説明

蛋白質吸収促進剤及びそれを含有する栄養組成物

【構成】 ポリアミンを有効成分とする蛋白質吸収促進剤。ポリアミンと食品成分とを配合した栄養組成物。ポリアミンとしてスペルミンが特に有効である。
【効果】 ポリアミンの作用により摂取された蛋白質の吸収を促進し、良好な発育及び健康状態を保つことのできる栄養組成物を得る。また食物アレルギーを防止できる。特に栄養組成物が調製粉乳である場合は乳児にとって有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリアミンを有効成分とする蛋白質吸収促進剤及びこれを配合した栄養組成物、特に乳児用調製粉乳に関する。本発明におけるポリアミンとしてはスペルミンが特に有効である。
【0002】
【従来の技術】母乳栄養児の蛋白質所要量は、一般に生後1ヶ月の乳児で体重1kgあたり2.5g/日、さらに生後6ヶ月以降の離乳期となると1.5gとされている。しかし、人工栄養児の場合には、摂取される蛋白質の種類が母乳と異なり、アミノ酸バランスが母乳に比べて劣るため、蛋白質所要量を多くしなければならない。その結果、蛋白質摂取量が多いと、必要量以上無駄に摂取するアミノ酸の代謝が必要になり、乳児に多大な負担を課すことになり、発熱、昏睡、下痢、浮腫、代謝性アシドーシスなどの障害がみられるようになる。さらに、血液中の尿素値が上昇したり、尿中へのフェノール誘導体の排泄が多くなったり、乳児の生理代謝が異常をきたすことがある。そこで、乳児用調製粉乳の蛋白質含量を、できるだけ母乳のレベルに下げる試みがなされるようになっている。しかし、その結果、人工栄養児の体重増加が母乳栄養児を下回ったという報告もあり、現在市販されている乳児用調製粉乳の蛋白質含量は限界に達していることが示唆されている。厚生省が報告している日本人の栄養所要量では、人工栄養児のための蛋白質所要量は、2ヶ月までは 3.3±0.1g/kg体重/日、2〜5ヶ月で 2.5±0.1g/kg体重/日、6〜12ヶ月で 3.0±0.1g/kg体重/日とされている。しかしながら、欧米では日本の基準よりも低く、それぞれ2.2g/kg体重/日、2.2g/kg体重/日、2.0g/kg体重/日であり、乳児用調製粉乳に配合されている蛋白質含量(1.5g/100ml以下)は、国内の製品よりも少ない。この理由としては、欧米では蛋白質摂取量の算定基準として、あくまでも母乳栄養児の摂取量を採用しているためである。しかし、実際に母乳(成熟乳)の平均蛋白質濃度は、 1.35g/100ml(最低 1.1〜最高1.7g/100ml) であることから、乳児用調製粉乳の蛋白質濃度を現在の1.7g/100ml前後からさらに下げることが、母乳を理想とした乳児用調製粉乳の設計上必要であると考えられている。Loennerdalらは、蛋白質濃度が1.3g/100mlの人工乳で哺育しても、乳児の体重増加に問題がないことを報告している(Acta Pediatr. Scand.,79, 257, 1990)。
【0003】このように、母乳は乳児用調製粉乳に比べて蛋白質含量が低いにもかかわらず、母乳栄養児は良好な発育を示す。これは、ただ単に蛋白質の質が良いこと、すなわちアミノ酸組成がヒトの成長に適していることに依存するだけではないことが予想される。
【0004】一方、最近、アレルギー性疾患の罹患率が高くなり、患者の増加とともに社会問題にまで発展している。特に、乳児から小児期に多い食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎や小児喘息などの疾患と相まって、多くの関心がよせられている。食物アレルギー発症のメカニズムは様々だが、主に乳児の未発達な消化管粘膜から、抗原性をもったアレルゲン(抗原)が体内に侵入するためにおこると考えられている。こうした食物アレルギーを予防、あるいは治療するためには、アレルゲン物質を摂取しないようにする食事制限が、最も一般的に行なわれている。しかしながら、こうしたアレルゲン性のある食事成分には、卵や牛乳などの良質な蛋白質が多く、成長期にこうした食事制限をした場合、栄養失調により正常な発育が妨げられることが明らかとなった。最近では、こうしたアレルゲン性のある蛋白質であっても、摂取量を少なくしてうまく摂取すれば、アレルギー反応が起こらないことも示唆されている。したがって、消化管を早期に成熟化させることと、蛋白質摂取量を低く抑えることによってアレルギーを予防できることが予想される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、乳児が必要とする窒素量やエネルギーを、蛋白質の消化吸収率をふまえて考えると、母乳の蛋白質含量では計算上明らかに限界があり、母乳中に存在する非蛋白態窒素が蛋白質の消化吸収に影響を与えていると想定した。そして、この想定の下に母乳中の種々の非蛋白態窒素成分と蛋白質の消化吸収との関係について検討したところ、母乳中のポリアミンが蛋白質の消化吸収を促進していることを見出して本発明をなすに至った。さらに、本発明者らは、ポリアミンの生理効果を鋭意検討したところ、ポリアミンの中のスペルミンが活性中心成分であり、スペルミン単独であってもポリアミンとしての効果をいちじるしく高められることを見出した。
