落石防護装置
【課題】落石の大エネルギーを効果的に吸収し、且つ、分散することができる落石防護装置を提供する。
【解決手段】斜面に横方向に2本配置された支柱14間に主索ロープ18が張架されており、主索ロープ18に略矩形の網体22が吊り下げ用ロープ20を介して谷側の斜面に張設されている。支柱14は、山側の斜面と支柱14との間に張架された支持ロープ16によって起立状態を維持されている。網体22には、両端がそれぞれ網体22の両側部より外側の斜面に固定され、網体22の横方向に延在して網体22に対して所定の遊びを持って装着された横ロープ34が設けられており、横ロープ34の両端近傍には緩衝手段36が設けられている。落石Sのエネルギーは、網体22全体の変形と、横ロープ34に設けられた緩衝手段36とにより吸収され、且つ、計5本の横ロープ34により網体22外側の斜面方向へと分散伝達される。
【解決手段】斜面に横方向に2本配置された支柱14間に主索ロープ18が張架されており、主索ロープ18に略矩形の網体22が吊り下げ用ロープ20を介して谷側の斜面に張設されている。支柱14は、山側の斜面と支柱14との間に張架された支持ロープ16によって起立状態を維持されている。網体22には、両端がそれぞれ網体22の両側部より外側の斜面に固定され、網体22の横方向に延在して網体22に対して所定の遊びを持って装着された横ロープ34が設けられており、横ロープ34の両端近傍には緩衝手段36が設けられている。落石Sのエネルギーは、網体22全体の変形と、横ロープ34に設けられた緩衝手段36とにより吸収され、且つ、計5本の横ロープ34により網体22外側の斜面方向へと分散伝達される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防護装置、特に、支柱間に張られた主索ロープに網体を吊り下げて設置される落石防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本は山国であり、道路や家屋等の建設に利用容易な平地よりも利用困難な山の斜面や山間の谷の斜面が多い。よって、平地がある場合は良いが、平地が無い場合は地山を切り開いて得られた平地を道路等の建設用地とする。これらの平地は斜面と隣接する場合が多く、斜面側からの落石が発生すると、その傾斜下方側の平地に設けられた道路、交通機関、家屋等に大きな被害をもたらすおそれがある。
【0003】
この落石に対する対策としては、従来、斜面に設置された支柱間に金網を谷側の斜面に垂設し、山側の斜面から転がってきた落石のエネルギーを受け止めて保持するいわゆるカーテン式の落石防護装置(例えば、特許文献1)が用いられる。
【0004】
図12は、従来のカーテン式の落石防護装置60を示す斜視図である。図示のように、展延した金網62が斜面64に設置された各支柱66−1、66−2に支持されており、金網62の上半分の部分は、各支柱66−1、66−2間に張架され、斜面上に垂設されている。金網62の下半分の部分は、両端が斜面にアンカーされた横ロープ68−1〜3により補強されると共に斜面に敷設されている。そして、金網62には、多数の縦補強ロープ70a及び横補強ロープ70bが組み込まれ、補強されている。これにより、斜面上を転がってきた落石は、十分に補強された金網62の上半分の部分に衝突した後、金網62と斜面との間の空間を落下して金網62の下半分の部分に保持される。
【0005】
なお、上記落石のエネルギーの受け止めは、金網62に密に組み込まれた縦補強ロープ70a及び横補強ロープ70bによってなされ、金網62自体は小石止めの役割を果たす。
【0006】
また、特許文献2には、例えば、スパンの大きな広い斜面領域において、全域に張架された金網に対して複数の縦補強ロープ、横補強ロープを組み込んだカーテン式の網体の構造が開示されている。そして、両端が斜面にアンカーされた横ロープが、網体の高さ方向に対して平行に数本組み込まれた構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2916633号
【特許文献2】特許第3258994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び2に記載されている落石防護装置によれば、金網は高強度の線材を使用しておらず、金網自体によって落石の大エネルギーを受け止めることはできない。もっぱら落石のエネルギーの受け止めは縦横に組み込まれた補強ロープによってなされる。しかし、補強ロープは構造上ほとんど変形できないので、落石のエネルギーは主に落石を受けた部位から縦横の補強ロープの伸長方向に速やかに伝達され、補強ロープへの落石の衝突時にそのエネルギーを十分に吸収することができない。すなわち、補強ロープが受け止めた落石のエネルギーはほぼ減衰することなく大きな力として速やかに支柱及び支柱を支持する支持ロープへと集中して伝達され、支柱及び支柱を支持する支持ロープに生じる初期のピーク応力が増大することとなっていた。よって、落石防護装置の構造的に支柱及び支持ロープへかかる負担が大きくなっており、問題であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、落石の大エネルギーを効果的に吸収し、且つ、分散することができる落石防護装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するための請求項1に記載の発明は、斜面に横方向に所定間隔をおいて立設された複数の支柱と、該各支柱と山側の斜面との間に張架され、前記各支柱の起立状態を維持する支持ロープと、前記支柱間に張架された主索ロープと、前記主索ロープにて吊り下げられ、高強度の硬鋼線によって構成された網体と、を有する落石防護装置において、前記網体には、両端がそれぞれ該網体の両側部より外側の斜面に固定され、該網体の横方向に延在して該網体に対して所定の遊びを持って装着された横ロープと、該横ロープに設けられ、該横ロープの引っ張り方向への衝撃を吸収する緩衝手段と、が設けられていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、高強度の硬鋼線によって網体が構成され、且つ、両端が網体の両側部より外側の斜面に固定された横ロープが網体の横方向に延在して網体に対して所定の遊びをもって装着されているので、落石が網体に衝突した際、網体全体が落石の衝突部を中心に引っ張られるように変形し、この網体の構造的変形を通じて落石のエネルギーが吸収される。すなわち、網体による効果的な落石エネルギーの吸収がなされる。また、網体が受けた落石のエネルギーは、横ロープを介して網体の両側部より外側の斜面に分散伝達されるとともに、落石のエネルギーが大きかった場合、緩衝手段によってその一部を効果的に吸収することができる。すなわち、斜面に固定された横ロープというエネルギー分散機構、及び、網体及び横ロープに設けられた緩衝手段という二重のエネルギー吸収機構により、落石のエネルギーを効果的に分散し、且つ、吸収することができる。よって、例えば、主索ロープ、支柱、及び支持ロープに作用する初期のピーク応力を大きく低減させることができる。
【0012】
なお、網体中には縦補強ロープが組み込まれていないので、縦補強ロープを介して主索ロープ、支柱、及び支持ロープへ落石のエネルギーが集中し、これらに過度の負担をかけることもない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の落石防護装置において、前記横ロープは、上下に所定の間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、横ロープが上下に所定の間隔をおいて網体に複数設けられているので、落石のエネルギーが網体から横ロープに伝達されやすく、よって、横ロープに設けられた緩衝手段によってより効果的に落石のエネルギーを吸収することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の落石防護装置において、前記網体の吊り下げは、前記主索ロープに吊り下げ用ロープを所定間隔毎に垂下させて取付け、該吊り下げ用ロープの下端に前記網体の上縁部を取り付けることによってなされたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、網体の上縁部の高さ位置を、吊り下げ用ロープの長さのぶんだけ調節することができる。よって、網体全体を必要な高さ位置まで吊り上げることができる。よって、例えば、網体の横の長さを大きくした場合に、網体の上縁部の略中央部が両端部と比べて垂下し、落石が網体の上縁部の略中央部を越えて谷側へ落下するおそれが低減する。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記網体は、略多角形の網目の形状を有し、該略多角形の網目の形状における内接円の半径が、4.5〜8.5cmであることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、適度な大きさの網目によって網体のたわみ変形量を大きくとりつつ、落石を受け止めることができる適切な大きさの網目が構成されている。