説明

荷役物運搬機の導入評価システム

【課題】 荷物の3次元での移動が可能な荷役物運搬機を導入する際に、作業者の手作業のみによって運搬する場合と比較対照する形で、導入に伴う作業者の作業負担の軽減を表示することによって、導入機種の選定を客観的かつ迅速に行える荷役物運搬機の導入評価システムを提供する。
【解決手段】 腰の負担は腰部椎間板圧迫力で比較しており、N(ニュートン)で表している。許容値は一般的に3400Nとされている。グラフでは演算値と斜線の部分が対応している。手作業の腰部椎間板圧迫力は3545Nであり、一般的な許容値の3400Nを超えているので、この作業は手作業に適していないと判断できる。一方、荷役物運搬機2での作業の腰部椎間板圧迫力は1854Nであり、一般的な許容値の3400N以内であるから、この作業は荷役物運搬機2を用いた作業に適していると判断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物の3次元での移動が可能な荷役物運搬機を導入する際に、導入機種の選定を容易とし導入促進を図るための導入評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
手作業において、筋電等を用い、筋力の使い方や負荷を評価するものに、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)で使われている判定基準等が知られている。また、組立ライン等の作業工程において、作業者の動作を分析及び評価するための作業評価装置も提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−312017号公報
【特許文献2】特開2000−24850号公報
【0004】
しかし、特許文献1,2に開示された作業評価装置は、生産性改善を図る観点から、作業者の動作分析を迅速にかつ効率よく行うことを主眼とするものである。したがって、例えば荷役物運搬機を導入して作業者の疲労軽減を図るためにどの機種を選定すればよいか、といった個別具体的な要請に直ちに応じることは困難である。例えば、導入(顧客)側では、導入実績のある企業や使用経験のある作業者等からの聞き取り情報に頼ったり、納入(販売)側では、営業担当者の経験と勘に頼ったりすることになるので、客観的なデータに基づく機種選定が困難な状況にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、荷物の3次元での移動が可能な荷役物運搬機を導入する際に、作業者の手作業のみによって運搬する場合と比較対照する形で、導入に伴う作業者の作業負担の軽減を表示することによって、導入機種の選定を客観的かつ迅速に行える荷役物運搬機の導入評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る荷役物運搬機の導入評価システムは、
昇降部に吊り下げられた荷物を3次元に移動可能な荷役物運搬機を導入する際に、導入に伴う作業者の作業負担の軽減を表示するための荷役物運搬機の導入評価システムであって、
少なくとも作業者の身体上の特性に関する身体情報と、荷役作業の強度に関する作業情報と、荷役作業時の姿勢に関する姿勢情報とを人為的に入力する入力手段と、
前記荷役物運搬機について導入可能な複数の機種毎に性能諸元を記憶しておくための記憶手段と、
その記憶手段に記憶された複数の機種のうちから、前記入力手段にて入力された身体情報、作業情報及び姿勢情報に適応した特定の荷役物運搬機を選定する選定手段と、
前記身体情報、作業情報及び姿勢情報に基づいて、作業者の腰部に掛かる腰部負担と、作業者の腕廻り、腰廻り及び足廻りのうち少なくともいずれか一つの筋力負担とを演算する演算手段と、
前記選定手段で選定された特定の荷役物運搬機を表示するとともに、その特定の荷役物運搬機を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合との比較において、前記演算手段で演算された腰部負担と筋力負担との演算結果を大小関係の対比で各々表示する表示手段とを備え、
前記表示手段は、前記特定の荷役物運搬機を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合とを比較対照して、前記演算手段が算定した前記腰部負担及び筋力負担を、作業者の身体的な作業負担の軽減度合の形で表わすことによって、前記特定の荷役物運搬機の導入に基づく評価結果を表示することを特徴とする。
