説明

薬液自己注入器、および薬液自己注入システム

【課題】薬液の追加注入が必要な時に、患者が薬液の自己注入を簡単かつ確実に行うことができる薬液自己注入器を提供する。
【解決手段】薬液自己注入器1は、薬液充填口110と薬液排出口120とを有する薬液収納部100と、薬液の追加注入時に薬液収納部100を加圧変形させ、薬液を押し出す加圧手段200と、薬液収納部100および加圧手段200を内包する外装ケース10と、薬液を充填するための薬液充填チューブ12と、薬液の追加注入時に薬液を排出するための薬液排出チューブ15と、薬液を持続的に送るための薬液持続チューブ14と、薬液を患者に注入するための薬液注入チューブ13と、薬液排出チューブ内の薬液の流通を制御する挟持手段300とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者自身が薬液を自己の体内に注入するための薬液自己注入器、およびこれを用いた薬液自己注入システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術等の処置が済んだ後、疼痛を軽減するために患者に対してしばらく鎮痛剤を処方することが多い。通常、カテーテルを用いて、鎮痛剤を含んだ薬液を患者の体内に持続的に注入している。
【0003】
しかし、患者の症状や体質は様々であり、当初の処方では、時間の経過と共に激しい痛みを訴える者も少なくない。この場合、痛みを緩和するためには、鎮痛剤の一時的な大量投与が必要となる。そして、このようなときには、医師や看護師を呼ばずとも、患者自身が鎮痛剤を含んだ薬液を一時的に多く体内に注入できれば簡便である。
【0004】
そのような薬液自己注入器としては、いくつか例が知られている。例えば、薬液保存瓶とカテーテルの中間部に、薬液収納部と押しボタンを備えた小型の器具を設けて、それを患者の腕にセットできるようにしたものがある(特許文献1)。これによれば、押しボタンを押して、薬液収納部を圧縮すると、中の薬液が患者の体内に注入されるようになっている。また、押しボタンとバネを組合せることで、患者の押す力によらず、ほぼ一定の圧力で薬液を押し出せるようにしたものもある(特許文献2)。さらに、押しボタンを一度押すだけで薬液の注入が自動的に開始され、薬液の注入が終わると自動的に押しボタンが解除されるようになっているものもある(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特表昭63−501195号公報
【特許文献2】特開平08−308925号公報
【特許文献3】特開平10−258121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の薬液自己注入器では、いずれも、薬液保存瓶からカテーテルまでの中間部分に、薬液収納部と一体となった薬液注入器を設けてあるだけであり、通常時は薬液がその薬液収納部を常時通過している。それ故、薬液収納部の構造によっては、薬液の漏れを生じやすい。また、患者の体の動き如何では、薬液が薬液収納部を通過する際に流量が変動するおそれもある。
一方、特許文献3では、自動的に薬液自己注入器の押しボタンが解除されるようになっているが、解除するための回転部が設けてあるなど構造がやや複雑であり、安定動作のためには改良の余地がある。
【0007】
そこで本発明は、薬液の追加注入が必要な時に、患者が薬液の自己注入を簡単かつ確実に行うことができ、また、通常の持続注入時においては、薬液収納部からの液漏れがしにくい薬液自己注入器、およびこれを用いた薬液自己注入システムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、自己注入操作において、薬液注入の設定が自動的に解除される簡便で確実な機構を有する薬液自己注入器、およびこれを用いた薬液自己注入システムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薬液自己注入器は、薬液充填口および薬液排出口を有する薬液収納部と、薬液の追加注入時に前記薬液収納部を加圧変形させ、薬液を押し出す加圧手段と、前記薬液収納部および前記