説明

蓄電素子用電極の製造方法および蓄電素子

【課題】高い充放電レートであっても充放電容量が充分に大きい蓄電素子を与える蓄電素子用電極を製造できる蓄電素子用電極の製造方法、および蓄電素子を提供する。
【解決手段】電極活物質と繊維状炭素質材料の分散液とを混合し、電極コンポジット層形成用塗布液を得る工程等を有し、繊維状炭素質材料として平均繊維長の異なる2種以上を用い、2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が短いものが平均繊維長:0.1〜20μm、平均繊維径:2〜20nm、アスペクト比:4〜2000の繊維状炭素質材料(A)、最も平均繊維長が長いものが平均繊維長:5μm以上、平均繊維径:2〜25nm、アスペクト比:400以上の繊維状炭素質材料(B)であり、(A)の平均繊維長Lと(B)の平均繊維長Lとの比(L/L)が0.7以下である蓄電素子用電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子用電極の製造方法および蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電素子用電極は、電極活物質、導電助剤、および樹脂バインダの溶液または分散液を混合した電極コンポジット層形成用塗布液を、集電体に塗布、乾燥して電極コンポジット層を形成して、集電体と電極コンポジット層との積層体を得た後、積層体を圧延することによって得られる。
【0003】
電極活物質としては、充放電容量が大きく、出力が大きい蓄電素子が得られる点から、平均粒子径が小さい電極活物質を用いることが好ましい。
また、導電助剤としては、通常、カーボンブラック類が用いられるが、高い充放電レートであっても充放電容量が大きい、すなわち高速充放電できる蓄電素子が得られる可能性が高い点から、導電助剤として繊維状炭素質材料(カーボンナノチューブ(以下、CNTと記す。)、カーボンナノファイバ(以下、CNFと記す。)、気相法炭素繊維(以下、VGCFと記す。))を用いることが提案されている。
【0004】
導電助剤として繊維状炭素質材料を用いた蓄電素子用電極の製造方法としては、たとえば、下記の工程(a)〜(c)を有する方法が提案されている(特許文献1)。
(a)平均粒子径が10μm以下の電極活物質と、平均繊維径が5〜200nm、平均繊維長が1〜20μmの炭素繊維を含む炭素系導電助剤とを乾式混合して乾式混合物を得る工程。
(b)乾式混合物と、樹脂バインダの溶液または分散液と、溶媒とを混練して電極形成材料を調製する工程。
(c)電極形成材料を集電体上に塗布する工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−016265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
導電助剤として繊維状炭素質材料を用いた場合、高い充放電レートであっても充放電容量が大きい蓄電素子を得るためには、繊維状炭素質材料を1本1本に解きほぐして電極コンポジット層中に均質に配置しなければならない。しかし、繊維状炭素質材料は、複雑に絡み合った強いバンドル構造を有するため、繊維状炭素質材料を含む乾式混合物と樹脂バインダの溶液または分散液とを直接混合した場合、繊維状炭素質材料が電極コンポジット層形成用塗布液中や電極コンポジット層中においても凝集した状態を保持する。そのため、高い充放電レートにおいて充放電容量が大きい蓄電素子を得ることができない。また、平均粒子径が小さい電極活物質を用いた場合、凝集した繊維状炭素質材料と電極活物質との間の導電パスが充分に形成されないため、低い充放電レートであっても充放電容量が小さい。
【0007】
本発明は、高い充放電レートであっても充放電容量が充分に大きい蓄電素子を与える蓄電素子用電極を製造できる蓄電素子用電極の製造方法;および、高い充放電レートであっても充放電容量が充分に大きい蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蓄電素子用電極の製造方法は、(a)電極活物質と、繊維状炭素質材料の分散液とを混合し、電極コンポジット層形成用塗布液を得る工程と、(b)集電体の表面に電極コンポジット層形成用塗布液を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程と、(c)積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程とを有し、前記繊維状炭素質材料として、平均繊維長の異なる2種以上の繊維状炭素質材料を用い、前記2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料が、下記の条件(X)を満たす繊維状炭素質材料(A)であり、前記2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料が、下記の条件(Y)を満たす繊維状炭素質材料(B)であり、前記繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長Lと前記繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長Lとの比(L/L)が、0.7以下であることを特徴とする。
条件(X):平均繊維長が0.1〜20μmであり、平均繊維径が2〜20nmであり、アスペクト比が4〜2000である。
条件(Y):平均繊維長が5μm以上であり、平均繊維径が2〜25nmであり、アスペクト比が400以上である。
【0009】
前記電極活物質の含有量は、前記電極コンポジット層形成用塗布液における固形分(100質量%)のうち、85〜99.7質量%であることは好ましい。
前記繊維状炭素質材料の含有量は、前記電極コンポジット層形成用塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%であることが好ましい。
前記電極活物質の平均粒子径は、5μm以下であることが好ましい。
【0010】
前記工程(a)にて、樹脂バインダの溶液または分散液をさらに混合することが好ましい。
前記樹脂バインダの含有量は、前記電極コンポジット層形成用塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0011】
前記樹脂バインダは、フッ素を含む樹脂であることが好ましい。
前記フッ素を含む樹脂は、側鎖に5員環およびまたは6員環を有することが好ましい。
本発明の蓄電素子は、本発明の製造方法で得られた蓄電素子用電極を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蓄電素子用電極の製造方法によれば、高い充放電レートであっても充放電容量が充分に大きい蓄電素子を与える蓄電素子用電極を製造できる。
本発明の蓄電素子は、高い充放電レートであっても充放電容量が充分に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】例18〜27の蓄電素子用電極を用いたリチウムイオン電池のモデルセルの初期放電容量と電極活物質の平均粒子径との関係を示すグラフである。
【図2】例30〜35の蓄電素子用電極を用いたリチウムイオン電池のモデルセルのレート特性を比較して示すグラフである。
【図3】例32の電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】例35の電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】例36〜43の蓄電素子用電極を用いたリチウムイオン電池のモデルセルのレート特性を比較して示すグラフである。
【図6】例42、44〜47の蓄電素子用電極を用いたリチウムイオン電池のモデルセルのレート特性を比較して示すグラフである。
【図7】例42、48〜50の蓄電素子用電極を用いたリチウムイオン電池のモデルセルのレート特性を比較して示すグラフである。
【図8】例42の電極コンポジット層に部分的に加えた亀裂を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】例43の電極コンポジット層に部分的に加えた亀裂を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における電極コンポジット層とは、集電体の表面に層状に形成された電極コンポジットからなる層であり、電極コンポジットとは、電極コンポジット層を構成している材料(電極活物質、導電助剤、樹脂バインダ、その他の固形添加剤等)の複合体である。
【0015】