よって、落石のエネルギーの吸収効果を更に高めつつ確実に落石を受け止めることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の落石防護装置において、前記網目の形状は、菱形であり、前記網体は、前記菱形の網目の形状における長い方の対角線の伸長方向が網体の縦方向となるように設置されることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、網体は、縦方向の引っ張り強度が最も強化された構成となっており、山側の斜面からの落石を受け止めるのに適した構成となっている。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記硬鋼線は、400〜2000N/mm2の引っ張り強度を有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、網体の引っ張り強度がより強化されているので、比較的大きな落石を受けた場合であっても破断するおそれが減少する。よって、網体の補強手段等の構成の簡素化を図り、且つ、網体の軽量化を図ることが可能である。さらに、網体の引っ張り強度が強化されていることにより、落石を受けた際、網体の変形によるエネルギー吸収量が大きくなるという利点がある。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記硬鋼線は、2〜6mmの線径を有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、硬鋼線の引っ張り強度をより適切な範囲に保ちながら、硬鋼線は適度な可とう性を示すようになる。よって、構成された網体は、落石を受け止める十分な強度を示しつつ、より適切なたわみ変形量を確保することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記網体は、複数の前記硬鋼線を撚り合わせた撚り線によって構成されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、網体を構成する撚り線は、硬鋼線の線径自体は大きくなっていないので、同径の硬鋼線と同等の可とう性を維持したまま、引っ張り強度が大幅に強化されている。よって、撚り線により構成された網体は、その構造的変形により落石のエネルギーを吸収する性質を備えつつ、その引っ張り強度が大幅に増大している。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記支柱は、谷側の斜面に向かって傾動可能な状態で立設されていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、落石の網体への衝突により支柱に作用する応力の一部を吸収し、支柱の折れなどを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、斜面に固定された横ロープというエネルギー分散機構、及び、網体及び横ロープに設けられた緩衝手段という二重のエネルギー吸収機構により、落石のエネルギーを効果的に分散し、且つ、吸収することができる。よって、主索ロープ、支柱、及び支持ロープに生じる初期のピーク応力を大幅に低下させることができる。よって、主索ロープ、支柱、及び支持ロープへかかる負担を低減させることができ、装置全体の耐久性が向上すると共に、例えば、支柱や各ロープの素材や構成を変更し、装置の構成の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施の形態に係る落石防護装置10の全体概容を示す平面図である。
【図2】同じく、落石防護装置10の側面図である。
【図3】(A)同じく、支柱14の上端部の正面図である。(B)同じく、支柱14の上端部の側面図である。
【図4】(A)同じく、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大側面図である。(B)同じく、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大正面図である。
【図5】同じく、網体22を構成する硬鋼線28の湾曲形状を示す部分斜視図である。
【図6】(A)同じく、硬鋼線28が編み合わされて構成された網体22の部分斜視図である。(B)同じく、網体22の部分平面図である。
【図7】(A)横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の平面図である。(B)横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の側面図である。
【図8】(A)同じく、緩衝手段36の一例を示す側面図である。(B)同じく、緩衝手段36の一例を示す正面図である。
【図9】同じく、緩衝手段36の他の例を示す斜視図である。
【図10】同じく、網体22に落石Sが衝突した時の落石防護装置10の作用を示す側面図である。
【図11】同じく、網体の別の態様を示す部分平面図である。
【図12】従来のカーテン式の落石防護装置60を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明に係る落石防護装置の実施の形態を図1〜11を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る落石防護装置10の全体概容を示す平面図であり、図2は、落石防護装置10の側面図である。図示のように、地山を掘削して形成された法面等の斜面12に対し、横方向に例えば約30mの間隔をおいて2本の支柱14が地山に固定されている。支柱14は、例えば、図2に示されるように、斜面12の地盤に浅く埋め込まれた受け台24に、ヒンジ26を介して取り付けられており、ヒンジ26によって支柱14は谷側へ傾動可能な構成となっている。この構成により、支柱14に作用する応力の一部を吸収することができる。図3(A)は、支柱14の上端部の正面図であり、同図(B)は、支柱14の上端部の側面図である。図示のように、支柱14の上端部には、略U字型の金具14aの両端が、支柱14の平坦な上端面14bに埋め込まれ、取り付けられている。そして、支柱14の上端近傍には、ロープを連結するためのブラケット14cが支柱14の各側面に計4カ所設けられている。支柱14は、以下に述べる計4本の支持ロープ16によりその起立状態を維持されている。1本目の支持ロープ16は、4カ所のブラケット14cのうち、一つのブラケット14cに一端が連結され、支柱14の上端部と山側の斜面12との間に張架された支持ロープ16−1である。2本目の支持ロープ16は、金具14aの凹部と支柱14の上端14bとによって一部が挟持され、支柱14の上端部と山側の斜面12との間に張架された支持ロープ16−2である。3本目及び4本目の支持ロープ16は、1本目の支持ロープ16−1と同じくブラケット14cに各支持ロープの一端が連結され、支柱14の上端部と支柱から横方向の斜面12との間にそれぞれ張架された支持ロープ16−3及び16−4である。各支持ロープ16−1、16−3、及び16−4とブラケット14cへの連結は、ブラケット14cに挿通した支持ロープの一端を周知のワイヤークリップ15(図3A及びBを参照乞う)によって同じ支持ロープのブラケット14cに挿通していない一端近傍に固定することによってなされる。また、支持ロープ16−2は、支柱14の上端部から支柱14間方向へ延在し、支柱14間に張架された主索ロープ18を構成している。そして、通常、支持ロープ16−2(主索ロープ18)は、金具14aの凹部と支柱14の上端14bとによって挟持されており容易には移動しないが、主索ロープ18に対して強い引っ張り力が作用した際は、金具14aの凹部と支柱14の上端14bの摩擦力に抗して摺動し、伝達されたエネルギーを吸収する。
【0032】
