説明

花色が変更されたバラの製造方法

バラの内在性の代謝経路を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’―水酸化酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とするバラの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新たな花色を有するバラの製造方法に関するものである。詳しくは、バラ内在性の代謝経路を人為的に抑制し、かつパンジーのフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子と、ジヒドロミリセチンを還元するジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子を発現させることによるバラの製造方法に関するものである。
【背景技術】
花弁の役割は花粉を運ぶ昆虫・鳥類などのポリネーターを魅了することにあるため、花の色や形、模様、香りはポリネーターと共進化してきた(本田利夫ら 現代化学5月号25−32(1998))。おそらくはその結果、ひとつの種の花があらゆる色をもつ場合は少なく、例えば、バラやカーネーションには紫から青の品種がなく、ショウブやリンドウには鮮やかな赤い品種はない。花の色は鑑賞の際にも花卉の最も重要な形質であることから、古くから様々な色の花が交配によって育種されてきた。特にバラは花の女王と呼ばれ、また、市場価値も高いことから、世界中で交配が行われてきた。
例えば、黄色の品種のなかったバラに西アジア原産のRosa foetidaを交配することにより現在の黄色のバラが育種された。しかしながら花の色はその植物のもつ遺伝的能力によって決定されているため、利用できる遺伝子源が限定される交配による育種では実現できる花色には限界がある(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.39 1119−1126,1998、Mol et al.Curr.Opinion Biotechnol.10,198−201 1999)。なかでも青いバラの育成は不可能の代名詞とも、アーサー王の聖杯に匹敵するとされてきた(大場英章「バラの誕生」1997中公新書、鈴木正彦 「植物バイオの魔法 青いバラも夢ではなくなった」1990講談社ブルーバックス、最相葉月 「青いバラ」2001小学館)。
現在、一般に「青バラ」と呼ばれる品種は存在するが、これは「藤色系」のバラのことを指す。交配による「青バラ」の品種改良は1945年作出された薄紫を帯びた灰色の「グレーパール」が最初であると言われている。その後、1957年に薄紫ピンクの「スターリングシルバー」が作出され、これらの品種を交配親として「ブルームーン」(1964年作出)や「マダムビオレ」(1981年作出)など、多くの藤色系バラが作られている。また、これらの藤色系バラなどを利用し、さらに育種を重ねることで、「青龍」(1992年作出)や「ブルーヘブン」(2002年作出)などの、淡いグレー系のバラが作出され、新タイプの「青バラ」として注目を集めている。
しかしながらこれらの花の色は実際には青くはなく灰色がかったぼんやりしたピンクに留まっており、長年の育種努力にも関わらず、未だ「青」と呼べるバラは存在しない。園芸業界においては一般にイギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC:The Royal Horticultural Society Colour Chart)でバイオレットからブルーのグループが「青」と呼ばれることが多い。本発明はイギリス王立園芸協会カラーチャートでバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループまたはブルーグループに示される花色を有するバラの創出を目指すものである。
花の色は主にアントシアニン、カロテノイド、ベタレインの3種の化合物群に由来するが、青色を司るのは極大吸収波長の幅が最も広い(オレンジ色から青色)アントシアニンである。アントシアニンはフラボノイドの一種で図1に示した代謝経路で生合成される。アントシアニンは、通常上皮細胞の液胞中に局在する。アントシアニンの色調(すなわち花の色)は、アントシアニンの構造に大きく依存し、B環の水酸基の数が多いほど青くなる。B環の水酸化は、フラボノイド3’−水酸化酵素(F3’H)およびフラボノイド3’,5’−水酸化酵素(F3’5’H)によって触媒される。F3’H活性とF3’5’H活性がない場合にはペラルゴニジン(橙色から赤色)が合成され、F3’H活性がある場合はシアニジン(赤から紅色)が合成され、F3’5’H活性がある場合はデルフィニジン(紫色)が合成される。
これらのアントシアニジンは糖やアシル基により修飾され、様々なアントシアニンとなる。一般的に修飾する芳香族アシル基が多いほどアントシアニンは青くなる。アントシアニンは液胞のpH、共存するフラボノールやフラボン、金属イオンなどによっても大きく色を変える(斎藤規夫 蛋白質核酸酵素 47 202−209 2002,Broullard and Dangles,In the flavonoids:Advances in Research since 1986(Ed by Harborne)Capmann and Hall,London pp565−588,Tanaka et al.Plant Cell Physiol.39 1119−1126,1998、Mol et al,Trends in Plant Science 3,212−217 1998,Mol et al.Curr.Opinion Biotechnol.10,198−201 1999)。
バラの花弁のアントシアニンは、ペラルゴニジンとシアニジンおよびペオニジンの誘導体であり、デルフィニジンの誘導体は存在しない(Biolley and May,J.Experimental Botany,44,1725−1734 1993,Mikanagi Y,Saito N,Yokoi M and Tatsuzawa F(2000)Biochem Systematics Ecol.28:887−902)。これが青いバラがない最大の理由とされている。現在のバラは、交配可能なバラの近縁種(R.multiflora,R.chinensis,R.gigantean,R.moschata,R.gallica,R.whichuraiana,R.foetidaなど)の交配によって作出された。
多くの交配の努力にもかかわらず、青いバラが実現していないのはバラの近縁種にはデルフィニジンを生産する能力がないからだと考えられている。花弁でデルフィニジンを生産するためには上述のようにF3’5’Hが花弁で発現する必要があるが、バラ及びバラの近縁種の花弁ではF3’5’Hが発現していないと考えられている。したがって交配によりデルフィニジンを花弁で蓄積させ青いバラを取得することは不可能であろう。また、バラ花弁に微量の青い色素ロザシアニンが含まれることは知られており、その化学構造も決定されているが(特開2002−201372)、ロザシアニンを増加させることにより青いバラを作出した報告はなく、ロザシアニンの生合成経路、それに関わる酵素や遺伝子の知見もない。
また、生物が生産する青や紫の色素の例として藍が生産するインディゴ(たとえば、Appl Microbiol Biotechnol 2003 Feb;60(6):720−5)や微生物が生産するビオラセイン(J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2000 Oct;2(4):513−9、Org.Lett.,Vol.3,No.13,2001,1981−1984)があり、これらはトリプトファンに由来することや生合成経路についても知見はある。
この他にクチナシの実由来のイリドイド化合物による青色色素(S.Fujikawa,Y.Fukui,K.Koga,T.Iwashita,H.Komura,K.Nomoto,(1987)Structure of genipocyanin G1,a spontaneous reaction product between genipin and glycine.Tetrahedron Lett.28(40),4699−700、S.Fujikawa,Y.Fukui,K.Koga,J.Kumada,(1987)Brilliant skyblue pigment formation from gardenia fruits.J.Ferment.Technol.65(4),419−24)や、コケ由来のアズレン(和光純薬工業株式会社)なども知られているが、これらを植物花弁で発現させ、花色を青くした報告はない。
バラに他の植物で発現しているF3’5’Hの遺伝子を導入し花弁で発現させることができれば青いバラを作出できるのではないかと期待されていた(最相葉月 「青いバラ」2001小学館)。F3’5’H遺伝子はペチュニア、リンドウ、トルコギキョウなど多くの植物から得られている(Holton et al.Nature 366,276−279,1993,Tanaka et al.Plant Cell Physiol.37,711−716 1996,WO93/18155)。また、バラの形質転換系についても報告はある(たとえばFiroozababy et al.Bio/Technology 12:883−888(1994),US 5480789、US 5792927、EP 536 327 A1、US 20010007157 A1)。
さらに、実際にバラにペチュニアのF3’5’H遺伝子を導入した報告もある(WO93/18155、WO94/28140)。
しかしながら、青いバラを得るまでには到っておらず、青いバラを得るためにはバラに適した花色色素の代謝を改変する工夫が必要であると考えられる。
一方、F3’5’H遺伝子を、デルフィニジンを生産せずペラルゴニジンを生産している赤いカーネーションに導入したところ、ペラルゴニジンとともに、デルフィニジンの蓄積が確認されたが、花色はやや紫がかった赤に変わるに留まった(WO94/28140)。この結果は、F3’5’Hの発現だけでは「青い」カーネーションを得ることはできず、カーネーションの内在性のペラルゴニジン合成への代謝の流れを抑制する必要があることを示唆している。
カーネーションの内在性の代謝経路(ジヒドロフラボノール還元酵素(DFR)によるジヒドロケンフェロール(DHK)の還元)との競合を回避するために、白いカーネーションの中からDFRが欠損している品種を選択した。このカーネーションに、F3’5’HとペチュニアDFR(DHKを還元できず、ジヒドロミリセチン(DHM)を効率よく還元することが知られていた)の遺伝子を導入した。その結果、デルフィニジンの含量がほぼ100%で、花色も従来のカーネーションにはない青紫色となった組換えカーネーションを取得することができた例がある(蛋白質核酸酵素,Vol.47,No.3,p228,2002)。このようにカーネーションに青い花を実現するためには、F3’5’H遺伝子の発現によるデルフィニジンの蓄積だけではなく、工夫が必要であった。
DFRはすでに多くの植物からクローニングされている(ペチュニア、タバコ、バラ、トレニア、キンギョソウ、ガーベラ、シンビジウム、オオムギ、トウモロコシなど)(Meyer et al.Nature 330,677−678,1987,Helariutta et al.Plant Mol.Biol.22 183−193 1993,Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031,Johnson et al.Plant J.19,81−85,1999)。DFR遺伝子については植物種によって基質特異性が異なり、ペチュニア、タバコ、シンビジウムのDFR遺伝子はDHKを還元できないこと、ペチュニアのDFR遺伝子はジヒドロフラボノールの中ではDHMをもっとも効率よく還元することが知られている(Forkmann et al.Z.Naturforsch.42c,1146−1148,1987,Johnson et al.Plant J.19,81−85,1999)。しかしながらこれらのDFR遺伝子をバラで発現させた例は報告されていない。
内在性の代謝経路や酵素と外来の遺伝子由来の酵素たとえばF3’5’Hとの競合を回避する方法としては上述のように、ある遺伝子が欠損した品種に遺伝子を導入する方法がある。また、人為的に目的の遺伝子の発現を抑制する方法として、目的の遺伝子を相同組換えなどにより欠失させる方法も知られてはいるが、相同組換えの頻度が低く、適応できる植物種も限定されているため、実用化にはいたっていない(たとえば、Nat Biotechnol 2002、20:1030−4)。
転写レベルでの抑制方法として、標的遺伝子のmRNAのアンチセンスRNAを転写させるアンチセンス法(van der Krol et al.Nature 333,866−869,1988)、標的の遺伝子のmRNAと同じRNAを転写させるセンス(コサプレッション)法(Napoli et al.Plant Cell 2,279−289,1990)、標的の遺伝子のmRNAに対応する二本鎖RNAを転写する方法(RNAi法、Waterhouse et al.Pro.Natl.Acd.Sci.USA 95,13959−13964 1998)が利用されている。
これらの3つの方法については多くの成功例が知られている。バラにおいてはアントシアニンの合成に必要なカルコンシンターゼ(CHS)遺伝子のコサプレッションにより、花色を赤からピンクに改変した報告がある(Gutterson HortScience 30:964−966 1995)が、この場合CHSの抑制が不完全であり、完全にアントシアニンの合成を抑制し白い花の系統を得るには至らなかった。
【特許文献1】特開2002−201372号公報
【特許文献2】WO93/18155
【特許文献3】USP 5480789
【特許文献4】USP 5792927
【特許文献5】EP 536 327 A1
【特許文献6】US 20010007157 A1
【特許文献7】WO94/28140
【非特許文献1】本田利夫ら 現代化学5月号25−32(1998)
【非特許文献2】Tanaka et al.Plant Cell Physiol.39 1119−1126,1998
【非特許文献3】Mol et al.Curr.Opinion Biotechnol.10,198−201 1999
【非特許文献4】大場英章「バラの誕生」1997中公新書
【非特許文献5】鈴木正彦 「植物バイオの魔法 青いバラも夢ではなくなった」1990講談社ブルーバックス
【非特許文献6】最相葉月 「青いバラ」2001小学館
【非特許文献7】斎藤規夫 蛋白質核酸酵素 47 202−209 2002
【非特許文献8】Broullard et al.In the flavonoids:Advances in Research since 1986(Ed byHarborne)Capmann and Hall,London pp565−588
【非特許文献9】Tanaka et al.Plant Cell Physiol.39 1119−1126,1998
【非特許文献10】Mol et al,Trends in Plant Science 3,212−217 1998
【非特許文献11】Mol et al.Curr.Opinion Biotechnol.10,198−201 1999
【非特許文献12】Biolley and May,J.Experimental Botany,44,1725−1734 1993
【非特許文献13】Mikanagi Y,et al.(2000)Biochem Systematics Ecol.28:887−902
【非特許文献14】Appl Microbiol Biotechnol 2003 Feb;60(6):720−5
【非特許文献15】J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2000 Oct;2(4):513−9
【非特許文献16】Org.Lett.,Vol.3,No.13,2001,1981−1984
【非特許文献17】S.Fujikawa,et al.(1987)Tetrahedron Lett.28(40),4699−700
【非特許文献18】S.Fujikawa,et al.(1987)J.Ferment.Technol.65(4),419−24
【非特許文献19】Holton et al.Nature 366,276−279,1993
【非特許文献20】Tanaka et al.Plant Cell Physiol.37,711−716 1996
【非特許文献21】Firoozababy et al.Bio/Technology 12:883−888(1994)
【非特許文献22】蛋白質核酸酵素,Vol.47,No.3,p228,2002
【非特許文献23】Meyer et al.Nature 330,677−678,1987
【非特許文献24】Helariutta et al.Plant Mol.Biol.22 183−193 1993
【非特許文献25】Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031
【非特許文献26】Johnson et al.Plant J.19,81−85,1999
【非特許文献27】Forkmann et al.Z.Naturforsch.42c,1146−1148,1987
【非特許文献28】Nat Biotechnol 2002、20:1030−4
【非特許文献29】van der Krol et al.Nature 333,866−869,1988
【非特許文献30】Napoli et al.Plant Cell 2,279−289,1990
【非特許文献31】Waterhouse et al.Pro.Natl.Acd.Sci.USA 95,13959−13964 1998
【非特許文献32】Gutterson HortScience 30:964−966 1995
【非特許文献33】鈴木省三,「ばら、花図譜」,小学館,p.256−260,1990
【発明の開示】
上記のようにバラにF3’5’H遺伝子を導入し、花弁で発現させることによりバラの花の色を改変することができた。カーネーションでは、DFR欠損の品種でF3’5’H遺伝子とペチュニアDFR遺伝子を発現させることにより、青紫色のカーネーションを作ることができた。しかしながら、いまだに「青いバラ」は創出されていない。そこで、未発明は、青い花を咲かせるバラを提供しようとするものである。