【0007】
このような導入評価システムでは、荷役物運搬機を導入する際に、作業者の手作業のみによる場合と比較対照して、特に腰部負担及び筋力負担を作業者の身体的な作業負担の軽減度合の形で表わすことができる。したがって、腰部負担及び筋力負担の演算結果を客観的な評価尺度として表わすことによって、導入機種の選定を迅速かつ容易に行える。
【0008】
この導入評価システムの対象となる荷役物運搬機は、主として製造工場内での部品・半製品・製品・治具等の移動や土木・建設工事現場での資材・道具類の移動等に用いられる。その際、荷物をそのままの状態で、あるいは箱、袋、包み紙等に包装した状態で把持して搬送することができる。したがって、上記した以外の用途でも広範囲に使用できる。例えば、医療や介護の現場において患者等の移動のために用いることもできる。
【0009】
そして、上記入力手段には、
身体情報として、作業者の身長、体重、性別及び年齢からなる群より選択された複数項目のデータが入力され、
作業情報として、荷物重量、作業の頻度、作業時間の長さ及び荷物の持ちやすさ度からなる群より選択された複数項目のデータが入力され、
姿勢情報として、身体のひねり角、荷物の水平移動距離及び垂直移動距離からなる群より選択された複数項目のデータが入力されることが望ましい。
【0010】
このように、身体情報、作業情報、姿勢情報に各々複数の項目がデータ入力されることによって、腰部負担及び筋力負担の演算結果をより客観性の高い評価結果として表示することができる。
【0011】
さらに、表示手段に特定の荷役物運搬機の性能諸元が表示されたとき、
入力手段から、特定の荷役物運搬機に関する運搬機情報として、その特定の荷役物運搬機の設置に必要な水平エリア、アタッチメント重量、荷物重量及び同時取扱個数からなる群より選択された複数項目のデータを入力可能としてもよい。
【0012】
運搬機情報を追加入力可能とすることにより、選定手段で選定され表示手段で表示された特定の荷役物運搬機について、例えば作業者にとっての使用環境の快適性を再評価(追加評価)することができ、導入評価に幅を持たせることができる。
【0013】
具体的には、
演算手段は、入力手段から入力された垂直移動距離及び水平移動距離に応じて、特定の荷役物運搬機によって荷物を垂直方向及び水平方向に移動するために必要な操作力を算出し、
表示手段は、水平エリア内で特定の荷役物運搬機の設置位置が変動するのに伴って、操作力の大きさが変化することを表示可能とすることができる。
【0014】
このように、上記特定の荷役物運搬機の設置位置を変動させて、特定の荷役物運搬機に必要な操作力の大きさを表示手段にシミュレーション表示できる。したがって、導入に伴う作業負担の軽減を、作業者の立場に立って詳細に検討することができる。
【0015】
例えば、表示手段は、操作力の大きさが所定の範囲内に留まるように、特定の荷役物運搬機の水平エリア内での適正な設置位置を表示可能とすれば、適正設置位置を「快適エリア」として表示手段に表示する機能を導入評価システムに付加することができる。
【0016】
そして、過去に荷役物運搬機を導入した顧客を対象とし、作業者の精神的かつ主観的な作業負担に関して事前に実施したアンケートの集計結果をデータベース化して記憶しておくための副記憶手段を備え、
表示手段は、特定の荷役物運搬機を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合とを比較対照して、副記憶手段に記憶されたその特定の荷役物運搬機に関する集計結果を、作業者の精神的かつ主観的な作業負担の軽減度合の形で表わすことによって、特定の荷役物運搬機の導入に基づく評価結果を表示することができる。
【0017】
このように、アンケートの集計結果をデータベース化した副記憶手段を備えることによって、選定手段で選定され表示手段で表示された特定の荷役物運搬機について、作業者の精神的かつ主観的な作業負担の軽減の観点から再評価(追加評価)することができ、導入評価にさらに幅を持たせることができる。
【0018】