主索ロープ18には、複数の吊り下げ用ロープ20が約3mの間隔をおいて計11本垂下させて取付けられており、この吊り下げ用ロープ20の下端に網体22の上縁部22aが取り付けられている。よって、網体22は上縁部22aから吊り下げ用ロープ20を介して主索ロープ18にて吊り下げられ、谷側の斜面12に向かって垂設されている。図4(A)は、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大側面図であり、同図(B)は、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大正面図である。図示のように、吊り下げ用ロープ20は、吊り金具21によって主索ロープ18に取り付けられている。吊り金具21は、平面視略矩形の板状体21a及び21bをネジ接合した構成を有する。板状体21a及び21bの接合面には、互いに対向する溝部21c及び21dがそれぞれ設けられており、両溝部21c及び21d間に主索ロープ18が挟持されている。また、吊り金具21の図における下方側には、ボルト孔21eが設けられており、このボルト孔21eに通されたボルト及びこのボルトに嵌められたナットにより、吊り下げ用ロープ20の上端が固定されている。また、吊り下げ用ロープ20の端部は、ボルトに引っ掛けられた後、吊り下げ用ロープ20の端部近傍と上述のワイヤークリップ15により固定されている。ここで、吊り金具21は、主索ロープ18を強く挟持しているので、通常は両者の位置が容易に位置ずれすることはない。しかし、主索ロープ18に対して強力な引っ張り力が作用した時、吊り金具21に対して主索ロープ18が摺動し、伝達されたエネルギーを吸収することができる。
【0033】
そして、吊り下げ用ロープ20の長さを調節することにより、網体22の上縁部22aの高さ位置を調節することができる。よって、例えば、網体22の横の長さを大きくした場合に、網体22の上縁部22aの略中央部がその両端部と比べて垂下し、落石が網体22の略中央部を越えて谷側へ落下するおそれが低減する。
【0034】
支持ロープ16は、各支柱14につき16−1及び16−2の4本で構成されているが、4本以上で構成されていても良い。
【0035】
網体22は、支柱14の間隔と同じく約30mの横幅を有し、縦の長さは約10mである。支柱14の数を増やすことにより、網体22の横幅をもっと大きくとることも可能である。また、網体22の縦の長さは、網体22の下端縁が谷側の斜面に当接する長さであれば上記長さに限られない。この網体22は、高強度の硬鋼線28によって構成されており、例えば、その硬鋼線28の引っ張り強度は400〜2000N/mm2である。このような高強度の硬鋼線28を使用することにより、落石が網体22に衝突した際、網体22を構成する線材の破断を防ぐことができ、よって、補強ロープを縦横に張り巡らすことなく基本的に網体22が落石を受け止めることができる。また、硬鋼線28の線径は、好ましくは2〜6mmである。2mmより線径が小さい場合は上記必要な硬鋼線28の強度をとることが困難となる。逆に、6mmより大きな線径である場合、硬鋼線28の可とう性が減少し、網体22を構成する際の折り曲げ加工が困難になると共に、折り曲げ加工した部位が疲労し、よって、網体22における網目の交点の強度損失が生じるために好ましくない。
【0036】
本実施の形態においては、複数の上記硬鋼線28を編み合わせることにより、菱形の網目の形状を有する網体22を構成している。その構成の詳細を以下に説明する。図5は、網体22を構成する硬鋼線28の湾曲形状を示す部分斜視図である。図示のように、硬鋼線28は、一定の間隔をおいて湾曲部28aで折り返しながら長手方向に向かって螺旋状に延在する構成を有する。湾曲部28aに挟まれた間隔は所定長の直線部28bとなる。このように形成された硬鋼線28は、平面的に見てジグザグに、断面視で略長円状の外観を有する。
【0037】
図6(A)は、硬鋼線28が編み合わされて構成された網体22の部分斜視図であり、同図(B)は、網体22の部分平面図である。図示のように、上記折り返し形状を有する硬鋼線28は、互いの湾曲部28aで編み合わされ、菱形の網目の形状を有する網体22を構成する。この菱形の網目の大きさは、網体22をたわみ変形やゆるみを生じさせずに展延させた状態における内接円の半径r(同図(B)参照乞う)が約4.5〜8.5cmの範囲となるような大きさで構成される。このような大きさに網目を構成することにより、網体22の網目を落石が通過することを防止しつつ十分に大きな網目を構成することができるので、網体22のたわみ変形量を大きくとることができ、網体22による落石のエネルギーの吸収がより促進されることとなる。上述の網目の大きさは、例えば、構成された菱形の短い方の対角線が10〜20cm、長い方の対角線が20〜30cm、小さい方の内角aが50°〜70°の範囲とすることにより得られる。このように、網目を正方形(又は正多角形)ではなく、小さい方の内角aを有する形状とすることで、網目の一辺の長さが同一であっても内接円の半径を小さくとることができ、よって、落石を漏れなく受け止めることが可能となる。また、本実施の形態では、網体22は、構成された菱形の長い方の対角線の伸長方向が網体22の縦方向となるように設置されている。これにより、同じ形状の菱形の網目を形成した網体であれば、縦方向の引っ張り強度を最も強い網体とすることができるので、谷側へと落下する落石をより効果的に受け止めることができる。
【0038】
なお、網体22の網目の形状は、菱形に限られず、上記内径により定義された大きさを有する多角形であれば良い。
【0039】
さらに、網体22には、網体22の横方向に延在して網体22に対して装着された横ロープ34が設けられている。横ロープ34の両端は、網体22の両側部から突出し、網体22の両側部より外側の斜面に埋設されたアンカーと結合したアンカー金具31の先端にそれぞれ結びつけられ、固定されている。この横ロープ34は、網体22の補強手段として存在するだけでなく、網体22が受け止めた落石のエネルギーの一部を、支柱14を介さず斜面12方向へと分散伝達する分散伝達手段としての働きを有する。また、横ロープ34は、網体22の過剰な変形をおさえるブレーキ手段としての役割を有する。網体22の変形により落石のエネルギーは効果的に吸収されるのであるが、過剰な変形は斜面の傾斜下方側の平地13(図2参照乞う)に設けられた構造物にも影響を及ぼすおそれがあるからである。横ロープ34は合計5本、それぞれの間隔は約2.5mである。この間隔は約1m〜5mの範囲であることが好ましい。5mを越えると、落石が網体22に衝突する位置によっては、網体22から横ロープ34への落石のエネルギーの伝達、及び、横ロープ34に設けられた後述する緩衝手段による落石のエネルギーの吸収効果が低下し、好ましくない。また、間隔が1mより密になると、網体22がたわみ変形しにくくなり、好ましくない。なお、本実施の形態において、網体22に縦方向の補強ロープは組み込まれていない。上述のとおり、基本的に網体22自体が落石のエネルギーを受け止める強度を有しており、横ロープ34を設けたうえに縦方向の補強ロープを設けて網体22を過剰に補強する必要がないからである。また、縦方向の補強ロープによると、落石のエネルギーを速やかに支柱14、主索ロープ18、及び支持ロープ16−1、16−2に伝達させることとなり、したがって、これらの初期のピーク応力が増大し、本発明の目的の達成が困難になるからである。
【0040】
以下、本実施の形態において特徴的な横ロープ34の網体22への装着を図7により説明する。図7(A)は、横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の平面図であり、同図(B)は、横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の側面図である。図示のように、網体22を構成する硬鋼線28に、横ロープ34が連結金具33によって繋がれることにより、横ロープ34が網体22に所定の遊びを持って装着されている。具体的には、連結金具33は、例えば、略U字状の金具33aの両端部に形成された孔部に、コッタピン33bが挿嵌されてなる略D字状のシャックルである。そして、連結金具33内に網体22を構成する硬鋼線28と横ロープ34は緩挿されており、それぞれ連結金具33に固着されているわけではないので、横ロープ34と網体22の繋ぎ目は固着されていない。すなわち、網体22に対して横ロープ34はその伸長方向に変位可能であり、横ロープ34に対して網体22は、菱形の網目形状の少なくとも一辺の長さぶんだけ変位可能である。よって、網体22は、横ロープ34により補強されているにもかかわらず上述のように変位可能であり、落石衝突時に衝突部位を中心に網体22全体が変位、変形することにより落石のエネルギーを効果的に吸収することが可能となっている。本実施の形態において、連結金具33を、菱形の網目形状一単位に対してひとつの割合で使用し、横ロープ34を網体22に装着している。横ロープ34の両端側には、それぞれ、引っ張り方向のエネルギーを吸収可能な緩衝手段36が一つずつ設けられている。
【0041】
