説明

薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法

【課題】薄板状ワークがより薄くても、この薄板状ワークに移動力を確実に伝えて滞りなくそして蛇行なく安定して搬送することが可能である薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板Wの下面に空気を吹き付けて非接触状態で支持するエア浮上ユニット2と、ガラス基板Wの下面に接触してワーク搬送方向の移動力を付与する搬送ローラ37を備え、エア浮上ユニット2は、ガラス基板Wの下面に向けて空気を噴出させる多数の空気噴出孔24aを有し、且つ、ワーク搬送方向と直交する断面形状が下方に凸の湾曲形状を成すワーク非接触支持板24を具備し、搬送ローラ37をワーク搬送方向と直交する方向の中央に配置して、エア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24から上方に突出する周縁部をガラス基板Wの下面に接触させてワーク搬送方向の移動力を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状ワーク、例えば、液晶表示パネルの製造に用いられる厚みが0.3mm以下のガラス基板を搬送するのに好適な薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したような液晶表示パネルの製造に用いられるガラス基板の表面には、回路パターン等の接触を嫌うデリケートな箇所が多数存在するため、ガラス基板の素材であるガラス板の出荷元から液晶表示パネルの製造現場に至るまでの多くの搬送時において、ガラス基板(ガラス板)の表面にできるだけ接触しないようにすることが求められている。
【0003】
従来、このようなガラス基板の搬送には、特許文献1に開示されている薄板状ワーク搬送装置が広く用いられている。
この薄板状ワーク搬送装置は、表面を上に向けたガラス基板の裏面(下面)に空気を吹き付けて非接触状態で支持するエア浮上ユニットと、ガラス基板の裏面における指定部位に接触して搬送方向の移動力を付与する搬送ローラを備えている。
この薄板状ワーク搬送装置の場合、ガラス基板がより薄くなると、ガラス基板の裏面における空気の圧力分布の違いによって平板形状が保たれなくなり、ガラス基板に対する搬送ローラの接触状態が不安定になって、搬送に支障を来たす可能性がある。
【0004】
そこで、従来において、特許文献2に開示された搬送用支持装置が提案されている。
この搬送用支持装置は、加圧流体を噴出させてガラス基板を非接触状態で支持する噴出部を相互に独立して多数有していると共に、ガラス基板に対して加圧流体を噴出させてガラス基板が波打たないように非接触状態で強制的に変形させる形状変形用噴出部を設けた構成を成しており、この搬送用支持装置において、ガラス基板が非接触状態で搬送されている間は、強制的に変形させた形状を維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4349101号
【特許文献2】特許第4183525号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記した従来の搬送用支持装置では、多数の噴出部及び形状変形用噴出部によって、例えば、ガラス基板の搬送方向に直交する断面形状が下に凸となるようにガラス基板を強制的に湾曲させれば、ガラス基板の搬送の安定化を図り得るものの、ガラス基板がより薄くなった場合には、このガラス基板の進行方向側端部が垂れて、相互に独立する噴出部や形状変形用噴出部に引っ掛かってしまう虞があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0007】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、薄板状ワークがより薄くなった場合であったとしても、この薄板状ワークに移動力を確実に伝えて、滞りなく安定して搬送することが可能である薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る薄板状ワーク搬送装置は、例えば、厚みが0.3mm以下のガラス基板の搬送に用いるのに好適な搬送装置であって、薄板状ワークの下面に空気を吹き付けて非接触状態で支持するエア浮上ユニットと、前記薄板状ワークの下面に接触してワーク搬送方向の移動力を付与する搬送ローラを備えた薄板状ワーク搬送装置において、前記エア浮上ユニットは、前記薄板状ワークの下面に向けて空気を噴出させる多数の空気噴出孔を有していると共に、ワーク搬送方向と直交する断面形状が下方に凸の湾曲形状を成すワーク非接触支持板を具備し、前記搬送ローラをワーク搬送方向と直交する方向の中央に配置して、前記エア浮上ユニットの前記ワーク非接触支持板から上方に突出する周縁部を前記薄板状ワークの下面に接触させてワーク搬送方向の移動力を付与する構成としたことを特徴としており、この構成の薄板状ワーク搬送装置を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
