説明

花卉包装用ポリ乳酸系フィルム

【課題】透明性に優れ、伸び等の柔軟性があり、引裂強度に優れ、破れにくいポリ乳酸系の花卉包装用フィルムを提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸90〜30重量部、脂肪族芳香族ポリエステル10〜40重量部及びアクリル系共重合体0〜30重量部からなり、引張伸びが200%以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする花卉包装用ポリ乳酸系フィルムであり、特に脂肪族芳香族ポリエステルとしてポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が好ましく使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花卉包装用フィルムに関わり、詳細には植物原料由来の生分解性のポリ乳酸を用いた柔軟性に優れ、かつ透明性に優れた花卉包装用ポリ乳酸系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から観賞用の草花である花卉の包装用フィルムとして、石油資源から作られたポリプロピレン或いはポリエステルフィルムが使用されている。この花卉包装用フィルムは使用後にあっては花束、草花、木花等の花卉と分別され、廃棄物として焼却処分されているが、フィルムが石油資源由来のため炭酸ガスの発生、焼却熱の増大等地球温暖化が生じる環境上の問題がある。
【0003】
また、石油枯渇問題が叫ばれる昨今では、石油資源に代わる資源に基づく各種製品の開発が積極的に行われており、花卉包装用フィルムにあっても、石油資源によらないフィルムの開発が求められており、最近では、植物由来のバイオベースポリマーであるポリ乳酸に対する期待が高まりつつある。
【0004】
ポリ乳酸は、使用後の生分解処理、或いは焼却処理等により二酸化炭素(炭酸ガス)を発生するが、その一方で大気中の炭酸ガスを吸収して成長する植物を原料としているために、見掛け上の二酸化炭素の増減がないカーボンニュートラル原料である。
そのため、石油資源の枯渇化が問題とされている現在、石油資源に代わり、また地球温暖化に対する配慮を加えた資源としてポリ乳酸を有効に活用した各種フィルムが提案されている。
【0005】
ところで、花卉包装用フィルムは、包装時、或いは運搬時に包装したフィルムが草花の棘、枝等に接触することにより容易に破れてしまう恐れがある特殊な状況下で使用されるフィルムである。
ポリ乳酸を原料としたフィルムは、上記したように、石油資源の枯渇化、地球温暖化防止等に対する配慮を加えたフィルムとして優れたものであるが、フィルム自体に十分な伸びがないため、花卉包装用フィルムとして使用する場合には破れやすい欠点(特許文献1)を有している。
また、ポリ乳酸フィルムを柔軟化させる手段として可塑剤を添加する方法が提案されている(特許文献2)が、フィルムから可塑剤のブリードがみられ、フィルム自体の柔軟性や透明性が変化する懸念がある。
【0006】
最近に至り、ポリ乳酸と他の生分解性樹脂を組合せ使用した花卉包装用フィルムが提案されている(特許文献3)。当該フィルムはポリ乳酸に対して他の生分解性樹脂を組み合わせることにより、耐引裂性と耐突刺し性を有するものとされているが、その数値範囲については明確なものではない。
特に、花卉包装用フィルムとしては、高い透明性を有すること、また、破れにくい柔軟性を有すること等の特性が求められているが、いまだこれらを満足する花卉包装用フィルムは得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2007−204727号公報
【特許文献2】特開平04−335060号公報
【特許文献3】特開2007−031633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、かかる現状下において、透明性に優れると共に、柔軟性があり、伸び等の物性を向上させた、引裂強度に優れたポリ乳酸系の花卉包装用フィルムを提供することを課題とする。
【0008】
かかる課題を解決するべく本発明者は鋭意検討した結果、ポリ乳酸に対して脂肪族芳香族ポリエステルを加えることにより、透明性に優れ、可塑剤を添加しなくても伸び等の物性が向上した、破れにくい花卉包装用フィルムが得られること、さらに、ポリ乳酸と脂肪族芳香族ポリエステルに加え、アクリル系共重合体樹脂を加えることによりポリ乳酸と脂肪族芳香族ポリエステルとの相溶性が高まり、フィルムにより高い透明性が維持できることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の一つの基本的態様は、ポリ乳酸及び脂肪族芳香族ポリエステルからなり、引張伸びが200%以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする花卉包装用ポリ乳酸系フィルムである。
【0010】
また、本発明の別の基本的態様は、ポリ乳酸、脂肪族芳香族ポリエステル及びアクリル系共重合体からなり、引張伸びが200%以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする花卉包装用ポリ乳酸系フィルムである。
【0011】
