説明

落石防護網の支柱およびこれを利用した落石防護装置。

【課題】支柱の剛性を高めずとも負荷に対して高い強度が得られる支柱、およびこの支柱を利用した落石防護装置を提供する。
【解決手段】相互に間隔をあけて設置される複数の支持脚20,20と、これらの支持脚20,20間に架設されたビーム部材30と、ビーム部材30上に立設されると共に落石防護網を支持する支持ポスト40とを備え、支持脚20は、支持ポスト40の軸心から離れた位置でビーム部材30を支持すると共に、各支持脚20,20はビーム部材30の延在方向に対して直交する方向に傾動自在なヒンジ21,21を介して設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防護網を支持するために立設される支柱、並びにこの支柱を利用して張設された防護網を有する落石防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山間の沢状部を横切って道路等が造られている場合、沢状部に沿って落下する落石から道路を防護するため、吊りロープ等により防護網や防護柵等を取付け、落石等を受け止めて防護する手段が用いられる。
【0003】
このような目的で設置される落石防止装置の防護網は、覆い式とポケット式とに大別される。ポケット式落石防護網100は、図7のように沢状部の両側に数メートルの間隔でポケット形成用の支柱103を上下方向に傾動可能に設置し、各支柱103の上部にそれぞれ縦ロープ104を連結し垂下させる。一方、両端がアンカー105aにより支持された複数の横ロープ105を斜面に一定の上下間隔で配置する。このようにして形成した縦横ロープ104,105に金網を張設して防護網108とし、吊りロープ107で支持された支柱103により防護網108の上部108aを支柱103の高さに保持して、各支柱103によりロープ付きの金網をカーテン状に垂設する。このようにして、ロープ付き金網の全幅に開口したポケット部を形成し、このポケット部に落石等が収納されるようにして、落石エネルギーを緩衝して吸収する構造である(特許文献1)。
【0004】
また、広範囲の沢状部に防護網を設置する場合、大きな落石や飛び跳ねる落石にも対応できるような構造とし、ポケット部の開口もできるだけ大きくしたいという要望がある。そこで、図8のように支柱201の谷側に枝状に突出する補助支柱202を支柱201に付設し、支柱201から簾状金網203を鉛直方向に垂下させると共に、補助支柱202の頭頂間に張設した最上段横ロープ204に篭状金網203の上縁部を取付け、ポケット口を大きくしたものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3874769号公報
【0006】
【特許文献2】特開2010−112103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような構造では、沢状部を横切る連続した長い防護網を形成し、これを確実に保持しなければならない。そのため、防護網の開口部の支持位置を高くして支柱間のスパンを長くする必要がある。また、補助支柱を設置することなく、ポケットの開口を大きくすることができれば、このような防護網の支持構造を簡素化できる。しかし、そのためには、強大な負荷に耐えられる構造の支柱の開発が望まれていた。
【0008】
とりわけ、考慮すべき負荷としては、落石の衝撃によってポケット部が谷側に引き出されることで生じる捻れであり、過大な捻れが支柱に加わると支柱が坐屈して強度が著しく損なわれる。また、支柱はヒンジによって支持されているが、ヒンジは、その構造上、捻れの力を受け流すことができないため、過大な捻れが支柱に作用するとヒンジが損傷したり、支柱を固定しているアンカーに大きな負荷が掛る。
【0009】
このため従来は、支柱に掛る負荷を軽減するためにその設置数を増やしたり、設置間隔を狭めて対処している。しかし、設置数が増えるとコスト高になる他、工期短縮の妨げになる。また、支柱の肉厚や太さを単に増して剛性を高める方法も考えられるが、支柱の自重が増加し、これに伴って支柱を支える吊りロープや支柱の据え付け強度を改めて設計し直す必要がある。
【0010】