加圧手段を内包する外装ケースとを備えた薬液自己注入器であって、前記薬液充填口に接続され、前記薬液収納部に薬液を充填するための薬液充填チューブと、前記薬液排出口に接続され、前記追加注入時に前記加圧手段により薬液収納部が加圧変形されて内部の薬液を排出するための薬液排出チューブと、前記薬液排出チューブに合流部において合流し、薬液を持続的に送るための薬液持続チューブと、前記薬液排出チューブに前記合流部において合流し、前記薬液排出チューブおよび前記薬液持続チューブから流入する薬液を患者に注入するための薬液注入チューブと、前記薬液排出口の近傍で、かつ、前記合流部の手前に位置する挟持部分において、前記薬液排出チューブ内の薬液の流通を制御する挟持手段とを備え、前記挟持手段は、前記薬液排出チューブを挟持するための上部挟持部材と下部挟持部材とを含んで構成されるとともに、前記下部挟持部材を前記上部挟持部材に向かって付勢する挟持用弾性体を有し、前記追加注入時以外には、前記薬液排出チューブは、前記挟持用弾性体の付勢力により加圧される下部挟持部材と、対向する上部挟持部材とで挟持されて断面が閉塞し、前記挟持部分において、内部の薬液が実質的に流動せず、前記追加注入時には、前記加圧手段により前記下部挟持部材が挟持用弾性体の付勢力に抗して押し戻されて前記薬液排出チューブの断面が開き、前記挟持部分において内部の薬液が流動可能となり、前記薬液収納部に充填された薬液が前記薬液排出チューブを通して排出されることを特徴とする。
【0009】
ここで、追加注入時とは、上述のように、加圧手段により薬液収納部が加圧変形された時をいう。例えば、患者が体の痛みを覚え、押しボタン等の加圧手段を用いて薬液収納部の加圧変形を行った時である。
本発明によれば、薬液自己注入器には、薬液収納部に薬液を充填するための薬液充填チューブと、追加注入時にのみ薬液を排出する薬液排出チューブが接続されており、通常時には、薬液収納部を薬液が通過・流動することがないため、薬液収納部からの液漏れを起こす可能性が少ない。すなわち、追加注入時以外は、薬液持続チューブからの薬液は、合流部を経由して薬液注入チューブに持続的に流れており、薬液収納部には流入しないようになっている。
一方、追加注入時には、上述の加圧手段は、通常時に薬液排出チューブを塞いでいた挟持手段を解除するとともに、薬液収納部内の薬液を薬液排出チューブおよび薬液注入チューブを通して速やかに患者の体内に注入する。すなわち、この加圧手段によれば、必要な時に薬液収納部内の薬液を速やかに患者の体内に注入することができる。
【0010】
本発明では、前記加圧手段は、加圧により変形可能なバネ弾性体と、前記バネ弾性体による弾性力を前記薬液収納部に伝達する板状体と、これらを内包して前記外装ケースの内壁に沿って直線状に移動可能な加圧部材とを含んで構成され、前記加圧部材は追加注入時に前記下部挟持部材に当接してこれを押し戻すことのできる張出部を備えていることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、加圧手段として、加圧により変形可能なバネ弾性体を用いているので、患者が加圧手段に加える力の如何にかかわらず、バネ弾性体による所定の弾性力により薬液収納部を圧縮するため、薬液収納部から排出される薬液の排出速度を一定の範囲に制限することができる。すわなち、薬液の排出速度が速すぎて薬液チューブが薬液収納部からはずれたり、薬液が漏れたりすることを防止できる。さらに、薬液の注入速度が所定の範囲内であり、速すぎたり遅すぎたりしないため、患者にとっても、肉体上の危険や負担が少ない。
【0012】
また、バネ弾性体と薬液収納部の間には、バネ弾性体による弾性力を薬液収納部に伝達する板状体が介在しているため、バネ弾性体の動きを確実に薬液収納部に伝えることができる。
さらに、この加圧手段は、外装ケースの内壁に沿って直線状に移動可能な加圧部材を有するため、簡易な構成でありながら、確実に薬液収納部を加圧変形することができる。
この加圧部材は、押しボタンとして患者により押し下げられた時に、下部挟持部材に当接してこれを押し戻すことのできる張出部を備えている。それ故、追加注入時には、薬液排出チューブの断面を閉じるように作用していた下部挟持部材の圧力が封じられ、薬液排出チューブの断面が開くことで、薬液収納部内の薬液の排出が可能となる。