従って本発明は、(1)バラの内在性の代謝経路を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とするバラの製造方法を提供する。
本発明はまた、(2)バラの内在性の代謝経路を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子及びジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とするバラの製造方法を提供する。
本発明は更に、(3)バラの内在性のジヒドロフラボノール還元酵素の発現を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子及びバラ以外の由来のジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とするバラの製造方法を提供する。
本発明は更に、(4)バラの内在性のフラボノイド3’−水酸化酵素の発現を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とするバラの製造方法を提供する。
前記のパンジーのフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子は、例えば、配列番号:1または配列番号:3記載の遺伝子である。また、前記のジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子は、好ましくは、アイリス、ニーレンベルギア、ペチュニア、シンビジュウム、リンドウ、トルコギキョウ由来である。
本発明は更に、(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により得られるバラもしくはそれと同じ性質を有するその子孫またはそれらの組織を提供する。
本発明はまた、(6)上記(1)〜(4)のいずれかの製造方法により得られたバラの花弁の色が、紫、青紫又は青であるバラもしくはそれと同じ性質を有する子孫またはそれらの組織を提供する。
本発明はまた、バラの花弁の色が、イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)のバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループまたはブルーグループに属するものであり、上記(6)に記載のバラもしくはそれと同じ性質を有する子孫またはそれらの組織を提供する。
本発明は更に、バラの花弁の色が、イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)のバイオレットグループの85aまたは85bに属するものである、上記(7)に記載のバラもしくはそれと同じ性質を有する子孫またはそれらの組織を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、フラボノイドの生合成経路を示す。
CHS:カルコン合成酵素、CHI:カルコンイソメラーゼ、
FNS:フラボン合成酵素、F3H:フラバノン3−水酸化酵素、
F3’H:フラボノイド3’−水酸化酵素、
F3’5’H:フラボノイド3’5’−水酸化酵素、FLS:フラボノール合成酵素、
DFR:ジヒドロフラボノール4−還元酵素、
ANS:アントシアニジン合成酵素、AS:オーロン合成酵素、
C2’GT:カルコン2’配糖化酵素
図2は、プラスミドpBERD1の構造を示す。
図3は、プラスミドpBPDBP2の構造を示す。
図4は、プラスミドpBPDBP8の構造を示す。
図5は、プラスミドpSPB461の構造を示す。
図6は、プラスミドpSPB472の構造を示す。
図7は、プラスミドpSPB130の構造を示す。
図8は、プラスミドpSPB919の構造を示す。
図9は、プラスミドpSPB920の構造を示す。
図10は、プラスミドpSPB1106の構造を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
バラでデルフィニジンが生産されても花色が青くならない理由にはいくつか考えられる。アシル基や糖の修飾によってアントシアニンの安定性、溶解度、色が変化する。すなわち、芳香族アシル基の付加により青くなることが知られている。また、フラボノールやフラボンといったコピグメントとアントシアニンが複合体を形成すると、色が青くなり、極大吸収波長は長波長にシフトし吸光度も増す。アントシアニンの色はpHによっても変化する。pHが低いと赤く、中性付近で青くなるため、花の色はアントシアニンが局在する液胞のpHに依存する。また、Al3+、Mg2+などの金属イオンとの共存による金属錯体の形成が花色に重要な影響を与える場合もある。試行錯誤と鋭意検討の結果、ここでは花弁でのデルフィニジンの割合を高める工夫を考案した。
まず、青紫色のカーネーションの作出と同様な手法で青いバラの作出を試みた。すなわち白いバラ112品種を解析しDFR欠損株の同定を試みたが、カーネーションの場合とは異なり完全なDFR欠損系統を取得することはできなかった。これはカーネーションが2倍体であるのに対し、通常栽培されるバラは4倍体であるため、単一の遺伝子の欠損株を求めることが困難であるためであろう。
次に、花色が白い品種TinekeにパンジーのF3’5’H遺伝子とペチュニアのDFR遺伝子を導入したところ、デルフィニジンの蓄積は認められたが、量がわずかであり、青いバラには至らなかった。
本発明においては、バラの内在性のフラボノイド合成経路に属する酵素であるDFRの遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて人為的に抑制し、かつパンジーのF3’5’H遺伝子を発現させ、さらにジヒドロミリセチンを還元するDFR遺伝子を発現させることによりデルフィニジンの含有率を花弁に含まれる総アントシアニジン中のほぼ80−100%にすることにより、青いバラを実現することができた。
ジヒドロミリセチンを還元するDFR遺伝子はここではアイリス(アヤメ科)、ニーレンベルギア(ナス科)、ペチュニア(ナス科)を用いたが、他にジヒドロミリセチンを還元するDFR遺伝子の起源としてはタバコ(ナス科)、シクラメン(サクラソウ科)、デルフィニウム(キンポウゲ科)、シンビジウム(ラン科)、リンドウ(リンドウ科)、トルコギキョウ(リンドウ科)などペラルゴニジンを蓄積しない植物を挙げることができる(Forkmann 1991 Plant Breeding 106 1−26 Johnsonら、Plant J.1999 19 81−85)。本発明において使用するDFR遺伝子は、ジヒドロミリセチンを好んで還元する遺伝子が好ましい。
また、本発明においては、バラの内在性のフラボノイド合成経路に属する酵素であるフラボノイド3’−水酸化酵素(F3’H)の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて人為的に抑制し、かつパンジーのF3’5’H遺伝子を発現させることにより、デルフィニジンの含有率を花弁に含まれる総アントシアニジン中のほぼ80−100%にすることにより、青いバラを実現することができた。
本発明により得られたバラは、これまでにない花色を有するものであり、本発明により、イギリス王立園芸協会カラーチャートで、レッド−パープルグループ、パープルグループ、パープル−バイオレットグループのみならず、バイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループに属する花色を有するバラを提供することができる。
【実施例】
以下実施例に従って、発明の詳細を述べる。分子生物学的手法はとくに断らない限り、Molecular Cloning(Sambrook and Russell,2001,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)に依った。
[実施例1]花色測定方法
花弁色彩評価は、分光測色計CM2022(ミノルタ株式会社、日本)を用いて10度視野、D65光源で測定し、色彩管理ソフトSpectraMagic(ミノルタ株式会社、日本)により解析を行った。なお、イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)番号は、目視判定および上記の機器測定により得られた色彩値(CIE L*a*b*表色系)をもとに、色彩分類システムVersion2.1.1(株式会社日本総合研究所(日本)、特開2002−016935号公報)を用いて近似色の照合をおこなった。このシステムを用いることにより客観的に近似のRHSCC番号を選択できる。
この方法で従来いわゆる“青いバラ”と呼ばれている品種の花弁の色彩を測定し、RHSCCにおける近似色を求めたところ、ブルームーンやマダムビオレは186d(GREYED−PURPLE GROUP)、ラバンデは186c(GREYED−PURPLE GROUP)、青龍は189d(GREYED−GREEN GROUP)、ブルーヘブンは198d(GREYED−GREEN GROUP)であった。したがってこれらの品種は青いバラと呼ばれているがRHSCC番号の分類ではグレーグループであり、本発明が目的としている青さを有していなかった。
[実施例2]フラボノイドの分析
1)花弁色素の抽出
凍結乾燥した花弁0.5gを4mlの0.1%TFAを含む50%アセトニトリル(CHCN)中で20分間、超音波下で抽出し0.45μmのフィルターで濾過した。この抽出液のアントシアニンの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析は以下の条件で行った。カラムはRSpak DE−413L(4.6mmφx25cm、昭工株式会社)を用い、流速0.6ml/minで、移動相は0.5%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む10%から50%のCHCN/HOの直線濃度勾配15分間の後、0.5%TFAを含む50%CHCN/HOで10分間のイソクラティック溶出を行った。検出はフォトダイオードアレイ検出器SPD−M10A(島津製作所)を用い、600−250nmの波長領域を検出し、520nmの吸光度の面積により各アントシアニンの存在比を求めた。
2)アントシアニジンの分析
上記濾液0.2mlをガラス試験管中で減圧乾固し、0.2mlの6N塩酸(HCl)に溶解し、100℃で20分間、加水分解を行った。分解後のアントシアニジンは0.2mlの1−ペンタノールで抽出し、有機層をHPLCで以下の条件により分析した。カラムはODS−A312(6mmφx15cm、ワイエムシー株式会社)を用い移動相にはCHCOOH:CHOH:HO=15:20:65の溶液を用い流速1ml/minで溶出した。
検出はフォトダイオードアレイ検出器SPD−M10A(島津製作所)で600−400nmのスペクトルを測定し、吸収極大(λmax)およびリテンションタイム(R.T.)で同定し520nmの吸光度の面積で定量した。このHPLC条件下でデルフィニジンおよびシアニジンのリテンションタイムおよびλmaxは4.0分、5.2分および534nm、525nmであった。同定、定量にはフナコシ株式会社より購入したデルフィニジン塩酸塩およびシアニジン塩酸塩を標品として用いた。
3)フラボノールの分析
花弁の抽出濾液0.2mlを1.5mlのエッペンドルフチューブ中で減圧乾固し0.2mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(KPB)pH4.5に溶解し、6ユニットのβ−グルコシダーゼ(新日本化学株式会社)と1unitのナリンゲナーゼ(Sigma Chemical Co.,MO,USA)を加え、30℃で16時間保持した。反応後、0.2mlの90%CHCNを酵素反応液に添加し、反応を終了した。この液を0.45μmのフィルターでろ過し、下記の条件でHPLCを行った。
カラムはDevelosil C30−UG−5(4.6mmφx15cm、野村化学株式会社)を用い、流速0.6ml/minで、移動相は0.1%TFAを含む18%から63%のCHCN/HOの直線濃度勾配10分間の後、0.1%TFAを含む63%のCHCN/HOのイソクラティック溶出10分間を行った。検出はフォトダイオードアレイ検出器SPD−M10Aを使用し、400−250nmの波長領域を検出した。この条件下でケンフェロールとケルセチンのR.T.とλmaxはそれぞれ11.6分間、365nmおよび10.3分間、370nmであった。定量はA330nmの面積で行い、標品としてフナコシ株式会社のケンフェロールとケルセチンを用いた。
[実施例3]pHの測定方法
−80℃で1時間以上凍結したバラ花弁約2gを、ホモジナイザーを用いて搾り、搾汁液を得た。これをpHメーター(F−22、堀場製作所)に微小電極6069−10C(堀場製作所)を接続しpHを測定した。
[実施例4]バラの形質転換
バラの形質転換に関してはすでに多くの方法が報告されており(たとえばFiroozababy et al.Bio/Technology 12:883−888(1994)、US 5480789、US 5792927、EP 536 327 A1、US 20010007157 A1)、これらの方法に従って形質転換を実施できる。具体的にはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)Ag10株(Lazo et al.Bio/Technology 9:963−967,1991)の菌液中に、無菌苗の葉から誘導したバラのカルスを5分間浸し、滅菌濾紙で余分な菌液を拭き取った後、継代用培地に移植し、2日間暗所で共存培養した。
その後、カルベニシリンを400mg/L加えたMS液体培地で洗浄し、継代用培地にカナマイシン50mg/Lとカルベニシリン200mg/Lを加えた選抜・除菌用培地へ移植した。選抜培地上で生育阻害を受けず、正常に増殖する部分の移植と培養を繰り返し、カナマイシン耐性カルスを選抜した。カナマイシン耐性を示した形質転換カルスを、カナマイシン50mg/L、カルベニシリン200mg/Lを添加した再分化用の培地で培養し、カナマイシン耐性シュートを得た。得られたシュートは1/2MS培地で発根させた後、馴化を行った。馴化個体は鉢上げ後、閉鎖系温室で栽培して開花させた。
[実施例5]バラのフラボノイド遺伝子の取得
バラ品種カーディナル花弁由来のcDNAライブラリーをペチュニアのDFR遺伝子(WO96/36716に記載)をプローブにしてスクリーニングしバラのDFR cDNAを取得し、pCGP645とした。詳細はすでに報告されている(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031 1995)。
同様に、同じライブラリーをペチュニアのカルコンシンターゼ−A(CHS−A)遺伝子(Koes et al.Gene(1989)81,245−257)とキンギョソウのアントシアニジンシンターゼ(ANS)遺伝子(Martin et al.Plant J,(1991)1,37−49)で、公知の方法(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031 1995)でスクリーニングすることによりバラのカルコンシンターゼ(CHS)とアントシアニジンシンターゼ(ANS)のホモログを取得し、それぞれpCGP634とpCGP1375とした。バラのCHSの塩基配列を配列表・配列番号:5に、バラのANSの塩基配列を配列番号:6にそれぞれ示す。
[実施例6]白バラスクリーニング
遺伝子組換えの手法で青い品種を作出するためには、内在性のアントシアニン合成経路と導入する遺伝子(具体的にはF3’5’H遺伝子)との競合を回避するためにDFR遺伝子のみが欠損している品種を選抜し、その品種にペチュニア由来DFR遺伝子とF3’5’H遺伝子を導入すればよい(WO96/36716)。
白いバラの品種は多数あり、この中でDFR遺伝子のみが欠損し、他のアントシアニン生合成酵素遺伝子は正常に発現している品種を探索した。花の色が白くなる原因は、アントシアニン生合成に関わる構造遺伝子の変異あるいは欠失に寄る場合とアントシアニン生合成に関わる構造遺伝子の転写を制御する転写調節因子の欠失に寄る場合があると考えられる。ここではWO96/36716に従い、DFR遺伝子のmRNAが欠損しているバラを探索した。
主に白色のバラ112系統についてまず実施例1に記載した方法により花弁のフラボノイドの組成を分析し、フラボノールが高蓄積している系統を選択した。その後、花弁の搾汁のpHを測定し、相対的にpHが高い品種80系統を一次候補とした。
次に、これら品種の花弁からRNAを抽出した。RNAの抽出は公知の方法に従った(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031 1995)。得られたRNAを用いてバラDFR遺伝子(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031 1995)とバラアントシアニジンシンターゼ(ANS)遺伝子に対応するmRNAの有無を調べた。RT−PCR法により、内在性のDFR mRNAの発現量が低く、かつANS mRNA量が正常なレベルの品種8品種(WKS−11、13、22、36、43、ホワイトキラニー、つるNo.2、ティネケ)を選抜した。
なお、RT−PCRはそれぞれの品種の花弁から得たRNAを用いてSuper Script First−strand Synthesis System for RT−PCR(Invitrogen)を用いた。DFRmRNAの検出にはDFR−2F(5’−CAAGCAATGGCATCGGAATC−3’)(配列番号:13)とDFR−2B(5’−TTTCCAGTGAGTGGCGAAAGTC−3’)(配列番号:14)のプライマーを、ANSmRNAの検出にはANS−2F(5’−TGGACTCGAAGAACTCGTCC−3’)(配列番号:15)とANS−2B(5’−CCTCACCTTCTCCCTTGTT−3’)(配列番号:16)のプライマーを用いた。
これらの8品種について、ノザン解析を行い(表1)、DFRmRNAレベルが低い傾向を示し、ANSmRNAレベルが正常であり、かつ培養特性が優れ、形質転換可能な2品種(ティネケ、WKS36)について実際にデルフィニジン生産用コンストラクトを導入することを決定した。