図8(A)は、緩衝手段36の一例を示す側面図であり、同図(B)は、緩衝手段36の一例を示す正面図である。図示のように、緩衝手段36は、平行な先端側面37a及び基端側面37cと、これらをつなぐ傾斜面37bを有する平面視略矩形の2枚の同一形状の板状体37を有し、それぞれの先端側面37aを重ね合わせるとともに各基端側面37aに設けられた孔部37dに円筒状のコッタピン38を嵌挿させて形成された吊下げ金具39と、コッタピン38の側面に略U字状の屈曲部40aを引っ掛けた側面視略フック状の板材である緩衝金具40と、から構成されている。コッタピン38は、割ピン38aにより係止され、板状体37からの抜けが防止されている。吊下げ金具39の重ね合わせられた基端側面37aに設けられた孔部37eには図7で示した連結金具33と同形の連結金具33のコッタピン33bが挿嵌されることにより、連結金具33が取付けられている。この連結金具33内に斜面12側の横ロープ34の一端が挿通し、その挿通した一端が連結金具33内に挿通していない横ロープ34の一端近傍とワイヤークリップ15により固定されている。網体22側の横ロープ34は、同様にして、フック状の緩衝金具40の一端に設けられた孔部40bに取り付けられた連結金具33にワイヤークリップ15により固定して取り付けられている。以上の構成を有する緩衝手段36に落石を受けた網体22側から落石のエネルギーが横ロープ34に伝達されると、緩衝金具40が孔部40bのある一端側から矢印100方向へと引っ張られる。そして、所定量以上の荷重がかかると緩衝金具40の直線領域Rが、屈曲部40a側からコッタピン38を軸として最大でストッパー40cの位置まで連続して折れ曲がる挙動を示す。これにより、伝達された落石のエネルギーを吸収することができる。
【0042】
図9は、緩衝手段36の他の例を示す斜視図である。図示のように、緩衝手段36は、横ロープ34が二本挿通可能な孔部36aを有する金属製の緊締部材36に、横ロープ34を先ず挿通させ、その横ロープ34を環状にひと巻きした後、再度同じ方向から孔部36aに横ロープ34を挿通させ、緊締部材36をかしめることにより、挿通させた横ロープ34に固着させた構成を有する。よって、孔部36a中において、横ロープ34は相互に摩擦接触する構成となっている。よって、落石を受けた網体22側から落石のエネルギーが横ロープ34に伝達されると、孔部36a内において横ロープ34相互間及び横ロープ34と緊締部材36間に生じる摩擦によって落石のエネルギーを吸収することができる。
【0043】
次に、図10を参照して、この落石防護装置10の網体22に落石が衝突した状態を説明する。図10は、網体22に落石Sが衝突した時の落石防護装置10の作用を示す側面図である。図示のように、落石Sが斜面12の段差部位12aにおいて飛び跳ね、網体22の中央部に衝突した状態において、網体22の縦方向に補強ロープが組み込まれておらず、且つ、横ロープ34が網体22に対して連結金具33により所定の遊びをもって装着されているので、落石Sが網体22に衝突した際、網体22全体は衝突部を中心に引っ張られるように変形し、この網体22の構造的変形を通じて落石Sのエネルギーが吸収される。すなわち、網体22による効果的なエネルギーの吸収がなされる。また、斜面12に両端が固定された5本の横ロープ34によって、落石Sのエネルギーを支柱14方向だけでなく多方向へ分散伝達させることができる。そのうえ、各横ロープ34には、それぞれ2つずつ緩衝手段36が組み込まれており、落石Sのエネルギーをさらに吸収することができる。よって、斜面12に固定された横ロープ34というエネルギー分散機構、及び、網体22及び横ロープ34に設けられた緩衝手段36という二重のエネルギー吸収機構により、落石Sのエネルギーを効果的に分散し、且つ、吸収することができる。よって、主索ロープ18、支柱14、及び支持ロープ16−1〜4に生じる初期の応力ピークを大幅に低減させることができる。よって、落石防護装置10全体の耐久性が向上し、例えば、主索ロープ18や支柱14等の構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0044】
網体22に受け止められた落石Sは、その後、張設された網体22に沿って斜面12上に落下し、網体22の最下部位置と斜面12との間で保持される。よって、斜面12の傾斜下方側の平地13に設けられた道路等への落石被害を未然に防ぐことができる。
【0045】
上記実施の形態では、網体22を、複数の硬鋼線28を編みあわせることによりなる構成として例示したが、これに限定されるものではなく、種々の変形の適用が可能である。
【0046】
以下にその変形例を図11に基づいて説明する。同図において、上述の図1〜11に示した実施例と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。図11は、網体の別の態様を示す部分平面図である。図示のように、変形例に係る落石防護装置10の網体52は、硬鋼線28に替えて、3本の硬鋼線28を撚り合わせてなる撚り線54から構成されている。撚り線54による網体52の編み合わせ方は上述の実施例で説明した方法と同様の方法で実施可能であり、撚り線54により構成された網体52の網目形状も上述の網体22と同様菱形であることが好ましい。この網体52を構成する硬鋼線28自体の線径は1本の硬鋼線28を用いる場合と変わらないので、撚り線54は同径の硬鋼線28と同等の可とう性を有しつつ、引っ張り強度が大幅に強化されている。従って、その撚り線54によって構成された網体52は、その構造的変形により落石のエネルギーを吸収する性質を備えつつ、その引っ張り強度が飛躍的に上昇している。よって、より巨大な落石や、落石群のエネルギーを受け止めることができ、且つ、支柱14方向へと落石の大エネルギーを伝達する前に吸収することができる。
【0047】
この撚り線54を用いた網体52の網目の大きさは、例えば、構成された菱形の短い方の対角線d1が15〜35cm、長い方の対角線d2が30〜60cm、小さい方の内角aが50°〜70°の範囲とすることができる。この通り、高鋼線28を用いて作成した網体22と比較して、網目を大きくしつつ引っ張り強度の大きな網体54を構成することができる。また、網目の大きさを大きくすることにより、網体54の変形量を大きくし、網体54によるエネルギー吸収量を高めることができる。但し、落石のうち、小さい石は網目をすり抜けるおそれがあるので、小さい石をも受け止める場合は網体54の内角aを狭め、網目の形状の内接円の大きさを小さくする等の工夫が必要となる点に留意すべきである。
【0048】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施の形態において、緩衝手段36は横ロープ34の両端側に設けられているが、網体22又は52が十分に落石のエネルギーを吸収できるのであれば、横ロープ34の一端側のみに設けても良い。また、エネルギー吸収効果をさらに高めたいのであれば、緩衝手段36を連結して用いることも可能である。これにより、落石防護装置10全体に生じる初期のピーク応力をさらに低下させることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 落石防護装置
14 支柱
16−1〜4 支持ロープ
18 主索ロープ
20 吊り下げ用ロープ
22、52 網体
28 硬鋼線
34 横ロープ
36 緩衝手段
54 撚り線
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防護装置、特に、支柱間に張られた主索ロープに網体を吊り下げて設置される落石防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本は山国であり、道路や家屋等の建設に利用容易な平地よりも利用困難な山の斜面や山間の谷の斜面が多い。よって、平地がある場合は良いが、平地が無い場合は地山を切り開いて得られた平地を道路等の建設用地とする。これらの平地は斜面と隣接する場合が多く、斜面側からの落石が発生すると、その傾斜下方側の平地に設けられた道路、交通機関、家屋等に大きな被害をもたらすおそれがある。
【0003】
この落石に対する対策としては、従来、斜面に設置された支柱間に金網を谷側の斜面に垂設し、山側の斜面から転がってきた落石のエネルギーを受け止めて保持するいわゆるカーテン式の落石防護装置(例えば、特許文献1)が用いられる。
【0004】
図12は、従来のカーテン式の落石防護装置60を示す斜視図である。図示のように、展延した金網62が斜面64に設置された各支柱66−1、66−2に支持されており、金網62の上半分の部分は、各支柱66−1、66−2間に張架され、斜面上に垂設されている。金網62の下半分の部分は、両端が斜面にアンカーされた横ロープ68−1〜3により補強されると共に斜面に敷設されている。そして、金網62には、多数の縦補強ロープ70a及び横補強ロープ70bが組み込まれ、補強されている。これにより、斜面上を転がってきた落石は、十分に補強された金網62の上半分の部分に衝突した後、金網62と斜面との間の空間を落下して金網62の下半分の部分に保持される。
【0005】
なお、上記落石のエネルギーの受け止めは、金網62に密に組み込まれた縦補強ロープ70a及び横補強ロープ70bによってなされ、金網62自体は小石止めの役割を果たす。
【0006】
