説明

薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置

【課題】製剤用工室等の限られたスペースに設置可能で、薬物の分解を抑制し、瞬時かつ自動で大量の固体分散体の粉砕品を製造することが可能な薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置を提供する。
【解決手段】薬物の原料を溶融混練し、高粘度溶融状の固体分散体10を形成する溶融状固体分散体形成工程と、溶融状固体分散体形成工程により形成された高粘度溶融状の固体分散体10の表面積を飛躍的に増大させてシート状に冷却固化させる固体分散体冷却工程と、固体分散体冷却工程により冷却固化された冷却固化物11を粉砕する粉砕工程と、を行い、固体分散体の粉砕品12を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置に係り、特に溶融状の固体分散体を冷却粉砕して、固体分散体の粉砕品を製造する薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難溶性薬物の吸収改善において、薬物の非晶質化や水溶性重合体中の有効物質の固体分散体が生物学的利用能を高める有用なデバイスとして認識されている。固体分散体を用いて即時溶解型の錠剤に製するためには、固体分散体を賦形剤や崩壊剤等の各種医薬品用添加剤と混合できるように顆粒あるいは粉末状にする必要がある。
従来知られている非晶質体あるいは固体分散体の製造法には、噴霧乾燥技術あるいは溶融混練押し出し技術が多用されている。噴霧乾燥技術については、噴霧乾燥を終えた時点で粉末となっていることから、特に固体分散体を粉砕する必要はない。
一方、溶融混練押し出し技術においては、押出機のノズルから押し出された固体分散体は、溶融された紐状あるいは棒状であり、即時溶解型の錠剤とするためには押し出し後に冷却処理及び粉砕処理を行う必要がある。
【0003】
従来から溶融混練押し出しされた溶融物を冷却する技術として、溶融物をベルトコンベアー等の上に紐状あるいは棒状に押し出して冷却を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、溶融混練押し出しされた溶融物を加工して所望の形状に成形する技術が提案されている(例えば、特許文献3,4参照)。
特許文献1に記載の固体混合物の製造技術は、溶融物がノズルを通してベルトコンベアー上に押し出され、溶融押し出し物がベルトコンベアーで運ばれる間に空冷されるものである。
特許文献2に記載の冷却技術は、溶融物がベルトコンベアー上に押し出され、溶融物を冷却ガスが散布されているトンネル内に通して冷却するものである。
【0004】
特許文献3に記載の固体分散体の製造技術は、ダイや排出孔径の形状を変化させることで任意の大きさ、または任意の形状に溶融混練押し出しされた固体分散体を製造し、また押し出された溶融物はカッターで切断され、成形体は必要に応じて粉砕されるものである。
特許文献4に記載の成形ベルトカレンダー技術は、生成物の組成物を2つの逆回転可能なカレンダーロールからなる一対のロールへ供給するもので、装置は循環する成形ベルトを備え、成形ベルトは2つのロール間を通過させる。そして、成形ベルトは表面に生成物の組成物を受容するための凹所またはアパーチャーを有し、この凹所またはアパーチャー内に生成物の組成物を強制的に押し入れることにより、扁平な成形物、特に錠剤が製造されるものである。
【0005】
【特許文献1】特許第3310299号公報(第4頁、第1図)
【特許文献2】米国特許第4931232号明細書(コラム2、図1)
【特許文献3】国際公開第92/18106号パンフレット(第2,12,13頁)
【特許文献4】特表平11−514275号公報(第5−7頁、第1−3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の固体混合物の製造技術では、ベルトコンベアー上で空冷する場合に、ノズルから押し出される溶融物を細い紐状にする必要があり、ノズル直径を小さくすると、押し出し機内部の圧力上昇が避けられず、この圧力上昇によって、薬物が分解する可能性があるという問題があった。また、ノズル直径を大きくすると、薬物の分解は抑制できるものの、溶融物の直径が大きくなり、内部まで完全に冷却することが困難になるという問題があり、内部まで冷却できないと内部に溶融状態の部分が残り、その後の粉砕も困難になるという問題があった。さらに、ベルトコンベアーを設置するために広大な工室が必要であり、通常の製剤用工室への設置が困難であるという不都合があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の冷却技術は、プラスチックパイプの押し出し成形等で使用される技術であり、ノズル吐出直後にある程度の硬さを有する製品にのみ使用可能である。そのためノズル吐出直後に飴状のように高粘度になることが多い医薬製品の製造には適さないという問題がある。
【0008】
