説明

蒸散材

【課題】 蒸散成分の保持量を高め、該蒸散成分の蒸散による効果を長期間にわたり継続して発現させる蒸散材を提供する。
【解決手段】 蒸散成分を保持した揮散体を備えた蒸散材であって、前記揮散体が、短繊維および長繊維からなり通気孔を設けたものであり、例えば、短繊維および長繊維からなるネットが使用される。前記蒸散材は、前記揮散体を保持した枠体2と、通気性を有し前記枠体2を着脱自在に収納した収納体3とを、さらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、害虫防除剤(殺虫剤、忌避剤等)、芳香剤、消臭・防臭剤、殺菌剤、防カビ剤等の蒸散成分を常温下で蒸散させて、効果を発現させる蒸散材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、害虫防除剤等の常温蒸散性の薬剤を吸液性の担体に含浸させ、屋内や屋外に吊り下げたり、載置したりすることにより、薬剤を空間に継続して蒸散させる蒸散材が知られている(例えば、特許文献1参照)。そのような蒸散材においては、前記吸液性の担体として、廃棄が容易であるといった理由から、パルプや天然繊維等をバインダーで固めるなどしてプレート状やシート状に加工したものが用いられていた。
【0003】
前記蒸散材によって長期間にわたり継続して薬剤を蒸散させるには、所望する期間に比例して担体に保持させる単位面積あたりの薬剤量を増やさなければならない。しかしながら、保持させる薬剤量が担体に含浸できる許容量を超えてしまうと、薬液漏れ等の問題を招くことになる。そのため、蒸散材の有効期間に制限を受けることになり、薬剤の種類等によっても異なるが、従来の蒸散材では30日程度までの有効期間しか得られないのが現状であった。したがって、単位面積あたりに保持させうる薬剤量をさらに高め、より長い期間有効に効果を発現させうる蒸散材が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−241202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、蒸散成分の保持量を高め、かつ該蒸散成分を長期間にわたり安定して蒸散させることができる蒸散材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の蒸散材は、蒸散成分を保持した揮散体を備えたものであって、前記揮散体が短繊維および長繊維からなり、通気孔を設けたものであることを特徴とする。
前記短繊維と長繊維の割合は、重量比で短繊維:長繊維=10:90〜80:20であるのがよい。
また、本発明の蒸散材は、前記揮散体を保持した枠体と、通気性を有し前記枠体を着脱自在に収納した収納体とを、さらに備えるのがよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蒸散材によれば、揮散体が短繊維を含有することにより蒸散成分の保持量が高まり、かつ揮散体には通気孔が形成されているので、前記蒸散成分の有効量を長期間にわたり安定して蒸散させることができる、という効果がある。
具体的には、本発明の蒸散材では、揮散体の単位面積あたりに保持させうる蒸散成分(薬剤)の量を従来よりも高めることができ、その有効期間も長期化させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るネットの編組方法の一例を示す概略図である。
【図2】編組方法の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る蒸散材を示す正面図である。
【図4】図3のx−x線概略断面図である。
【図5】上記図3に示す蒸散材の上面図である。
【図6】上記図3に示す蒸散材におけるカートリッジ式の枠体の一例を示す正面図である。
【図7】本発明の他の実施形態である蒸散材を厚み方向に切断したときの概略断面図である。
【図8A】実施例1で得られたネットの網目を拡大して示す模式図である。
【図8B】実施例2で得られたネットの網目を拡大して示す模式図である。
【図8C】実施例3で得られたネットの網目を拡大して示す模式図である。
【図8D】実施例4で得られたネットの網目を拡大して示す模式図である。
【図8E】実施例5で得られたネットの網目を拡大して示す模式図である。
【図8F】比較例1で得られたネットの網目を拡大して示す模式図である。
【図9】害虫防除効力試験に使用した試験装置を示す模式図である。
【図10】害虫防除効力試験の経過時間とノックダウン率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の蒸散材は、短繊維と長繊維とから形成したネット(揮散体)に蒸散成分を保持させたものである。このネットは、蒸散成分が揮散するのに有用な通気孔となる目開きを有する。
本発明における前記ネットは、例えば、短繊維の糸と長繊維の糸とを用いて、糸のループを作り、そのループに次の糸を引っ掛けて新しいループを作ることを連続するなどして、糸を互いに絡み合わせ、糸の網目を前後左右に連ねたものであり、具体的には、例えばレース編みやメリヤス編みなどの手法を用いて編み上げることができる。
【0011】