また、特許文献2には、例えば、スパンの大きな広い斜面領域において、全域に張架された金網に対して複数の縦補強ロープ、横補強ロープを組み込んだカーテン式の網体の構造が開示されている。そして、両端が斜面にアンカーされた横ロープが、網体の高さ方向に対して平行に数本組み込まれた構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2916633号
【特許文献2】特許第3258994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び2に記載されている落石防護装置によれば、金網は高強度の線材を使用しておらず、金網自体によって落石の大エネルギーを受け止めることはできない。もっぱら落石のエネルギーの受け止めは縦横に組み込まれた補強ロープによってなされる。しかし、補強ロープは構造上ほとんど変形できないので、落石のエネルギーは主に落石を受けた部位から縦横の補強ロープの伸長方向に速やかに伝達され、補強ロープへの落石の衝突時にそのエネルギーを十分に吸収することができない。すなわち、補強ロープが受け止めた落石のエネルギーはほぼ減衰することなく大きな力として速やかに支柱及び支柱を支持する支持ロープへと集中して伝達され、支柱及び支柱を支持する支持ロープに生じる初期のピーク応力が増大することとなっていた。よって、落石防護装置の構造的に支柱及び支持ロープへかかる負担が大きくなっており、問題であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、落石の大エネルギーを効果的に吸収し、且つ、分散することができる落石防護装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するための請求項1に記載の発明は、斜面に横方向に所定間隔をおいて立設された複数の支柱と、該各支柱と山側の斜面との間に張架され、前記各支柱の起立状態を維持する支持ロープと、前記支柱間に張架された主索ロープと、前記主索ロープにて吊り下げられ、高強度の硬鋼線によって構成された網体と、を有する落石防護装置において、前記網体には、両端がそれぞれ該網体の両側部より外側の斜面に固定され、該網体の横方向に延在して該網体に対して所定の遊びを持って装着された横ロープと、該横ロープに設けられ、該横ロープの引っ張り方向への衝撃を吸収する緩衝手段と、が設けられていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、高強度の硬鋼線によって網体が構成され、且つ、両端が網体の両側部より外側の斜面に固定された横ロープが網体の横方向に延在して網体に対して所定の遊びをもって装着されているので、落石が網体に衝突した際、網体全体が落石の衝突部を中心に引っ張られるように変形し、この網体の構造的変形を通じて落石のエネルギーが吸収される。すなわち、網体による効果的な落石エネルギーの吸収がなされる。また、網体が受けた落石のエネルギーは、横ロープを介して網体の両側部より外側の斜面に分散伝達されるとともに、落石のエネルギーが大きかった場合、緩衝手段によってその一部を効果的に吸収することができる。すなわち、斜面に固定された横ロープというエネルギー分散機構、及び、網体及び横ロープに設けられた緩衝手段という二重のエネルギー吸収機構により、落石のエネルギーを効果的に分散し、且つ、吸収することができる。よって、例えば、主索ロープ、支柱、及び支持ロープに作用する初期のピーク応力を大きく低減させることができる。
【0012】
なお、網体中には縦補強ロープが組み込まれていないので、縦補強ロープを介して主索ロープ、支柱、及び支持ロープへ落石のエネルギーが集中し、これらに過度の負担をかけることもない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の落石防護装置において、前記横ロープは、上下に所定の間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、横ロープが上下に所定の間隔をおいて網体に複数設けられているので、落石のエネルギーが網体から横ロープに伝達されやすく、よって、横ロープに設けられた緩衝手段によってより効果的に落石のエネルギーを吸収することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の落石防護装置において、前記網体の吊り下げは、前記主索ロープに吊り下げ用ロープを所定間隔毎に垂下させて取付け、該吊り下げ用ロープの下端に前記網体の上縁部を取り付けることによってなされたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、網体の上縁部の高さ位置を、吊り下げ用ロープの長さのぶんだけ調節することができる。よって、網体全体を必要な高さ位置まで吊り上げることができる。よって、例えば、網体の横の長さを大きくした場合に、網体の上縁部の略中央部が両端部と比べて垂下し、落石が網体の上縁部の略中央部を越えて谷側へ落下するおそれが低減する。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記網体は、略多角形の網目の形状を有し、該略多角形の網目の形状における内接円の半径が、4.5〜8.5cmであることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、適度な大きさの網目によって網体のたわみ変形量を大きくとりつつ、落石を受け止めることができる適切な大きさの網目が構成されている。よって、落石のエネルギーの吸収効果を更に高めつつ確実に落石を受け止めることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の落石防護装置において、前記網目の形状は、菱形であり、前記網体は、前記菱形の網目の形状における長い方の対角線の伸長方向が網体の縦方向となるように設置されることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、網体は、縦方向の引っ張り強度が最も強化された構成となっており、山側の斜面からの落石を受け止めるのに適した構成となっている。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記硬鋼線は、400〜2000N/mm2の引っ張り強度を有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、網体の引っ張り強度がより強化されているので、比較的大きな落石を受けた場合であっても破断するおそれが減少する。よって、網体の補強手段等の構成の簡素化を図り、且つ、網体の軽量化を図ることが可能である。さらに、網体の引っ張り強度が強化されていることにより、落石を受けた際、網体の変形によるエネルギー吸収量が大きくなるという利点がある。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記硬鋼線は、2〜6mmの線径を有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、硬鋼線の引っ張り強度をより適切な範囲に保ちながら、硬鋼線は適度な可とう性を示すようになる。よって、構成された網体は、落石を受け止める十分な強度を示しつつ、より適切なたわみ変形量を確保することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記網体は、複数の前記硬鋼線を撚り合わせた撚り線によって構成されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、網体を構成する撚り線は、硬鋼線の線径自体は大きくなっていないので、同径の硬鋼線と同等の可とう性を維持したまま、引っ張り強度が大幅に強化されている。よって、撚り線により構成された網体は、その構造的変形により落石のエネルギーを吸収する性質を備えつつ、その引っ張り強度が大幅に増大している。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8の何れか1項に記載の落石防護装置において、前記支柱は、谷側の斜面に向かって傾動可能な状態で立設されていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、落石の網体への衝突により支柱に作用する応力の一部を吸収し、支柱の折れなどを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、斜面に固定された横ロープというエネルギー分散機構、及び、網体及び横ロープに設けられた緩衝手段という二重のエネルギー吸収機構により、落石のエネルギーを効果的に分散し、且つ、吸収することができる。よって、主索ロープ、支柱、及び支持ロープに生じる初期のピーク応力を大幅に低下させることができる。よって、主索ロープ、支柱、及び支持ロープへかかる負担を低減させることができ、装置全体の耐久性が向上すると共に、例えば、支柱や各ロープの素材や構成を変更し、装置の構成の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施の形態に係る落石防護装置10の全体概容を示す平面図である。