【0013】
本発明では、前記加圧部材は、面対象あるいは点対象に配置された複数の係合部を備え、前記上部挟持部材は、面対象あるいは点対称に配置された複数の係合突起を備え、前記追加注入時に、前記係合部と前記係合突起とが係合できる構造を有していることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、加圧手段の加圧部材と、薬液排出チューブを挟持するための上部挟持部材は、相互に係合する係合部と係合突起をそれぞれ有しているため、追加注入時に加圧部材と上部挟持部材とを確実に係合・固定できる。それ故、加圧手段のバネ弾性体を所定の圧縮位置で固定でき、追加注入時に安定して薬液を薬液収納部から排出することが可能となる。
しかも、係合部、および係合突起は各々複数あるとともに、各々の本体部において、面対象あるいは点対称に配置されているため、加圧部材と上部挟持部材との係合がより安定して確実に行われる。
【0015】
本発明では、前記板状体は、前記薬液収納部の加圧変形が終了したときに、前記係合突起に作用して、前記係合部と前記係合突起による係合を解除するための係合解除突起を複数有していることが好ましい。
ここで、薬液収納部の加圧変形が終了したときとは、薬液収納部が前もって定められた変形状態となったときをいう。たとえば、追加注入時における患者への薬液注入量を3ccと決めた場合には、薬液収納部の内容積が3cc減少した状態を意味する。
【0016】
本発明によれば、バネ弾性体による弾性力を薬液収納部に伝達する板状体が、上述の係合解除用の突起を有しているため、薬液収納部の加圧変形が終了する時点で、自動的に係合が解除され、バネ弾性体から薬液収納部への弾性力がなくなるため、薬液の排出(患者への薬液追加注入)が停止される。それ故、患者は、押しボタン等の加圧手段を一度起動させるだけで、あとは何らの操作も必要なく、安全確実に薬液の追加注入を行い、終了させることができる。
また、この弾性力がなくなることで、薬液排出チューブは、挟持用弾性体の付勢力により、下部挟持部材と上部挟持部材とで再び挟持されて断面が閉塞する。その結果、薬液は、薬液持続チューブから合流部および薬液注入チューブを通って、再び持続的に患者に流れるようになる。
【0017】
本発明の薬液自己注入システムは、上述の薬液自己注入器と、薬液押出機構を備えた薬液保存容器とを含み、前記薬液押出機構により、前記薬液保存容器に貯蔵された薬液が前記薬液自己注入器に流入するように構成されていることを特徴とする。
この薬液押出機構とは、薬液保存容器内部の薬液を常時安定して薬液自己注入器に送るための機構であって、例えば、バルーンが好適に用いられる。バルーンは、薬液を含んで膨らんだ状態の風船状の薬液保存体であり、弱い収縮力を持つ。そのため、内部の薬液を常時安定して薬液自己注入器に送ることができ、薬液自己注入器は上述の効果を奏することができる。その他、例えば、バネを備えた注射器も薬液押出機構として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
(1)外観構成
図1には、本実施形態に係る薬液自己注入器1と薬液保存容器2とから構成される薬液自己注入システム3を模式的に示した。
薬液自己注入器1は、患者が片手で持てる程度の大きさの外装ケース10、押しボタンを兼ねる加圧部材11、薬液充填チューブ12、薬液注入チューブ13、および、薬液持続チューブ14を備えている。外装ケース10や加圧部材11は、例えばABS等の合成樹脂などで成形されている。
薬液注入チューブ13と薬液持続チューブ14は、外装ケース10の内部で合流し、合流部130から薬液収納部100までは薬液排出チューブ15により接続されている。
【0019】
薬液保存容器2に接続される1本の薬液チューブ20は、分岐して、コネクタ22により薬液充填チューブ12、および、薬液持続チューブ14に接続される。