本発明は、このような技術的背景を考慮してなされたもので、支柱の剛性を高めずとも負荷に対して高い強度が得られる支柱、およびこの支柱を利用した落石防護装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を達成するため本発明は次のように構成される。
すなわち、落石防護網を支持するために立設される支柱であって、
相互に間隔をあけて設置される複数の支持脚と、これらの支持脚間に架設されたビーム部材と、前記ビーム部材上に立設されると共に前記落石防護網を支持する支持ポストとを備え、
前記支持脚は、前記支持ポストの軸心から離れた位置で前記ビーム部材を支持すると共に、各支持脚は前記ビーム部材の延在方向に対して直交する方向に傾動自在なヒンジを介して設置されていることを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明は、支持ポストに軸方向の負荷が掛かるとビーム部材が上下に撓んで吸収される。一方、捻れに対しては、その捻れがビーム部材の回転運動に転化されると共に、支持ポストの軸心から離れた位置で各支持脚に分散して伝達される。また、その力の作用方向はビーム部材を経由することでビーム部材の軸方向に対して直交する方向に転化される。従って、その一部はヒンジの傾動によって受け流される。
【0013】
つまり、本発明の支柱構造は、支持ポストに掛かる捻れの負荷をその軸心から離れた複数箇所で受け止めて分散し、さらにその作用方向をヒンジの傾動方向に一致させることでヒンジによる力の軽減を可能にした。
【0014】
また、ヒンジで傾動で吸収しきれなかった力は、支持脚及びビーム部材に反力として留まり、各種モーメントを生じさせる。しかしながら、これらのモーメントは、曲げ、捻れ、引張り等の性質や向きの異なるモーメントであり、このモーメントに起因して生じる内部応力のひとつひとつは小さい値である。したがって各部材の弾性変形で容易に吸収できる。
このように支持ポストの剛性を高めずとも、負荷に対する十分な強度が得られる。
【0015】
また、前記支持脚から前記支持ポストまでの前記ビーム部材の延在方向における距離が、各支持脚共に等しいことが望ましい。この構成では、各支持脚に対してバランス良く負荷を分散できるため、支持脚及びヒンジの仕様を統一できる。
【0016】
また、前記ヒンジは、前記支持脚の下端にそれぞれ設けられている構成としてもよい。この構成によれば、負荷が加わる支持ポストの先端からヒンジまでの距離が最長になるため、その間に設けられている支持脚の弾性を最大限に生かして負荷を吸収できる。
【0017】
また、前記各支持脚は、前記支持ポストに対して平行に設けられている構成としてもよい。この構成によれば、支持脚及びヒンジの仕様を統一できる。
また、ビーム部材に支持脚が直角に接合されるため、ビーム部材および支持脚の有する弾性を最大限に生かして力を吸収できる。
【0018】
また、前記支持脚は、その脚長が550mm以上650mm以下であり、さらに隣接する他の支持脚に対する間隔が、その中心間距離で650mm以上750mm以下であることが望ましい。
これらの数値に基づいて支持脚及びビーム部材の寸法を設定すれば、コスト及び強度面でバランスのとれた支柱構造を得ることができる。なお、ここで脚長とは、ヒンジの傾動中心からビーム部材と支持脚の接合面までの距離である。
【0019】
また、本発明は、斜面に立設される支柱と、この支柱によって斜面上方に懸架されるロープと、前記ロープから垂れ下げられた落石防護網とを備える落石防護装置であって、
前記支柱は、相互に間隔をあけて設置される複数の支持脚と、これらの支持脚上に架設されたビーム部材と、前記ビーム部材上に立設されると共に前記ロープを介して前記落石防護網を支持する支持ポストとを備え、
前記支持脚は、前記支持ポストの軸心から離れた位置で前記ビーム部材を支持すると共に、各支持脚は、前記ビーム部材の延在方向に対して直交する方向に傾動自在なヒンジを介して設置されている構成の落石防護装置でもある。
【0020】
このように構成された本発明の落石防護装置は、一本あたりの支柱で支持できる荷重が増大するため、支柱の本数や設置間隔を増やすことなく、広いスパンで落石防護網を支持できる。さらに、斜面上方に懸架されるロープに対して強いテンションを掛けて張ることができるためロープの垂下量が減り、結果として落石防護網の上縁を斜面のさらに高い位置に設置することができる。