そのアンケートが、作業タクト、作業姿勢、荷役物運搬機の機種及び荷役物運搬機による作業経験の有無からなる群より選択された複数項目のデータを含む場合には、より広い視野から精神的主観的な評価を下すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る荷役物運搬機を用いた荷役作業を例示する説明図である。図1に示すように、台座1に荷役物運搬機2が取り付けられている。荷役物運搬機2は、旋回可能な本体部3と、荷役物10(荷物)を昇降可能に吊り下げるための第1アーム4(昇降部)及び第2アーム5(昇降部)と、本体部3を旋回可能に支持する本体旋回台6とを備えている。荷役物10はアタッチメント7を介して第2アーム5の先端部に吊下げられており、作業者9がアタッチメント7等に設置された操作部8を操作することにより、搬送(昇降、旋回)及び移載(移し替え)される。
【0020】
図2は本発明の導入評価システムの電気的構成を示すブロック図である。図2に示すように、導入評価システム100は、入力装置110(入力手段)と主制御部120(選定手段;演算手段)とディスプレイ装置130(表示手段)と外部記憶装置140(記憶手段)を備える。
【0021】
入力装置110は、キーボード111(入力手段)やマウス等のポインタ112(入力手段)により、作業者の身体上の特性に関する身体情報50と、荷役作業の強度に関する作業情報51と、荷役作業時の姿勢に関する姿勢情報52と、選定された荷役物運搬機2に関する運搬機情報53(図4〜図6参照)とを人為的に入力する。
【0022】
主制御部120は、CPU121(選定手段;演算手段)とROM122とRAM123とを有し、CPU121は、ROM122に格納された制御プログラム等を読込んで、RAM123を作業エリアとして演算処理等を実行する。CPU121、ROM122、RAM123は、データバス125によって相互に接続されるとともに、入出力インターフェース124を介して入力装置110、ディスプレイ装置130と接続されている。また、入出力インターフェース124は、インターネット等の通信回線126を介して外部記憶装置140と接続されている。
【0023】
ディスプレイ装置130は、パーソナルコンピュータの液晶表示装置等からなり、荷役物運搬機2(図1参照)の導入に基づく評価結果を図や表で表示する(図7〜図12参照)。
【0024】
外部記憶装置140には、運搬機情報データベース141,作業情報データベース142,身体情報データベース143,姿勢情報データベース144,主観情報データベース145等が格納されている。運搬機情報データベース141には、荷役物運搬機2について導入可能な複数の機種毎に性能諸元が記憶されている。入力装置110から入力された身体情報50、作業情報51、姿勢情報52は、それぞれ作業情報データベース142,身体情報データベース143,姿勢情報データベース144に記憶されている。主観情報データベース145には、過去に荷役物運搬機2を導入した顧客を対象とし、作業者の精神的かつ主観的な作業負担に関して事前に実施したアンケートの集計結果をデータベース化して記憶してある。
【0025】
図3は荷役物運搬機の導入評価処理を示すフローチャートである。図3において、S1でディスプレイ装置130に入力画面(図4参照)を出力し、キーボード111やポインタ112から身体情報50、作業情報51及び姿勢情報52を入力する。
【0026】
図5は、これらの入力画面を示す。図5(a)に示す身体情報50の入力項目は、作業者の身長、体重、性別、年齢である。図5(b)に示す作業情報51の入力項目は、荷役物重量、作業の頻度、作業累積時間、荷役物の持ちやすさ度である。図5(c)に示す姿勢情報52の入力項目は、身体のひねり角、水平移動距離(移動元)、水平移動距離(移動先)、垂直移動距離(移動元)、垂直移動距離(移動先)、姿勢状況である。水平移動距離(移動元)は、移動させる直前の腰の位置を基準として、荷役物10と腰の水平距離である。水平移動距離(移動先)は、移動させた直後の腰の位置を基準として、荷役物10と腰の水平距離である。垂直移動距離(移動元)は、移動させる直前の腰の位置を基準として、荷役物10と腰の垂直距離である。垂直距離(移動先)は、移動させた直後の腰の位置を基準として、荷役物10と腰の垂直距離である。
【0027】
