説明

苗の移植補助ステーション

【課題】 障害物が密集した場所やインビトロ等の狭い作業空間において、培養した無菌の植物を分割し、発根用容器に移し替える移植工程の自動化を可能にする苗の移植補助ステーションの提供。
【解決手段】 一対の把持爪と、把持爪とアクチュエータとを連結する一部または全部が弾性特性を有する材料からなる把持力伝達系とを備え、アクチュエータの駆動により把持力伝達系および/または把持爪に撓みを生じさせながら脆弱物を把持するロボットハンドを、XYZ方向に移動可能なマニピュレータに連結した苗の移植補助ステーション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼芽をインビトロで培養するに際し、幼芽の下葉等を機械的に調整することができる苗の移植補助ステーションに関し、特に無菌クローン苗の移植において、培養した無菌の幼苗を分割し、下葉等を調整し、発根用容器に移し替えるといった作業の自動化をクリーンベンチ内で可能にする苗の移植補助ステーションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年園芸作物や樹木の苗の生産においてこれまで行われてきた実生苗や挿し木苗での生産以外にマイクロプロパゲーションで優秀個体の無菌化クローンを大量増殖し、発根させて苗製品にする手法が広く普及してきている。
一般的な手法としては、成長組織点を無菌環境内で植物個体から切出してインビトロ(無菌透明容器内)で培養環境を与え、多芽体に成長させ、さらに継体培養により大量増殖させ、そして大量増殖させたそれぞれの幼芽を最適な大きさまでインビトロで成長させた後に、再び無菌環境で幼芽を分離し、発根用の容器に移し替え、再びインビトロで培養し発根完了後に無菌クローン苗製品とするものがある。感染した苗であっても、植物体成長の元になる成長点組織にはウィルスが侵入しないことを利用した手法である。
【0003】
このように植物工場での生産工程としては、主に分離した苗をインビトロ培養容器へ植え込む移植工程とインビトロでの培養工程とがある。苗の培養工程についてはほぼ自動化されているが、移植工程については依然手作業で行われており、大量に優秀な作業者を繁忙期に確保する必要があることから機械化の要求が増大している。
【0004】
しかしながら、自動化に際しては、不定形な形状をしている植物の幼芽を分割移植するために、茎のどの部分をどの位置で切るかといった高度で複雑な認識を行わねばならない。また、幼芽は柔らかく脆弱であり、過剰な把持力を与えた場合、茎の導管を破壊しその後の生育が順調にいかないという問題がある。このため幼芽の移植を自動的に行うためには高度な形状認識と微少な把持力制御が不可欠であった。
【0005】
苗の分割移植装置としては、レーザー光を利用した認識装置により苗の形状を認識し、認識結果に基づいて苗の所定の高さの位置に把持機構及び切断機構を導く装置が提言されている(特許文献1,2)。
【0006】
また、挿し木苗の移植システムとしては、オープントレイ上の苗に対してスリットレーザ光とPSD センサにより茎形状をスキャンし歪みセンサによるフィードバックによる把持力制御、マニピュレーターにより挿し木苗の自動生産をするものが提言されている(非特許文献1,2)。
【特許文献1】特開平3−228607号公報
【特許文献2】特開平5−3707号公報
【非特許文献1】M.Takatsuji, Handbook of Plant Factory,Tokai University Press, pp. 123{159, 1997. 東海大学出版会編:「植物工場ハンドブック」, 東海大学出版会(1997), pp123-159
【非特許文献2】高山眞策シーエムシー出版 種苗生産システム (1992 初版2002 普及版pp180)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
苗の育成に伴うコストの大半は人件費であり、機械化することにより、苗の生産コストを大幅に削減することができる。また、人手の作業では、ウィルス混入による品質低下により苗の破棄の必要が生じてしまうため、このことも生産コストの増加につながっていた。
上述のとおり、苗の培養工程については、ほぼ自動化されているため、本発明ではインビトロでの培養容器への移植工程を自動化することを解決すべき課題とする。図1は、クローン苗の育成工程の流れ図であるが、本発明はインビトロでの培養容器への移植工程であるSTEP13ないし15の工程を自動化することを課題とする。
【0008】