本発明において、短繊維の糸とは、例えば、短繊維を平行に揃え引き伸ばして撚りをかけて形成された紡績糸をいう。本発明において、短繊維とは、繊維長が100mm以下、好ましくは20〜60mm程度のものをいい、ステープルと呼ばれることがある。化学繊維の場合には、これを紡績の原料とするために、短く切断したものが該当する。
本発明における短繊維の糸の直径は、特に制限されないが、通常、12〜295番手(綿番手、以下同じ)、好ましくは20〜118番手であるのがよい。デシテックス単位では20〜500dtex、好ましくは50〜300dtexである。短繊維の直径が小さすぎると、蒸散成分(薬剤)の保持量が少なくなるおそれがあり、一方、大きすぎると、ネットの目開き(通気孔)が小さくなり、保持された蒸散成分の蒸散性が低下するおそれがある。
【0012】
前記短繊維の素材としては、例えば、パルプ、綿、羊毛、麻、絹等の天然繊維や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリサルフォン、レーヨン、メタアクリル酸樹脂、その他生分解性樹脂(ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸))などが挙げられる。これらの中でも特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンが好ましい。短繊維は、これらの素材の1種または2種以上の素材を混合して使用することができる。
【0013】
前記長繊維の素材としては、前記した短繊維の素材と同様なものを例示することができる。使用する長繊維は、短繊維と同じ素材であってもよく、あるいは短繊維と異なる素材のものを使用してもよい。
なお、短繊維および/または長繊維には、例えば、防カビ剤、色素、紫外線吸収剤等の従来公知の添加物を含有させることもできる。
【0014】
短繊維と長繊維とは、重量比で短繊維:長繊維=10:90〜80:20の割合であるのがよい。短繊維の割合が上記範囲より少なく、長繊維の割合が上記範囲より多い場合には、薬剤の保持量を高めることが困難になるおそれがある。一方、短繊維の割合が上記範囲より多く、長繊維の割合が上記範囲より少ない場合には、得られるネットの強度が劣り、ネットへの編み上げ加工も困難になるおそれがある。
【0015】
本実施形態においては、前記短繊維の糸と長繊維の糸とを用いてネットを編み上げる。
短繊維の糸は、例えば、短繊維を紡績して得られた1本の短繊維の糸を用いて形成されていてもよいが、紡績した複数(通常、2本〜5本)の短繊維の糸をさらに撚り合わせた糸(混撚糸)を用いて形成してもよい。混撚糸は、素材が同一の糸を混撚してもよく、あるいは素材が異なる糸を混撚してもよい。
【0016】
紡績時における糸の撚り数は、特に制限されず、通常、長さ2.54cm(1インチ)当り18〜21回であればよいが、編み物の場合は、18以下の甘撚りであってもよい。
【0017】
前記した長繊維の糸は、複数本のフィラメントからなる。このフィラメントは、モノフィラメントを複数本束ねた、いわゆるマルチフィラメントであってもよいし、もしくは、モノフィラメントまたは前記マルチフィラメントの2本以上を編んだり、撚ったりすることにより、1本の糸束としたものであってもよい。
フィラメント(モノフィラメント)の直径は、特に制限されないが、通常20〜500dtex、好ましくは50〜300dtexであるのがよい。フィラメント(モノフィラメント)の直径が小さすぎると、蒸散成分(薬剤)の保持量が少なくなるおそれがあり、一方、大きすぎると、ネットの目開き(通気孔)が小さくなり、保持された蒸散成分の蒸散性が低下するおそれがある。
【0018】
本発明においては、前記長繊維の糸の少なくとも一部に捲縮が付与されているのが好ましい。これにより、同じ目付けであっても蒸散成分の保持量を向上させることができる。
なお、捲縮は、ネットの形成に用いる糸の少なくとも一部に付与されていればよく、例えば、後述するレース編みの形態においては複数の長繊維の糸(経糸)のうち何本かに捲縮が付与されていてもよい。また、長繊維の糸を構成する複数本のフィラメント(モノフィラメントまたはマルチフィラメント)のうちの何本かのフィラメントに捲縮が付与されていてもよい(つまり、捲縮が付与されたフィラメントを1本以上含んで構成される糸を用いてネットを形成するようにしてもよい)。好ましくは、全てのフィラメント、ひいては使用する全ての長繊維の糸に捲縮が付与されているのがよい。
【0019】
前記捲縮は、いかなる手法によって付与されたものであってもよく、特に制限はないが、例えば、加撚−熱固定−解撚法、仮撚り法、押込法、擦過法、賊型法、複合けん縮法、空気噴射法等のいわゆるテクスチャード加工を、適宜採用することができる。
【0020】
前記捲縮を付与する際には、その捲縮率は、特に制限されないが、通常、3〜50%であることが好ましい。なお、捲縮率とは、フィラメントの初期長さをaとし、該フィラメントに一定時間(30秒間)、一定の荷重(1dtexあたり1/11g)をかけたときの長さをbとして、下記式に基づき算出される伸縮伸長率(%)を意味するものである。
伸縮伸長率(%)=[(b−a)/a]×100
捲縮率(伸縮伸長率)は、具体的には、例えば「繊維便覧」(第1版、昭和44年発行)p413の「a.伸縮性」の項に記載されているA法に準じて行うことができる。
【0021】