【0021】
また、前記ロープは、前記支柱1本に対して少なくとも2本以上懸架されていることが望ましい。
この構成では、ロープによって支えることができる荷重が増すため、例えば、従来に比べて補強ロープの本数が多い衝撃吸収能に優れた強化防護網を吊下げることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上本発明によれば、支柱の剛性を高めずとも負荷に対して高い強度が得られる支柱を提供できる。また、この支柱を利用することで衝撃吸収能に優れコスト的にも有利な落石防護装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に示す落石防護装置の正面図。
【図2】本実施の形態に示す落石防護装置の側面図。
【図3】本実施の形態に示す支柱の平面図。
【図4】本実施の形態に示す支柱の側面図。
【図5】本実施の形態に示す支持ポストの先端頭部の拡大図。
【図6】支柱に作用する力を示す模式図。
【図7】従来のポケット式落石防護装置。
【図8】補助支柱を有する従来のポケット式落石防護装置の側面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本実施の形態に示す落石防護装置は、図1及び図2に示すように斜面Sの幅方向(左右方向)に12m〜45m間隔で設置された複数本の支柱10と、各支柱10を斜面Sに所望の角度で立設状態で保持させる支柱用ロープ51と、各支柱10に支持されて斜面上方に懸架される最上段横ロープ55と、この最上段横ロープ55に吊下げられて斜面Sの正面側にポケット状の落石停留域Pを形成する落石防護網70とを備えている。
【0025】
支柱10は、図3及び図4のように相互に間隔をあけて配置された2本の支持脚20、20と、これらの支持脚20、20間に架設されたビーム部材30と、ビーム部材30上に立設される支持ポスト40とを備えている。これらの部材は、例えば、高さ250mmのH型鋼材等を加工して製作され、各部材は溶接またはボルトによって強固に接合されている。
【0026】
支持脚20は、支柱1本に対してそれぞれ2本ずつ設けられている。また、その脚長は互いに等しく、設置状態において斜面Sの幅方向に相互に間隔をあけて配置されている。そして、支持脚20の下端にヒンジ21が設けられ、各支持脚20はこのヒンジ21を介して斜面Sの上下方向に傾動自在に設置されている。
【0027】
なお、本実施では、図3のようにヒンジ21の傾動中心からビーム部材30までの脚長L1を約600mm、また、支持脚20,20間の中心線間距離L2を700mmに設定している。好ましくは、例えば200〜250mmの一般構造用H形鋼等を採用した場合、脚長550mm以上650mm以下、中心線間距離(脚幅)を650mm以上750mm以下の範囲で設計するとコスト、及び強度面でバランスのとれた支柱構造を得ることができる。
【0028】
ヒンジ21は、斜面Sにアンカーボルト25で固定される接地側ブラケット22と、支持脚20の下端に溶接された支持脚側ブラケット23とで構成されている。各ブラケット22,23は互い違いに係合する板状部材22a,23aを有し、これら接地側ブラケット22の板状部材22aと支持脚側ブラケット23の板状部材23aを上下方向から組み合わせた後、これら板状部材を横方向に貫通する連結ピン24を挿通してヒンジ21が構成される。
そして、このヒンジ21を備えた2本の支持脚20,20によって斜面S上に支持脚20と共にビーム部材30が傾動自在に支持される。
【0029】
ビーム部材30は、支持ポスト40を支える梁としての機能を有し、その両端部は支持脚20,20によって支持されている。
ここで支持脚20に設けられるヒンジ21とビーム部材30との関係を説明すると、各ヒンジ21に設けられる連結ピン24,24はビーム部材30の軸方向に延びる中心線に対して平行に設けられ、さらに各連結ピン24,24はそれぞれが一直線上に並ぶ同軸上に配置されている。このため、ビーム部材30は、支持脚20と一体になってビーム部材30の延在方向と直交する方向に傾動自在(回動自在)に支持される。ここで、傾動自在(回動自在)とは、斜面に対する傾きが自由に変化することである。
【0030】
続いて、ビーム部材30に立設される支持ポスト40を説明する。