そもそも、上記装置類は、苗の分離に主眼を置いた装置であり、苗の下葉等を切断してインビトロでの培養に適するよう調整するといった作業を行うことは難しかった。
【0009】
しかも、上記装置類では、茎を把持する力の微弱な調整を行うことは難しく、移植に際して茎を傷つけてしまうおそれがあった。
【0010】
また、上記装置類では、植物のような把持部分の近傍に障害物(葉)がある場合、障害物を避けて対象物を把持することができなかった。
さらには、オープントレイでの作業を前提としており、容器の中での苗が密集した作業環境での作動はできなかった。すなわち、無菌クローン苗の生産を行う場合、インビトロ培養容器での作業はできないため、無菌状態とするためには、クリーンルームが必要であった。そのため、広い作業スペースと高価な設備が必要であり、多額のコストがかかるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、障害物が密集した場所やインビトロ等の狭い作業空間において、培養した無菌の植物を分割し、発根用容器に移し替える移植工程の自動化を可能にする苗の移植補助ステーションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、センサ部と、ロボットハンド部を備えた苗の移植補助ステーションを提供する。ロボットハンド部を回動可能とすることで、さらに高速に調整処理を行うことができる。また、ロータリーテーブルを備えた構成では、高速動作ができない多関節ロボットの移動を最小限とすることが可能となり、処理能力の高い実用的な装置を提供することが可能となる。また、受渡用ハンドを設けることにより、植込工程の高品質化を可能とできる。
さらには、一つのステーション内で分離・調整・植込を行うことが可能な苗の移植補助ステーションをも提供することを可能とした。
【0013】
すなわち、本発明は以下の(1)ないし(11)の苗の移植補助ステーションを要旨とする。
(1)一対の把持爪と、把持爪とアクチュエータとを連結する一部または全部が弾性特性を有する材料からなる把持力伝達系とを備え、アクチュエータの駆動により把持力伝達系および/または把持爪に撓みを生じさせながら脆弱物を把持するロボットハンドを、XYZ方向に移動可能なマニピュレータに連結した苗の移植補助ステーション。
(2)一対の把持爪を予め定められた位置において、予め定められた把持力で開閉し、苗を把持した状態であらかじめ定められた経路でハンドリングする(1)の苗の移植補助ステーション。
(3)さらに、苗の形状を認識可能なセンサ部を備え、該センサ部により苗の形状を計測し、その計測データに基づいて苗を把持する(1)または(2)の苗の移植補助ステーション。
(4)前記一対の把持爪は、予め最適な把持力を与えるように設定された逆ピンセットである(1)ないし(3)のいずれかの苗の移植補助ステーション。
(5)前記一対の把持爪を複数並行に配置することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかの苗の移植補助ステーション。
(6)切断刃と、切断刃を開閉動するアクチュエータとを備えたロボットハンドを、XYZ方向に移動可能なマニピュレータに連結した苗の移植補助ステーション。
(7)さらに、苗の形状を認識可能なセンサ部を備え、該センサ部により苗の形状を計測し、その計測データに基づいて苗の不要箇所を切断する(6)の苗の移植補助ステーション。
(8)さらに、前記ロボットハンドから苗を受け取る受渡用ハンドを有し、受渡用ハンドが苗を揺動可能な状態で把持し、植込工程に苗を受け渡す(5)または(6)の苗の移植補助ステーション。
(9)前記苗は、ロータリーテーブル上に載置された容器内の苗である(1)ないし(7)のいずれかの苗の移植補助ステーション。
(10)前記ロータリーテーブルは、大型ロータリーテーブルと、大型ロータリーテーブル上に配された1以上の小型ロータリーテーブルとから構成され、大型ロータリーテーブルにより容器の移動ができ、小型ロータリーテーブルにより容器の回転ができる(9)の苗の移植補助ステーション。
(11)クリーンベンチ内で利用可能である(1)ないし(10)のいずれかの苗の移植補助ステーション。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来手作業で行っていたインビトロでの培養に適した苗とするために必要な下葉等の切断作業を自動化することが可能となる。
【0015】