本発明における前記ネットは、織物、編み物のいずれでもよいが、編み物、特にレース編みにより形成されたものであることが好ましい。レース編みとは、複数の経糸をそれぞれ別の経糸と互いに絡み合わせた編み方である。ここで、別の経糸として、どの位置にある経糸に絡み合わせるか(例えば、隣り合う経糸に絡み合わせるか、1本以上の経糸を間に飛ばして絡み合わせるか、もしくは、左右のいずれか一方方向のみに絡み合わせるか、左右交互に絡み合わせるか、など)によって様々なレース編みの形態が存在するが、特に好ましくは、例えば図1や図2に示すように、1本以上の経糸を間に飛ばして絡み合わせる形態が挙げられる。このような形態においては緯方向(矢印X方向)に2本以上の糸が重なることになるので、単位面積あたりの糸の重量(すなわち目付け)が大きくなり、蒸散成分の保持量をより増大させることができる。
【0022】
図1に示すレース編みの形態において、経糸Aは経糸Cに、経糸Bは経糸Dにそれぞれ絡まっており、列bc間および列cd間は2本の糸が重なった状態になっている(図1においては、列aの左側の経糸および列dの右側の経糸については図示を省略している)。つまり、図1に示す形態においては、各経糸はそれぞれ1本の経糸を間に飛ばして絡み合っている。この図1に示す形態を、各経糸がそれぞれ2本の経糸を間に飛ばして絡み合うように(図1中の経糸Aが経糸Dに絡み合うように)変更すると、緯方向(隣り合う各列の間)には3本の糸が重なった状態になる。すなわち、各経糸がそれぞれn本の経糸を間に飛ばして絡み合うようにすると、緯方向には(n+1)本の糸が重なった状態になるのである(nは1以上の整数)。緯方向に重なる糸の本数が多いほど、蒸散成分の保持量は増大するのであるから、本発明においては上記nの値が大きいレース編みの形態ほど好ましい。ただし、緯方向において重なり合う糸の数(すなわち(n+1)の値)が多くなりすぎると、目開き(通気孔)が小さくなり、糸に保持された蒸散成分の蒸散性が低下するおそれがあるので、上記nの値は、目開きの割合が後述した範囲となるよう設定するのがよく、通常は5以下とするのがよい。
【0023】
ここで、経糸A〜Dとしては、前記した短繊維の糸と長繊維の糸とが用いられる。短繊維の糸と長繊維の糸の組み合わせは任意に決定することができ、例えば以下のような組み合わせが挙げられる。
(a)経糸A〜Dのいずれか2つが短繊維の糸で、他の経糸が長繊維の糸である組み合わせ。
(b)経糸A〜Dのいずれか1つが長繊維の糸で、他の経糸が短繊維の糸である組み合わせ。
(c)経糸A〜Dのいずれか1つが短繊維の糸で、他の経糸が長繊維の糸である組み合わせ。
【0024】
図1に示すレース編みの形態においては、経方向(矢印Y方向)には、2種類の経糸が順次連なって(例えば、列cには経糸Cと経糸Aが連なって、列dには経糸Dと経糸Bが連なって)1本の糸が存在することになるが、経方向についても2本以上の糸を重なって存在させることが、単位面積あたりの糸の重量を大きくし、蒸散成分の保持量を増大させるうえでは、有利である。このように、経方向において2本以上の糸を重なって存在させるには、1つの列に用いる経糸として、2本以上の糸を用いるようにすればよく、例えば、図2に示すように、2本以上の糸のうち、少なくとも1本を別の経糸に絡み合わせ、少なくとも1本を経方向に走行させればよい。勿論、2本以上の糸を、例えば図1における1本の経糸として扱うことによっても、経方向に配される経糸の数を増やすことができる。
【0025】
図2に示すレース編みの形態は、図1に示す形態において、経糸A〜Dをそれぞれ2本の経糸(A1およびA2、B1およびB2、C1およびC2、D1およびD2)に変更した形態である。すなわち、図2において、各列a〜dの経糸のうち、経糸A1は経糸C1に、経糸B1は経糸D1にそれぞれ絡まっており、列bc間および列cd間は2本の糸が重なった状態になっている(図2においては、列aの左側の経糸および列dの右側の経糸については図示を省略している)。加えて、各列a〜dの経糸のうち、経糸A2、経糸B2、経糸C2および経糸D2は、それぞれ列a、列b、列cおよび列dに沿って経方向(矢印Y方向)に走行しており、列cおよび列dには連続して2本の糸が重なった状態になる。つまり、図2に示すレース編みの形態においては、経方向(矢印Y方向)、緯方向(矢印X方向)ともに2本の経糸が配されることになる。
【0026】
ここで、前記2本の経糸(A1およびA2、B1およびB2、C1およびC2、D1およびD2)は、(イ)どちらも同じ短繊維の糸または長繊維の糸である場合、および(ロ)一方が短繊維の糸で、他方が長繊維の糸である場合のいずれであってもよい。(イ)の場合には、前記した(a)〜(c)の組み合わせで経糸を組み合わせればよい。(ロ)の場合には、列ごとに短繊維の糸と長繊維の糸とからなる2本の経糸を配置すればよい。さらに、(イ)、(ロ)の両方を組み合わせた態様も可能である。すなわち、前記2本の経糸(A1およびA2、B1およびB2、C1およびC2、D1およびD2)のうち、いずれか2つの列の2本の経糸が前記(イ)の態様で、他の2つの列の2本の経糸が前記(ロ)の態様である場合、あるいは、いずれか1つの列の2本の経糸が前記(イ)または(ロ)の態様で、他の3つの列の2本の経糸が当該1つの列と異なる態様の2本の経糸である場合がある。
