説明

薄膜形成用原料、薄膜の製造方法及び亜鉛化合物

【課題】薄膜に亜鉛を供給するプレカーサに対して、好適な反応性及び揮発性等の性質を付与することにあり、特にCVD法における酸化による薄膜製造に好適な反応性及び揮発性等の性質を付与すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有してなる薄膜形成用原料。


(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R4は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5は、炭素数1〜4のアルキル基または−CH2−CH2−NR67を表し、R6及びR7は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは、酸素原子または窒素原子を表し、mは、Xが酸素原子の場合は0であり、Xが窒素原子の場合は1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する亜鉛化合物を含有してなる薄膜形成用原料、該原料を用いた薄膜の製造方法、及び薄膜形成用原料に用いられる新規亜鉛化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛を含有する薄膜は、光学特性、電気特性、触媒活性等の様々な特性を有しており、電子部品や光学部品の部材として用いられている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、火焔堆積法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長法等が挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法が最適な製造プロセスである。
【0004】
CVD法においては、薄膜に亜鉛原子を供給するプレカーサとして安定性、安全性の面からβ−ジケトン錯体が多く検討されている。例えば、特許文献1、2には、ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)亜鉛を用いたCVDが開示されており、非特許文献1にはビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン)亜鉛を用いた方法が報告されている。特許文献3には、25℃で液体のビス(β−ジケトナト)亜鉛であるビス(オクタン−2,4−ジオナト)亜鉛、ビス(2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオナト)亜鉛が開示されている。
【0005】
CVD法に用いる原料に適する化合物(プレカーサ)に求められる性質は、薄膜堆積時においては、酸化等による化学反応による薄膜の形成が容易に進行することである。上記の亜鉛のβ−ジケトン錯体は、安定な化合物であり、CVDプロセスの供給の面では優位であるが、薄膜堆積時における反応性においては必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
また、非特許文献2、3には、アルキル亜鉛アルコキシドを用いたCVDによる酸化亜鉛薄膜製造が開示されており、具体的な化合物としては、MeZn(OPri)、EtZn(OPri)、MeZn(OBut)が開示されている。これらのアルキル亜鉛アルコキシドは、ジアルキル亜鉛に比べて、安定であり扱いやすいことが記載されている。
しかし、ここに記載のアルキル亜鉛アルコキシドは、融点が高い固体であり、揮発性も充分ではないので、薄膜形成用原料、特にCVD用原料として必ずしも満足できるものではなかった。
【0007】
また、非特許文献4には、RZnO・C24・NMe2が3分子会合した(RZnO・C24・NMe23 (R=Me、Et)、MeZnOCH2・CH2OMeが4分子会合した(MeZnOCH2・CH2OMe)4が開示されているが、これを薄膜形成用原料として使用することは開示されていない。
【0008】
【特許文献1】特公平6−64738号公報(特に、[請求項9])
【特許文献2】特開2003−236376号公報(特に、[実施例])
【特許文献3】特開2005−350423号公報(特に、[請求項1]〜[請求項6])
【非特許文献1】Microelectron. Eng., 29(1-4), 169-72 (1995)
【非特許文献2】J.MATER.CHEM.,1994,4(8),1249-1253
【非特許文献3】Electrochemical Society Proceedings Volume 2003-08 1123-1130
【非特許文献4】J.Chem.Soc.(A),1966,1064-1069
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、薄膜に亜鉛を供給するプレカーサに対して、好適な反応性及び揮発性等の性質を付与することにあり、特にCVD法における酸化による薄膜の製造に好適な反応性及び揮発性等の性質を付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定の構造を有する亜鉛化合物が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有してなる薄膜形成用原料を提供することにより上記課題を解決したものである。
【0012】
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R4は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5は、炭素数1〜4のアルキル基または−CH2−CH2−NR67を表し、R6及びR7は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは、酸素原子または窒素原子を表し、mは、Xが酸素原子の場合は0であり、Xが窒素原子の場合は1である。)