また、特許文献3に記載の固体分散体の製造技術では、溶融物を切断するカッターに冷却機能がなく、溶融物を切断すること自体が困難であるという問題があった。つまり、医薬製品における溶融物の多くは飴状で粘性が高いため、溶融物がカッターに巻きつくように付着してしまい、切断が困難になってしまう。なお、ノズル温度を下げて溶融物を固くすることも可能だが、押し出し自体が困難になる上、溶融混練機内部の圧力が上がり薬物の分解を抑制できない可能性があるという問題がある。また、カッターで切断した後、必要に応じて粉砕する構成としているため、粉末状の固体分散体を製造する場合には、時間も場所も要するという不都合があった。
【0009】
また、特許文献4に記載の成形ベルトカレンダー技術では、扁平な成形物は得られるものの、即時溶解に適した固体分散体の粉末は得られない。なお、ロール面の形状によっては、冷却後に粉砕することも可能であるが、時間も場所も要するという不都合が生じる。
【0010】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、薬物の分解を抑制し、瞬時かつ自動で大量の固体分散体の粉砕品を製造することが可能な薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、広大な工室を必要とすることがなく、製剤用工室等の限られたスペースに設置可能な薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法によれば、薬物の溶融状の固体分散体を冷却粉砕して固体分散体の粉砕品を製造する薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法であって、薬物の原料を溶融混練し、高粘度溶融状の固体分散体を形成する溶融状固体分散体形成工程と、前記溶融状固体分散体形成工程により形成された前記高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させてシート状に冷却固化させる固体分散体冷却工程と、前記固体分散体冷却工程により冷却固化された固体分散体を粉砕する粉砕工程と、を備えたことにより解決される。
【0012】
このように、本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法では、高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させてシート状に冷却固化させる固体分散体冷却工程により、溶融された高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させて瞬時に冷却することが可能である。また、高粘度溶融状の固体分散体が、表面積を飛躍的に増大させながら冷却されるので、薬物の分解を抑制しつつ固体分散体をシート状に形成することが可能である。また、固体分散体冷却工程により冷却固化されたシート状の固体分散体を粉砕する構成としているため、瞬時かつ自動で大量の薬物用固体分散体の粉砕品を製造することが可能である。
【0013】
また、前記固体分散体冷却工程では、冷却された対向する一対のロール面の間隙に前記高粘度溶融状の固体分散体を挟み込んで延伸させ、表面積を飛躍的に増大させてシート状に冷却固化させた構成すると好適である。このように構成すると、冷却された対向するロール面上で高粘度溶融状の固体分散体を瞬時に延伸させて、高粘度溶融状の固体分散体をシート状に冷却固化することが可能である。
【0014】
また、前記課題は、本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置によれば、薬物の溶融状の固体分散体を冷却粉砕して固体分散体の粉砕品を製造する薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置であって、薬物の原料を溶融混練して高粘度溶融状の固体分散体を形成し、該高粘度溶融状の固体分散体をノズルから押し出す溶融押出機と、互いに内側に向けて回転し、前記溶融押出機によって押し出された前記高粘度溶融状の固体分散体を挟み込んで、前記高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させると共にシート状に冷却固化する冷却された一対のローラーを備えた冷却延伸装置と、前記冷却延伸装置の下方に配され、前記冷却延伸装置によって冷却固化された固体分散体を粉砕する粉砕機と、粉砕された粉砕品を受ける粉砕品受器と、を備えたことにより解決される。
【0015】
このように、本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置では、冷却延伸装置によって、高粘度溶融状の固体分散体を冷却されたローラーの間隙に挟み込んで高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させると共にシート状に冷却固化することにより、高粘度溶融状の固体分散体を瞬時に冷却することが可能である。また、冷却延伸装置の下方に粉砕機や粉砕品受器を配することにより、少ないスペースで連続して、瞬時かつ自動で大量の薬物用固体分散体の粉砕品を製造することが可能である。
【0016】
また、前記冷却延伸装置を構成する前記一対のローラーには、前記冷却固化された固体分散体のローラーへの巻きつきを防止するスクレーパーが設けられていると好適である。このように構成すると、湾曲して形成される冷却固化された固体分散体のローラーへの巻きつきを防止することが可能である。