【0027】
なお、図2に示すレース編みの形態においては、各列に2本の糸を用いているが、例えば、3本の糸を用いて、そのうち2本(短繊維の糸および/または長繊維の糸)を経方向(矢印Y方向)に走行させ、残りの1本(短繊維の糸または長繊維の糸)を2本の経糸を間に飛ばして絡み合わせるように(図2中の経糸A1が経糸D1に絡み合うように)変更すると、経方向(矢印Y方向)、緯方向(矢印X方向)ともに3本の経糸が配されることになる。このように、経方向に配される経糸の数および緯方向に配される経糸の数は、各列に用いる糸の数、そのうち経方向に走行させる経糸の本数と別の経糸に絡ませる経糸の本数との比率、さらに、絡み合わせる別の経糸の位置(何本の経糸を間に飛ばして絡み合わせるか)等を調整することにより、適宜設定することができる。
【0028】
経方向および緯方向に配される糸の本数は、多ければ多いほど、蒸散成分の保持量を増大させ、蒸散成分の蒸散効果を長期間にわたり継続させることができるので好ましいが、あまりに多くなりすぎると、目開きが小さくなり、糸に保持された蒸散成分の蒸散性が低下するおそれがある。したがって、経方向および緯方向に配される糸の本数は、通常、それぞれ、1〜5本程度とするのがよい。
【0029】
本発明において、ネットの目開き(通気孔)の割合は、特に制限されないが、ネットの総面積に占める目開き部分の総面積の割合が10〜80%、好ましくは20〜50%であるのがよい。目開きの割合が小さすぎると、糸に保持された蒸散成分の蒸散性が低下するおそれがあり、一方、目開きの割合が大きすぎると、単位面積あたりの糸の重量(すなわち目付け)が小さくなり、蒸散成分の保持量が低下する傾向がある。
前記ネットにおいて経方向および緯方向に配された糸の幅は、0.1〜1mm、さらには0.3〜0.6mmとするのが好ましい。前記糸の幅が前記範囲よりも小さいと、蒸散成分(薬剤)の保持量が少なくなるおそれがあり、一方、前記範囲よりも大きいと、目開きが小さくなるおそれがある。
【0030】
前記ネットの目付け(単位面積あたりの糸の重量)は、小さすぎると、蒸散成分(薬剤)の保持量が少なくなるおそれがあり、逆に、大きすぎると、蒸散性が低下するおそれがあることから、通常50〜500g/m2、好ましくは50〜250g/m2であるのがよい。
前記ネットの厚みは、小さすぎると、蒸散成分(薬剤)の保持量が少なくなるおそれがあり、逆に、大きすぎると、蒸散性が低下するおそれがあることから、通常、0.2〜2mm、好ましくは0.3〜1mmであるのがよい。
【0031】
前記ネットに保持させる蒸散成分は、常温で蒸散しうる各種の害虫防除剤(殺虫剤、忌避剤等)、芳香剤、消臭・防臭剤、殺菌剤、防カビ剤等の各種薬剤のなかから、目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。蒸散成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
前記害虫防除剤としては、例えば、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系等の各種殺虫剤、忌避剤、昆虫成長調節剤等が挙げられる。害虫防除剤を例示すると、例えば、有機リン系殺虫剤としては、DDVP、ダイアジノン等が挙げられ、カーバメート系殺虫剤としては、プロポクサー等が挙げられ、ピレスロイド系殺虫剤としては、フタルスリン、プラレトリン、テフルスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、テラレスリン等が挙げられる。これらのうち、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリンが好ましい。また、その他の害虫防除剤として、植物精油、テルペン、およびこれらの異性体や誘導体等が挙げられる。
【0033】
前記芳香剤としては、例えば、じゃ香、竜延香、アビエス油、シトロネラ油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、レモン油、レモングラス油、ナツメッグ油、ハッカ油、オレンジ油、テレピン油、セイジ油などの精油類、ピネン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、シトロネラール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、アネトール、オイゲノール、アルデヒド、シトラール、シトロネラール、ワニリン、カルボン、ケトン、メントン、アセトフェノン、クマリン、シネオール、エチルアセテート、オクチルアセテート、イソ酪酸イソプロピル、カプロン酸アリル、安息香酸エチル、桂皮酸メチル、サリチル酸メチルなどの香料等が挙げられる。
【0034】
前記消臭・防臭剤としては、例えば、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、アミルシンナミックアルデヒド、アニシックアルデヒド、ジフェニルオキサイド、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、ネオリン、サフロール、シトロネラ油、レモングラス油等が挙げられる。
【0035】