<蓄電素子用電極の製造方法>
本発明の蓄電素子用電極の製造方法は、下記の工程(a)〜(c)を有する方法である。
(a)電極活物質と、繊維状炭素質材料の分散液とを混合し、電極コンポジット層形成用塗布液を得る工程。
(b)集電体の表面に電極コンポジット層形成用塗布液を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程。
(c)積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程。
【0016】
〔工程(a)〕
工程(a)は、電極活物質、繊維状炭素質材料の分散液を混合し、電極コンポジット層形成用塗布液(以下、単に塗布液とも記す。)を調製する工程である。工程(a)において、さらに樹脂バインダの溶液または分散液、追加の媒体、分散安定剤、他の導電助剤、他の添加剤等を混合してもよい。
【0017】
(電極活物質)
電極活物質の種類は、特に限定はされず、公知の正極活物質、負極活物質から適宜選択して用いることができる。
【0018】
正極活物質としては、金属酸化物、金属硫化物、導電性有機化合物等が挙げられ、安定した電池特性を長期にわたって発現できる点から、金属酸化物(リチウム複合金属酸化物、リチウム金属フォスフォオリビン等)が特に好ましい。
金属酸化物は、Liと他の1種の金属との複合酸化物であってもよく、Liと他の複数の金属との複合酸化物であってもよい。たとえば、リチウムニッケル複合酸化物の場合、LiNiO等をそのままリチウムイオン電池の正極に用いることはほとんどなく、LiやNiの一部を、Co、Mn、Al、B、Cr、Cu、F、Fe、Ga、Mg、Mo、Nb、O、Sn、Ti、V、Zn、Zr等の群から選ばれる1種または複数の元素で置き換えたものが用いられる。
正極活物質としては、電子伝導性を高める目的から、電極活物質の表面や電極活物質の内部に導電性炭素質材料を複合化させた材料を用いてもよい。
【0019】
負極活物質としては、黒鉛系炭素材料、非黒鉛系炭素材料、金属系材料等が挙げられる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ炭化物、石油系ピッチ炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂の炭化物、セルロースの炭化物、これら炭化物の部分黒鉛化物、ファーネスブラック、アセチレンブラック、炭素繊維等が挙げられる。
金属系材料としては、スズ系、シリコン系、チタン系、金属窒化物、リチウム、リチウム合金、リチウムチタン複合酸化物、その他の酸化物系等が挙げられる。
【0020】
電極活物質の平均粒子径は、5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下がさらに好ましく、1μm以下が特に好ましい。 平均粒子径が大きな電極活物質の場合、導電パスのネットワークに欠陥が多くても、個々の電極活物質粒子の占める体積が大きいため、孤立してしまう電極活物質は少ない。一方、一般的に平均粒子径が小さな微粒子の電極活物質の場合、導電パスの良好なネットワークが形成されないと、電極活物質が該ネットワークから外れて孤立する。孤立した電極活物質は、電池特性発現に寄与できないため、充放電容量を低下させる。しかしながら、本発明の製造方法であれば、小さな電極活物質であっても孤立する電極活物質が少なく、得られる蓄電素子の充放電容量を充分に大きくすることができ、好ましい。
【0021】
電極活物質の平均粒子径は、電極活物質の取り扱いやすさや凝集のしにくさの点から、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
電極活物質の平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定されるD50(すなわち全粒子の粒子径の累積%の中央値)である。
【0022】
(繊維状炭素質材料の分散液)
繊維状炭素質材料の分散液は、媒体に導電助剤である繊維状炭素質材料が分散し、分散剤で分散状態が安定化されたものである。繊維状炭素質材料の分散液としては、取り扱いやすさや環境負荷が小さい点から、繊維状炭素質材料の水性分散液が好ましい。
繊維状炭素質材料としては、CNT、CNF、VGCF等が挙げられる。
【0023】
CNTは、グラフェンシートを筒状に丸めた形状を有するものである。形状によるCNTの種類としては、単層CNT、多層CNT等が挙げられる。また、製造方法によるCNTの種類としては、アークプラズマ法によるCNT、化学気相合成法によるCNT、気相成長法によるCNT、ポリテトラフルオロエチレンの還元分解物であるカルビンから合成されたCNT、ポリアクリロニトリルのシェルと熱分解消失性樹脂のコアから製造されたCNT等が挙げられる。
CNTとしては、耐久性の点から、表面処理されて表面が化学修飾されていないものが好ましい。
【0024】
CNFは、複数のグラフェンシートが繊維軸に対して斜めにまたは垂直に積層したものである。CNFとしては、COを炭素源とした化学気相合成法によるCNF、気相成長法によるCNF等が挙げられる。
CNFとしては、耐久性の点から、表面処理されて表面が化学修飾されていないものが好ましい。
【0025】
VGCFは、気相法によって得られた炭素繊維(気相成長法によるCNTおよび気相成長法によるCNFを除く)であり、CNTやCNFより平均繊維径が比較的大きいものである。
VGCFとしては、耐久性の点から、表面処理されて表面が化学修飾されていないものが好ましい。
【0026】
繊維状炭素質材料には、様々な目的で異元素または異種化合物が繊維状炭素質材料の製造の際に添加されていてもよい。異元素または異種化合物としては、Ag、Ba、Be、Ca、Ce、Co、Cs、Gd、K、La、Li、Mg、Na、Ni、Pd、Pt、Rb、Rh、Sc、Sm、Sr、IIIB族の元素、VB族の元素、フラーレン等が挙げられる。特にIIIB族のBは、CNTのその他の特徴を損ねることなく、電子伝導性を飛躍的に高めることができると考えられ、好ましい。添加は、異元素が炭素原子に置き換わって導入されることによって行われてもよい。
【0027】
本発明においては、繊維状炭素質材料として、平均繊維長の異なる2種以上の繊維状炭素質材料を用いる。2種以上の繊維状炭素質材料は、それぞれが別々の媒体に分散した2種以上の分散液として用いてもよく、すべてが1つの媒体に分散した単独の分散液として用いてもよい。
【0028】
2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料は、下記の条件(X)を満たす繊維状炭素質材料(A)である。
条件(X):平均繊維長が0.1〜20μmであり、平均繊維径が2〜20nmであり、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が4〜2000である。
【0029】
繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長が0.1μm以上であれば、電極活物質同士の間、および電極活物質と後述する繊維状炭素質材料(B)との間で繊維状炭素質材料(A)による導電パスが形成されやすい。繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長が20μm以下であれば、平均繊維長が長い繊維状炭素質材料に比べ、比較的少量の添加で電極コンポジット層全域に繊維状炭素質材料(A)が均質に行き渡って電極活物質に接触する確率が高くなると考えられる。繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長は、0.2〜15μmがより好ましく、0.3〜12μmが特に好ましい。
【0030】
繊維状炭素質材料(A)の平均繊維径が2nm以上であれば、繊維状炭素質材料自体の電子伝導性が高まり、導電パスとしての抵抗が小さくなるため、高い充放電レートに充分に対応できる。繊維状炭素質材料(A)の平均繊維径が20nm以下であれば、少ない添加量で多量の導電パスを形成することができ、繊維状炭素質材料(A)が電極活物質や後述する繊維状炭素質材料(B)に接触する確率が高くなる。繊維状炭素質材料(A)の平均繊維径は、5〜18nmが好ましい。
【0031】
繊維状炭素質材料(A)のアスペクト比が4以上であれば、使用した繊維状炭素質材料から効率よく低抵抗な導電パスを形成できる。繊維状炭素質材料(A)のアスペクト比が2000以下であれば、繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長が適度に短くなり、少量の添加でも電極コンポジット層全域に繊維状炭素質材料(A)を均質に分散させることができ、繊維状炭素質材料(A)が電極活物質や後述する繊維状炭素質材料(B)に接触する確率が高くなる。繊維状炭素質材料(A)のアスペクト比は、10〜1000が特に好ましい。