【0017】
また、前記一対のローラーの間隙距離が調整可能であると好適である。このように構成すると、圧延される固体分散体の厚みを変化させ、冷却効率を変えることが可能である。さらに、形成される冷却固化された固体分散体の厚さが調整されることにより、粉砕後の粉砕品の大きさを調整することができる。また、ローラーの間隙距離を調整することにより、高粘度溶融状の固体分散体にかかる圧縮圧力を制御することが可能である。
【0018】
また、前記一対のローラーの回転数が調整可能であると好適である。このように構成すると、高粘度溶融状の固体分散体の処理速度を調整することができる。そしてローラーの回転数が調整されることにより高粘度溶融状の固体分散体のローラー接触時間、つまり高粘度溶融状の固体分散体の冷却時間が調整される。
また、前記一対のローラーの温度が調整可能であると好適である。このように構成すると、ローラーを高粘度溶融状の固体分散体がローラー表面に付着することなく、圧縮・圧延できる温度に適宜温度制御することが可能である。
【0019】
また、前記一対のローラーと、前記粉砕機と、前記粉砕品受器は、一つの筐体に備えられていると好適である。
また、前記筐体の底部には移動用キャスターが配設され、前記筐体が移動可能であると好適である。このように構成すると、冷却粉砕機を錠剤の製造場所等へ移動することができ、好適である。
【0020】
また、前記筐体の上部には、前記溶融押出機の前記ノズルから押し出される前記高粘度溶融状の固体分散体を受け、該高粘度溶融状の固体分散体を前記一対のローラーの間隙に向けて流下させる傾斜板が設けられていると好適である。このように構成すると、溶融押出機から押し出された高粘度溶融状の固体分散体を冷却させながら一対のローラーの間隙まで流下させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置によれば、高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させ、瞬時に冷却することが可能である。また、高粘度溶融状の固体分散体が、表面積を飛躍的に増大させながら冷却されるので、薬物の分解を抑制しつつ固体分散体をシート状に形成することが可能である。なお、冷却された状態においては薬物の反応速度が落ちるため、圧縮を行っても薬物の分解を抑制することが可能である。
また、装置においては、冷却延伸装置によりノズルから排出された固体分散体を薄く引き延ばすため、高粘度溶融状の固体分散体を排出させるノズルとして口径の大きなものを用いることができ、溶融押出機内部の圧力上昇による薬物分解を防止することが可能である。
【0022】
さらに、高粘度溶融状の固体分散体をシート状に冷却固化して粉砕した構成としているため、瞬時かつ自動で大量の固体分散体の粉砕品を製造することが可能である。また、装置においては、従来のベルトコンベアー等を設ける装置に比して小型であり、製剤用工室等の限られたスペースに設置することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1〜3は本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法及びその装置の一実施形態に係るものであり、図1は薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置の説明図、図2は他の実施形態を示す薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置の説明図、図3は冷却延伸装置のブロック説明図である。
【0024】
本発明の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置は、薬物の溶融状の固体分散体を冷却粉砕して固体分散体の粉砕品を製造する装置として適用されるものである。本例の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置1は、図1に示すように、薬物の原料を溶融混練して高粘度溶融状の固体分散体を冷却粉砕機2側へ押し出すエクストルーダー(溶融押出機)80と、押し出された高粘度溶融状の固体分散体10を挟み込んでシート状に冷却固化する一対のローラー20a,20bを備えた冷却延伸装置20と、冷却固化物11を粉砕する粉砕機40と、粉砕された粉砕品12を受ける粉砕品受器50とを主要構成要素としている。
【0025】
本例では、一対のローラー20a,20bと、粉砕機40と、粉砕品受器50が一つの筐体3に配されて冷却粉砕機2を構成している。なお、本例の冷却粉砕機2は、溶融押出機であるエクストルーダー80の下方に配置して使用される。
【0026】
