説明

薬剤として使用するための減コレステロール酪農製品

本発明は薬剤としての反芻動物の減コレステロール酪農製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳類(特にヒト)の疾患の治療および/または予防の分野に属し、酪農製品(乳または乳製品)やこの酪農製品を含む食品または飼料組成物に関する。この酪農製品は反芻動物から得られ、好ましくはウシの酪農製品(乳または乳製品)、より好ましくは乳牛の酪農製品(乳または乳製品)であり、薬剤として(用いるために)コレステロール含量が低減されたものである。
【背景技術】
【0002】
先進国においては、トリグリセリドまたは脂肪に富んだ(すなわち総摂取量の約22%、乾燥重量で測定)およびコレステロールに富んだ食品を消費する傾向がある。
【0003】
脂質障害は高い血中コレステロールおよびトリグリセリド哺乳類血中比を定義する医学用語であり、哺乳類、特にヒトにおける(アテローム性動脈硬化などの)心血管疾患および他の心疾患のリスク上昇と関連づけられる。
【0004】
乳は約3から約8%の脂肪(w:w)を含有しているが、それは主として飽和脂肪である。
【0005】
脂肪(トリグリセリド)は乳、特にスプレッド、チーズ、クリームなどの乳由来製品(酪農製品)において、その風味およびその「技術的」性質のいくつかに必須である。
【0006】
乳由来製品中の脂肪含量は乾燥重量の約3%から約100%(総重量に対して約10%から80%の間)であり得る。例えばチーズおよびバターはそれぞれ約45%(乾燥重量で表す)および約80%(総重量で表す、または最大で乾燥重量の98%)の脂肪を含有する。
【0007】
不飽和脂肪酸、特にα-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA)などのω3多価不飽和脂肪酸はポジティブな健康効果を発揮すると思われ、その特性がこれら多価不飽和脂肪が強化された機能性食品組成物、食品補足物または栄養補助食品中に存在している。
【0008】
これら特定の脂肪酸は脂肪(トリグリセリド)、リン脂質の形態で、またはリポタンパク質などの担体にコンジュゲートした脂肪酸として存在し得る。
【0009】
しかしながら、(反芻動物)乳は(多価)不飽和脂肪酸に乏しい。規制上の理由により、(例えば植物性脂肪を加えることによる)外因性脂肪酸で強化された酪農製品(乳製品)は、酪農製品(乳製品)として表示することができない。
【0010】
乳脂肪はさらにコレステロールを含有する(脂肪100gにつき約300mg)。しかしながら、コレステロール食品の摂取は1日あたり最大300mgに限定されなければならない。その結果として、乳脂肪の栄養イメージを改善するにはコレステロール含量の低減を伴う。
【0011】
コレステロールおよび飽和脂肪はいずれも(ヒトの)健康、特に心血管疾患およびいくつかのがんに関して悪影響を与えることが知られている。
【0012】
それゆえ、全乳、乳脂肪およびこの乳脂肪に富んだ酪農製品(スプレッド、クリーム、チーズなど...)ならびにこれら酪農製品を含むあらゆる食品または飼料組成物は悪い栄養イメージに悩まされており、これらの健康問題と関連づけられるこれらの高飽和脂肪酸および高コレステロール含量の両者がその原因である。
【0013】
現状技術
現在、乳脂肪からのコレステロール抽出は、シクロデキストリンと接触させることによる分子カプセル封入(EP-387708 B1)などの物理的な方法または水蒸気蒸留により工業的に達成される。これらの方法を用いることで、最初に存在するコレステロールのうち最少で75%が抽出され得る。
【0014】
あるいは、乳中のコレステロール含量またはその生物学的利用率を低減させるための方法がいくつか開発された。
【0015】
例えばUS 6 485 931 B2は、乳コレステロールをより利用率の低いコプロスタノールへと変換することを記述している。
【0016】
国際特許出願WO 2004 052122は動物の処方を変えることにより動物由来脂肪のコレステロール含量を低減させる方法を記述している。
【0017】
欧州特許EP 1585508 B1は血漿および/もしくは血清中のコレステロールならびにトリグリセリドを低下させる食品または医薬製品の製造のためのスフィンゴ脂質の使用、ならびに血漿および/または血清中のコレステロールおよびトリグリセリドを低下させることを介したヒトにおける心血管疾患の治療または予防のためのスフィンゴ脂質の使用に関する。
【0018】
EP 0615 690は油を用いた乳コレステロールの抽出を記述している。
【0019】
US 5 175 015は植物性脂肪と混合した脱脂乳を記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】EP-387708 B1