支持ポスト40は、図3及び図4のようにビーム部材30の中央に立設されている。一対の各支持脚20から支持ポスト40までのそれぞれの距離L3は互いに等しい値になっている。
また、ビーム部材30と支持ポスト40の接合部分には、略三角形の複数枚の補強板41が設けられ、支持ポスト40はビーム部材30に強固に溶接固定されている。
【0031】
なお、支持ポスト40と各支持脚20,20は平行であり、且つビーム部材30の延在方向に対してそれぞれ直角に接合されている。また、図2の状態における支持ポスト40の上面、すなわち斜面上方に臨む面には、その据え付け作業時の足場になる昇降用タラップ42が等間隔で設けられている。また、図5のように支持ポスト40の先端には支柱用ロープ51等の各種ロープが連結されるステー44が各ロープに対応して設けられている。
【0032】
また、支持ポスト40の先端頭部には、1組のガイドプレート45が互いに対向した状態で設けられている(図5)。そして、これらの1組のガイドプレート45、45間に最上段横ロープ55を2本通して掛け渡すことで、最上段横ロープ55が斜面幅方向に移動自在にガイドされる。なお、図5中の符号46は最上段横ロープ55の脱落を防止する脱落防止ボルトである。
【0033】
続いて、上記構造の支柱10を用いた落石防護網70の据え付け方法を説明する。
なお、以下の作業工程および作業方法は、あくまでも施工例であり施工規模、作業環境等にあわせて変更される。また、施工に用いられる各種ロープの束数、素線数、太さ並びに金網等の太さ、寸法等も各種仕様に応じて適宜変更可能である。
【0034】
まず、山間の斜面Sにおいて、支柱10の設置位置、アンカーの据え付け位置、支柱10の設置角度、落石防護網70の張設高さ等を確認するために測量を行う。
【0035】
続いて、その測量結果及び設計仕様に基づきアンカーの据え付け位置や角度を確認し、斜面Sに対して支柱設置用の基礎(なお、ここでいう「基礎」とは岩盤面における基礎、土砂面における基礎をいうが、コンクリートによる基礎をも含む。以下同じ)、並びにアンカー用の基礎をそれぞれ設ける。各基礎に対しては、例えば呼び径M33×1200のTSKセメントアンカーボルト(東京製綱製)、TSKセメントジョーアンカーボルト(東京製綱製)を複数本打ち込む。また、これらアンカーボルトを用いて、ロープ固定用のアンカー金物、及び支柱10を据え付けるための接地側ブラケット22を固定する。
【0036】
なお、本実施の形態では施工面が岩盤の場合には直にアンカーを設けてもよいが、土砂面を想定して、例えばコンクリートからなる基礎を予め設けてもよい。また、ロープ固定用のアンカー金物としては、地盤の固さ、荷重に合わせてエフアールアンカー、ルートアンカー及びTSKセメントアンカー(東京製綱製)、クロスウイングアンカー等を使い分けて使用する。
【0037】
続いて、支柱設置用の基礎の上流側、すなわち支柱10の設置箇所よりも高い位置に設けられたアンカー用の基礎に対して支柱吊ロープ53用のアンカー53aを配設する。
なお、支柱吊ロープ53(束数7×素線数7ロープ径φ30)は、支持ポスト40の先端に連結される支柱用ロープ51の一つであり、その下端は連結ピン48によって支柱10の頂部に繋がれ、上端は支柱吊ロープ53用のアンカー53aに繋がれる。
【0038】
そして、支柱吊ロープ53を支柱10及びアンカー53aに繋いだ後、支柱設置用の基礎上に支柱10を立て、支柱吊ロープ53で支柱10を斜面Sに立設状態で保持・固定する。なお、設置角度の微調整は支柱吊ロープ53に設けられたターンバックル(リギンスクリュー)53bにより行う。また、その後、支柱10の頂部に支柱サイド控ロープ54(3×7φ18)の一端を取り付け、さらに他端を支柱サイド控ロープ54用のアンカー54aに繋ぐ。支柱サイド控ロープ54は、支柱10の左右両側方にそれぞれ配置され、支柱10の左右方向の揺れを防止する。
【0039】
次に、斜面Sの両サイドに最上段横ロープ55用のアンカー55aを設けた後、各支柱10の先端頭部に設けたガイドプレート45を経由して支柱10の頂部に2本の最上段横ロープ55(7×7φ30)を掛ける。また、最上段横ロープ55の両端をアンカー55aに固定するとともに、ロープ端に設けられたターンバック55bによって張力を調節して最上段横ロープ55を張る。このようにして斜面Sの幅方向に最上段横ロープ55が張り渡される。