図5(a)では、作業者の身長を170cm、体重を65kg、性別を男性、年齢を40歳代と入力した。図5(b)では、荷役物重量を30kg、作業の頻度を2回/分、作業累積時間を5時間以上、荷役物の持ちやすさ度を普通と入力した。図5(c)では、身体のひねり角を20度、水平移動距離(移動元)を40cm、水平移動距離(移動先)を40cm、垂直移動距離(移動元)10cm、垂直移動距離(移動先)を10cmと入力した。姿勢状況は、作業情報51の入力値を基に演算されて、4と表示された。
【0028】
図3に戻り、S1で入力されたこれらの情報50,51,52に基づき、S2にて運搬機情報データベース141に記憶された複数の機種のうちから、適合する荷役物運搬機2を選定し、選定された荷役物運搬機2の性能諸元を表わす運搬機情報53がディスプレイ装置130に出力表示される(図4参照)。
【0029】
次に、S3にて身体情報50、作業情報51及び姿勢情報52に基づいて、作業者の腰部に掛かる腰部負担と、作業者の腕廻り、腰廻り及び足廻りの筋力負担とを演算する。さらに、S4にてディスプレイ装置130に、選定された荷役物運搬機2を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合との比較において、腰部負担60と筋力負担61〜63との演算結果を大小関係の対比で各々表示する(図7参照)。
【0030】
図8に手作業と荷役物運搬機2との身体負担を比較した図表データを示す。図8(a)に示す腰の負担では、腰部椎間板圧迫力60で比較しており、N(ニュートン)で表している。許容値は一般的に3400Nとされている。グラフでは演算値と斜線の部分が対応している。
【0031】
図8(a)では、手作業の腰部椎間板圧迫力は3545Nであり、一般的な許容値の3400Nを超えているので、この作業は手作業に適していないと判断できる。一方、荷役物運搬機2での作業の腰部椎間板圧迫力は1854Nであり、一般的な許容値の3400N以内であるから、この作業は荷役物運搬機2を用いた作業に適していると判断できる。
【0032】
図8(b)〜(d)に示す身体の比較の箇所は、腕廻り(三角筋)61、腰廻り(脊柱起立筋)62、足廻り(大腿直筋)63であり、許容ラインの数値を10として、数値が10を超える作業では身体的に推奨できる範囲ではない。グラフでは演算値と斜線の部分が対応している。手作業において数値を求める演算式については、ごく一般的であり様々な企業の製造現場で使われている。
【0033】
図8(b)において、手作業の腕廻り(三角筋)では、12を示し許容値の10を超えているので、この作業は手作業に適していないと判断できる。荷役物運搬機2での作業の腕廻り(三角筋)では、2を示し許容値の10以内であるから、この作業は荷役物運搬機2を用いた作業に適していると判断できる。
【0034】
図8(c)において、手作業の腰廻り(脊柱起立筋)では、14を示し許容値の10を超えているので、この作業は手作業に適していないと判断できる。荷役物運搬機2での作業の腰廻り(脊柱起立筋)では、4を示し許容値の10以内であるから、この作業は荷役物運搬機2を用いた作業に適していると判断できる。
【0035】
図8(d)において、手作業の足廻り(大腿直筋)では、12を示し許容値の10を超えているので、この作業は手作業に適していないと判断できる。荷役物運搬機2での作業の足廻り(大腿直筋)では、6を示し許容値の10以内であるから、この作業は荷役物運搬機2を用いた作業に適していると判断できる。
【0036】
図3に戻り、S5にてキーボード111やポインタ112から運搬機情報53を入力する。実際には、S2にて出力表示された運搬機情報53(図4参照)を見ながら再入力すればよい。
【0037】
図6に運搬機情報53の入力例を示す。必要な水平エリアは、荷役物10の水平移動距離や作業場のレイアウトを踏まえて入力する。電気式・エアー式の制御選択は、どちらが最適かを入力者が判断する。アタッチメント重量は、想定されるアタッチメント重量を入力する。荷役物重量は、図2の画面で入力されているので、その値が表示されている。取扱個数は、移載する際に、1度に何個取りするかの数値である。必要な水平エリア、電気式・エアー式の制御選択、アタッチメント重量、取扱個数を入力することで、自動に荷役物運搬機2の機種が選択される。この選択は、身体情報50,作業情報51,姿勢情報52を基にコンピュータを用いて演算される。また、自動で選択された荷役物運搬機2の機種は、入力者が手動でも変更できるが、その手動で選択できる荷役物運搬機2の機種の範囲も身体情報50,作業情報51,姿勢情報52を基にコンピュータを用いて演算されており、適切な荷役物運搬機2の機種しか手動で選択できない。