[実施例7]ティネケへのバラ由来DFR遺伝子の導入
pE2113(Mitsuhara et al.Plant Vell Physiol.37,45−59 1996)はエンハンサー配列を繰り返したカリフラワーモザイクウィルス35S(El235S)プロモーターとノパリンシンターゼターミネーターを有する。このプラスミドをSacIで消化し、Blunting Kit(タカラ)を用いて平滑末端にした。このDNA断片を8bpのSalIリンカー(タカラ)とライゲーションし、得られたプラスミドをpUE5とした。
pUE5をHindIIIとEcoRIで消化して得られる約3kbのDNA断片をHindIIIとEcoRIで消化したpBin19(Bevan M,Binary Agrobacterium Vector for plant transformation.Nucl.Acid Res.12.8711−21,1984)に導入し、得られたプラスミドをpBE5とした。pCGP645をBamHIとXhoIで消化して完全長のバラDFRcDNAを含むDNA断片を得た。これをBamHIとXhoIで消化したpBE5に連結し、pBERD1(図2)とした。このプラスミドをAgrobacterium tumefaciens Ag10株に導入した。
白色系バラ品種「ティネケ」へpBERD1(図2)を導入し、18個体の形質転換体を得た。得られた形質転換体のうち6個体で花色が変化した。白からピンクへの明確な花色がみられた2個体について色素分析を行ったところ、いずれもシアニジン、ペラルゴニジンの蓄積が確認された(表2)。この結果により、品種ティネケはDFR遺伝子が欠損した品種であるということが推察された。