【特許文献2】US 6 485 931 B2
【特許文献3】WO 2004 052122
【特許文献4】EP 1585508 B1
【特許文献5】EP 0615 690
【特許文献6】US 5 175 015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、現状技術の欠点を持たない食品もしくは飼料構成成分または食品もしくは飼料組成物、特に(ヒトを包含する)哺乳類の心血管疾患および/またはがんなどの関連疾患を予防および/または治療(もしくは改善)し得る、一般的にこれら哺乳類、特にヒトの健康を改善するための構成成分または組成物を提供することを目的とする。
【0022】
本発明は、機能性食品もしくは飼料(組成物)としてまたは栄養補助食品として用いられ得る、そして通常の酪農製品、これら酪農製品を含む飼料もしくは食品組成物(乳および乳飲料、スプレッド、特にバター、クリーム、チーズなど)またはこれら酪農製品から得られる飼料もしくは食品組成物(アイスクリーム、ベーカリーおよび菓子製品など)中に存在し得る、かかる構成成分または組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明はまた、薬剤としてのこの反芻動物乳(脂肪)、好ましくは牛乳(脂肪)に関する。
【0024】
本発明の酪農製品(乳または乳製品)、特に酪農脂肪はコレステロール含量が低く、できる限り(検出可能なレベルの)コレステロールがないものであり、そのコレステロール含量は好ましくは約10mg/100g脂肪から約150mg/100g脂肪の間に含まれ、好ましくは約30mg/100g脂肪から約150mg/100g脂肪の間に含まれ、より好ましくは約30mg/100g脂肪から約90mg/100g脂肪の間に含まれる。
【0025】
好ましくは本発明の酪農製品(乳または乳製品)、特に酪農脂肪は反芻動物から得られ、より好ましくは乳牛から得られる。
【0026】
できる限り本発明の酪農製品(乳または乳製品)、特に酪農(乳)脂肪は約60%から約70%の飽和脂肪(w飽和脂肪:w総脂肪)を含有する。
【0027】
好都合には、本発明の酪農製品は約3%から約4%(w:w)の間のタンパク質(そのうちの約80%はカゼイン)、約3%から約6%(w:w)の間の脂肪、約4%から約5%(w:w)の間の炭水化物および約0.6から約1%の間のミネラルを含む乳であり、ミネラルは主としてカルシウム、カリウム、塩素およびリンである(すなわち酪農製品の総重量%を100%として比較)。
【0028】
あるいは、本発明の酪農製品はスプレッド、好ましくはバター、乳飲料、クリームまたはチーズなどの乳脂肪が強化された酪農製品である。本発明はまた、本発明の酪農製品もしくは酪農脂肪またはアイスクリーム、ベーカリーもしくは菓子製品などの本発明の酪農製品もしくは酪農脂肪から得られる酪農製品もしくは酪農脂肪を含む(機能性)食品または飼料組成物に関する。
【0029】
「約」は、プラスマイナス10%の各実数を好ましくは意味する。例えば「約4%」は、3.6%から4.4%の間の各実数を意味する。
【0030】
本発明のおよび反芻動物乳から得られる反芻動物酪農製品(乳、乳製品または脂肪)は単独で(乳、ミルククリームまたは無水の乳脂肪として)、派生製品として(スプレッド様バター、乳飲料またはチーズとして)、(機能性)飼料組成物もしくは(機能性)食品組成物中でこの組成物の他の通常成分を伴う添加物もしくは有効成分として、栄養補助食品組成物としてもしくはその中で、および/または医薬組成物としてもしくはその中で用いられ得る。
【0031】
好都合には、本発明の酪農製品、特に酪農脂肪を含むこの薬剤(医薬組成物)および/または栄養補助食品は食品組成物、好ましくはスプレッド、より好ましくはバター中で提供される(存在する)が、これらは約10%から約50%(好ましくは約40%)(w:w)の総脂肪(脂質)と約10mg/100g脂肪から約150mg/100g脂肪の間、好ましくは約30mg/100g脂肪から約150mg/100g脂肪の間、より好ましくは約30mg/100g脂肪から約90mg/100g脂肪の間に含まれるコレステロール含量とを有する。
【0032】
本発明の酪農製品、特に酪農脂肪の消費は好都合には(ヒトを包含する)哺乳類血中の(長鎖)多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸、エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸など)の含量を増加させる。
【0033】
より的確には、本発明の酪農製品、特に酪農脂肪の消費は(ヒトを包含する)哺乳類血中の長鎖多価不飽和ω3脂肪酸含量をさらに増加させる。
【0034】
長鎖ω3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA)を意味する。