また、従来と比べ大幅に装置構成を省スペース化することができる。すなわち、クリーンルームを設ける必要がなく、クリーンベンチ内での作業が可能となるため、設備面でもクローン苗の生産コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
1.システム構成
図2に示すとおり、本発明の苗の移植補助ステーションは、ロータリーテーブル21と、センサ部22と、調整ハンド部を主たる構成要素とする。各構成要素はイーサネット(登録商標)やRS-232Cケーブル等の汎用的な通信方式により、統合コントローラ6と接続され、連携的に制御される。
図2の構成では、分離から植え込みまで一連の作業を行うことができるが、別途に設けた分離ステーションおよび植込ステーションと連携してもよいし、その一部を手動で行ってもよい。
以下では、苗の移植補助ステーションの各構成要素について説明する。
【0017】
(1)ロータリーテーブル21
ロータリーテーブル21は、時計回り、反時計回りに回転自在の円形回転テーブルであり、大型ロータリーテーブルと、小型ロータリーテーブルとから構成される。ロータリーテーブル21には、植え込み用容器と、分離用容器と、消毒容器と、切断ゴミシャーレとが載置され、各作業段階では大型ロータリーテーブルを回転して各容器類の位置を調整する。ロータリーテーブル21の上に設けられた小型ロータリーテーブルにより、各容器が個別に回転自在であり、各作業段階において各容器を個別に回転させることで、作業範囲を広げ、作業精度を向上することを可能としている(図3参照)。
【0018】
(2)センサ部22
センサ部22は、一対のステレオカメラと、スリット投光器とから構成され、ステレオ撮像が可能である。遠近歪みをなくするためには、撮像光学系にあおり光学系を用いることが好ましい。すなわち、図4に示すように2台のカメラを相互に平行にしたままで、レンズ50a,50bの中心とCCD撮像素子51a,51bの中心をずらし、CCD撮像素子とレンズ中心を結んだ一対の撮像系の中心線の交点が計測対象物付近に有るようなあおり光学系を用いることによって、CCD撮像素子上に遠近ひずみのない結像画像を得ることも可能になる。あおり光学系は通常の光学系よりも左右のカメラで共通に撮像できる面積が広くなるため、ステレオ画像処理に有効な光学系である。これにより、カメラから近い位置にある対象物体であっても、正確な相対距離画像を得ることができる。
装置中央にはレーザーダイオード光源を斜めスリットパターンに発光するスリット投光器が設置してある。斜めスリットパターンは全部で4本あり、撮像範囲のどの位置に計測対象物体が位置してもスリット光が当たるように考慮されている。
なお、視覚センサ周辺部で照明光源からの光が容器に直接反射してカメラに入光しない位置に該照明用光源、好ましくはLEDを配置するのが好ましい。
【0019】
(3)ロボットハンド部
ロボットハンド部は、調整用ハンド23と、分離用ハンド24と、植込用ハンド25により構成される。ロボットハンド部は、これら全てを備える必然性はなく、いくつかのハンドについては別構成とすることもできる。
多関節ロボット1の先端に設けられた分離用ハンド24により幼芽が分離されると、調整用ハンド23は分離用ハンド24の対向位置に移動して不要な下葉等の切断処理を行う。植込用ハンド25は下葉等の調整が終わった幼芽を茎の導管を傷つけないように把持し、植え込みを行う。
【0020】
図5の(a)は分離用ハンドの一例であり、(b)は植込用ハンドの一例である(以下では、「分離用ハンド」と「植込用ハンド」の総称を「複合作業ハンド」と言うことがある)。どちらのハンドも把持力制御機構である上段把持部61,63を備えており、上段把持部はアクチュエータが直動することにより、上下して把持位置の調整を行うことができる。また、アクチュエータ42が回動することにより、把持部61,63、切断部62が開閉運動を行う。統合コントローラはアクチュエータの制御を行い、各ハンドを制御する。
把持部61,63及び64は弾性特性を有する材料65と連結されており、これにより脆弱な植物を損傷させないための微少な把持力制御が可能となっている。
また、植込用ハンドの場合、上段把持部だけでなく、下段把持部を上下させてもよい。特に脆弱である「把持爪から植物の茎の最下端までの距離」が長いと植込時の培地からの反力により座屈するおそれがあるが、下段把持部を上下させることにより上記距離を短くして何回かに分けて植え込むことが可能となる。すなわち、上記距離を短くしても規定量の植込量を確保出来るようにするため、上段及び下段の把持部で植物を把持した状態で植え込みをした後、下段の把持爪を解放し、下段把持爪を上に移動した後、再度下段把持爪で把持し、植え込みを行うという動作を繰り返し行うことができるのである。これにより、植え込み作業における植物の損傷を防ぐことができる。