図1に基き、薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法について説明する。本例では、エクストルーダー80から押し出された高粘度溶融状の固体分散体10が、冷却延伸装置20によりシート状(板状)に冷却固化される。本例の冷却延伸装置20は、一対のローラー20a,20bと、不図示のローラー駆動装置と、ローラー軸移動装置と、冷却装置と、制御装置とを備えている。本例の冷却延伸装置20は、一対のローラー20a,20bの内部に冷却媒体を流通させてローラー表面を冷却させているもので、高粘度溶融状の固体分散体10がローラーの間隙に挟み込まれることにより瞬時に圧縮・冷却され、シート状(板状)に冷却固化される。そして、冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bから落下した冷却固化物11が粉砕機40によって粉砕される。
【0027】
エクストルーダー80は、薬剤の原料の溶融混練等の処理を行い、ノズル81から高粘度溶融状の固体分散体10を押し出す。なお、処理原料は不図示の定量供給機から、エクストルーダー80のホッパ90へ投入される。エクストルーダー80は、1軸エクストルーダー及び多軸エクストルーダーを用いることができるが、特に2軸エクストルーダー(例えば、KEX−25型エクストルーダー、栗本鐵工所社製)を用いると好適である。2軸エクストルーダーは、2本のスクリュー軸から構成されており、一方のスクリューの外周縁が他方のスクリューをこするように回転するので、付着性の原料でもスムーズに前方へ押し出すことができる。また、2軸エクストルーダーはバレルとの摩擦熱が少ないため温度コントロールがし易く、医薬品等にとって有利である。なお、エクストルーダー80は、吐出圧力が0.0〜0.6kg/cmとなるようにすると好適である。
【0028】
エクストルーダー80の温度は、高粘度溶融状の固体分散体を押し出せる温度で固体分散体が形成される温度に適宜調整することが可能である。このため、スクリューが内蔵されるケーシングには、その外面にジャケットが設けられ、そのジャケットは、スクリューの軸方向に第1室、第2室、第3室のように分割されている。また、スクリューの回転数はエクストルーダーの機種や種類、原料、スクリューの形状等によって適宜設定することができ、使用するエクストルーダーの許容範囲内で設定できる。なお、スクリューの回転数は20〜300rpmに設定されると好適である。
【0029】
本例では、後述するように、ノズル81から押し出された高粘度溶融状の固体分散体10がノズル81の下方に配置される冷却延伸装置20のローラー20a,20bの間隙に直接流下するように構成されており、下方に配置された冷却延伸装置20により薄く引き延ばされるので、高粘度溶融状の固体分散体10を細い紐状等に形成する必要がなく、口径の大きなノズル81を用いることが可能である。このため、エクストルーダー80内部の圧力上昇を防止し、薬物の分解を抑制することが可能である。なお、本例のノズル81は、内径10mmΦのものを用いているが、ノズル81の口径はこれに限定されるものではない。
【0030】
本例の冷却粉砕機2はエクストルーダー80の下方に配置されており、ノズル81の排出口82がローラー20a,20bの間隙の垂直方向上方に位置するように配置されている。なお、本例の筐体3の上部略中央には、開口部4が形成されている。これにより、エクストルーダー80から排出された高粘度溶融状の固体分散体10が冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bの間隙に直接流下する。
【0031】
また、図2に示すように、筐体3の開口部4に傾斜板70を設けて、ノズル81の排出口82が傾斜板70上部の上方に位置するように構成してもよい。この場合、傾斜板70を介して高粘度溶融状の固体分散体10を冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20b側へ流下させる。なお、傾斜板70を冷媒により冷却して、高粘度溶融状の固体分散体10が傾斜板70を通過する間に冷却されるように構成してもよい。
【0032】
図3に示すように、冷却延伸装置20は、ローラー20a,20bと、冷却装置21と、ローラー駆動装置22と、ローラー軸移動装置23と、制御装置24とを備えている。
冷却装置21は、ローラー20a,20b内部に冷媒を循環させるように構成されており、ローラー20a,20b内部に供給される冷媒の温度が制御装置24によって制御される。ローラー20a,20bの冷却方法は特に限定されないが、例えば、ローラー20a,20b内に中空部を形成し、ローラー回転軸に取付けたロータリージョイントから冷媒となる液体あるいは気体の供給並びに排出を行う公知の冷却方法が採用される。そして、ロータリージョイントの冷媒供給口及び冷媒排出口は、配管を介して冷媒温度を制御する制御装置24を備えたタンクに接続される。
【0033】
なお、冷媒の温度は、戻り温度検知センサー等によって冷媒の温度を検出し、この検出情報に基き、制御装置24によって設定温度との温度差を是正し、自動的にローラーに供給される冷媒の温度を制御するように構成するとよい。
【0034】