【0035】
本発明の酪農製品、特に酪農脂肪の消費は(ヒトを包含する)哺乳類血中のトリグリセリド含量をさらに減少させる(コレステロール含量が低減されていない反芻動物乳脂肪(約280mg/100g脂肪のコレステロール含量を有する)と比較)。
【0036】
本発明の酪農製品、特に酪農脂肪の消費は(ヒトを包含する)哺乳類血中のHDLコレステロール含量を少なくとも約15%(好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%)増加させ、好ましくは非HDL血中コレステロール含量を約10%未満、より好ましくは約20%未満増加させる。
【0037】
それゆえ、本発明の酪農製品、特に酪農脂肪の消費はまた(ヒトを包含する)哺乳類血中の動脈硬化比を少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%減少させる。
【0038】
本発明はさらに本発明の酪農製品、特に酪農脂肪が強化された食品(薬剤および/または栄養補助食品)組成物に関し、この食品はコレステロール含量が低く、約12%から約90%の間(好ましくは約22%から約50%の間、より好ましくは約35%から約45%の間)(w:w、乾燥重量に対して)の脂肪(脂質)を含む、(ヒトを包含する)哺乳類血中の総コレステロール含量を減少させるためのものである(コレステロール含量が低減されていない反芻動物乳脂肪(約280mg/100g脂肪のコレステロール含量を有する)と比較)。
【0039】
好都合には、本発明の食品(薬剤および/または栄養補助食品)はスプレッド、好ましくはバターおよびスプレッダブルバター、アイスクリーム、ミルククリーム、チーズ、発酵乳、フレーバーミルクおよびクリームからなるリストより選択される酪農製品である。
【0040】
別の態様は乳脂肪が減コレステロール乳脂肪で置き換えられた処方および/または減コレステロール乳脂肪が強化された処方に関し、ここで減コレステロール乳脂肪は好ましくは本発明の減コレステロール乳脂肪であり、薬剤として使用するためのものである。
【0041】
薬剤として使用するための好ましい処方は約10%から約22%の総脂肪(w:w、乾燥重量)を含有するが、これは乳脂肪(低減されたコレステロール含量を有する)および低減されたコレステロール含量(約10mg/100g(総)脂肪から約150mg/100g(総)脂肪の間に含まれ、好ましくは約30mg/100g(総)脂肪から約150mg/100g(総)脂肪の間に含まれ、より好ましくは約30mg/100g(総)脂肪から約90mg/100g(総)脂肪の間に含まれる)を包含する。
【0042】
好都合には、本発明の酪農製品(または本発明の酪農製品を含有する処方)、特に酪農脂肪は神経疾患、好ましくはうつ病(産後うつ病を包含する)、アルツハイマー病、注意欠陥多動性障害(ADHD)および多動性などの行動障害、同様に協調運動発達障害、てんかんまたはこれらの混合疾患からなる群より選択される疾患の治療および/または予防に用いられる。
【0043】
本発明の酪農製品(または酪農製品を含有する処方)、特に酪農脂肪は炎症性疾患、好ましくは関節リウマチなどの慢性炎症性状態、皮膚障害、胃腸障害(炎症性腸疾患、クローン病)、特にごく小さい子供におけるアレルギー性過敏症、肺炎、肺/呼吸能力低下および慢性肺障害またはこれらの混合疾患からなる群より選択される疾患の治療および/または予防にさらに用いられ得る。
【0044】
本発明の酪農製品(または酪農製品を含有する処方)は心血管疾患および/または肝疾患の治療および/または予防にさらに用いられ得る。
【0045】
好ましくは、本発明による酪農製品(または処方)、特に酪農脂肪は肝疾患、より好ましくは脂肪肝の治療および/または予防に使用するためのものである。
【0046】
好ましくは、本発明による酪農製品(または処方)、特に酪農脂肪は(ヒトを包含する)哺乳類血中の動脈硬化比を少なくとも10%(好ましくは少なくとも約20%、なおより好ましくは少なくとも約30%)減少させることにより、および/または(ヒトを包含する)哺乳類血中の(長鎖)多価不飽和脂肪酸含量を増加させることにより、および/または(ヒトを包含する)哺乳類血中のトリグリセリド含量をできる限り減少させることにより、心血管疾患および/または肝疾患および/または炎症性疾患および/または神経疾患の治療および/または予防に使用するためのものである。
【0047】
本発明はまたコレステロール含量が低い反芻動物酪農製品(コレステロール含量が低い乳または乳製品)、特に酪農脂肪に関し、これは好ましくはα-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群より選択されるω3脂肪酸源が添加された(ω3脂肪酸が約0.5%(wω3:w脂肪)から約10%(wω3:w脂肪)、好ましくは約2%(wω3:w脂肪)から約8%(wω3:w脂肪)、好ましくは約6%(wω3:w脂肪)加えられた)(すなわち酪農製品脂肪の総重量%を100%として比較)、できる限り薬剤として使用するためのものである。