【0032】
以上のように、繊維状炭素質材料(A)が前記条件(X)を満たせば、電極活物質同士の間、および電極活物質と後述する繊維状炭素質材料(B)との間に形成された導電パスからなる均質なネットワークが形成される。
【0033】
2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料は、下記の条件(Y)を満たす繊維状炭素質材料(B)である。
条件(Y):平均繊維長が5μm以上であり、平均繊維径が2〜25nmであり、アスペクト比が400以上である。
【0034】
繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長が5μm以上であれば、集電体と、集電体から遠く離れた電極活物質との間に、前記繊維状炭素質材料(A)からなる比較的短距離の導電パスのネットワークと相互に接触しながらこれを貫く繊維状炭素質材料(B)による比較的長距離の導電パスが形成されやすい。繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長は、分散性が良好になるうえ、電極コンポジット層の密度低下を起こしにくくなる点から、5〜200μmが好ましく、7〜180μmが特に好ましい。
【0035】
繊維状炭素質材料(B)の平均繊維径が2nm以上であれば、導電パスとしての抵抗が小さくなるため、高い充放電レートに充分に対応できる。繊維状炭素質材料(B)の平均繊維径が25nm以下であれば、少ない添加量で多量の導電パスを形成することができ、繊維状炭素質材料(B)が電極活物質や前記繊維状炭素質材料(A)からなる比較的短距離の導電パスに接触する確率が高くなる。繊維状炭素質材料(B)の平均繊維径は、7〜20μmが特に好ましい。
【0036】
繊維状炭素質材料(B)のアスペクト比が400以上であれば、繊維状炭素質材料(B)の低抵抗な導電パスを多量に形成することができ、繊維状炭素質材料(B)が電極活物質や前記繊維状炭素質材料(A)からなる比較的短距離の導電パスに接触する確率が高くなる。また、平均繊維長も適度に長くなり、集電体と、集電体から離れた電極活物質との間に、前記繊維状炭素質材料(A)からなる比較的短距離の導電パスのネットワークと接触しながらこれを貫く繊維状炭素質材料(B)による比較的長距離の導電パスが形成されやすい。繊維状炭素質材料(B)のアスペクト比は、700以上が好ましい。繊維状炭素質材料(B)のアスペクト比は、電極コンポジットの厚密化が容易となる点から、15000以下が特に好ましい。
【0037】
以上のように、繊維状炭素質材料(B)が前記条件(Y)を満たせば、集電体と、集電体から遠く離れた電極活物質との間で直接的に電子伝導できる導電パスからなる長いネットワークが形成される。
【0038】
最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長Lと最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長Lとの比(L/L)は、0.7以下であり、0.5以下が特に好ましい。L/Lが0.7以下であれば、繊維状炭素質材料(A)および繊維状炭素質材料(B)それぞれが、上述したような役割が異なる導電パスからなる異種のネットワークを形成できる。
【0039】
なお、繊維状炭素質材料(A)が前記条件(X)とともに前記条件(Y)をも満たす場合、または繊維状炭素質材料(B)が前記条件(Y)とともに前記条件(X)をも満たす場合があり得るが、2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長Lと最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長Lとの比(L/L)が0.7以下である限りは、このような場合であっても、繊維状炭素質材料(A)および繊維状炭素質材料(B)それぞれが、上述したような役割が異なる導電パスからなる異種のネットワークを形成できる。
【0040】
繊維状炭素質材料として、平均繊維長の異なる3種以上の繊維状炭素質材料を用いる場合、最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料(A)および最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料(B)を除く、中間の平均繊維長を有する繊維状炭素質材料を用いることになる。中間の平均繊維長を有する繊維状炭素質材料は、前記条件(X)および前記条件(Y)を満たさないものであっても構わないが、高い充放電レートであっても充放電容量が大きい蓄電素子を得やすくなる点からは、前記条件(X)および前記条件(Y)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
【0041】
最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料(A)、最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料(B)、中間の平均繊維長を有する繊維状炭素質材料の割合は、すべての繊維状炭素質材料の合計(100質量%)のうち、それぞれ10〜95質量%、5〜90質量%、0〜85質量%が好ましい。さらに、該割合は、それぞれ20〜90質量%、10〜80質量%、0〜70質量%がより好ましい。該範囲内であれば、繊維状炭素質材料(A)および繊維状炭素質材料(B)それぞれが、上述したような役割が異なる導電パスからなる異種のネットワークを形成しやすくなる。
【0042】
繊維状炭素質材料の分散剤としては、カラメル、界面活性剤、水溶性高分子、DNA、カテキン等が挙げられ、長期にわたって繊維状炭素質材料を均一に分散でき、かつ繊維状炭素質材料を高濃度化できる点から、カラメル、界面活性剤、水溶性高分子が好ましい。
【0043】
カラメルとは、糖類または糖類の溶液を加熱して糖類を分解、重合した(いわゆるカラメル化反応した)ものである。
カラメルとしては、食品添加物等として市販されているカラメルを用いてもよく、糖類または糖類の溶液を公知の方法でカラメル化したものを用いてもよい。
【0044】
糖類としては、単糖類(グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース等)、二糖類(マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオース等)、少糖類(オリゴ糖等)、多糖類(デンプン、デキストリン、水溶性食物繊維類、水溶性セルロース類等)等が挙げられる。
【0045】
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤(脂肪酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、陽イオン界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等)、両性界面活性剤(アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等)、非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド等)が挙げられる。具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。
【0046】
水溶性高分子としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース類、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記す。)類、クラウンエーテル類、デキストリン類、水溶性食物繊維類等が挙げられる。
【0047】
繊維状炭素質材料の分散液における、繊維状炭素質材料の含有量は、0.05〜67質量%が好ましく、0.1〜50質量%がより好ましく、0.5〜30質量%が特に好ましい。前記の範囲であれば、電極コンポジット層形成用塗布液の有効成分濃度を大きく損ねてしまうことがなく、また、塗布液を取扱い困難なほど増粘させることがない。
繊維状炭素質材料の分散液における、分散剤の含有量は、繊維状炭素質材料に対して5〜500質量%が好ましく、10〜300質量%がより好ましく、20〜100質量%が特に好ましい。