【図2】同じく、落石防護装置10の側面図である。
【図3】(A)同じく、支柱14の上端部の正面図である。(B)同じく、支柱14の上端部の側面図である。
【図4】(A)同じく、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大側面図である。(B)同じく、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大正面図である。
【図5】同じく、網体22を構成する硬鋼線28の湾曲形状を示す部分斜視図である。
【図6】(A)同じく、硬鋼線28が編み合わされて構成された網体22の部分斜視図である。(B)同じく、網体22の部分平面図である。
【図7】(A)横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の平面図である。(B)横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の側面図である。
【図8】(A)同じく、緩衝手段36の一例を示す側面図である。(B)同じく、緩衝手段36の一例を示す正面図である。
【図9】同じく、緩衝手段36の他の例を示す斜視図である。
【図10】同じく、網体22に落石Sが衝突した時の落石防護装置10の作用を示す側面図である。
【図11】同じく、網体の別の態様を示す部分平面図である。
【図12】従来のカーテン式の落石防護装置60を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明に係る落石防護装置の実施の形態を図1〜11を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る落石防護装置10の全体概容を示す平面図であり、図2は、落石防護装置10の側面図である。図示のように、地山を掘削して形成された法面等の斜面12に対し、横方向に例えば約30mの間隔をおいて2本の支柱14が地山に固定されている。支柱14は、例えば、図2に示されるように、斜面12の地盤に浅く埋め込まれた受け台24に、ヒンジ26を介して取り付けられており、ヒンジ26によって支柱14は谷側へ傾動可能な構成となっている。この構成により、支柱14に作用する応力の一部を吸収することができる。図3(A)は、支柱14の上端部の正面図であり、同図(B)は、支柱14の上端部の側面図である。図示のように、支柱14の上端部には、略U字型の金具14aの両端が、支柱14の平坦な上端面14bに埋め込まれ、取り付けられている。そして、支柱14の上端近傍には、ロープを連結するためのブラケット14cが支柱14の各側面に計4カ所設けられている。支柱14は、以下に述べる計4本の支持ロープ16によりその起立状態を維持されている。1本目の支持ロープ16は、4カ所のブラケット14cのうち、一つのブラケット14cに一端が連結され、支柱14の上端部と山側の斜面12との間に張架された支持ロープ16−1である。2本目の支持ロープ16は、金具14aの凹部と支柱14の上端14bとによって一部が挟持され、支柱14の上端部と山側の斜面12との間に張架された支持ロープ16−2である。3本目及び4本目の支持ロープ16は、1本目の支持ロープ16−1と同じくブラケット14cに各支持ロープの一端が連結され、支柱14の上端部と支柱から横方向の斜面12との間にそれぞれ張架された支持ロープ16−3及び16−4である。各支持ロープ16−1、16−3、及び16−4とブラケット14cへの連結は、ブラケット14cに挿通した支持ロープの一端を周知のワイヤークリップ15(図3A及びBを参照乞う)によって同じ支持ロープのブラケット14cに挿通していない一端近傍に固定することによってなされる。また、支持ロープ16−2は、支柱14の上端部から支柱14間方向へ延在し、支柱14間に張架された主索ロープ18を構成している。そして、通常、支持ロープ16−2(主索ロープ18)は、金具14aの凹部と支柱14の上端14bとによって挟持されており容易には移動しないが、主索ロープ18に対して強い引っ張り力が作用した際は、金具14aの凹部と支柱14の上端14bの摩擦力に抗して摺動し、伝達されたエネルギーを吸収する。
【0032】
主索ロープ18には、複数の吊り下げ用ロープ20が約3mの間隔をおいて計11本垂下させて取付けられており、この吊り下げ用ロープ20の下端に網体22の上縁部22aが取り付けられている。よって、網体22は上縁部22aから吊り下げ用ロープ20を介して主索ロープ18にて吊り下げられ、谷側の斜面12に向かって垂設されている。図4(A)は、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大側面図であり、同図(B)は、主索ロープ18と吊り下げ用ロープ20の取付け部分の拡大正面図である。図示のように、吊り下げ用ロープ20は、吊り金具21によって主索ロープ18に取り付けられている。吊り金具21は、平面視略矩形の板状体21a及び21bをネジ接合した構成を有する。板状体21a及び21bの接合面には、互いに対向する溝部21c及び21dがそれぞれ設けられており、両溝部21c及び21d間に主索ロープ18が挟持されている。また、吊り金具21の図における下方側には、ボルト孔21eが設けられており、このボルト孔21eに通されたボルト及びこのボルトに嵌められたナットにより、吊り下げ用ロープ20の上端が固定されている。また、吊り下げ用ロープ20の端部は、ボルトに引っ掛けられた後、吊り下げ用ロープ20の端部近傍と上述のワイヤークリップ15により固定されている。ここで、吊り金具21は、主索ロープ18を強く挟持しているので、通常は両者の位置が容易に位置ずれすることはない。しかし、主索ロープ18に対して強力な引っ張り力が作用した時、吊り金具21に対して主索ロープ18が摺動し、伝達されたエネルギーを吸収することができる。
【0033】
そして、吊り下げ用ロープ20の長さを調節することにより、網体22の上縁部22aの高さ位置を調節することができる。よって、例えば、網体22の横の長さを大きくした場合に、網体22の上縁部22aの略中央部がその両端部と比べて垂下し、落石が網体22の略中央部を越えて谷側へ落下するおそれが低減する。
【0034】
支持ロープ16は、各支柱14につき16−1及び16−2の4本で構成されているが、4本以上で構成されていても良い。
【0035】
網体22は、支柱14の間隔と同じく約30mの横幅を有し、縦の長さは約10mである。支柱14の数を増やすことにより、網体22の横幅をもっと大きくとることも可能である。また、網体22の縦の長さは、網体22の下端縁が谷側の斜面に当接する長さであれば上記長さに限られない。この網体22は、高強度の硬鋼線28によって構成されており、例えば、その硬鋼線28の引っ張り強度は400〜2000N/mm2である。このような高強度の硬鋼線28を使用することにより、落石が網体22に衝突した際、網体22を構成する線材の破断を防ぐことができ、よって、補強ロープを縦横に張り巡らすことなく基本的に網体22が落石を受け止めることができる。また、硬鋼線28の線径は、好ましくは2〜6mmである。2mmより線径が小さい場合は上記必要な硬鋼線28の強度をとることが困難となる。逆に、6mmより大きな線径である場合、硬鋼線28の可とう性が減少し、網体22を構成する際の折り曲げ加工が困難になると共に、折り曲げ加工した部位が疲労し、よって、網体22における網目の交点の強度損失が生じるために好ましくない。
【0036】
本実施の形態においては、複数の上記硬鋼線28を編み合わせることにより、菱形の網目の形状を有する網体22を構成している。その構成の詳細を以下に説明する。図5は、網体22を構成する硬鋼線28の湾曲形状を示す部分斜視図である。図示のように、硬鋼線28は、一定の間隔をおいて湾曲部28aで折り返しながら長手方向に向かって螺旋状に延在する構成を有する。湾曲部28aに挟まれた間隔は所定長の直線部28bとなる。このように形成された硬鋼線28は、平面的に見てジグザグに、断面視で略長円状の外観を有する。
【0037】