【0013】
また、本発明は、上記薄膜形成用原料を気化させて得た亜鉛化合物を含有する蒸気を基体に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記一般式(1)において、R2及びR3の少なくともどちらか一方が炭素数1〜4のアルキル基である新規亜鉛化合物を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、CVD用原料として、好適な反応性及び揮発性等の性質を有する薄膜形成用原料を提供することができる。
また、本発明の薄膜形成用原料に含有される亜鉛化合物は、その構造により、融点や揮発性が異なるので、薄膜形成プロセスに合致した薄膜形成用原料を選択できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の薄膜形成用原料に用いられる上記一般式(1)で表される亜鉛化合物は、薄膜のプレカーサとして好適な反応性を示すものであり、酸化による薄膜形成に特に好適なものである。
また、該化合物の内、R2及びR3の少なくともどちらか一方が炭素数1〜4のアルキル基であるものは新規化合物である。なお、本発明に係る上記一般式(1)で表わされる亜鉛化合物は、立体異性体を有する場合があり、XまたはNR67が分子内配位して環構造を形成する場合もあり、分子同士が会合して会合体を形成する場合もある。
例えば、本発明に係る上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の会合状態としては、例えば、2分子が会合した例として、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される構造が挙げられ、3分子が会合した例として、下記一般式(1−3)で表される構造が挙げられる。
【0017】
【化2】

(式中、R1〜R5、X及びmは、上記一般式(1)と同様である。)
【0018】
本発明に係る亜鉛化合物は、これら立体異性体、配位体、会合体により区別されるものではなく、いずれをも含むものである。以降、分子内配位、会合のない無い形で代表して示す。
【0019】
上記一般式(1)において、R1〜R7で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチルが挙げられる。
【0020】
本発明に係る一般式(1)で表される亜鉛化合物の具体例としては、以下に示す化合物No.1〜No.36が挙げられる。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
これらの化合物の中では、上記一般式(1)において、R2及びR3の少なくともどちらか一方が炭素数1〜4のアルキル基である亜鉛化合物(上記具体例においては、化合物No.7〜No.15、No.22〜No.30、No.32、No.33、No.35及びNo.36)が本発明の新規亜鉛化合物である。これら新規亜鉛化合物の中でも、上記一般式(1)において、Xが窒素原子であり、R4はメチル基またはエチル基であり、R5は、メチル基または−CH2−CH2−NR67であり、R6及びR7がメチル基またはエチル基である亜鉛化合物(上記具体例においては、No.22〜No.26、No.28〜No.30、No.32、No.33、No.35及びNo.36)が好ましい。
【0025】
上記一般式(1)で表される亜鉛化合物は、その構造により、融点や揮発性が異なるので、薄膜形成用原料として用いる場合は、薄膜形成プロセスに合致した融点や揮発性を有する構造の亜鉛化合物を選択して使用すればよい。
【0026】
上記一般式(1)で表される亜鉛化合物は、その程度に差はあるが、全てCVDプロセスに使用可能な揮発性を有するものである。CVD用原料として好ましいものは、揮発しやすいもの、固体であるが融点が低いもの(120℃以下)又は室温で液体であるものである。また、上記亜鉛化合物が、揮発しにくいもの、固体であるが融点が低いもの(120℃以下)又は室温で液体であるもの、有機溶剤に対する溶解性が大きいものである場合にはMOD用原料としても好ましく用いられる。
【0027】
上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の中では、R2及びR3が水素原子であり、Xが酸素原子であり、R4がメチルであるもの(上記具体例においては、化合物No.1〜No.6)は、固体であるが融点が低い又は室温で液体である特徴を有する。例えば、化合物No.1及びNo.2は室温で液体である特徴を有する。
【0028】
また、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の中では、R2及びR3の少なくともどちらか一方が炭素数1〜4のアルキル基であるもの(上記具体例においては、化合物No.7〜No.15、No22〜No.30、No.32、No.33、No.35及びNo.36)は、両方が水素原子であるものと比べ、揮発しやすい特徴を有する。
【0029】
また、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の中では、Xが窒素原子であるもの(上記具体例においては、化合物No.16〜No.36)は、Xが酸素原子であるものと比べ、揮発しやすい特徴を有する。
【0030】
また、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の中では、Xが窒素であり、R5が−CH2−CH2−NR67であるもの(上記具体例においては、化合物No.31〜No.36)は、特に融点が低い(100℃以下)特徴を有する。
【0031】