前記殺菌剤としては、例えば、ヒノキチオール、安定化二酸化塩素等が挙げられる。
【0036】
さらに、前記蒸散成分には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤をも含有させることができる。添加剤としては、例えば、効力増強剤、蒸散率向上剤、安定剤等が挙げられる。添加剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
前記蒸散率向上剤としては、例えば、フエネチルイソチオシアネート、ハイミツクス酸ジメチル等が挙げられる。前記安定剤としては、例えば、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル−チオ−ジ−プロピオネート、2,2'−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、4,4'−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオ−ビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、フェニル−β−ナフチルアミン、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α−トコフェロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸等が挙げられる。
【0038】
前記蒸散成分を前記ネットに保持させて揮散体を得る方法は、特に制限されず、例えば、蒸散成分を溶剤に溶解させて溶液を調製し、該溶液中に前記ネットを浸漬することによりネットに蒸散成分を含浸させる方法や、前記溶液もしくは蒸散成分とする薬剤の原体(薬剤そのもの)を前記ネットの上に噴霧もしくは滴下することによりネットに蒸散成分を含浸させる方法等を採用することができる。さらに、必要に応じて、蒸散成分を含浸させた後、乾燥等によって用いた溶剤を除去してもよい。また、上記蒸散成分を保持させる際の上記各操作は、蒸散成分の保持量が所望の量に達するまで繰り返し行なうことができる。
【0039】
蒸散成分の溶液を調製するための溶剤としては、特に制限はないが、例えば、水、ナフテン、灯油、パラフィン等の炭化水素類、グリセリン、プロピレングリコール、メタノール、イソプロパノール、1−オクタノール、1−ドデカノール等のアルコール類、アセトン、アセトフェノン等のケトン類、ジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類、アジピン酸ジオクチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル等のエステル類、キシレン、クロルセン、シリコーンオイル等の1種もしくは2種以上が挙げられる。
【0040】
前記揮散体における蒸散成分(薬剤)の保持量は、通常、薬剤の種類等を考慮して、所望の効果(蒸散性や有効期間)を奏するように適宜決定される。その際、本発明の蒸散材では、単位面積あたりに保持させうる蒸散成分(薬剤)の保持量が大きいので、保持量の上限における制約の幅が広く、目的に応じた決定をなすことができる。具体的には、本発明の蒸散材であれば、単位面積あたり、最大300g/m2程度の量の蒸散成分(薬剤)の保持させることができる。
【0041】
本発明の蒸散材は、前記揮散体とともに、該揮散体を保持したカートリッジ式の枠体と、通気性を有し前記枠体を着脱自在に収納した収納体とを備えたものであることが好ましい。このようにカートリッジ式枠体と収納体とを備えた形態であれば、例えば、蒸散成分が全てもしくは殆ど蒸散してしまい効力が消失もしくは低下した場合に、この使用後の枠体を新たなシート状揮散体を保持した枠体に取替えることで、再度、優れた効果を発現させることができ、しかも、枠体の取替えに際しても、収納体への着脱が一回の操作(ワンタッチ)で簡便に行なえる。以下、このようにカートリッジ式枠体と収納体とを備えた実施形態の一例を、図面を用いて説明する。
【0042】
図3〜5は、カートリッジ式枠体と収納体とを備えた上記実施形態の蒸散材を示し、図6は、該蒸散材に収納されるカートリッジ式枠体を示している。
図3〜5に示す蒸散材においては、シート状揮散体1を保持したカートリッジ式の枠体2が、収納体3の内部に収納されている。
収納体3は、前面部3aと背面部3bとからなり、その前面から背面に向けて通気性を保持するよう、前面部3aと背面部3bの両方に同一形状の通気孔4が同じ位置に設けられている。このような通気孔4を設けることにより、該通気孔4からシート状揮散体1に保持された蒸散成分を蒸散させることができる。通気孔4の形状は、前面部3aと背面部3bとの間で通気性が確保され、蒸散成分が効率よく蒸散できる限り、特に制限されず、任意の形状に設計することができるが、蒸散成分の蒸散量を多くする場合には、通気孔4の総面積が大きいほど好ましい。
【0043】
収納体3は、前面部3aと背面部3bとの間に枠体2を収納するための空間部5を有しており、該空間部5に連通する開口部6から前記枠体2を自在に挿入および取り出しできるようになっている。