図6(A)は、硬鋼線28が編み合わされて構成された網体22の部分斜視図であり、同図(B)は、網体22の部分平面図である。図示のように、上記折り返し形状を有する硬鋼線28は、互いの湾曲部28aで編み合わされ、菱形の網目の形状を有する網体22を構成する。この菱形の網目の大きさは、網体22をたわみ変形やゆるみを生じさせずに展延させた状態における内接円の半径r(同図(B)参照乞う)が約4.5〜8.5cmの範囲となるような大きさで構成される。このような大きさに網目を構成することにより、網体22の網目を落石が通過することを防止しつつ十分に大きな網目を構成することができるので、網体22のたわみ変形量を大きくとることができ、網体22による落石のエネルギーの吸収がより促進されることとなる。上述の網目の大きさは、例えば、構成された菱形の短い方の対角線が10〜20cm、長い方の対角線が20〜30cm、小さい方の内角aが50°〜70°の範囲とすることにより得られる。このように、網目を正方形(又は正多角形)ではなく、小さい方の内角aを有する形状とすることで、網目の一辺の長さが同一であっても内接円の半径を小さくとることができ、よって、落石を漏れなく受け止めることが可能となる。また、本実施の形態では、網体22は、構成された菱形の長い方の対角線の伸長方向が網体22の縦方向となるように設置されている。これにより、同じ形状の菱形の網目を形成した網体であれば、縦方向の引っ張り強度を最も強い網体とすることができるので、谷側へと落下する落石をより効果的に受け止めることができる。
【0038】
なお、網体22の網目の形状は、菱形に限られず、上記内径により定義された大きさを有する多角形であれば良い。
【0039】
さらに、網体22には、網体22の横方向に延在して網体22に対して装着された横ロープ34が設けられている。横ロープ34の両端は、網体22の両側部から突出し、網体22の両側部より外側の斜面に埋設されたアンカーと結合したアンカー金具31の先端にそれぞれ結びつけられ、固定されている。この横ロープ34は、網体22の補強手段として存在するだけでなく、網体22が受け止めた落石のエネルギーの一部を、支柱14を介さず斜面12方向へと分散伝達する分散伝達手段としての働きを有する。また、横ロープ34は、網体22の過剰な変形をおさえるブレーキ手段としての役割を有する。網体22の変形により落石のエネルギーは効果的に吸収されるのであるが、過剰な変形は斜面の傾斜下方側の平地13(図2参照乞う)に設けられた構造物にも影響を及ぼすおそれがあるからである。横ロープ34は合計5本、それぞれの間隔は約2.5mである。この間隔は約1m〜5mの範囲であることが好ましい。5mを越えると、落石が網体22に衝突する位置によっては、網体22から横ロープ34への落石のエネルギーの伝達、及び、横ロープ34に設けられた後述する緩衝手段による落石のエネルギーの吸収効果が低下し、好ましくない。また、間隔が1mより密になると、網体22がたわみ変形しにくくなり、好ましくない。なお、本実施の形態において、網体22に縦方向の補強ロープは組み込まれていない。上述のとおり、基本的に網体22自体が落石のエネルギーを受け止める強度を有しており、横ロープ34を設けたうえに縦方向の補強ロープを設けて網体22を過剰に補強する必要がないからである。また、縦方向の補強ロープによると、落石のエネルギーを速やかに支柱14、主索ロープ18、及び支持ロープ16−1、16−2に伝達させることとなり、したがって、これらの初期のピーク応力が増大し、本発明の目的の達成が困難になるからである。
【0040】
以下、本実施の形態において特徴的な横ロープ34の網体22への装着を図7により説明する。図7(A)は、横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の平面図であり、同図(B)は、横ロープ34を網体22に装着する連結金具33の側面図である。図示のように、網体22を構成する硬鋼線28に、横ロープ34が連結金具33によって繋がれることにより、横ロープ34が網体22に所定の遊びを持って装着されている。具体的には、連結金具33は、例えば、略U字状の金具33aの両端部に形成された孔部に、コッタピン33bが挿嵌されてなる略D字状のシャックルである。そして、連結金具33内に網体22を構成する硬鋼線28と横ロープ34は緩挿されており、それぞれ連結金具33に固着されているわけではないので、横ロープ34と網体22の繋ぎ目は固着されていない。すなわち、網体22に対して横ロープ34はその伸長方向に変位可能であり、横ロープ34に対して網体22は、菱形の網目形状の少なくとも一辺の長さぶんだけ変位可能である。よって、網体22は、横ロープ34により補強されているにもかかわらず上述のように変位可能であり、落石衝突時に衝突部位を中心に網体22全体が変位、変形することにより落石のエネルギーを効果的に吸収することが可能となっている。本実施の形態において、連結金具33を、菱形の網目形状一単位に対してひとつの割合で使用し、横ロープ34を網体22に装着している。横ロープ34の両端側には、それぞれ、引っ張り方向のエネルギーを吸収可能な緩衝手段36が一つずつ設けられている。
【0041】
図8(A)は、緩衝手段36の一例を示す側面図であり、同図(B)は、緩衝手段36の一例を示す正面図である。図示のように、緩衝手段36は、平行な先端側面37a及び基端側面37cと、これらをつなぐ傾斜面37bを有する平面視略矩形の2枚の同一形状の板状体37を有し、それぞれの先端側面37aを重ね合わせるとともに各基端側面37aに設けられた孔部37dに円筒状のコッタピン38を嵌挿させて形成された吊下げ金具39と、コッタピン38の側面に略U字状の屈曲部40aを引っ掛けた側面視略フック状の板材である緩衝金具40と、から構成されている。コッタピン38は、割ピン38aにより係止され、板状体37からの抜けが防止されている。吊下げ金具39の重ね合わせられた基端側面37aに設けられた孔部37eには図7で示した連結金具33と同形の連結金具33のコッタピン33bが挿嵌されることにより、連結金具33が取付けられている。この連結金具33内に斜面12側の横ロープ34の一端が挿通し、その挿通した一端が連結金具33内に挿通していない横ロープ34の一端近傍とワイヤークリップ15により固定されている。網体22側の横ロープ34は、同様にして、フック状の緩衝金具40の一端に設けられた孔部40bに取り付けられた連結金具33にワイヤークリップ15により固定して取り付けられている。以上の構成を有する緩衝手段36に落石を受けた網体22側から落石のエネルギーが横ロープ34に伝達されると、緩衝金具40が孔部40bのある一端側から矢印100方向へと引っ張られる。そして、所定量以上の荷重がかかると緩衝金具40の直線領域Rが、屈曲部40a側からコッタピン38を軸として最大でストッパー40cの位置まで連続して折れ曲がる挙動を示す。これにより、伝達された落石のエネルギーを吸収することができる。
【0042】
図9は、緩衝手段36の他の例を示す斜視図である。図示のように、緩衝手段36は、横ロープ34が二本挿通可能な孔部36aを有する金属製の緊締部材36に、横ロープ34を先ず挿通させ、その横ロープ34を環状にひと巻きした後、再度同じ方向から孔部36aに横ロープ34を挿通させ、緊締部材36をかしめることにより、挿通させた横ロープ34に固着させた構成を有する。よって、孔部36a中において、横ロープ34は相互に摩擦接触する構成となっている。よって、落石を受けた網体22側から落石のエネルギーが横ロープ34に伝達されると、孔部36a内において横ロープ34相互間及び横ロープ34と緊締部材36間に生じる摩擦によって落石のエネルギーを吸収することができる。
【0043】
次に、図10を参照して、この落石防護装置10の網体22に落石が衝突した状態を説明する。図10は、網体22に落石Sが衝突した時の落石防護装置10の作用を示す側面図である。図示のように、落石Sが斜面12の段差部位12aにおいて飛び跳ね、網体22の中央部に衝突した状態において、網体22の縦方向に補強ロープが組み込まれておらず、且つ、横ロープ34が網体22に対して連結金具33により所定の遊びをもって装着されているので、落石Sが網体22に衝突した際、網体22全体は衝突部を中心に引っ張られるように変形し、この網体22の構造的変形を通じて落石Sのエネルギーが吸収される。すなわち、網体22による効果的なエネルギーの吸収がなされる。また、斜面12に両端が固定された5本の横ロープ34によって、落石Sのエネルギーを支柱14方向だけでなく多方向へ分散伝達させることができる。そのうえ、各横ロープ34には、それぞれ2つずつ緩衝手段36が組み込まれており、落石Sのエネルギーをさらに吸収することができる。よって、斜面12に固定された横ロープ34というエネルギー分散機構、及び、網体22及び横ロープ34に設けられた緩衝手段36という二重のエネルギー吸収機構により、落石Sのエネルギーを効果的に分散し、且つ、吸収することができる。よって、主索ロープ18、支柱14、及び支持ロープ16−1〜4に生じる初期の応力ピークを大幅に低減させることができる。よって、落石防護装置10全体の耐久性が向上し、例えば、主索ロープ18や支柱14等の構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0044】
網体22に受け止められた落石Sは、その後、張設された網体22に沿って斜面12上に落下し、網体22の最下部位置と斜面12との間で保持される。よって、斜面12の傾斜下方側の平地13に設けられた道路等への落石被害を未然に防ぐことができる。