また、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の中では、R1がメチルまたはエチルであるもの(上記具体例においては、化合物No.1、No.2、No.7〜No.17、No.22〜No.36)は、揮発しやすい特徴を有する。
【0032】
本発明に係る上記一般式(1)で表される亜鉛化合物は、その製造方法により、特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。製造方法としては、(R12Znで表されるジアルキル亜鉛にHO−CR23CH2XR4(R5mで表されるアルコールを反応させる方法が挙げられる。
【0033】
本発明の薄膜形成用原料とは、前記一般式(1)で表される亜鉛化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される薄膜の製造方法(例えば、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、ALD法を含むCVD法)によって適宜選択される。本発明の薄膜形成用原料は、その物性から亜鉛化合物を気化させる工程を有するCVD用原料として特に有用である。
【0034】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長(CVD)用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0035】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物そのものがCVD用原料となり、液体輸送法の場合は、一般式(1)で表される亜鉛化合物そのもの又は該亜鉛化合物を有機溶剤に溶かした溶液がCVD用原料となる。
【0036】
また、多成分系薄膜を製造する場合の多成分系CVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(1)で表される金属化合物のみによる混合物或いはこれら混合物に有機溶剤媒を加えた混合溶液、上記一般式(1)で表される金属化合物と他のプレカーサとの混合物或いはこれら混合物に有機溶剤を加えた混合溶液がCVD用原料である。
【0037】
上記のCVD用原料に使用する有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中におけるプレカーサ成分の合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0038】
また、シングルソース法又はカクテルソース法を用いた多成分系のCVD法において、本発明に係る前記一般式(1)で表される亜鉛化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0039】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と珪素、ホウ素、リン及び金属との化合物が挙げられる。金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1族元素、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2族元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)、アクチノイド元素等の3族元素、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの4族元素、バナジウム、ニオブ、タンタルの5族元素、クロム、モリブデン、タングステンの6族元素、マンガン、テクネチウム、レニウムの7族元素、鉄、ルテニウム、オスミウムの8族元素、コバルト、ロジウム、イリジウムの9族元素、ニッケル、パラジウム、白金の10族元素、銅、銀、金の11族元素、カドミウム、水銀の12族元素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの13族元素、ゲルマニウム、錫、鉛の14族元素、砒素、アンチモン、ビスマスの15族元素、ポロニウムの16族元素が挙げられる。
【0040】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、熱分解及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱分解及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0041】
また、本発明のCVD用原料には、必要に応じて、本発明の亜鉛化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類が挙げられ、これら安定剤の使用量は、プレカーサ1モルに対して0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0042】
本発明の薄膜形成用原料は、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン、不純物有機分を極力含まないようにする。不純物金属元素分は元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましい。総量では1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。不純物有機分は総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましい。また、水分はCVD原料中のパーティクルやCVD法によるパーティクル発生の原因となるので、金属化合物、有機溶剤、求核試薬については、それぞれの水分の低減のために使用の際には予めできる限り水分を取り除いたほうがよい。水分量は10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0043】