【0021】
分離用ハンド、植込用ハンドのどちらも上下移動部の駆動、把持力の伝達、把持部の構造は同じである。但し、分離用ハンドは切断部64が把持部63の下部に配置され、当該切断部62は力伝達経路の剛性を高め、カット時のモーメントに耐えられるようにしてある。
狭い空間で作業する場合には、把持爪に角度を付けることで、作業場所に把持爪を侵入させることが容易となる。例えば、好ましい把持爪とロッドの角度としては30°,45°,60°,90°,120°,135°があげられる。
なお、把持爪及び/又は切断刃は共に回転させてもよいし、一方を回転させない場合には他方を鞘管接合型としてもよい。
把持爪は、植物の形状認識の際に植物の把持点位置からハンドの把持位置との距離を計測するため、ハンド表面が反射が生じない素材で構成するのがよく、好ましい材料としてはセラミックスが挙げられる。
【0022】
2.苗の分離
図3のように、シンビジウムの苗が培養された容器における分離作業の例を説明する。
但し、本発明は全てのクローン苗に適用可能なものであり、例えば他の好ましい苗としてはユーカリの苗が挙げられる。
図6に示すように、シンビジウムの培養された容器(ビン)を投入すると、統合コントローラ6(制御装置)が、センサ部22に苗の有無の検出要求を出す(STEP40)。苗の有無の検出結果は、図7に示す3つのパターンに分類され、統合コントローラ6に返信される(STEP41)。
【0023】
パターン(1)の場合(処理区分コード=3)
撮像範囲内に苗が無い場合には、容器を回転することにより苗が撮像範囲内に入る場合と、全ての苗が分離済みである場合の2通りが考えられる。小型ロータリーテーブルが360度回転済みの場合には、制御装置は後者の場合であると判断し(STEP43)、当該容器における処理を中止し、機械的仕組みにより容器を自動で交換するか、作業者に容器の交換を促す信号を発信する(STEP46)。小型ロータリーテーブルが360度回転していない場合には、苗が死角に存在する場合もあるため、容器を回転して再度STEP40からの処理を繰り返す。なお、容器は360度回転させる必然性はなく、処理能力を高めるために任意の角度を指定しても良い。
【0024】
パターン(2)の場合(処理区分コード=4)
突入ポイントに苗がある場合には、分離用ハンド24が容器内に侵入する際に、苗とぶつかってしまうおそれがある。そこで、小型ロータリーテーブルが360度回転していない場合には、これを回転させることにより、分離用ハンド24と苗の衝突を回避する(STEP44,45)。360度回転済みであるにも関わらず、突入ポイントに苗がある場合には、それ以上回転をしても状況は改善されないと判断し(STEP44)、STEP42a〜42eの処理を行う。
なお、容器の回転角度は任意の角度に設定可能であり、パターン(1)の場合と(2)の場合の回転角度を異なる角度することも可能である。
【0025】
パターン(3)の場合(処理区分コード=2)
制御装置は分離用ハンド24を分離対象となる苗の近傍まで移動させる(STEP42a)。センサ部22が計測した、シンビジウムの把持位置とハンドの相対距離情報、シンビジウムの茎の直径情報をセンサコントローラ3に送信する(STEP42b)。センサコントローラ3は、送信情報に基づき、把持位置まで距離と、最適把持力を算出し、制御装置に送信する(STEP42c)。制御装置は、ロボットコントローラ2に苗分離処理要求を出すと、分離用ハンド24が把持位置まで移動され、最適把持ストロークで対象苗を把持し、分離容器から取り出す(STEP42d)。
分離用ハンド24は、鞘管またはピンセットと茎が概ね平行になる角度で侵入させるのが好ましく、分離後は調整用ハンド24の位置まで移送され調整作業が行われる。この際、大型ロータリーテーブルが回転し、切断ゴミシャーレが下方に位置される(図8参照)。
【0026】
3.植物の空間位置及び形状の計測
本発明では、光切断法と相対ステレオ法の組み合わせにより植物の形状や空間位置の計測を行う。
光切断法とは、計測物体に平面状のレーザー光(スリット光)を照射し、三角測量の原理を利用して距離を計測する手法である。相対ステレオ法とは、基本的には複数のカメラを使用したステレオ視を距離計測の手法とするが、ステレオ視以外の方法で得られる画面内の基準点までの距離情報を利用し、ステレオ画像処理を行うことにより、基準点からの相対高さを計測する手法である。高速な画像処理が可能であり、カメラ間隔や取り付け角度等の外部パラメータを必要としない利点がある。