【0048】
より好ましくは、本発明はできる限りα-リノレン酸(ALA)であるω3脂肪酸源が添加された(加えられた)(リノール酸に対するALAの(モル)比が約0.2から約1.5の間、好ましくは約1から約1.5の間に含まれる)、できる限り薬剤として使用するための、反芻動物酪農製品(乳または乳製品)、特に酪農脂肪に関する。
【0049】
本発明の別の態様は、本発明の酪農製品(または本発明の酪農製品を含有する処方)、特に酪農脂肪を、好ましくはコレステロール含量が低減されていない(反芻動物)乳脂肪(約280mg/100g脂肪のコレステロール含量を有する)と置き換えて消費することによる、(ヒトを包含する)哺乳類血液(または血漿)中の長鎖多価不飽和(ω3)脂肪酸含量を増加させる方法に関する。
【0050】
本発明のなお別の態様は、本発明の酪農製品(または本発明の酪農製品を含有する処方)、特に酪農脂肪を、好ましくはコレステロール含量が低減されていない(反芻動物)乳脂肪(約280mg/100g脂肪のコレステロール含量を有する)と置き換えて消費することによる、(ヒトを包含する)哺乳類血中のトリグリセリド含量を低減させる方法に関する。
【0051】
本発明のさらなる態様は、本発明の酪農製品(または酪農製品を含有する処方)、特に酪農脂肪の消費により(ヒトを包含する)哺乳類血中のHDLコレステロール含量を少なくとも約15%(好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%)増加させ、好ましくはこの(ヒトを包含する)哺乳類血中の非HDLコレステロール含量を約20%未満、より好ましくは約10%未満増加させる方法に関する。
【0052】
それゆえ、本発明の方法におけるこの消費は少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、なおより好ましくは少なくとも約30%の哺乳類血中動脈硬化比の減少をもたらす。
【0053】
本発明の最後の態様は、酪農脂肪(または本発明の酪農製品)を含む(で強化された)またはこれから得られる飼料または食品組成物の消費による、(ヒトを包含する)哺乳類血中のコレステロール含量を低減させる方法に関する。この飼料または食品組成物の脂質含量は約3%(乳)から約85%(バター)の間、好ましくは約22%から約50%の間、より好ましくは約35%から約45%の間(w:w、総重量に対して算出)または約20%(乳)から約98%(バター)の間(w:w、乾燥重量に対して算出)に含まれ、コレステロール含量が低減されていない(反芻動物)乳脂肪(約280mg/100g脂肪のコレステロール含量を有する)に代わってコレステロール含量は低い。
【発明を実施するための形態】
【0054】
欧州特許EP-387708 B1の方法に記述されているように、発明者らはβ-シクロデキストリンで処理することにより牛乳のコレステロール含量を低減させた。
【0055】
より的確には、278mgのコレステロール/100g脂肪を含有する牛乳脂肪5kgは6%のβ-シクロデキストリン溶液5kgと55℃で30分間混合され、「水中油」エマルジョンが形成された。コレステロール含量が低くなった乳脂肪(25mg/100g)は連続遠心分離、水での洗浄、2回目の連続遠心分離および真空乾燥により回収された。
【0056】
発明者らはヒト個体群に適合した心血管モデルであるハムスター動物56匹を、ヒトの食餌を模倣した(12.5%および22%(乾燥重量に対する%)の脂肪含量に関して)、処理されたまたはされていない乳脂肪を含有するいくつかの処方と古典的な(乳脂肪のない)処方とで処置した。
【0057】
乳脂肪で(重度に)強化された処方と古典的な処方とを給餌された動物を比較することにより、発明者らは血中コレステロールの一貫した増加および血中トリグリセリドの増加傾向を認めた。しかしながら、HDL/非HDLコレステロール比である動脈硬化比はわずかに低下したのみであった。
【0058】
それゆえ、発明者らはコレステロールに富んだ乳脂肪(または処理していない、すなわち脂肪100gあたり約280mgのコレステロールを含有する)を(ヒトを包含する)動物に給餌すると心血管リスクおよび関連する疾患に関する血中パラメーターの大半を悪化させると結論したが、これは酪農製品の悪い栄養イメージと一致するものである。
【0059】
そのうえ、発明者らはコレステロールに富んだ乳脂肪を給餌されたハムスターの肝臓はより大きく、それらのコレステロールおよびトリグリセリド含量も同様に約6倍および約2倍増加していることを認めた。
【0060】