また、本発明の薄膜形成用原料は、製造される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることが100個以下が更に好ましい。
【0044】
本発明の薄膜の製造方法とは、本発明に係る前記一般式(1)で表される亜鉛化合物、必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気と必要に応じて用いられる反応性ガスを基板上に導入し、次いで、プレカーサを基板上で分解及び/又は反応させて薄膜を基板上に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0045】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、硫化物を製造するものとしては、硫化水素が挙げられる。
【0046】
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0047】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD,熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD(Atomic Layer Deposition)が挙げられる。
【0048】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明に係る前記の化合物が充分に反応する温度である160℃以上が好ましく250℃〜800℃がより好ましい。また、反応圧力は、大気圧〜10Paが好ましく、大気圧〜100Paがより好ましい。堆積方法と反応圧力の組み合わせは任意であり、減圧熱CVD、減圧プラズマCVD、減圧光CVD、減圧光プラズマCVD、大気圧熱CVD、大気圧プラズマCVD、大気圧光CVD、大気圧光プラズマCVDが挙げられる。堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.5〜5000nm/分が好ましく、1〜1000nm/分がより好ましい。また、ALDの場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0049】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るためにアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、500〜1200℃であり、600〜1000℃が好ましい。
【0050】
本発明の薄膜形成用原料を用いた本発明の薄膜の製造方法により製造される薄膜は、他の成分のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、金属、合金、硫化物、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の種類としては、例えば、亜鉛、ZnSe、酸化亜鉛、硫化亜鉛、亜鉛−インジウム複合酸化物、リチウム添加酸化亜鉛、亜鉛添加フェライト、鉛−亜鉛複合酸化物、鉛−亜鉛−ニオブ複合酸化物、ビスマス−亜鉛−ニオブ複合酸化物、バリウム−亜鉛−タンタル複合酸化物、錫−亜鉛複合酸化物が挙げられ、これらの薄膜の用途としては、例えば、透明導電体、発光体、蛍光体、光触媒、磁性体、導電体、高誘電体、強誘電体、圧電体、マイクロ波誘電体、光導波路、光増幅器、光スイッチ、電磁波シールド、ソーラセル等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例、評価例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例等によって、何ら制限を受けるものではない。
【0052】
[実施例1]化合物No.15の製造
乾燥アルゴンで置換した反応フラスコにジエチル亜鉛1.0mol/リットルのヘキサン溶液を50ml仕込み、ここに常温で3−エトキシメチル−2,4−ジメチル−2−プロパノール8.77gとヘキサン50mlとの混合物をゆっくり滴下した。その後、アルゴン雰囲気のまま常温で終夜攪拌した。脱溶媒を行い、白色固体9.7gを得た。得られた固体について、以下の分析を行い、目的物であることを確認した。
(分析)
(1)元素分析(CHN:CHNアナライザー、金属分析:ICP)
炭素49.5質量%(理論値53.8%)、水素9.2質量%(理論値9.8%)、亜鉛24.3質量%(理論値24.3%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)
[図1]にチャートを示す。
【0053】
[実施例2]化合物No.23の製造
乾燥アルゴンで置換した反応フラスコにジメチル亜鉛1.0mol/リットルのヘキサン溶液を50ml仕込み、ここに常温で1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール5.86gとヘキサン50mlとの混合物をゆっくり滴下した。その後、アルゴン雰囲気のまま常温で終夜攪拌した。脱溶媒を行い、白色固体6.9gを得た。得られた固体について、以下の分析を行い、目的物であることを確認した。
(分析)
(1)元素分析(CHN:CHNアナライザー、金属分析:ICP)
炭素42.7質量%(理論値42.77%)、水素8.5質量%(理論値8.72%)、窒素6.7質量%(理論値7.12%)、亜鉛31.5質量%(理論値33.25%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)
[図2]にチャートを示す。
【0054】
[実施例3]化合物No.24の製造
乾燥アルゴンで置換した反応フラスコにジエチル亜鉛1.0mol/リットルのヘキサン溶液を50ml仕込み、ここに常温で1−ジメチルアミノ−2−プロパノール5.16gとヘキサン5050mlとの混合物をゆっくり滴下した。その後、アルゴン雰囲気のまま常温で終夜攪拌した。脱溶媒を行い、透明固体7.7gを得た。得られた固体について、以下の分析を行い、目的物であることを確認した。