【0027】
作業空間内に茎があるかの判定する際には、設定した範囲の太さの茎が、設定した立体空間範囲の中にあるかをスリット光が茎上で反射している特徴を識別し、光切断法により位置計測をすることで判定を行う。作業空間範囲の中に茎が検出されると、その茎のどの位置が把持位置として適しているかを検出する。具体的には、茎の光点位置から追跡して分岐点を判断し、その上部で葉が存在しない部分を切り出し点とする。
切り出し点が分かった後に、複合作業ハンドを近傍まで移動させることで、相対ステレオ方法により把持位置とハンドとの間の相対距離を算出することができる。これにより、複合作業ハンドの残移動量がわかることになる。
【0028】
4.最適把持力の算出
把持爪に段階的に把持力を与えた際の、対象物と把持爪の位置変化モデルを示したものが図9である。本発明の把持装置においては、ロッドの一部が弾性特性を有する材料から構成されているため、把持力を強めると共に、左右把持爪の位置も移動する。左右の弾性特性を有する材料のねじれのバランスが取れ、且つ把持対象物が損傷しないように、ロッドに回転角度を与えることで最適把持力を得ることができる。
【0029】
把持爪73における力伝達経路での変形モデルは図10のようになる。ここで設定した把持力Fを与える際の弾性特性を有する材料の弾性変形量δとなり、式1および2から算出される。これに対応する最適ひねり角度θは式3から算出することができ、この回転を把持爪が対象物に接触した状態から制御レバー71に与えることで脆弱物74を把持するための最適把持力を得ることができる。
【数1】

F:把持力、δ:弾性変形量(撓み量)、E:縦弾性係数、l:弾性特性を有する材料長さ、I:断面2次モーメント
【数2】

d:弾性特性を有する材料の直径
【数3】

θ:最適ひねり角度、L:ロッド軸中心線から対象物把持位置までの最小距離
【0030】
例えば35グラムを把持したい場合の追い込みストロークθは、l=35、d=0.9、L=6で考えると、
δ=(0.035・353)/(3・19900・(π・0.9/64))=0.78mm
θ=Sin-1(δ/L)=7.47°となる。
【0031】
設定レンジは±5gなので上限、下限でのストロークは40グラムであり、
δ=(0.04・353)/(3・19900・(π・0.9/64))=0.89mm
θ=Sin-1(δ/L)=8.56°となる。
【0032】
同様に、上限のストロークは30グラムであり、
δ=(0.03・353)/(3・19900・(π・0.9/64))=0.67mm
θ=Sin-1(δ/L)=6.41°となる。
ステップモータの最小制御角度は0.5°であり、減速機を付加することでさらに細かい位置決め要求に対応する制御を行うことが可能である。なお、上記計算式は一例であり、ハンドの形状に応じてフック則による弾性計算式を用い、必要な把持力を与えるための変形量を発生するモータの回転角度を計算するとよい。
【0033】
また、ロッドに弾性特性を利用する材料を用いず、駆動部近傍にトーションバネを用いた弾性体を配置してもよい。図11に示すようにトーションバネ90の一方をロッド7と接合し、他方を制御レバー71と接合することでロッド7に回転を生じさせることができる。把持爪が対象物に当接後さらに回転を加えることでトーションバネに変形が生じ、その結果把持部に最適な把持力が発生する。
【0034】
例えば、予め設定した把持力Fを得るために、必要な把持爪が当接した点からのトーションバネのねじれ角度φは、下記式で求めることができる。
【0035】
M=F・a
M:トーションバネに作用するモーメント、a:中心から把持爪までの長さ
【0036】
φ=ML/EI=64MDN/Ed4
L:トーションバネの有効展開部長さ、E:縦弾性係数、D:コイル平均径、N:巻き数、d:線径、I:断面2次モーメント
【0037】
5.苗の不要箇所の切断作業
