薬品注入制御方法及び薬品注入制御装置
【課題】必要以上の薬品の注入量を抑え且つ原水の水質変動に応じた薬品の注入を行う。
【解決手段】薬品注入制御装置1は予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転による処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正して最適薬品注入率を算出する。次いで、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い当該水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する。次いで、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する。次いで、前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転による処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正して薬品注入率を新たに算出し、これを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の演算に供する。
【解決手段】薬品注入制御装置1は予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転による処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正して最適薬品注入率を算出する。次いで、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い当該水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する。次いで、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する。次いで、前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転による処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正して薬品注入率を新たに算出し、これを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の演算に供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浄水処理システムにおける薬品注入制御方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道施設では水質基準に適合した水道水を安定して給水できるようにするため原水水質、浄水水質の管理目標、浄水施設の規模、運転制御及び維持管理技術の管理水準等を考慮して様々な方式が選択、組み合わされた浄水技術が適用されている。例えば、消毒のみの方式、緩速ろ過方式、急速ろ過方式、膜ろ過方式から選択され、必要に応じて高度浄水処理等が組み合わされている(非特許文献1)。
【0003】
今日においては高濁度にも耐えられること、原水のある程度以上の汚染にも耐えられることや広大な用地が必要でなく効率的なこと等から水道の約75%(水量比)が急速ろ過方式を採用している。
【0004】
急速ろ過方式を採用した浄水場は、一般的に凝集剤を注入するとともに急速攪拌を実施する混和池と、凝集体(フロック)を成長させるフロック形成池と、成長したフロックを沈殿除去するための沈殿池と、沈殿しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池とを備える。
【0005】
浄水処理では、凝集剤(硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、高分子凝集剤、鉄系凝集剤)以外に粉末活性炭や消毒剤(液化塩素、次亜塩素酸ナトリウム)などの薬品が用いられている。また、浄水場では原水、浄水及び給水栓水の水質状況を監視しながら適正な薬品処理を行っている。
【0006】
そして、原水の水質に何らかの異常が生じた場合、これらの浄水用薬品の注入を正常時と比較して強化する対策が採られている。例えば、原水においてマンガンなどの還元性の物質、アンモニア性窒素、有機物等が高濃度となった場合、塩素注入率を通常よりも高くするような対応が採られている。また、合成洗剤等の濃度が高くなることや臭気若しくはフェノール類による汚染が察知された場合、通常、粉末活性炭処理が行われている。このような場合には粉末活性炭の注入に加えて塩素処理や凝集沈殿処理も強化する必要がある。
【0007】
急速ろ過方式による浄水処理の重要なポイントは原水の水質に応じて凝集剤の注入率を適正な値に制御し、沈降性のよいフロックを形成することである。不適切な注入率によって凝集処理を行った場合には沈殿池からのフロックのキャリーオーバーや凝集不良により、ろ過池の損失水頭(ろ坑)の上昇、洗浄頻度の上昇、微細粒子のろ過池からの漏出等の問題が生じる。
【0008】
また、有機物やカビ臭等の溶解性成分の除去を目的とする活性炭処理では活性炭注入方式と膜ろ過方式とを組み合わせた方式もとり得る。さらに、膜の種類や透過流束等の条件によっては、凝集処理が必要な場合があるため凝集剤をはじめとする薬品注入処理を組み入れた処理フローも採られることも多くなっている。このような膜ろ過方式ではろ過性の改善及びそのままではファウリング物質となり得る微細粒子を粗大化させて目詰まりを防止するために被ろ過水に対して凝集剤が添加されている。
【0009】
ところで、従来の薬品注入制御方法ではフィードフォワード制御(以下、FF制御)とフィードバック制御(以下、FB制御)との組み合わせが実行されている。
【0010】
適正な凝集剤注入率は原水の濁度、アルカリ度、pH、水温などによって変化し、水源水質ごとに異なるので、原水濁度のみを指標として一義的に決定することはできない。そのため、従来から浄水場では次の方法で凝集状況の判定や凝集剤注入率の決定またはその制御が行われている。
【0011】
例えば、原水の濁度やpH、アルカリ度、水温等の水質をパラメータとして、適正な凝集剤注入率との関係を示した注入率演算式に基づきFF制御するものが挙げられる。この演算式はジャーテストや実施設の沈殿水濁度等に基づく経験的な方法で導き出したものである。そして、この制御方式の発展型として、沈殿水濁度の測定値に基づくFB制御との組合せや、オペレータによるジャーテストの結果や実施施設の運用実績に近づけるようにファジーやニューロによるAI制御が例示される。
【0012】
上記のFF制御またはFB制御若しくはこれらの組合せを開示した先行技術文献としては例えば特許文献1〜3が挙げられる。
【0013】
特許文献1に開示された薬品注入制御法では原水中の粒子の集塊化開始時間に基づき薬品の注入率をリアルタイムで制御している。
【0014】
特許文献2に開示された凝集剤添加制御法では膜分離手段の膜ろ過水の紫外線吸光度の値に基づき凝集剤添加量を制御することにより凝集剤の過剰添加を防止している。
【0015】
特許文献3に開示された凝集剤注入制御法では重回帰分析により凝集剤注入率、前アルカリ剤注入率、後アルカリ剤注入率の最適値を演算し、これらの注入率に基づき凝集剤やアルカリ剤の注入量を制御している。
【0016】
一方、有機物やカビ臭等の溶解性成分の除去を目的とする活性炭の注入制御においては目標水質が得られるように活性炭の注入率が決定されている。しかし、トリハロメタン前駆物質(以下、THMFP)やカビ臭は測定に非常に時間がかかるため、現場での測定結果に基づいた活性炭注入制御を行うことは困難である。
【0017】
そこで、除去対象物質を統計的手法で予測することや代替指標などによって活性炭注入制御を行う方法が提案されている。例えば、THMFPの生成量が原水の水温や導電率等で大きく変化することから除去対象物質を統計的手法で予測することで当該生成量に対応した活性炭の注入量を決定する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】水道施設設計指針改定委員会著,「水道施設設計指針2000」,社団法人日本水道協会発行,2000年3月31日,pp.146−154
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2011−11107号公報
【特許文献2】特開平8−117747号公報
【特許文献3】特開2005−329359号公報
【特許文献4】特開2005−230629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、従来の制御技術では以下の問題点がある。
【0021】
原水の水質の時間的な変動が大きくなると、FB制御に時間遅れが生じるため、薬品注入率の十分な追従が困難となっている。そのため、原水の水質の変動に応じていかに適切に薬品注入率を設定するかが重要となる。
【0022】
また、実際の薬品注入制御では原水の水質に変動があっても目標処理水質を満たすように薬品注入量に余裕をもたせた薬品注入率により運転している。しかも、原水水質の変動時には余裕度をさらに高めることにより目標水質を満たす必要がある。しかしながら、このような薬品注入制御方法では必要以上の薬品量で注入するため薬品コストの上昇につながっている。特に原水水質の変動時にはその影響が顕著となっている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
そこで、本発明の薬品注入制御方法は、浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御方法であって、予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する過程と、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する過程と、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する過程と、前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の演算に供する過程とを有する。
【0024】
また、本発明の薬品注入制御装置は、浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御装置であって、予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する最適薬品注入率演算手段と、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する重回帰分析演算手段と、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する基本薬品注入率演算手段と、前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの制御によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率演算手段に供する薬品注入率演算手段とを備える。
【発明の効果】
【0025】
以上の発明によれば必要以上の薬品の注入量を抑え且つ原水の水質変動に応じた薬品の注入を行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る薬品注入制御装置の概略構成図。
【図2】本発明に係る薬品注入制御の手順を示したフロー図。
【図3】本発明の実施形態1に係る浄水処理システムの構成図。
【図4】UV吸光度と色度との関係を示したグラフ。
【図5】最適凝集剤注入率と凝集剤注入率との関係を示したグラフ。
【図6】最適凝集剤注入率と基本凝集剤注入率との関係を示したグラフ。
【図7】本発明の実施形態2に係る浄水処理システムの構成図。
【図8】本発明の実施形態3に係る浄水処理システムの構成図。
【図9】本発明の実施形態4に係る浄水処理システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[概要]
図1に示された発明の実施形態に係る薬品注入制御装置1は浄水処理システムの原水及び処理水の水質指標の測定信号に基づき当該原水に対する薬品注入率を算出して薬品注入ポンプの制御因子として出力する。
【0028】
具体的には、先ず、予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する。
【0029】
次いで、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導き出す。
【0030】
次いで、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する。
【0031】
次いで、前記基本薬品注入率に基づく前記薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値に基づき前記基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出する。そして、この薬品注入率を当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の算出に供する。前記制御因子は前記薬品注入ポンプの制御信号として前記浄水処理システムに供される。
【0032】
以上の過程が繰り返し実行され、前記最適薬品注入率と前記原水の水質指標は過去の重回帰分析データに追加される。また、このデータに基づく重回帰分析が周期的に実行され、原水の水質に対して目標処理水質を達成するための基本薬品注入率の演算式が常時更新される。これにより薬品の注入量を抑えた薬品注入率の制御運転が可能となり、また、原水水質の変動に応じて適切な薬品注入率を設定できる。
【0033】
原水の水質は、その水源がたとえ同一河川であっても、取水地点、時期が異なれば変わり、特に降雨時、洪水時、渇水時、融雪時等には著しい変動が現れる。そのため、水質指標は各浄水施設に供される原水の水質の特性に応じて周知の水質指標が適宜に選択される。
【0034】
前記原水及び処理水の水質指標として、例えば、水温、濁度、UV吸光度、色度、pH値、アルカリ度、過マンガン酸カリウム消費量、TOC(総有機炭素量)から原水の特性に応じて適宜に複数選択されたものが挙げられる。
【0035】
原水の水質指標として、好ましくはUV吸光度、色度、濁度、水温が選択され、また、処理水の水質指標として好ましくは色度、または濁度と色度が選択される。
【0036】
さらに、原水及び処理水の水質指標の測定点は浄水施設において各水質の特性把握に適する箇所から適宜選択される。
【0037】
[装置の構成]
薬品注入制御装置1は演算制御部2と信号入出力部3とデータベース部4とを備える。
【0038】
演算制御部2は最適薬品注入率演算部21,重回帰分析演算部22,基本薬品注入率演算部23,薬品注入率演算部24を備える。
【0039】
最適薬品注入率演算部21は予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する。
【0040】
重回帰分析演算部22は前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する。
【0041】