【0040】
続いて、最上段横ロープ55に落石防護網70を吊下げる。
落石防護網70は、たとえば、目の細かさが50mm×50mm、太さφ5mmの斜面幅方向に長い連続した金網で、最上段横ロープ55にその上縁が支持されて斜面幅方向に懸架される。なお、金網の目の細かさと太さの数値が上記数値に限定されることがないことはいうまでもない。詳しくは、例えば、ラフテレーンクレーンによって斜面Sの上方から斜面正面側に落石防護網70を吊り込み、その上縁部を最上段横ロープ55に被せて折り返し固定する。
【0041】
続いて、縦主ロープ57を落石防護網70に添わせて設置するための吊金具を最上段横ロープ55に取り付ける。吊金具は、2枚一組、厚さ9〜20mmの金属製プレートで構成され、最上段横ロープ55を2本並列に束ねて挟み付けた後、ボルトで締結される。そして、吊金具の下端に縦主ロープ57(3×7φ18)が組み込まれて吊下げられる。
【0042】
本実施の形態では、最上段横ロープ55の斜面幅方向に1メートル間隔で吊金具が設けられ、縦主ロープ57は、最上段横ロープ55から斜面下端にかけて張設される。また、縦主ロープ57のうち、支柱10の直下に位置する縦主ロープ57は支持ポスト40に設けられたステー44を利用して吊下げられる。
【0043】
続いて、斜面Sの幅方向に横主ロープ59(3×7φ18)を約6メートルの上下間隔で複数本張り渡して固定する。また、落石防護網70に対して縦補強ロープ71(3×7φ14)及び横補強ロープ72(3×7φ14)を上下左右50センチ間隔で組み込む。そして、仕上げの作業として、各ロープをクロスクリップを用いて相互に結合すると共に、各ロープに落石防護網70を結合コイルを用いて括り付ける。
このように最上段横ロープ55及び支柱10によって斜面Sの正面側に落石防護網70が懸架され、斜面上方に開口したポケット状の落石停留域Pが形成される。
【0044】
続いて、上記した落石防止装置に関して、その特記すべき支柱10の強度について、図6の模式図を参照して説明する。
支柱10は、先に説明したように相互に間隔をあけて設置される複数の支持脚20と、これらの支持脚20間に架設されたビーム部材30と、ビーム部材30上に立設されると共に落石防護網70を支持する支持ポスト40とを備え、各支持脚20の下端にはビーム部材30の延在方向と直交する方向に傾動自在なヒンジ21が設けられている。
【0045】
この構造を有する支柱10は、とりわけ捻れに対する強度が高く、落石の衝撃によって支柱10に捻れ方向の負荷が加わると、その負荷がビーム部材30、支持脚20、及びヒンジ21に分散されて弱められる。
【0046】
その原理は、まず、図6のように支持ポスト40の先端頭部に反時計回り(図6中矢印A方向)の捻れが作用すると、ビーム部材30の各端部30a,30bに対して、このビーム部材30を反時計回りに回転させようとする力が生じる。
具体的には、支持ポスト40を中心とした円(図中仮想線F)の接線方向において、相反する方向に等しい力が作用する(図6中矢印C方向及び矢印B方向)。また、この接線方向の力は、同接線方向に支持脚20を曲げる力になって各支持脚20、20に伝達される。
【0047】
一方、ビーム部材30から力を受けた支持脚20は、この力によってヒンジ21近傍に高い集中荷重を受ける。しかしながら、支持脚20に作用する力の向きは、ヒンジ21の傾動方向に一致するため、支持脚20及びビーム部材30が、その弾性域において変形しつつヒンジ21が微小角傾動することで、その一部が受け流される。つまり、ビーム部材30によって力の作用方向を変えることで、本来、捻れに対応していないヒンジ21による力の軽減を可能にしている。
【0048】
また、ヒンジ21で吸収しきれなかった力は、反力として各支持脚20に留まると共にその一部は再びビーム部材30に伝達される。しかしながら、各支持脚20に作用した力は、ビーム部材30を経ることで事前に等分されており、且つ各ヒンジ21の傾動によって軽減されている。このため反力は小さく、さらに曲げ、捻り、引張りといった様々な方向の力に分散されて支持脚20及びビーム部材30に加わるため、局所的な応力の集中が回避され、また、各部材の弾性変形によって吸収できる。