【0048】
(樹脂バインダの溶液または分散液)
樹脂バインダは、電極コンポジット層中の繊維状炭素質材料の分散状態を良好に維持するために、電極コンポジット層中に少量含まれることが好ましい。樹脂バインダを含むことで、放電容量、レート特性およびサイクル特性に優れる。
【0049】
樹脂バインダ溶液は、媒体に樹脂バインダを溶解したものである。たとえば、樹脂バインダの、N−メチルピロリドン溶液、テトラヒドロフラン溶液、アセトン溶液等が挙げられる。
樹脂バインダ分散液は、媒体に樹脂バインダの粒子が分散したものである。樹脂バインダ分散液としては、取り扱いやすさや環境負荷が小さい点から、樹脂バインダ水性分散液が好ましい。樹脂バインダ水性分散液は、通常、界面活性剤を含む。樹脂バインダ水性分散液は、乳化重合法によって得られた樹脂バインダを含む乳濁液に、公知の処理を施すことによって得られる。
【0050】
樹脂バインダとしては、結晶性樹脂、非晶性樹脂、ゴム、エラストマー等が挙げられる。樹脂バインダは、フッ素を含有しても含有しなくてもよいが、蓄電素子に用いた際の耐酸化還元性が良好である点から、フッ素を含む樹脂であることが好ましい。
【0051】
フッ素を含有しない樹脂バインダとしては、合成ゴム・エラストマー類(天然ゴム類、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル変性スチレン−ブタジエン共重合体、酢酸ビニル共重合体、ニトリルブチルゴム、水素化ニトリルブチルゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリン、ポリウレタン等)、合成樹脂類(アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド等)等が挙げられる。
【0052】
フッ素を含む樹脂としては、たとえば、結晶性含フッ素樹脂、非晶性含フッ素樹脂等が挙げられる。
結晶性含フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、CF=C(OR2−n(ただし、Rは炭素数1〜8のペルフルオロアルキル基または分子内に1個以上のエーテル結合を含むペルフルオロアルキルオキシアルキル基であり、nは1または2であり、いずれの炭素鎖も直鎖状でも分岐を含んでも、また環状構造を有してもよい。)で表わされるペルフルオロ(アルキルまたはアルキルオキシアルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレンの中から選ばれた1種から誘導される繰り返し単位を有する結晶性単独重合体、または少なくとも1種から誘導される繰り返し単位を有する結晶性共重合体が挙げられる。
【0053】
非晶性含フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、CF=C(OR2−n(ただし、Rは炭素数1〜8のペルフルオロアルキル基または分子内に1個以上のエーテル結合を含むペルフルオロアルキルオキシアルキル基であり、nは1または2であり、いずれの炭素鎖も直鎖状でも分岐を含んでも、また環状構造を有してもよい。)で表わされるペルフルオロ(アルキルまたはアルキルオキシアルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレンの中から選ばれた少なくとも2種から誘導される繰り返し単位を有する非晶性共重合体、または少なくとも1種から誘導される繰り返し単位とCH=CH(OR)(ただし、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはエーテル結合を1個以上含むアルキルオキシアルキル基であり、いずれの炭素鎖も直鎖状でも分岐を含んでも、また環状構造を有してもよい。)で表わされるアルキルまたはアルキルオキシアルキルビニルエーテル類、エチレン、プロピレンの群の中から選ばれた少なくとも1種から誘導される繰り返し単位を共に有する非晶性共重合体が挙げられる。
【0054】
結晶性含フッ素樹脂、非晶性含フッ素樹脂は、上述したモノマー以外の他のモノマーから誘導される繰り返し単位を有していてもよい。
他のモノマーとしては、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロエチルトリフルオロビニルエーテル、クロトン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0055】
フッ素を含む樹脂としては、側鎖に5員環(シクロペンチル等)およびまたは6員環(シクロヘキシル等)を有するものが好ましい。フッ素を含む樹脂の側鎖の5員環や6員環は、繊維状炭素質材料のグラフェンシートにおける6員環や5員環と親和性を有するため、側鎖に5員環や6員環を有するフッ素を含む樹脂と繊維状炭素質材料との相溶性が良好になり、電極コンポジット層中の繊維状炭素質材料の分散状態がさらに良好となる。その結果、樹脂バインダとして従来からよく用いられているポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと記す。)やPVdF系共重合体に比べ、高い充放電レートであっても充放電容量が大きい蓄電素子を得やすくなる。また、PVdFやPVdF系共重合体に比べ、高い充放電レートにおける大きい充放電容量を長期間維持できる。
また、フッ素を含む樹脂としては、側鎖に官能基を有するものが好ましい。官能基としては水酸基やカルボキシル基であるのが、電池特性に及ぼす悪影響が小さい点で好ましい。側鎖に官能基を有するフッ素を含む樹脂は、PVdFやPVdF系共重合体に比べ、電極活物質、繊維状炭素質材料、集電体との密着性に優れる。
側鎖に5員環およびまたは6員環と官能基を有するフッ素を含む樹脂としては、旭硝子社製のルミフロン(登録商標)等が挙げられる。
【0056】
(媒体)
繊維状炭素質材料の分散液における媒体、樹脂バインダの溶液または分散液における媒体、および塗布液を調製する際に追加される媒体、すなわち塗布液を調製する際に用いられるすべての媒体としては、通常、同じ媒体が用いられる。
【0057】
媒体としては、芳香族化合物(トルエン、キシレン等)、ヘテロ環化合物(N−メチルピロリドン等)、脂肪族化合物(ヘキサン、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン等)、水性媒体(水、水と水溶性の有機溶媒との混合物等)等が挙げられ、取り扱いやすさや環境負荷が小さい点から、水性媒体が好ましい。
【0058】
水性媒体は、水(蒸留水、イオン交換水等)のみであってもよく、水溶性の有機溶媒を含んでいてもよい。水溶性の有機溶媒を含む水性媒体を用いると、乾燥過程で電極コンポジット層の歪が抑えられ、より均質で集電体との密着性の良好な電極コンポジット層を形成できる。
【0059】
水溶性の有機溶媒は、水より沸点が高いことが好ましい。水溶性の有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチレンスルホン、N−メチルピロリドン、エチレングリコール類、プロピレングリコール類、グリセリン等が挙げられる。
水溶性の有機溶媒の割合は、取り扱いが容易である点から、水性媒体(100質量%)のうち、0〜50質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。
【0060】
(分散安定剤)
分散安定剤は、媒体に電極活物質、導電助剤、樹脂バインダ等を微細にかつ均一に分散させるものである。
【0061】
分散安定剤としては、水溶性の有機溶媒(ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等)、前記界面活性剤、前記水溶性高分子等が挙げられる。
分散安定剤としては、電極活物質や導電助剤の分散性向上に有効であり、かつ塗布液の安定性にも寄与する点から、水溶性高分子または界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、高分子界面活性剤も好ましい。
高分子界面活性剤とは、1分子中に親水性基と疎水性基とを有する高分子量の界面活性剤である。
【0062】
(他の導電助剤)
塗布液は、本発明の効果を損なわない範囲内において、繊維状炭素質材料を除く他の導電助剤を含んでいてもよい。
他の導電助剤としては、グラファイト類(天然黒鉛、人造黒鉛等)、カーボンブラック類(サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック等)、ケッチェンブラック、ニードルコークス、グラフェン等が挙げられる。
【0063】