基本薬品注入率演算部23は原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する。原水の水質については測定精度や測定頻度等の点で代替が可能であるならば水質測定器の計測値を利用することが好ましい。水質計測器の計測値を利用してデータ更新の周期を短期化することで水質変動時のデータもより多く収集可能となるので、より高精度の重回帰分析が可能となる。
【0042】
薬品注入率演算部24は前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの制御によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出する。そして、この薬品注入率を当該薬品注入ポンプの制御信号(制御因子)として出力する一方で最適薬品注入率演算部21に供する。
【0043】
信号入出力部3は浄水処理システムの水質測定装置から原水及び処理水の水質指標の測定信号の入力を受ける。また、演算制御部2から供された基本薬品注入率や薬品注入率の値を薬品注入ポンプの制御信号として出力する。
【0044】
データベース部4は信号入出力部3から供された原水及び処理水の水質指標の測定値を保存する。また、演算制御部2で算出された最適薬品注入率を前記水質指標の測定信号と対応づけて保存する。さらに、算出した基本凝集剤注入率の演算式や各種の設定値も保存する。データベース部4に蓄積された薬品注入率や水質データ等は一定時間経過したことなどで薬品注入率の制御に支障がない程度に削除も可能となっている。
【0045】
[薬品注入制御の過程]
図2に示されたフローを参照しながら薬品注入制御の過程について説明する。
【0046】
S1:薬品注入率演算部24は原水の水質に基づくFF制御と処理水の水質に基づくFB制御とにより薬品注入率DPを設定する。この薬品注入率DPは浄水処理システムの薬品注入ポンプの制御信号として信号入出力部3から出力される。前記薬品注入ポンプはこの薬品注入率Dpで薬品を原水に注入する。
【0047】
薬品注入率DPは原水の水質測定装置で計測された原水の水質指標値を予め設定(S4で設定)された基本薬品注入率演算式に代入して算出された基本薬品注入率DFFをその後の処理水の水質測定装置で計測された処理水の水質指標値に基づく薬品注入率補正DFBにより算出される。尚、薬品注入制御時に原水水質計測器の計測値が欠損などにより基本薬品注入率DFFが算出されていない場合には欠損値の想定値及び手分析値を代用すればよい。
【0048】
薬品注入率DPは以下の式で表せる。
【0049】
薬品注入率DP=基本薬品注入率DFF(原水の水質に基づくFF制御)+薬品注入率補正DFB(処理水の水質に基づくFB制御)
薬品注入率補正DFBは浄水処理システムの処理水質計測器で計測された処理水質の値が目標処理水質の値以下となるように薬品注入率DPの値を補正するための注入率の補正値である。薬品注入制御装置1において薬品注入率補正DFBは基本薬品注入率DFFのデータ更新と同期してもよいが処理水質によるFB制御は基本薬品注入率DFFのデータ更新よりも短周期的に行った方が実際の処理水質と目標処理水質との偏差を小さく維持できる。また、原水の水質変動に伴う処理水質の変動に対して追随性の高い制御が可能となる。薬品注入制御装置1においては薬品注入率補正値DFBに係る設定(値)は更新されるまで更新前の設定(値)を保持される。
【0050】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた処理水の水質と当該処理水の目標水質との偏差に相当する薬品の過剰注入率分ΔD1を薬品注入率DPから減じて最適薬品注入率D1を算出する。
【0051】
最適薬品注入率D1は薬品注入率DPで同浄水処理システムの処理水水質計測器で計測された処理水質と目標処理水質との偏差から目標処理水質を満たすことを条件とした場合に過剰となる注入率分を減じて算出された注入率である。
【0052】
最適薬品注入率D1は以下の式のように薬品注入率DPから薬品の過剰注入分ΔD1を減じた注入率となる。
【0053】
D1=DP−ΔD1
但し、薬品注入率DPが不足する場合はΔD1が負の値となる。
【0054】
S3:前記算出された最適薬品注入率D1の値はこのときの原水の水質の値と共にデータベース部4内に格納された最適薬品注入率D1と原水の水質の母集団に追加される。
【0055】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適薬品注入率D1を目標変数とすると共に原水の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定する。これにより導出された重回帰式が原水の水質指標に対応した基本薬品注入率演算式と定める。
【0056】
S5:基本薬品注入率演算部23は原水の水質測定装置で計測された原水の水質指標の値をS4で導出された基本薬品注入率DFFの演算式に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率DFFを算出する(FF制御)。基本薬品注入率DFFは薬品注入ポンプの制御信号として信号入出力部3から出力される。前記薬品注入ポンプはこの基本薬品注入率DFFで薬品を原水に注入する。
【0057】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本薬品注入率DFFに基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該注入率DFFを補正して薬品注入率DPを新たに算出する(FB制御)。そして、この薬品注入率DPを薬品注入ポンプの制御因子として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0058】
以上の基本薬品注入率DFFの更新は予め設定された所定の周期で実行される。そして、この更新処理に供される最適薬品注入率D1と原水水質計測器の計測値(または水質分析結果)は所定の周期でデータベース部4に保存される。上記所定の周期は任意に設定される。例えば、原水の水質の時間変動の大きさに応じて目的処理水質を達成し得るように手動や自動により変更可能とし、原水の水質の時間変動が大きくなる場合には所定の周期は短周期となる。
【0059】
また、S4での基本薬品注入率DFFの演算式を導き出す過程では、前記原水の水質指標の値の範囲を複数の範囲に分割し、この範囲毎に前記重回帰分析を実行することにより当該各範囲に対応した演算式を導出するとよい。前記水質指標の各範囲に対応した演算精度の高い基本薬品注入率DFFの演算式を得ることができる。
【0060】
そして、S5での基本薬品注入率DFFを算出する過程では、前記原水の水質指標の測定値が属する水質指標の値の範囲に対応した演算式による演算によって当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率DFFを算出するとよい。原水の水質に対応したより精度の高い基本薬品注入率DFFを得ることができる。
【0061】
また、複数種の薬品を用いた場合、一つの薬品の基本薬品注入率FFの算出値が閾値を超えた時点で当該閾値の薬品注入率を当該薬品の薬品注入ポンプの制御因子として出力すると共に他の薬品について手順S2〜S6,S1の注入制御過程に移行させるとよい。これにより前記一つの薬品の過剰注入を抑制できる。
【0062】
そして、当該一つの薬品の基本薬品注入率の算出値が閾値以下となった時点で前記他の薬品注入制御過程から当該一つの薬品についての手順S2〜S6,S1の注入制御過程に移行させるとよい。これにより前記他の薬品の過剰注入を抑制できる。
【0063】
以下に本発明に係る薬品注入制御装置1のより具体的な実施形態の一例について説明する。尚、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく特許請求の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0064】
[実施形態1]
図3に例示された本実施形態の浄水処理システムは膜ろ過方式を有する浄水処理システムにおける凝集剤の注入制御手段として薬品注入制御装置1を適用している。
【0065】
膜ろ過方式では膜破断がない限り、濁度の対数除去率が5〜7logの処理水質が得られるので処理水の濁度は問題とはならない。そのため、膜ろ過水(処理水)の水質指標は色度を採用した。本実施形態の方式の浄水場では原水の色度は原水の濁度以上に凝集剤注入率に大きく影響した。さらに、原水の水温は生物活性が色度の成分構成(分子量)に影響するものと考察され、間接的に凝集剤注入率に影響した。したがって、重回帰分析のための説明変数のパラメータとして濁度,UV吸光度を基本パラメータ、水温を補助パラメータとして選択されている。
【0066】
色度を測定する方法としては、色度標準液による標準列との比較による比色法と、波長390nmを使用した吸光光度法の二つがある。そして、吸光光度法では、濁質分のみに感じる別の波長(660nm)を使い濁度を同時に測定し濁度補償する。
【0067】
また、UV吸光度は、水中に存在する有機汚濁物質は紫外線を吸収することから通常254nmの波長で吸光度を測定して測定水の有機汚濁物質の濃度を求める場合に利用されている。
【0068】
本実施形態では色度をUV吸光度にて代替したが、その根拠となる膜ろ過工程を有す水処理システムで行った試験で測定した吸光光度法により測定した色度の値とUV吸光度の値との関係を図4に示した。図示されたように色度とUV吸光度とに高い相関があるので色度の代替指標としてUV吸光度を採用できる。
【0069】
さらに、色度の代替指標としてUV吸光度を採用することの理由として浄水場の原水の有機物指標として一般的にUV吸光度が採用される事例が多いからである。
【0070】
尚、浄水場への薬品注入制御装置1を適用する場合には色度計が設置されており原水の色度の測定が可能であればこの色度計を採用すればよい。
【0071】
(最適薬品注入率D1の有効性)
本実施形態の浄水処理システムにおいて、従来方式による原水の水質に基づいた注入率演算式による凝集剤注入率Dgp’で運転した際の実際の処理水質と目標処理水質との偏差から目的処理水質をクリアできる条件として注入率の過剰分及び不足分を算出した。そして、この過剰分及び不足分に基づき従来の凝集剤注入率制御方式における最適凝集剤注入率Dg1’を算出した。最適凝集剤注入率Dg1’は凝集剤注入率Dgp’に対して膜ろ過水の色度が1.0度未満となるようにPACの凝集剤注入率を補正したものである。
【0072】
膜処理実験プラントで行った凝集剤注入試験における最適凝集剤注入率Dg1’と膜処理実験プラントの凝集剤注入率Dgp’との関係を図5に示した。凝集剤注入率Dgp’のデータ収集のタイミングは一日に一回且つ定刻(水質分析時刻9:30)とし、収集の周期は概ね24時間とした。
【0073】
図5に示された傾き1の関係線の下側領域は凝集剤注入率Dgp’が最適凝集剤注入率Dg1’に比べてマイナス補正であったデータ領域を示す。このデータ領域に大部分のデータがプロットされていることから、実験プラントにおいて設定した凝集剤注入率Dgp’は最適凝集剤注入率Dg1’よりも概ね低い注入率であり、凝集剤注入量が不足傾向にあったことを表している。
【0074】
そのため、原水の水質に基づきFF制御により凝集剤注入率Dgp’で運転した従来方式による凝集剤注入制御試験では目標処理水質である膜ろ過処理水の色度1.0度未満の条件を達成していないことが多い結果となった。
【0075】
以上のことから最適薬品注入率D1を算出することで実際のプラントでの薬品注入率の過不足が的確に評価できることが分かる。したがって、原水や処理水の水質変化に対応するように薬品注入率を変動させても所定の周期で薬品注入制御結果から最適薬品注入率を算出し、この算出結果に基づき原水の水質に対応した薬品注入率を更新していくことで薬品注入量を抑えた薬品注入制御が実現する。
【0076】
(実施形態1の浄水処理システムの構成)
本実施形態の浄水処理システムは図3に示されたように原水槽11、除Mn塔12、凝集剤タンク13、緩速攪拌槽14、沈殿槽15、膜原水槽16、膜浸漬槽17、膜ろ過水槽18、排水槽19を備えた設備において薬品注入制御装置1が具備されている。原水槽11はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113を具備している。凝集剤タンク13は凝集剤を貯留している。凝集剤としてはPAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸バンド、高分子凝集剤、鉄系凝集剤等が例示される。また、凝集剤タンク13は除Mn塔12から緩速攪拌槽14に供される除Mn処理水に凝集剤を注入するための凝集剤注入ポンプP1を備えている。凝集剤注入ポンプP1は薬品注入制御装置1から供された制御信号に基づき動作する。膜浸漬槽17は膜原水槽16から供された沈殿処理水を固液分離処理するための膜分離ユニットを備えている。膜ろ過水槽18は膜浸漬槽17から供された処理水の色度を計測するための色度計181を備えている。
【0077】
UV吸光度計111、濁度計112、水温計113、色度計181は周知の測定方式を採用している。UV吸光度計111は例えば原水を砂ろ過処理した後に10mmセルにおけるUV吸光度を計測する方式を採る。濁度計112は例えば表面散乱方式を採る。水温計113は例えば測温抵抗体を用いた方式を採る。
【0078】
本実施形態の薬品注入制御装置1はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113、色度計181から各測定信号の入力を受けて凝集剤注入ポンプP1に対する制御信号を出力する。
【0079】
(実施形態1の薬注制御手順)
本実施形態の薬品注入制御装置1は前述の図2に示された手順で薬品注入制御を行う。
【0080】
S1:薬品注入率演算部21は、UV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水のUV吸光度、濁度、水温の値を予め設定された基本凝集剤注入率演算式(後述の演算式(1))に代入して基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。この基本凝集剤注入率DgFFに基づき凝集剤注入ポンプP1が動作制御される。その後、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本凝集剤注入率DgFFを凝集剤注入率DgPに補正する(FB制御)。この凝集剤注入率DgPは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの凝集剤注入率Dgpで凝集剤を緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0081】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該処理水の色度の目標値との偏差に相当する凝集剤の過剰注入率分ΔD1を凝集剤注入率DgPから減じて最適凝集剤注入率Dg1を算出する。
【0082】