空間部5は、収納した枠体2が容易に抜け出ないよう、その幅方向および/または厚み方向において枠体2の少なくとも一部が丁度嵌合する大きさに形成されている。なお、空間部5の大きさを枠体2が嵌合する大きさに設定することに代えて、もしくはこれに加えて、枠体2と収納体3(前面部3aおよび背面部3b)とを着脱可能に係止する係止手段7を設けることにより、収納した枠体2が容易に抜け出ないようにすることもできる。
【0044】
収納体3を構成する前面部3aと背面部3bとは、一体成形して形成されていてもよいし、別部材として成形したものを一体化して形成されていてもよい。収納体3(前面部3aおよび背面部3b)を構成する素材は、特に制限されるものではなく、例えば、各種プラスチック、金属、ガラス、紙、木、陶磁器等により形成される。
【0045】
図6において、枠体2は、前面枠体2aと背面枠体2bの2枚で揮散体1の少なくとも周囲を挟持している。前面枠体2aと背面枠体2bには、それぞれ同じ位置に、その両側面を繋ぐ複数の補助枠2’が設けられているが、これは前面と背面の補助枠2’によって揮散体1をさらに挟持することにより揮散体1に弛み等が生じないようにするためであり、省略することもできる。補助枠2’を設ける場合には、枠体2を収納体3に収納したときに通気孔4を妨げないような位置に(枠体2を収納体3に収納したときに外側から見えないような位置に)設けられる。
さらに、図6においては図示しないが、例えば、図中、上側または下側にあたる枠体2の周囲と、該周囲の枠体2に最も近い補助枠2’とを上下に繋ぐ支持部材を1〜3本程度設けておくことにより、枠体2のねじれ強度を向上させることもできる。また、このような支持部材を設けておくと、例えばネットを枠体2に挟持した状態で蒸散成分(薬剤)を滴下することにより蒸散成分をネットに保持させて揮散体を作製する場合に、支持部材と周囲の枠体2もしくは補助枠2’とで区切られた面積の小さい部分に蒸散成分を滴下して、この滴下部分(区切られた部分)のネットと他の部分のネットとの色の違い(明暗)を判断基準にすることで、蒸散成分の保持の程度が簡便に把握でき、効率のよい生産が可能になるという効果も得られる。
枠体2を構成する素材としては、特に制限はないが、例えば、各種プラスチック、金属、ガラス、陶磁器等が挙げられる。
【0046】
なお、枠体2は、図6に示す形態のほかに、例えば、片面に係止部材を備えた1枚の枠体を用い、該係止部材によって揮散体1を保持するようにしたものであってもよい。但し、枠体2を収納体3に収納したときに、枠体2に保持された揮散体1と収納体3(前面部3aおよび背面部3b)との間には互いに接触しない程度の空隙が存在することが、蒸散成分の蒸散が妨げられるのを回避するうえで望ましく、この点を考慮すると、収納体3の空間部5の大きさを枠体2が嵌合する大きさに設定する場合には、揮散体1の前面と背面の両方に厚みを持った枠体2a,2bが配されることになる図6に示す形態が好ましい。
【0047】
以上、カートリッジ式枠体と収納体とを備えた実施形態の蒸散材について述べたが、本発明の蒸散材はこれに限定されるものではなく、前記揮散体を備えたものである限り、任意に設計変更できることは言うまでもない。つまり、前記揮散体はいかなる状態で保持されていてもよく、例えば、図7に示すように、前記揮散体1が収納体3を構成する前面部3aと背面部3bとの間に直接保持された形態であってもよいし、あるいは、前記揮散体そのものを蒸散材として用いることもできる。
【0048】
図7に示す形態においては、収納体3を構成する前面部3aと背面部3bとは、別部材として成形され、その周囲に各々設けられた挟持部材8a、8bで揮散体1を挟持させた状態で一体化される。また、周囲で揮散体1を挟持させることに変えて、もしくはこれに加えて、前面部3aと背面部3bの少なくとも一方に、揮散体1を係止するための係止部材(図示せず)を設けることもできる。前面部3aと背面部3bとは、例えば、係止部材を用いた方法、熱融着による方法、接着剤等を用いる方法等によって、一体化される。
【0049】
図7に示す形態においては、カートリッジ式ではないので、収納体3に枠体2を収納するための空間部5や開口部6を設ける必要はない。但し、上述したように、揮散体1と収納体3(前面部3aおよび背面部3b)との間には互いに接触しない程度の空隙が存在することが、蒸散成分の蒸散が妨げられるのを回避するうえで望ましいので、収納体3を構成する前面部3aと背面部3bとは、一体化されたときに内部に空隙ができるよう形成されている。
なお、図7に示す形態における収納体3(前面部3aおよび背面部3b)の構成素材や、通気孔4については、図3〜図5に示す形態の場合と同様である。
【0050】
本発明の蒸散材の使用方法は、特に限定されるものではなく、例えば、屋内や屋外にて、載置して用いてもよいし、取手等を設けて吊り下げたり、柱や壁面に取り付けたりして用いてもよい。このようにして用いると、例えば、トイレや室内の芳香、消臭等を簡便に行うことができる。また、本発明の蒸散材が可撓性を有する場合には、例えば、蚊、蝿等の害虫が侵入する箇所である建物の出入り口や窓等の開口部にこれを吊り下げると、害虫の防除に効果的である。また、本発明の蒸散材を使用する際には、例えば、送風機やファン等の送風手段を用い、送風によって蒸散成分の蒸散性をさらに高めるようにしてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜4)