根っこ等の不要箇所を切断する作業は、図12に示す手順で行われる。まず、センサ部22により、分離し苗の切断箇所を確定するために分離した苗の撮像を行う(STEP81)。撮像により得られたデータを画像処理し、切断対象となる箇所(シンビジウムの場合は根っこの部分)を認識する(STEP83)。この際、撮像した角度によって、切断箇所とも非切断箇所とも判断できない箇所もあるが、グレーポイントとして取り扱う。分離苗の撮像は、予め指定した角度に達するまで複数回行う(STEP83)。指定角度に達していない場合には、分離苗を回転し(STEP84)、異なる角度から撮像を行う。一定精度が得られ、且つ作業効率の良い撮像パターンとしては、60〜90度の範囲を3箇所撮像することが、好ましい態様として例示される。指定した角度での撮像が終了すると、全ての撮像データに基づき、切断箇所を算出し、重ね合わせ等行うことで切断箇所を確定する(STEP85)。不要な根っこ等を切断し(STEP86)、多関節ロボット1により植え込みを行うか植え込みステーションへの受け渡しを行う(STEP87)。なお、ハサミの揺動角度を茎の傾きに並行するようにすると葉を切断しやすい。
【0038】
以下では、本発明の詳細を実施例で説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
図13および14に示すとおり、多関節ロボット1と、ロータリーテーブル21と、センサ部22とから構成される。
ロータリーテーブル21上には分離作業用容器1つと植込作業用容器3つが設けられている。多関節ロボット1による分離作業時には、ロータリーテーブル21が回転してその対向位置に分離作業用容器が配され、植え込み作業時には植込作業用容器がその対向位置に配される。多関節ロボット1の台座部にはセンサ部22が設けられ、側方には調整用ハンド24が設けられている。
【0040】
多関節ロボット1の先端には、図15に示すように、ピンセットの開閉をテンションワイヤで制御するハンドが接続される。本実施例の構成では、把持部を回動させる必要がないため、両端が固定されたアウターチューブとその内側を貫通するテンションワイヤーの組み合わせ構成を採用している。
【0041】
サーボモータの駆動により駆動ラックがスライドし、テンションワイヤーを引っ張るとピンセットが閉じ、弛めるとピンセットが開く。把持に関してはピンセットがもつバネ特性を利用しており、把持爪が対象物に当接後さらにワイヤーを引っ張ることで、ピンセットにたわみが生じ、その結果把持部に最適な把持力が発生する。
また、スプリング80でピンセット姿勢を直立方向に引きつけるために、スプリング80の反対側にアウターチューブ77を固定し、テンションワイヤーを引くことで、揺動軸86を中心にピンセットの先端を揺動させる機構を有する。姿勢制御できない構成(例えば、3軸の並進運動ロボット)でも、容器のすみの苗まで把持爪が届くようにするための機構である。
【0042】
また、本実施例では、滑車の原理を用いた減速機構を設けている。植物の様な脆弱なものを把持する場合には、サーボモータのストロークの微調整が必要であるが、滑車に相当する半円盤を4つからなる減速機構により、ピンセットの開閉部のケーブルチューブの移動量はサーボモータのストロークの約1/4となり、且つ、駆動力も約1/4(実際には摩擦が増えるため1/4にはならない)となる。この減速機構を設けることにより、ワイヤのフリクションを増大させずにすみ、かつ低出力のコンパクトなモータを採用して高機能なハンド部を構成することが可能となった。
【0043】
本実施例では、直径2mm、線径0.3mm長さ800mmのアウターチューブと直径0.7mmのテンションワイヤを用いた。減速機構を設けない構成では、ハンド側での操作力とモーター側の引っ張り力の相関は以下のような結果となった。一方、本実施例の滑車を用いた構成では、200gの把持操作力を得るために必要なモータ側ラックの引っ張り力は80gであった。
本実施例の結果から、ワイヤーにかかる力を低くすることで機械効率の低下を防止できることが分かった。
【0044】
【表1】

【0045】
このようにアウターチューブとテンションワイヤの組み合わせの場合、ハンド把持部で必要な引っ張り強さは数百グラムであるが、ラック側でテンションワイヤを引っ張るのに必要な力はその3〜4倍程度となる。このような大きな力で強引に引っ張ると、アウターチューブやテンションワイヤの寿命が低下するため、発明者は小型減速機構をハンド側に用意することで小さな力でワイヤを引っ張る機構を設ける工夫を行った。
なお、滑車を用いた構成は一例であり、多段式歯車等による減速機構としてもよく、減速機構をハンド側にもうけてもよい。この際、駆動するワイヤにかかる力が好ましくは300g以下とするような構成とするものとする。
【実施例2】
【0046】
多関節ロボットの作動は俊敏に行うことができないため、できるだけ多関節ロボットによる作動を少なくした方が処理能力は高くなる。そこで、本実施例では、図16に示すように、センサ部22と、調整用ハンド23と、セパレートチャック31とにより構成した。