S3:前記算出された最適凝集剤注入率Dg1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適凝集剤注入率Dg1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0083】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適凝集剤注入率Dg1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、濁度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α、β、γ),定数項(δ)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、濁度、水温に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する基本凝集剤注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0084】
基本凝集剤注入率DgFF(mg/l)=α×原水UV吸光度(‐)+β×原水濁度(度)+γ×原水水温(℃)+δ …(1)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水のUV吸光度、濁度、水温の値を演算式(1)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。基本凝集剤注入率DgFFは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの基本凝集剤注入率DgFFで凝集剤を緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0085】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本凝集剤注入率DgFFでの凝集剤注入ポンプP1の運転によって得られた処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DgFFを補正して凝集剤注入率DgPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本凝集剤注入率DgFFを補正して新たな凝集剤注入率DgPを算出する。そして、この凝集剤注入率DgPを凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0086】
以上のように演算式(1)による演算により基本凝集剤注入率DgFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適凝集剤注入率Dg1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(1)が更新されるので、基本凝集剤注入率DgFFの演算精度が向上し、信頼性の高い凝集剤注入制御が実現する。さらに、基本凝集剤注入率DgFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0087】
(実施例)
実施形態1の実施例として浄水場の原水を用いて図3の浄水処理システムに準じた膜処理実験プラントにて約1年間の凝集剤注入試験により評価した。凝集剤はポリ塩化アルミニウムを用いた。本実施例におけるデータ更新は24時間の周期すなわち1日1回且つ定刻(水質分析時刻9:30)に行った。本実施例で算出された最適凝集剤注入率Dg1と基本凝集剤注入率DgFFとの比較を示したグラフを図6に示した。図示されたようにデータのプロットがy=xの直線上の近傍に位置しており、両者に相関性が認められる。また、その誤差部分はS6,S1にて基本凝集剤注入率DgFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部4に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0088】
上記の実施例では1日1回測定した水質計測データにより演算評価したが、この演算の周期は一定周期で行うかまたは原水の水質変化が所定の時間当たり変化幅値を超えた場合、膜ろ過処理水の水質変化が所定の時間当たりの変化幅を超えた場合などとしてもよい。
【0089】
また、最適凝集剤注入率Dg1を目的変数とする重回帰分析を行う際に説明変数であるUV吸光度、濁度、水温の計測値の範囲を季節変動等の要因を踏まえて複数に場合分けすれば、前記変動の場合等であってもさらなる凝集剤注入制御の信頼性の向上が可能となる。
【0090】
さらに、水質の時間変化率に対応して演算周期を変えることにより、原水の水質が急に変動する場合などであっても凝集剤の注入制御を追従させることが可能となる。
【0091】
尚、上記の実施例ではポリ塩化アルミニウムを用いた場合の事例であるが、硫酸バンド、高分子凝集剤、鉄系凝集剤を用いた場合であっても同様の結果が得られる。
【0092】
[実施形態2]
図7に例示された実施形態2の浄水処理システムは膜ろ過方式を有する浄水処理システムにおける粉末活性炭の注入制御手段として薬品注入制御装置1を適用している。
【0093】
本実施形態の浄水処理システムは濁度計112を備えていないこと及び凝集剤タンク13の代わりに活性炭スラリータンク31を備えていること以外は実施形態1の浄水処理システムと同じ構成となっている。活性炭スラリータンク31は除Mn塔12から緩速攪拌槽14に供される除Mn処理水に活性炭スラリーを注入するためのスラリー注入ポンプP2を備えている。スラリー注入ポンプP2は薬品注入制御装置1から供された制御信号に基づき動作する。
【0094】
活性炭の注入制御においては、最適活性炭注入率を目的変数とした重回帰分析を行うにあたり、活性炭による処理対象は溶解性有機物の除去であり濁度は説明変数にならないので色度、水温を説明変数としている。尚、図示された本実施形態の浄水処理システムでは図4に示された特性を根拠に原水の色度の代替としてUV吸光度を適用している。
【0095】
図2、図7を参照しながら本実施形態に係る薬品注入制御手順について説明する。
【0096】
S1:薬品注入率演算部24は、UV吸光度計111、水温計113で計測された原水のUV吸光度、水温の値を予め設定された基本活性炭注入率演算式(後述の演算式(2))に代入して基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。この基本活性炭注入率DkFFに基づきスラリー注入ポンプP2が動作制御される。次いで、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本活性炭注入率DkFFを活性炭注入率DkPに補正する(FB制御)。この活性炭注入率DkPはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの活性炭注入率Dkpで活性炭スラリーを緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0097】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該処理水の色度の目標値との偏差に相当する活性炭スラリーの過剰注入率分ΔD1を活性炭注入率DkPから減じて最適活性炭注入率Dk1を算出する。
【0098】
S3:前記算出された最適活性炭注入率Dk1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適活性炭注入率Dk1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0099】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適活性炭注入率Dk1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α’、β’),定数項(γ’)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、水温に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する基本活性炭注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0100】
基本活性炭注入率DkFF(mg/l)=α’×原水UV吸光度(‐)+β’×原水水温(℃)+γ’ …(2)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、水温計113で計測された原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値を演算式(2)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。基本活性炭注入率DkFFはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの基本活性炭注入率DkFFで活性炭スラリーを緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0101】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本活性炭注入率DkFFでのスラリーポンプP2の運転によって得られた処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DkFFを補正して活性炭注入率DkPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本活性炭注入率DkFFを補正して新たな活性炭注入率DkPを算出する。そして、この活性炭注入率DkPをスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0102】
以上のように演算式(2)による演算により基本活性炭注入率DkFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適活性炭注入率Dk1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(2)が更新されるので、基本活性炭注入率DkFFの演算精度が向上し、信頼性の高い活性炭注入制御が実現する。さらに、基本活性注入率DkFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0103】
実施形態2においても上記の手順で活性炭注入率制御試験を行った場合、最適活性炭注入率Dk1と基本活性炭率DkFFとの関係は当該実施形態と同様に両者の相関性と誤差部分を有すると推定できる。そして、その誤差部分は基本活性炭注入率DkFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部 に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0104】
[実施形態3]
図8に例示された実施形態3の浄水処理システムは急速ろ過方式を有する浄水処理システムにおける凝集剤の注入制御手段として注入制御装置1を適用している。
【0105】
本実施形態の浄水処理システムは着水井41、凝集剤タンク42、混和池43、フロック形成池44、沈殿池45、急速ろ過池46、浄水池47を備えた設備において薬品注入制御装置1が具備されている。着水井41はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113を具備している。凝集剤タンク42は凝集剤を貯留している。凝集剤としては実施形態1と同様に原水の特性に応じてポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド、高分子凝集剤、鉄系凝集剤等が適宜に選択される。凝集剤タンク42は混和池43内の原水に凝集剤を注入するための凝集剤注入ポンプP1を備えている。急速ろ過池46は沈殿池45から供された沈殿処理水の色度を計測するための濁度計461を備えている。また、急速ろ過池46は当該池46から排出された処理水の色度を計測するための色度計181を備えている。濁度計461は実施形態1の濁度計112と同仕様のものが適用されている。
【0106】
本実施形態の薬品注入制御装置1はUV吸光度計111、濁度計112,461、水温計113、色度計181から各測定信号の入力を受けて凝集剤注入ポンプP1に対する制御信号を出力する。
【0107】
図2、図8を参照しながら本実施形態に係る薬品注入制御手順について説明する。
【0108】
S1:薬品注入率演算部24は、UV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水のUV吸光度、濁度、水温の値を予め設定された基本凝集剤注入率演算式(後述の演算式(3))に代入して基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。この基本凝集剤注入率DgFFに基づき凝集剤注入ポンプP1が動作制御される。次いで、濁度計461で計測された沈殿処理水の濁度の値及び色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本凝集剤注入率DgFFを凝集剤注入率DgPに補正する(FB制御)。この凝集剤注入率DgPは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの凝集剤注入率Dgpで凝集剤を混和池43の原水に注入する。尚、演算制御部2にて予め設定保持される処理水の目標濁度値は急速ろ過方式において沈殿処理水の濁度を0.5度以下程度に管理する必要があるので例えば0.5度に設定される。
【0109】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた沈殿処理水の濁度の値(濁度計461の測定値)及びろ過処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差に相当する凝集剤の過剰注入率分ΔD1を凝集剤注入率DgPから減じて最適凝集剤注入率Dg1を算出する。
【0110】
S3:前記算出された最適凝集剤注入率Dg1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適凝集剤注入率Dg1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0111】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適凝集剤注入率Dg1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、濁度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α1、β1、γ1)及び定数項(δ1)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、濁度、水温に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する基本凝集剤注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0112】