発明者らは本発明の減コレステロール乳脂肪(25mg/100g)を給餌されたハムスターについて同じパラメーターを並行して測定した。
【0061】
コレステロールに富んだ乳脂肪を給餌されたハムスターとの比較により、発明者らは本発明の減コレステロール脂肪を給餌された動物において血中コレステロール、トリグリセリドおよび動脈硬化比の一貫した低減を測定した。
【0062】
発明者らはそれゆえ、正常な乳脂肪(コレステロールに富んだ)を給餌された動物との比較により、心血管リスクおよび関連する疾患の測定に関係した(全ての)主要な血液パラメーターは本発明の酪農製品(減コレステロール乳脂肪)により改善されると結論する。
【0063】
古典的な処方を給餌されたハムスターと比較して、本発明の減コレステロール乳脂肪を給餌された動物において血中トリグリセリド含量は一貫した改善はされない。
【0064】
興味深いことに、(古典的処方に代えて)減コレステロール乳脂肪を動物に給餌することで「悪玉」(非HDL)コレステロールは増加せず、一方で善玉(HDL)コレステロールは一貫して増加したが、これは特にヨーロッパ、米国および日本における現代のヒトの食餌を模倣する22%脂質の処方(本発明の酪農脂肪を含む)を与えた場合に特に見られた。
【0065】
(本発明の酪農脂肪を給餌された動物の)総重量およびコレステロール含量などの肝臓パラメーターは、トリグリセリドおよびリン脂質含量がより高かったという点以外は、古典的処方(乳脂肪を含まない)を給餌されたハムスターのそれらと同様である。
【0066】
全ての場合、本発明の減コレステロール乳脂肪を給餌された動物において動脈硬化比は一貫して顕著に減少する。
【0067】
発明者らはそれゆえ、飽和脂肪に富んだ製品を動物に給餌したにも関わらず、それらの血液および肝臓パラメーターは下落せず、いくつかの側面においては改善されたと結論した。
【0068】
さらに知見を精査して、発明者らは本発明の減コレステロール乳を給餌された動物における血漿のEPAおよびDHA含量の一貫した顕著な増加を測定した。
【0069】
(ヒトを包含する)動物において長鎖ω3脂肪酸血中含量の増加へのニーズがあることから、検査した低コレステロール乳脂肪は非常に適した栄養補助食品、機能性飼料(もしくは食品)組成物または適切で効率的な医薬成分もしくは組成物であると発明者らは推論する。
【0070】
発明者らは、この減コレステロール乳脂肪は長期的に安全で、(ヒトを包含する)哺乳類の血液パラメーターのいくつかを改善すらするものであると結論する。
【0071】
発明者らはさらに他のハムスター群にω3必須脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)で強化された乳脂肪を給餌した。
【0072】
血漿中α-リノレン酸含量の強い増加を除き、発明者らは対照群と比較したそれらの血液におけるトリグリセリドおよびコレステロール含量のわずかな低減のみに注目した。
【0073】
発明者らはさらに、ω3脂肪酸であるα-リノレン酸の乳脂肪への添加とこの(ALAが強化された)乳脂肪のコレステロール含量低減との両者が協同して、測定された3つのω3脂肪酸(ALA、EPAおよびDHA)の血漿含量の一貫した増加と相まって血中コレステロールおよびトリグリセリド含量の強い低減を引き起こすことに注目した。
【0074】
それゆえ、低コレステロール乳(脂肪)を給餌された(ヒトを包含する)動物は血液および肝臓のトリグリセリド値が増加する(そして心血管リスクが高くなる)と恐れられ得るものであるにも関わらず、これらの比較データはこの恐れられた増加が必要な、目覚ましいまたは一貫したものではなく、肝臓サイズの増加に転じないことを明確に示す。より重要なことに、本発明の減コレステロール乳脂肪は哺乳類血漿中で測定されたEPAやDHAなどの長鎖ω3脂肪酸の増加を生じさせるが、これら長鎖ω3脂肪酸は健康関連の側面をいくつか改善することが知られている。
【0075】
本発明を以下の非限定的な実施例においてより詳細に説明する。
【0076】
発明者らは乳脂肪が低コレステロール乳脂肪により置き換えられた処方および/または低コレステロール乳脂肪に富んだ処方を開発した。
【0077】
典型的な処方は、約10から約22%の総脂肪(w:w、乾燥重量)と低減されたコレステロール含量(約10mg/100g(総)脂肪から約150mg/100g(総)脂肪の間に含まれ、好ましくは約30mg/100g(総)脂肪から約150mg/100g(総)脂肪の間に含まれ、より好ましくは約30mg/100g(総)脂肪から約90mg/100g(総)脂肪の間に含まれる)とを含有する。
【0078】