本発明の請求項2に係る薄板状ワーク搬送装置は、前記薄板状ワークの前記搬送ローラとの接触部位を該搬送ローラ側に引き寄せる吸引機構を備えた構成としており、本発明の請求項3に係る薄板状ワーク搬送装置は、前記薄板状ワークのワーク搬送方向に沿う両側縁部を前記エア浮上ユニットの前記ワーク非接触支持板側に引き寄せる側縁部吸引機構を備えた構成としている。
【0010】
一方、本発明の請求項4に係る薄板状ワーク搬送方法は、薄板状ワークの下面に空気を吹き付けて非接触状態で支持すると共に、ワーク搬送方向の移動力を付与する搬送ローラを前記薄板状ワークの下面に接触させて、前記薄板状ワークを搬送するに際して、前記薄板状ワークのワーク搬送方向と直交する断面形状を下方に凸の湾曲形状とするべく該薄板状ワークを変形させつつ、前記薄板状ワークのワーク搬送方向と直交する方向の中央下面に前記搬送ローラを接触させて搬送する構成としている。
【0011】
本発明に係る薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法において、薄板状ワークにワーク搬送方向の移動力を付与する搬送ローラの設置間隔は、搬送する薄板状ワークの大きさに応じて決定されるが、薄板状ワークの搬送方向長さよりも小さい間隔で設置されることは言うまでもない。
【0012】
また、本発明に係る薄板状ワーク搬送装置において、エア浮上ユニットのワーク非接触支持板には、例えば、パンチングメタルを採用することができるほか、多孔質パネルを用いることができる。
【0013】
本発明に係る薄板状ワーク搬送装置(薄板状ワーク搬送方法)では、例えば、薄板状ワークを次工程に搬送するに際して、まず、ロボットハンドや移載装置を用いて、多数の空気噴出孔から空気を噴き出させたエア浮上ユニットのワーク非接触支持板上に薄板状ワークを置く。
【0014】
このとき、薄板状ワークがワーク非接触支持板に倣って変形するので、すなわち、ワーク搬送方向と直交する断面形状が下方に凸の湾曲形状を成すように変形するので、薄板状ワークは、エア浮上ユニットのワーク非接触支持板上において安定した状態で支持されることとなる。
【0015】
この状態において、ワーク搬送方向と直交する方向の中央に位置した搬送ローラの周縁部が、下方に凸の湾曲形状を成す薄板状ワークの最も下方に位置する部位(ワークの重心付近)に接触しており、この接触部位は、薄板状ワークのワーク搬送方向に沿う側縁部の重さが両側から常に作用することで、形状が維持される(変形し難くなっている)ので、搬送ローラに常に安定して接触することとなる。
【0016】
そして、この状態で薄板状ワークを搬送すれば、薄板状ワークの自重によるいわゆる自動調芯機能(薄板状ワークの搬送ローラとの接触部位を常に最下方に位置させる機能)によって、搬送方向に対する蛇行が抑制された安定した薄板状ワークの搬送が成されることとなり、加えて、薄板状ワークをエア浮上ユニットのワーク非接触支持板で支持するようにしているので、薄板状ワークがより薄くなった場合であったとしても、薄板状ワークの滞りのない搬送を行い得ることとなる。
【0017】
また、本発明に係る薄板状ワーク搬送装置において、薄板状ワークの搬送ローラとの接触部位を搬送ローラ側に引き寄せる吸引機構を備えた構成とすると、薄板状ワークと搬送ローラとの間により大きな摩擦力が生じることとなって、搬送ローラからより大きな移動力を薄板状ワークに付与し得ることとなる。
【0018】
さらに、本発明に係る薄板状ワーク搬送装置において、薄板状ワークのワーク搬送方向に沿う両側縁部をエア浮上ユニットのワーク非接触支持板側に引き寄せる側縁部吸引機構を備えた構成を採用すると、薄板状ワークの両側縁部のばたつきが少なく抑えられることとなり、薄板状ワークの両側縁部に傷付き等の不具合が生じることが回避されることとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る薄板状ワーク搬送装置では、上記した構成としているので、薄板状ワークを蛇行させることなく安定して搬送することができ、加えて、薄板状ワークがより薄くなった場合であったとしても、薄板状ワークを滞りなく搬送することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄板状ワーク搬送装置の断面説明図である。