基本凝集剤注入率DgFF(mg/l)=α1×原水UV吸光度(‐)+β1×原水濁度(度)+γ1×原水水温(℃)+δ1 …(3)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値を演算式(3)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。基本凝集剤注入率DgFFは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの基本凝集剤注入率DgFFで凝集剤を混和池43内の原水に注入する。
【0113】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本凝集剤注入率DgFFでの凝集剤注入ポンプP1の運転によって得られた沈殿処理水の水質指標(濁度)及びろ過処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DgFFを補正して凝集剤注入率DgPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、濁度計461で計測された沈殿処理水の濁度の値及び色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本凝集剤注入率DgFFを補正して新たな凝集剤注入率DgPを算出する。そして、この凝集剤注入率DgPを凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0114】
以上のように演算式(3)による演算により基本凝集剤注入率DgFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適凝集剤注入率Dg1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(3)が更新されるので、基本凝集剤注入率DgFFの演算精度が向上し、信頼性の高い凝集剤注入制御が実現する。さらに、基本凝集剤注入率DgFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0115】
実施形態3においても上記の手順で凝集剤注入率制御試験を行った場合、最適凝集剤注入率Dg1と基本凝集剤炭率DgFFとの関係は当該実施形態と同様に両者の相関性と誤差部分を有すると推定できる。そして、その誤差部分は基本凝集剤注入率DgFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部4に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0116】
[実施形態4]
図9に例示された実施形態4の浄水処理システムは急速ろ過方式を有する浄水処理システムにおける粉末活性炭の注入制御手段として薬品注入制御装置1を適用している。
【0117】
本実施形態の浄水処理システムは、濁度計112,461を備えていないこと及び凝集剤タンク42の代わりに活性炭スラリータンク51を備え活性炭スラリーを混和池43ではなく着水井41内の原水に注入すること以外は、実施形態3の浄水処理システムと同じ構成となっている。活性炭スラリータンク51は着水井41内の原水に活性炭スラリーを注入するためのスラリー注入ポンプP2を備えている。スラリー注入ポンプP2は薬品注入制御装置1から供された制御信号に基づき動作する。
【0118】
図2、図9を参照しながら本実施形態に係る薬品注入制御手順について説明する。
【0119】
S1:薬品注入率演算部24は、UV吸光度計111、水温計113で計測された原水のUV吸光度、水温の値を予め設定された基本活性炭注入率演算式(後述の演算式(4))に代入して基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。この基本活性炭注入率DkFFに基づきスラリー注入ポンプP2が動作制御される。次いで、色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定されたろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本活性炭注入率DkFFを活性炭注入率DkPに補正する(FB制御)。この活性炭注入率DkPはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの活性炭注入率Dkpで活性炭スラリーを着水井41内の原水に注入する。
【0120】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られたろ過処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該ろ過処理水の色度の目標値との偏差に相当する活性炭スラリーの過剰注入率分ΔD1を活性炭注入率DkPから減じて最適活性炭注入率Dk1を算出する。
【0121】
S3:前記算出された最適活性炭注入率Dk1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適活性炭注入率Dk1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0122】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適活性炭注入率Dk1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α1’、β1’),定数項(γ1’)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、水温に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する基本活性炭注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0123】
基本活性炭注入率DkFF(mg/l)=α1’×原水UV吸光度(‐)+β1’×原水水温(℃)+γ1’ …(4)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、水温計113で計測された原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値を演算式(4)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。基本活性炭注入率DkFFはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの基本活性炭注入率DkFFで活性炭スラリーを着水井41内の原水に注入する。
【0124】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本活性炭注入率DkFFでのスラリー注入ポンプP2の運転によって得られたろ過処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DkFFを補正して活性炭注入率DkPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本活性炭注入率DkFFを補正して新たな活性炭注入率DkPを算出する。そして、この活性炭注入率DkPをスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0125】
以上のように演算式(4)による演算により基本活性炭注入率DkFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適活性炭注入率Dk1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(4)が更新されるので、基本活性炭注入率DkFFの演算精度が向上し、信頼性の高い活性炭注入制御が実現する。さらに、基本活性注入率DkFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0126】
実施形態4においても上記の手順で活性炭注入率制御試験を行った場合、最適活性炭注入率Dk1と基本活性炭率DkFFとの関係は当該実施形態と同様に両者の相関性と誤差部分を有すると推定できる。そして、その誤差部分は基本活性炭注入率DkFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部4に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0127】
[実施形態5]
上述の実施形態1〜4は薬品として凝集剤または活性炭スラリーを単独使用する場合の薬品注入制御の態様であるが、本発明の薬品注入制御方法は複数種の薬品の注入制御においても適用できる。
【0128】
例えば、一つの薬品の注入率が所定値を越えた時点で薬品注入制御の対象とする薬品の種類を他の薬品に変更して継続する場合にも適用が可能である。より具体的な例としては、色度成分等の溶解性有機物の除去を目的で凝集剤にPACを用いてその注入率の制御を行っている時に基本凝集剤注入率が所定の値以上の凝集剤注入率に達した時点で、PACの注入率を固定とし、薬品注入制御の対象とする薬品をPACから他の薬品例えば活性炭スラリーに変更する場合である。
【0129】
浄水場においては凝集剤であるPACの注入率は設備能力的な制限、アルミニウムの漏出、薬品コストが所定範囲を超過すること等が理由となり、最大の凝集剤注入率が200mg/l程度に設定されることある。この場合に薬品注入率制御として凝集剤注入率制御と活性炭注入制御とを実行する必要がある。
【0130】
そこで、本実施形態の薬品注入制御装置1は以下の手順(1)〜(4)によるPACと活性炭スラリーの注入制御により凝集剤の過剰注入を抑制する。ここでは実施形態1,2を組み合わせた浄水処理システムにおいてPACの基本凝集剤注入率の値が閾値(200mg/l)である場合の制御例について説明する。実施形態3,4を組み合わせた浄水処理システムにおいても以下の手順と同様の手順を実行すればよい。
【0131】
(1)実施形態1のS1〜S6の繰り返し実行によりPAC注入ポンプを動作制御する。
【0132】
(2)実施形態1のS5では算出された基本凝集剤注入率DgFFの値と閾値200mg/lとの比較を行う。
【0133】
(3)前記比較により基本凝集剤注入率DgFFの値が前記閾値を越えたと判断された場合、凝集剤注入率DgPの値を当該閾値に固定してこの注入率でPAC注入ポンプを動作させる。これと同時に前述の実施形態2のS2〜S6の過程に移行させて活性炭スラリーポンプを動作制御する。
【0134】
(4)前記閾値の凝集剤注入率でのPAC注入ポンプの動作を継続させると共に実施形態2のS1〜S6の過程を繰り返す。この処理のS5では基本活性炭注入率DkFFの算出と共に実施形態1のS5の処理により基本凝集剤注入率DgFFを算出する。そして、この基本凝集剤注入率DgFFの値が前記閾値以下となった時点で実施形態2のS5から実施形態1のS2〜S6,S1〜S6の過程に移行させる。
【0135】
以上の手順(1)〜(4)による複数種類の薬品を組み合わせた薬品注入制御によりPAC及び活性炭スラリーの過剰注入を抑制できる。
【0136】
本実施形態はPACと活性炭スラリーの組合せ注入制御であるが、本発明に係る複数種の薬品の注入制御は、当該実施形態に限定されるものではない。例えば、一つの薬品の注入率が所定値を越えた時点で注入する薬品の種類を他の薬品に切替える場合であっても適用が可能であり、使用薬品の浄水処理特定や薬品費用及び貯蔵量などの各種条件などにより多種の組合せが可能である。
【0137】
また、前述のように原水はその供給源が同一の河川であっても取水地点、時期が異なれば変わり、特に降雨時、洪水時、渇水時、融雪時等には原水の水質に著しい変動が現れる。したがって、原水及び処理水の水質指標は実施形態1〜5で挙げられた水質指標に限定することなく各浄水施設の原水の水質の特性に応じて周知の水質指標が適宜に選択される。
【0138】
さらに、原水及び処理水の水質指標の測定点は実施形態1〜5で挙げられた水質指標の測定点に限定することなく浄水施設の原水及び処理水の水質の特性把握に適する箇所から適宜選択される。
【符号の説明】
【0139】
1…薬品注入制御装置
21…最適薬品注入率演算部(最適薬品注入率演算手段)
22…重回帰分析演算部(重回帰分析演算手段)
23…基本薬品注入率演算部(基本薬品注入率演算手段)
24…薬品注入率演算部(薬品注入率演算手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は浄水処理システムにおける薬品注入制御方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道施設では水質基準に適合した水道水を安定して給水できるようにするため原水水質、浄水水質の管理目標、浄水施設の規模、運転制御及び維持管理技術の管理水準等を考慮して様々な方式が選択、組み合わされた浄水技術が適用されている。例えば、消毒のみの方式、緩速ろ過方式、急速ろ過方式、膜ろ過方式から選択され、必要に応じて高度浄水処理等が組み合わされている(非特許文献1)。
【0003】
今日においては高濁度にも耐えられること、原水のある程度以上の汚染にも耐えられることや広大な用地が必要でなく効率的なこと等から水道の約75%(水量比)が急速ろ過方式を採用している。
【0004】
急速ろ過方式を採用した浄水場は、一般的に凝集剤を注入するとともに急速攪拌を実施する混和池と、凝集体(フロック)を成長させるフロック形成池と、成長したフロックを沈殿除去するための沈殿池と、沈殿しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池とを備える。
【0005】
浄水処理では、凝集剤(硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、高分子凝集剤、鉄系凝集剤)以外に粉末活性炭や消毒剤(液化塩素、次亜塩素酸ナトリウム)などの薬品が用いられている。また、浄水場では原水、浄水及び給水栓水の水質状況を監視しながら適正な薬品処理を行っている。
【0006】
そして、原水の水質に何らかの異常が生じた場合、これらの浄水用薬品の注入を正常時と比較して強化する対策が採られている。例えば、原水においてマンガンなどの還元性の物質、アンモニア性窒素、有機物等が高濃度となった場合、塩素注入率を通常よりも高くするような対応が採られている。また、合成洗剤等の濃度が高くなることや臭気若しくはフェノール類による汚染が察知された場合、通常、粉末活性炭処理が行われている。このような場合には粉末活性炭の注入に加えて塩素処理や凝集沈殿処理も強化する必要がある。
【0007】
急速ろ過方式による浄水処理の重要なポイントは原水の水質に応じて凝集剤の注入率を適正な値に制御し、沈降性のよいフロックを形成することである。不適切な注入率によって凝集処理を行った場合には沈殿池からのフロックのキャリーオーバーや凝集不良により、ろ過池の損失水頭(ろ坑)の上昇、洗浄頻度の上昇、微細粒子のろ過池からの漏出等の問題が生じる。
【0008】
また、有機物やカビ臭等の溶解性成分の除去を目的とする活性炭処理では活性炭注入方式と膜ろ過方式とを組み合わせた方式もとり得る。さらに、膜の種類や透過流束等の条件によっては、凝集処理が必要な場合があるため凝集剤をはじめとする薬品注入処理を組み入れた処理フローも採られることも多くなっている。このような膜ろ過方式ではろ過性の改善及びそのままではファウリング物質となり得る微細粒子を粗大化させて目詰まりを防止するために被ろ過水に対して凝集剤が添加されている。