ローラー駆動装置22は、不図示の電源から電力を受けてローラー20a,20bを駆動させる。ローラー20a,20bの回転軸には、それぞれ動力を伝達するための平歯車が設けられており、一方のローラー20aの回転軸がローラー駆動装置22により回転すると、他方のローラー20bの回転軸が逆方向に回転するようになっている。また、制御装置24によって、一方のローラー20aの回転数が制御される。その回転数はエンコーダ等を付設して回転数を検出し、その検出情報に基いて、駆動モーターの回転数が設定値となるように制御装置24によって制御されるように構成するとよい。なお、ローラー駆動装置22は、ローラー20a,20bの間隙に物が詰まった場合に排出できるように、正逆回転可能に構成されている。
【0035】
ローラー軸移動装置23は、他方のローラー20bの回転軸を一方のローラー20aの回転軸に対して水平移動させるように構成されている。また、ローラー軸移動装置23では、制御装置24によってローラー20a,20bの間隙距離が制御される。ローラー20a,20bの間隙距離は、移動する側のローラー20bに位置検出センサーを取付けてローラー位置を検出し、その検出情報に基き、制御装置24によってローラー20a,20bの間隙距離が設定された距離となるように移動装置を制御するように構成するとよい。
【0036】
なお、ローラー軸移動装置23は、ローラー20a,20bのどちらか一方を水平移動できるように構成してもよいし、ローラー20a,20bの両軸を水平移動できるように構成してもよい。
【0037】
次に、冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bについて、より詳細に説明する。冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bは、各軸回りに互いに内側に向けて回転する。本例のローラー20a,20bの表面は平滑なロール面とされている。材質としては、通常鉄製のものが使用され、好ましくはステンレス製のものが使用されるとよい。なお、ローラー20a,20bは内部に中空部が形成されており、この中空部に冷媒となる液体あるいは気体を流して循環させることによりローラー20a,20bが冷却される。
【0038】
そして、ローラー20a,20bの間隙に流下した高粘度溶融状の固体分散体10がローラー20a,20bの間隙に挟み込まれることにより、高粘度溶融状の固体分散体10が瞬時に圧縮・冷却され、シート状に冷却固化される。つまり、高粘度溶融状の固体分散体10がローラー20a,20bの間隙に挟み込まれることにより、高粘度溶融状の固体分散体の表面積が飛躍的に増大し、これにより瞬時に冷却することが可能となる。なお、冷えた状態においては薬物の反応速度が落ちるため、圧縮を行っても薬物の分解を抑制することができる。
【0039】
なお、本例では高粘度溶融状の固体分散体10の冷却が、冷却延伸装置20を構成するそれぞれ内部に冷却媒体を有した一対のローラー20a,20bの間隙に高粘度溶融状の固体分散体10を挟み込むことによって行われているため、高粘度溶融状の固体分散体10を両側から冷却しつつ圧縮することができ、高粘度溶融状の固体分散体10を完全に冷却固化することが可能である。これにより、片側だけ冷却するような装置において発生する、一部が飴状のまま残り、粉砕がうまくいかないという問題を防止することができる。
【0040】
また、ローラー20a,20bの温度は固体分散体の種類(例えば薬物や担体の種類など)に合わせて高粘度溶融状の固体分散体がローラー表面に付着することなく圧縮・圧延できる温度に制御することが可能である。冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bの温度は、0℃〜60℃、好ましくは10℃〜40℃、さらに好ましくは15℃〜30℃で設定されるとよい。
【0041】
前述したように、冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bの冷却方法は特に限定されないが、本例では、ローラー20a,20bの回転軸に不図示の複式内管固定式ロータリージョイント(例えば、RXE3032パールロータリージョイント、昭和技研工業社製)を取付け、このジョイントに冷媒となる液体あるいは気体を供給することによって温度調整を行うように構成している。複式内管固定式ロータリージョイントは、回転するローラーの中に冷媒を供給し、同じ側から排出する場合に用いられるもので、液体冷媒としては、例えば、水、液体窒素、液体ヘリウムが挙げられ、気体冷媒としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガスが挙げられる。
【0042】
また、冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bの間隙距離は、前述したローラー軸移動装置23によって調整可能に構成されている。ローラー軸移動装置23の駆動手段として、例えば油圧機構等を用いることができる。なお、駆動手段はローラーの間隙が調整できるものであればこれに限定されるものではない。ローラー20a,20bの間隙距離を調整することにより、圧延される高粘度溶融状の固体分散体の厚みを変化させ、冷却効率を変えることができる。また、ローラー20a,20bの間隙距離を調整することにより、高粘度溶融状の固体分散体10にかかる圧縮圧力を制御することができる。さらに、ローラー20a,20bの間隙距離を調整することにより、シート状に形成される冷却固化物11の厚さが調整され、粉砕後の粉砕品12の大きさを調整することが可能である。
