、これら第1の分布図及び第2の分布図がディスプレイ28に表示される。また、色評価システム20では、測定ユニット22によって得られる波長強度分布が、更に、ディスプレイ28に表示されてもよい。
【0058】
以下、この色評価システム20によって作成される分布図について図11を参照しつつ説明する。図11は、本発明の別の実施形態に係る色評価システムによって得られる分布図の一例を示す図である。図11において、左側の図が第1の分布図であり、中央の三つの図が第2の分布図であり、右側の図が測定ユニット22によって得られる波長強度分布を表示させたものである。
【0059】
図11の第1の分布図においては、原点周りの他より小さい点が第2の演算部26によって得られた色相及び彩度を示しており、それらの周りの黒塗りの四角が第1の演算部24によって得られた色相及び彩度を示している。このように、色評価システム20は、第1の分布図上に、第1の演算部によって得た色相及び彩度と、第2の演算部によって得た色相及び彩度とを表示することができる。
【0060】
第1の演算部24の出力は、表示装置120の発色自体を表現した色相と彩度情報であり、第2の演算部26の出力は、カラー画像発生装置110自体から出力されている信号の色相と彩度情報である。ここで、第2の演算部26は、放送や編集の現場でよく用いられるベクトルスコープと同様の機能を有するものである。
【0061】
したがって、色評価システム20によって提供される第1の分布図によれば、第1の演算部24による出力と、第2の演算部による出力(即ち、ベクトルスコープの出力)とを比較することができる。その結果、表示装置固有の色ずれの要因を取り出すことが可能となる。
【0062】
また、図11に示すように、色評価システム20は、波長強度分布も提供することができる。したがって、色評価システム20によれば、表示装置120への入力信号による望ましい色相と彩度に対して、表示装置120からの光の色相と彩度のずれが把握可能になり、更に、表示装置120固有のスペクトル分布がもたらす影響を同時に観測することが可能となる。なお、第1の演算部24の出力表示と第2の演算部26からの出力表示は、同一の分布図上に示さず、個別に示してもよい。
【0063】
以下、色評価システム20によって得られる波長強度分布の例を図12〜図15に示す。図12〜図14は、ある液晶ディスプレイの波長強度分布を示しており、表示装置120が赤(R)を表示している場合の波長強度分布、表示装置120が緑(G)を表示している場合の波長強度分布、表示装置120が青(B)を表示している場合の波長強度分布をそれぞれ示している。
【0064】
図12〜図14に示すように、比較的鋭い輝線の集合と蛍光体のスペクトルが観測されており、バックライトの発光パターンが、実質的にそのまま、色情報として与えられていることがわかる。この時の色相と彩度の測定値は、R,G,Bのフル表示で(0.009, 0.8192),(2.1482, 0.8514),(−2.2686, 0.8204)であった。この測定値を得る際に液晶ディスプレイに与えた対応の信号の色相及び彩度はそれぞれ、(0, 0.8165),(2.0944, 0.8165),(−2.0943, 0.8165)であった。
【0065】
また、図15は、有機ELディスプレイに赤色(RED)を表示させた場合の波長強度分布を示している。図15の波長強度分布には輝線はなく、蛍光体の波長強度分布が得られていることがわかる。このときの色相と彩度は(−0.0144, 0.8356)であった。
【0066】
このように、表示装置に与えた原信号の色度に対して、色評価システム20によって測定した表示装置からの光の実際の色度はずれていることがわかる。このようなずれが、原信号の色度と色評価システム20によって計測した色度とを対比し、また、スペクトル分布を参照することによって、どのような性質のもので、回路によるものか、表示装置自体が有する性質によるものかを、効率よく分析することが可能となる。
【0067】
以下、本発明の更に別の実施形態について説明する。図16は、本発明の別の一実施形態に係る色評価システムを示す図である。図16に示す色評価システム10Aは、カメラ18を備えていること、また、演算部14Aの処理内容が演算部14と異なる点において、色評価システム10と、異なっている。
【0068】
以下、対象物100を色見本チャートとし、この色見本チャートが適正な照明条件にて照明されているものとする。このような環境で、色評価システム10Aは、カメラのキャリブレーションを行うものとする。
【0069】
色評価システム10Aでは、カメラ18が、色見本チャート100を撮影し、RGB値を得る。また、測定部12が、同様に色見本チャート100から反射または透過された光の波長強度分布、又は三刺激値を測定する。
【0070】
演算部14Aは、演算部14と同様に測定部12によって測定されたデータから色相H及び彩度Sを算出し、分布図(第1の分布図及び/又は第2の分布図)を作成する。また、演算部14Aは、カメラ18からのRGB値を(1a)式及び(1b)式、又は、(1a)式及び(1c)式に適用して、色相H及び彩度Sを算出し、第1の分布図を作成する。演算部14は、更に、カメラ18からのRGB値を(2)式に適用して、色相H及び彩度Sを算出し、第2の分布図を作成してもよい。
【0071】
カメラ18により得られるデータに基づく色相及び彩度と、測定部12によって得られるデータに基づく色相及び彩度とが異なれば、色ずれの方向と大きさがわかることになる。従って、この色ずれの方向と大きさを用いて、カメラ18の色変換にかかわるルックアップテーブルを書き換えることにより、カメラ18のキャリブレーションを行うことが可能となる。
【0072】
本実施形態では、ディスプレイ16を、書き換えられたルックアップテーブルの確認用に用いることも可能である。なお、本実施形態における測定部12は、色見本チャートを照明した際の光の反射または透過を取得するので、被写体を結像した位置に回折格子等を配置したレンズ付の分光器であることが望ましい。また、ルックアップテーブルは、RGBの色域を適切に分割したルックアップテーブル、所謂3Dルックアップテーブルであることが好ましく、当該3Dルックアップテーブルが書き換えられることが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
10,10A、20…色評価システム、12…測定部、14,14A…演算部、16…ディスプレイ、18…カメラ、22…測定ユニット、22a…光ファイバ、22b…分光器、22c…アダプタ、22d…反射型回折格子、22e…ラインセンサ、24…第1の演算部、26…第2の演算部、28…ディスプレイ、100…対象物、110…カラー画像発生装置、120…表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物からの光の波長強度分布又は該光に基づく三刺激値を測定するステップと、
前記測定する手段によって得られる前記波長強度分布又は前記三刺激値からXYZ値又はRGB値を得て、該XYZ値又は該RGB値に基づいて色相と彩度を求め、色相を偏角方向にとり彩度を動径方向にとった分布図であって、求めた前記色相及び前記彩度の位置を示す該分布図を作成するステップと、
を含む色評価方法。
【請求項2】
前記対象物は表示装置であり、
前記測定するステップでは、入力信号に基づいて表示装置から出力される光の波長強度分布又は該光に基づく三刺激値が測定される、
請求項1に記載の色評価方法。
【請求項3】
前記分布図を作成するステップにおいて、前記RGB値、又は前記XYZ値を変換して得たRGB値を用いて、次式(1a)及び(1b)、又は、次式(1a)及び(1c)に基づき、前記色相H及び前記彩度Sを求め、ここで、a及びbは定数であり、MIN、MAXはそれぞれ、RGB値のうちの最大値、最小値である、請求項1又は2に記載の色評価方法。
【数1】