薬液保存容器2の内部にはバルーン21が配設されており、バルーン21の内部には所定の薬液が充填されている。バルーン21の材質はエラストマーが好適であり、本実施形態ではシリコーンゴムを用いている。バルーン21の内部の薬液は、このシリコーンゴムの収縮力により、外部に送出されるようになっている。
【0020】
薬液充填チューブ12は、後述する薬液の追加注入が終了した後に薬液収納部100(図2)に薬液を充填するために用いられ、通常時には薬液は流れない。
薬液注入チューブ13は、追加注入時、通常時とも薬液を患者の体内に注入するために用いられ、先端部はカテーテル(図示せず)に接続されている。薬液注入チューブ13の途中には気泡を抜くためのエアベントフィルタ131が設けられている。
薬液持続チューブ14は、通常時に薬液を薬液注入チューブ13を経由して患者の体内に薬液を持続的に注入するために用いられる。なお、薬液持続チューブ14を流れる薬液は、薬液収納部100に流入することなく、合流部130を迂回して薬液注入チューブ13に流入するが詳細は後述する。
【0021】
これらの各薬液チューブの材料としては、透明で柔軟性のあるものが好ましく、エラストマーがより好ましい。例えば、ポリオレフィン(LDPE,LLDPE等)系エラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、軟質塩化ビニル樹脂、EVAなどが好適に使用できる。
【0022】
(2)内部構成
図2〜図4は、薬液自己注入器1の内部構成を示す図である。具体的には、図2は、外装ケース10からトップケース10Aをはずして、これらを並べた図である。図3は、外装ケース10内部の本体部分の斜視図である(薬液収納部100と各薬液チューブを外している)。図4は、薬液自己注入器1全体の分解斜視図である。
【0023】
外装ケース10の内部には、薬液自己注入器1の本体が収容されており、この本体は、薬液収納部100と、薬液収納部100を加圧する加圧手段200と、薬液排出チューブ15を挟持する挟持手段300とを備えて構成される。
外装ケース10を構成するトップケース10A、および、ボトムケース10Bには、各々スリット状の孔10Cが対向して形成されている。このスリット状の孔10Cは、外装ケース10と加圧部材11とが組み合わされたときに、後述する板状体のガイドが挿入されるようになっており、板状体が薬液収納部100を円滑に圧縮できるよう作用する。
【0024】
薬液収納部100は、蛇腹状の構造体であり、内部に所定量の薬液を保持することが可能となっている。この蛇腹状の構造体は軟質の材料により構成されることが好ましい。軟質の材料を用いることにより、薬液収納部100の圧縮・膨張変形を行うことが容易となり、内部への薬液の導入・外部への排出も容易となる。本実施形態では低密度ポリエチレン(LDPE)を用いている。
薬液収納部100には、薬液充填口110と薬液排出口120が形成されている。薬液充填口110には、薬液充填チューブ12が接続され、薬液排出口120には薬液排出チューブ15が接続されている。
薬液排出チューブ15の末端には、合流部130が設けられ、薬液注入チューブ13、および、薬液持続チューブ14が合流している。
【0025】
加圧手段200は、押しボタンを兼ねる頭部を持った円筒状の加圧部材11と、薬液収納部100に密着する円板状の板状体220と、この板状体220を弾性力で加圧するバネ弾性体230とを含んで構成される。
加圧部材11は、外装ケース10から若干外部に突出しており、頭部はフラットになっている。この頭部はあまり外装ケース10から突き出ないように構成されている。つまり、患者がこの加圧部材(押しボタン)11を押すと、加圧部材11は、外装ケース10の内壁に沿って直線状に移動するが、外装ケース10の内部まで押し込まなければ、後述の上部挟持部材との係合はできないようになっている。患者がうっかりボタンにふれた程度で薬液が急に追加注入される危険を防ぐためである。
【0026】
加圧部材11の側壁には、長方形状の2つの開口212(図3)が対向して形成されている。また、この側壁には2つのスリット213が同様に対向して形成されている。これらの開口212とスリット213とは、90度ずれた位置に形成されている。
開口212の4辺のうち、下部の1辺は後述の上部挟持部材と係合する係合部212Aとして作用する。