調整ハンド23は、切断刃とその切断刃を開閉動するモータ32と、それらが取り付けられたプレート33とから構成される。調整ハンド23は、プレート33により多関節ロボットに連結され、センサ部22の計測情報に基づき、XYZ軸方向に移動しながら苗の下葉等の切断処理を行う。切断刃をY軸を中心に回動(θ軸と言う)することが好ましく、これにより、重い調整ハンド23そのもののXYZ軸方向移動を最小限とすることで、処理速度を高めることができる。
また、調整ハンドの切断刃の上方または下方に把持用ハンド34を設けることにより、分離や植え込み作業も行うことができるようにしてもよい。
【0047】
セパレートチャック31は、分離した苗を把持したまま回動可能であり、切断箇所認識作業の高速化を可能としている。調整用ハンド23は、上下動、進退動、および回動可能であり、下葉等の切断箇所を順次切断していく。把持用ハンド34を設けた構成の場合において、下葉等の切断処理が終わった苗を揺動自在に把持して、植込用ハンド25に受け渡す構成としてもよい。把持用ハンド34により把持された苗を揺動自在とし、植込用ハンド25と直角に受け渡しを行うことにより、苗が培地に直角な状態で把持されることとになる(図17参照)。この苗の持ち替えを行うことで、苗を培地に直角に植え込むことが可能となり、クローン苗鉢の生産を高品質化することができる。
【実施例3】
【0048】
実施例3は、植込用ハンド25を複数のピンセットから構成したものである(図18参照)。いわゆる「逆ピンセット」を用いたものであり、外部から力が加えられない状態においては、各ピンセットは最適把持力で閉じた状態であり、モータの駆動力が加えられると把持力が徐々に減少しピンセットが開く。本実施例の構成においては、作業対象となる植物に適した植込用ハンドを事前に準備することで、細かな制御を行わなくても最適な把持力を得ることを可能とした。
図19は、本実施例の植込用ハンドの好ましい使用態様を示した写真である。ピンセットの数と同じ数の穴が設けられた作業板に機械または人手により調整済みの苗を差し込んだものを、本実施例の植込用ハンド25で同時に把持することで、複数本の苗の植え込みを同時に行うことを可能としている。
なお、本実施例においては「逆ピンセット」による構成としたが、植物の種類に応じて最適把持力を算出する構成としてもよく、その場合には通常のピンセットを複数用いた構成となる。
逆ピンセットを用いた構成は、把持力の上限を簡便に設定できる利点がある。把持力の制御を行うに際して、上限指定をする必要がなければ通常のピンセットを使用すればよい。
複数の苗を同時に把持することで、一回当たりの処理本数を増やすことで作業効率は倍増する。
なお、植込のみを行うハンドでは苗を供給装置に人が置き、植込工程のみをハンドで行うようにしてもよい。
【0049】
センサ部は、上述のあおり光学系のものとしてもよいが、相対距離計測が不要な場合にはより汎用的なものとしてもよい。例えば、植込位置に目標位置をもって格子状に植えられた幼芽を容器から分離する場合には以下の手順で空間認識を行う。
すなわち、透明な容器の下に設置したCCDカメラの撮像による画像から透明な寒天培地に植えられた苗のカルスを適当な閾値で2値化し、縮小・膨張などの画像処理を加えることで画像上のノイズを除去し苗のカルス部のみを抽出し、それぞれのカルスの重心位置を認識し、CCD画像上での各苗のピクセル位置を計算し、全ての苗のカルス位置のXY座標を得る。それぞれの苗位置は、あらかじめ決められたエリアに対応してラベリングされる。ラベリングする順番はハンドが干渉しにくい移動経路によって決定すればよく、ラベリングの若い順に苗を取り出すようにする。
苗を取り出す際には茎の部分だけでなく、カルスの部分を把持しても良い。取り出した苗は、容器外の苗の仮置き場に載置し次の調整工程が容易に行えるようにしてもよいし、調整ステーションが次工程にある場合には受け渡し用ハンドに持ち替えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】クローン苗の育成工程の流れ図である。
【図2】本発明の苗の移植補助ステーションのシステム構成図である。
【図3】ロータリーテーブルの説明図である。
【図4】あおり光学系の説明図である。
【図5】複合作業ハンドの説明図である。
【図6】本発明の調整ステーションによる苗分離作業の流れ図である。
【図7】苗分離作業における処理パターンの説明図である。
【図8】苗分離作業および苗調整作業の説明図である。
【図9】対象物と把持爪の位置変化モデルである。