【0049】
このように各支持脚20,20に対する力の分散効果と、ヒンジ21の傾動による力の軽減効果から得られる相乗効果によって支柱10の捻りに対する強度を増大させている。
【0050】
また、梁としての機能を有するビーム部材30に支持ポスト40を立設するため、支持ポスト40に作用する軸方向の負荷はビーム部材30が撓むことで吸収される。また、支柱10は斜面Sに対して2カ所で固定されるため、設置強度も高くなる。さらに、捻り方向の力がビーム部材30を経て直線方向の力に転化されるためヒンジ21に掛かる負荷も減る。
このように本実施の形態に示す支柱10は、支柱10のそのものの剛性を高めずとも、各種負荷に対して高い強度が得られる。
【0051】
また、本実施の形態に示す落石防止装置は、これまで述べたように支柱10で支持できる荷重が増大するため、支柱10の本数や設置間隔を増やすことなく、広いスパンで落石防護網70を支持できる。また、1スパンの広い支柱間隔で落石防護網70を懸架できるため、工期の短縮が図られ、さらにコスト面でも有利である。
【0052】
さらに、斜面上方に懸架される最上段横ロープ55に対して強いテンションを掛けることができるため、ロープの垂下量が減り、結果として落石防護網70の上縁を斜面Sのさらに高い位置に付設できる。
【0053】
また、最上段横ロープ55が2本掛けになっているため、補強ロープが多く組み込まれた衝撃吸収能に優れる強化防護網を吊下げることができる。よって、落石の衝撃を防護網やロープ全体で伝達・分散して吸収でき、これによって防護網や補強ロープ等の塑性変形を回避し、落石の衝撃をその弾性域内での変形に留めて吸収できる。つまり、一度の落石で壊れることはなく、複数回にわたりの落石を受け止めることができる。よって、壊れにくくメンテナンス費用も殆どかからず経済的である。
【0054】
なお、実際の施工を想定した本発明者らの試算によれば、可能吸収エネルギーでは従来型(ビーム部材および2本の支持脚無し)(東京製綱製CNS−5.0A−30型)(H=12m L=10m)240〜660kjに対して本仕様(CNS−5.0A−2×30型と称する、ビーム部材および2本の支持脚有り)(H=12m L=10m)は512〜1168kjの試算結果が得られた。また、落石荷重では、従来型0,78〜21,1KNに対して本仕様は12,8〜29,2KNの試算結果が得られた。
【0055】
また、従来型は、標準仕様の支柱高さに於いてその支柱の設置スパンが最大30m迄であったのに対し、本実施の形態に示す落石防護装置は標準仕様の支柱高さにおいて最大39mまで支柱の間隔を飛ばすことができた。また、このときの可能吸収エネルギーは1068〜1384KJと高く、さらに落石荷重も26,7〜34,6KNと大きい値が得られた。
【0056】
さらに、本実施の形態に示す落石防護装置は、最上段横ロープ55のテンションが高く、その垂下量(サグ)を従来型の1/2程度に抑えることができるため、従来型では対応できなかった高さからの落石にも対応できる。具体的には、同斜面において落石に対応できないエリアを、面積にして1,5%程度減らすことができた。
【0057】
また、耐費用効果の試算によれば、本実施の形態に示す落石防護装置は、その構造上、ロープの使用本数が多く、支柱の材料加工費もかかるため、従来型に比べて平均約1,4倍割高になる。しかしながら、従来型に比べて可能吸収エネルギーや落石荷重が高く、複数回にわたる落石の衝撃を落石防護網70及び各ロープの弾性域内で吸収できるため、復旧補修や性能維持に関わるコストが殆ど掛らず、耐費用効果でも有利である。
このように本実施の形態に示す落石防護装置は強度、耐費用効果において多くの利点が得られた。
【0058】
なお、上記した実施の形態は一例であり、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて様々変更可能である。
例えば、ビーム部材1本につき、その長手方向に3本以上の支持脚を設ける。また、斜面の幅方向に配置されているビーム部材を斜面Sの上下方向に配置してよい。また、ビーム部材を十字状に組上げ、そのビーム部材の各端部に支持脚を設けると共に、ビーム部材中央の交差部分に支持ポストを立設するように変更してもよい。
【0059】