【0045】
上記実施の形態では、網体22を、複数の硬鋼線28を編みあわせることによりなる構成として例示したが、これに限定されるものではなく、種々の変形の適用が可能である。
【0046】
以下にその変形例を図11に基づいて説明する。同図において、上述の図1〜11に示した実施例と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。図11は、網体の別の態様を示す部分平面図である。図示のように、変形例に係る落石防護装置10の網体52は、硬鋼線28に替えて、3本の硬鋼線28を撚り合わせてなる撚り線54から構成されている。撚り線54による網体52の編み合わせ方は上述の実施例で説明した方法と同様の方法で実施可能であり、撚り線54により構成された網体52の網目形状も上述の網体22と同様菱形であることが好ましい。この網体52を構成する硬鋼線28自体の線径は1本の硬鋼線28を用いる場合と変わらないので、撚り線54は同径の硬鋼線28と同等の可とう性を有しつつ、引っ張り強度が大幅に強化されている。従って、その撚り線54によって構成された網体52は、その構造的変形により落石のエネルギーを吸収する性質を備えつつ、その引っ張り強度が飛躍的に上昇している。よって、より巨大な落石や、落石群のエネルギーを受け止めることができ、且つ、支柱14方向へと落石の大エネルギーを伝達する前に吸収することができる。
【0047】
この撚り線54を用いた網体52の網目の大きさは、例えば、構成された菱形の短い方の対角線d1が15〜35cm、長い方の対角線d2が30〜60cm、小さい方の内角aが50°〜70°の範囲とすることができる。この通り、高鋼線28を用いて作成した網体22と比較して、網目を大きくしつつ引っ張り強度の大きな網体54を構成することができる。また、網目の大きさを大きくすることにより、網体54の変形量を大きくし、網体54によるエネルギー吸収量を高めることができる。但し、落石のうち、小さい石は網目をすり抜けるおそれがあるので、小さい石をも受け止める場合は網体54の内角aを狭め、網目の形状の内接円の大きさを小さくする等の工夫が必要となる点に留意すべきである。
【0048】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施の形態において、緩衝手段36は横ロープ34の両端側に設けられているが、網体22又は52が十分に落石のエネルギーを吸収できるのであれば、横ロープ34の一端側のみに設けても良い。また、エネルギー吸収効果をさらに高めたいのであれば、緩衝手段36を連結して用いることも可能である。これにより、落石防護装置10全体に生じる初期のピーク応力をさらに低下させることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 落石防護装置
14 支柱
16−1〜4 支持ロープ
18 主索ロープ
20 吊り下げ用ロープ
22、52 網体
28 硬鋼線
34 横ロープ
36 緩衝手段
54 撚り線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に横方向に所定間隔をおいて立設された複数の支柱と、該各支柱と山側の斜面との間に張架され、前記各支柱の起立状態を維持する支持ロープと、前記支柱間に張架された主索ロープと、前記主索ロープにて吊り下げられ、高強度の硬鋼線によって構成された網体と、を有する落石防護装置において、
前記網体には、
両端がそれぞれ該網体の両側部より外側の斜面に固定され、該網体の横方向に延在して該網体に対して所定の遊びを持って装着された横ロープと、
該横ロープに設けられ、該横ロープの引っ張り方向への衝撃を吸収する緩衝手段と、
が設けられていることを特徴とする落石防護装置。
【請求項2】
前記横ロープは、上下に所定の間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の落石防護装置。
【請求項3】
前記網体の吊り下げは、
前記主索ロープに吊り下げ用ロープを所定間隔毎に垂下させて取付け、該吊り下げ用ロープの下端に前記網体の上縁部を取り付けることによってなされたことを特徴とする請求項1又は2に記載の落石防護装置。
【請求項4】
前記網体は、略多角形の網目の形状を有し、
該略多角形の網目の形状における内接円の半径が、4.5〜8.5cmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項5】
前記網目の形状は、菱形であり、
前記網体は、前記菱形の網目の形状における長い方の対角線の伸長方向が網体の縦方向となるように設置されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項6】
前記硬鋼線は、400〜2000N/mm2の引っ張り強度を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項7】
前記硬鋼線は、2〜6mmの線径を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項8】
前記網体は、複数の前記硬鋼線を撚り合わせた撚り線によって構成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項9】
前記支柱は、谷側の斜面に向かって傾動可能な状態で立設されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項1】
斜面に横方向に所定間隔をおいて立設された複数の支柱と、該各支柱と山側の斜面との間に張架され、前記各支柱の起立状態を維持する支持ロープと、前記支柱間に張架された主索ロープと、前記主索ロープにて吊り下げられ、高強度の硬鋼線によって構成された網体と、を有する落石防護装置において、
前記網体には、
両端がそれぞれ該網体の両側部より外側の斜面に固定され、該網体の横方向に延在して該網体に対して所定の遊びを持って装着された横ロープと、
該横ロープに設けられ、該横ロープの引っ張り方向への衝撃を吸収する緩衝手段と、
が設けられていることを特徴とする落石防護装置。
【請求項2】
前記横ロープは、上下に所定の間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の落石防護装置。
【請求項3】
前記網体の吊り下げは、
前記主索ロープに吊り下げ用ロープを所定間隔毎に垂下させて取付け、該吊り下げ用ロープの下端に前記網体の上縁部を取り付けることによってなされたことを特徴とする請求項1又は2に記載の落石防護装置。
【請求項4】
前記網体は、略多角形の網目の形状を有し、
該略多角形の網目の形状における内接円の半径が、4.5〜8.5cmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項5】
前記網目の形状は、菱形であり、
前記網体は、前記菱形の網目の形状における長い方の対角線の伸長方向が網体の縦方向となるように設置されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項6】
前記硬鋼線は、400〜2000N/mm2の引っ張り強度を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項7】
前記硬鋼線は、2〜6mmの線径を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項8】
前記網体は、複数の前記硬鋼線を撚り合わせた撚り線によって構成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の落石防護装置。
【請求項9】
前記支柱は、谷側の斜面に向かって傾動可能な状態で立設されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の落石防護装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−19198(P2013−19198A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154260(P2011−154260)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)
【出願人】(595053777)吉佳エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)
【出願人】(595053777)吉佳エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】
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