【図10】把持爪の一方における伝達経路での変形モデルである。
【図11】駆動部近傍にトーションバネを用いたハンド部の図面である。
【図12】本発明の調整ステーションによる苗調整作業の流れ図である。
【図13】実施例1に係る移植補助ステーションの側面図である。
【図14】実施例1に係る移植補助ステーションの平面図である。
【図15】把持部がピンセットであるハンド部の平面図である。
【図16】実施例2に係る移植補助の調整機構の説明図である。
【図17】実施例2に係る調整ステーションの受渡機構の説明図である。
【図18】実施例3に係る植え込みステーションの説明図である。
【図19】実施例3に係る植え込みステーションの使用例を示した写真である。
【符号の説明】
【0051】
1 多関節ロボット
2 ロボットコントローラ
3 センサコントローラ
6 統合コントローラ
21 ロータリーテーブル
22 センサ部
23 調整用ハンド
24 分離用ハンド
25 植込用ハンド
27 受渡用ハンド
31 セパレートチャック
32 切断刃駆動用モータ
33 プレート
34 把持用ハンド
50 レンズ
51 CCD撮像素子
71 制御レバー
72 固定レバー
73 把持爪
74 脆弱物
75 トーションバネ
77 アウターチューブ
78 ブラケット
79 ブロック
80 スプリング
81 ピンセット
82 プレート
83 リンク
84 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の把持爪と、把持爪とアクチュエータとを連結する一部または全部が弾性特性を有する材料からなる把持力伝達系とを備え、アクチュエータの駆動により把持力伝達系および/または把持爪に撓みを生じさせながら脆弱物を把持するロボットハンドを、XYZ方向に移動可能なマニピュレータに連結した苗の移植補助ステーション。
【請求項2】
一対の把持爪を予め定められた位置において、予め定められた把持力で開閉し、苗を把持した状態であらかじめ定められた経路でハンドリングする請求項1の苗の移植補助ステーション。
【請求項3】
さらに、苗の形状を認識可能なセンサ部を備え、
該センサ部により苗の形状を計測し、その計測データに基づいて苗を把持する請求項1または2の苗の移植補助ステーション。
【請求項4】
前記一対の把持爪は、予め最適な把持力を与えるように設定された逆ピンセットである請求項1ないし3のいずれかの苗の移植補助ステーション。
【請求項5】
前記一対の把持爪を複数並行に配置することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの苗の移植補助ステーション。
【請求項6】
切断刃と、切断刃を開閉動するアクチュエータとを備えたロボットハンドを、XYZ方向に移動可能なマニピュレータに連結した苗の移植補助ステーション。
【請求項7】
さらに、苗の形状を認識可能なセンサ部を備え、
該センサ部により苗の形状を計測し、その計測データに基づいて苗の不要箇所を切断する請求項6の苗の移植補助ステーション。
【請求項8】
さらに、前記ロボットハンドから苗を受け取る受渡用ハンドを有し、
受渡用ハンドが苗を揺動可能な状態で把持し、植込工程に苗を受け渡す請求項5または6の苗の移植補助ステーション。
【請求項9】
前記苗は、ロータリーテーブル上に載置された容器内の苗である請求項1ないし7のいずれかの苗の移植補助ステーション。
【請求項10】
前記ロータリーテーブルは、大型ロータリーテーブルと、大型ロータリーテーブル上に配された1以上の小型ロータリーテーブルとから構成され、
大型ロータリーテーブルにより容器の移動ができ、
小型ロータリーテーブルにより容器の回転ができる請求項9の苗の移植補助ステーション。
【請求項11】
クリーンベンチ内で利用可能である請求項1ないし10のいずれかの苗の移植補助ステーション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−180863(P2006−180863A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38495(P2005−38495)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(502407130)株式会社プレックス (75)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(396005014)宝田電産株式会社 (8)
【Fターム(参考)】