【図2】図1に示した薄板状ワーク搬送装置の部分平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明に係る薄板状ワーク搬送装置の一実施形態を示しており、この実施形態では、薄板状ワークが液晶表示パネルの製造に用いられる厚み0.3mm以下の極薄のガラス基板である場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1及び図2に示すように、この薄板状ワーク搬送装置1は、表面に回路パターンが形成されたガラス基板Wを搬送する装置であって、表面を上に向けたガラス基板Wの下面に空気を吹き付けて非接触状態で支持するエア浮上ユニット2と、ガラス基板Wの下面に接触してワーク搬送方向(図1奥行き方向)の移動力を付与する搬送ローラ37を具備した搬送ユニット3と、ガラス基板Wの搬送ローラ37との接触部位を搬送ローラ37側に引き寄せる吸引機構4を備えている。
【0023】
エア浮上ユニット2は、圧力容器21と、この圧力容器21内に空気Aを導入する複数のファン23と、圧力容器21内に導入されて高圧となった空気Aを噴出させる多数の空気噴出孔24aを有するワーク非接触支持板24を具備している。このワーク非接触支持板24は、ワーク搬送方向と直交する断面形状が下方に凸の湾曲形状を成しており、このエア浮上ユニット2では、ワーク非接触支持板24の多数の空気噴出孔24aから噴出させた空気を押し上げ力FLとしてガラス基板Wに作用させることで、ガラス基板Wを強制的に湾曲させて(図1の拡大部分に示す状態に変形させて)ワーク非接触支持板24に沿わせるようになっている。
【0024】
搬送ユニット3は、カバー31により囲まれる内部に収容された枠体32と、この枠体32に出力軸33aを水平にした状態で固定されたモータ33と、このモータ33の出力軸33aに固定したモータ側プーリ34と、枠体32に軸受35を介して回転自在で且つ水平に支持された回転軸36と、この回転軸36の端部に固定されたローラ側プーリ38と、モータ側プーリ34及びローラ側プーリ38間に掛け渡されて、モータ33の回転力を回転軸36に伝えるベルト39を具備しており、上記した搬送ローラ37は、その周縁部をカバー31の上面から突出させた状態で回転軸36に固定されている。
【0025】
この搬送ユニット3は、ワーク搬送方向と直交する方向の中心軸CL上に配置してあり、エア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24から上方に突出する搬送ローラ37の周縁部をガラス基板Wの最も下方に位置する部位の下面に接触させてワーク搬送方向の移動力を付与するようになっている。
【0026】
この場合、カバー31の上面に吸引機構4を構成する隙間41を設けていると共に、カバー31に同じく吸引機構4を構成する吸引排気部42を設けており、吸気ダクト43を介して図外の吸引器でカバー31内の空気を吸引することで、ガラス基板W近傍に吸引力Bを生じさせることによって、ガラス基板Wを搬送ローラ37に引き寄せて圧接させるようになっている。
【0027】
また、薄板状ワーク搬送装置1は、ワーク非接触支持板24にワーク搬送方向に沿って形成されてガラス基板Wの両側縁部とそれぞれ対向する吸引溝51と、この吸引溝51の適宜箇所と図外の吸引器とを接続する吸気パイプ52を具備した側縁部吸引機構5を備えており、この側縁部吸引機構5では、吸引溝51近傍に吸引力を生じさせてガラス基板Wの両側縁部をエア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24側に引き寄せようになっている。
【0028】
このような構成の薄板状ワーク搬送装置1により、ガラス基板Wを次工程に搬送するに際しては、まず、ロボットハンドや移載装置を用いて、多数の空気噴出孔24aから空気を噴き出させたエア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24上にガラス基板Wを置く。
【0029】
このとき、ワーク非接触支持板24の多数の空気噴出孔24aから噴出させた空気が押し上げ力FLとしてガラス基板Wに作用して、ガラス基板Wがワーク非接触支持板24に倣って変形するので、すなわち、ワーク搬送方向と直交する断面形状が下方に凸の湾曲形状を成すようにガラス基板Wが変形するので、このガラス基板Wは、エア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24上において安定した状態で支持されることとなる。
【0030】