より具体的には、本発明は、ポリ乳酸が90〜30重量部、脂肪族芳香族ポリエステルが10〜40重量部、及びアクリル系共重合体が0〜30重量部である上記の花卉包装用ポリ乳酸系フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、透明性に優れ、伸び等の柔軟性があり、したがって引裂強度に優れた花卉包装用のフィルムが提供される。本発明の花卉包装用フィルムは、カーボンニュートラルである植物由来のバイオベースポリマーであるポリ乳酸を主体として形成されているため、焼却処分されたとしてもライフサイクルにおける見かけ上の二酸化炭素の増減がない。したがって、地球温暖化等に対する配慮を加えた、いわゆる環境に優しいフィルムである。
【0013】
また、本発明の花卉包装用フィルムは、使用後にあっては、包装した花ごとコンポストに投入することが可能であり、分別処理の必要がない利点を有している。
また、焼却処分をしたとしても、発熱量は一般のポリプロピレンフィルムより低いため、焼却炉を傷めない利点を有している。
【0014】
さらに、フィルムに柔軟性を付与する可塑剤を必要としないことから、マスターバッチ化したり、液注装置付きの特殊な押出機を使用したりしてフィルム成形する必要はなく、通常の加工機で成形し得る、製造工程上の利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、その基本は、ポリ乳酸及び脂肪族芳香族ポリエステル、さらにはアクリル系共重合体からなり、引張伸びが200%以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする花卉包装用ポリ乳酸系フィルムである。
【0016】
本発明で使用するポリ乳酸としては、バイオベースポリマーとしてポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸或いはポリ−DL−乳酸を挙げることができる。これらのポリ乳酸は、石油資源から調製されたポリ乳酸、或いは植物原料由来のポリ乳酸として調達されるが、本発明にあっては植物原料由来のポリ乳酸を使用するのがよい。
【0017】
一方、ポリ乳酸と共に使用する脂肪族芳香族ポリエステルとしては、いわゆる生分解性ポリエステル樹脂であり、アジピン酸およびテレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールからなるジオール成分との重縮合物を、多官能イソシアネート化合物で高分子化した芳香族脂肪族ポリエステルが好ましい。
そのような芳香族脂肪族ポリエステルとしては、具体的には、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレートを挙げることができ、なかでもポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が好ましく使用される。
【0018】
本発明が提供する花卉包装用フィルムにあっては、上記したポリ乳酸と脂肪族芳香族ポリエステルとの配合比率としては、ポリ乳酸90〜30重量部及び脂肪族芳香族ポリエステル10〜40重量部用いるのがよい。
この脂肪族芳香族ポリエステルをポリ乳酸と共に上記の重量部で用いることにより、可塑剤を添加することなくポリ乳酸フィルムに対して柔軟性を付与することができ、また、透明性を損なうことなく、フィルムの伸び率等の物性を向上することが可能となった。
【0019】
ところで、花卉包装用フィルムとしてはフィルムの透明性が重要な特性である。かかる透明性をより確保するためには、ポリ乳酸及び脂肪族芳香族ポリエステルに加え、さらにアクリル系共重合体を添加すればよいことが判明した。
アクリル系共重合体の原料として用いられる単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチルなどのアクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらのアクリル酸アルキルエステルは単独又は2種以上組み合わせて用いることができるが、好ましくは、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとを原料とするアクリル系共重合体である。
【0020】
アクリル系共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体などいずれでもよく、アクリル系共重合体の重量平均分子量は、好ましくは、10,000〜1,000,000であり、好ましくは30,000〜500,000である。
これらアクリル系共重合体は、液状重合、塊状重合、懸濁重合などの公知の方法により重合することができる。
このようなアクリル系共重合体を加えることにより、ポリ乳酸と脂肪族芳香族ポリエステルに対する相溶化剤としての働きを発揮し、添加によってより透明性が確保されることとなる。
アクリル系共重合体の添加量は、0〜30重量部であり、30重量部を超えて添加すると、かえって透明性を損なう傾向にある。
【0021】
本発明が提供する花卉包装用フィルムにあっては、上記したポリ乳酸、脂肪族芳香族ポリエステル並びにアクリル系共重合体以外に、透明性や伸び率等の物性を損なわない範囲で他の生分解性樹脂や、非生分解性樹脂を添加しても良い。
そのような生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)等が挙げられる。