あるいは、当業者および/または消費者は、通常摂取される酪農製品を(本発明の減コレステロール乳脂肪を含有する)本発明の酪農製品で置き換えることにより(そしてできる限り肉などの他のコレステロールに富んだ製品の消費を減らすことにより)、かかる処方を再現することができる。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
本発明者らはハムスター56匹を8群に分けた。
- G1群:冬期乳由来の脂肪を給餌されたハムスター。
-G2群:さらにコレステロールが枯渇された冬期乳由来の脂肪(すなわち低コレステロール乳脂肪)を給餌されたハムスター。
- G3群:春期乳由来の脂肪を給餌されたハムスター。
- G4群:さらにALAが強化された春期乳由来の脂肪を給餌されたハムスター。
- G5群:さらにALAが強度に強化された春期乳由来の脂肪を給餌されたハムスター。
-G6群:さらにコレステロールが枯渇され、ALAが強化された春期乳由来の脂肪を給餌されたハムスター。
-G7群:さらにコレステロールが枯渇され、ALAが強度に強化された春期乳由来の脂肪を給餌されたハムスター。
- G8群:古典的飼料を受けた対照のハムスター。
【0080】
コレステロールを枯渇させるため、発明者らは乳脂肪をβ-シクロデキストリンと混合した。コレステロール含量は約90%低減された。
【0081】
ハムスターは12.5%の脂質を有する第一の処方(さらに下のTable 1(表1)に特徴を述べた)を5週間与えられた。
【0082】
【表1】

【0083】
5週後、絶食動物に対する心臓穿刺により血液サンプルが収集された。
【0084】
その後、ハムスターは22%の脂質を有する処方(さらに下のTable 2(表2)に特徴を述べた)を12週間与えられた。
【0085】
【表2】

【0086】
注:Tables 1および2(表1および2)において、ミネラルとビタミンは混合物として提供される。標準混合物はミネラルおよびビタミンの推奨1日所要量を提供する。LAはリノール酸(ω6必須脂肪酸)を表す。
【0087】
実験開始から15週後(22%脂質処方が与えられてから10週後)、絶食動物に対する心臓穿刺により2回目の血液サンプルが収集された。
【0088】
実験開始から17週後(22%脂質処方が与えられてから12週後)、自由摂餌で保持された動物に対する心臓穿刺により3回目の血液サンプルが収集された。
【0089】
動物はその後、器官を分析するために屠殺された。
【0090】
血漿パラメーターはさらにTable 3(表3)に表現される。
【0091】
【表3】

【0092】
非HDL/HDL比は非HDLコレステロール値をHDLコレステロール値で割った値として測定される動脈硬化比を表す。高い動脈硬化比は心血管発作のリスクが高いことを表現する。
【0093】
総コレステロールのほか、コレステロールおよび飽和脂肪酸の摂取量、測定された血中動脈硬化比は心血管疾患のリスクを予測する独立した基準である。
【0094】
【表4】

【0095】
Table 4(表4)に表現されるように、低コレステロール乳脂肪処方を受けた群(G2およびG7)の肝臓重量およびそのコレステロール含量は対照群(G8)の値に近いか、または対照のG1、G3群に対しておよびG8のいくつかの側面について改善すらされたことは明確である。
【0096】
加えて、発明者らはG1からG7における全てのハムスターについて血漿の脂肪酸値を測定した。
【0097】
【表5】

【0098】
Table 5(表5)に実証されるように、動物に与えられる脂肪中のコレステロールを低減させると血漿中の多価不飽和脂肪酸含量の増加を生じるが、これはリン脂質形態の脂肪酸については一価不飽和脂肪酸含量を消費し、トリグリセリド形態の脂肪酸については飽和および一価不飽和脂肪酸の両方を消費したものである。
【0099】
処方にALAを加えることで血漿の多価不飽和脂肪酸が増加を生じたが、EPAおよびDHA値は比較的増加せず、G2において得られたより大きな値に達することすらできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステロール含量が10mg/100g脂肪から150mg/100g脂肪の間に含まれる、薬剤としての、コレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項2】
コレステロール含量が約30mg/100g脂肪から約150mg/100g脂肪の間に含まれる、請求項1に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項3】
コレステロール含量が約30mg/100g脂肪から約90mg/100g脂肪の間に含まれる、請求項1に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項4】
約60%から約70%の飽和脂肪(w飽和脂肪:w総脂肪)を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項5】