他の導電助剤としては、水性媒体への分散性が良好である点から、親水性カーボンブラックが好ましい。
親水性カーボンブラックとしては、ホウ素化アセチレンブラック、表面が酸化処理されたカーボンブラック等が挙げられ、長期に渡って優れた電子伝導性を有する点から、ホウ素化アセチレンブラックが好ましい。
他の導電助剤の平均粒子径は、3〜1000nmが好ましく、5〜200nmがより好ましい。
【0064】
(含有量)
塗布液における固形分濃度は、電極コンポジット層の形成が容易である点から、塗布液(100質量%)中、10〜90質量%が好ましく、15〜80質量%がより好ましい。
固形分とは、塗布液に含まれる成分のうち、電極コンポジットを構成する電極活物質、導電助剤(繊維状炭素質材料等)、樹脂バインダ、その他の固形添加剤(繊維状炭素質材料の分散剤、分散安定剤、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物、活性炭)等である。
【0065】
電極活物質の含有量は、塗布液における固形分(100質量%)のうち、85〜99.7質量%が好ましく、90〜99質量%がより好ましい。電極活物質の含有量が85質量%以上であれば、最終的に得られる蓄電素子の充放電容量は充分に大きい。電極活物質の含有量が99.7質量%以下であれば、結着良好な電極コンポジット層を有する蓄電素子用電極を製造できる。
【0066】
繊維状炭素質材料の含有量は、塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましい。繊維状炭素質材料の含有量が該範囲内であれば、最終的に得られる蓄電素子の充放電容量が充分に大きくなる。
【0067】
樹脂バインダの含有量は、塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましく、0.2〜2質量%が特に好ましい。樹脂バインダの含有量が0.1質量%以上であれば、電極コンポジットを強力に結着して電極コンポジット層が脱落しにくくなる。樹脂バインダの含有量が5質量%以下であれば、得られる蓄電素子の充放電容量が充分に大きくなる。
その他の固形添加剤の含有量は、塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましい。
【0068】
本発明においては、繊維状炭素質材料が電極コンポジット層中に均一に分散されている。そのため、従来の電極コンポジット層に比べて樹脂バインダの含有量が低く抑えられていたとしても、樹脂バインダが電極コンポジットを強力に結着して電極コンポジット層が脱落しにくい。しかも、少量の樹脂バインダで結着された電極コンポジット層は、電極コンポジット層中のイオンの流れを極めてスムースにする効果も持つことから、最終的に得られる蓄電素子は、充放電容量が充分に大きくなる。
【0069】
分散安定剤の含有量は、塗布液(100質量%)中、通常0〜2質量%であり、本発明においても該範囲が好適である。
他の導電助剤の含有量は、全導電助剤(100質量%)のうち、0〜95質量%が好ましく、0〜75質量%がより好ましく、0〜50質量%が特に好ましい。前記の範囲であれば、繊維状炭素質材料の特徴を損ねることがない。
【0070】
(撹拌方法)
電極活物質と、繊維状炭素質材料の分散液と、必要に応じて樹脂バインダの溶液または分散液とを混合した後、混合液を撹拌することが好ましい。混合の順番は、特に限定されない。繊維状炭素質材料の分散液は、2種以上の繊維状炭素質材料が別々の媒体に分散した2種以上の分散液であってもよく、すべてが1つの媒体に分散した単独の分散液であってもよい。
【0071】
撹拌方法としては、混合液を均質に混じり合わせることができる方法であればよく、たとえば、下記の方法が挙げられる。
(i)混合液を撹拌装置(ホモジナイザ、ミキサ、高速ミキサ、ブレードとクロススクリュからなるミキサ等)で処理する方法。
(ii)回転速度の大きく異なる2つのロータ間、2つのディスク間、またはロータとステータ間に混合液を通して処理する方法。
(iii)混合液をノズルから高圧で噴射して相互に衝突させる、または遮蔽物に衝突させる方法。
(iv)混合液を超音波処理する方法。
(v)混合液を、ビーズミル、遊星ボールミルまたはボールミルで処理する方法。
【0072】
〔工程(b)〕
工程(b)は、集電体の表面に工程(a)で得られた塗布液を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程である。
【0073】
塗布方法としては、広く公知の塗布方法を採用できる。公知の塗布方法としては、たとえば、ロールコータ、ダイコータ、スプレー等による塗工方法、スクリーン印刷、インクジェットプリンタ等による印刷方法、その他の方法が挙げられ、これらの方法は本発明においても好適に使用できる。
【0074】
乾燥方法としては、広く公知の乾燥方法を採用できる。乾燥装置は、トンネル型であってもよく、コンベヤ型であってもよく、乾燥方式は、熱風式であってもよく、接触式であってもよく、これらは本発明においても好適に使用できる。
乾燥温度は、60〜500℃が好ましく、80〜450℃がより好ましい。繊維状炭素質材料の分散液に分散剤としてカラメルやCMCを用いる場合には、特に、150℃以上で加熱することでカラメルやCMCが炭化し、導電性バインダとして特に有効に機能させることができる。
【0075】
集電体としては、金属箔(アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅等)、金属網状物、金属多孔体等が挙げられる。リチウムイオン電池の正極集電体としては、アルミニウム箔が好ましく、負極集電体としては銅箔が好ましい。集電体としては、表面処理されたアルミニウム箔や銅箔も好ましい。表面処理としては、表面を化学処理する、粗面化する、孔をあける、またはカーボンコート層を施す等の処理が挙げられる。ニッケル水素電池の正極集電体としては、ニッケル箔、発泡ニッケル等が用いられる。
集電体の厚さは、1〜100μmが好ましい。集電体の厚さが該範囲内であれば、蓄電素子の耐久性および信頼性を充分に確保でき、また、蓄電素子が軽量となる。
【0076】
工程(b)において形成される電極コンポジット層の厚さは、乾燥後の厚さで1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。
【0077】
〔工程(c)〕
工程(c)は、工程(b)で得られた積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程である。
圧延方法としては、ロールプレスや平板プレス等による公知の圧延方法を用いればよい。圧延条件は、蓄電素子や電極活物質の種類によっても異なるが、プレス温度は、通常、室温、または0〜500℃程であり、プレス圧力は、通常、50〜1000MPaである。
【0078】
圧延後の電極コンポジット層の厚さは、1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。電極コンポジット層の厚さが該範囲内であれば、得られる蓄電素子の充放電容量が充分に大きくなり、また、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい。
【0079】
電極コンポジット層には、高性能化および長寿命化を目的として、新たな追加成分を、噴霧、浸漬、暴露等の手段によって添加してもよい。追加成分としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、炭酸リチウム、リン酸リチウム等が挙げられる。
【0080】
〔作用効果〕
以上説明した本発明の蓄電素子用電極の製造方法にあっては、電極コンポジット層形成用塗布液を調製するに際し、繊維状炭素質材料の分散液を用いているため、繊維状炭素質材料が電極コンポジット層形成用塗布液中において凝集しにくい。そのため、繊維状炭素質材料が電極コンポジット層中に均一に分散する。その結果、繊維状炭素質材料と電極活物質との間の導電パスが充分に形成されるため、高い充放電レートであっても充放電容量が比較的大きい蓄電素子を与える蓄電素子用電極を製造できる。
また、繊維状炭素質材料が電極コンポジット層中に均一に分散し、網目状構造を形成するため、繊維状炭素質材料がバインダとしての役割を果たすと考えられる。そのため、樹脂バインダを減らす、または省略することができ、単位質量あたりの放電容量を高めることができる。
【0081】