【0006】ポリアミンは、プトレッシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミンなど、第一級アミノ基を2個以上もつ直鎖の脂肪族炭化水素であり、母乳には通常 100〜 400μg/100ml の濃度で含まれている。ポリアミンには、細胞の増殖や分化を促進する効果が知られており、特に経口摂取したポリアミンは、消化管粘膜の成熟化を促進することが報告されている(Grant, A. L. et al., J. Anim. Sci.,68, 363-371,1990; Dufour, C. et al., Gastroenterology, 95, 112-116,1988)。しかし、ポリアミンを乳児用調製粉乳等に添加すると、その中に含有される蛋白質の消化吸収を促進したという報告はなく、本発明者らが初めて見出したものである。母乳の代替品である乳児用調製粉乳のポリアミン含量は低く、 100mlあたり50μg 以下であり、製品によっては全く含有されないものもある。この理由は、調製粉乳の製造工程において、原料のホエーを脱塩する際にポリアミンも同時に除去されることによると考えられる。従って、ポリアミンを乳児用調製粉乳に添加して増量することによって、非蛋白態窒素成分として栄養学的に窒素源を供給するだけでなく、ポリアミン独自の生理効果を付加することによって、人工栄養における蛋白質含量の問題を解決することができる。
【0007】上記ポリアミンのうちスペルミン[N, N'−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタン](NH2(CH2)3NH(CH2)4NH(CH2)3NH2) は第一級アミノ基を2個持つ直鎖の脂肪族炭化水素であり、母乳には通常50〜200 μg/100ml の濃度で含まれている。しかし、母乳の代替物である乳児用調製粉乳のスペルミン含量は低く、100ml あたり8μg 以下であり、製品によっては全く含有されないものもある。従って、ポリアミンのうち特にスペルミンを乳児用調製粉乳に添加して増量することによってスペルミン独自の生理効果を付加し、人工栄養における蛋白質含量の問題を解決することができる。
【0008】すなわち、本発明の課題は、蛋白質の利用効率を高め、消化管の発育を促進することのできる蛋白質吸収促進剤を提供することにある。またさらに、本発明の課題は、このような蛋白吸収促進剤が配合された栄養組成物からなり、これを摂取した際に、蛋白質の吸収を高めて良好な発育や健康を維持することができ、さらに消化管の発達により摂取食物によって引き起こされるアレルギーを予防することのできる栄養組成物を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであって、第1の発明は、ポリアミンを有効成分とする蛋白質吸収促進剤に関する。また、第2の発明は、ポリアミンを配合し、蛋白質の利用効率が高まることにより良好な発育、健康状態を保ち、食物アレルギーを予防することのできる栄養組成物に関する。さらに、本発明は、ポリアミンのうち特に、スペルミンを有効成分とする蛋白質吸収促進剤及び栄養組成物に関する。前述のように、ポリアミンには非蛋白態窒素成分として、乳児に必要な窒素源を供給する栄養学的な作用が予想されている。本発明の特徴は、従来知られているこのような作用とは異なる効果で、蛋白質含量が低くても、有効に蛋白質が消化吸収され、良好な成長が得られる栄養組成物に関するものである。
【0010】本発明におけるポリアミンは、第1級アミノ基を2つ以上もつ直鎖の脂肪族炭化水素の総称であって、プトレッシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、1,3−ジアミノプロパン、カルジン、ホモスペルミジン、3−アミノプロピルカダベリン、ノルスペルミン、テルモスペルミン、カルドペンタミン等がある。これらは、生物体内に普遍的に存在する生体アミンであるが、本発明では特にプトレッシンNH2(CH2)4NH2、スペルミジンNH2(CH2)4NH(CH2)3NH2、スペルミンNH2(CH2)3NH(CH2)4NH(CH2)3NH2を用いることが好ましく、特にスペルミンを用いるとその効果が大である。本発明におけるポリアミンとしては、ポリアミンを精製してスペルミンのみから構成されるものあるいはスペルミンとプトレッシンやスペルミジンのようなその他のポリアミンとの混合物であっても使用可能である。