[実施例8]ティネケへのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#18)とペチュニア由来DFR遺伝子の導入
パンジー(品種ブラックパンジー)の若い蕾の花弁からTurpenとGriffithの方法(BioTechniques 4:11−15,1986)に従ってRNAを抽出し、oligotex−dT(Qiagen)を用いてpolyA+RNAを精製した。本polyA+RNAとλZAPII/GigapackIIクローニングキット(Stratagene)を用いて、パンジー若い蕾の花弁に由来するcDNAライブラリーを作製した。NZYプレート上で生育させた約100,000pfuのファージプラークをColony/PlaqueScreen(Dupont)に転写した後、製造元推奨の方法に従って処理をした。これらを32Pでラベルした、ペチュニアHf1cDNA(pCGP602、Holton et al.,Nature,366,p276−279,1993)をプローブとしてスクリーニングした。
メンブレンをハイブリダイゼーションバッファー(10%(v/v)ホルムアミド、1M NaCl,10%(w/v)デキストランサルフェート、1%SDS)中で42℃、1時間プレハイブリダイゼーションした後、32Pラベルしたプロープを1x10cpm/mlとなるように加えて、42℃、16時間ハイブリダイゼーションを行った。その後、メンブレンを2xSSC,1%SDS中、42℃、1時間洗浄し、さらに新たな洗浄液に換えて1時間洗浄した。洗浄後のメンブレンをコダックXARフィルムに増感スクリーンとともに感光させ、ハイブリダイゼーションシグナルを検出した。
得られたcDNAの解析の結果、ペチュニアHf1と高い同一性を示す2種類のcDNAが得られたことが明らかとなった。この2種類のcDNAをパンジーのF3’,5’H cDNA,BP#18(pCGP1959)ならびにBP#40(pCGP1961)とした。#18の塩基配列を配列番号:1、そのアミノ酸配列を配列番号:2に示し、#40の塩基配列を配列番号:3、そのアミノ酸配列を配列番号:4に示す。BP#18とBP#40はDNAレベルで82%の同一性を有する。またBP#18とBP#40はともにDNAレベルで、ペチュニアHf1と60%、ペチュニアHf2(Holton et al.,Nature,366,p276−279,1993)と62%の同一性を示す。
一方、pUE5をEcoRIで消化し、Blunting Kit(タカラ)を用いて平滑末端にしたDNA断片と8bpのHindIIIリンカー(タカラ)とライゲーションし、得られたプラスミドをpUE5Hとした。パンジー由来のF3’5’H#18 cDNAを含むプラスミド pCGP1959(をBamHIで完全消化し、さらにXhoIで部分消化し得られる約1.8kbのDNA断片を回収した。一方、これとBamHIとXhoIで消化したpUE5Hとライゲーションし得られたプラスミドをpUEBP18とした。
一方、ペチュニアDFR cDNAを含むDNA断片を、pCGP1403(WO96/36716)をBamHIとXhoIで消化することにより回収し、このDNA断片とBamHIとXhoIで消化したpBE5と連結し、pBEPD2とした。次にpUEBP18をHindIIIで部分消化し、El235Sプロモーター、パンジー由来F3’5’H#18cDNA、nosターミネーターを含む約2.8kbのDNA断片を回収した。この断片とpBEPD2をHindIIIで部分消化したDNA断片とを連結し、バイナリーベクタープラスミドpBPDBP2(図3)を得た。このプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)Ag10株に導入した。
白色系バラ品種「ティネケ」へpBPDBP2(図3)を導入し、40個体の形質転換体を得た。得られた形質転換体のうち23個体で花色が変化し、色素分析を行った19個体のうち16個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表3)。デルフィニジン含有率は最高100%(平均87%)となったが、色素量が最高でも花弁1gあたり0.035mgと極めて少なく、花色はRHSカラーチャート158d(YELLOW−WHITE GROUP)から、56a(RED GROUP)や65b(RED−PURPLE GROUP)への変化に止まりRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。