この状態において、ワーク搬送方向と直交する方向の中央に位置した搬送ローラ37の周縁部が、下方に凸の湾曲形状を成すガラス基板Wの最も下方に位置する部位(重心付近)に接触しており、この接触部位は、ガラス基板Wのワーク搬送方向に沿う側縁部の重さが両側から常に作用することで、形状が維持されることから、搬送ローラ37に常に安定して接触することとなる。
【0031】
そして、この状態でガラス基板Wを搬送すれば、下方に凸の湾曲形状を成すガラス基板Wの自重による自動調芯機能、すなわち、下方に凸の湾曲形状を成すガラス基板Wの搬送ローラ37との接触部位を常に最下方に位置させる機能によって、搬送方向に対する蛇行が抑制された安定したガラス基板Wの搬送が成されることとなり、加えて、ガラス基板Wをエア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24で支持するようにしているので、ガラス基板Wがより薄くなった場合であったとしても、ガラス基板Wの滞りのない搬送を行い得ることとなる。
【0032】
また、上記した薄板状ワーク搬送装置1において、ガラス基板Wの搬送ローラ37との接触部位を搬送ローラ37側に引き寄せる吸引機構4を備えているので、ガラス基板Wと搬送ローラ37との間により大きな摩擦力が生じることとなって、搬送ローラ37からより大きな移動力をガラス基板Wに付与し得ることとなる。
【0033】
さらに、上記した薄板状ワーク搬送装置1では、ガラス基板Wのワーク搬送方向に沿う両側縁部をエア浮上ユニット2のワーク非接触支持板24側に引き寄せる側縁部吸引機構5を備えているので、ガラス基板Wの両側縁部のばたつきが少なく抑えられることとなり、ガラス基板Wの両側縁部に傷付き等の不具合が生じることが回避されることとなる。
【0034】
本発明に係る薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法の構成は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、本発明に係る薄板状ワーク搬送装置及び薄板状ワーク搬送方法により搬送する薄板状ワークは、上記した実施形態における極薄のガラス基板Wに限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1 薄板状ワーク搬送装置
2 エア浮上ユニット
4 吸引機構
5 側縁部吸引機構
21 圧力容器
23 ファン
24 ワーク非接触支持板
24a 空気噴出孔
37 搬送ローラ
41 隙間
42 吸引排気部
43 吸気ダクト
51 吸引溝
52 吸気パイプ
A 空気
W ガラス基板(薄板状ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状ワークの下面に空気を吹き付けて非接触状態で支持するエア浮上ユニットと、
前記薄板状ワークの下面に接触してワーク搬送方向の移動力を付与する搬送ローラを備えた薄板状ワーク搬送装置において、
前記エア浮上ユニットは、前記薄板状ワークの下面に向けて空気を噴出させる多数の空気噴出孔を有していると共に、ワーク搬送方向と直交する断面形状が下方に凸の湾曲形状を成すワーク非接触支持板を具備し、
前記搬送ローラをワーク搬送方向と直交する方向の中央に配置して、前記エア浮上ユニットの前記ワーク非接触支持板から上方に突出する周縁部を前記薄板状ワークの下面に接触させてワーク搬送方向の移動力を付与する
ことを特徴とする薄板状ワーク搬送装置。
【請求項2】
前記薄板状ワークの前記搬送ローラとの接触部位を該搬送ローラ側に引き寄せる吸引機構を備えた請求項1に記載の薄板状ワーク搬送装置。
【請求項3】
前記薄板状ワークのワーク搬送方向に沿う両側縁部を前記エア浮上ユニットの前記ワーク非接触支持板側に引き寄せる側縁部吸引機構を備えた請求項1又は2に記載の薄板状ワーク搬送装置。
【請求項4】
薄板状ワークの下面に空気を吹き付けて非接触状態で支持すると共に、ワーク搬送方向の移動力を付与する搬送ローラを前記薄板状ワークの下面に接触させて、前記薄板状ワークを搬送するに際して、
前記薄板状ワークのワーク搬送方向と直交する断面形状を下方に凸の湾曲形状とするべく該薄板状ワークを変形させつつ、前記薄板状ワークのワーク搬送方向と直交する方向の中央下面に前記搬送ローラを接触させて搬送する
ことを特徴とする薄板状ワーク搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−105775(P2013−105775A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246468(P2011−246468)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】