【0009】
ところで、従来の薬品注入制御方法ではフィードフォワード制御(以下、FF制御)とフィードバック制御(以下、FB制御)との組み合わせが実行されている。
【0010】
適正な凝集剤注入率は原水の濁度、アルカリ度、pH、水温などによって変化し、水源水質ごとに異なるので、原水濁度のみを指標として一義的に決定することはできない。そのため、従来から浄水場では次の方法で凝集状況の判定や凝集剤注入率の決定またはその制御が行われている。
【0011】
例えば、原水の濁度やpH、アルカリ度、水温等の水質をパラメータとして、適正な凝集剤注入率との関係を示した注入率演算式に基づきFF制御するものが挙げられる。この演算式はジャーテストや実施設の沈殿水濁度等に基づく経験的な方法で導き出したものである。そして、この制御方式の発展型として、沈殿水濁度の測定値に基づくFB制御との組合せや、オペレータによるジャーテストの結果や実施施設の運用実績に近づけるようにファジーやニューロによるAI制御が例示される。
【0012】
上記のFF制御またはFB制御若しくはこれらの組合せを開示した先行技術文献としては例えば特許文献1〜3が挙げられる。
【0013】
特許文献1に開示された薬品注入制御法では原水中の粒子の集塊化開始時間に基づき薬品の注入率をリアルタイムで制御している。
【0014】
特許文献2に開示された凝集剤添加制御法では膜分離手段の膜ろ過水の紫外線吸光度の値に基づき凝集剤添加量を制御することにより凝集剤の過剰添加を防止している。
【0015】
特許文献3に開示された凝集剤注入制御法では重回帰分析により凝集剤注入率、前アルカリ剤注入率、後アルカリ剤注入率の最適値を演算し、これらの注入率に基づき凝集剤やアルカリ剤の注入量を制御している。
【0016】
一方、有機物やカビ臭等の溶解性成分の除去を目的とする活性炭の注入制御においては目標水質が得られるように活性炭の注入率が決定されている。しかし、トリハロメタン前駆物質(以下、THMFP)やカビ臭は測定に非常に時間がかかるため、現場での測定結果に基づいた活性炭注入制御を行うことは困難である。
【0017】
そこで、除去対象物質を統計的手法で予測することや代替指標などによって活性炭注入制御を行う方法が提案されている。例えば、THMFPの生成量が原水の水温や導電率等で大きく変化することから除去対象物質を統計的手法で予測することで当該生成量に対応した活性炭の注入量を決定する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】水道施設設計指針改定委員会著,「水道施設設計指針2000」,社団法人日本水道協会発行,2000年3月31日,pp.146−154
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2011−11107号公報
【特許文献2】特開平8−117747号公報
【特許文献3】特開2005−329359号公報
【特許文献4】特開2005−230629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、従来の制御技術では以下の問題点がある。
【0021】
原水の水質の時間的な変動が大きくなると、FB制御に時間遅れが生じるため、薬品注入率の十分な追従が困難となっている。そのため、原水の水質の変動に応じていかに適切に薬品注入率を設定するかが重要となる。
【0022】
また、実際の薬品注入制御では原水の水質に変動があっても目標処理水質を満たすように薬品注入量に余裕をもたせた薬品注入率により運転している。しかも、原水水質の変動時には余裕度をさらに高めることにより目標水質を満たす必要がある。しかしながら、このような薬品注入制御方法では必要以上の薬品量で注入するため薬品コストの上昇につながっている。特に原水水質の変動時にはその影響が顕著となっている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
そこで、本発明の薬品注入制御方法は、浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御方法であって、予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する過程と、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する過程と、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する過程と、前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の演算に供する過程とを有する。
【0024】
また、本発明の薬品注入制御装置は、浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御装置であって、予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する最適薬品注入率演算手段と、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する重回帰分析演算手段と、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する基本薬品注入率演算手段と、前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの制御によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率演算手段に供する薬品注入率演算手段とを備える。
【発明の効果】
【0025】
以上の発明によれば必要以上の薬品の注入量を抑え且つ原水の水質変動に応じた薬品の注入を行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る薬品注入制御装置の概略構成図。
【図2】本発明に係る薬品注入制御の手順を示したフロー図。
【図3】本発明の実施形態1に係る浄水処理システムの構成図。
【図4】UV吸光度と色度との関係を示したグラフ。
【図5】最適凝集剤注入率と凝集剤注入率との関係を示したグラフ。
【図6】最適凝集剤注入率と基本凝集剤注入率との関係を示したグラフ。
【図7】本発明の実施形態2に係る浄水処理システムの構成図。
【図8】本発明の実施形態3に係る浄水処理システムの構成図。
【図9】本発明の実施形態4に係る浄水処理システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[概要]
図1に示された発明の実施形態に係る薬品注入制御装置1は浄水処理システムの原水及び処理水の水質指標の測定信号に基づき当該原水に対する薬品注入率を算出して薬品注入ポンプの制御因子として出力する。
【0028】
具体的には、先ず、予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する。
【0029】
次いで、前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導き出す。
【0030】
次いで、原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する。
【0031】
次いで、前記基本薬品注入率に基づく前記薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値に基づき前記基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出する。そして、この薬品注入率を当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の算出に供する。前記制御因子は前記薬品注入ポンプの制御信号として前記浄水処理システムに供される。
【0032】
以上の過程が繰り返し実行され、前記最適薬品注入率と前記原水の水質指標は過去の重回帰分析データに追加される。また、このデータに基づく重回帰分析が周期的に実行され、原水の水質に対して目標処理水質を達成するための基本薬品注入率の演算式が常時更新される。これにより薬品の注入量を抑えた薬品注入率の制御運転が可能となり、また、原水水質の変動に応じて適切な薬品注入率を設定できる。
【0033】
原水の水質は、その水源がたとえ同一河川であっても、取水地点、時期が異なれば変わり、特に降雨時、洪水時、渇水時、融雪時等には著しい変動が現れる。そのため、水質指標は各浄水施設に供される原水の水質の特性に応じて周知の水質指標が適宜に選択される。
【0034】
前記原水及び処理水の水質指標として、例えば、水温、濁度、UV吸光度、色度、pH値、アルカリ度、過マンガン酸カリウム消費量、TOC(総有機炭素量)から原水の特性に応じて適宜に複数選択されたものが挙げられる。
【0035】
原水の水質指標として、好ましくはUV吸光度、色度、濁度、水温が選択され、また、処理水の水質指標として好ましくは色度、または濁度と色度が選択される。
【0036】
さらに、原水及び処理水の水質指標の測定点は浄水施設において各水質の特性把握に適する箇所から適宜選択される。
【0037】
[装置の構成]
薬品注入制御装置1は演算制御部2と信号入出力部3とデータベース部4とを備える。
【0038】
演算制御部2は最適薬品注入率演算部21,重回帰分析演算部22,基本薬品注入率演算部23,薬品注入率演算部24を備える。
【0039】
最適薬品注入率演算部21は予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する。
【0040】
重回帰分析演算部22は前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する。
【0041】
基本薬品注入率演算部23は原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する。原水の水質については測定精度や測定頻度等の点で代替が可能であるならば水質測定器の計測値を利用することが好ましい。水質計測器の計測値を利用してデータ更新の周期を短期化することで水質変動時のデータもより多く収集可能となるので、より高精度の重回帰分析が可能となる。
【0042】
薬品注入率演算部24は前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの制御によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出する。そして、この薬品注入率を当該薬品注入ポンプの制御信号(制御因子)として出力する一方で最適薬品注入率演算部21に供する。
【0043】
信号入出力部3は浄水処理システムの水質測定装置から原水及び処理水の水質指標の測定信号の入力を受ける。また、演算制御部2から供された基本薬品注入率や薬品注入率の値を薬品注入ポンプの制御信号として出力する。
【0044】
データベース部4は信号入出力部3から供された原水及び処理水の水質指標の測定値を保存する。また、演算制御部2で算出された最適薬品注入率を前記水質指標の測定信号と対応づけて保存する。さらに、算出した基本凝集剤注入率の演算式や各種の設定値も保存する。データベース部4に蓄積された薬品注入率や水質データ等は一定時間経過したことなどで薬品注入率の制御に支障がない程度に削除も可能となっている。
【0045】
[薬品注入制御の過程]
図2に示されたフローを参照しながら薬品注入制御の過程について説明する。
【0046】
S1:薬品注入率演算部24は原水の水質に基づくFF制御と処理水の水質に基づくFB制御とにより薬品注入率DPを設定する。この薬品注入率DPは浄水処理システムの薬品注入ポンプの制御信号として信号入出力部3から出力される。前記薬品注入ポンプはこの薬品注入率Dpで薬品を原水に注入する。
【0047】
薬品注入率DPは原水の水質測定装置で計測された原水の水質指標値を予め設定(S4で設定)された基本薬品注入率演算式に代入して算出された基本薬品注入率DFFをその後の処理水の水質測定装置で計測された処理水の水質指標値に基づく薬品注入率補正DFBにより算出される。尚、薬品注入制御時に原水水質計測器の計測値が欠損などにより基本薬品注入率DFFが算出されていない場合には欠損値の想定値及び手分析値を代用すればよい。
【0048】
薬品注入率DPは以下の式で表せる。
【0049】
薬品注入率DP=基本薬品注入率DFF(原水の水質に基づくFF制御)+薬品注入率補正DFB(処理水の水質に基づくFB制御)
薬品注入率補正DFBは浄水処理システムの処理水質計測器で計測された処理水質の値が目標処理水質の値以下となるように薬品注入率DPの値を補正するための注入率の補正値である。薬品注入制御装置1において薬品注入率補正DFBは基本薬品注入率DFFのデータ更新と同期してもよいが処理水質によるFB制御は基本薬品注入率DFFのデータ更新よりも短周期的に行った方が実際の処理水質と目標処理水質との偏差を小さく維持できる。また、原水の水質変動に伴う処理水質の変動に対して追随性の高い制御が可能となる。薬品注入制御装置1においては薬品注入率補正値DFBに係る設定(値)は更新されるまで更新前の設定(値)を保持される。
【0050】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた処理水の水質と当該処理水の目標水質との偏差に相当する薬品の過剰注入率分ΔD1を薬品注入率DPから減じて最適薬品注入率D1を算出する。
【0051】
最適薬品注入率D1は薬品注入率DPで同浄水処理システムの処理水水質計測器で計測された処理水質と目標処理水質との偏差から目標処理水質を満たすことを条件とした場合に過剰となる注入率分を減じて算出された注入率である。
【0052】
最適薬品注入率D1は以下の式のように薬品注入率DPから薬品の過剰注入分ΔD1を減じた注入率となる。
【0053】
D1=DP−ΔD1
但し、薬品注入率DPが不足する場合はΔD1が負の値となる。
【0054】
S3:前記算出された最適薬品注入率D1の値はこのときの原水の水質の値と共にデータベース部4内に格納された最適薬品注入率D1と原水の水質の母集団に追加される。
【0055】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適薬品注入率D1を目標変数とすると共に原水の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定する。これにより導出された重回帰式が原水の水質指標に対応した基本薬品注入率演算式と定める。
【0056】
S5:基本薬品注入率演算部23は原水の水質測定装置で計測された原水の水質指標の値をS4で導出された基本薬品注入率DFFの演算式に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率DFFを算出する(FF制御)。基本薬品注入率DFFは薬品注入ポンプの制御信号として信号入出力部3から出力される。前記薬品注入ポンプはこの基本薬品注入率DFFで薬品を原水に注入する。