【0038】
図6では、必要な水平エリアを900mm、電気式・エアー式の制御選択をエアー、アタッチメント重量を10kg、取扱個数を1個と入力した。これらの入力により、荷役物運搬機2の機種は、CS060と選択された。
【0039】
図3に戻り、S1でキーボード111やポインタ112から入力された垂直移動距離及び水平移動距離に応じて、S6にて選定された荷役物運搬機2によって荷役物10を垂直方向及び水平方向に移動するために必要な操作力70を算出して、ディスプレイ装置130に表示出力する(図9参照)。
【0040】
図9に荷役物運搬機の操作力70の出力例を示す。自動選定された機種又は、手動選定した機種の操作力である。総取扱重量を移載した時の昇降操作力を表し、単位はN(ニュートン)で表される。総取扱重量は、アタッチメント重量と荷役物の取扱個数分の重量を足した数値である。
【0041】
図9では、選定機種CS060で、総取扱重量が40kgと定格加重が60kgであり、昇降操作力は57.6Nと、昇降操作力(エリア平均値)は48.5Nと表示されている。
【0042】
図3に戻り、S7にて操作力の大きさが所定の範囲内に留まるように、選定された荷役物運搬機2の水平エリア内での適正な設置位置(快適エリア)を、ディスプレイ装置130に出力表示する(図10,図11参照)。
【0043】
図10に、荷役物運搬機の性能を快適エリア度で表わすときの出力例を示す。選択された荷役物運搬機2の機種の性能を快適エリア度で表わしている。図10(a)の操作条件80において、持ち上げ可能重量は、定格荷重である。持ち上げ重量は、荷役物の重量である。「操作可能な加速度」は、定格荷重を吊り上げている時の標準的な体格の作業者が操作可能な移動の加速度である。「加速度」は、想定する加速度を入力する。快適エリア度は、加速度を入力したことにより、作業者が快適と感じる快適エリア比率をパーセントで表示する。図10(b)の快適エリア度評価81において、快適エリアとは、操作力が150N(ニュートン)以内のエリアである。評価のAは、快適エリアが80%以上の評価である。評価のBは、快適エリアが50〜79%の評価である。評価のCは、快適エリアが50%未満の評価である。負荷時の操作力は、荷役物を吊った状態の操作力の平均値をN(ニュートン)で表している。無負荷時の操作力は、荷役物を吊っていない状態の操作力の平均値をN(ニュートン)で表している。負荷時の停止力は、荷役物を吊った状態の停止力の平均値をN(ニュートン)で表している。目安速度と1mあたりの移動時間は、加速度に応じて表示される。目安タクトは、1分間に行う事ができる作業の回数である。加速度と負荷時の操作力と無負荷時の操作力の関係をグラフとして表示も可能である。
【0044】
図10では、選定機種CS060の操作可能な加速度は0.19Gである。そして、想定する加速度の数値0.10を入力する。選定機種CS060の場合、加速度が0.10Gでは、快適エリア比率が94%、負荷時の操作力(平均値)101.2N、無負荷時の操作力(平均値)78.9N、負荷時の停止力(平均値)が71.0N、目安速度が65m/分、1mあたりの移動時間が0.92秒/mというように数値とグラフで表示されている。
【0045】
図11に快適エリア度での評価出力画面を例示する。図10で表示された快適エリアを荷役物運搬機2の側面図82で表している。実際のディスプレイ装置130では、操作力が150N以内の快適エリア29を緑で表し、操作力が150Nを超え230N以内のエリアを黄色で表し、操作力が230Nを超えるエリアを赤で表す。これにより、可動エリア30の中でどの辺りが操作しやすい快適エリア29かが判別できる。
【0046】
図3に戻り、S8にて、選定された荷役物運搬機2を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合とを比較対照して、主観評価一覧表90をディスプレイ装置130に出力表示する(図12参照)。具体的には、主観情報データベース145に記憶された荷役物運搬機2に関する集計結果を、作業者の精神的かつ主観的な作業負担の軽減度合の形で表わすことによって、選定された荷役物運搬機2の導入に基づく評価結果の一覧90を出力表示する。