また、非生分解性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
【0022】
さらに本発明が提供する花卉包装用フィルムにあっては、透明性や所望の物性を損なわない範囲で種々の添加物を適宜配合することもできる。そのような添加物としては、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、有機充填剤等をあげることができる。これらの添加剤は、目的とする花卉包装用フィルムの性能を損なわない範囲内で、その種類、配合量を適宜選択することができる。
【0023】
本発明が提供する花卉包装用フィルムにあっては、その物性として、タテ/ヨコのいずれかの伸び率が200%以上(JIS K217 プラスチックフィルムおよびシートの引張試験法による)であり、全光線透過率が85%以上であることが一つの要件となる。
このタテ/ヨコのいずれかの伸び率が200%以上であることから、フィルム自体に柔軟性があり、包装する花卉の突起物等によるフィルムの破れが軽減されることとなる。
【0024】
また、フィルムの全光線透過率が85%以上であることから、フィルム自体が透明性を維持し、包装した内部の花卉を良好に観察することができ、包装上の作業が容易となる。なお、全光線透過率が85%を下回る場合は、透明性がなくなり、内部の花卉が見えづらくなる。
【0025】
本発明が提供する花卉包装用フィルムの成形方法は、Tダイや、インフレーションによる押出成形機を用い、フィルム厚として0.01〜0.05mm程度のフィルムとして成形するのがよい。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜5および比較例1および2
下記表1中に示した配合成分を、インフレーション成形機により、表中に記載の厚みを有するフィルムに成形した。
インフレーション成形機の条件は、以下のとおりである。
スクリュー径:40mm/ダイ直径:100mm
加工温度:シリンダー170℃/ダイ160℃
得られたフィルムについて、引張伸び(%)および全光線透過率(%)を測定し、その結果を併せて表中に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
*1:ポリ乳酸 レイシアH440(三井化学社製)
*2:ポリエチレンアジペートテレフタレート エコフレックス(BASF社製)
*3:JIS K217 プラスチックフィルムおよびシートの引張試験法における、タテ、ヨコのうち伸びの大きい方を測定。
*4:直読ヘーズコンピューターHGM−2D(スガ試験機株式会社製)で測定。
【0030】
実施例6〜9および比較例3および4
下記表2中に示した配合成分を、インフレーション成形機により、表中に記載の厚みを有するフィルムに成形した。
インフレーション成形機の条件は、以下のとおりである。
スクリュー径:40mm/ダイ直径:100mm
加工温度:シリンダー170℃/ダイ160℃
得られたフィルムについて、引張伸び(%)および全光線透過率(%)を測定し、その結果を会わせて表中に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
*1〜*4:上記表1に同じ。
*5:メチルメタクリレートとブチルアクリレートの共重合体(BA=50%)
【0033】
上記の表1および表2に示した結果からも判明するように、本発明の花卉包装用ポリ乳酸系フィルム(実施例1〜9)は、引張伸び率が200%以上であり、全光線透過率も85%以上を維持しており、柔軟性を有し、破れにくいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明により透明性に優れ、伸び等の柔軟性があり、引裂強度に優れた、破れにくい花卉包装用ポリ乳酸系フィルムが提供される。本発明の花卉包装用フィルムは、焼却処分されたとして、二酸化炭素の増減のないカーボンニュートラルである植物由来のバイオベースポリマーであるポリ乳酸を主体としているため、地球温暖化等に対する配慮を加えた環境に優しいフィルムであり、産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸及び脂肪族芳香族ポリエステルからなり、引張伸びが200%以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする花卉包装用ポリ乳酸系フィルム。
【請求項2】
ポリ乳酸、脂肪族芳香族ポリエステル及びアクリル系共重合体からなり、引張伸びが200%以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする花卉包装用ポリ乳酸系フィルム。
【請求項3】
ポリ乳酸が90〜30重量部、脂肪族芳香族ポリエステルが10〜40重量部、及びアクリル系共重合体が0〜30重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の花卉包装用ポリ乳酸系フィルム。

【公開番号】特開2010−180338(P2010−180338A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25711(P2009−25711)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】