【0057】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本薬品注入率DFFに基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該注入率DFFを補正して薬品注入率DPを新たに算出する(FB制御)。そして、この薬品注入率DPを薬品注入ポンプの制御因子として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0058】
以上の基本薬品注入率DFFの更新は予め設定された所定の周期で実行される。そして、この更新処理に供される最適薬品注入率D1と原水水質計測器の計測値(または水質分析結果)は所定の周期でデータベース部4に保存される。上記所定の周期は任意に設定される。例えば、原水の水質の時間変動の大きさに応じて目的処理水質を達成し得るように手動や自動により変更可能とし、原水の水質の時間変動が大きくなる場合には所定の周期は短周期となる。
【0059】
また、S4での基本薬品注入率DFFの演算式を導き出す過程では、前記原水の水質指標の値の範囲を複数の範囲に分割し、この範囲毎に前記重回帰分析を実行することにより当該各範囲に対応した演算式を導出するとよい。前記水質指標の各範囲に対応した演算精度の高い基本薬品注入率DFFの演算式を得ることができる。
【0060】
そして、S5での基本薬品注入率DFFを算出する過程では、前記原水の水質指標の測定値が属する水質指標の値の範囲に対応した演算式による演算によって当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率DFFを算出するとよい。原水の水質に対応したより精度の高い基本薬品注入率DFFを得ることができる。
【0061】
また、複数種の薬品を用いた場合、一つの薬品の基本薬品注入率FFの算出値が閾値を超えた時点で当該閾値の薬品注入率を当該薬品の薬品注入ポンプの制御因子として出力すると共に他の薬品について手順S2〜S6,S1の注入制御過程に移行させるとよい。これにより前記一つの薬品の過剰注入を抑制できる。
【0062】
そして、当該一つの薬品の基本薬品注入率の算出値が閾値以下となった時点で前記他の薬品注入制御過程から当該一つの薬品についての手順S2〜S6,S1の注入制御過程に移行させるとよい。これにより前記他の薬品の過剰注入を抑制できる。
【0063】
以下に本発明に係る薬品注入制御装置1のより具体的な実施形態の一例について説明する。尚、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく特許請求の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0064】
[実施形態1]
図3に例示された本実施形態の浄水処理システムは膜ろ過方式を有する浄水処理システムにおける凝集剤の注入制御手段として薬品注入制御装置1を適用している。
【0065】
膜ろ過方式では膜破断がない限り、濁度の対数除去率が5〜7logの処理水質が得られるので処理水の濁度は問題とはならない。そのため、膜ろ過水(処理水)の水質指標は色度を採用した。本実施形態の方式の浄水場では原水の色度は原水の濁度以上に凝集剤注入率に大きく影響した。さらに、原水の水温は生物活性が色度の成分構成(分子量)に影響するものと考察され、間接的に凝集剤注入率に影響した。したがって、重回帰分析のための説明変数のパラメータとして濁度,UV吸光度を基本パラメータ、水温を補助パラメータとして選択されている。
【0066】
色度を測定する方法としては、色度標準液による標準列との比較による比色法と、波長390nmを使用した吸光光度法の二つがある。そして、吸光光度法では、濁質分のみに感じる別の波長(660nm)を使い濁度を同時に測定し濁度補償する。
【0067】
また、UV吸光度は、水中に存在する有機汚濁物質は紫外線を吸収することから通常254nmの波長で吸光度を測定して測定水の有機汚濁物質の濃度を求める場合に利用されている。
【0068】
本実施形態では色度をUV吸光度にて代替したが、その根拠となる膜ろ過工程を有す水処理システムで行った試験で測定した吸光光度法により測定した色度の値とUV吸光度の値との関係を図4に示した。図示されたように色度とUV吸光度とに高い相関があるので色度の代替指標としてUV吸光度を採用できる。
【0069】
さらに、色度の代替指標としてUV吸光度を採用することの理由として浄水場の原水の有機物指標として一般的にUV吸光度が採用される事例が多いからである。
【0070】
尚、浄水場への薬品注入制御装置1を適用する場合には色度計が設置されており原水の色度の測定が可能であればこの色度計を採用すればよい。
【0071】
(最適薬品注入率D1の有効性)
本実施形態の浄水処理システムにおいて、従来方式による原水の水質に基づいた注入率演算式による凝集剤注入率Dgp’で運転した際の実際の処理水質と目標処理水質との偏差から目的処理水質をクリアできる条件として注入率の過剰分及び不足分を算出した。そして、この過剰分及び不足分に基づき従来の凝集剤注入率制御方式における最適凝集剤注入率Dg1’を算出した。最適凝集剤注入率Dg1’は凝集剤注入率Dgp’に対して膜ろ過水の色度が1.0度未満となるようにPACの凝集剤注入率を補正したものである。
【0072】
膜処理実験プラントで行った凝集剤注入試験における最適凝集剤注入率Dg1’と膜処理実験プラントの凝集剤注入率Dgp’との関係を図5に示した。凝集剤注入率Dgp’のデータ収集のタイミングは一日に一回且つ定刻(水質分析時刻9:30)とし、収集の周期は概ね24時間とした。
【0073】
図5に示された傾き1の関係線の下側領域は凝集剤注入率Dgp’が最適凝集剤注入率Dg1’に比べてマイナス補正であったデータ領域を示す。このデータ領域に大部分のデータがプロットされていることから、実験プラントにおいて設定した凝集剤注入率Dgp’は最適凝集剤注入率Dg1’よりも概ね低い注入率であり、凝集剤注入量が不足傾向にあったことを表している。
【0074】
そのため、原水の水質に基づきFF制御により凝集剤注入率Dgp’で運転した従来方式による凝集剤注入制御試験では目標処理水質である膜ろ過処理水の色度1.0度未満の条件を達成していないことが多い結果となった。
【0075】
以上のことから最適薬品注入率D1を算出することで実際のプラントでの薬品注入率の過不足が的確に評価できることが分かる。したがって、原水や処理水の水質変化に対応するように薬品注入率を変動させても所定の周期で薬品注入制御結果から最適薬品注入率を算出し、この算出結果に基づき原水の水質に対応した薬品注入率を更新していくことで薬品注入量を抑えた薬品注入制御が実現する。
【0076】
(実施形態1の浄水処理システムの構成)
本実施形態の浄水処理システムは図3に示されたように原水槽11、除Mn塔12、凝集剤タンク13、緩速攪拌槽14、沈殿槽15、膜原水槽16、膜浸漬槽17、膜ろ過水槽18、排水槽19を備えた設備において薬品注入制御装置1が具備されている。原水槽11はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113を具備している。凝集剤タンク13は凝集剤を貯留している。凝集剤としてはPAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸バンド、高分子凝集剤、鉄系凝集剤等が例示される。また、凝集剤タンク13は除Mn塔12から緩速攪拌槽14に供される除Mn処理水に凝集剤を注入するための凝集剤注入ポンプP1を備えている。凝集剤注入ポンプP1は薬品注入制御装置1から供された制御信号に基づき動作する。膜浸漬槽17は膜原水槽16から供された沈殿処理水を固液分離処理するための膜分離ユニットを備えている。膜ろ過水槽18は膜浸漬槽17から供された処理水の色度を計測するための色度計181を備えている。
【0077】
UV吸光度計111、濁度計112、水温計113、色度計181は周知の測定方式を採用している。UV吸光度計111は例えば原水を砂ろ過処理した後に10mmセルにおけるUV吸光度を計測する方式を採る。濁度計112は例えば表面散乱方式を採る。水温計113は例えば測温抵抗体を用いた方式を採る。
【0078】
本実施形態の薬品注入制御装置1はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113、色度計181から各測定信号の入力を受けて凝集剤注入ポンプP1に対する制御信号を出力する。
【0079】
(実施形態1の薬注制御手順)
本実施形態の薬品注入制御装置1は前述の図2に示された手順で薬品注入制御を行う。
【0080】
S1:薬品注入率演算部21は、UV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水のUV吸光度、濁度、水温の値を予め設定された基本凝集剤注入率演算式(後述の演算式(1))に代入して基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。この基本凝集剤注入率DgFFに基づき凝集剤注入ポンプP1が動作制御される。その後、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本凝集剤注入率DgFFを凝集剤注入率DgPに補正する(FB制御)。この凝集剤注入率DgPは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの凝集剤注入率Dgpで凝集剤を緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0081】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該処理水の色度の目標値との偏差に相当する凝集剤の過剰注入率分ΔD1を凝集剤注入率DgPから減じて最適凝集剤注入率Dg1を算出する。
【0082】
S3:前記算出された最適凝集剤注入率Dg1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適凝集剤注入率Dg1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0083】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適凝集剤注入率Dg1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、濁度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α、β、γ),定数項(δ)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、濁度、水温に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する基本凝集剤注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0084】
基本凝集剤注入率DgFF(mg/l)=α×原水UV吸光度(‐)+β×原水濁度(度)+γ×原水水温(℃)+δ …(1)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水のUV吸光度、濁度、水温の値を演算式(1)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。基本凝集剤注入率DgFFは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの基本凝集剤注入率DgFFで凝集剤を緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0085】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本凝集剤注入率DgFFでの凝集剤注入ポンプP1の運転によって得られた処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DgFFを補正して凝集剤注入率DgPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本凝集剤注入率DgFFを補正して新たな凝集剤注入率DgPを算出する。そして、この凝集剤注入率DgPを凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0086】
以上のように演算式(1)による演算により基本凝集剤注入率DgFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適凝集剤注入率Dg1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(1)が更新されるので、基本凝集剤注入率DgFFの演算精度が向上し、信頼性の高い凝集剤注入制御が実現する。さらに、基本凝集剤注入率DgFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0087】
(実施例)
実施形態1の実施例として浄水場の原水を用いて図3の浄水処理システムに準じた膜処理実験プラントにて約1年間の凝集剤注入試験により評価した。凝集剤はポリ塩化アルミニウムを用いた。本実施例におけるデータ更新は24時間の周期すなわち1日1回且つ定刻(水質分析時刻9:30)に行った。本実施例で算出された最適凝集剤注入率Dg1と基本凝集剤注入率DgFFとの比較を示したグラフを図6に示した。図示されたようにデータのプロットがy=xの直線上の近傍に位置しており、両者に相関性が認められる。また、その誤差部分はS6,S1にて基本凝集剤注入率DgFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部4に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0088】
上記の実施例では1日1回測定した水質計測データにより演算評価したが、この演算の周期は一定周期で行うかまたは原水の水質変化が所定の時間当たり変化幅値を超えた場合、膜ろ過処理水の水質変化が所定の時間当たりの変化幅を超えた場合などとしてもよい。
【0089】
また、最適凝集剤注入率Dg1を目的変数とする重回帰分析を行う際に説明変数であるUV吸光度、濁度、水温の計測値の範囲を季節変動等の要因を踏まえて複数に場合分けすれば、前記変動の場合等であってもさらなる凝集剤注入制御の信頼性の向上が可能となる。
【0090】
さらに、水質の時間変化率に対応して演算周期を変えることにより、原水の水質が急に変動する場合などであっても凝集剤の注入制御を追従させることが可能となる。
【0091】
尚、上記の実施例ではポリ塩化アルミニウムを用いた場合の事例であるが、硫酸バンド、高分子凝集剤、鉄系凝集剤を用いた場合であっても同様の結果が得られる。
【0092】
[実施形態2]
図7に例示された実施形態2の浄水処理システムは膜ろ過方式を有する浄水処理システムにおける粉末活性炭の注入制御手段として薬品注入制御装置1を適用している。
【0093】
本実施形態の浄水処理システムは濁度計112を備えていないこと及び凝集剤タンク13の代わりに活性炭スラリータンク31を備えていること以外は実施形態1の浄水処理システムと同じ構成となっている。活性炭スラリータンク31は除Mn塔12から緩速攪拌槽14に供される除Mn処理水に活性炭スラリーを注入するためのスラリー注入ポンプP2を備えている。スラリー注入ポンプP2は薬品注入制御装置1から供された制御信号に基づき動作する。