【0047】
図12に、作業者の精神的かつ主観的な作業負担の軽減度合を表わす。主観評価は、手作業と荷役物運搬機を操作した時の精神的負担度を複数の作業者に聞き、主観情報データベース145(図2参照)にデータベース化している。主観評価の項目は、作業タクト31、作業姿勢32、機種の大きさ33、荷役物運搬機の作業経験34の有無であり、各項目を予め数値化やグラフ化してある。検討する作業がどれに当てはまるかは、人為的な判断に委ねられる。その数値やグラフにより、荷役物運搬機2を採用するかの要素となる。
【0048】
図12のように、判定欄では、丸等のカーソル表示35で人為的に選択される。例えば、20kgの運搬作業で作業タクト4回/分を超える作業を、荷役物運搬機2を用いて身体的負担の改善を検討する。作業タクト31は、4回/分は精神的負担が有ると判断し、荷役物運搬機2を使って身体的負担は改善するが心理的負担は軽減されない、そのため作業タクトの改善が同時に必要と判断する。作業姿勢32は、作業者の手の位置が75cmというのを基準とし、かがみ姿勢がある場合は、手作業と比べると荷役物運搬運搬機2を使用することで精神的負担度が30%程度軽減する効果があり、荷役物運搬機2の採用の有無を判断する。機種の大きさ33は、大型機種ほど、操作力が必要となり早い作業が難しくなる。機種ごとの荷役物運搬可能重量と適正な作業回数を考慮し機種を選択する必要がある。荷役物運搬機2の作業経験34の有無は、経験が無いと手作業と変らないと感じるので、荷役物運搬機2の導入期間は、習熟期間を設ける必要がある。注意事項の欄には、負担有りを判定した場合のコメントが記入されている。
【0049】
以上で説明した導入評価システム100では、運搬機情報データベース141,作業情報データベース142,身体情報データベース143,姿勢情報データベース144,主観情報データベース145を外部記憶装置140に格納し、インターネット等の通信回線126を介して主制御部120と情報の入出力を行うようにしている。これらのデータベース141,142,143,144,145は、パーソナルコンピュータのハードディスク(HD)等に格納してもよい。
【0050】
なお、図4〜図12に示す各入力画面・出力画面の切り替えは、入力装置110におけるボタン操作やディスプレイ装置130におけるカーソル表示のクリック操作等によって行われる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る荷役物運搬機を用いた荷役作業を例示する説明図。
【図2】本発明の導入評価システムの電気的構成を示すブロック図。
【図3】荷役物運搬機の導入評価処理を示すフローチャート。
【図4】入力画面を例示する図。
【図5】身体情報、作業情報及び姿勢情報の入力例を示す図。
【図6】運搬機情報の入力例を示す図。
【図7】評価出力画面を例示する図。
【図8】作業者の身体的な作業負担の軽減度合を表わす図。
【図9】荷役物運搬機の操作力の出力例を示す図。
【図10】荷役物運搬機の性能を快適エリア度で表わすときの出力例を示す図。
【図11】快適エリア度での評価出力画面を例示する図。
【図12】作業者の精神的かつ主観的な作業負担の軽減度合を表わす図。
【符号の説明】
【0052】
2 荷役物運搬機
4 第1アーム(昇降部)
5 第2アーム(昇降部)
10 荷役物(荷物)
100 導入評価システム
110 入力装置(入力手段)
111 キーボード(入力手段)
112 ポインタ(入力手段)
120 主制御部(選定手段;演算手段)
121 CPU(選定手段;演算手段)
130 ディスプレイ装置(表示手段)
140 外部記憶装置
141 運搬機情報データベース(記憶手段)
142 作業情報データベース(補助記憶手段)
143 身体情報データベース(補助記憶手段)
144 姿勢情報データベース(補助記憶手段)
145 主観情報データベース(副記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降部に吊り下げられた荷物を3次元に移動可能な荷役物運搬機を導入する際に、導入に伴う作業者の作業負担の軽減を表示するための荷役物運搬機の導入評価システムであって、
少なくとも作業者の身体上の特性に関する身体情報と、荷役作業の強度に関する作業情報と、荷役作業時の姿勢に関する姿勢情報とを人為的に入力する入力手段と、