【0011】これらは、化学物質そのままあるいはリン酸などの塩が結合した状態で用いてもよいし、また牛乳等の乳からチーズを製造する際の副産物から得ることもできる。すなわち、副産物のチーズホエーを限外濾過してホエー蛋白濃縮物(WPC)を得る際の限外濾過透過画分を陽イオン交換樹脂と接触させてポリアミンを陽イオン交換樹脂に吸着させ、これを酸あるいは塩溶液で溶出し、溶出液を中和後電気透析して脱塩を行うことによって、ポリアミン溶液を得、これをそのまま、あるいは噴霧乾燥等の乾燥手段を施して用いることができる。このようにするとポリアミンの用途が拡大されるばかりでなく、乳を高度に利用することができ、工業上有用である。さらに、魚類の精液などからも同様の方法で抽出することができる。
【0012】本発明における蛋白質吸収剤は、ポリアミンを単独で用いてもよいが、さらに必要な場合は、これにビタミン、ミネラル、乳糖等を配合して用いてもよい。剤型は、液状、粉状、顆粒状、その他適宜な状態とし食品、栄養剤等に適当量添加される。
【0013】また栄養組成物は、このようなポリアミンを配合して得ることができる。栄養組成物としては、母乳代替食品、病態食、離乳食、栄養ドリンク、経腸栄養剤等があるが、特に乳児用調製乳製造時原料に添加し、ポリアミン配合調製粉乳を得ることが望ましい。調製粉乳は、前述のようにポリアミン含量が低くポリアミンを添加することによって乳児の蛋白質の消化吸収を促進し、また食物摂取に起因するアレルギーを防止することができる。
【0014】すなわち、本発明では、後の試験例及び実施例に示すように、ポリアミンを経口的に摂取することによって、蛋白質の利用効率が高められ、蛋白質含量が低い食事でも良好な発育が得られることを明らかにした。そのメカニズムとしては、ポリアミンが消化管粘膜を分化・成熟させることによって、粘膜に存在するペプチダーゼ活性が上昇し、消化液に含まれるペプシンやトリプシンなどで分解された食事性蛋白質が、さらにアミノ酸やオリゴペプチドにまで分解されるようになり、吸収され易くなることが本発明によって確認された。ポリアミンの添加で単に窒素源が増えたために体重が増加したのではないことは、試験例2に示されるように、スペルミンの添加量が蛋白質量の1/50,000以下という微量であるにもかかわらず、体重がいちじるしく増加しており、このことからも容易に推察できる。さらに、蛋白質含量が低い食事の場合、摂取蛋白質量1gあたりスペルミンと20%以上含有するポリアミンを最低40μg、特にスペルミンの場合は最低8μgが含まれていれば効果のあることが明らかとなった。現在市販されている乳児用調製粉乳で最もポリアミン含量の高い製品においても、蛋白質1gあたりポリアミンが30μg 、そのうちスペルミンが4μg しか含まれておらず、本発明で現す効果を得るには不十分である。
【0015】また、アレルギー予防効果については、ポリアミン、特にスペルミンを投与することによって体内へのアレルゲンの侵入を阻止し、アレルギー反応の一つである抗体の産生が抑制されることが明らかになった。この理由については、消化管粘膜の成熟化によって、アレルゲンが体内に侵入しなくなるというメカニズムが予想される。添加するポリアミンの原料としては、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳類の乳に由来する様々な乳関連素材や魚類の精液などが利用できる。特に、乳清蛋白質濃縮物(WPC)を限外濾過膜あるいはイオン交換樹脂などで製造する際の残余画分、および乳糖画分などに多く含まれる。こうしたポリアミンに富む原料を利用して、ポリアミンを含む乳児用調製粉乳などを製造することが可能である。特に、スペルミンに富む原料を利用して、蛋白質1gあたり8μg 以上のスペルミンを含む乳児用調製粉乳などを製造することも可能である。
【0016】次に本発明をなすに至った試験例及び実施例を示す。
【試験例1】
母乳および乳児用調製粉乳のポリアミン量の測定母乳および市販されている乳児用調製粉乳のポリアミン含量を、MartonとLeeの方法(Clin. Chem., 21, 1721-1724, 1975)に従い、Dionex HPIC-PAC イオン交換カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