【0094】
活性炭の注入制御においては、最適活性炭注入率を目的変数とした重回帰分析を行うにあたり、活性炭による処理対象は溶解性有機物の除去であり濁度は説明変数にならないので色度、水温を説明変数としている。尚、図示された本実施形態の浄水処理システムでは図4に示された特性を根拠に原水の色度の代替としてUV吸光度を適用している。
【0095】
図2、図7を参照しながら本実施形態に係る薬品注入制御手順について説明する。
【0096】
S1:薬品注入率演算部24は、UV吸光度計111、水温計113で計測された原水のUV吸光度、水温の値を予め設定された基本活性炭注入率演算式(後述の演算式(2))に代入して基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。この基本活性炭注入率DkFFに基づきスラリー注入ポンプP2が動作制御される。次いで、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本活性炭注入率DkFFを活性炭注入率DkPに補正する(FB制御)。この活性炭注入率DkPはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの活性炭注入率Dkpで活性炭スラリーを緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0097】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該処理水の色度の目標値との偏差に相当する活性炭スラリーの過剰注入率分ΔD1を活性炭注入率DkPから減じて最適活性炭注入率Dk1を算出する。
【0098】
S3:前記算出された最適活性炭注入率Dk1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適活性炭注入率Dk1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0099】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適活性炭注入率Dk1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α’、β’),定数項(γ’)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、水温に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する基本活性炭注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0100】
基本活性炭注入率DkFF(mg/l)=α’×原水UV吸光度(‐)+β’×原水水温(℃)+γ’ …(2)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、水温計113で計測された原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値を演算式(2)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。基本活性炭注入率DkFFはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの基本活性炭注入率DkFFで活性炭スラリーを緩速攪拌槽14に供される原水に注入する。
【0101】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本活性炭注入率DkFFでのスラリーポンプP2の運転によって得られた処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DkFFを補正して活性炭注入率DkPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、色度計181で計測された処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本活性炭注入率DkFFを補正して新たな活性炭注入率DkPを算出する。そして、この活性炭注入率DkPをスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0102】
以上のように演算式(2)による演算により基本活性炭注入率DkFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適活性炭注入率Dk1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(2)が更新されるので、基本活性炭注入率DkFFの演算精度が向上し、信頼性の高い活性炭注入制御が実現する。さらに、基本活性注入率DkFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0103】
実施形態2においても上記の手順で活性炭注入率制御試験を行った場合、最適活性炭注入率Dk1と基本活性炭率DkFFとの関係は当該実施形態と同様に両者の相関性と誤差部分を有すると推定できる。そして、その誤差部分は基本活性炭注入率DkFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部 に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0104】
[実施形態3]
図8に例示された実施形態3の浄水処理システムは急速ろ過方式を有する浄水処理システムにおける凝集剤の注入制御手段として注入制御装置1を適用している。
【0105】
本実施形態の浄水処理システムは着水井41、凝集剤タンク42、混和池43、フロック形成池44、沈殿池45、急速ろ過池46、浄水池47を備えた設備において薬品注入制御装置1が具備されている。着水井41はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113を具備している。凝集剤タンク42は凝集剤を貯留している。凝集剤としては実施形態1と同様に原水の特性に応じてポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド、高分子凝集剤、鉄系凝集剤等が適宜に選択される。凝集剤タンク42は混和池43内の原水に凝集剤を注入するための凝集剤注入ポンプP1を備えている。急速ろ過池46は沈殿池45から供された沈殿処理水の色度を計測するための濁度計461を備えている。また、急速ろ過池46は当該池46から排出された処理水の色度を計測するための色度計181を備えている。濁度計461は実施形態1の濁度計112と同仕様のものが適用されている。
【0106】
本実施形態の薬品注入制御装置1はUV吸光度計111、濁度計112,461、水温計113、色度計181から各測定信号の入力を受けて凝集剤注入ポンプP1に対する制御信号を出力する。
【0107】
図2、図8を参照しながら本実施形態に係る薬品注入制御手順について説明する。
【0108】
S1:薬品注入率演算部24は、UV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水のUV吸光度、濁度、水温の値を予め設定された基本凝集剤注入率演算式(後述の演算式(3))に代入して基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。この基本凝集剤注入率DgFFに基づき凝集剤注入ポンプP1が動作制御される。次いで、濁度計461で計測された沈殿処理水の濁度の値及び色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本凝集剤注入率DgFFを凝集剤注入率DgPに補正する(FB制御)。この凝集剤注入率DgPは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの凝集剤注入率Dgpで凝集剤を混和池43の原水に注入する。尚、演算制御部2にて予め設定保持される処理水の目標濁度値は急速ろ過方式において沈殿処理水の濁度を0.5度以下程度に管理する必要があるので例えば0.5度に設定される。
【0109】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られた沈殿処理水の濁度の値(濁度計461の測定値)及びろ過処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差に相当する凝集剤の過剰注入率分ΔD1を凝集剤注入率DgPから減じて最適凝集剤注入率Dg1を算出する。
【0110】
S3:前記算出された最適凝集剤注入率Dg1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適凝集剤注入率Dg1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0111】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適凝集剤注入率Dg1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、濁度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α1、β1、γ1)及び定数項(δ1)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、濁度、水温に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する基本凝集剤注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0112】
基本凝集剤注入率DgFF(mg/l)=α1×原水UV吸光度(‐)+β1×原水濁度(度)+γ1×原水水温(℃)+δ1 …(3)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、濁度計112、水温計113で計測された原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値を演算式(3)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本凝集剤注入率DgFFを算出する(FF制御)。基本凝集剤注入率DgFFは凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3から出力される。凝集剤注入ポンプP1はこの基本凝集剤注入率DgFFで凝集剤を混和池43内の原水に注入する。
【0113】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本凝集剤注入率DgFFでの凝集剤注入ポンプP1の運転によって得られた沈殿処理水の水質指標(濁度)及びろ過処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DgFFを補正して凝集剤注入率DgPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、濁度計461で計測された沈殿処理水の濁度の値及び色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本凝集剤注入率DgFFを補正して新たな凝集剤注入率DgPを算出する。そして、この凝集剤注入率DgPを凝集剤注入ポンプP1の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0114】
以上のように演算式(3)による演算により基本凝集剤注入率DgFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適凝集剤注入率Dg1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、濁度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(3)が更新されるので、基本凝集剤注入率DgFFの演算精度が向上し、信頼性の高い凝集剤注入制御が実現する。さらに、基本凝集剤注入率DgFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0115】
実施形態3においても上記の手順で凝集剤注入率制御試験を行った場合、最適凝集剤注入率Dg1と基本凝集剤炭率DgFFとの関係は当該実施形態と同様に両者の相関性と誤差部分を有すると推定できる。そして、その誤差部分は基本凝集剤注入率DgFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部4に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0116】
[実施形態4]
図9に例示された実施形態4の浄水処理システムは急速ろ過方式を有する浄水処理システムにおける粉末活性炭の注入制御手段として薬品注入制御装置1を適用している。
【0117】
本実施形態の浄水処理システムは、濁度計112,461を備えていないこと及び凝集剤タンク42の代わりに活性炭スラリータンク51を備え活性炭スラリーを混和池43ではなく着水井41内の原水に注入すること以外は、実施形態3の浄水処理システムと同じ構成となっている。活性炭スラリータンク51は着水井41内の原水に活性炭スラリーを注入するためのスラリー注入ポンプP2を備えている。スラリー注入ポンプP2は薬品注入制御装置1から供された制御信号に基づき動作する。
【0118】
図2、図9を参照しながら本実施形態に係る薬品注入制御手順について説明する。
【0119】
S1:薬品注入率演算部24は、UV吸光度計111、水温計113で計測された原水のUV吸光度、水温の値を予め設定された基本活性炭注入率演算式(後述の演算式(4))に代入して基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。この基本活性炭注入率DkFFに基づきスラリー注入ポンプP2が動作制御される。次いで、色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定されたろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように基本活性炭注入率DkFFを活性炭注入率DkPに補正する(FB制御)。この活性炭注入率DkPはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの活性炭注入率Dkpで活性炭スラリーを着水井41内の原水に注入する。
【0120】
S2:最適薬品注入率演算部21はS1での制御によって得られたろ過処理水の色度の値(色度計181の測定値)と当該ろ過処理水の色度の目標値との偏差に相当する活性炭スラリーの過剰注入率分ΔD1を活性炭注入率DkPから減じて最適活性炭注入率Dk1を算出する。
【0121】
S3:前記算出された最適活性炭注入率Dk1の値はこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値と共にデータベース部4内の最適活性炭注入率Dk1と原水の水質指標の母集団に追加される。