乳、無水の乳脂肪、スプレッド、アイスクリーム、ミルククリーム、チーズ、発酵乳、フレーバーミルクおよびクリームからなる群より選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項6】
スプレッドがバターまたはスプレッダブルバターである、請求項5に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項7】
心血管疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項8】
炎症性疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項9】
神経疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項10】
肝疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項11】
肝疾患が脂肪肝である、請求項10に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項12】
動脈硬化比の減少に使用するための、請求項1から11のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項13】
哺乳類血中の多価不飽和脂肪酸含量の増加に使用するための、請求項1から12のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項14】
長鎖多価不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群より選択されるω3脂肪酸である、請求項13に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項15】
哺乳類血中のトリグリセリド含量の減少に使用するための、請求項1から14のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項16】
(ヒトを包含する)哺乳類血中の動脈硬化比を少なくとも10%減少させることにより、および/または(ヒトを包含する)哺乳類血中の(長鎖)多価不飽和脂肪酸含量を増加させることにより、および/または(ヒトを包含する)哺乳類血中のトリグリセリド含量を減少させることにより、心血管疾患および/または炎症性疾患および/または肝疾患および/または神経疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項1から15のいずれか一項に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項17】
コレステロール含量が10mg/100g脂肪から150mg/100g脂肪の間に含まれる、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群より選択されるω3脂肪酸源を添加した、コレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項18】
リノール酸に対するω3脂肪酸の(モル)比が約0.2から約1.5である、請求項17に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項19】
リノール酸に対するω3脂肪酸の(モル)比が約1から約1.5である、請求項17に記載のコレステロールが低減された反芻動物酪農製品。
【請求項20】
コレステロール含量が10mg/100g脂肪から150mg/100g脂肪の間に含まれる反芻動物酪農製品の消費により哺乳類血中の長鎖多価不飽和(ω3)脂肪酸含量を増加させる方法。
【請求項21】
コレステロール含量が10mg/100g脂肪から150mg/100g脂肪の間に含まれる反芻動物酪農製品の消費により哺乳類血中のトリグリセリド含量を低減させる方法。
【請求項22】
コレステロール含量が10mg/100g脂肪から150mg/100g脂肪の間に含まれる反芻動物酪農製品の消費により哺乳類血中の動脈硬化比を少なくとも約10%減少させる方法。

【公表番号】特表2012−524533(P2012−524533A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506513(P2012−506513)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055424
【国際公開番号】WO2010/122138
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(509017479)
【Fターム(参考)】