乳中のポリアミン含量 ─────────────────────────────── ポ リ ア ミ ン (μg/100ml) ─────────────────────── プトレッシン スペルミジン スペルミン ─────────────────────────────── 母 乳 A 5 51 91 母 乳 B 100 132 168 ─────────────────────────────── 乳児用調製乳A 0 0 0 乳児用調製乳B 27 15 8 ───────────────────────────────乳児用調製乳のポリアミン濃度は、標準調乳濃度で調乳した際に測定した。このように、調製乳は、母乳に比べてポリアミン、特にスペルミンの含量が低いことがわかる。
【0018】
【試験例2】
低蛋白食摂取と体重増加:Wistar系ラット(雄、4週令)を5匹ずつ、標準食(ミルクカゼイン20%)群、低蛋白食(ミルクカゼイン10%)群、低蛋白食+スペルミン(40μg 添加群、80μg 添加群、 120μg 添加群)に分けて28日間飼育した。実験開始時の体重と28日後の体重を比較したところ、低蛋白食にスペルミンを80μg 以上添加した群の体重増加率が顕著であることが確認された。この結果を表2に示す。
【0019】
【表2】
飼 育 実 験──────────────────────────────────── 試料摂取量 体重増加量 体重増加量/ (g) (g) 蛋白質摂取量(PER) ──────────────────────────────────── 標準食群 402±26 134.7±6.4 1.68±0.65 低蛋白食群 352±12 107.4±3.5 3.05±0.20 スペルミン 40μg 添加群 360±15 110.5±4.5 3.07±0.11 80μg 添加群 376±10 125.2±3.0 3.33±0.09 120μg 添加群 380± 9 127.3±2.9 3.35±0.05────────────────────────────────────
【0020】
【試験例3】
低蛋白食摂取と腸管重量の増加:試験例2のラットを一晩餌及び水を与えずに飼育し、翌日解剖して小腸を摘出した。小腸全体の湿重量と長さを測定した後、 105℃に設定したオーブンで18時間乾燥して、小腸の乾燥重量を測定した。その結果、スペルミンを80μg 以上添加した群において、有意に体重あたりの小腸重量が多かった。このことは小腸粘膜組織が有意に成長し成熟化したことを意味する。表3に測定結果を示す。
【0021】
【表3】
小 腸 の 測 定 結 果──────────────────────────────────── 湿重量 (g/100g体重) 乾燥重量 (g/100g体重) ──────────────────────────────────── 低蛋白食群 1.90±0.12 0.42±0.08 スペルミン 40μg 添加群 2.11±0.05 0.43±0.04 80μg 添加群 2.42±0.15 0.61±0.10 120μg 添加群 2.39±0.13 0.60±0.13────────────────────────────────────
【0022】
【試験例4】
腸管粘膜ペプチダーゼ活性の上昇:試験例2のラットの小腸を摘出し、KawakamiとLoennerdalの方法(Am. J. Physiol., 261, G841, 1991)に従って小腸刷子縁膜画分を調製した。アミノ酸のカルボシル基にアミド結合で7アミノ4メチルクマリン(AMC)を結合させたペプチド基質(メチルクマリンアミド:MCA)であるLys-Ala-MCA((株)ペプチド研究所製)を用いて、先に調製した小腸刷子縁膜画分のジペプチジルアミノペプチダーゼ活性を測定した。酵素反応により遊離したAMCを蛍光光度計を用いて測定した(励起波長:380nm ;蛍光波長:440nm)。測定結果を表4に示す。測定値は、低蛋白食群ラットの小腸刷子縁膜の活性を1とした場合の相対値で示した。その結果、スペルミンを80μg以上添加した群の酵素活性が、有意に高いことが明らかになった。
【0023】
【表4】
小腸刷子縁膜の酵素活性 ──────────────────────────────── ジペプチジルアミノペプチダーゼ活性 ──────────────────────────────── 低蛋白食群 1 スペルミン 40μg 添加群 1.2±0.5 80μg 添加群 3.6±0.9 120μg 添加群 3.9±1.2 ────────────────────────────────
【0024】
【試験例5】