また、加圧部材11には、スリット213を介して二股に別れた一対の張出部210が2つ対向して設けられている。この張出部210は、加圧部材11が押されたときに、後述する下部挟持部材を押し下げるように作用する。
【0027】
板状体220の外周には、断面が長方形状のガイド222が2つ設けられ、このガイド222は、前述のスリット213を突き抜けてさらに外装ケース10の側壁に設けられたスリット状の孔10Cにも挿入されるようになっている。
また、板状体220は、2個の係合解除突起221を備えており、この係合解除突起221は、薬液収納部100が加圧により縮小変形するとともに移動し、後述の係合突起を広げて、係合部212Aと係合突起による係合を解除するように作用する。
【0028】
バネ弾性体230は、加圧部材11が押されたときに圧縮変形され、その弾性力を板状体220を介して、薬液収納部100に伝える。
【0029】
挟持手段300は、薬液排出チューブ15を挟持するための上部挟持部材310と下部挟持部材320とから構成されるとともに、下部挟持部材320を上部挟持部材に向かって付勢する弁バネ(挟持用弾性体)330が装着されている。この弁バネ330は、下端当接部材10Dに接している。
上部挟持部材310は、両端が略90度同一方向に曲げられた扁平角柱状の構造をしており、外装ケース10内で固定されている。それ故、バネ弾性体230等による力を受けても移動しないようになっている。また、上部挟持部材310の両端には、開口212の係合部212Aと係合するための係合突起311が各々設けられている。これら2つの係合突起311は、本体である上部挟持部材310において面対称に配設されている。
薬液の追加注入時には、この係合部212Aと係合突起311とが係合することで、加圧部材11の内部にあるバネ弾性体230・板状体220が安定して薬液収納部100を圧縮できるようになる。
【0030】
下部挟持部材320は、上部挟持部材310と弁バネ330の間に位置し、外装ケース10の長手方向に若干移動できるようになっている。ここで、弁バネ330は、下端当接部材10Dと下部挟持部材320とで常時圧縮されており、下部挟持部材320を付勢力にて押し上げるように作用する。それ故、追加注入時以外には、薬液排出チューブ15は、弁バネ330の付勢力により押圧される下部挟持部材320と、対向する上部挟持部材310とで挟持されて断面が閉じ、この挟持部分340において、内部の薬液の流動はできないようになっている。
一方、追加注入時には、加圧部材11の張出部210により下部挟持部材320が押し戻されて薬液排出チューブ15の断面が開き、挟持部分340において内部の薬液が流動可能となり、薬液収納部100に充填された薬液が薬液排出チューブ15を通して排出される。
【0031】
(3)薬液自己注入器1の動作
以下に、図5〜図10をもとにして、本実施形態における薬液自己注入器1の動作を具体的に説明する。各図とも、動作中の薬液自己注入器1を側面から見た断面図であり、(A)と(B)は、各々視点を90度ずらしたものである。
【0032】
図5は、いわゆる通常時における薬液自己注入器1を示した図である。
薬液保存容器2(図1)から送られてきた薬液は薬液持続チューブ14を通り、合流部130を経由して薬液注入チューブ13に流れている。薬液注入チューブ13はカテーテル(図示せず)に接続され、患者の体内には常時薬液が流れている。
薬液排出口120近傍に位置する挟持部分340では、薬液排出チューブ15は、上部挟持部材310、および、下部挟持部材320に挟持されている。弁バネ(挟持用弾性体)330の付勢力により下部挟持部材320は常時押し上げられており、薬液排出チューブ15は、挟持部分340で閉じられている。
【0033】
図6は、患者が、押しボタンである加圧部材11を押し込んだ追加注入時の状態を示している。
加圧部材11は、押し込まれると、加圧部材11の両側壁にある開口212の下部に形成された係合部212Aが、上部挟持部材310の両端に形成された係合突起311と係合する。