(分析)
(1)元素分析(CHN:CHNアナライザー、金属分析:ICP)
炭素42.7質量%(理論値42.77%)、水素8.5質量%(理論値8.72%)、窒素6.8質量%(理論値7.12%)、亜鉛32.0質量%(理論値33.25%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)
[図3]にチャートを示す。
【0055】
[実施例4]化合物No.25の製造
乾燥アルゴンで置換した反応フラスコにジエチル亜鉛1.0mol/リットルのヘキサン溶液を50ml仕込み、ここに常温で1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール5.86gとヘキサン50mlとの混合物をゆっくり滴下した。その後、アルゴン雰囲気のまま常温で終夜攪拌した。脱溶媒を行い白色固体7.3gを得た。得られた固体について、以下の分析を行い目的物であることを確認した。
(分析)
(1)元素分析(CHN:CHNアナライザー、金属分析:ICP)
炭素44.9質量%(理論値45.6%)、水素8.7質量%(理論値9.1%)、窒素6.2質量%(理論値6.6%)、亜鉛30.3質量%(理論値31.0%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)
[図4]にチャートを示す。
【0056】
[実施例5]化合物No.33の製造
乾燥アルゴンで置換した反応フラスコにジメチル亜鉛1.0mol/リットルのヘキサン溶液を50ml仕込み、ここに常温で1−[(2−ジメチルアミノ−エチル)−メチルアミノ]−2−メチル−2−プロパノール8.72gとヘキサン50mlとの混合物溶媒をゆっくり滴下した。そして滴下終了後、アルゴン雰囲気のまま常温で終夜攪拌した。その後、脱ヘキサン溶媒を行い、残渣について、減圧蒸留を行い0.4Torr/137℃のフラクションから白色固体11.3gを得た。得られた物質について、以下の分析を行い目的物であることを確認した。
(分析)
(1)元素分析(CHN:CHNアナライザー、金属分析:ICP)
炭素46.6質量%(理論値47.35%)、水素9.1質量%(理論値9.54%)、窒素10.8質量%(理論値11.04%)、亜鉛25.5質量%(理論値25.77%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)
[図5]にチャートを示す。
【0057】
[実施例6]化合物No.36の製造
乾燥アルゴンで置換した反応フラスコにジエチル亜鉛1.0molのヘキサン溶液150mlを仕込み、ここに常温で1−[(2−ジメチルアミノ−エチル)−メチルアミノ]−2−メチル−2−プロパノール26.14gとヘキサン80mlとの混合物溶媒をゆっくり滴下した。そして滴下終了後、アルゴン雰囲気のまま常温で終夜攪拌した。その後、脱ヘキサン溶媒を行い、残渣について、減圧蒸留を行い0.37Torr/143℃のフラクションから白色固体3.8gを得た。得られた固体について、以下の分析を行い目的物であることを確認した。
(分析)
(1)元素分析(CHN:CHNアナライザー、金属分析:ICP)
炭素48.5質量%(理論値49.3%)、水素9.3質量%(理論値9.8%)、窒素9.8質量%(理論値10.5%)、亜鉛24.1質量%(理論値24.4%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)
[図6]にチャートを示す。
【0058】
[評価例1]液体または低融点亜鉛化合物の評価
液体または融点が低いために液体から気体への相変化が容易である亜鉛化合物である化合物No.2、No.15、No.33、No.36、ビス(オクタン−2,4−ジオナト)亜鉛(比較化合物1)、ビス(2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオナト)亜鉛(比較化合物2について、 系を一定の圧力に固定して液面付近の蒸気温度を測定する方法により行った。系の圧力を変えて蒸気温度を4点測定し、クラジウス―クラペイロンプロットにより、蒸気圧の式を得、120℃、150℃の蒸気圧を算出した。また、測定条件を、酸素100ml/min、10℃/min昇温として、表1に記載のサンプル量でのTG測定により酸化分解性の評価を行った。500℃での残分をZnOとし、試料の全てが酸化物となった場合の理論値に対する割合(%)で評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
上記結果より、本発明に係る亜鉛化合物である化合物No.2、No.15、No.33及びNo.36は、比較化合物1及び2よりも、蒸気圧が大きく、酸化分解性が良好であることが確認できた。
【0061】
[評価例2]固体亜鉛化合物の評価
化合物No.23、No.24及びNo.25とCH3−CH2−Zn−OCH(CH32(比較化合物3)のTG−DTAを測定した。なお、測定条件は、Ar100ml/min、10℃/min昇温であり、測定サンプル量は表2に記載した。50%減量温度を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2から、本発明に係る亜鉛化合物である化合物No.23、No.24及びNo.25は、比較化合物3よりも揮発特性が良好であること、不活性雰囲気下での熱安定性が良好であること確認された。
【0064】
[実施例7]酸化亜鉛薄膜の製造1
図7に示すCVD装置を用いて、サファイア基板上に以下の条件で、酸化亜鉛薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚と膜組成を蛍光X線で確認した。
(製造条件)