前記荷役物運搬機について導入可能な複数の機種毎に性能諸元を記憶しておくための記憶手段と、
その記憶手段に記憶された複数の機種のうちから、前記入力手段にて入力された身体情報、作業情報及び姿勢情報に適応した特定の荷役物運搬機を選定する選定手段と、
前記身体情報、作業情報及び姿勢情報に基づいて、作業者の腰部に掛かる腰部負担と、作業者の腕廻り、腰廻り及び足廻りのうち少なくともいずれか一つの筋力負担とを演算する演算手段と、
前記選定手段で選定された特定の荷役物運搬機を表示するとともに、その特定の荷役物運搬機を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合との比較において、前記演算手段で演算された腰部負担と筋力負担との演算結果を大小関係の対比で各々表示する表示手段とを備え、
前記表示手段は、前記特定の荷役物運搬機を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合とを比較対照して、前記演算手段が算定した前記腰部負担及び筋力負担を、作業者の身体的な作業負担の軽減度合の形で表わすことによって、前記特定の荷役物運搬機の導入に基づく評価結果を表示することを特徴とする荷役物運搬機の導入評価システム。
【請求項2】
前記入力手段には、
前記身体情報として、作業者の身長、体重、性別及び年齢からなる群より選択された複数項目のデータが入力され、
前記作業情報として、荷物重量、作業の頻度、作業時間の長さ及び荷物の持ちやすさ度からなる群より選択された複数項目のデータが入力され、
前記姿勢情報として、身体のひねり角、荷物の水平移動距離及び垂直移動距離からなる群より選択された複数項目のデータが入力される請求項1に記載の荷役物運搬機の導入評価システム。
【請求項3】
前記表示手段に前記特定の荷役物運搬機の性能諸元が表示されたとき、
前記入力手段から、前記特定の荷役物運搬機に関する運搬機情報として、その特定の荷役物運搬機の設置に必要な水平エリア、アタッチメント重量、荷物重量及び同時取扱個数からなる群より選択された複数項目のデータが入力可能である請求項2に記載の荷役物運搬機の導入評価システム。
【請求項4】
前記演算手段は、前記入力手段から入力された前記垂直移動距離及び水平移動距離に応じて、前記特定の荷役物運搬機によって荷物を垂直方向及び水平方向に移動するために必要な操作力を算出し、
前記表示手段は、前記水平エリア内で前記特定の荷役物運搬機の設置位置が変動するのに伴って、前記操作力の大きさが変化することを表示可能である請求項3に記載の荷役物運搬機の導入評価システム。
【請求項5】
前記表示手段は、前記操作力の大きさが所定の範囲内に留まるように、前記特定の荷役物運搬機の前記水平エリア内での適正な設置位置を表示可能である請求項4に記載の荷役物運搬機の導入評価システム。
【請求項6】
過去に前記荷役物運搬機を導入した顧客を対象とし、作業者の精神的かつ主観的な作業負担に関して事前に実施したアンケートの集計結果をデータベース化して記憶しておくための副記憶手段を備え、
前記表示手段は、前記特定の荷役物運搬機を用いる場合と作業者の手作業のみによる場合とを比較対照して、前記副記憶手段に記憶されたその特定の荷役物運搬機に関する集計結果を、作業者の精神的かつ主観的な作業負担の軽減度合の形で表わすことによって、前記特定の荷役物運搬機の導入に基づく評価結果を表示する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の荷役物運搬機の導入評価システム。
【請求項7】
前記アンケートは、作業タクト、作業姿勢、荷役物運搬機の機種及び荷役物運搬機による作業経験の有無からなる群より選択された複数項目のデータを含む請求項6に記載の荷役物運搬機の導入評価システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−303047(P2008−303047A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153756(P2007−153756)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000100735)アイコクアルファ株式会社 (17)