経糸として、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(太さ30番手、繊維長51mm)を紡績した糸(ステープル・ヤーン)と、ポリエチレンテレフタレートの長繊維であるマルチフィラメント(モノフィラメント数50本)の糸(フィラメント・ヤーン)とをそれぞれ用いて、レース編みによるネットを作製した。
すなわち、図2に示すレース編みの形態において、各列に用いる糸の種類(すなわち上記ステープル・ヤーンおよびフィラメント・ヤーンのいずれか)と数、そのうち経方向に走行させる経糸の本数と別の経糸に絡ませる経糸の本数との比率、絡み合わせる別の経糸の位置(何本の経糸を間に飛ばして絡み合わせるか)を変更することにより、レース編みによるネット(蒸散材)を作製した。
各実施例における短繊維の使用量、全繊維量および短繊維の割合を表1に示す。
【表1】

【0053】
(実施例5)
実施例4と同じ糸を使用し、目開きをできるだけ小さくなるようにレース編みした以外は、実施例4と同様にしてネットを作製した。得られたネットの目開きの割合は21%であった。
【0054】
得られた各ネットについて、目開きの割合(%)、緯方向および経方向に配される経糸の合計幅(mm)、目付け(g/m2)、厚み(mm)を測定した。その結果を表2に示す。
緯方向および経方向に配される各経糸の合計幅(mm)は、デジタルマイクロスコープ(「VHX−900」、(株)キーエンス製)を用いて、得られたネットの表面を30倍に拡大した画像に基づいて測定した。この測定値と、一定面積(z)における緯方向および経方向の経糸の本数とから、一定面積(z)あたりの目開き面積を算出し、下記式に従い目開きの割合(%)を求めた。なお、測定はネット全体の任意の3箇所で行い、その平均値をとった。
目開きの割合(%)
=〔一定面積(z)あたりの目開き面積/一定面積(z)〕×100
他方、上記厚み(mm)は、厚み計(「DIAL THICKNESS GAUGE」、(株)尾崎製作所製)を用いて測定した。
【0055】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレートの長繊維であるマルチフィラメント(モノフィラメント数50本)の糸(フィラメント・ヤーン)に捲縮を施すことなく、これを経糸として用いた以外は、実施例1〜5と同様にして、レース編みによるネットを作製した。
得られたネットについて、実施例1〜5と同様に、目開きの割合(%)、緯方向および経方向に配される経糸の合計幅(mm)、目付け(g/m2)、厚み(mm)を測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0056】
上記実施例1〜5および比較例1で得られた各ネットの網目を模式的に図8A〜図8Fに示す。いずれの場合も、編み目は経糸21と緯糸22とからなり、通気孔となる目開きが経糸21と緯糸22とから形成される。これらの図から、目開きの大きさが概略的に理解できる。実施例5の網目を示す図8Eにおいて、経糸21は幅(太さ)が0.96mmであり、緯糸22は幅(太さ)が0.59mmの緯糸22aと、幅(太さ)が1.13mmの緯糸22bとから構成されている。
また、上記実施例1〜5および比較例1で得られた各ネットについて、流動パラフィンを薬剤と仮定し、その含浸許容量を評価した。すなわち、得られた各ネットを10cm×10cmの大きさに裁断し、50℃で1時間乾燥させた後、乾燥後のネットの重量W1を測定した。次いで、乾燥後のネットを流動パラフィン中に10分間浸漬した後、過剰量の流動パラフィンをろ紙(No.2)を用いて除去し、再度、ネットの重量W2を測定した。得られた乾燥後の重量W1と含浸後の重量W2との差を、ネットが保持できる薬剤の含浸許容量(g)とした。なお、各測定は3回ずつ行い、その平均値で評価した。
得られた各ネットの含浸許容量(g)を表2に示す。また、各ネットの比較を容易にするため、含浸量比率(%)および単位目付け当りの薬剤保持量(g/g)を求めた。試験結果を表2に示す。
なお、含浸量比率(%)は、〔比較例1の単位目付当りの薬剤保持量(g/g)/実施例の単位目付当りの薬剤保持量(g/g)〕×100により求めたものである。
【表2】


表2より、実施例1〜5で得られたネットは、いずれも比較例1で得られたネットよりも高い含浸許容量を有していることがわかる。
【0057】
(比較例2)
ネットに代えて、目付量が63.8g/m2のPET製不織布を使用した以外は、実施例1〜5と同様にして試験試料を作製した。
【0058】
(比較例3)
ネットに代えて、目付量が357.8g/m2の防虫剤マット(パルプ製原紙)を使用した以外は、実施例1〜5と同様にして試験試料を作製した。
【0059】
(揮散試験1)
上記実施例1,2,4,5および比較例1,2,3で得られたネット等の試料を用いて、以下の手順で薬剤の揮散試験を行った。
(a)試料を165mm×85mmに裁断し、図6に示すようなポリエチレンテレフタレート製の枠体2に固定した。
(b)メトフルトリン100mgと流動パラフィン40S(中央化成株式会社製)の75mgとを混合して得た薬剤液175mgを試料に含浸させた。
(c)試料全体に薬剤液が拡散した後、風通しの良い屋外空間に吊るし、1、3、4および6日後に試料を回収した。