さらに、以上説明した本発明の蓄電素子用電極の製造方法にあっては、繊維状炭素質材料として、平均繊維長の異なる2種以上の繊維状炭素質材料を用い、2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料が前記条件(X)を満たす繊維状炭素質材料(A)であり、最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料が前記条件(Y)を満たす繊維状炭素質材料(B)であり、繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長Lと繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長Lとの比(L/L)が0.7以下であるため、下記の理由から、高い充放電レートにおける充放電容量をさらに大きくできる。また、高い充放電レートにおける大きい充放電容量を長期間維持できる。
【0082】
(理由)
本発明の蓄電素子用電極が優れる理由は定かではないが、以下のように考えられる。本発明の蓄電素子用電極において、たとえば電極コンポジット層の厚さの1/10の長さを1辺とする立方体を仮想する。電極コンポジット層は、集電体上に該仮想ブロックを敷き詰め、10段重ねた構造と見ることができる。従来の電極コンポジット層に極めて高い充放電レートで充放電しようとすると、集電体に接した1段目の仮想ブロックのみの充放電容量しか発現できない。すなわち、集電体に接していない仮想ブロックは、集電体に電子伝導するまでに中間にある仮想ブロックの導電パスを経由しなければならず、極めて高い充放電レートには対応できないと解釈される。一方、極めて低い充放電レートでの充放電であれば、集電体から遠く離れら仮想ブロックであっても、途中の仮想ブロックを経由する電子伝導に問題はなく、大きい充放電容量を発現できると解釈できる。
したがって、集電体から遠く離れた仮想ブロックも集電体と直接的に電子伝導できる導電パスを設ければ、極めて高い充放電レートにも対応して、良好な充放電容量を発現できる。本発明における電極コンポジット層は、このような導電パスを有していると考えられる。
【0083】
すなわち、本発明における繊維状炭素質材料(B)を電極コンポジット層に均質に分散させることによって、繊維状炭素質材料(B)がすべての仮想ブロックを貫いて電極コンポジット層全域に大きなネットワークを形成する。一方、繊維状炭素質材料(A)を電極コンポジット層に均質に分散させることによって、繊維状炭素質材料(B)によって形成された大きなネットワーク内に、繊維状炭素質材料(A)によって形成された小さなネットワークが均質に散りばめられていると見ることができる。このことは、繊維状炭素質材料(B)の幹から繊維状炭素質材料(A)の枝が伸び、集電体から遠く離れた仮想ブロックにおいても、電子は繊維状炭素質材料(A)の枝から繊維状炭素質材料(B)の幹を経由して集電体に伝導されることになる。CNT等の繊維状炭素質材料は極めて高い電子伝導性を有するものであるから、繊維状炭素質材料を経由することは直接集電体に接していると考えることができる。
【0084】
また、繊維状炭素質材料(B)のネットワークが張り巡らされた電極コンポジット層においては、大電流を流しても電極コンポジット層全域にほとんど偏りなく電流を流すことができる。したがって、本発明における電極コンポジット層を有する蓄電素子は、長期に渡って良好で安定性したパフォーマンスを発現できる効果も有する。一方、従来の導電助剤からなる導電パスのみしか有さない電極コンポジット層においては、電流は、流れやすい領域、すなわち良好な導電パスを有する電極コンポジット層の領域に集中する。そのため、大電流の負荷を受けた領域は、集中して比較的早期に劣化してしまい、サイクル特性が低下すると考えられる。
【0085】
<蓄電素子>
本発明の蓄電素子は、本発明の製造方法によって得られた蓄電素子用電極を備えてなるものである。
蓄電素子としては、一次電池や二次電池(リチウム電池類(リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等)、金属空気電池、ニッケル水素電池等)、キャパシタ(電気二重層キャパシタ等)等が挙げられる。
本発明の蓄電素子にあっては、本発明の蓄電素子用電極を備えてなるものであるため、高い充放電レートであっても充放電容量が充分に大きい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
例1〜17は製造例であり、例18〜27、28〜35は参考例であり、例40〜42、44〜46、48〜50は実施例であり、例36〜39、43、47は比較例である。
【0087】
〔例1〕
フッ素を含む樹脂の水性分散液(樹脂バインダ(1)水性分散液)の調製:
3Lの耐圧重合槽にイオン交換水の1.0L、炭酸カルシウムの2.2g、過硫酸アンモニウムの0.7g、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの31g、ラウリル硫酸ナトリウムの1g、エチルビニルエーテルの161g、シクロヘキシルビニルエーテルの178g、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルの141gを仕込み、冷却と窒素ガス加圧とを繰り返して脱気した後、クロロトリフルオロエチレンの482gを仕込んで、30℃にて12時間重合反応を行った。得られた乳濁液から凝集物を除去し、フッ素を含む樹脂の含有量:50.1質量%のフッ素を含む樹脂の水性分散液(以下、樹脂バインダ(1)水性分散液と記す。)の1250gを得た。
【0088】
〔例2〕
フッ素を含む樹脂のNMP溶液(樹脂バインダ(2)溶液)の調製:
0.26Lの耐圧重合槽にキシレンの47g、エタノールの13.5g、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルの10.3g、エチルビニルエーテルの16.5g、シクロヘキシルビニルエーテルの16.6g、炭酸カリウムの0.9gを仕込んだ。液体窒素による冷却固化を行った後、脱気して溶存酸素を除去した。ついで、クロロトリフルオロエチレンの53gを仕込んで65℃に昇温し、t−ブチルペルオキシピバレートの10質量%キシレン溶液の1.5gを6時間かけて添加して重合反応を開始した。18時間後、重合反応を終了させ、得られた溶液から炭酸カリウムを濾別した。該溶液をn−ヘキサンに投入して樹脂を析出させ、析出物を濾過して取り出し、乾燥させてNMPに溶解させて、フッ素を含む樹脂の含有量:10.7質量%のフッ素を含む樹脂のNMP溶液(以下、樹脂バインダ(2)溶液と記す。)の700gを得た。
【0089】
〔例3〕
PVdFのNMP溶液(樹脂バインダ(3)溶液)の調製:
PVdF(Aldrich社製、分子量:18万)をN−メチルピロリドン(以下、NMPと記す。)に溶解させ、PVdF含有量:12.1質量%のPVdFのNMP溶液(以下、樹脂バインダ(3)溶液と記す。)を得た。
【0090】
〔例4〕
多層CNTの水性分散液(繊維状炭素質材料分散液(1))の調製:
ブドウ糖由来のカラメル噴霧乾燥品(仙波糖化工業社製)の15gをイオン交換水の554gに溶解させた後、多層CNT(Nanocyl社製、Nanocyl 7000)の31gを加えて分散させ、150MPaの湿式ジェットミル処理を2回繰り返し、多層CNT含有量:5.2質量%の多層CNTの水性分散液(以下、繊維状炭素質材料(1)分散液と記す。)の530gを得た。
【0091】
〔例5〜13〕
表1に示すように、多層CNTの種類、多層CNTの割合、媒体、分散剤の種類、分散剤の割合を変更した以外は、例4と同様にして繊維状炭素質材料分散液(2)〜(10)を得た。表中、「アジスパー」は、界面活性剤(味の素ファインテクノ社製、高分子系顔料分散剤、アジスパー PB−821)であり、「ブリッジ」は、非イオン界面活性剤(アルドリッチ試薬、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、Brij100)である。
【0092】
【表1】

【0093】
〔例14〕
リチウム鉄フォスフェート(電極活物質(5))の合成:
鉄含有量:69.2質量%の針状酸化鉄の322.8g、リン酸二水素アンモニウムの460.1g、炭酸リチウムの147.8g、ホウ素固溶アセチレンブラックの24.2gをステンレスバットに秤量し、純水を加えて5kgのスラリーとした。該スラリーを0.5mmのジルコニアビーズを用いて1時間ビーズミル処理し、D50:0.23μmの原料成分スラリーを得た。該原料成分スラリーをスプレー乾燥し、D50:6.2μmの原料成分粉体を得た。該原料成分粉体を、0.8L/分の窒素ガス気流中、600℃にて5時間熱処理し、D50:8.1μmのリチウム鉄フォスフェート(LiFePO)(以下、電極活物質(5)と記す。)の530gを得た。