[実施例9]ティネケへのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とペチュニア由来DFR遺伝子の導入
プラスミドpE2113(Mitsuhara et al.Plant Vell Physiol.37,45−59 1996)をHindIIIとXbaIで消化して得られる約800bpのDNA断片を回収し、HindIIIとXbaIで消化したpBin19(Bevan M,Binary Agrobacterium Vector for plant transformation.Nucl.Acid Res.12.8711−21,1984)に連結した。得られたプラスミドをpCGP1391とした。一方、pCGP669(WO94/28140に記載)はペチュニアのカルコンシンターゼA(CHS−A)遺伝子のプロモーターを含んでいる。このプラスミドをEcoRIで消化した後平滑末端化し、さらにHindIIIで消化した。
この約700bpのDNA断片をHindIIIとSnaBIで消化したpCGP1391と連結し、得られたプラスミドをpCGP1707とした。また、パンジー由来のF3’5’H#40 cDNAを含むプラスミドpCGP1961をBamHIで完全消化し、さらにXhoIで部分消化し得られる約1.8kbのDNA断片を回収し、これとBamHIとXhoIで消化したpUE5Hとライゲーションし得られたプラスミドをpUEBP40とした。pUEBP40をEcoRVとXbaIで消化した約5.5kbのDNA断片を回収した。
この断片と、pCGP1707をHindIIIで消化後平滑末端化し、さらにXbaIで消化して得られる約700bpの断片を連結し、pUFBP40を得た。次にpUFBP40をHindIIIで部分消化し、カリフラワー35Sプロモーターエンハンサー、CHS−Aプロモーター、パンジー由来F3’5’H#40 cDNA、nosターミネーターを含む約3.4kbのDNA断片を回収した。この断片とpBEPD2をHindIIIで部分消化したDNA断片とを連結し、バイナリーベクタープラスミドpBPDBP8(図4)を得た。このプラスミドをAgrobacterium tumefaciens Ag10株に導入した。
白色系バラ品種「ティネケ」へpBPDBP8(図4)を導入し、53個体の形質転換体を得た。得られた形質転換体のうち17個体で花色が変化し、色素分析を行った9個体のうち8個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表4)。デルフィニジン含有率は最高93%(平均79%)となったが、色素量が最高でも花弁1gあたり0.014mgと極めて少なく、花色はRHSカラーチャート158d(YELLOW−WHITE GROUP)から、56a(RED GROUP)や65b(Red−Purple Group)への変化に止まりRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。また、以上は品種ティネケがDFR遺伝子のみが欠損した品種ではないことを示唆している。

[実施例10]WKS36へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#18)とペチュニア由来DFR遺伝子の導入
白色系バラ「WKS36」へpBPDBP2(図3)を導入し、138個体の形質転換体を得た。得られた形質転換体のうち10個体で花色が変化し、全ての個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表5)。デルフィニジン含有率は最高91%(平均60%)となったが、色素量が花弁1gあたり0.033mgと極めて少なく、花色はごく薄いピンクへの変化に止まりRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。また、以上は品種WKS36はDFR遺伝子のみが欠損した品種ではないことを示唆している。

[実施例11]WKS36へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#18)とペチュニア由来DFR遺伝子の導入
pUCAP(van Engelen et al.Transgenic Research 4,288−290,1995)のAscI部位をPacIリンカーで置換したプラスミドをpUCPPとした。一方、バラのカルコンシンターゼプロモーターとパンジー由来のF3’5’H#18cDNAとnosターミネーターを連結した発現カセットを以下のように得た。
バラ品種Kardinalの若い葉から染色体DNAを抽出した(Tanaka et al.,Plant Cell Physiol.,36:1023−1031,1995)。約100μgのDNAをSau3AIで部分消化し、ショ糖密度勾配により約20kbのDNA画分を回収した。
これとBamHIで消化したラムダファージEMBL3(たとえばストラタジーン社)と連結し、製造者が推奨する方法で染色体DNAライブラリーを作製した。このライブラリーをバラのカルコンシンターゼcDNA(DNAデータベースGenBankのアクセション番号AB038246)をプローブとして公知の方法(Tanaka et al.,Plant Cell Physiol.,36:1023−1031,1995)でスクリーニングした。得られたカルコンシンターゼの染色体クローンのうちラムダCHS20にはカルコンシンターゼの開始コドンの上流約6.4kbのDNA配列が含まれていた。ラムダCHS20をHindIIIとEcoRVで消化して得られる約2.9kbのDNA断片にはカルコンシンターゼのプロモーター領域が含まれている。
この断片をpUC19(Yanisch−Perron C et al.,Gene 33:103−119,1985)をHindIIIとSmaIで消化した断片と連結した。これをpCGP1116とした。これに含まれるカルコンシンターゼプロモーター部分の配列は配列番号:21に示した。pCGP1116をHindIIIとKpnIで消化して得られる約2.9kbのDNA断片と、pJB1(Bodeau,Molecular and genetic regulation of Bronze−2 and other maize anthocyanin genes.Dissertation(学位論文),Stanford University,USA,1994)をHindIIIとKpnIで消化して得られるDNA断片を連結しpCGP197を得た。
他方、pUE5をSacIとKpnIで消化して得られる約300bpのノパリンシンターゼターミネーターを含むDNA断片を平滑末端化し、EcoRVとBamHIで消化しさらに平滑末端化したpBluescriptSK−と結合した。得られるプラスミドのうちターミネーターの5’側がpBluescriptSK−のSalIに近いものをpCGP1986とした。pCGP1986をXhoIで消化し、平滑末端化し、さらにSalIで消化したDNA断片と、pCGP197をHindIIIで消化した後平滑末端化しさらにSalIで消化して得られるDNA断片を連結し、pCGP2201を得た。
さらに、pCGP2201をSalIで消化し、平滑末端化したDNA断片とpCGP1959をBamHIとKpnIで消化しさらに平滑末端化した約1.7kbのDNA断片(パンジーのフラボノイド3’,5’−水酸化酵素遺伝子を含む)を連結した。得られるプラスミドのうちバラカルコンシンターゼプロモーターがパンジーのフラボノイド3’,5’−水酸化酵素遺伝子を順方向に転写できる向きに挿入されたものをpCGP2203とした。プラスミドpCGP2203をHindIIIとSacIで消化することにより回収した。このDNA断片をpUCPPのHindIIIとSacI部位にクローニングし、これをpSPB459とした。次にプラスミドpE2113をSnaBIで消化し、BamHIリンカー(タカラ)を挿入して得られたプラスミドをpUE6とした。
pUE6をHindIIIとBamHIで消化して得られる約700bpのDNA断片と、pCGP1405(WO96/36716)をBamHIとBglIIで消化して得られる約2.2kbのDNA断片と、HindIIIとBamHIで消化したバイナリーベクターpBinplus(van Engelen et al.Transgenic Research 4,288−290,1995)を連結し、pSPB460を得た。pSPB459をPacIで消化して得られる約5kbのDNA断片を、pSPB460のPacIサイトに導入することによって、バイナリーベクター上でペチュニアDFRとパンジーF3’5’H#18遺伝子が順方向に連結されたpSPB461(図5)を得た。本プラスミドは植物においてはペチュニア由来のDFR遺伝子を構成的に発現し、パンジー由来のF3’5’H#18遺伝子を花弁特異的に転写するように工夫されている。このプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)Ag10株に導入した。
白色系バラ「WKS36」へpSPB461(図5)を導入し、229個体の形質転換体を得た。得られた形質転換体のうち16個体で花色が変化し、色素分析を行った12個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表6)。デルフィニジン含有率は最高79%(平均58%)となったが、色素量が花弁1gあたり0.031mgと極めて少なく、花色はごく薄いピンクへの変化に止まりRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。また品種WKS36はDFR遺伝子のみが欠損した品種ではないことを示唆された。

[実施例12]WKS36へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#18)、ペチュニア由来DFR遺伝子およびシソ由来アントシアニン3−グルコシドアシル基転移酵素遺伝子の導入
シソ由来のヒドロキシシナモイルCoA:アントシアニン3−グルコシドアシル基転移酵素(3AT)遺伝子に開始コドンを付加した遺伝子をpSAT208F(Yonekura−Sakakibara et al.Plant Cell Physiol.41,495−502,2000)とした。pSPB580(PCT/AU03/00079)をBamHIとXhoIで消化して得られる約3.9kbのDNA断片とpSAT208FをBamHIとXhoIで消化して得られる約1.8kbのDNA断片を連結した。
得られたプラスミドをAscIで消化することにより、E1235Sプロモーターとシソ3AT遺伝子とペチュニアフォスフォリピドトランアスファー蛋白質由来のターミネーターを含むDNA断片を回収した。このDNA断片を前述のpSPB461のAscI部位に挿入し、シソ由来3AT、ペチュニア由来DFR,パンジー由来F3’5’H#18の遺伝子の転写方向が順方向になっているプラスミドpSPB472(図6)を得た。本プラスミドは植物においてはシソ由来3AT遺伝子とペチュニア由来DFR遺伝子を構成的に発現し、パンジー由来F3’5’H#18遺伝子を花弁特異的に転写するように工夫されている。このプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)Ag10株に導入した。
白色系バラ「WKS36」へpSPB472(図6)を導入し、75個体の形質転換体を得た。得られた形質転換体のうち4個体で花色が変化し、色素分析を行った3個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表7)。デルフィニジン含有率は最高67%(平均49%)となったが、色素量が花弁1gあたり0.011mgと極めて少なく、花色はごく薄いピンクへの変化に止まりRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。以上も品種WKS36はDFR遺伝子のみが欠損した品種ではないことを示唆している。