(d)下記方法に従って残存薬剤の定量分析を行った。
(イ) 回収した試料をステンレスバットに入れ、内標準溶液5mLを加えた。
(ロ) 全体が浸かる程度にトルエンを加えて、一晩静置し、有効成分を抽出し、試料溶液を得た。
(ハ) メトフルトリン標準品の約0.1gを精密に量り取り、内標準溶液5mLを加えて標準溶液とする。
(ニ) 試料溶液および標準溶液の各1μLにつき、ガスクロマトグラフィーにより、それぞれのピーク面積比を求め、このピーク面積比よりメトフルトリンの定量を行った。
試験結果を表3A,3Bに示す。なお、表3Aと表3Bは、それぞれ別々の期間に行なった試験結果である。風の通り具合や温度が実施期間によって異なるので、測定条件を揃えるために、それぞれの期間で実施した実施例5の数値を併記した。
【0060】
【表3A】


【表3B】


表3A,3Bから明らかなように、実施例1,2,4,5では、比較例1で得られた長繊維糸からなるネットと同様に薬剤は安定した揮散パターンで揮散することが確認できた。一方、比較例2,3で用いた開孔部の無い不織布およびパルプ製原紙では、薬剤の揮散量が小さく、有効量の薬剤が放出されていない。
以上の結果から、本発明の蒸散材はネット面積あたりの薬剤含浸許容量が大きく、長期間にわたり、安定した薬剤揮散量を得られることがわかった。
【0061】
(害虫防除効力試験)
上記実施例1および比較例1で得られたネットを用いて、以下の手順でアカイエカに対する害虫防除効力試験を行った。
【0062】
〔検体〕
(a)ネットを165mm×85mmに裁断し、図6に示すようなポリエチレンテレフタレート製の枠体2に固定した。
(b)表5に示した処方表の処方1を実施例1のネットに、処方2を比較例1のネットにそれぞれ含浸させ検体とした。
【0063】
使用した試験検体を表4に、処方を表5にそれぞれ示す。
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
〔試験方法〕
(a)図9に示すように、8畳の居室モデル部屋10の4隅にアカイエカ雌成虫約20頭を入れた25cm立方のステンレス製の網ケージ11を、2つは床面から0.75mの高さに、残る2つは1.5mの高さにそれぞれ設置した。
(b)検体12を居室モデル部屋10の中央、高さ約0.5mの位置に設置して、ファン13(40mm×40mmの小型携帯用ファン)により検体に0.1メートル/秒の風があたるようにした。
(c)ファン13の起動と同時に試験を開始して、その直後からノックダウン(KD)する供試虫数を経時的に観察した。試験は無換気条件で行い、2回繰り返した。
【0066】
試験結果を図10に示す。図10のから分かるように、本発明の揮散体を備えた蒸散材では120分後には100%の供試虫がノックダウンしていることがわかった。すなわち、実施例1のネットを用いた検体Aは、比較例1の検体Bに比べて、有効成分の保持量が半分であるのにもかかわらず(表4、表5を参照)、比較例1とほぼ同等の害虫防除効力を示している。
【0067】
これらの結果から、実施例1の検体Aでは、該検体から有効成分が経時的に揮散し、しかも有効量が経時的に放出されて、十分な害虫防除効力が得られることがわかった。
【0068】
表5に示した処方3を実施例1のネットに含浸させた検体(検体C)及び、検体Cを1ヶ月間建物の出入り口に吊しておいた検体(検体D)を用いて、同様にアカイエカに対する害虫防除効力試験を行った。
検体C、検体D共に120分後には100%の供試虫がノックダウンしていた。すなわち、実施例1のネットを用いた検体では比較例に比べて、有効成分の保持量が多い状態(実施例C)においても、1ヶ月間、建物の出入り口に吊しておき、有効成分が相当量揮散した状態(実施例D)においても、比較例1のネットを用いた検体と同等の害虫防除効力を示している。
以上の結果から、実施例1のネットを用いた検体では、比較例の検体に比べて薬剤含浸許容量が多いだけでなく、使用初期の十分な害虫防除効力が長期間にわたって得られることがわかった。
【符号の説明】
【0069】
1 揮散体
2 枠体
3 収納体
4 通気孔
5 空間部
6 開口部
7 係止部材
8 挟持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸散成分を保持した揮散体を備えた蒸散材であって、前記揮散体が、短繊維および長繊維からなり通気孔を設けたものであることを特徴とする蒸散材。
【請求項2】
前記揮散体が、短繊維および長繊維からなるネットである請求項1に記載の蒸散材。
【請求項3】
前記短繊維と長繊維の割合が、重量比で短繊維:長繊維=10:90〜80:20である、請求項1または2に記載の蒸散材。
【請求項4】
前記揮散体を保持した枠体と、通気性を有し前記枠体を着脱自在に収納した収納体とを、さらに備えた、請求項1〜3のいずれかに記載の蒸散材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−236779(P2012−236779A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104914(P2011−104914)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】