一方、加圧部材11の張出部210は、下部挟持部材320に当接しながらこれを押し戻し、薬液排出チューブ15を挟持する付勢力を付与していた弁バネ(挟持用弾性体)330の作用を封じる。その結果、薬液排出チューブ15が挟持部分340で開口し、薬液収納部100内の薬液が排出可能となる。
【0034】
図7は、バネ弾性体230の弾性力により、板状体220を介して薬液収納部100が圧縮されていく状態を示した図である。
この段階では、薬液収納部100内の薬液が、薬液排出口120、合流部130を経由して薬液注入チューブ13内に急速に流入する。そして、患者の体内には、通常時の薬液流入量を上回る量の薬液が短時間で注入される。
なお、薬液充填チューブ12、および薬液持続チューブ14は内部抵抗が高く、また、バルーン21(図1)の圧力もあって、逆流は事実上起こらないようになっている。もちろん、これらに逆止弁が設けてあってもよい。
【0035】
図8は、薬液収納部100の圧縮が終了間際となった状態であり、降下しつつある板状体220に設けられた係合解除突起221が、上部挟持部材310の両端に位置する係合突起311を広げていく様子を示している(図8B)。
【0036】
図9は、この係合解除突起221が、係合突起311を広げきった結果、加圧部材11と、上部挟持部材310との係合が解除された瞬間を示している。この係合解除により、加圧部材11はフリーな状態となって、内部のバネ弾性体230に加えていた圧力もなくなるため、薬液収納部100からの薬液排出は停止する。
同時に、弁バネ330を抑えていた加圧部材11(張出部210)は、逆に、弁バネ330の付勢力により跳ね上げられる。
同時に、薬液排出チューブ15は、この弁バネ330の付勢力を受けた下部挟持部材320により再び閉じられる。
【0037】
図10は、薬液充填チューブ12を経由して薬液収納部100内に薬液が充填されていく様子を示している。
なお、薬液充填中であっても、薬液持続チューブ14から合流部130を経由して薬液注入チューブ13内に薬液が流入しているのは、図5の場合と同様である。
【0038】
上述のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)追加注入時以外は、薬液持続チューブ14からの薬液は、合流部130を経由して薬液注入チューブ13に持続的に流れており、薬液収納部100には流入しないようになっている。すなわち、薬液収納部100を薬液が通過・流動することがないため、薬液収納部100からの液漏れを起こす可能性が少ない。
一方、追加注入時には、薬液排出チューブ15を塞いでいた挟持手段300が解除されるとともに、薬液収納部100内の薬液を薬液排出チューブ15、および薬液注入チューブ13を通して速やかに患者の体内に注入できる。
【0039】
(2)加圧手段200として、加圧により変形可能なバネ弾性体230を用いているので、患者が加圧手段200に加える力の如何にかかわらず、バネ弾性体230による所定の弾性力により薬液収納部100を圧縮するため、薬液収納部100から排出される薬液の排出速度を一定の範囲に制限することができる。すわなち、薬液の排出速度が速すぎて薬液排出チューブ15が薬液収納部100からはずれたり、薬液が漏れたりすることを防止できる。さらに、薬液の注入速度が所定の範囲内であり、速すぎたり遅すぎたりしないため、患者にとっても、肉体上の危険や負担が少ない。
【0040】
(3)バネ弾性体230と薬液収納部100との間には、バネ弾性体230による弾性力を薬液収納部100に伝達する板状体220が介在しているため、バネ弾性体230の弾性力を確実に薬液収納部100に伝えることができる。
【0041】
(4)加圧手段200は、外装ケース10の内壁に沿って直線状に移動可能な加圧部材11を有するため、簡易な構成でありながら、確実に薬液収納部100を加圧変形することができる。
この加圧部材11は、押しボタンとして患者により押し下げられた追加注入時に、下部挟持部材320に当接してこれを押し戻すことのできる張出部210を備えている。それ故、追加注入時には、薬液排出チューブ15の断面を閉じるように作用していた下部挟持部材320の圧力が封じられ、薬液排出チューブ15の断面が開くことで、薬液収納部内の薬液の排出が可能となる。
【0042】