【請求項4】
前記分布図を作成するステップにおいて、前記RGB値、又は前記XYZ値を変換して得たRGB値を用いて、次式(2)に基づき、前記色相H及び前記彩度Sを求め、ここで、a及びbは定数である、請求項1又は2に記載の色評価方法。
【数2】

【請求項5】
対象物からの光の波長強度分布又は該光に基づく三刺激値を測定する手段と、
前記測定する手段によって得られる前記波長強度分布又は前記前記三刺激値からXYZ値又はRGB値を得て、該XYZ値又は該RGB値に基づいて色相と彩度を求め、色相を偏角とし彩度を動径とする分布図であって、求めた前記色相及び前記彩度の位置を示す該分布図を作成する手段と、
を含む色評価システム。
【請求項6】
前記測定する手段は、前記対象物としての表示装置から入力信号に基づいて出力される光の波長強度分布又は該光に基づく三刺激値を測定する、
請求項5に記載の色評価システム。
【請求項7】
前記測定する手段は、XYZ等色関数に対応する透過スペクトルを有するカラーフィルタを用いた測色計、又は、入力する光を分光して波長成分毎の光の強度を取得する分光測色計である、請求項5又は6に記載の色評価システム。
【請求項8】
前記分光測色計は、
光を受ける端面を有する光ファイバと、
前記光ファイバの前記端面と前記対象物との距離を規定するためのアダプタと、
前記光ファイバから出力される光を分光する分光素子と、
前記分光素子によって分光された光を波長成分ごとに受光する複数の受光素子と、
を有する、請求項7に記載の色評価システム。
【請求項9】
前記分布図を作成する手段は、前記RGB値、又は前記XYZ値を変換して得たRGB値を用いて、次式(1a)及び(1b)、又は、次式(1a)及び(1c)に基づき、前記色相H及び前記彩度Sを求め、ここで、a及びbは定数であり、MIN、MAXはそれぞれ、RGB値のうちの最大値、最小値である、請求項5〜8の何れか一項に記載の色評価システム。
【数3】

【請求項10】
前記分布図を作成する手段は、前記RGB値、又は前記XYZ値を変換して得たRGB値を用いて、次式(2)に基づき、前記色相H及び前記彩度Sを求め、ここで、a及びbは定数である、請求項5〜8の何れか一項に記載の色評価システム。
【数4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−157988(P2010−157988A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209625(P2009−209625)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000101330)アストロデザイン株式会社 (28)
【Fターム(参考)】