【0094】
〔例15〕
リチウム鉄フォスフェート(電極活物質(4))の合成:
85質量%のリン酸の313.1gを純水の1000gで希釈した。該リン酸水溶液を撹拌しながら、炭酸リチウムの100.3gを加えて溶解させ、リン酸リチウムの水溶液を得た。該水溶液に鉄1当量あたりの分子量が92.4である針状のオキシ水酸化鉄の251.0gを加え、さらに純水の400gを追加してスラリーとした。該スラリーを0.5mmのジルコニアビーズを用いて1時間ビーズミル処理し、D50:0.21μmの原料成分スラリーを得た。該原料成分スラリーをスプレー乾燥し、D50:3.5μmの原料成分粉体を得た。該原料成分粉体を、0.8L/分の窒素ガス気流中、600℃にて5時間熱処理し、D50:4.7μmのリチウム鉄フォスフェート(以下、電極活物質(4)と記す。)の390gを得た。
【0095】
〔例16〕
リチウム鉄フォスフェート(電極活物質(3))の合成:
例10と同様にしてスラリーを得た。該スラリーを0.1mmのジルコニアビーズを用いて2時間ビーズミル処理し、D50:0.16μmの原料成分スラリーを得た。該原料成分スラリーをスプレー乾燥し、D50:1.9μmの原料成分粉体を得た。該原料成分粉体を、0.8L/分の窒素ガス気流中、600℃にて5時間熱処理し、D50:2.8μmのリチウム鉄フォスフェート(以下、電極活物質(3)と記す。)の400gを得た。
【0096】
〔例17〕
リチウム鉄フォスフェート(電極活物質(2))の合成:
例11と同様にして合成したリチウム鉄フォスフェートを、ロータとステータとからなる粉砕機で処理して、D50:1.0μmのリチウム鉄フォスフェート(以下、電極活物質(2)と記す。)の310gを得た。
【0097】
〔例18〕
(工程(a))
容量5mLのサンプルチューブに、リチウム鉄フォスフェート(P2 Phostech Lithium社製、D50:0.4μm)(以下、電極活物質(1)と記す。)の0.6000g、多層CNT(Nanocyl 7000)の0.0334g、樹脂バインダ(3)溶液の0.2784g、NMPの1.0gを秤量した。サンプルチューブの中にホモジナイザのプローブを投入し、10000rpmで5秒間撹拌した後、20000rpmで1分間撹拌してペースト状の電極コンポジット層形成用塗布液を調製した。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表2に示す。
【0098】
(工程(b))
該塗布液をドクターブレードでアルミニウム箔に塗工し、80℃で2時間、120℃で1時間乾燥し、積層体を得た。
(工程(c))
該積層体を圧延して所定の大きさに打ち抜き、蓄電素子用電極を得た。
【0099】
(電池特性)
蓄電素子用電極の正極およびリチウム箔の負極に、それぞれリード線を取り付け、ポリオレフィン系セパレータを介してステンレス鋼製セルケースに収納した。エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶かした電解質溶液を注入し、モデルセルとした。
モデルセルの電池特性を以下のようにして評価した。すなわち、充放電測定装置を用い、25℃において充電電流0.6mA/cm(0.375Cレートに相当する。)で電池電圧:4.3Vになるまで充電した後、放電電流:2.0mA/cm(1.25Cレートに相当する。)で2.0Vになるまで放電する充放電の繰り返しを行い、初期放電容量を測定した。結果を表2および図1に示す。
【0100】
〔例19〜22〕
電極活物質(1)を、電極活物質(2)〜(5)に変更した以外は、例18と同様にして蓄電素子用電極を得て、電池特性の評価を行った。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表2に示す。また、評価結果を表2および図1に示す。
【0101】
〔例23〜27〕
多層CNTの0.0334gおよびNMPの1.0gを、多層CNT含有量:5.2質量%の多層CNTのNMP分散液の0.6411gおよびNMPの0.4gに変更した以外は、例18〜22と同様にして蓄電素子用電極を得て、電池特性の評価を行った。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表2に示す。また、評価結果を表2および図1に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
例18〜22においては、平均粒子径の小さい電極活物質の場合、電池特性が低下した。これは、バンドル構造を持つCNTが分散され難く、電極コンポジット層中にてCNT分布の偏りが生じ、良好な導電パスが形成されなかったためと解釈される。
例23〜27の結果から、あらかじめ媒体に分散されたCNTを用いると良好な電池特性を発現できることがわかった。すなわち、例23〜27の電極コンポジット層においては、分散されたCNTが均質に分布して良好な導電パスが形成されているものと解釈される。
【0104】
〔例28〕
(工程(a))
容量5mLのサンプルチューブに、電極活物質(1)の0.6g、電池用アセチレンブラック(電気化学工業社製)(以下、ABと記す。)の0.033g、NMPの1.0g、樹脂バインダ(3)溶液の0.2736gを秤量した。サンプルチューブの中にホモジナイザのプローブを投入し、1000rpmで5秒間撹拌した後、20000rpmで1分間撹拌してペースト状の電極コンポジット層形成用塗布液を調製した。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表3に示す。
【0105】
(工程(b))
該塗布液をドクターブレードでアルミニウム箔に塗工し、80℃で2時間、120℃で1時間乾燥し、積層体を得た。
(工程(c))
該積層体を圧延して所定の大きさに打ち抜き、電極コンポジット層の厚さが94μmである蓄電素子用電極を得た。
【0106】
(電池特性)
蓄電素子用電極の正極およびリチウム箔の負極に、それぞれリード線を取り付け、ポリオレフィン系セパレータを介してステンレス鋼製セルケースに収納した。エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶かした電解質溶液を注入し、モデルセルとした。
モデルセルの電池特性を以下のようにして評価した。すなわち、充放電測定装置を用い、25℃において充電電流0.6mA/cm(0.375Cレートに相当する。)で電池電圧:4.3Vになるまで充電した後、放電電流:2.0mA/cm(1.25Cレートに相当する。)で2.0Vになるまで放電した。これを1サイクル目とした。ついで、充電レートは0.375Cで一定とし、放電レートを2サイクル目:2C、3サイクル目:5Cとする充放電試験を15回繰り返した。ついで、次の1サイクル目:10Cレート、2サイクル目:20Cレート、3サイクル目:40Cレートとする充放電試験を15回繰り返し、最後に最初と同様条件の充放電試験を15回繰り返した。その結果、1.25Cレートの初期放電容量は122.9mAh/gと低い結果であった。このことは、ナノメートルオーダーの微粒子の電極活物質の特性を、従来の蓄電素子用電極の製造方法で発現させるのは困難であることを示している。
【0107】
〔例29〕
表3に示すように、導電助剤の種類、導電助剤の含有量、電極活物質の含有量、樹脂バインダの種類、樹脂バインダの含有量を変更した以外は、例28と同様にして蓄電素子用電極を得て、電池特性の評価を行った。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表3に示す。また、評価結果を表3に示す。
【0108】
〔例30〜35〕
繊維状炭素質材料を粉末のままで用いる代わりに繊維状炭素質材料分散液(2)〜(4)を用い、表3に示すように、導電助剤の種類、導電助剤の含有量、電極活物質の含有量、樹脂バインダの種類、樹脂バインダの含有量、分散剤の種類、分散剤の含有量を変更した以外は、例29と同様にして蓄電素子用電極を得て、電池特性の評価を行った。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表3に示す。また、評価結果を表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
例29〜35における電極コンポジット層の厚さは90±10μmの範囲にあった。
1.25Cレートの初期放電容量が101.1mAh/gと低かった例29を除き、例30〜35の電池特性の評価結果を図2に示す。