さらには、各支持脚から支持ポストに掛けての距離を各々変更して各支持脚に掛かる負荷のバランスを調整する。また、ビーム部材と支持脚のなす角が鋭角になるように接合してもよい。このように各種仕様が考えられる。
【符号の説明】
【0060】
10 支柱
21 ヒンジ
22 接地側ブラケット
22a 接地側ブラケットの板状部材
23 支持脚側ブラケット
23a 支持脚側ブラケットの板状部材
24 連結ピン
25 ヒンジ固定用のアンカーボルト
30 ビーム部材
30a,30b ビーム部材の端部
40 支持ポスト
41 補強リブ
42 昇降用タラップ
44 ステー
45 ガイドプレート
46 最上段横ロープの脱落防止ボルト
48 連結ピン
51 支柱用ロープ
53 支柱吊ロープ
53a 支柱吊ロープ用のアンカー
53b 支柱吊ロープ用のターンバックル
54 支柱サイド控ロープ
54a 支柱サイド控ロープ用のアンカー
55 最上段横ロープ
55a 最上段横ロープ用のアンカー
55b 最上段横ロープ用のターンバック
57 縦主ロープ
59 横主ロープ
70 落石防護網
71 縦補強ロープ
72 横補強ロープ
100 ポケット式落石防護網
103 支柱
104 縦ロープ
105 横ロープ
105a アンカー
107 吊りロープ
108 防護網
108a 防護網の上部
201 支柱
202 補助支柱
203 簾状金網
203a 篭状金網の上縁部
204 最上段横ロープ
S 斜面
P 落石停留域
L1 支持脚の脚長
L2 支持脚の設置間隔
L3 支持脚から支持ポストまでの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落石防護網を支持するために立設される支柱であって、
相互に間隔をあけて設置される複数の支持脚と、これらの支持脚間に架設されたビーム部材と、前記ビーム部材上に立設されると共に前記落石防護網を支持する支持ポストとを備え、
前記支持脚は、前記支持ポストの軸心から離れた位置で前記ビーム部材を支持すると共に、各支持脚は前記ビーム部材の延在方向に対して直交する方向に傾動自在なヒンジを介して設置されていることを特徴とする落石防護網の支柱。
【請求項2】
前記支持脚から前記支持ポストまでの前記ビーム部材の延在方向における距離が、各支持脚共に等しいことを特徴とする請求項1に記載の落石防護網の支柱。
【請求項3】
前記ヒンジは、前記支持脚の下端にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の落石防護網の支柱。
【請求項4】
前記各支持脚は、前記支持ポストに対して平行に設けられていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の落石防護網の支柱。
【請求項5】
前記支持脚は、その脚長が550mm以上650mm以下であり、さらに隣接する他の支持脚に対する間隔が、その中心間距離で650mm以上750mm以下になるように配置されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の落石防護網の支柱。
【請求項6】
斜面に立設される支柱と、この支柱によって斜面上方に懸架されるロープと、前記ロープから垂れ下げられた落石防護網とを備える落石防護装置であって、
前記支柱は、相互に間隔をあけて設置される複数の支持脚と、これらの支持脚上に架設されたビーム部材と、前記ビーム部材上に立設されると共に前記ロープを介して前記落石防護網を支持する支持ポストとを備え、
前記支持脚は、前記支持ポストの軸心から離れた位置で前記ビーム部材を支持すると共に、各支持脚は、前記ビーム部材の延在方向に対して直交する方向に傾動自在なヒンジを介して設置されていることを特徴とする落石防護装置。
【請求項7】
前記ロープは、前記支柱1本に対して少なくとも2本以上懸架されていることを特徴とする請求項6に記載の落石防護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246691(P2012−246691A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119861(P2011−119861)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】