このように多数の白いバラをスクリーニングしたにもかかわらずDFR遺伝子のみが欠損した品種を得ることができなかった。すなわち、青色のカーネーションを作出した方法(WO94/28140)では青いバラを得ることはできなかった。
[実施例13]コサプレッションによるバラ由来DFR遺伝子の抑制
藤色系バラ品種「ラバンデ」へpBERD1を導入し、26個体の形質転換体を得た。しかし、花色の変化した個体は全く得られず、コサプレッション法ではバラの内在性のDFR遺伝子を抑制することが困難であることが示唆された。
[実施例14]有色バラのスクリーニング
次に有色のバラの中から、青いバラを作製するための品種を選抜することにした。有色のバラの中で相対的に青みを帯びている品種を中心に目視により136系統を選抜し、89系統について色素分析を行った。調査した有色バラの分析値を表8〜表10に示す。



[実施例15]ラバンデへのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
アントシアニンを芳香族アシル基により修飾することによりアントシアニンを安定化させ、かつその色を青くすることができる(たとえば、WO96/25500)。アシル化したデルフィニジン型アントシアニンの生産を目指して以下の実験を行った。
トレニア品種サマーウェーブ花弁からRNAを得、さらにこれからpolyARNAを調製した。このpolyARNAからλZAPII(Stratagene社)をベクターとするcDNAライブラリーをdirectional cDNAライブラリー作製キット(Stratagene社)を用いて製造者が推奨する方法で作製した。トレニアの主要アントシアニンはその5位のグルコースが芳香族アシル基により修飾されている(Suzuki et al.Molecular Breeding 2000 6,239−246)ので、トレニア花弁においてはアントシアニンアシル基転移酵素が発現している。
アントシアニンアシル基転移酵素はAsp−Phe−Gly−Trp−Gly−Lysというアミノ酸配列が保存されており、これに対応する合成DNAをプライマーとして用いることによりアントシアニンアシル基転移酵素遺伝子を取得することができる(WO96/25500)。具体的には、トレニアcDNAライブラリー作製の際に合成した1本鎖cDNA10ngを鋳型とし、100ngのATCプライマー(5’−GA(TC)TT(TC)GGITGGGGIAA−3’、Iはイノシン)(配列番号:17)、100ngのオリゴdTプライマー(5’−TTTTTTTTTTTTTTTTTCTCGAG−3’)(配列番号:18)をプライマーとし、Taqポリメラーゼ(タカラ、日本)を用いて製造者の推奨する条件でPCRを行った。
PCRは、95℃にて1分間、55℃にて1分間、及び72℃にて1分間を1サイクルとする反応を25サイクル行った。得られた約400bpのDNA断片をGene Clean II(BIO,101.Inc.)により製造者の推奨する方法で回収し、pCR−TOPOにサブクローニングした。その塩基配列を決定したところリンドウのアシル基転移酵素遺伝子(Fujiwara et al.(1998)Plant J.16 421−431)に相同な配列が見られた。なお塩基配列はダイプライマー法(アプライドバイオシステムズ社)を用い、シークエンサー310あるいは377(いずれもアプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した。
このDNA断片をDIG標識検出キット(日本ロッシュ)を用いてDIGにより標識し、製造者が推奨する方法でトレニアのcDNAライブラリーをプラークハイブリダイゼーション法によりスクリーニングした。得られたポジティブシグナルをもたらしたクローンを無作為に12選択し、そこからプラスミドを回収し、塩基配列を決定した。これらはアントシアニンアシル基転移酵素によい相同性を示した。これらのクローンのうちpTAT7としたクローンに含まれるcDNAの全塩基配列を決定した。この塩基配列を配列番号:7に示し、そしてそてに対応するアミノ酸配列を配列番号:8に示す。
pBE2113−GUS(Mitsuhara et al.Plant Vell Physiol.37,45−59 1996)をSacIで消化した後、平滑末端化し、8bpのXhoIリンカー(タカラ)を挿入した。このプラスミドのBamHIとXhoI部位にpTAT7をBamHIとXhoIで消化して得られる約1.7kbのDNAを挿入し、pSPB120を得た。pSPB120をSnaBIとBamHIで消化した後平滑末端化しライゲーションすることによりpSPB120’を得た。一方、パンジー由来のF3’5’H#40 cDNAを含むプラスミドpCGP1961をBamHIで完全消化し、さらにXhoIで部分消化し得られる約1.8kbのDNA断片を回収し、これとBamHIとXhoIで消化したpUE5Hとライゲーションし得られたプラスミドをpUEBP40とした。
pUEBP40をSnaBIとBamHIで消化した後平滑末端化しライゲーションすることによりpUEBP40’を得た。pUEBP40’をHindIIIで部分消化し得られる約2.7kbのDNA断片を回収し、pSPB120’をHindIIIで部分消化したDNA断片と連結した。得られたプラスミドのうち、バイナリ−ベクター上でライトボーダー側から、ネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子、パンジー由来F3’5’H#40遺伝子、トレニア由来5AT遺伝子の順にそれぞれが同方向に連結されたバイナリ−ベクターをpSPB130(図7)とした。本プラスミドは植物においてはパンジー由来F3’5’H#40遺伝子とトレニア由来5AT遺伝子構成的に発現し、遺伝子を花弁特異的に転写するように工夫されている。このプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)Ag10株に導入した。
藤色系バラ品種「ラバンデ」へpSPB130(図7)を導入し、41個体の形質転換体を得た。色素分析を行った32個体のうち20個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表11及び表12)。デルフィニジン含有率は最高71%(平均36%)であった。花色はRHSカラーチャート186c(GRAYED−PURPLE GROUP)から79d(PURPLE GROUP)へ変化した。またこの際のアシル化アントシアニンの割合は総アントシアニンの30%程度に留まった。アシル化されたアントシアニンのスペクトルを測定したところ、その吸収極大波長はデルフィニジン3,5−ジグルコシドよりも4nm長波長シフトしていたが、総アントシアニン中の割合が低いため、花色に明瞭な効果を与えるには至らなかった。


[実施例16]WKS100へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
藤色系バラ「WKS100」へpSPB130(図7)を導入し、146個体の形質転換体を得た。色素分析を行った63個体のうち56個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表13〜表15)。デルフィニジン含有率は最高95%(平均44%)であった。花色はRHSカラーチャート56d(RED GROUP)から186d(GRAYED−PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。



[実施例17]WKS116へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
薄藤色系バラ「WKS116」へpSPB130(図7)を導入し、282個体の形質転換体を得た。色素分析を行った36個体のうち33個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表16及び表17)。デルフィニジン含有率は最高80%(平均73%)であった。RHSカラーチャート196d(GRAYED−GREEN GROUP)から186d(GREYED−PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。


[実施例18]WKS124パンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
薄橙色系バラ「WKS124」へpSPB130(図7)を導入し、50個体の形質転換体を得た。色素分析を行った15個体のうち13個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表18)。デルフィニジン含有率は最高95%(平均82%)であった。花色はRHSカラーチャート52d(RED GROUP)から71c(RED−PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。

[実施例19]WKS132へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
鮮紅色系バラ「WKS132」へpSPB130(図7)を導入し、24個体の形質転換体を得た。色素分析を行った7個体のうち6個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表19)。デルフィニジン含有率は最高43%(平均12%)であった。花色はRHSカラーチャート57a(RED−PURPLE GROUP)から66a(RED−PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。

[実施例20]WKS133へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
濃赤紫系バラ「WKS133」へpSPB130(図7)を導入し、16個体の形質転換体を得た。色素分析を行った8個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表20)。デルフィニジン含有率は最高34%(平均11%)であった。花色はRHSカラーチャート53a(RED GROUP)から61a(RED−PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。

[実施例21]WKS137へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
濃赤紫系バラ「WKS137」へpSPB130(図7)を導入し、20個体の形質転換体を得た。色素分析を行った17個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表21)。デルフィニジン含有率は最高1.3%(平均0.4%)であった。花色はRHSカラーチャート61b(RED−PURPLE GROUP)から変化はみられなかった。