(5)薬液収納部100は、軟質の低密度ポリエチレン(LDPE)を用いて構成されているので、薬液収納部100の圧縮・膨張変形を行うことが容易となり、内部への薬液の導入・外部への排出も容易となる。薬液収納部100の剛性が高いと、薬液収納部100自体が薬液を吸引する力を持つようになり、薬液充填時間が短くなりすぎて好ましくない。
【0043】
(6)加圧手段200の加圧部材11と、薬液排出チューブ15を挟持するための上部挟持部材310は、相互に係合する係合部212Aと係合突起311をそれぞれ有しているため、追加注入時に加圧部材11と上部挟持部材310とを確実に係合・固定できる。それ故、加圧手段200のバネ弾性体230を所定の圧縮位置で固定でき、追加注入時に安定して薬液を薬液収納部100から排出することが可能となる。
しかも、係合部212A、および係合突起311は各々複数あるとともに、各々の本体部において、面対称に配置されているため、加圧部材11と上部挟持部材310との係合がより安定して確実に行われる。
【0044】
(7)バネ弾性体230による弾性力を薬液収納部100に伝達する板状体220が、係合解除突起221を有しているため、薬液収納部100の加圧変形が終了する時点で、自動的に係合が解除され、バネ弾性体230から薬液収納部100への弾性力がなくなるため、薬液の排出(患者への薬液追加注入)が停止される。それ故、患者は、加圧手段(押しボタン)200を一度押すだけで、あとは何らの操作も必要なく、安全確実に薬液の追加注入を行い、終了させることができる。
特に、係合解除突起221の動きは直線的であり、回転等の複雑な動作を伴わないので、確実に係合を解除することができる。
【0045】
(8)板状体220は、外周にガイド222を有しており、加圧部材11のスリット213や外装ケース10のスリット状の孔に挿入された状態で移動するため、薬液収納部100の圧縮が円滑に行われる。また、外装ケース10の外部から板状体220の位置が確認できるため、薬液の追加注入の度合いが容易に確認できる。
【0046】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【0047】
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易に
するために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの
形状、材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明
に含まれるものである。
【0048】
例えば、前記実施形態では、薬液収納部100として、蛇腹状の容器を採用していたが、本発明はこれに限られず、柔軟で可撓性に富んだ樹脂製の袋を用いてもよい。
また、薬液保存容器2から伸びた薬液チューブ20や薬液充填チューブ12には、流量制御用の弁を設けてもよい。
さらにまた、前記実施形態では、薬液押出機構としてバルーンを用いたが、バルーンのかわりにバネを備えた注射器を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、必要な時に患者が薬液の自己注入を簡単かつ確実に行うことができる薬液自己注入器として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る薬液自己注入システムを示す模式図。
【図2】前記実施形態における薬液自己注入器の内部を示す側面図。
【図3】前記実施形態における薬液自己注入器内部の主要部分を示す斜視図。
【図4】前記実施形態における薬液自己注入器の分解斜視図。
【図5】前記実施形態における薬液排出・充填動作を示す断面図。
【図6】前記実施形態における薬液排出・充填動作を示す断面図。
【図7】前記実施形態における薬液排出・充填動作を示す断面図。
【図8】前記実施形態における薬液排出・充填動作を示す断面図。
【図9】前記実施形態における薬液排出・充填動作を示す断面図。
【図10】前記実施形態における薬液排出・充填動作を示す断面図。
【符号の説明】
【0051】
1・・・薬液自己注入器
2・・・薬液保存容器