なお、ローラー20a,20bの間隙距離は、0〜3mm、好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.15〜0.3mmに設定されるとよい。
【0043】
さらに、冷却延伸装置20を構成するローラー20a,20bの回転数も高粘度溶融状の固体分散体10の処理速度に合わせて調整可能に構成されている。ローラー20a,20bの回転数は、前述したローラー駆動装置22よって調整可能とされている。回転数を調整可能とすることにより、処理速度を調整することができると共に、高粘度溶融状の固体分散体10のローラー接触時間、つまり高粘度溶融状の固体分散体10の冷却時間を調整することができる。
なお、ローラー20a,20bは、回転数0.05〜5rpm、温度0〜60℃、処理能力1〜20kg/hrのものを用いると好適である。
【0044】
また、ローラー20a,20bの直下には冷却固化物11のローラー20a,20bへの巻きつきを防止する一対のスクレーパー30a,30bがローラー20a,20bに接近して設けられている。冷却固化物11は湾曲状に形成されるため、スクレーパー30a,30bによってローラー20a,20bへの巻きつきを防止し、冷却固化物11を剥離させる。なお、スクレーパー30a,30bはローラー20a,20bとの間隙が0.3mm〜0.5mmになるように固定されると好適である。
【0045】
スクレーパー30a,30bは平板状に形成されており、耐薬品性に優れたテフロン(登録商標)等の樹脂製またはセラミック製であると好ましい。また、スクレーパー30a,30bの材質はこれに限定されるものではなく、ステンレス等の金属製のものを用いてもよい。そして、スクレーパー30a,30bは不図示の取付台の取付具にボルト等により固定される。
【0046】
そして、落下したシート状の冷却固化物11は、ローラー20a,20bの下方に配された粉砕機40によって粉砕される。粉砕機40は特に限定されないが、例えばピン型粉砕機、スクリーン型粉砕機(スクリーンミル)及びピンミル(商品名インパクトミル、ミルシステム株式会社製)などが挙げられ、これらを単独あるいは組み合わせて用いることにより、最終的に得たい粉砕品の大きさにすることができる。ピン型粉砕機は粗粉砕用で、ピン形状を適宜選択することにより、シート状の冷却固化物11を、長さ50mm以下、幅30mm以下に粉砕することができる。また、スクリーン型粉砕機(スクリーンミル)及びピンミルは微粉砕用で、前者では1mm程度、後者では10μmの粉体に粉砕することも可能である。なお、ピン型粉砕機は、回転数70〜260rpm、処理能力1〜20kg/hrのものを用いると好適である。
また、粉砕機40の下方には、粉砕された粉砕品12を受ける粉砕品受器50が配置されている。
【0047】
なお、本例の筐体3の底部には移動用キャスター60が設けられており、冷却粉砕機2を錠剤の製造場所等へ移動することが可能である。
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。
なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
実験例
1.エクストルーダーを用いて飴状の固体分散体を作る工程
2E)−3−(4−クロロフェニル)−N−[(1S)−2−オキソ−2−[[2−オキソ−2−(4−[[6−(トリフルオロメチル)−4−ピリミジニル]オキシ]−1−ピペリジニル)エチル]アミノ]−1−(2−ピリジルメチル)エチル]−2−プロペンアミドとコポリビドンを重量比1:1で混合し、その混合物を質量流量100g/minの定量供給機から、ノズル外径50mm、ノズル内径10mmΦ、ノズル長さ50mm、スクリュー回転数250rpm、溶融温度第1室30℃、第2室60℃、第3室及びノズル部120℃、吐出圧力0.2kg/cmに設定した、2軸エクストルーダー(KEX−25型、栗本鐵工所社製)に供給して溶融混練押し出し処理を行い、高粘度溶融状の固体分散体を製造した。
2.高粘度溶融状の固体分散体の圧縮・冷却工程
得られた高粘度溶融状の固体分散体を冷却延伸装置を用いて圧縮・冷却した。冷却延伸装置のローラーは、直径250mm、幅200mmで内部に冷却媒体用の中空部が形成されている。冷却延伸装置は、このローラー(ステンレス製)2個、巻き付け防止用スクレーパー、可変速モーター0.4kWを備えており、中空部に20℃の冷媒水を流通させてローラー表面温度を20℃とし、ローラー間隙0.15mmに設定して運転した。その結果、厚さ0.5〜1.5mmで、幅100〜200mmの湾曲したシート状の固体分散体(冷却固化物)が得られた。
3.冷却固化された固体分散体(冷却固化物)の粉砕工程
冷却固化された固体分散体(冷却固化物)をピン型粉砕機を用いて粉砕した。ピン型粉砕機は、直径120mm、幅200mmのドラム表面に54本のピンが溶接されたもので、可変速モーター0.2kW、回転数200rpm、処理能力6kg/hrの片持ち式一軸ピン型粉砕機を用いた。その結果、長さ30〜50mm、幅20〜30mmの粉砕品が得られた。なお、この粉砕品は、必要に応じて微粉砕がされる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置の説明図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置の説明図である。