亜鉛CVD原料:化合物No.2、原料温度;120℃、原料圧力;500〜1000Pa、キャリアガス;アルゴン150sccm、酸化ガス:酸素1000sccm、反応圧力600Pa、反応温度(基盤温度):500℃、成膜時間:60分。
(結果)
膜厚; 496nm、膜組成;酸化亜鉛
【0065】
[実施例8]酸化亜鉛薄膜の製造2
図7に示すCVD装置を用いて、サファイア基板上に以下の条件で、酸化亜鉛薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚と膜組成を蛍光X線で確認した。
(製造条件)
亜鉛CVD原料:化合物No.33、原料温度;120℃、原料圧力;500〜1000Pa、キャリアガス;アルゴン150sccm、酸化ガス:酸素1000sccm、反応圧力600Pa、反応温度(基盤温度):500℃、成膜時間:60分。
(結果)
膜厚; 1325nm、膜組成;酸化亜鉛
【0066】
[実施例9]酸化亜鉛薄膜の製造3
図8に示すCVD装置を用いて、サファイア基板上に以下の条件で、酸化亜鉛薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚と膜組成を蛍光X線で確認した。
(製造条件)
亜鉛CVD原料:化合物No.23の0.25モル/kgのエチルシクロヘキサン溶液、原料流量:0.4sccm、気化室温度;220℃、気化器圧力;800Pa、キャリアガス;アルゴン150sccm、酸化ガス:酸素1000sccm、反応圧力〜800Pa、反応温度(基盤温度):500℃、成膜時間:60分。
(結果)
膜厚; 1735nm、膜組成;酸化亜鉛
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の新規な亜鉛化合物は、気化工程を有するCVD法等による薄膜形成用原料として用いられる他、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法による薄膜形成用原料、有機合成触媒、高分子化合物合成触媒等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、実施例1において得られた本発明の亜鉛化合物(化合物No.15)の1H−NMRチャートを示す。
【図2】図2は、実施例2において得られた本発明の亜鉛化合物(化合物No.23)の1H−NMRチャートを示す。
【図3】図3は、実施例3において得られた本発明の亜鉛化合物(化合物No.24)の1H−NMRチャートを示す。
【図4】図4は、実施例4において得られた本発明の亜鉛化合物(化合物No.25)の1H−NMRチャートを示す。
【図5】図5は、実施例5において得られた本発明の亜鉛化合物(化合物No.33)の1H−NMRチャートを示す。
【図6】図6は、実施例6において得られた本発明の亜鉛化合物(化合物No.36)の1H−NMRチャートを示す。
【図7】図7は、実施例7及び実施例8において用いた、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置を示す概要図である。
【図8】図8は、実施例9において用いた、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置を示す概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R4は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5は、炭素数1〜4のアルキル基または−CH2−CH2−NR67を表し、R6及びR7は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは、酸素原子または窒素原子を表し、mは、Xが酸素原子の場合は0であり、Xが窒素原子の場合は1である。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、R2及びR3が水素原子であり、Xが酸素原子であり、R4がメチル基である請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項3】
上記一般式(1)において、R2及びR3の少なくともどちらか一方が炭素数1〜4のアルキル基である請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項4】
上記一般式(1)において、Xが窒素原子である請求項1または3に記載の薄膜形成用原料。
【請求項5】
上記一般式(1)において、R5が−CH2−CH2−NR67である請求項4に記載の薄膜形成用原料。
【請求項6】
上記一般式(1)において、R1がメチル基またはエチル基である請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜形成用原料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜形成用原料を気化させて得た亜鉛化合物を含有する蒸気を基体に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【請求項8】
上記一般式(1)において、R2及びR3の少なくともどちらか一方が炭素数1〜4のアルキル基である亜鉛化合物。
【請求項9】
上記一般式(1)において、Xが窒素原子であり、R4はメチル基またはエチル基であり、R5は、メチル基または−CH2−CH2−NR67であり、R6及びR7がメチル基またはエチル基である請求項8に記載の亜鉛化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−88511(P2008−88511A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271707(P2006−271707)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】