3・・・薬液自己注入システム
10・・・外装ケース
11・・・加圧部材
12・・・薬液充填チューブ
13・・・薬液注入チューブ
14・・・薬液持続チューブ
15・・・薬液排出チューブ
100・・・薬液収納部
200・・・加圧手段
220・・・板状体
230・・・バネ弾性体
310・・・上部挟持部材
320・・・下部挟持部材
330・・・弁バネ(挟持用弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液充填口および薬液排出口を有する薬液収納部と、薬液の追加注入時に前記薬液収納部を加圧変形させ、薬液を押し出す加圧手段と、前記薬液収納部および前記加圧手段を内包する外装ケースとを備えた薬液自己注入器であって、
前記薬液充填口に接続され、前記薬液収納部に薬液を充填するための薬液充填チューブと、
前記薬液排出口に接続され、前記追加注入時に前記加圧手段により薬液収納部が加圧変形されて内部の薬液を排出するための薬液排出チューブと、
前記薬液排出チューブに合流部において合流し、薬液を持続的に送るための薬液持続チューブと、
前記薬液排出チューブに前記合流部において合流し、前記薬液排出チューブおよび前記薬液持続チューブから流入する薬液を患者に注入するための薬液注入チューブと、
前記薬液排出口の近傍で、かつ、前記合流部の手前に位置する挟持部分において、前記薬液排出チューブ内の薬液の流通を制御する挟持手段とを備え、
前記挟持手段は、前記薬液排出チューブを挟持するための上部挟持部材と下部挟持部材とを含んで構成されるとともに、前記下部挟持部材を前記上部挟持部材に向かって付勢する挟持用弾性体を有し、
前記追加注入時以外には、前記薬液排出チューブは、前記挟持用弾性体の付勢力により加圧される下部挟持部材と、対向する上部挟持部材とで挟持されて断面が閉塞し、前記挟持部分において、内部の薬液が実質的に流動せず、
前記追加注入時には、前記加圧手段により前記下部挟持部材が挟持用弾性体の付勢力に抗して押し戻されて前記薬液排出チューブの断面が開き、前記挟持部分において内部の薬液が流動可能となり、前記薬液収納部に充填された薬液が前記薬液排出チューブを通して排出されることを特徴とする薬液自己注入器。
【請求項2】
請求項1に記載の薬液自己注入器において、
前記加圧手段は、加圧により変形可能なバネ弾性体と、前記バネ弾性体による弾性力を前記薬液収納部に伝達する板状体と、これらを内包して前記外装ケースの内壁に沿って直線状に移動可能な加圧部材とを含んで構成され、
前記加圧部材は、前記追加注入時に前記下部挟持部材に当接してこれを押し戻すことのできる張出部を備えていることを特徴とする薬液自己注入器。
【請求項3】
請求項2に記載の薬液自己注入器において、
前記加圧部材は、面対象あるいは点対象に配置された複数の係合部を備え、
前記上部挟持部材は、面対象あるいは点対称に配置された複数の係合突起を備え、
前記追加注入時に、前記係合部と前記係合突起とが係合できる構造を有していることを特徴とする薬液自己注入器。
【請求項4】
請求項3に記載の薬液自己注入器において、
前記板状体は、前記薬液収納部の加圧変形が終了したときに、前記係合突起に作用して、前記係合部と前記係合突起による係合を解除するための係合解除突起を複数有していることを特徴とする薬液自己注入器。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の薬液自己注入器と、薬液押出機構を備えた薬液保存容器とを含み、前記薬液押出機構により、前記薬液保存容器に貯蔵された薬液が前記薬液自己注入器に流入するように構成されていることを特徴とする薬液自己注入システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−111179(P2007−111179A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304595(P2005−304595)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000103600)オーベクス株式会社 (12)
【Fターム(参考)】