[実施例22]WKS140へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
藤色系バラ「WKS140」へpSPB130(図7)を導入し、197個体の形質転換体を得た。色素分析を行った45個体のうち37個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表22及び表23)。デルフィニジン含有率は最高94%(平均47%)であった。花色はRHSカラーチャート186d(GREYED−PURPLE GROUP)から79d(PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。


[実施例23]WKS77へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
濃赤紫系バラ「WKS77」へpSPB130(図7)を導入し、35個体の形質転換体を得た。色素分析を行った17個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表24)。デルフィニジン含有率は最高57%(平均33%)であった。花色はRHSカラーチャート57a(RED−PURPLE GROUP)から71a(RED−PURPLE GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。

[実施例24]WKS82へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
藤色系バラ「WKS82」へpSPB130(図7)を導入し、89個体の形質転換体を得た。色素分析を行った44個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表25及び表26)。デルフィニジン含有率は最高91%(平均49%)であった。花色はRHSカラーチャート186d(GREYED−PURPLE GROUP)から80c(PURPLE−VIOLET GROUP)へ変化した。しかしながらRHSCCのバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループ、ブルーグループには至らず、目的の青いバラを得ることは出来なかった。


[実施例25]WKS91へのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とトレニア由来アントシアニン5−アシル基転移酵素遺伝子の導入
薄橙色系バラ「WKS91」へpSPB130(図7)を導入し、10個体の形質転換体を得た。色素分析を行った2個体のうち1個体のみでデルフィニジンの蓄積を確認した(表27)。デルフィニジン含有率は最高2%であった。花色はRHSカラーチャート43c(RED GROUP)から変化がみられなかった。

[実施例26]ラバンデでのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とアーイリス由DFR遺伝子の発現とバラ内在性DFR遺伝子の抑制
切花の青いアイリス花弁からRNAを得、さらにこれからpolyARNAを調製した。このpolyARNAからλZAPII(Stratagene社)をベクターとするcDNAライブラリーをcDNAライブラリー作製キット(Stratagene社)を用いて製造者が推奨する方法で作製した。アイリスのDFR遺伝子断片は、リンドウのDFR遺伝子断片を取得した報告と同様に行った(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.37,711−716,1996)。
得られた約400bpのDNA断片をジーンクリーンにより製造者の推奨する方法で回収し、pCR−TOPOにサブクローニングした。その塩基配列を決定したところバラDFR遺伝子に相同な配列が見られた。このDNA断片を用いてアイリスcDNAライブラリーをスクリーニングし、全長のアミノ酸配列を含むアイリスDFRcDNAを得た。そのうちpSPB906としたクローンに含まれるcDNAの全塩基配列を決定した。この塩基配列を配列番号:9に示し、そして対応するアミノ酸配列を配列番号:10に示す。
次にpSPB580をBamHIとXhoIで消化して得られる約3.9kbのDNA断片とpSPB906をBamHIとXhoIで消化して得られる約1.5kbのDNA断片を連結し得られたプラスミドをpSPB909とした。
植物中でバラDFRcDNAの二本鎖RNAを転写するは次のように作製した。pCGP1364(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.(1995)36 1023−1031)をPstIで部分消化して得られる約3.5kbのDNA断片(Mac1プロモーター、バラDFRcDNA,masターミネーターを含む)をpUC19(Yanisch−Perron C et al.,Gene 33:103−119,1985)のPstI部位に挿入することによって得られるプラスミドのうちpUC19のHindIII部位がMacIプロモーターに近接しているものをpCGP1394とした。
次に、pCGP1394をHindIIIとSacIIで消化して得られる約1.4kbのDNA断片と、pCGP1394をPstIで消化した後平滑末端化しさらにSacIIで消化して得られる約1.9kbのDNA断片と、pBinPLUSをSacIで消化した後平滑末端化しさらにHindIIIで消化して得られるバイナリ−ベクター断片を連結しpSPB185を得た。pSPB185をXbaIで消化し、平滑末端化し、SalIリンカーとライゲーションすることにより、pSPB521を得た。pUE6をHindIIIとBamHIで消化して得られる約700bpのDNA断片と、pSPB521をHindIIIとSacIで消化して得られるバイナリ−ベクターDNA断片とpE2113をBamHIとSacIで消化して得られるGUS遺伝子DNA断片を連結することによりpSPB528を得た。
pSPB528はエンハンサーを有するカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーターとマノピンシンターゼターミネーターの間に構造遺伝子を挿入し植物で発現させることができるバイナリ−ベクターである。また、pCGP645に含まれるバラDFRcDNAの5’非翻訳領域配列を短くするためにpCGP645をSmaIとPvuIで消化した後平滑末端化し、ライゲーションして得られたpCGP645sを得た。
バラDFRcDNAの5’側配列を、pCGP645sを鋳型にリバースプライマーと合成プライマーRDF310(5’−CCCTCGAGCCCTTGATGGCCTCGTCG−3’)(配列番号:19)をプライマーに用いてPCRにより増幅することにより取得し、pCRTOPOにクローニングした。DNAの塩基配列を決定しPCRによるエラーがないことを確認した。これをpSPB569とした。また長さの異なるバラDFRcDNAの5’側配列を、pCGP645sを鋳型にリバースプライマーと合成プライマーRDF830(5’−GGGTCGACGCGGCCCTCTGCTTTCGG−3’)(配列番号:20)をプライマーに用いてPCRにより増幅することにより取得し、pCRTOPOにクローニングした。DNAの塩基配列を決定しPCRによるエラーがないことを確認した。
これをpSPB570とした。pSPB528をBamHIとSacIで消化して得られるバーナリーベクターのDNA断片と、pSPB569をSacIとXhoIで消化して得られる0.3kbのDNA断片とpSPB570をBamHIとSalIで消化して得られるDNA断片を連結しpSPB572を得た。本ベクターは植物中でバラDFRcDNAの二本鎖RNAを転写するようにデザインされている。
pUE6をSacIで消化し、平滑末端化し、SalIリンカーを挿入しpUE8を得た。pUE8をHindIIIとEcoRIで消化して得られるDNA断片をpBinPLUSのHindIIIとEcoRI部位に導入し、pSPB189とした。pSPB189をBamHIとSalIで消化して得られる約3.7kbのDNA断片とpCGP1961をBamHIで完全消化しさらにXhoIで部分消化して得られる約1.8kbのDNA断片を連結しpSPB567を得た。pSPB572をPacI消化し、脱リン酸化処理を行った後、pSPB567をPacIで消化して得られる約2.8kbのDNA断片を連結し、nptII遺伝子とパンジー由来のF3’5’H#40が同じ向きに転写されるプラスミドを選択し、pSPB905とした。
pSPB905をAscIで消化し、脱リン酸化処理を行った後、pSPB909をAscIで消化して得られる約2.5kbのDNA断片を連結し、nptII遺伝子と同じ方向にアイリスDFR遺伝子が転写されるプラスミドを得、pSPB919(図8)とした。本プラスミドはバラにおいてはアイリス由来のDFR遺伝子とパンジー由来のF3’5’H#40遺伝子を転写し、バラのDFR遺伝子の発現を二本鎖RNAの転写により抑制することが期待される。このプラスミドをAgrobacterium tumefaciens AglO株に導入した。
藤色系バラ品種「ラバンデ」へpSPB919(図8)を導入し、87個体の形質転換体を得た。色素分析を行った38個体のうち31個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表28及び表29)。デルフィニジン含有率は最高100%(平均76%)であった。花色はRHSカラーチャート186c(GREYED−PURPLE GROUP)から85a,b(VIOLET GROUP)へと大きく変化した。
バラ花弁からRNAを前述のように抽出し、アガロースゲル電気泳動によりRNAを分離した後ハイボンドN(アマシャム社)に転写した(たとえばTanaka et al.1995)。mRNAの検出はDIG Northern Starter Kit(Roche)を用いて製造者の推奨する方法により行った。バラDFRmRNAの検出にはpCGP645(Tanaka et al.Plant Cell Physiol.36,1023−1031 1995)を鋳型として用いてT7プライマーで転写したものをプローブとして用いた。
パンジーF3’5’H#40 mRNAの検出にはpCGP1961を鋳型として用いてT7プライマーで転写したものをプローブとして用いた。アイリスDFRmRNAの検出にはpSPB906を鋳型として用いてT7プライマーで転写したものをプローブとして用いた。色の変化したバラにおいては、パンジー由来F3’5’H#40とアイリスDFR遺伝子のmRNAは検出された。一方、バラDFRmRNAは宿主に比べ有意に減少しており、低分子量の位置にバンドが検出されることからバラDFR mRNAの分解が起こっていることがわかった。