アレルゲン侵入阻止効果:乳児期のWistar系ラット(14日令、10匹)を対照群とスペルミン投与群に分けた。どちらの群も早期離乳させて粉末状の標準食(ミルクカゼイン20%)で飼育した。スペルミン投与群は、14〜20日目に毎日スペルミン溶液(1mg/ml)をマイクロピペットを使って10μl 経口投与した。21日目にβラクトグロブリン(βLg)溶液(10mg/ml)を 100μl 経口投与し、1時間後と2週間後に血液を採取した。一方、βLg溶液とFreund完全アジュバンドを混合して乳化させ、3ヶ月令のウサギ(白色和種、雄、北山ラベス)の皮下3ヶ所(両背側部および臀部)に注射して抗βLg血清を得た。この抗血清を一次抗体とし、西洋ワサビパーオキシダーゼ(PO)を標識した二次抗体とのサンドイッチELISA法で、1時間後の血液を使って血中βLg量を測定した。また、2週間後の血液中の抗βLgIgEは、βLgとPO標識した抗ラットIgE抗体(ノルディック社製) を使ってELISA法で測定した。その結果を表5に示すようにスペルミン投与群は対照群に比べて血中βLg及びまた抗βLgIgEの含量がいちじるしく低く、抗体の産生が抑制され、アレルギーを抑制できることが判明した。
【0025】
【表5】
血中βLg及び抗βLgIgE の測定結果 ─────────────────────────────── βLg(ng/ml) 抗βLgIgE(ng/ml) ─────────────────────────────── 対照群 30.6±15.6 450.8±108.6 スペルミン投与群 5.7± 2.9 126.9± 86.5 ───────────────────────────────
【0026】
【実施例1】
(1)ポリアミンの調製未脱塩のチーズホエーを限外濾過(UF)膜で濃縮して製造するホエー蛋白質濃縮物(WPC)を得る過程において、UF膜を透過する画分 500リットルを得た。この溶液を陽イオン交換樹脂Dowex50-x8(H+ 型)を充填したカラムに通し、ポリアミンを吸着させた。 0.7M食塩水で樹脂を充分洗浄して塩基性アミノ酸などの不純物を除いた後、6N塩酸でポリアミンを溶出した。溶出液に30%水酸化ナトリウム溶液を加えて中和した後、電気透析(ED)装置で脱塩し、ポリアミン溶液を得た。この溶液を噴霧乾燥してポリアミン素材 0.5gを得た。このポリアミン素材にはスペルミンが200mg 含有していた。上記操作を再度実施し同様にポリアミン素材 0.5gを得た。この素材を蛋白質吸収促進剤とした。
【0027】(2)ポリアミン配合乳児用調製粉乳の調製前記(1)において得られたポリアミン素材 1gをカゼイン 6.8kg、ホエー粉70.6kg、ビタミンおよびミネラル成分 1kgとともに水 700kgに溶解した。さらに、植物油 23.9kg を混合して均質化した後、殺菌・濃縮・乾燥工程を経て、粉乳100kg を得た。得られた粉乳 100g中の蛋白質含量は13.0gで、ポリアミン含量は 800μg であった。
【0028】
【実施例2】
スペルミン配合乳児用調製粉乳の調製スペルミン・2りん酸塩 (C10H26N4・2H3PO4; Sigma社製、S-4513)0.4gをカゼイン 6.0kg、ホエー粉 71.4kg 、ビタミンおよびミネラル成分 1kgとともに水700kg に溶解した。さらに、植物油23.9kgを混合して均質化した後、殺菌・濃縮・乾燥工程を経て粉乳 100kgを得た。得られた粉乳 100g中の蛋白質含量は12.5gで、スペルミン含量は 130μg であった。
【0029】
【発明の効果】本発明の効果を示すと次のとおりである。
1)蛋白質含量の低い栄養組成物であっても、良好な発育(体重増加)が得られる。
2)蛋白質含量が母乳と同じ乳児用調製粉乳をつくることによって、乳児の代謝における負荷を低減させることができる。
3)アレルゲンの体内への侵入を防ぐことで、アレルギーを予防することができる。
4)アレルギー予防のため、アレルゲンとなる蛋白質含量を低下させても、良好な発育(体重増加)が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリアミンを有効成分とする蛋白質吸収促進剤。
【請求項2】 ポリアミンがスペルミンである請求項1記載の促進剤。
【請求項3】 ポリアミンを配合し、蛋白質利用効率が高まることによって良好な発育、健康状態を保ち、食物アレルギーを予防することのできる栄養組成物。
【請求項4】 ポリアミンがスペルミンである請求項3記載の組成物。
【請求項5】 栄養組成物が乳児用調製粉乳である請求項3または4記載の組成物。
【請求項6】 スペルミンを20%以上含有するポリアミンを、組成物中の蛋白質1g当り少なくとも40μg 含有させたものである請求項3記載の組成物。
【請求項7】 スペルミンを組成物中の蛋白質1g当り少なくとも8μg含有させたものである請求項4記載の組成物。