図2の結果から、電極コンポジット層へのCNTの添加効果を発現させるには、CNTを電極コンポジット層中に均質に広げることが重要であることがわかる。そのためには、CNTを均質に分散させるための分散剤の選定も重要となる。図3および図4に、例32および例35の電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真を示す。図3の電極コンポジット層ではCNTがほぼ全面に分布しているのに対し、図4の電極コンポジット層ではCNTが偏って分布しているのが観察され、図2のレート特性を反映していると解釈された。
また、バインダとしては樹脂バインダ(3)(PVdF)よりも樹脂バインダ(2)を用いる方が、バインダ量を低減しても特性が良好であることがわかる。これは、樹脂バインダ(2)の比較的長い側鎖および水酸基が密着性向上に機能していることによると判断される。加えて、側鎖の6員環がCNTのグラフェンシートにおける6員環と相互作用して電極コンポジット層の形体維持に機能していることによるものと判断される。
【0111】
〔例36〕
ABの0.033gの代わりに繊維状炭素質材料分散液(1)の0.3731gを用い、NMPの1.0gの代わりに純水の1.2gを用い、樹脂バインダ(3)溶液の0.2736gの代わりに樹脂バインダ(1)水性分散液の0.0130gを用いた以外は、例28と同様にして蓄電素子用電極を得て、電池特性の評価を行った。電極コンポジット層の厚さは92μmであった。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表4に示す。また、評価結果を表4および図5に示す。
【0112】
〔例37〜50〕
繊維状炭素質材料分散液(1)、(2)、(5)〜(10)を用い、表4に示すように、導電助剤の種類、導電助剤の含有量、電極活物質の含有量、樹脂バインダの種類、樹脂バインダの含有量、分散剤の含有量を変更した以外は、例36と同様にして蓄電素子用電極を得て、電池特性の評価を行った。電極コンポジットの厚さは90±10μmの範囲にあった。電極コンポジット層形成用塗布液の組成を表4および表5に示す。また、評価結果を表4、表5、図5〜7に示す。
【0113】
【表4】

【0114】
【表5】

【0115】
図5には、平均繊維長が1μm、3μm、10μm、100μmの4種のCNTにつき、それぞれ1種を用いて作製した蓄電素子用電極と、長短2種以上のCNTを併用して作製した蓄電素子用電極の電池特性が示されている。図5から、平均繊維長が1種のCNTを単独で用いるよりも、長短2種以上のCNTを併用する方が、良好な電池特性を発現できることがわかる。しかも、平均繊維長が1μmと10μmの2種を併用、3μmと10μmの2種を併用、3μm、10μm、100μmの3種を併用すると、2009年時点でリチウム鉄フォスフェートを正極活物質としたリチウム二次電池のチャオピョンパフォーマンスとされる結果(Wei−Jun Zhang,J.Electrochem.Soc.157,A1040(2010))(図中「Dr.Kim」のデータ)を超え、40Cの極めて高い放電レートにおいても90mAh/g以上の放電容量を発現した。
【0116】
一方、長短2種以のCNTを併用した場合であっても、平均繊維長が1μmと3μmの併用では、1μmまたは3μmを単独で用いた場合とほとんど同様のパフォーマンスを示すのみであった。これは、短鎖または長鎖のCNTを単独で用いたときの電池特性からも理解できる。すなわち、短鎖のCNTは、比較的低い放電レート域での大きい放電容量の発現に有効であることがわかる。これは、均質に分散されたCNTの形成する良好な導電パスの効果である。一方、10Cや15Cを超える高い放電レート域では、長鎖のCNTが放電容量の維持に有効であることがわかる。このことは、極めて高い放電レート域においては、単に均質な導電パスがあることだけでは、大きい放電容量の発現には不充分であることを示している。すなわち、極めて高い放電レート域で大きい放電容量を発現させるためには、電極コンポジット層を貫く良好で長い導電パスが必要となる。図8は、例42の電極コンポジット層に部分的に加えた亀裂を観察した走査型電子顕微鏡写真である。図8から、幅3μm強の亀裂をまたいで橋渡しする複数のCNTが観察される。このようなCNTが極めて高い放電レート域での良好な放電容量の発現に寄与している。図9は、同様にして例43の電極コンポジット層に部分的に加えた亀裂を観察した走査型電子顕微鏡写真である。図9ではCNTの末端を多数観察できるが、図8に観察されたような亀裂を橋渡しするCNTは1本も見られない。
【0117】
長短2種以上のCNTを併用する効果は、NMPを媒体した場合においても同様であることが図6からわかる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の製造方法で得られた蓄電素子用電極は、一次電池や二次電池(リチウム電池類(リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、リチウム一次電池等)、ニッケル水素電池等)、キャパシタ(電気二重層キャパシタ等)等の電極として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)電極活物質と、繊維状炭素質材料の分散液とを混合し、電極コンポジット層形成用塗布液を得る工程と、
(b)集電体の表面に電極コンポジット層形成用塗布液を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程と、
(c)積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程と
を有し、
前記繊維状炭素質材料として、平均繊維長の異なる2種以上の繊維状炭素質材料を用い、
前記2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が短い繊維状炭素質材料が、下記の条件(X)を満たす繊維状炭素質材料(A)であり、
前記2種以上の繊維状炭素質材料のうち、最も平均繊維長が長い繊維状炭素質材料が、下記の条件(Y)を満たす繊維状炭素質材料(B)であり、
前記繊維状炭素質材料(A)の平均繊維長Lと前記繊維状炭素質材料(B)の平均繊維長Lとの比(L/L)が、0.7以下である、蓄電素子用電極の製造方法。
条件(X):平均繊維長が0.1〜20μmであり、平均繊維径が2〜20nmであり、アスペクト比が4〜2000である。
条件(Y):平均繊維長が5μm以上であり、平均繊維径が2〜25nmであり、アスペクト比が400以上である。
【請求項2】
前記電極活物質の含有量が、前記電極コンポジット層形成用塗布液における固形分(100質量%)のうち、85〜99.7質量%である、請求項1に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項3】
前記繊維状炭素質材料の含有量が、前記電極コンポジット層形成用塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%である、請求項1または2に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項4】
前記電極活物質の平均粒子径が、5μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)にて、樹脂バインダの溶液または分散液をさらに混合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂バインダの含有量が、前記電極コンポジット層形成用塗布液における固形分(100質量%)のうち、0.1〜5質量%である、請求項5に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂バインダが、フッ素を含む樹脂である、請求項5または6に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項8】
前記フッ素を含む樹脂が、側鎖に5員環およびまたは6員環を有する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で得られた蓄電素子用電極を備えてなる、蓄電素子。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−98085(P2013−98085A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241381(P2011−241381)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】