[実施例27]ラバンデでのパンジー由来F3’5’H遺伝子(#40)とニーレンベルギア由来DFR遺伝子の発現とバラ内在性DFR遺伝子の抑制
ニーレンベルギア(Nierembergia hybrida)品種フェアリーベルパティオライトブルー(サントリーフラワーズ株式会社)の花弁からRNAを得、さらにこれからpolyARNAを調製した。このpolyARNAからλZAPII(Stratagene社)をベクターとするcDNAライブラリーをcDNAライブラリー合成キット(Stratagene社)を用いて製造者が推奨する方法で作製した。このcDNAライブラリーをDIG標識したペチュニアDFRcDNA(pCGP1405に由来)を用いてスクリーニングした。
スクリーニングの条件はDIG標識システムで製造者が推奨するプラークハイブリダイゼーション方法に従った。ただし、プレハイブリダイゼーションならびにハイブリダイゼーションバッファー中のホルムアミド濃度30%とし、37℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。またメンブレンの洗浄は、1%SDSを含む5xSSC中55℃で行った。得られた多数のポシティブなシグナルのうち20プラークからプラスミドを回収し、リバースプライマー(タカラ)を用いて塩基配列の決定を行った。これらはペチュニアはじめ他の植物のDFR遺伝子に相同性を示した。これらのうちpSPB709としたクローンのcDNAの全配列を決定した。得られた塩基配列を配列番号:11に示し、そしてそれに対応するアミノ酸配列を配列番号:12に示す。
pSPB580をBamHIとXhoIで消化して得られる約3.9kbのDNA断片とpSPB709をBamHIとXhoIで消化して得られる約1.5kbのDNA断片を連結し得られたプラスミドをpSPB910とした。pSPB905をAscIで消化し、脱リン酸化処理を行った後、pSPB910をAscIで消化して得られる約2.5kbのDNA断片を連結し、nptII遺伝子と同じ方向にニーレンベルギアDFR遺伝子が転写されるプラスミドを得、pSPB920(図9)とした。本プラスミドはバラにおいてはニーレンベルギア由来のDFR遺伝子とパンジー由来のF3’5’H#40遺伝子を転写し、バラのDFR遺伝子の発現を二本鎖RNAの転写により抑制することが期待される。このプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)AglO株に導入した。
藤色系バラ品種「ラバンデ」へpSPB920(図9)を導入し、56個体の形質転換体を得た。色素分析を行った24個体のうち23個体でデルフィニジンの蓄積を確認した(表30)。デルフィニジン含有率は最高100%(平均43%)であった。花色はRHSカラーチャート186c(GREYED−PURPLE GROUP)から85b(VIOLET GROUP)へと変化した。

[実施例28]後代への形質の遺伝
藤色系バラ品種「ラバンデ」へpSPB919(図8)を導入し得られた形質転換体(LA/919−2−13)を花粉親に用い、母親として非組換え体のWKS77あるいはWKS133を用いて交配(鈴木省三,「ばら、花図譜」、小学館,p.256−260、1990)を行った。受粉後100日目に果実を収穫した。播種は、まず果実を剥いて痩果を採取し、さらに痩果を剥いて胚を取り出した後、シャーレ内の湿らせたろ紙上に置床した。播種時に使用する水は滅菌水にPPMTM(Plant Preservative Mixture,PLANT CELL TECHNOLOGY,INC.)を1ml/l、カナマイシンを50mg/l添加したものを用い、正常に発芽したもののみを鉢上げし、育苗を行った。
得られた形質転換体後代のうち、色素分析を行った40個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した(表31及び表32)。デルフィニジン含有率は最高99%(平均46%)であった。


[実施例29]WKS140でのパンジーF3’5’H#40遺伝子とアイリスDFR遺伝子の発現とバラ内在性DFR遺伝子の抑制
藤色系バラ品種「WKS140」へpSPB919を導入し、89個体の形質転換体を得た。色素分析を行った79個体のうち74個体でデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高100%(平均68%)であった。花色はRHSカラーチャート186d(GREYED−PURPLE GROUP)から主に84c(VIOLET GROUP)へと変化した。

[実施例30]WKS77でのパンジーF3’5’H#40遺伝子とアイリスDFR遺伝子の発現とバラ内在性DFR遺伝子の抑制
濃赤紫系バラ品種「WKS77」へpSPB919を導入し、50個体の形質転換体を得た。色素分析を行った23個体のうち21個体でデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高81%(平均19%)であった。花色はRHSカラーチャート57a(RED−PURPLE GROUP)から77b(PURPLE GROUP)へ変化した。

[実施例31]WKS77でのパンジーF3’5’H#40遺伝子とニーレンベルギアDFR遺伝子の発現とバラ内在性DFR遺伝子の抑制
濃赤紫系バラ「WKS77」へpSPB920を導入し、30個体の形質転換体を得た。色素分析を行った27個体中、26個体でデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高98%(平均60%)であった。花色はRHSカラーチャート57a(RED−PURPLE GROUP)から77b(PURPLE GROUP)へ変化した。

[実施例32]WKS77でのパンジーF3’5’H#40遺伝子とペチュニアDR遺伝子の発現とバラ内在性DFR遺伝子の抑制
濃赤紫系バラ「WKS77」へpSPB921を導入し、15個体の形質転換体を得た。色素分析を行った13個体のうち12個体でデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高98%(平均60%)であった。花色はRHSカラーチャート57a(RED−PURPLE GROUP)から72b(RED−PURPLE GROUP)へ変化した。

[実施例33]後代への形質の遺伝
藤色系バラ品種「ラバンデ」へpSPB919を導入し得られた形質転換体(LA/919−4−10)を花粉親に用い、母親として非組換え体バラの品種ブラックバカラを用いて実施例28と同様に交配を行った。受粉後100日目に果実を収穫した。播種は、まず果実を剥いて痩果を採取し、さらに痩果を剥いて胚を取り出した後、シャーレ内の湿らせたろ紙上に置床した。播種時に使用する水は滅菌水にPPMTM(Plant Preservative Mixture,PLANT CELL TECHNOLOGY,INC.)を1ml/l、カナマイシンを50mg/l添加したものを用い、正常に発芽したもののみを鉢上げし、育苗を行った。
得られた形質転換体後代のうち、色素分析を行った18個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高99.8%(平均98.7%)であった。

[実施例34]WKS77でのパンジーF3’5’H#40遺伝子の発現とバラ内在性F3’H遺伝子の抑制
濃赤紫系バラ品種「WKS77」へpSPB1106(図10)を導入し、40個体の形質転換体を得た。色素分析を行った26個体全てでデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高80.0%(平均30.5%)であった。花色はRHSカラーチャート57a(RED−PURPLE GROUP)から83d(VIOLET GROUP)へと大きく変化した。

[実施例35]LavandeでのパンジーF3’5’H#40遺伝子の発現とバラ内在性F3’H遺伝子の抑制
藤色系バラ品種「Lavande」へpSPB1106を導入し、40個体の形質転換体を得た。色素分析を行った25個体のうち23個体でデルフィニジンの蓄積を確認した。デルフィニジン含有率は最高98.3%(平均46.9%)であった。

以上は導入した外来遺伝子が後代へ伝達され、かつその遺伝子が後代において発現し、本来バラ花弁では見られないディフィニジンを生成するという形質が後代のバラに伝わることを示している。したがって、本遺伝子を用いて色の変化したバラを交配育種することによって、青や紫を含む新しい色のバラを作出できることを示している。
【産業上の利用可能性】
バラの内在性の代謝経路の働き、例えばジヒドロフラボノール還元酵素の発現、を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子及びバラ以外の由来のジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子を発現させることにより、青〜紫のバラを作出することが出来る。また、これらの遺伝子は次の世代にも伝達され、青いバラの形質は交配により利用されうることもわかった。
【配列表】




























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラの内在性の代謝経路を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とするバラの製造方法。
【請求項2】
バラの内在性の代謝経路を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子及びジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とする請求項1記載のバラの製造方法。
【請求項3】
バラの内在性のジヒドロフラボノール還元酵素の発現を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子及びバラ以外の由来のジヒドロフラボノール還元酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とする請求項2記載のバラの製造方法。
【請求項4】
バラの内在性のフラボノイド3’−水酸化酵素の発現を人為的に抑制し、かつパンジー由来のフラボノイド3’,5’−水酸化酵素をコードする遺伝子を発現させることを特徴とする請求項1記載のバラの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法により得られるバラもしくはそれと同じ性質を有するその子孫またはそれらの組織。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法により得られたバラの花弁の色が、紫、青紫又は青であるバラもしくはそれと同じ性質を有する子孫またはそれらの組織。
【請求項7】
バラの花弁の色が、イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)のバイオレットグループ、バイオレット−ブルーグループまたはブルーグループに属するものであり、請求項6記載のバラもしくはそれと同じ性質を有する子孫またはそれらの組織。
【請求項8】
バラの花弁の色が、イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)のバイオレットグループの85aまたは85bに属するものである、請求項7記載のバラもしくはそれと同じ性質を有する子孫またはそれらの組織。

【国際公開番号】WO2005/017147
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513219(P2005−513219)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011958
【国際出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(599093731)インターナショナル フラワー ディベロプメンツ プロプライアタリー リミティド (5)
【Fターム(参考)】