【図3】本発明の冷却延伸装置のブロック説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 製造装置
2 冷却粉砕機
3 筐体
4 開口部
10 高粘度溶融状の固体分散体
11 冷却固化物
12 粉砕品
20 冷却延伸装置
20a,20b ローラー
21 冷却装置
22 ローラー駆動装置
23 ローラー軸移動装置
24 制御装置
30a,30b スクレーパー
40 粉砕機
50 粉砕品受器
60 キャスター
70 傾斜板
80 エクストルーダー
81 ノズル
82 排出口
90 ホッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の溶融状の固体分散体を冷却粉砕して固体分散体の粉砕品を製造する薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法であって、
薬物の原料を溶融混練し、高粘度溶融状の固体分散体を形成する溶融状固体分散体形成工程と、
前記溶融状固体分散体形成工程により形成された前記高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させてシート状に冷却固化させる固体分散体冷却工程と、
前記固体分散体冷却工程により冷却固化された固体分散体を粉砕する粉砕工程と、を備えたことを特徴とする薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法。
【請求項2】
前記固体分散体冷却工程では、冷却された対向する一対のロール面の間隙に前記高粘度溶融状の固体分散体を挟み込んで延伸させ、表面積を飛躍的に増大させてシート状に冷却固化させたことを特徴とする請求項1に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造方法。
【請求項3】
薬物の溶融状の固体分散体を冷却粉砕して固体分散体の粉砕品を製造する薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置であって、
薬物の原料を溶融混練して高粘度溶融状の固体分散体を形成し、該高粘度溶融状の固体分散体をノズルから押し出す溶融押出機と、
互いに内側に向けて回転し、前記溶融押出機によって押し出された前記高粘度溶融状の固体分散体を挟み込んで、前記高粘度溶融状の固体分散体の表面積を飛躍的に増大させると共にシート状に冷却固化する冷却された一対のローラーを備えた冷却延伸装置と、
前記冷却延伸装置の下方に配され、前記冷却延伸装置によって冷却固化された固体分散体を粉砕する粉砕機と、
粉砕された粉砕品を受ける粉砕品受器と、を備えたことを特徴とする薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項4】
前記冷却延伸装置を構成する前記一対のローラーには、前記冷却固化された固体分散体のローラーへの巻きつきを防止するスクレーパーが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項5】
前記一対のローラーの間隙距離が調整可能であることを特徴とする請求項3に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項6】
前記一対のローラーの回転数が調整可能であることを特徴とする請求項3に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項7】
前記一対のローラーの温度が調整可能であることを特徴とする請求項3に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項8】
前記一対のローラーと、前記粉砕機と、前記粉砕品受器は、一つの筐体に備えられていることを特徴とする請求項3に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項9】
前記筐体の底部には移動用キャスターが配設され、前記筐体が移動可能であることを特徴とする請求項8に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。
【請求項10】
前記筐体の上部には、前記溶融押出機の前記ノズルから押し出される前記高粘度溶融状の固体分散体を受け、該高粘度溶融状の固体分散体を前記一対のローラーの間隙に向けて流下させる傾斜板が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の薬物用固体分散体の粉砕品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−73286(P2008−73286A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256875(P2006−256875)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】