【0122】
S4:重回帰分析演算部22はデータベース部4から前記母集団を引き出して最適活性炭注入率Dk1を目標変数とすると共に原水のUV吸光度、水温を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数(α1’、β1’),定数項(γ1’)を決定する。これにより導出された重回帰式を原水のUV吸光度、水温に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する基本活性炭注入率演算式と定める。当該演算式を以下に示した。
【0123】
基本活性炭注入率DkFF(mg/l)=α1’×原水UV吸光度(‐)+β1’×原水水温(℃)+γ1’ …(4)
S5:基本薬品注入率演算部23はUV吸光度計111、水温計113で計測された原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値を演算式(4)に代入することにより当該原水の水質指標に対応した基本活性炭注入率DkFFを算出する(FF制御)。基本活性炭注入率DkFFはスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3から出力される。スラリー注入ポンプP2はこの基本活性炭注入率DkFFで活性炭スラリーを着水井41内の原水に注入する。
【0124】
S6:薬品注入率演算部24はS5で算出された基本活性炭注入率DkFFでのスラリー注入ポンプP2の運転によって得られたろ過処理水の水質指標(色度)の測定値に基づき当該注入率DkFFを補正して活性炭注入率DkPを新たに算出する(FB制御)。具体的には、色度計181で計測されたろ過処理水の色度の値と演算制御部2内に予め設定された沈殿処理水の濁度の目標値及びろ過処理水の色度の目標値との偏差がなくなるように、基本活性炭注入率DkFFを補正して新たな活性炭注入率DkPを算出する。そして、この活性炭注入率DkPをスラリー注入ポンプP2の制御信号として信号入出力部3を介して出力する一方でS1での処理に供する。
【0125】
以上のように演算式(4)による演算により基本活性炭注入率DkFFが算出され且つ重回帰分析用の各データ(最適活性炭注入率Dk1の値とこのときの原水の水質指標(UV吸光度、水温)の値)はデータベース部4に順次収集され蓄積される。また、この蓄積したデータを利用して演算式(4)が更新されるので、基本活性炭注入率DkFFの演算精度が向上し、信頼性の高い活性炭注入制御が実現する。さらに、基本活性注入率DkFFがFB制御により補正されるので原水の水質の変動に対しても追従が可能となる。
【0126】
実施形態4においても上記の手順で活性炭注入率制御試験を行った場合、最適活性炭注入率Dk1と基本活性炭率DkFFとの関係は当該実施形態と同様に両者の相関性と誤差部分を有すると推定できる。そして、その誤差部分は基本活性炭注入率DkFFが補正(FB制御)されると共に重回帰分析用の各データはデータベース部4に順次蓄積され、このデータを利用することにより演算精度が向上する。
【0127】
[実施形態5]
上述の実施形態1〜4は薬品として凝集剤または活性炭スラリーを単独使用する場合の薬品注入制御の態様であるが、本発明の薬品注入制御方法は複数種の薬品の注入制御においても適用できる。
【0128】
例えば、一つの薬品の注入率が所定値を越えた時点で薬品注入制御の対象とする薬品の種類を他の薬品に変更して継続する場合にも適用が可能である。より具体的な例としては、色度成分等の溶解性有機物の除去を目的で凝集剤にPACを用いてその注入率の制御を行っている時に基本凝集剤注入率が所定の値以上の凝集剤注入率に達した時点で、PACの注入率を固定とし、薬品注入制御の対象とする薬品をPACから他の薬品例えば活性炭スラリーに変更する場合である。
【0129】
浄水場においては凝集剤であるPACの注入率は設備能力的な制限、アルミニウムの漏出、薬品コストが所定範囲を超過すること等が理由となり、最大の凝集剤注入率が200mg/l程度に設定されることある。この場合に薬品注入率制御として凝集剤注入率制御と活性炭注入制御とを実行する必要がある。
【0130】
そこで、本実施形態の薬品注入制御装置1は以下の手順(1)〜(4)によるPACと活性炭スラリーの注入制御により凝集剤の過剰注入を抑制する。ここでは実施形態1,2を組み合わせた浄水処理システムにおいてPACの基本凝集剤注入率の値が閾値(200mg/l)である場合の制御例について説明する。実施形態3,4を組み合わせた浄水処理システムにおいても以下の手順と同様の手順を実行すればよい。
【0131】
(1)実施形態1のS1〜S6の繰り返し実行によりPAC注入ポンプを動作制御する。
【0132】
(2)実施形態1のS5では算出された基本凝集剤注入率DgFFの値と閾値200mg/lとの比較を行う。
【0133】
(3)前記比較により基本凝集剤注入率DgFFの値が前記閾値を越えたと判断された場合、凝集剤注入率DgPの値を当該閾値に固定してこの注入率でPAC注入ポンプを動作させる。これと同時に前述の実施形態2のS2〜S6の過程に移行させて活性炭スラリーポンプを動作制御する。
【0134】
(4)前記閾値の凝集剤注入率でのPAC注入ポンプの動作を継続させると共に実施形態2のS1〜S6の過程を繰り返す。この処理のS5では基本活性炭注入率DkFFの算出と共に実施形態1のS5の処理により基本凝集剤注入率DgFFを算出する。そして、この基本凝集剤注入率DgFFの値が前記閾値以下となった時点で実施形態2のS5から実施形態1のS2〜S6,S1〜S6の過程に移行させる。
【0135】
以上の手順(1)〜(4)による複数種類の薬品を組み合わせた薬品注入制御によりPAC及び活性炭スラリーの過剰注入を抑制できる。
【0136】
本実施形態はPACと活性炭スラリーの組合せ注入制御であるが、本発明に係る複数種の薬品の注入制御は、当該実施形態に限定されるものではない。例えば、一つの薬品の注入率が所定値を越えた時点で注入する薬品の種類を他の薬品に切替える場合であっても適用が可能であり、使用薬品の浄水処理特定や薬品費用及び貯蔵量などの各種条件などにより多種の組合せが可能である。
【0137】
また、前述のように原水はその供給源が同一の河川であっても取水地点、時期が異なれば変わり、特に降雨時、洪水時、渇水時、融雪時等には原水の水質に著しい変動が現れる。したがって、原水及び処理水の水質指標は実施形態1〜5で挙げられた水質指標に限定することなく各浄水施設の原水の水質の特性に応じて周知の水質指標が適宜に選択される。
【0138】
さらに、原水及び処理水の水質指標の測定点は実施形態1〜5で挙げられた水質指標の測定点に限定することなく浄水施設の原水及び処理水の水質の特性把握に適する箇所から適宜選択される。
【符号の説明】
【0139】
1…薬品注入制御装置
21…最適薬品注入率演算部(最適薬品注入率演算手段)
22…重回帰分析演算部(重回帰分析演算手段)
23…基本薬品注入率演算部(基本薬品注入率演算手段)
24…薬品注入率演算部(薬品注入率演算手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御方法であって、
予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する過程と、
前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する過程と、
原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する過程と、
前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の演算に供する過程と
を有すること
を特徴とする薬品注入制御方法。
【請求項2】
原水及び処理水の水質に基づき当該原水に対して複数種の薬品を注入するにあたり、
一つの薬品の基本薬品注入率の算出値が閾値を超えた場合に当該閾値の薬品注入率を当該薬品の薬品注入ポンプの制御因子として出力すると共に他の薬品について請求項1に記載の薬品注入制御を実行する過程に移行すること
を特徴とする薬品注入制御方法。
【請求項3】
前記一つの薬品の基本薬品注入率の算出値が閾値以下となった場合に前記他の薬品についての薬品注入制御の過程から当該一つの薬品についての請求項1に記載の薬品注入制御の過程に移行すること
を特徴とする請求項2に記載の薬品注入制御方法。
【請求項4】
前記演算式を導出する過程では、前記原水の水質指標の値の範囲を複数の範囲に分割し、この範囲毎に前記重回帰分析を実行することにより当該各範囲に対応した演算式を導出すること
を特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の薬品注入制御方法。
【請求項5】
前記基本薬品注入率を算出する過程では、前記原水の水質指標の測定値が属する水質指標の値の範囲に対応した演算式による演算によって当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出すること
を特徴とする請求項4に記載の薬品注入制御方法。
【請求項6】
前記原水の水質指標は水温、濁度、UV吸光度、色度、pH値、アルカリ度、過マンガン酸カリウム消費量、総有機炭素量のいずれから複数選択されたものであること
を特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の薬品注入制御方法。
【請求項7】
前記処理水の水質指標は水温、濁度、UV吸光度、色度、pH値、アルカリ度、過マンガン酸カリウム消費量、総有機炭素量のいずれから一つ以上選択されたものであること
を特徴とする請求項6に記載の薬品注入制御方法。
【請求項8】
浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御装置であって、
予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する最適薬品注入率演算手段と、
前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する重回帰分析演算手段と、
原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する基本薬品注入率演算手段と、
前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率演算手段に供する薬品注入率演算手段と
を備えたこと
を特徴とする薬品注入制御装置。
【請求項1】
浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御方法であって、
予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する過程と、
前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する過程と、
原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する過程と、
前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率の演算に供する過程と
を有すること
を特徴とする薬品注入制御方法。
【請求項2】
原水及び処理水の水質に基づき当該原水に対して複数種の薬品を注入するにあたり、
一つの薬品の基本薬品注入率の算出値が閾値を超えた場合に当該閾値の薬品注入率を当該薬品の薬品注入ポンプの制御因子として出力すると共に他の薬品について請求項1に記載の薬品注入制御を実行する過程に移行すること
を特徴とする薬品注入制御方法。
【請求項3】
前記一つの薬品の基本薬品注入率の算出値が閾値以下となった場合に前記他の薬品についての薬品注入制御の過程から当該一つの薬品についての請求項1に記載の薬品注入制御の過程に移行すること
を特徴とする請求項2に記載の薬品注入制御方法。
【請求項4】
前記演算式を導出する過程では、前記原水の水質指標の値の範囲を複数の範囲に分割し、この範囲毎に前記重回帰分析を実行することにより当該各範囲に対応した演算式を導出すること
を特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の薬品注入制御方法。
【請求項5】
前記基本薬品注入率を算出する過程では、前記原水の水質指標の測定値が属する水質指標の値の範囲に対応した演算式による演算によって当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出すること
を特徴とする請求項4に記載の薬品注入制御方法。
【請求項6】
前記原水の水質指標は水温、濁度、UV吸光度、色度、pH値、アルカリ度、過マンガン酸カリウム消費量、総有機炭素量のいずれから複数選択されたものであること
を特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の薬品注入制御方法。
【請求項7】
前記処理水の水質指標は水温、濁度、UV吸光度、色度、pH値、アルカリ度、過マンガン酸カリウム消費量、総有機炭素量のいずれから一つ以上選択されたものであること
を特徴とする請求項6に記載の薬品注入制御方法。
【請求項8】
浄水処理システムの原水及び処理水の水質に基づき当該原水への薬品の注入率を制御する薬品注入制御装置であって、
予め設定された薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転により得られた処理水の水質指標の測定値と当該水質指標の目的値との偏差に基づき当該薬品注入率を補正することにより最適薬品注入率を算出する最適薬品注入率演算手段と、
前記最適薬品注入率を目標変数とすると共に原水の一種以上の水質指標を説明変数とする重回帰分析を行い重回帰式の各説明変数の偏回帰係数を決定することにより当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率の演算式を導出する重回帰分析演算手段と、
原水の水質指標の測定値を前記演算式に供して当該原水の水質指標に対応した基本薬品注入率を算出する基本薬品注入率演算手段と、
前記基本薬品注入率に基づく薬品注入ポンプの運転によって得られた処理水の水質指標の測定値に基づき当該基本薬品注入率を補正することにより薬品注入率を新たに算出してこれを当該薬品注入ポンプの制御因子として出力する一方で前記最適薬品注入率演算手段に供する薬品注入率演算手段と
を備えたこと
を特徴とする薬品注入制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−94686(P2013−94686A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236741(P2011−236741)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【出願人】(591007136)ドリコ株式会社 (1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【出願人】(591007136)ドリコ株式会社 (1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
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